何かの正体 〜儀弐王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/26 18:15



■オープニング本文

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 理穴の儀弐王が願った幼なじみである波路雪絵の失踪調査。消えたといわれる宿場町で開拓者達はいくつかの痕跡を発見する。
 特に鏃と矢羽根に関しては儀弐王の心を揺さぶった。非常に忠誠心の厚い理穴の有力氏族『綾記家』の特徴が見て取れたからだ。
 後日、儀弐王は開拓者達を連れて綾記家を来訪して調査。軟禁されていた雪絵と再会する。そして病に伏せていた当主の明全を問い質した。
 明全によれば雪絵が嫁ごうとしていた鶴時家には深遠な知恵を持つアヤカシが巣くっているらしい。真実を知るために間者を放ったものの全員が闇に葬られてしまい、確証は得られていなかった。
 鶴時家へ入る前に攫うしか雪絵を助ける術はなかったと明全は釈明する。
 明全の言葉を確かめるべく、儀弐王は開拓者達に鶴時家への急襲を依頼した。表向きは高価な黒茶碗の奪取。真の目的はアヤカシが本当に巣くっているかを確かめる為だ。
 結果、鶴時家当主の妻『梔』がアヤカシだと判明した。
 疑いから確固な状況に変化し、儀弐王は再三に渡って鶴時家次期当主『鶴時君義』に理穴の首都、奏生への上洛を命じる。
 謀反を起こすかと思われていたが君義は登城。儀弐王に無実の申し開きをし、そして婚姻がうやむやになってしまった波路雪絵との再会を果たす。
 その時、奏生の城を襲う二隻の飛空船。君義の救出と儀弐家に対する反旗を鶴時家が明白にした瞬間であった。
 そして君義は逃亡した。雪絵に謎の問いを残して。


 理穴の首都、奏生の城。
(「雪絵に隠された何か‥‥」)
 儀弐王は庭の緑を眺めながら開拓者達が調べてくれた情報を今一度整理する。
 雪絵は儀弐王と奏生の城で暮らした時期を除けば、遠出をした記憶がなかった。魔の森の浸食に脅かされている東部は特に。
 波路家は理穴守護の一族であるが、ここ百何十年かは特に優れた武力を有していた記録は残っていない。志体持ちも極少人数しか排出していなかった。
 調査の途中でわかった事実だが約百年前に波路家に関する資料は検閲されていた。読みとれる情報はほんのわずかで取るに足りないものばかりだ。
 過去の儀弐王が行わせた節があり、現王の重音ですら知らない理穴における歴史の闇といえた。
 とはいえ儀弐家よりも正統性があると思われる王家についての記述は何処にも見あたらなかった。少なくとも資料の上では。
 波路家の屋敷を訪れた開拓者達からの情報もある。
 波路家当主『友平』は娘の救出を自らの手で行えなかったのを恥じていた。
 雪絵の嫁入り道具は極普通の品ばかりであったようで、実家に残された物も特に変わったところはなかった。ただ調べ方にもよるので断言は不可能だ。
 波路家に伝わる伝承は無いに等しいものであったが、それ故に疑問を感じる開拓者もいた。歴史のある家柄なのでない方がおかしいのではないかと。
 これについては屋敷の外で一つだけ発見される。童歌であり、昔この地に瘴気が満ちて魔の森が現れたというものだ。最後には瘴気を消し去った者が現れて平和が戻ったらしい。
 波路家は女性の系譜によって成り立っており、血筋は母である氷魅から娘の雪絵へと受け継がれている。友平は婿入りの形で当主となっていた。
 ちなみに次代の波路家当主は妾の子ながら珍しく産まれた男子に継がれる予定だ。それ故に雪絵の嫁入りが決まったのだが。
 雪絵の母である氷魅が何かを隠しているようなのだが、確固たる証拠は未だ発見されていなかった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
井伊 沙貴恵(ia8425
24歳・女・サ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
朱華(ib1944
19歳・男・志


■リプレイ本文

●出発
 真夜中に精霊門を潜り抜けた開拓者達は一度理穴の奏生の城へと赴いた。それから調査をする為に解散する。再びこの城で集合する約束を交わした上で。
 城を含む奏生に残ったのは、井伊 沙貴恵(ia8425)、ルエラ・ファールバルト(ia9645)、ジークリンデ(ib0258)、アレーナ・オレアリス(ib0405)の四人。
 儀弐王が用意した飛空船で波路家の屋敷へと向かったのは、柚乃(ia0638)、神鷹 弦一郎(ia5349)、設楽 万理(ia5443)、パラーリア・ゲラー(ia9712)、琉宇(ib1119)、朱華(ib1944)の六人。
 波路雪絵にまつわる謎の調査が再び始まる。

●ジークリンデ
「とても美味しいですわ」
「雪絵様にそういって頂けますと」
 昼下がりの城庭。波路雪絵は木陰にある椅子に腰掛けてジークリンデが用意した梨のジュレを頂いていた。
 身辺警護のルエラは一歩下がり、今は雪絵とジークリンデの時間である。
「最近の‥‥でしょうか」
「いいえ。昔でも結構です」
 いろいろな話しながらジークリンデと雪絵が辿り着いたのは夢の話題。
「わたしは夢は滅多に見ないもので。あったとしても他愛もないものばかりだと――」
 悩んだ末に雪絵はお腹の一部が激しく輝いた夢についてを話す。もしかすると何かに繋がるのかも知れないが今の時点では不明だ。ちなみに雪絵の該当する身体の表面に不審な点はなかった。
「氷魅様はどのような方でしょう」
 ジークリンデは雪絵に母の氷魅から言いつけられた事や思い出話についてを訊ねる。すでに判明していたが遠出については厳しく制限されていたものの、その他は比較的自由にさせてもらっていたようだ。
「わたしの代で波路家の女系の流れは終わらせるつもりだと結婚話の以前から母はいっておりました。それこそ幼き頃からです」
 雪絵のこの言葉が特に気にかかるジークリンデであった。

●ルエラ
 ある日、ルエラは奏生の街を巡りたいという雪絵に護衛としてつき合う。ジークリンデも一緒である。
 聞けば儀弐王に心配をかけた事を気にしているらしい。すれ違いながらも互いを心配する儀弐王と雪絵の関係にルエラは温かいものを感じる。
「昔不思議なものを見たり、不思議なことが起こったりしませんでしたか?」
 茶屋で休憩中にルエラは雪絵に話しかけた。
「特に何も‥‥。実家で暮らしていた頃は誰かしらわたしの側にいたので、妙な事が起きればすぐに判明したはず。ただそのような記憶はありませんし、聞かれた事もありません。宿場町で拐かされたのが初めての大事といってよいと思います‥‥」
 雪絵は俯くと鶴時君義を思いだしたのか少し涙ぐんだ。
「こちらの水羊羹。お土産にされたらどうでしょうか?」
「重音、いえ儀弐王様ならきっとお好きな味ですね」
 顔をあげた雪絵は涙を指先で拭いながらルエラに頬笑む。
 それからもしばらく奏生を歩いたが特に問題は起こらなかった。雪絵は町人達の活気溢れる生き様から力をもらったようだ。
 ただ鶴時家の間者が潜んでいるかも知れず、ルエラとジークリンデは注意を怠りはしなかった。

●アレーナ
「‥‥ここですね」
 アレーナが日中訪ねたのは奏生内にある屋敷。理穴の歴史資料編纂を司る学者を多く輩出する一族の住処だ。
 門前で儀弐王からの紹介状を手渡してから約一時間後、ようやく応接間で現当主との面会が果たされる。現在の歴史編纂にも関わる初老の学者だ。
「凡そ百年前、おそらく時の王の指示によって淡路家の記録が消されたのではないかとの結論に至りました。今も昔も歴史編纂に関わりのあるこちらの方ならば、わかる事実があるかと思いまして」
 アレーナの問いからかなり間を空けた上で学者は口を開いた。
 波路家に関する詳しい資料については、理穴の歴史編纂に携わる者にとって禁忌であるという。どれだけ調べても見つからないようだ。当時、どれだけの労力を持って抹消したのか想像も出来ない程に。
「当家にも残ってはいません。残っているとすれば、その昔、理穴に関わる学者同士が互いの屋敷に立ち入って抹消したとの口伝程度です」
「そこまで‥‥」
「儀弐王様から紹介された客人を土産一つも持たせずに帰らせる訳にいきません。あくまでわたくしの想像ですが‥‥当時の王は決して波路家をないがしろにする為に記録抹消を行ったのではないと考えています。逆に守る為ではと‥‥。証拠は何一つ御座いませんが」
「いえ。そのお話しを聞けただけでも収穫です」
 アレーナは童歌についても学者に訊ねてみたが、これといった情報は得られなかった。

●沙貴恵
「ここにあるかしらね。ま、行きましょうか」
 沙貴恵は片目を細め、左手を腰に当てながら右の人差し指で眼鏡を持ち上げた。
 颯爽と近づいたのは奏生内にある理穴の民間説話の資料館。直接の記述が見つけられないのであれば、側面から探ろうという考えからの行動だ。
 先程訪ねた理穴の気象に関する記録が残された資料館では特筆すべき情報を得られていない。さすがに約百年前の一地方の天候までわかるようなまとめ方はされていなかった。異常気象もなかったようである。
 理穴における魔の森の記述に関しては様々にあったものの、昔になればなるほど信憑性に欠けていた。大した証拠もなくアヤカシがいくらか出没しただけで魔の森の出現を怪しむ輩は現在でもいるからだ。
 頁を捲る沙貴恵の目は段々と細くなってゆき、最後にバタンと大きな音を立てて書物を閉じる。
(「波路家のはやはりないみたいね。なら鶴時家から探りましょ」)
 気を取り直して大量の本を抱えては机に運んで目を通すのを繰り返す。
 最終的に波路家の領地に魔の森があったとしてもおかしくはないという推測が残った。
 約百年前を境にして波路家の領地内に新しい土地名が帳簿に出現している。徐々に年貢の徴収が増えてゆき、次第に他の区域と遜色がなくなってゆくのだが。
 この突然名前がつけられた土地こそ元は魔の森なのではなかったのかと沙貴恵は想像するのだった。

●童歌
 波路家へと向かった開拓者六名の目的は主に二つ。
 一つは前回に判明した童歌の再調査。もう一つは雪絵の母、氷魅との面会である。
 望んでいた面会を拒絶された柚乃、設楽万理、パラーリアの三人は氷魅の心変わりを屋敷で待つ事にする。神鷹、琉宇、朱華の三人は手分けして童歌をもう一度洗い直そうと波路家の領内を歩き回った。
「口承は案外残っているものだ。とはいえ年寄りは他の人がやっていそうだしな‥‥」
 朱華は考えた末、年輩の方々ではなく子供達から聞き込みをした。童歌に聞き覚えがないか、もしくは昔話に詳しい者を知っていないかを重点的にだ。
「駒回しか。少し俺にもやらせてもらえないか?」
 子供に駒を貸してもらった朱華は器用に縄を巻く。勢いよく回すと子供達から歓声があがった。
 全員ではないが何人かの子供は似たような魔の森に関連した童歌を知っていた。ただどれも細部が異なっている。特に魔の森の表現については様々だ。突然魔の森が現れたものもあれば、昔から禁制の土地になっていたとの話もあった。聞かせてくれた大人に再度訊ねてみてもこの点は同じだ。
「どうであれ瘴気を消し去って平和が戻った、か‥。魔の森の侵食が何かで払われたという事か。安直に考えると、アヤカシを退治したとなるが‥」
 朱華は情報を仲間達と交換しては何日もかけて土地を探る。途中からすでに老人の調査を終えていた神鷹と行動を共にした。
「‥ごめんください。この地に伝わる童歌についてお聞きしたいのですが」
 神鷹は童歌を知る者達そのものに特徴がないかを調べていた。年齢や性別も含めて特定の身分や職業、そして苗字に偏りがないかを。
 すると木材を扱う職業の一族に童歌が残っている事がわかる。主に木こりや大工だ。童歌が語るように森から瘴気が取り除かれたとすれば恩恵を与りやすい立場といえた。
(「‥‥俺は研究者には向かんな。目が痛いぞ」)
 得た情報を紙の上でまとめているのがとても苦痛な神鷹である。何とかまとめると布団の上に転がり、奏生に残った仲間達を思いだしたりもする。
 それらの情報は琉宇にも伝えられた。
 琉宇は自らの足でかき集めた情報も含めて童歌についてを推理する。
「語句そのものにも注意しないとね。暗喩や暗号が隠れている可能性もある‥‥でもこれだけ派生した歌があるとそれを探るのは難しいかな。本歌が見つかればいいんだけど」
 琉宇は木漏れ日落ちる岩の上に座り、リュートを奏でながら童歌を唄ってみる。もしもを考え、楽譜に起こしてみて別の意味が隠されていないかを探ってみたが、それもなかった。やはり詩と同じように曲そのものも時の流れの中で変化してしまったと考えられた。
 それでもあきらめなかった琉宇は童歌で唄われる山や川、土地の特徴を拾い出してそれらしき場所を実際に訪ねてみる。
「森だった期間ってどれくらいなのかな‥‥」
 今は跡形もない森の中を歩いた琉宇はふと小さな社に目を留める。そして納められていた石の刻みに波路家の名を発見する。
 朱華と神鷹も呼んで他に刻まれた文字を読み解こうとするが、わかったのは単語のみでほんのわずかだ。それらの情報は氷魅との面会を望む仲間達へと報されるのであった。

●氷魅との面会
 度重なる交渉の末、ようやく氷魅との面会が許される。ただし面会は希望者全員をまとめてであり、また一時間だけの条件がつけられた。
 柚乃、設楽万理、パラーリアがしばらく応接間で待つと氷魅が現れて座に腰を降ろす。
(「雪絵さんって‥実は理穴王家の、正統なる王位継承権を持つ‥唯一人の存在とか?」)
 柚乃は氷魅の様子を眺めながら雪絵を思いだす。母と娘だけあって二人はよく似ていた。
「雪絵についてお聞きしたいそうですが‥‥。わたくしの方から特に話したい事柄は御座いません。ですが意に添う限り質問には答えさせて頂きます」
「雪絵さんに秘密があるのなら教えて頂きたいの。すべては理穴の為なのだから」
 氷魅へと最初に問うたのは設楽万理であった。真っ直ぐな意見であったが秘密といえるものは特にないと真っ向から否定される。
 波路家の血筋に秘密があると設楽万理は睨んでいた。仲間から教えてもらった魔の森があった周辺についての情報を絡めながらあきらめずに氷魅へと食いさがる。しかし氷魅は決して口を割ろうとはしなかった。
 氷魅は何かから雪絵を守ろうとしているのかも知れないが、現状においても非常に危険な身の上だ。氷魅も重々承知のはず。それ以上の危険が伴う秘密なのかと氷魅に質問をぶつけながら心の中で呟く設楽万理である。
 設楽万理と氷魅のやり取りを聞きながら柚乃は考えを整理した。
「理穴の王位と関係がある‥‥とか?」
「波路家は儀弐家に仕える氏族。それは今も昔も変わりません」
 とりあえず柚乃は疑問を一つずつ氷魅に訊ねてみた。否定の言葉が羅列されたものの、どこまで真実かは判断がつかなかった。設楽万理とのやり取りからしても氷魅は何かを隠そうとしている。言い換えれば、どの言葉も嘘であるかも知れなかった。
「この近くの魔の森については知らないって万理さんに答えていましたけど‥。理穴東部に広がる魔の森のことは何か知っています‥?」
 柚乃はかつて波路家が支配する土地が理穴東部にあったのではと想像していた。つまり波路家はその土地を支配していたかつての王族ではなかったのかと。
 理穴東部の見解についても氷魅は知らぬ存ぜぬを通す。だが繰り返し魔の森についてを訊ねられているうちに氷魅の表情は曇っていった。怒りではなく悲しみをたたえて。
「うみゃ‥‥」
 何を質問しようか最後のパラーリアは困り果てる。大抵の事柄については設楽万理と柚乃が質問を終えていた。そこから話が広がっていれば問題ないのだが、殆どを氷魅は否定で答えている。
「雪絵おねえさん、奏生で元気だにゃ☆」
 そこでパラーリアは軽い話題で氷魅とのやり取りを済ませた。ただその後でこっそりと当主の友平に相談する。仲間達が集めた資料を見せながら。
「あたしたちも重音おねえさんもみんな雪絵おねえさんのコトを心配していて――」
 パラーリアの話しを静かに聞いていた友平が懐から巻物を取り出す。それを儀弐王に渡して欲しいとパラーリアは頼まれた。氷魅の説得は自分が引き続いて行うとも告げられる。
 調査に行き詰まった波路家訪問の一行は友平の言葉を信じて飛空船へと乗り込み、帰路へ就くのだった。

●そして
 奏生の城で再会した開拓者達は儀弐王に報告を行う。ただ雪絵の秘密は未だ謎であった。
 友平からパラーリアが預かった巻物には絵が描かれていた。童歌を補完しているようにも思える絵だが、表現が断片的過ぎて深い意味はわからなかった。
 その日は遅くなったので開拓者達はもう一日城へと滞在する。
 事態が動いたのは翌朝。波路家からの書状が届いたのである。
 それを読んだ儀弐王は蒼白を顔に浮かべてしばらく何も語らなかった。滅多な事では感情を表に出さないので有名な理穴の女王が書状を持つ指先を震えさせる程に狼狽する。
 夕刻になってから開拓者達は儀弐王に呼ばれる。そして波路家から届いた氷魅直筆の書状の内容を伝えた。口外無用を開拓者達に誓わせた上で。
 不思議なことに波路家の女性はある宝珠を体内に取り込んでいるという。その宝珠は生まれる次の女児に受け継がれる性質があるらしい。
 ある宝珠の性質はもう一つ存在し、それこそが氷魅を頑なにさせた理由。宿す女性の回りの瘴気をすべて消し去ってしまう宝珠であったのだ。
 昔は魔の森の瘴気除去にとても重宝された。これさえあれば魔の森の浸食も怖くはなかった。
 そう思われていた宝珠なのだが実は考えられていた効果と違っていた。瘴気を消し去るのではなく、吸い込み蓄える性質を持っていたのである。吸い込まれた瘴気は宝珠内で完全に遮断されるので外部からはまったく反応せず、それが誤認の原因となったらしい。
 蓄え濃縮された瘴気の悪用を畏れた当時の王はすべてを封印した。ただ最終手段として波路家の女系を絶やすような真似はしなかった。
 しかし長い時を経て真実を知るのは、当事者の宝珠を取り込んでいる女性だけとなる。さらに氷魅は一連の事実を娘である雪絵に継承しなかった。古い仕来りに縛られるのは自分で最後にしようという母心であったのだろう。
「この事実をもし鶴時家の者が知っていたとすれば‥‥すべてに合点がゆきます。雪絵の体内にある宝珠をどうにかしようとしているのでしょう」
 淡々と語る儀弐王の姿に、開拓者達は怒りを潜ませているのを感じとるのだった。