真夜中の徘徊〜巨勢王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/06 17:51



■オープニング本文

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 武天の都、此隅で起こっている小判が消えてしまう事件。
 スリの仕業を比喩に置き換える噂も流れていたものの、小判がある一定の期間をおいて消えてしまうのは事実であった。開拓者の活躍によって得られた贋の小判もまた、巨勢王の目の前で煙のように消え去ってしまう。
 開拓者のおかげで贋の小判の流通経路は郭と賭場、真夜中にわざと落とされる三つに絞られる。
 郭と賭場については世の中の裏の側面が強く、真実を話してくれる関係者は非常に少ない。流通も複雑で目立たぬように調査するのは不可能に近かった。
 此隅・両替屋の情報から辿る方法もないわけではないのだが、巨勢王は判断を下す。真夜中の此隅で贋の小判を落としている輩を捕まえるのが適当だろうと。
「開拓者に真夜中の徘徊者を捕らえてもらおう。わしや配下の者が動くと何かと厄介なのでな」
「はっ!」
 巨勢王は配下に命じて開拓者ギルドに依頼する。真夜中の此隅を徘徊する贋の小判事件の犯人を拿捕、または倒して欲しいと。


■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102
26歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
水波(ia1360
18歳・女・巫
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
物部 義護(ia9764
24歳・男・志
将門(ib1770
25歳・男・サ
朱華(ib1944
19歳・男・志
白藤(ib2527
22歳・女・弓
常磐(ib3792
12歳・男・陰


■リプレイ本文

●相談
 武天の都、此隅。
 開拓者達は夜明け前の城の一室で相談をしていた。
「どうにも、きな臭くなってきたねぇ‥‥」
 かいていた胡座を崩しながら無月 幻十郎(ia0102)は天井を眺めると、これまでの経過を振り返る。
 一定の時間経過で消えてしまう小判。その様子は倒されたアヤカシが瘴気に戻る様子にそっくりであった。とはいえ犯人がアヤカシと断定するには些か性急ともいえる。ケモノやアヤカシに操られた人である可能性も捨てきれないからだ。
「小判を消してアヤカシに得があるとは思えないのだけどな‥‥」
 呟いた朱華(ib1944)は側にいる白藤(ib2527)と常磐(ib3792)へと振り向いた。
「とりあえずは、犯人見つけて吐いてもらうしかないよな」
 常磐は人魂を朱華に預ける考えを改める。人魂が存在できる時間があまり長くないのを思い出したからである。朱華、白藤の二人と共に行動するので、いざというときに活用する作戦に切り替えた。
「こんな事件がいたる所で起き始めたら‥‥かなり危険だよねぇ‥‥」
 白藤は朱華と常磐を順に視線を合わせながら二人をサポートしようと心の中で誓う。まずは三人で囮となって状況を観察するところから始めるつもりだ。
「人海戦術が使えないとなれば此隅は広いぜ」
「小判を落とす事が目的ではなく、別にあるのでは」
 将門(ib1770)は紙木城 遥平(ia0562)と組んで再調査をするつもりである。膝をつき合わせてどうすれば犯人を捕まえられるかの意見を交換し合う。
「だとすれば何だと思うんだ?」
「何がしかの行動の結果、副次的に小判になって落ちるのでは? と思うんですけどねぇ」
 将門と紙木城は小判の出現についてあらゆる可能性を模索する。目星がつけばやりやすくなると。
「わたくしはもう一度聞き込みをして情報を洗いなおしましょう。それで捜査範囲を絞り込めるかも知れません」
 水波(ia1360)は酒場などの歓楽街をもう一度当たってみる事にした。
「俺も賭場にいってみよう。ただ調査というよりも囮だがな」
 西中島 導仁(ia9595)は朱華、白藤、常磐と別行動ながら、やり方としては同じ囮として行動するつもりでいた。
「アヤカシにしては手が込んでいます。人が関与している可能性も否定できません」
 尾行を担当する宿奈 芳純(ia9695)は密かに探る動くつもりである。
「夜の酒場なら何かわかるだろう」
 物部 義護(ia9764)もまた歓楽街で行動するつもりだ。
 此隅は広いので事前の取捨選択によってある程度絞らなければどうにもならなかった。複雑な流通故に金の出所を完全に暴くのは事実上不可能だが、やはり歓楽街の界隈が怪しいと開拓者の多くは睨んだのである。
 相談しているうちに夜が明けたものの、開拓者達は用意された各部屋で眠りに就く。暮れなずむ頃に起床すると此隅の街へ繰り出すのだった。

●酒場
 此隅の歓楽街に並ぶ飲み屋の数々。何人かの開拓者はひとときの享楽を得ようとする者達に混じって様子を窺う。
(「お金が欲しい〜!」)
 酒場の一角で手酌で天儀酒を頂いていたのは水波。その間、何度も強く小判が欲しいと願ってみた。小判を落とし回っている者が考えを察知出来る能力を持っていると想定して。
 店をいくつも梯子して同じように念じてみる。たまに身を隠して瘴索結界を使ってみるものの、アヤカシの存在は探知出来なかった。しかしまだまだ宵の口。本格的な調査はこれからである。
 一般客に扮した物部義護は酒場の卓につくと酔っぱらい共の与太話に耳を傾けた。
「俺もよう。小判を拾いたいもんだぜ」
「そうそう。そうすりゃツケも一気に払うってもんだ」
 小判の話題はそこかしこで語られており、探すのに苦労は必要なかった。
(「これらの中にどれだけ真実が含まれているのかが問題です‥‥」)
 訊くに値する真実味のある会話を耳にしたところで話しかけてみるつもりの物部義護である。
 朱華、常磐、白藤も別の飲み屋で情報収集をしていた。
「これは食べがいがあるな!」
 朱華は給仕が運んできた肉料理にかぶりつく。骨付きのそれは皿からはみ出す程の大きさを誇っていた。ここはがっつかずにはいられない朱華だ。
(「小判についていろいろと喋っているな」)
(「役立つ情報はないかな‥‥?」)
 常磐と白藤も卓に並べられた料理に手をつけながら周囲の会話に注意を傾けた。
 隣の卓に座る大工姿の者達も小判の話題を酒の肴にしている。
 あくまで噂話だが、何人かの小判を拾った人物の名を口にしていたので白藤はメモをとっておいた。頃合いをみて常磐が声をかけて詳しく聞こうとすると大工達は話しをうやむやにして席を立ってしまう。
 消えてしまう小判を実際に使うとすれば、反社会的な行為であるのは間違いなかった。冗談として言い合う分には構わないが、現実感が伴うと途端に後ろめたくなるのだろう。
「これで払いたいんだが」
「あ、あの‥‥小判は――」
 朱華もただ食べていた訳ではない。支払いの際にわざと小判を出して店の者の反応を確かめる。
 元々大きすぎるお金なので嫌な顔をされてもおかしくはないのだが、やはり店の者が引っかかるのは消えてしまう小判の噂のようである。何かと理由をつけられて受け取るのを渋られた。
 最後には白藤と常磐が細かいお金を懐から取り出して支払う。ちなみに飲み屋で使われた代金は朱華、白藤、常磐に限らず巨勢王持ちである。あとで立て替えた分が支払われるはずだ。渋られた際に得られた情報を精査してから三人は別の店へと向かった。
 賭場の暖簾を潜った西中島は世間知らずのボンボンを演じていた。わざと大きく賭けては負け続ける。しまいには周囲の者にお金をせびる始末だ。その際、小金を馬鹿にして小判を無心する。
「なあ、いいだろ? 小判なんてちょっと遊べば吹き飛ぶ程度のものなんだからさ」
 質をとる金貸しを除いて、赤の他人に融通する者などいなかった。それ故に、もしもいたのなら非常に怪しいと西中島は踏んでいた。
 夜も更けてきた頃、無月は尾行を開始する。その際、普通の身なりをした酔っぱらいの男を選ぶ。少なくとも以前に小判を発見した人物がそれに類していたからだ。
「あの娘は名もない酒屋の娘〜っと」
 無月はばれそうになると鼻歌を唄って誤魔化す。その姿は酒の徳利をぶら下げた此隅の往来を闊歩する酔っぱらいそのものだ。自らもなるべく小判を発見した人物と同じように振る舞う。犯人は無作為に小判を落としているのかも知れないが、何らかの理由をもって拾う相手を絞っている可能性も大いにあるからだ。
 宿奈芳純が行っていたのも尾行だが、無月とは別の人物を追っていた。最初は一緒に行動していたのだが、それぞれに目を付けた者が決まったところで分かれたのである。
(「日中に比べれば確かに少なくはありますが‥‥夜にしては人通りが多いですね。やはり小判の噂のせいでしょうか」)
 宿奈芳純は通りに点々とする提灯の光を眺めながら心の中で呟く。
 夜は長く、無月と宿奈芳純の尾行はこれからが本番である。
 将門と紙木城が行ったのは以前に小判が拾われた場所の見張りだ。
(「なかなか現れません‥‥」)
 狭い裏路地に待機したのは紙木城。
(「戦いになったら殺さないように気をつけないとな」)
 近くの屋根の上から見下ろしていたのは将門。
 さすがに暗くて細かいやり取りは出来なかったが、いざ緊急時には笛を吹く約束になっていた。
 やがて夜明けが訪れる。
 情報こそ蓄積したものの小判を落とし回っている犯人を見つけることは叶わなかった。次の晩も不発に終わる。
 そして三度目の晩。
 開拓者達はこれまで以上の覚悟を持って事にあたるのだった。

●犯人
 大方の目星をつけた開拓者達は方策を練って実行した。
 小判を落とす犯人が現れであろう区域は歓楽街と隣接する辺り。特に一般的な町民が住む区域との狭間に注目する。
 拾う可能性が高いと思われる人物像は、二十歳半ばから三十歳前後の独身男性で金に困っていそうな者。
 夜の暗闇の中、開拓者達は自らが人物像に扮す。または拾いそうな者達への監視の目を光らせた。
「おっ?」
 手ぶらの酔っぱらいの男が用水路の端に広がる枯れた草むらに目を留める。月光に照らされていたのは小判であった。
 男は転げるように屈むと急いで草むらの岩の上にあった小判を拾い上げようとした。しかし横から出てきた手にかっさらわれる。
 酔っぱらいの男が見上げると大きな人影。それは無月であった。
「小判は確保したぞ!」
 無月の声は静まった真夜中の此隅に轟いた。その声を合図に仲間が一斉に動く。
「な、何をするんだ。その小判は俺のだぞ!」
「拾った者が小判の所有を誇示出来るのであれば、貴殿の物ではあり得ませんね」
 酔っぱらいの男を確保したのは物部義護だ。一応、後で話しを聞く為である。
 西中島、将門、無月の三名が咆哮を使ってみたものの寄ってくる存在はなかった。物部義護、朱華は心眼で周囲を探ったが、範囲の中にそれらしき者は見つからない。
(「敵ではないのか? それとも抵抗されてしまったのか?」)
 西中島は頭を切り替えて即座に探し始める。
 その頃、宿奈芳純と常磐は人魂を出現させていた。
「空から探させます」
 宿奈芳純の人魂は梟を形作る。
「なら俺は地上だ!」
 常磐の人魂は猫の姿になった。
 人魂・梟を追ったのは将門と紙木城。人魂・猫は朱華と白藤が追う。
 夜空を旋回していた人魂・梟が突然急降下する。そこは通りに面する材木置き場。人魂・猫も材木置き場も飛び込んだ。
「な、なんだこの猫!」
 何者かの声が材木置き場の奥から周囲に響き渡る。
 人魂・梟と人魂・猫は時間切れで消え去るものの、その時にはすでに何名かの開拓者が駆けつけていた。
「動くな!」
 薄暗い木材が立てかけられた隙間に将門が刀を射し込む。ぼんやりと見える人物の首元に刃が鈍く輝いた。
「笛でみなさんを呼びますね」
 紙木城は持っていた呼子笛でこの場にいない仲間達を呼び集める。ちなみに将門に『神楽舞「速」』をかけたのは紙木城である。
「他に仲間はいないようだな」
 朱華はもう一度心眼を使って材木置き場の周囲を探った。これ以上隠れている者はいないようである。
「手に持っている望遠鏡は地面に投げ捨てて――」
 白藤は木材奥に隠れている人物に対して弓矢を構えていた。将門がわずかに刀を遠ざける度に前へ進めと指示を出す。
 ようやく隠れていた人物の全体が月光に晒された。二十歳前後の男で服装は泰国風。ひょろっとした優男である。
「貴方様が贋小判をばらまいていた犯人ですか?」
 水波は瘴索結界を使って周囲の安全を確かめた後で泰国風の優男に言葉をかける。
 長く黙っていた泰国風の優男だが水波の三度目の問いかけに頷いた。そしてか弱い声で巨勢王に会わせて欲しいと懇願するのだった。

●優男の正体
 開拓者達が立ち会いの元、泰国風の優男『清倉』が望んでいた巨勢王との面会が果たされる。すべてを洗いざらい話すのを条件として。
「どこからお話したらよいものか‥‥。すべては両替屋内部の‥‥ある派閥の暴走から始まりました」
 泰国が各国に建設している両替屋。紙幣流通の泰国と天儀本島などの硬貨を仲立ちするのが主な役目である。
 武天にある旅泰の街『友友』は金融が盛んだ。此隅のものを上回る規模の両替屋が存在しており、内部にはいくつかの派閥を抱えていた。
 その中の東両派と呼ばれる一派が秘密裏にアヤカシと与したと清倉は語った。消えてしまう小判を使って武天の経済をかき回そうと画策しているのだという。
 消えてしまう小判はアヤカシが用意したもので、清倉はほんの一部を内緒でかすめてきたらしい。
「私はその東両派に属しています。いや、泰国での出身地のせいで、いつの間にか属した形になってしまっていて‥‥ですが信じてください。こんな事は許されないと思って、手に入れた消えてしまう小判を公にすべくわざと落として回ったのです。ぱっとお金を使いやすい歓楽街の近くで、そしてお金をすぐに使ってしまいそうな者が拾えるように‥‥。時を見計らって本意を認めた書状を巨勢王様にお送りするつもりでした」
 最初は冷静さを保っていた清倉だが、次第に混乱してきて話す内容が支離滅裂になってしまう。
 清倉が落ち着いた頃を見計らって再び質疑の場が開かれる事になる。しかし開拓者達にそれを待つ滞在時間は残されていなかった。
「皆の力を借りることになるだろう。この事件は非常に根深そうだ」
 巨勢王から再びの協力を求められた開拓者達は城を出る。そして神楽の都へ戻るために夜の此隅を歩いて精霊門へと向かうのであった。