|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 武天は理穴へと対アヤカシの派兵を行っている。儀弐王の求めに巨勢王が応えているからだ。 理穴東部の魔の森付近のアヤカシ討伐にも力を貸していたが、主な協力範囲は西部。何故なら武天と理穴の国境が西部付近だからである。 派兵というのは非常に繊細なものだ。突然に矛先が変わり、国家侵略に化ける可能性も考えておかなければならなかった。たとえ巨勢王と儀弐王が非常に友好的であったとしても。 武天と理穴の王同士による協議は定期的に行われていた。開催場所はその時によって変えられていたものの、大抵は武天と理穴の国境付近の施設。すべては両者の面目を保つ為だ。 今回の開催場所は理穴に少しだけ入った場所にある城塞施設。町などの人家は近くに存在しない。 城塞施設の兵数は約200名。半数が武天からの派兵である。 巨勢王は今回の会談における護衛として開拓者の同行を希望した。会談は行わなければならないものの、アヤカシの勢力が非常に気になったからである。 開拓者ギルドに連絡が届いて募集が行われる。事が事だけに秘密厳守の内容となっていた。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
水波(ia1360)
18歳・女・巫
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
鬼限(ia3382)
70歳・男・泰
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
物部 義護(ia9764)
24歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●理穴 時は暮れなずむ頃の理穴、武天の国境付近。 巨勢王率いる武天一行は、大型飛空船を着陸させた広場から用意された牛車五両に乗って城塞へと向かっていた。広場から城塞までは約一キロメートルの道のりである。 城塞からの迎えの者によればすでに儀弐王は城塞で待機しているという。ちなみに理穴側の飛空船着陸広場は城塞を中心にして武天側と反対の方角に存在する。 「お早い到着のようですな」 「よい風が吹いていましたので」 到着からしばらくしてから巨勢王と儀弐王は城塞内の一室に出向いて挨拶を交わす。儀弐王の理穴が協力を受けている立場であるが、すべてにおいて対等が貫かれている。対アヤカシに関しては国家の枠を越えてというのが両者の考えだからだ。 大型飛空船で待機する乗員達を除くと武天の都、此隅から訪れたのは巨勢王と直属の配下十名。そして開拓者十名である。 直属の配下十名は城塞に派遣されている武天のサムライ達と連携して周辺警戒に務める。開拓者十名の役目は巨勢王の傍らでの警護だ。 無月 幻十郎(ia0102)、柳生 右京(ia0970)、鬼限(ia3382)の三名はそれぞれに大型飛空船が待機する広場まで戻り、城塞に至る森道周辺を再点検した。 「巨勢王が素直にしたがってくれればいいんだがねぇ〜」 道の脇に敵が潜めそうな岩や窪地がないかを探しながら無月は呟いた。 血気盛んな巨勢王なので、何かしらの戦いが始まれば自ら加わるであろう。無月だけでなく誰もがそんな予感を持っていた。 「アヤカシ‥‥か」 柳生右京は夕日に赤く染まった空と森の木々を見上げる。響く鴉の鳴き声のせいで不気味な雰囲気がさらに強まってゆく。 (「この近辺での出没は滅多にないようだが」) アヤカシの不審な動きが理穴西部で見受けられると行きの船上で巨勢王がいっていたのを思いだす。城塞の兵達による周辺警戒は厳重だが気を引き締める柳生右京である。 (「ふむ。森の中を走る羽目になっても、この辺りは避けた方がよさそうじゃな‥‥」) 木の枝から枝へと飛び移りながら鬼限は地面の様子を確認していた。沼地や岩が密集している場、高低差が激しいる個所が見つかる。緊急時にどうするべきか、事前の考察の為に鬼限は隈無く調査を続行する。 巨勢王も志体持ちなので少々の障害物などものともしないはずだが、撤退時のわずかな遅れが致命的な結果をもたらす場合がある。不確定要素は排除しておくのに越した事はなかった。 その頃、物部 義護(ia9764)は城塞敷地内の望楼に立っていた。 「城内にばかり居ても、な。外の風に当たっていた方が気が紛れるというものだ」 「そういうものか」 武天兵や理穴兵から話を聞きながら物部義護も見張りを手伝う。大事が起これば呼子笛を鳴らして城内の者達に異常を知らせるつもりである。会見の当日もそうするつもりでいた。 「助かったよ。慣れた地のはずなのだが、夏場に向かう日々の中で草木の成長が著しくてね」 「大したことはしていませんので。少しお話しよろしいでしょうか?」 水波(ia1360)は怪我をしていた兵士を白霊癒によって治療する。アヤカシとの遭遇がなくても森の中での偵察は生傷が絶えないようだ。ついでに昨今の周辺状況についての話を聞かせてもらう。 やがて日が暮れて夜の帳が下りる。 「おー、もっと食え!! 食わねぇとでかくなれんぞ!!」 「わかったぜ、巨勢王のおっちゃん!! ならこの肉ももらうぜ!」 宴の最中、座布団の上に座す巨勢王は大きな盃を片手に持ちながらルオウ(ia2445)に料理を勧めた。むしゃむしゃと食べるルオウの姿を観て巨勢王は愉快そうに笑う。 (「王の弾除けになること以上の武士の誉れがあろうか。巨勢王には傷一つ付けさせん」) 落ち着いた様子の喜屋武(ia2651)は巨勢王から目を離さぬように務めていた。盃を手にしていたものの、巨勢王は殆ど酒を嗜んでいない。明日に行われる儀弐王との会談の為に控えているのが見て取れた。 「何にせよセこくヤるだけですがね‥‥。相応に」 仲間から集めたばかりの情報を聞いた真珠朗(ia3553)は焦臭い気配を感じていた。理穴西部にアヤカシの不審な動きこそあったにしろ、この城塞の半径十キロメートルに限れば一ヶ月の間に三回だけ非常に弱いアヤカシが出没しただけ。それでも嫌な予感が頭から離れない。 「やれやれ‥‥」 相手側の儀弐王とも面識がある剣桜花(ia1851)はポツリと呟く。思うところがあっての言葉のようだ。 「私は一介のG教徒なのですがねぇ」 それでも信じるところの本分は絶対に忘れない剣桜花であった。 「お休みになる前に一局、どうでしょうか?」 「それは気晴らしによいな。互いに手加減はなしだぞ」 西中島 導仁(ia9595)は借りてきた将棋盤を持って巨勢王の前に座る。明日の会談に備えて少しでも役立ちたいと考えるサムライの西中島であった。 ●会談 一晩過ぎての会談当日。 「事前にそちらに渡っている資料で、何か懸案事項はありますか?」 「気になる点はいくつかあるな。アヤカシの動きに対してだが――」 昼過ぎに儀弐王と巨勢王の話し合いが始まった。用意された部屋には他の者を一切入れずの密室である。 開拓者達の多くは隣の部屋で待機する。他に望楼や廊下で待つ者もいた。 終了時間は特に決められておらず、場合によっては深夜にまで至るという。双方の同行者達はただ黙って待つ他なかった。 淡々とした時間が過ぎてゆく中、甲高い音が待機室まで届く。 「何か起こったのか!」 呼子笛だと気づいた西中島が床から立ち上がる。まもなく警鐘が鳴らされて城塞内は慌ただしくなる。 「何事だ!」 すぐに巨勢王と儀弐王が部屋から廊下へと現れる。戸の前に両者の配下の者が集まりだす。開拓者達も例外ではなかった。 先程まで望楼で見張りを手伝っていたはずの物部義護が窓から廊下へと飛び込んできた。近道をしたようだ。 「周囲巡回の者からの狼煙が確認されたのだ。方角は北北西。目視で計ると望楼から約五キロの地点での狼煙らしい」 物部義護の報せを聞いて巨勢王は唸る。そして一呼吸の間のとって儀弐王へと振り返った。互いに頷き合ってから離れて取り巻きを集める。開拓者達はもちろん巨勢王の元だ。 「この場で迎撃されますか? それとも飛空船に撤退を?」 「この城塞の守りは駐屯する兵等の役目。存分に奮ってもらう。手柄を横取りする訳にはいかぬからな。わしらは飛空船で立ち去ろう」 巨勢王は剣桜花の問いに答えながら腰の刀を確かめると外へと至る廊下を歩き始める。庭ではアヤカシを待ち受ける兵達がすでに待機していた。 「皆の者、聞けい!! これよりわしは森の一本道を駆けて待機する飛空船へと向かう。おそらくは雲霞の如くアヤカシ共がまとわりつくに違いない。だが弓の者達よ!! わしを気にすることなく矢を放て!! 何、雨のように矢が降ろうとも避けるので心配するでない。それよりもこの城塞へ接近する前にアヤカシの数減らしに邁進せよ!! 刀を持つ者はアヤカシを一歩たりともこの城塞に足を踏み入れさせるでない!!」 巨勢王の果敢な言葉に兵達が咆哮をあげた。 反対側の門からも同じような声が届いていた。おそらく儀弐王も兵達を戦意高揚させているのだろう。 「開拓者の皆よ。そういう事だ。ここからアヤカシをかき分けて駆け抜けようぞ」 大型飛空船が停泊している広場までは約一キロメートル。巨勢王は走りきる事を提案する。 それぞれに言葉や態度などいろいろであったが、全員が巨勢王の考えを了承した。ただ配下のサムライ十名は道の途中で逸れて森の中に入るという。一人が巨勢王に化けてアヤカシの動きを撹乱する為だ。 巨勢王とその配下のサムライ十名、開拓者は志体持ちである。それぞれの能力に差はあっても一般人のそれと比べれば誰も超人といってよい。当然、足の速さも常識から外れていた。 迫るアヤカシは待ってくれず、体制を整える暇もないまま一同は動き出す。 開拓者達は巨勢王を囲むようにしながら三つの役目に分かれた。 先頭でアヤカシを払いのける先駆班はルオウ、真珠朗、物部義護の三名。 巨勢王を間近で護るのは直衛班の水波、剣桜花、喜屋武、鬼限、西中島の五名。 背後からの迫るアヤカシを退けるのは殿班の無月、柳生右京の二名。 それぞれに得物を手にして大地を蹴り続ける。 目前に立ちはだかるはアヤカシの群れ。降り注ぐ雨のような矢を避けながら巨勢王一行は近づいてゆく。 「骨のアヤカシかよ! どけどけどけどけどけえーーーーーー!」 誰よりも先頭を走った先駆班のルオウは曲刀を煌めかせてアヤカシを斬る。斬った敵を数えて一旦立ち止まるのは成敗!での回復を図る為だ。だが遅れ気味になるので、次からは味方との間合いを考えて回転切りでアヤカシを薙ぎ払う。 先駆班は順に前へ出ながら敵の最中を切りひらいていった。 「セコくやるって言ってる傍から、へびぃな状況ですけど‥‥ヤニ代分くらは働いときますか」 真珠朗の放った拳は空気を震わせてアヤカシを転倒させた。 一時的でも戦闘不能に陥らせればそれでよかった。出来る限りアヤカシの後続の邪魔になるような位置に転ばせてながら同じ場所に踏みとどまることなく前へと進む。 「不意を打つつもりだな」 物部義護は立ち止まって一本の大木を刀を構えて見据える。そして茂みに飛び込んでアヤカシの肩口から袈裟懸けに刃を奔らせた。 振り向けば巨勢王が通り過ぎる姿が見える。即座に追い抜いて先駆班の役目に戻る物部義護だ。 「足止めっといきましょうかねぇ」 殿班の無月は弓矢で迫る飛行する類のアヤカシの羽根や翼を狙う。地上のアヤカシは柳生右京に任せてあった。 幸いな事に城塞からの支援の矢のおかげで飛行する類のアヤカシは巨勢王一行の上空に留まれない状況になっていた。もっとも巨勢王一行も矢を避けねばならないので、その分の足かせは存在する。 「退屈していた所だ、これで少しは愉しめる」 矢を掻い潜って迫ってくるアヤカシを淡々と斬っていたのは殿班の柳生右京である。雑魚は軽くあしらって足を止めさせればよい。問題なのはそれなりの力を持ったアヤカシだ。惑わす技を使われると厄介なので優先して早めに黙らせておく。 先駆班と殿班のがんばりの中、巨勢王を護る直衛班も邁進していた。 「あと広場までわずか。王はこのままお進みを!」 道脇の茂みから巨勢王を狙って飛びだしてきたアヤカシを直衛班の西中島が肩で押し返す。間合いが出来ると刀を宙に滑らせてアヤカシを断つ。 (「わずかな傷さえも王に負わせる訳にはいかんのじゃ」) 鬼限は巨勢王を間近で護りながら空波掌の衝撃を飛ばしてアヤカシの動きを鈍らせ、先駆班や殿班を援護する。 「先の赤い布が巻いてある枝の下を通るのじゃ!」 広場までの森道は曲がりくねった部分もある。鬼限は森の中を突き抜ける事でわずかながらも近道する方法を事前に調べておいた。それが今、役に立つ。 「感あり! 三時の方向数二!」 瘴索結界を身に施した剣桜花はいち早く潜むアヤカシを見抜いて仲間達に知らせた。 「陛下は大人しく護衛されてください‥‥。香車ではなく王将なのですから」 「そうはいってもな!」 釘を刺す剣桜花だが巨勢王は刀を手に笑い飛ばす。無謀な斬り込みはしていないのでよしとしておく。剣桜花と同じように巨勢王が無茶をしないか目を光らせる開拓者はたくさんいた。 (「飛空船まではもうすぐですね。それからの方がよいでしょう」) 水波は巨勢王の側を走りながら冷静に状況を把握する。毒に蝕まれた仲間もいたが、大型飛空船が待機する広場は目と鼻の先。必要な治療はもう少し後でも問題はない。それよりも巨勢王の安全を考えて大型飛空船に飛び込んでしまうのが得策であった。 大型飛空船は低空を浮かびながら船倉部を開いて巨勢王一行の到着を待っていた。 「王を今のうちに!」 喜屋武がここぞとばかり咆哮を使ってアヤカシの注意を自分に引きつける。喜屋武に群がるアヤカシを排除しようと開拓者達は奮闘した。 巨勢王も応戦しようとしたものの、西中島が無理矢理に船倉内へと押し込んだ。罰を受けるとしても巨勢王の安全を優先したのである。実際には何のお咎めもなかったのだが。 「ほいっと、さて今のうちにトンズラかかせてもらいましょうか」 無月が撒菱でアヤカシの足止めをしてから大型飛空船の出っ張りに掴まる。彼が開拓者の中では最後の乗り込みだ。 船員達が砲で牽制している間に森の中で陽動をしていたサムライ十名も船内に飛び込んだ。 大型飛空船は急速上昇し、すぐに地上のアヤカシは豆粒程の大きさになる。飛行可能なアヤカシもあきらめたのか、追ってくるものはほんのわずかだ。砲撃によってすべてが排除された。 「巨勢王様、どこかお怪我は?」 「わしは大丈夫だ。他の者をしてやってくれ」 水波は巨勢王の状態を確認した後で毒に侵された味方の治療を開始する。物部義護や剣桜花も体力の回復や怪我の治療を手伝ってくれるのだった。 ●そして 短期戦によってかなり消耗した開拓者達であったが、武天の都、此隅に戻るまでにある程度まで回復していた。 「このタイミングで襲撃とは、きな臭い匂いがするねぇ〜」 巨勢王からもらった天儀酒を一杯やりながら無月は呟く。 「情報漏れがあったのは確実だと思いますね」 水波も無月に同意する。 「アヤカシの動きが周到で狡猾になってるのが気になるところですが。ま、その辺の対策はえらい人任せでいいですかね」 のんびりとした様子で真珠朗は空を見上げた。 「巨勢王のおっちゃんの強いとこ、見たかったぜ。ま、俺もがんばって出番なくしちまったからな」 巨勢王の活躍が見られなくてルオウは少々残念がる。ただ、いずれはそういう場面に出くわす時もあるだろうと気を取り直した。 今回のアヤカシ襲撃にどのような裏があるのかを話し合いながら開拓者達は神楽の都へと戻ってゆくのだった。 |