武天内の泰 〜巨勢王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
EX
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/27 14:31



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 武天には此隅だけでなく様々な街が存在する。その中でも異彩を放っているのが『友友』である。
 主に泰国出身者で構成された交易商人『旅泰』よって形作られた街であり、武天の中の泰国ともいえた。ちなみに各地にも似たような小規模の旅泰の街は存在するという。
 巨勢王によって旅泰による自治独立が認められてはいるのものの、公式な発布はされていない。つまり暗黙の了解の元で成り立っている交易商人の街ともいえる。
 多様な商売が成り立つ友友で中心的な役割を持つのが『両替屋』である。泰国の銀行から認可されるのが両替屋であり、友友だけでなく各国の主要な街に存在する。
 しかし多々ある両替屋の中でも友友のは特別だ。此隅に建つそれよりも規模が大きいともっぱらの評判であり、対外的な立場において両替屋と呼ばれてはいるものの、実質的には本国の銀行並の権力と実行力を持つと噂されていた。
 泰国では金銀などの希少価値のある金属をつかったお金はほとんど使われていない。金地金本位制によって発行された貨幣が流通している。その貨幣を天儀などで一般に使われている硬貨と交換するのが両替屋の主な仕事だ。
 両替の他に行われる業務が金貸しである。旅泰ならば利子において優遇を受けられるらしいが真偽の程は定かでない。財政に逼迫した各地の氏族がお得意様のようだが、これも真実は滅多に表へと出てこなかった。とはいえ借りるのとは逆に両替屋を通じて新しい商売へ出資している裕福な氏族もいるようだ。
 一年に一度、武天側の役人が友友の両替屋最深部へと立ち入る日がある。金庫内に保管された金地金の確認作業の為に。
 基本的には泰国内にある銀行の金地金こそが泰国発行紙幣の信用の源となっている。しかし、巨勢王と取り決めにより友友の両替屋にも金地金の蓄えがなされていた。この金地金こそが武天と旅泰を繋ぐ絆ともいえる。
 今年の立ち入りは節目に当たり、巨勢王が参加する事となった。
 巨勢王は信頼する開拓者を護衛として雇いたいとギルドに連絡をとるのであった。


■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102
26歳・男・サ
水波(ia1360
18歳・女・巫
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
鬼限(ia3382
70歳・男・泰
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
物部 義護(ia9764
24歳・男・志
此花 咲(ia9853
16歳・女・志
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔
フィーネ・オレアリス(ib0409
20歳・女・騎


■リプレイ本文

●巨勢王と開拓者達
 旅泰の街、友友にある両替屋。
 金庫室内に保管されている金地金の確認は定例の作業だが、巨勢王の参加は稀である。
 事前に巨勢王参加の連絡はされていたものの、友友の両替屋にとっては突然の出来事に等しかった。
 両替屋側の忙しさなど気にも留めずに友友に向かう飛空船内の巨勢王はご機嫌だ。盃を片手に酌をしてもらった天儀酒を一気に呑み干す。
 友友に到着した巨勢王一行は明日の視察に備えて両替屋が用意した旅館へと泊まる。
 巨勢王の他に事務作業を行う武天の勘定方が十五名。加えて護衛の開拓者十名が二十の部屋に分散する。とはいえ警備を考えて旅館は貸し切り状態である。
 夜の帳は下り、開拓者達は交代で旅館周辺の巡回を行った。
 班の編成は四つ。
 壱班が鬼限(ia3382)、フィーネ・オレアリス(ib0409)。
 弐班が物部 義護(ia9764)、ジークリンデ(ib0258)。
 参班が無月 幻十郎(ia0102)、剣桜花(ia1851)。
 警備の三班とは別に直衛班は巨勢王が休む隣室で待機する。こちらは水波(ia1360)、西中島 導仁(ia9595)、此花 咲(ia9853)、ブローディア・F・H(ib0334)の四名であった。

●真夜中の企み
 巨勢王一行が旅館で休む頃、両替屋に程近い建物には怪しい集団が潜んでいた。全員が開拓者と同じ志体を持つ強盗団『揚羽』の面々だ。
 何人かの団員が待機する地下三階の部屋中央には何故か中型飛空船が一隻。そして部屋の壁面部分を入り口にして掘られた横坑は両替屋の地下金庫室に向かって伸びている。
 横坑の点検が終わり、強盗に備えての最後の確認をしようとした時に両替屋に潜伏している仲間から凶報がもたらされた。
 それは明日の金地金の視察時、武天を統べる巨勢王も参加するというものだ。
 揚羽にとって欲するのは金地金であり、他に余計な厄介事は抱え込みたくはなかった。金地金を目前で強奪されたのなら巨勢王の面子は丸つぶれである。そうなったら必要以上の追っ手が差し向けられるであろう。さらに巨勢王を傷つけたり、死に至らせたとすれば武天のすべてが敵になってしまう。
 当初、揚羽の面々は金庫室の床に穴を空けて金地金を盗みだそうとしていたのだが、罠が仕掛けられている噂を耳にして作戦を変更している。両替屋に踏み入れる個所は金庫室の外側である廊下の床だと。
 廊下へと金地金を運び出すには頑丈な金庫室の鉄扉が障害となる。その為に武天の役人が視察する日を狙ったのだが裏目に出てしまう。
 ぎりぎりの段階にあったものの、巨勢王という不確定要素を排除する更なる作戦変更は総じてまとまりがあるものとなった。急ごしらえとしてはよく出来ていた。誰から見ても隙はないように思えた。
 だが揚羽の面々は大事な要素を見落としていた。護衛として開拓者十名が巨勢王に同行していた事実を。

●警戒
 翌日の昼頃。
 上空の飛空船からすでに友友の両替屋を眺めていた巨勢王一行だが、大地に足をつけて見上げるとまるで印象が違った。
 敷地内には本棟の他にもたくさんの施設が立ち並ぶ。全体として威風堂々とした雰囲気が感じられる。
 巨勢王と勘定方の一部が地下二階へ向かうと開拓者達は班の編成をそのままに配置へとついた。
 地下室へと繋がる階段前で警備をしていたのは壱班の鬼限とフィーネである。
「通す訳にはいかぬ。帰られよ」
 仁王立ちをしていた鬼限は事前の申請許可を得ていない者達をすべて追い返す。それがたとえ両替屋の職員であっても。
 必要なのは滞りのない業務や融通ではない。巨勢王の安全と金地金の保全こそがすべてだ。その他は些末な事に過ぎなかった。
「巨勢王様が立ち入りしております。両替屋の皆様にもご不便をおかけするとは思いますが、ご了承の程よろしくお願いします」
 口論に発展した場合はフィーネが取りなす。最終的には力業も辞さないが、なるべく音便に済ませようとする。また不穏な動きがないかにも目を光らせた。
 両替屋側の警備員が待機する地下一階で待ちかまえていたのは弐班の物部義護とジークリンデだ。
 地下なので昼間であっても本来なら暗いのだが、宝珠の輝きと篝火の併用で比較的明るくされている。
 壱班の検問によって篩いがされていたので新たな人の出入りに関しては特に調べる必要はなかった。それよりも何かが起こった時に駆け参じる覚悟と地下一階の構造の把握に余念がない二人である。
(「これだけの警備の中でまさかとは思うが。しかし職員の中に賊が潜んでいる可能性は――」)
 さらに物部義護は警備員達の動きに注目する。獅子身中の虫が潜んでいるかも知れず、心眼も併用して注意深く観察した。
(「噂通りの金地金の量とすれば、ほんの一部でも非常に高価なものです。長年務めた職員であっても魔が差してしまうかも知れませんし」)
 ジークリンデもまた階段近くで警備員達の動きを監視する。何かがあればアイアンウォールによる鉄の壁を出現させて階段を塞ぐつもりでいた。
 参班の無月と剣桜花は各所の巡回である。ただ両替屋の敷地すべてを行うのは無理なので本棟の一階から地下二階にかけてだ。
「もしも賊が来るとして狙いは陛下か金塊でしょうが、どちらにしても上の階にいたほうが安全なのは間違いないと思います」
 剣桜花は地下二階金庫室前の廊下で待機する直衛班の仲間に話しかける。
「無事に済んでくれるのが一番なんだが‥‥」
 無月は階段から金庫室に至る廊下を何度か往復してみた。台車などを利用したとしても外に金地金を運び出すのは容易ではなさそうだ。
「もうしばらくお待ち下さいませ。ただ今、開錠中で御座います」
「うむ」
 巨勢王には両替屋の管理責任者が付き添う。
(「特に怪しくは在りませんが、注意は引き続き‥‥」)
 水波は管理責任者の様子を注意深く眺めた。
 そわそわして額に多く汗をかいていたが、おそらくは巨勢王を畏怖しているせいであろう。あの迫力で睨まれて平常心を保てる者は少ない。人によってはアヤカシよりも戦いたくはない相手だ。その他に何かしらの術が仕掛けられていないかを調べる水波だ。
(「王はこの旅の間ずっと気楽だが、両替屋側は大変そうだ」)
 西中島は昨晩に巨勢王と指したはさみ将棋を思いだしながら周囲の様子を見渡す。職員の一部が懸命に金庫室の鉄扉を開けようとし、また何人かが巨勢王を取りなしていた。
「むぅ‥‥何か緊張するのですよ」
 此花咲が呟くと椅子に腰を落としている巨勢王は笑いながら膝を叩く。
「金庫の扉が開かれる時って、やはり危なかったりするのでしょうか?」
「危ないな、確かに。よからぬ事を考える奴らにとって唯一の潜り込む機会といってもよいだろう。とはいえ金の重さは半端ではない。志体持ちのわしらでさえ、あの金庫に仕舞われている金地金を運び出すのは難儀するはず。余程の練った作戦に加え、準備と度胸がなければどうにもならぬな」
 此花咲に答える巨勢王は非常に楽しそうであった。
(「私達がいかなくても、なんとかなりそうなのはきっときのせいよね」)
 巨勢王と此花咲のやり取りを眺めながら苦笑いをしたのはブローディア。
 強盗でも現れたら巨勢王はすすんで戦いを挑むように思えて仕方がなかった。もっともそうなったら出来る限りの補助をするつもりである。そうはならない事を願いながらも。
 やがて金庫室の鉄扉が開かれる。それは同時に強盗団『揚羽』が活動を開始する瞬間でもあった。

●強盗
 天井に取り付けられた宝珠が照らす地下二階。金庫室の鉄扉が開かれ、両替屋の職員達と共に巨勢王が内部に足を踏み入れる。
 直衛班の此花咲とブローディアは鉄扉付近で待機する。いつでも巨勢王の側へ駆けつけられるようにと。
 金庫内の様子は異様であった。山のような金地金の輝きは人々に畏怖を感じさせる。
「西中島様、微かな音が床から聞こえるような気がするのですが」
「ん? どれ‥‥。誰かの足跡にしては妙だな」
 水波に誘われて西中島が廊下の床へと耳を近づけてそばだてる。他の者達にも報せようとした時に事件は起こった。
「何事だ!!」
 突然、地下二階に広がったのは白煙。巨勢王は腰に下げた刀を抜きながら叫んだ。
「王、おそらく賊と思われますね」
「大切なお金を狙うとは、不届き千万」
 ブローディアと此花咲は金庫室に飛び込むと巨勢王の側に立った。
 後に判明するのだが白煙を発生させたのは職員の一人。かなり以前から潜り込んでいた揚羽の団員である。
 間髪を入れず廊下の床を突き破ってきたのは先が尖った太い鉄棒。そして空いた隙間から顔を隠すように変装した者達が次々と現れる。
 直衛班の誰かが笛を吹き鳴らすと間もなく警鐘が鳴り響いた。
 開拓者達が知る由もないが、奴らは盗賊団『揚羽』の面々であった。
 揚羽・刀使い壱の一撃を巨勢王の側面へ動いた西中島が刀で弾く。
「この力‥‥。敵は志体持ちだ!」
 動きと力で西中島は敵を志体持ちと判断する。煙る視界の悪い空間で西中島は大声を張り上げた。
「金庫室に侵入させるでない!!」
 瞬時に状況を判断した巨勢王は金地金を守るようにと指示を出す。揚羽の行動から狙われているのは自分ではないと考えたのである。
「鉄扉、金庫内から向かって右側から一人潜入ですっ」
 此花咲は心眼で知った動きを仲間へと知らせた。さらに居合で抜いた刀で揚羽・刀使い弐の攻撃を受け止める。
 そして揚羽側も似たような行動を採っていた。
 揚羽・元志士壱と弐が心眼を使い、前もって決めておいた合図で揚羽の面々に位置を知らせる。邪魔されぬように巨勢王を気絶させろという指示も混じっていた。
「これでどうかしらね」
 ブローディアはフローズで空気を凍てつかせて金庫室に入ろうとする揚羽・刀使い参を牽制する。そして動きが鈍くなった揚羽・刀使い参を巨勢王が刀の勢いではじき飛ばす。
 そうこうするうちに弐班と参班が地下二階に参じた。階段口を守る為に無月は残る。他の弐班と参班の者達は床に空けられた穴へと飛び込んだ。
「ふむ、王を見ようにもこの煙たさでは無理か。だが、元気な様子はよくわかるな」
 巨勢王の雄叫びが耳に届いては安心している無月に向かって揚羽・刀使い弐と参が迫ってきた。上階に逃げようとしているのだろう。
 最低でも一人は捕まえてあらましを吐かせなければならなかった。その心構えで無月は刀を振るう。
 敵の双方とも手練れだが力強さは今一。しかし二人を一人で相手にするのは分が悪かった。そこに階段を駆け下りてきた壱班の二人が無月に加勢する。
「懸念が現実となりおったか‥!」
 階段という不安定な場所であったが鬼限は壁をうまくつかって腰の入った拳撃を揚羽・刀使い参の腹へとめり込ませる。さらに相手の腕を縫うように腕を伸ばして蛇拳の一撃を喉元に見舞った。
 階段の少し上で待機していたのはフィーネである。
「お聞きする事がありますので」
 無月の攻撃を受けてふらふらの揚羽・刀使い弐に対し、フィーネは袈裟懸けに剣を振り下ろす。死んでしまわないように手加減を加えながら。

●逃げ道
 両替屋地下二階の床に空けられた穴の底には横坑があった。
 篝火で照らしながら仲間が戻ってくるのを待っていたのは揚羽の五人。
 たくさんのふらさまが牽く荷車も用意されていたが、それらがはっきりとわかるのは事態が収まってから。すべてを知るにはあまりに横坑は暗すぎた。
「飛び道具など使うのは初めてなのですが‥‥」
 剣桜花は先制としてダーツを投擲する。相手を倒すというよりも牽制の意味合いが強かった。
 揚羽側も薄暗い中、弓矢で応戦してくる。横坑へ降りたばかりの弐班と参班に隠れられる場所など見あたらない。傷つくのを覚悟して敵に接近する。
「こんなところで何をしているのです」
 物部義護はまず弓使い々を先に斬り伏せた。手練れの雰囲気が感じられる敵であったが苦労はしない。接近戦では志士の物部義護に分がある。
 そうこうするうちに次々と穴から人が降りてくる。最初は揚羽の面々。続いては巨勢王と開拓者達。金地金奪取に失敗した揚羽は撤退を始めたようだ。
「ここは逃げ道を塞いでしまいましょう」
 ジークリンデはアイアンウォールで鉄の壁を出現させて横坑の先を塞いだ。その前に何人かの揚羽の者が逃げおおせていたものの、三人の行く手を遮るのに成功する。
 その十分後、両替屋の近隣にある建物から中型飛空船が飛び立った。揚羽の予定では金地金を運ぶ為の飛空船であったが、今はただ逃げるのみである。
 生きたまま捕まえられた盗賊団『揚羽』の団員は男女一人ずつ。この二人が金地金強奪の計画を詳しく話し始めるのに三日の時間が要された。

●そして
 金地金の視察は日を改めて実施された。そして空いた滞在日を使って巨勢王一行は友友を散策する。
「大丈夫! 希望を捨てなければいつか成長するから!」
 笑顔の剣桜花は此花咲の肩に手を乗せる。どうやら『胸の大きな子ってお好きですか?』と巨勢王に聞いたところ、大好きだと返事があったのが嬉しかったらしい。
 とはいえそんな事をいわれたら普段気にしていなくても気分は悪くなるものだ。此花咲が振り返るとちょうど剣桜花の頭に鳩のフンが落ちてきた。慌てる剣桜花の姿に溜飲を下げる此花咲である。
「もっと食うがいいぞ」
「い、頂きますっ」
 昼の休憩の時に巨勢王が竹皮の包みを開いて一同に振る舞う。おにぎりであったのも此花咲にとって嬉しい出来事である。
 翌日、飛空船へと乗り込んで此隅への帰路に就く巨勢王一行であった。