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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「父様、嬉しいのじゃ♪」 「わしも楽しみにしてようぞ」 抱きついてくる七歳の娘の頭を撫でる父親。 どこにでもありそうな微笑ましい様子だが父親は武天を統べる巨勢王。娘は綾姫という。 晩餐を頂きながら巨勢王が綾姫に話したのは金山についてだ。 つい先頃、武天のある山腹の川で砂金が発見されたという報が巨勢王の耳へ舞い込んでいた。 量が非常に多く、また過去の調査時には引っかからなかった事から、ここ十数年の間に隠れていた金鉱脈が水脈に触れるようになったと思われる。とはいえ金鉱脈の話となれば簡単に信じる訳にはいかなかった。報をもたらしたのが胡散臭い山師だからである。 そこで巨勢王は本格的な発掘作業の前に調査をする事にした。砂金取りで川における分布図を作成して金鉱脈の位置にあたりをつけようという算段だ。 その砂金取りに連れて行ってもらえるので綾姫は喜んでいたのである。 「砂金をとるにはどうすればよいのじゃろうか? 砂粒一つずつを確認しておったら日が暮れてしまうでのう」 「揺り板というものがあってな。それで川底の土や砂を洗ってゆくと重い金が残るらしいぞ」 その日の父と娘の会話は砂金取りについてで埋め尽くされる。 数日後、開拓者ギルドに砂金調査の協力依頼が巨勢王の名義で届いた。 金鉱脈が絡むので隠密が求められる。そこで休暇を山で過ごす一行に扮してが求められるのだった。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
雪ノ下・悪食丸(ia0074)
16歳・男・サ
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
水波(ia1360)
18歳・女・巫
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
鬼限(ia3382)
70歳・男・泰
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
物部 義護(ia9764)
24歳・男・志
此花 咲(ia9853)
16歳・女・志
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●山道 「おー、あのでっかい木はなんじゃ?」 「綾姫様、駆けては危のうございます」 山道を歩く一行から抜け出したのは町娘に扮した綾姫。追いかけるのは紀江という名の侍女。 「元気、元気!」 二人の様子を見て快活に笑う大男は巨勢宗禅。武天を統べる巨勢王だ。変装こそしていたものの、赤褐の肌はさすがに隠しようがなかった。 三人に同行していたのは開拓者ギルドを通じて集められた十名である。全員が旅の者に扮してある山の中腹を目指していた。 「砂金、砂金、金や金やー!!」 天津疾也(ia0019)はぶつぶつと小声で呟きながら一歩一歩坂道を登る。 山の中腹に流れている川でどれだけ砂金が採れるかを調べるのが今回の依頼だ。まだ見ぬゴールドパラダイスに天津疾也は夢馳せる。 「‥‥娘がまさかいたとは‥‥」 ぼそっと呟いた無月 幻十郎(ia0102)は今だに綾姫の存在が信じられない様子だ。 (「依頼人が武天の王様とお姫様だと知ったときは驚きました」) 緊張した面もちで巨勢王の後ろを歩いていたのが雪ノ下・悪食丸(ia0074)。サムライにとって巨勢王は特別な存在である。今朝方会った時には臣下の礼をとってしまった雪ノ下だ。 「沢についても疲れていて遊べないのではもったいないです。ゆっくりと参りましょう」 「うむ。そうじゃな」 水波(ia1360)は綾姫に追いつくと手を繋いでから歩き始めた。ちらちらと横目で確認してみたが、やはり父親の巨勢王に似た感じはなかった。肌は白くて小さな唇がとても愛らしい。 「その通り。ゆっくりと行きましょう。さあ行きましょう」 やけに張り切っていた剣桜花(ia1851)は怪しい笑みを浮かべた。飛空船に乗っていた頃からG料理の腕をふるうと息巻いていたのである。 (「桜花さん、G料理は美味しいだとか飛空船でいっていたのですっ」) やれやれといった感じで剣桜花を眺める此花 咲(ia9853)はため息をつく。G料理を食べるつもりはないが、他の一同にも不評ならば完全隔離しようと考えていた。 「ここからは結構きつい傾斜だ。それにしても姫様は元気だな」 西中島 導仁(ia9595)は仲間の分の荷物も背負って人足を装う。主に運んでいたのは水弾きの布である。 (「母は余程の器量よしであったのだろうな」) 鬼限(ia3382)は子供とはいえ武天の姫君として綾姫を丁重に扱っていた。蝶を追いかけて山森の茂みに入ろうとすればやんわりと止めて代わりに獲ってあげる。 (「巨勢王様ったら家族サービス? 可愛らしいですこと」) 愛娘の様子に目を細める巨勢王の姿に、ふふっとつい笑い声が零れてしまうフレイア(ib0257)だ。 「重そうじゃのう。一つ持つのじゃ」 「いえ、大丈夫ですので」 西瓜や瓜を担いだり手に提げたりしている物部 義護(ia9764)に綾姫が近づいた。断ってもずっと後ろをついてくる綾姫に観念し、物部義護は背中の袋に挿してあった釣り竿を運んでもらう。 「水辺に泳ぐ川魚〜♪」 釣り竿を手にすると綾姫は機嫌な様子で歌い始める。 まもなく木漏れ日落ちる山道を歩いていた一行は目的地の沢へと到着するのであった。 ●山の生活 巨勢王一行は中腹の川辺に到着すると先に数日間を過ごす為の準備を始めた。 「まずは雨風を凌げるようにしないとな。夏とはいえども、山の夜半から朝は冷えるものだ」 無月は自生する何本かの木を斧で斬り倒す。川近くの少し高さのある平地に簡易宿を作るための支柱用に。街で用意してきた水弾きの布を張って出来上がりである。 「巨勢王様が安心して隠れられるような場所が必要でしょう」 フレイアは無月の簡易宿とは別にストーンウォールで石壁の囲いを作り上げた。四方を囲むうちの一面は仲間に壊してもらって出入り口を用意する。こちらにも屋根の代わりに水弾きの布をかぶせて完成だ。 「砂金取りの前に腹ごしらえをせんとあかんな」 天津疾也は水辺で拾ってきた石を組んで竈を作り上げる。 「さてと、次は山菜取りでもしようぞ。こちらも手伝って頂けますかな?」 「うむ。どんな草が食べられるのじゃ?」 焚き火用の枯れ枝集めが終わった鬼限は綾姫と共に森の茂みへと足を踏み入れる。とはいえ遠くに行くつもりはなく、なるべく近場で済ませるつもりいた。 「わたくしもおつき合いしますね。毒のある草やキノコはよく知っていますし」 「ほう。それは心強いのじゃ」 森の中で綾姫と鬼限はすでに山菜採りをしていた水波と出会う。三人で一緒に採り、一時間後にはミツバ、ワサビ、ムカゴ、イヌビワ、キノコ類を持ち帰る事となる。 「後は待つだけですね」 「久しぶりだな。飯をこうやって炊くのは」 西中島と巨勢王は天津疾也が用意してくれた竈に載せた鍋でご飯を炊いた。腹が減って仕方がない様子を見て巨勢王も人の子だと感じる西中島である。 「G料理の腕見せて進ぜましょう」 少し離れたところで調理を始めた剣桜花の目の前には様々な食材が並べてあった。 因幡の白兎によって得た清浄な水。運んできたカブを含む野菜類。そしてガサゴトと音がする箱の中身。 漬け物の汁に漬けたり、氷霊結で作った氷を活用するなど手の込んだ調理を続ける剣桜花だ。 その頃、川辺では雪ノ下、物部義護、此花咲が竿を持って釣り糸を垂らしていた。 「飯のおかずには事欠かないですみそうです」 雪ノ下は釣り上げたヤマメを魚籠に入れる。あまり人が立ち入らない場所のようで魚の警戒心が薄く、入れ食いであった。 「むぐぐ、逃げちゃ駄目なのですっ」 びしょ濡れで釣り竿を握っていたのが此花咲。先程まで腰の裾をたくし上げて川魚の掴み取りに挑戦したのだが、川底のぬめりで滑って頭の先まで沈んでしまった。気を取り直して大人しく釣り竿で魚を釣り上げる。 「これぐらいでいいだろう。獲れた魚をいくらか持っていくからな」 物部義護は仲間が釣り上げた分も含めてヤマメを蔓に通して釣り竿に引っかける。食べきれない分のヤマメが入っている魚籠は流れないように岩に囲まれた水辺へと固定してある。ついでに水流で冷やしておいた西瓜と瓜も抱えて運んだ。 拠点まで戻ると物部義護は焚き火を熾す。そして山菜採りから戻っていた綾姫と一緒にヤマメを枝に刺して塩を振り遠火で焼いた。 「美味しそうな匂いなのじゃ♪ それにしてもたくさん釣れたのじゃのう」 「雪ノ下殿と此花咲殿が一緒に頑張ってくれましたので。明日にも一緒に釣ってみますか?」 物部義護は焼き上がるまで綾姫とお喋りを楽しんだ。 「そろそろ出来上がりますね」 紀江は料理全般の手伝いをする。山菜の調理が終わって卓代わりの大きな岩の上に皿や器が並べられた。山菜の多くはごま油で天ぷらにされる。 「どれもよいのう♪ 特にご飯は美味しいのじゃ」 「うむ。このヤマメはうまい!」 父と娘は隣同士に座って野外での食事を頂く。 食事の締め括り用に西瓜や瓜、そしてフレイアが用意したイヌビワの冷菓も並ぶ。ゼラチンを使い、氷霊結の氷で冷やし固めた逸品だ。 「夏に西瓜は最高なのじゃ。それにこのプルプル冷菓はすごいのう♪」 食べる綾姫の表情は笑顔であった。 「これは‥‥なんだ?」 「陛下に姫、精魂込めて作ったG料理如何ですか? 見た目はアレですが美味しいですよ?」 巨勢王が関心を持って大盛りの皿を上から覗き見ると剣桜花は意気揚々と説明を始める。 「Gを嫌う人もいますが栄養もあって茹でるだけで食べれますので飢饉や非常の時などの食事として充分考慮に値するかと‥」 「すまぬな。さすがにGは好かんの。蝉なら夏の戦場でいくらでも食べるのだが」 Gは駄目だが焼いた蝉ならば何でもないと巨勢王は語る。少しだけ口をつけてくれたのは無月のみ。他に食べる者はおらず、剣桜花は一人でモグモグとG料理を片づける。 無理強いをするような事態は起こらず、雪ノ下は抜きかかった刀を鞘へと収めた。 少し遅い昼食が終わると全員で川辺を探索し、明日からの砂金採りにおけるあたりをつけるのだった。 ●砂金採り 翌朝から本格的な砂金採りの作業は始まる。 秘密裏に山に踏み入れている巨勢王の配下もいるのですべてを探る必要はない。一定距離間の川を調べればよかった。 「他のやり方も知っていますが、普通にさらうこちらの方法で」 フレイアが揺り板を持って川に足をつける。非常に冷たくて夏の日照りによる暑さが吹き飛んだ。腰を屈めて土を揺り板にのせて川の水で軽い質を洗い流す。次第に重いものだけ残るが一度目には小石だけだ。 「難しいものじゃの」 すべてが流れてしまった綾姫と笑うフレイアだ。 「次はあの辺りだな」 一個所で集中的に土砂を選り分けた物部義護だが、ある程度で見切りをつけて場所を移す。金そのものには大した執着はないのだが、国家や組織が滞りなく動くのに必要なのも承知している。黙々と砂金採りを続けた。 「み、見つかった‥‥でぇ‥‥」 叫びたい気持ちを押し殺しながら天津疾也は近場にいた一同に砂金の発見を告げる。 「くぅう、この輝きがなによりもたまらへんわ」 「確かに金のようじゃな」 じゅるりと口元の涎を拭いている天津疾也に確認した巨勢王が頷いた。非常に小さな粒であったが、砂というより小石といった感じだ。つまり金としては非常に大きい部類に入るものである。 天津疾也が発見した地点を中心にして仲間達は移動し、砂金採りは再開された。 「あるのがわかれば、よりやる気も起きてくるものだ」 西中島は勢いよく川底を攫って板を揺する。綾姫が水深がある場所に行かないようにとの注意も忘れていなかった。 作業の取り組み方は人それぞれであったが、口数少なく砂金採りに集中していたうちの一人が鬼限だ。 じっくり丁寧に板を揺らして余分な土砂を取り除く。じっと板に残る粒を見つめた鬼限のこめかみに青筋が浮かび上がり、汗が顎を伝って川面に落ちる。 「‥‥うむ。よし、次じゃ‥」 鬼限はなかなか砂金と出会えなかった。夕方になってそれなりの大きさの砂金を探し当てるのだが、それまでは忍耐の一字であったろう。 「楽しさをお裾分けなのですよー」 「お、いいのかい?」 此花咲は通りすがりの旅人に声をかけられると用意してあったヤマメをあげた。砂金採りではなく、あくまで川遊びをしている一行を装う為に。天津疾也も同じようにしていたようだ。 「これは‥‥すごい格好だ」 「陛下はおっきい胸がお好きだそうなのでささやかなサービスです」 砂金採りの作業中、剣桜花は白い水着姿で過ごす。巨勢王と目があった時にはサービスでポーズをつけてみたりもした。それにしてもと綾姫が巨勢王に似ずに良かったと思う剣桜花である。 「それでは‥‥」 作業合間の休憩中、水波は水辺で舞いを披露する。 弧を描く足先から水飛沫が散って小さな虹を作り出す。緩急をつけて静謐と躍動感を現す舞いが終わると真っ先に綾姫が拍手をしてくれた。 「そうそう、もう少し右を狙って」 「こ、こっちじゃな」 余興として無月は川上から西瓜を流す。下流に立たせたのは布で目隠しをした綾姫。流し西瓜割りを綾姫に楽しんでもらおうという寸法だ。 「ここじゃな。えい!!」 持っていた棒を綾姫が振り下ろす。見事西瓜は真っ二つになった。 「姫よ。よくやったぞ」 「はっはっはっは、将来楽しみですなぁ」 無月は巨勢王と並んで大口を開けて笑う。もちろん割られた西瓜は全員で頂いた。 作業が再開されてしばらくしてから雪ノ下の元に巨勢王が近づく。 「まだまだですが、この程度は見つかりました」 「充分な量だ。そうか‥‥この川の曲がりには金が溜まっていそうか。だとすれば――」 採れた砂金から金鉱脈の在処を話題にする雪ノ下と巨勢王だ。 川の地図には調査の結果が追記されてゆく。さすがに一日ではすべてを調べるには至らない。目処がつくまでまだ数日の調査が必要であった。 ●そして 「覗いたら真っ二つなのです。何で何を、とは言いませんが、真っ二つなのです」 一仕事終わり、此花咲を始めとした一同は水辺に作られた沐浴の場で順に汗を流す。フレイアに頼んでストーンウォールによって石の囲いを作ってもらっていた。 「父様、ご飯なのじゃ」 「お、わかった。続きは飯の後でな」 綾姫が将棋を指していた巨勢王と西中島を夕食の場に呼んだ。 川における砂金の分布もわかり、明日には此隅へと戻る事となっていた。 「香辛料をふんだんに使った煮込み料理ですわ。巨勢王様にお気に召して頂けると嬉しいのですけれど」 「変わった味だがうまいな。何故か知らぬが飯とよく合うぞ」 フレイアが用意した香辛料たっぷりの辛目煮込み料理を巨勢王は気に入ったようだ。ちなみに入っている猪肉は巨勢王が仕留めたものである。 「蝉なら平気と仰っていましたので」 「うむ。これは凝っている。どれ」 剣桜花は蝉を食材にした料理を並べた。巨勢王は美味しそうに食べたのだが、他の者達がそうしたのかは定かではない。ちなみに綾姫と紀江は最後まで口にしなかった。 「おー、かき氷は大好きなのじゃ♪」 「気に入って頂けたようで」 水波が作ったかき氷を綾姫が食事の締めに頂いた。氷は氷霊結を駆使して。もちろん要望があればみんなの分も作る水波である。 「巨勢王にそっくりな、良い笑顔ですなぁ。そうそう大人にはこちらの方が。はっはっはっは」 「それはよいな。一つもらおうか」 無月が巨勢王の猪口に天儀酒を注ぐ。 「おむすびにたらこが備わり最強に見えるのです。ふふり」 此花咲は夜食用にと余分に炊いたご飯でおむすびを握る。具は持ってきたタラコを焼いたものだ。到着初日を除いてご飯炊きのほとんどを受け持った此花咲である。 夜が更けてきてもなかなか眠くならず、お喋りの時間は続いた。 翌朝に巨勢王一行は山の中腹を後にする。その日の夕方までに武天の都、此隅の地を踏むのであった。 |