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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 理穴の儀弐王が願った幼なじみである波路雪絵の失踪調査。消えたといわれる宿場町で開拓者達はいくつかの痕跡を発見する。 特に鏃と矢羽根に関しては儀弐王の心を揺さぶった。非常に忠誠心の厚い理穴の有力氏族『綾記家』の特徴が見て取れたからだ。 思案した儀弐王は綾記家の来訪を決める。対策をとられてしまっては意味がないので事前の連絡をせずに向かう事とした。狩りで近くの森までやって来たというのを隠れ蓑にする予定だ。 臣下を引き連れてゆくと様々な波風が立つ。そこで開拓者ギルドの出番である。 宿場町の調査をしてくれた開拓者達ならば事情を理解してくれているので儀弐王もやりやすい。なるべく以前に協力してくれた者に優先して入ってもらえるような配慮がなされる。 (「もし綾記家の仕業だとすれば、何故にこのような真似を。雪絵にもしもがあればその時には‥‥」) 心とは裏腹の飄々とした表情を浮かべながら儀弐王は蕾が膨らんだ桜の木を見上げる。雪絵と一緒に花見をした時が思い浮かぶ。 雪絵を拐かしたのが綾記家だとすればその狙いは何なのか、儀弐王にも未だわからなかった。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
神鷹 弦一郎(ia5349)
24歳・男・弓
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●綾記家 森が茜色に染まった夕暮れ時。綾記家屋敷の敷地正門を訪れる一行があった。 「こ、これは儀弐王様!」 突然の国王来訪に守衛達は戸惑う。 「狩りをしていたところ、このような時間になってしまったのです。当主の明全殿に取り次ぎを。一晩の宿を所望したい」 馬上からの儀弐王の願いは即座に聞き入れられる。屋敷まで早馬が走るものの、一行は返事を待たずに半ば強引に屋敷を目指す。足止めをされている間に波路雪絵に関する証拠を消されてしまうとこの地を訪れた意味がなくなってしまうからだ。 (「乗りかかった船だし、雪絵さんの安否も気になるし、儀弐王の方も心労とか気になるし‥‥」) 井伊 貴政(ia0213)は北條 黯羽(ia0072)と二人で太い枝にくくりつけたイノシシを担いでいた。一人でも余裕なのだが持ちやすさを考えてである。 「‥‥鬼が出るか蛇がでるか」 井伊貴政の後ろを歩いていた北條黯羽が強い眼光を放つ。 狩りをしたという体裁をとる為に他の仲間達も雉などの獲物を運んでいた。 (「ここが綾記家か‥‥。同じ理穴の氏族だけど、ウチはもっと田舎の方だし、末っ子だし身内バレは無いわね、多分‥‥」) 設楽 万理(ia5443)は遠くの屋敷を眺める。とても立派なもので理穴氏族内での権威がわかるというものだ。 屋敷へ辿り着く前に綾記家の侍従達が現れて開拓者達から獲物を受け取った。夕べの食材にするのが望みだと儀弐王はその者達に告げる。 「実は私は炊事場に潜むGの駆除を生業にしておりまして、あれほどのお家ならはさぞ悩まされているのではないかと」 かなり強引だが剣桜花(ia1851)は獲物を運ぶ侍従達の後をついて行き、先に屋敷内へと向かった。各務原 義視(ia4917)も剣桜花のお目付役として同行する。 一行が休む部屋はいくつか用意される。何事があってもいつでも駆けつけられるように開拓者達は儀弐王が休む隣室での滞在となる。 「お越し頂いて光栄の極み。どうか‥‥ごゆるりと‥‥」 「しばし泊めさせてもらう。顔色がすぐれないようだが?」 挨拶をしに儀弐王の前へ現れた綾記家・当主の明全は咳を堪える。 晩餐に綾記家の者の姿はなく、儀弐王のみとなった。 開拓者達は儀弐王が終わってから料理を頂いた。道中は関係なかったが、ここは仕来りにのっとってだ。ちなみに毒味役は設楽万理が率先して行ってくれる。 獲物は肉食が盛んな武天風の味付けがなされていた。とても美味であったが、それよりも屋敷の重い雰囲気が気にかかる開拓者達だ。屋敷の誰彼からも監視されているような視線が感じられる。 『この綾記家の屋敷には今日を除いて二日間滞在する。前もっての手筈通り動くがよし』 食事後、儀弐王は筆談で開拓者達に指示を出す。 『怪しい者はいないよ』 天河 ふしぎ(ia1037)が心眼によって周囲に隠者がいないか探ってくれていたが念のためだ。用心に越した事はなかった。 ●深夜 能力は秘密裏に使うようにと開拓者達は儀弐王から告げられる。 屋敷の詳しい状況がわからないので最初の晩は牽制に努めた。具体的には綾記家が隠匿の行動を起こせないように監視の目を光らせる。 綾記家も儀弐王一行が本当に狩りの途中で立ち寄ったとは考えてはいないだろう。つまり屋敷を訪れた時点で腹の探り合いは始まっていた。 (「当主は病膏肓に入る一歩手前といった感じだったな」) 各務原は理穴の氏族同士の統制がとれていないのではないかと想像する。綾記家に儀弐王を裏切るつもりがなかったとしても、他の氏族が仕掛けた陰謀も考えられた。 各務原は儀弐王護衛の巡回と称して暗い屋敷内を歩く。時に怪しそうな箇所を見つけると人魂を使って意識を潜り込ませてみるのだった。 その頃、只木 岑(ia6834)は天井裏を徘徊していた。単衣に着替え、外套を羽織り、楼港頭巾を被って。 (「やはり警戒されているのか」) 使用人達がお喋りでもしていそうな場所を探るつもりであったが、天井裏には先客がいた。綾記家の者が配置されていたのである。 氏族の屋敷で天井裏からの監視は珍しいものではない。それでも儀弐王が休む客室に監視がついていたのなら文句のつけようもあるのだが、それはされていなかった。 (「う〜ん。ど〜して綾記さんが雪絵さんをさらったんだろ〜?」) 儀弐王の隣で首を傾げていたのはパラーリア・ゲラー(ia9712)。侍女として屋敷に潜り込みたかったのだが、残念ながら募集は行われていなかった。そこで儀弐王の身の回りの世話をする役を買って出る。綾記家の侍女達と接する機会も得られるはずだと。 (「‥‥雪絵さんの手掛かりを求めた先が、忠誠心厚いといわれるこの綾記家とはな。俺の頭ではどうなっているのかさっぱりだが‥‥やる事は変わらんから、いいか」) 神鷹 弦一郎(ia5349)は明日に備えて早めに寝る事にする。 「くぅ‥‥」 女性用の別室では鴇ノ宮 風葉(ia0799)が軽い寝息をたてた。 短い時間であったが屋敷についてからかなり気の向くままに探索した鴇ノ宮だ。何度も屋敷の者に止められたものの、明日も無理矢理をモットーに動くつもりであった。 ●北條黯羽 夜が明けてから開拓者達は本格的な探りを入れる。 北條黯羽もそれとなく屋敷の各所を回ってみた。 縁側に座って庭を観賞しながら煙管を吹かす。春の新緑を前に思考を巡らす。 「とても広大さね」 綾記家の敷地はあまりにも広かった。そこで昼食時に仲間と相談し、手分けして探る事とした。北條黯羽が担当した周囲は蔵が多くある。 食料備蓄用のを始めとして様々な品が収められた蔵が立ち並ぶ。波路雪絵を幽閉するならば格好の場所である。 「さてと‥‥」 北條黯羽は蔵の屋根にまで一気に登ると春の日差しの中でウトウトとする。そして昼寝をするふりをしながら人魂で作り上げた雀を蔵に忍び込ませるのだった。 ●井伊貴政 桜の木漏れ日の下に二つの影。 井伊貴政は若い侍女と語らう。 「そういえば少し前に一人分多くの食事を北見回り組に用意するようになったかな? 新しい人は増えていないのに」 「きっと大食らいの方がいらっしゃるのですね」 お喋りの中でさりげなく井伊貴政は屋敷内の状況を聞き出す。敷地がかなり広いので各門の守衛の他に南と北に分かれて巡回する見回り組が存在する。波路雪絵が失踪した頃と食事を用意し始めた頃は大体ではあるが一致していた。 遠くから自分の名を叫ぶ声が聞こえて侍女は舌を出す。さぼっているのが侍女仲間にばれたようだ。またと告げて井伊貴政の元から小走りに去っていった。 (「北見回り組が管理する敷地内に雪絵さんがいるかも知れませんね」) 井伊貴政は昼食時に仲間へ情報を伝えるのだった。 ●鴇ノ宮風葉と天河ふしぎ 「わぁ風葉、見て見て、凄いお屋敷だよ!」 天河が鴇ノ宮の手を取って走りだす。その先にあったのは竹林。いくつものタケノコが地面から顔を出していた。 「きっとおいしいよね。昨日の晩に出たタケノコもここのかな? あ、風葉、待ってよ‥‥。あっちだと桜が咲いていて凄く綺麗だよ」 天河を置いて鴇ノ宮が歩いていったのは蔵が立ち並ぶ周辺。 「アタシ、メンドーな話って嫌いなのよね」 昨日、儀弐王にいった言葉を鴇ノ宮はもう一度呟く。 細かい話は抜きにして陽動をしようと鴇ノ宮は大胆な行動に出る。 「何をしている! 儀弐王様の御一行の一員とはいえ、勝手に入るのはまかりならん!」 蔵の守衛にとがめられた二人は立ち止まった。 「風葉‥‥人様のうちで、あんまり図々しいのは」 「探検するぐらい、別にいいじゃない」 鴇ノ宮と天河は蔵の周辺を立ち去るものの、そもそもが計画通りである。 人気がなかった蔵なのに二人が近づいた途端に守衛が現れた。人魂による雀が入れない程の厳重さでまた北見回り組の範囲でもある。 「あ、このタケノコ。こっちに桜の葉もあるよ。風葉、見て見て。何に使うんだろ?」 「この黒糖は理穴産? とても甘いな」 その後鴇ノ宮は厨房に居座って傍若無人ぶりを発揮した。天河は遠慮気味に。人目を引きつけておいて仲間が動きやすいように図る二人であった。 ●剣桜花 鴇ノ宮と天河が来る前から厨房にいたのが剣桜花だ。 「Gはタマネギが好きなのです。そこでこれを‥」 剣桜花は物と物との隙間に腕を突っ込んではG退治用の罠を仕掛けてゆく。G退治用の罠とは太い葉っぱを編んだ敷物の上にタマネギを乗せたものを鳥もちで囲んだものだ。 「Gが鳥もちにひっかかるので‥丸めてかまどにぽいと」 昨晩仕掛けておいたものを取り出して剣桜花は実演を終える。侍女達から拍手が沸き起こる。 「ここは平穏そのものに見えるのですが、何か変わったこととかあったりします?」 それからも剣桜花は侍女達の雑用を手伝う。世間話をして綾記家の事情を聞き出す。 病に伏せがちの当主の明全についてを除けば、いたって平穏だ。お家で一致団結し、理穴を統べる儀弐王を支える一族。それが綾記家である。 少なくとも儀弐王を裏切る様子はうかがえなかった。 ●各務原義視 北見回り組が管理する敷地内を各務原も探る。人魂を使って符を小動物に化けさせ、その眼と耳を我がものとして蔵を彷徨う。 (「どうしても入る事が出来ませんね‥」) しかし厳重な蔵を二つ残して各務原は調査を終える。 その二つの蔵は志体持ちの侵入をも阻むように建てられてあった。心眼でも内部を探れないように、深い地下室が用意されている形跡もある。 強制的な調べは儀弐王の意向に反するのでその後、各務原は監視に努めた。日に二度、決まって片方の蔵に食事が運び込まれる様子を確認した各務原であった。 ●神鷹弦一郎 (「走ったとしても屋敷を横断するにはかなりかかるな」) 神鷹は厠に行く途中で迷ったふりをして屋敷内を歩き回る。 「‥‥田舎の出なものでな。広い屋敷にはまだ慣れない」 屋敷の者に声をかけられる度に誤魔化し、やがて当主の明全が休む部屋近くまで辿り着いた。 医者が常につきそっていて大分容態が悪い様子である。 神鷹が付近に居られたのは小一時間程度であったが、その間にも綾記家の配下の者が報告に訪れていた。その内容まで耳にする事は叶わなかったが、切迫する状況が起きているのは確かだった。 ●パラーリア・ゲラー 「ふ、ふぅん♪ ふぅん♪」 儀弐王と設楽万理が庭に出かけた時、パラーリアは部屋を掃除する。 「そうなんだ。ずっと跡取りができなかったんだね〜」 掃除にきた侍女達とお話をし、パラーリアは綾記家の家族構成を教えてもらう。 男女どちらも明全に実子はいないようだ。養子にした親戚の男子を次期当主にするようである。ちなみに次期当主てある『光全』は、明全の命じで出かけているという。 遠回しに聞いてみたところ、雪絵の波路家と綾記家の繋がりは薄いようだ。少なくともいがみ合う仲でなかったのは確かであった。 ●設楽万理 理穴の氏族だけあって綾記家も弓術士。庭の一部に弓の腕を磨く為の道場が存在する。 儀弐王は日々の鍛錬として弓を構え、的を射て汗を流した。 (「儀弐王様‥‥」) その姿に一瞬見ほれてしまう護衛の設楽万理だが仕事も忘れない。儀弐王の命により道場の外で待機しながら周囲に注意を傾ける。 屋敷へと続く道では見回り組の者、食材を運び込む商人など様々な人々の往来がある。 見張った設楽万理だが、これといった怪しい人物は見つからない。強いていえば弓術士と思われる綾記家の臣下の出入りが多いように感じられた。 ●只木岑 (「どうもおかしいですね」) 只木岑は天井裏や床下に潜む綾記家臣下の監視を続行していた。 言葉をほとんど発する事なく、淡々と警備をこなしてゆく綾記家の臣下の者達。 警戒をしているのは確かなのだが、その対象はどうやら儀弐王一行ではなさそうであった。疑いを抱いて儀弐王一行が来訪しているのは綾記家も勘づいているはずなのにである。 (「もしや敵は他に? この屋敷が狙われているというのだろうか?」) 只木岑は一つの仮説をうち立て、それを儀弐王に伝えるのであった。 ●儀弐王と明全 「何かを隠しているのでしょう? 私が問いただす前にお話しなさい」 屋敷を訪れての三日目早朝。開拓者達を連れて病床を訪れた儀弐王は床に伏せる明全を見下ろす。 儀弐王の眼光に迷いはなかった。明全の忠誠が疑われたのなら儀弐王は刃を放つ覚悟を持っていた。 弱々しく起きた明全は額を畳になすりつけるように土下座をする。そして波路雪絵を誘拐したのは確かに綾記家であると吐露した。 自らが配下に命じた理由は、波路雪絵の嫁ぎ先『鶴時家』の嫌疑ゆえ。 良縁といわれていた結婚先であったものの綾記家は鶴時家の腹の内を知り、企みを阻止すべく動いたと明全は儀弐王に釈明する。 「雪絵!」 「重音‥‥」 幽閉されていた波路雪絵が解放され、儀弐王の前に現れる。開拓者達が雪絵を保護をするのを確かめた上で儀弐王は明全から続きを聞いた。 鶴時家の内部に知恵あるアヤカシが巣くっているという噂があり、理穴に仇為す者として綾記家は独自に探っていたという。だが鶴時家に送った隠者はすべて葬られて確かな証拠は手に入らず仕舞い。そうこうするうちに波路家と鶴時家の婚姻が決まってしまった。そこで雪絵の誘拐という強行手段に出ざるを得なかったと明全は説明する。 「すべては私の不徳の致すところ‥‥。御免!」 枕の下に隠した小刀で自害しようとした明全を儀弐王は止めた。 「すべてを信じた訳ではありません。ですが沙汰はすべてが明らかになってからでも遅くはないはず」 儀弐王は自らの命令で鶴時家の調査続行を明全に指示する。 波路雪絵の身柄については悩んだものの、大事に扱ってくれたとの本人の言葉も尊重する。そこで綾記家に任せるのであった。 ●そして 帰りの飛空船内で儀弐王は鴇ノ宮に闘いを挑まれる。雪絵の一件が終わった後にでもと。『世界征服の為には、王にだって勝たなきゃなんないから』というのがその理由のようだ。 儀弐王が唸る間に天河が鴇ノ宮に手渡したのがお手玉。 「はい、これで勝負するんだよね?」 笑顔の天河に『はぁ〜?』といった表情を浮かべる鴇ノ宮。その後、鴇ノ宮と天河の言い合いになってうやむやになる。 「ま、今はそれより大事なコトがあるわよね?」 気が抜けた鴇ノ宮はそういって別の部屋に退散する。 その様子を見ていた各務原は、ほっと胸をなで下ろすのだった。 |