登城 〜儀弐王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/17 13:27



■オープニング本文

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 理穴の儀弐王が願った幼なじみである波路雪絵の失踪調査。消えたといわれる宿場町で開拓者達はいくつかの痕跡を発見する。
 特に鏃と矢羽根に関しては儀弐王の心を揺さぶった。非常に忠誠心の厚い理穴の有力氏族『綾記家』の特徴が見て取れたからだ。
 後日、儀弐王は開拓者達を連れて綾記家を来訪して調査。軟禁されていた雪絵と再会する。そして病に伏せていた当主の明全を問い質した。
 明全によれば雪絵が嫁ごうとしていた鶴時家には深遠な知恵を持つアヤカシが巣くっているらしい。真実を知るために間者を放ったものの全員が闇に葬られてしまい、確証は得られていなかった。
 鶴時家へ入る前に攫うしか雪絵を助ける術はなかったと明全は釈明する。
 明全の言葉を確かめるべく、儀弐王は開拓者達に鶴時家への急襲を依頼した。表向きは高価な黒茶碗の奪取。真の目的はアヤカシが本当に巣くっているかを確かめる為だ。
 結果、鶴時家当主の妻『梔』がアヤカシだと判明した。


 儀弐王は再三に渡り鶴時家次期当主『鶴時君義』に理穴の首都、奏生への上洛を命じていた。事は未だ秘密にされていたが、理穴の名家である鶴時家の謀反の種を見過ごす訳にはいかなかったからだ。
 空賊に扮した開拓者達が急襲した際、屋敷内の女子供が梔をかばったという。アヤカシだと知らないまま慕うが故にとった行動なのか、それとも何らかの術によって抱き込まれたのか、それについては謎のままだ。
 とにもかくにも、さらなる真実を知る為に鶴時君義から直接話を聞くべきだと考えていた儀弐王である。
 このまま謀反を起こすのかと思われていた鶴時家であったが、君義が登城するとの書状が儀弐王の元に届けられた。
(「どのような申し開きがあるのでしょう‥‥」)
 日々強まってゆく城内の木の緑を眺めながら鶴時君義がどのような態度をとるのかを想像する儀弐王であった。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
トーマス・アルバート(ia8246
19歳・男・弓
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎


■リプレイ本文

●奏生の城
 鶴時家次期当主『鶴時君義』の登城を明日に控えた夕方。
 理穴の首都、奏生にそびえる儀弐王の城にはすでに波路雪絵の姿があった。発端となった綾記家によって一時攫われていた女性である。鶴時君義の登城に合わせて儀弐王が呼び寄せていた。
 雪絵の拐かし事件についてだが、今では鶴時家の陰謀を事前に察知した綾記家の献身的行為と儀弐王は受け取っている。鶴時家当主の妻『梔』が開拓者達の活躍によってアヤカシだと判明していたからだ。
 儀弐王が鶴時君義に命じた今回の呼び寄せは、事実をはっきりさせる為の布石となる。どちらに転んだとしても進展するであろう。それが良きにつけ悪しきにつけ。
「ぼっ、僕は男だっ!」
「す、すみません。てっきり女性の方だとばかり」
 これから湯殿に向かう途中で顔を赤くし、雪絵に説明するのは天河 ふしぎ(ia1037)。中身は正真正銘の男性なのだが、よく女性に間違えられる人生を送っていた。雪絵の警護の為に着物をまとい化粧をしていたのも間違えられるのに拍車をかけていたようだ。
 さすがに風呂へと一緒に入る訳にはいかず、外で待つ用意の天河だ。
 いくつもの篝火が照らす室内の岩風呂に雪絵と入浴したのは設楽 万理(ia5443)、ルエラ・ファールバルト(ia9645)、パラーリア・ゲラー(ia9712)、アレーナ・オレアリス(ib0405)の四名である。
 男性の天河とトーマス・アルバート(ia8246)の二名はひとまず岩風呂の周囲で警戒にあたった。
「よいお湯ですね」
「本当に」
 軽く湯で身体を流した後でアレーナは雪絵と共に岩風呂に浸かる。天井の小窓から暮れかかる茜色の空が広がっていた。
 明日に控える鶴時君義の登城に際し、アレーナはいくつかの進言を儀弐王にあげている。どれもがアヤカシの探知に関するものだ。儀弐王も想定していると思われるが念の為である。
「お背中を洗うのにゃ〜。ごしごしっと☆」
「お嬢さん、ありがとう」
 岩風呂からあがった雪絵を木椅子に座らせるとパラーリアは手ぬぐいで背中を擦り始めた。その間に鶴時君義とその母である梔についてを訊いてみる。
 このような状況になっても雪絵の心にはまだ鶴時君義への想いが残っているようだ。梔については儀礼的な場でしか接触しておらず、普段の様子についてはあまり知らないらしい。ただとても優しそうな人だったと雪絵は語る。
(「のんびりとした雰囲気ですが‥‥」)
 素肌のルエラだが、唯一兵士から借りた盾を岩風呂に持ち込んでいた。壁へと邪魔にならないように立てかけてある。どんな時にでも防盾術で雪絵を護る覚悟のルエラだ。出来れば使い慣れた鎧を持ち込みたかったのだが場違いすぎるとやめたのである。
 のんびりとした時間が流れる中、新たな入浴者が岩風呂に訪れた。儀弐王と護衛の剣桜花(ia1851)だ。
 只木 岑(ia6834)も儀弐王の護衛に就いていたが、男性なので天河、トーマスと一緒に今は周辺警戒である。もう一人儀弐王の護衛に就く予定の開拓者もいたのだが、急用で来られなくなったのでこのような編成になっている。
「みなさんそのまま」
 儀弐王は先客に一声かけてから風呂を嗜んだ。
(「明日予定の君義の登城がすべてですね‥‥」)
 剣桜花は頭の上に手ぬぐいをのせて儀弐王の隣で湯に浸かる。陛下から目を離さないよう常に側にいた剣桜花だ。
「重音様、お背中をこの私に洗わせて頂けるでしょうか?」
「助かります。いろいろと世話をかけますね」
 雪絵の護衛を担当していた設楽万理だが、せっかくの機会なので儀弐王の背中を流す。雪絵の警護についてあらためて儀弐王に頼まれた設楽万理は強い覚悟を込めて返事をするのだった。
 その頃、只木岑、トーマス、天河は交代で男性用の岩風呂で入浴していた。護衛も大切だが明日は会談に立ち会う予定。身を清める必要があったからだ。
(「強く言い含めておきましたから大丈夫とは思いますが」)
 身体を洗う只木岑が心配していたのは剣桜花がよく語り始めるガサゴトと動くGの話である。
「敵の狙いが見えないのは気がかりだが‥‥今は俺達がやれる事をやるべきだろう」
 只木岑と交代して男性用の岩風呂に入ったトーマスは立ちのぼる湯気を見上げながら呟いた。
(「眠るときは隣の部屋ならいいよね。うん」)
 入浴している他の男達がどきまぎしているのを知らずに天河は湯船に浸かりながら両手で顔を洗う。
 仲間達から一人離れて行動していたのが秋桜(ia2482)だ。
「す、すいませぇん‥‥」
 布団を敷こうとしてズデンッと大いに転んだ秋桜は女中仲間に頭を下げまくる。正体がばれないようにわざとやったものなのか、天然なのかは本人だけが知るのみだ。
 秋桜が担当していたのは儀弐王の寝室。聖上に仕える立場でいろいろと探るつもりである。明日からは鶴時家側の担当を任される手筈になっていた。

●登城
 翌日の昼。乗馬による陸路で奏生に辿り着いた鶴時君義が供の従者二十名と登城する。噂通り鶴時君義は端正な顔立ちに穏やかな様子の青年であった。
 謁見の座敷には儀弐王と臣下五名。鶴時君義は従者達と離れてただ一人。そして開拓者十名も同席した。
「無駄な時間を過ごすのは互いに利するところ無し。君義、詮議については事前の手紙で存じているはず。そなたの母であり鶴時当主の伴侶たる『梔』がアヤカシである事、相違はありませんか?」
「誤解を解く為にこそ儀弐王様の書状により参った次第です」
 鶴時君義は梔がアヤカシであるはずがないと淡々と儀弐王に申し上げる。鶴時家が理穴そのものである儀弐家に対して謀反を企てているなど事実無根で何者かの策略だと断じた。
 白々しい空気が漂う中、不毛なやり取りが続く。事実を知る開拓者にとっては非常に腹立たしい時間であったのは間違いなかった。
 一刻に及ぶやり取りの末、儀弐王から沙汰が申し渡される。当分の間、君義は儀弐王の城に滞在。その間に鶴時家へ調査団を送って事実確認を行う手順となった。
 調査団と儀弐王は表現していたものの実際には理穴の一軍が担当する。誰の目にもお取りつぶしを前提とした儀弐王の判断だと映っていた。当事者である鶴時君義もそう思ったに違いない。
 それでも涼しい表情を崩さずに鶴時君義は謁見の座敷から立ち去った。
「お手紙預かったのにゃ」
「これは‥‥君義様からのもの」
 その日の夕方、パラーリアが鶴時君義の従者から頼まれた手紙を雪絵に手渡す。明日の朝方、城の西側の庭において二人きりで逢いたいとしたためられてあった。
「みんなと相談したけど二人きりは事件が解決したら‥‥だから今はごめん」
「ええ。わかっています‥‥。非常に危ういお立場ですもの。君義様は」
 天河が代表して雪絵に護衛も同行することを伝える。
 雪絵の側にいる為の女装姿はとても恥ずかしかったがここは我慢の天河だ。ついさっき剣桜花にからかわれたせいで顔が真っ赤である。
 城内にアヤカシがいないのは鏡弦による弓のかき鳴らしを行う事で定期的に確認されている。それとは別に身のこなしからして鶴時君義が連れてきた従者二十名は志体持ちである可能性は非常に高かった。
「王が仰っていたのですが――」
 只木岑は思いだして仲間達に伝える。雪絵も知らない事実として君義も志体持ちではないかと儀弐王が疑っていたのと。開拓者達は警戒における重要な案件として記憶に残すのであった。

●不審な動き
 滞在の鶴時家一行の世話係を担当していた秋桜は真夜中に目覚める。そして鶴時家側が休む部屋をこっそりと覗いてみた。行灯の近くで筆談を交わす君義の従者達。ばれそうになったものの、廊下の天井にしがみついて難を逃れる。
 早朝に行われる雪絵と鶴時君義との面会時に何か妙な事が起きないか、不安に感じる秋桜である。その事実を仲間達に伝えてから再び床に就くのだった。

●突然の出来事
「雪絵殿」
「君義様」
 日が昇ったばかりの城の庭。結婚するはずであった二人は抱き合う。開拓者達と鶴時家の従者に見守られながら。
 さらに様子を観に儀弐王も少し離れたところへと姿を現した。
 目前では頬に涙を流しながら包容する男女。特異な状況下であったものの、アヤカシの気配もない穏やかな世界が広がっていた。
 しかし静寂は破られる。空からもたらされた存在と共に。
 突如、上空の雲を裂いて真っ赤に燃えさかる中型飛空船が奏生の城へと落下してくる。だが待機していた儀弐王専用の中型飛空船二隻が緊急離陸。さらに龍を駆った弓術師達が空へと舞った。すべては万事に対処出来るように儀弐王が命じていた指示のおかげである。その助けとして開拓者達の情報が役に立っていたのはいうまでもない。
「何事です?」
「しばらくお静かに。私と一緒に参りましょう」
 雪絵を抱きかかえた君義の周囲に鶴時家の従者達が集まる。
 鶴時家側の動きは早かったが開拓者側も負けてはいない。君義が何らかの行動を起こすと考えて常に身構えていたのである。
「させません!」
 アレーナは鶴時家側の従者等が完全な陣を作る前に一歩を踏み出していた。従者一人の鳩尾に深く手刀を食い込ませる。
 アレーナが切り開いた隙へさらにねじ込んだのは天河。
「このゴーグルがみんなお見通しなんだからなっ!」
 両手で構えた刀をわざと大げさに振り、迫ろうとした鶴時家の従者等の動きを一瞬怯ませた。
「雪絵さんを渡すわけにはいかないの!」
 小型の弓で狙い澄ませた設楽万理が渾身の一矢を放つ。だが矢は君義の額には当たらない。君義は易々と手の甲で払いのけたのである。
 しかしそれも開拓者側の計算のうち。矢を払う動作によって君義から雪絵が離れるのを見逃しはしなかった。
「返して頂きます」
 君義と雪絵の間に割って入ったのがルエラ。防盾術によって身体を張って君義から雪絵を引き離す。
「波路殿、どうかこちらに」
 あらかじめ鶴時家側で待機していた秋桜が身を翻して雪絵を確保する。
「今だ!」
 儀弐王の側から離れずにいた只木岑は援護の矢を立て続けに放つ。
(「この状況。実力行使による排除もやむを得まい」)
 トーマスも援護に加わり、鶴時家側に矢を放ち続けた。雪絵は開拓者のおかげで無事に儀弐王の元へと戻る。
「変なのが近づいているにゃ!!」
 雪絵をかばいながらパラーリアは遠くに発見する。
 頭上に迫る真っ赤に燃えさかる中型飛空船の他に、城へ近づこうとする青い中型飛空船が一隻。あまりに低空を飛んでいた為にこれまで気づかなかったのである。
「アヤカシが乗っています! あの飛空船に!!」
 瘴索結界でアヤカシが近くにいないかを探っていた剣桜花は、低空の飛空船が頭上を通過した瞬間に叫んだ。
「これは仕返しです。先日我らの屋敷を襲わせたのはおそらく儀弐王様の差し金でしょうから。お気に召して頂けたでしょうか」
 君義はそう儀弐王に言葉を投げかけると、旋回して戻ってきた青い飛空船へと跳んで掴まる。
 それから間髪入れずに上空の燃えさかる飛空船が火球を描きながら爆散した。火薬が仕込まれていたと想像されるのだが事実はわからない。
 君義を乗せた青い飛空船は城から遠ざかってゆく。
 鶴時家の従者のうち捕縛されたのは一名。三名が捕まるのを拒否して自害。残りの十六名は君義と共に飛空船で消え去るのだった。

●そして
 抱きかかえられていたわずかな間に雪絵は君義からいくつかの問いかけをされていた。事態が完全に落ち着いた二日後にそれらを儀弐王や開拓者達に教えてくれる。
 雪絵にこの理穴を正す手伝いをしてもらいと君義は告げていた。手助けとなる力を雪絵は秘めているのだという。それがどういう意味なのか雪絵本人にはわからなかったのだが。
 儀弐王が治める理穴を見限ったのは確かなようである。梔に化けたアヤカシと与している理由もそこにあるらしい。蔵に仕舞われていた王家から賜った品々をぞんざいに扱っていたのもその現れかも知れなかった。
「雪絵が必要‥‥。そういっていたのですね」
「君義様はそう仰っていました。ですが何を示すのか私にはさっぱり‥‥」
 いくら考えてもわからないと儀弐王に答える雪絵は首を横に振る。
 そして依頼終了の日が訪れる。
「おかげで雪絵は無事でした。一瞬だけ奪われた点については気にする必要はありませんよ。惹かれ逢う二人の間に立ち入ることなど誰も出来なかったはずですから」
 儀弐王は開拓者達へ感謝の言葉を贈った。
「一国の主‥‥とまでは申しませんが一軍を率いてみたいものです」
 最後に一言呟いてから剣桜花は先に歩き出していた仲間達へと追いついた。その言葉が儀弐王の耳に入ったかどうかは定かではない。
 深夜を待って奏生にある精霊門から神楽の都へと戻る開拓者達であった。