【急変】理穴の空 〜巨勢王
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/28 23:48



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 理穴東部におけるアヤカシ侵攻を伴った魔の森拡大は一旦収束する。但し、理穴の女王・儀弐重音(iz0032)は一時的なものと捉えていた。
 朱藩国王の興志宗末(iz0100)、武天国王・巨勢宗禅(iz0088)の名代・綾姫、理穴ギルド長の大雪加 香織(iz0171)も同様の考えに至る。
 かつて起きた緑茂の戦いにおいて現れた大アヤカシ『炎羅』によく似た個体の目撃例がいくつか報告されていた。しかも精査するに二体も。その特徴から『氷羅』『砂羅』と名付けられる。
「綾姫の武天飛空船団には引き続き飛翔可能なアヤカシの退治をお願いします。朱藩飛空船団が地上戦に集中する形になりますので大変だと思いますが、砲弾などの補給は優先します」
「儀弐王様、任せてたもれ。すべて散らしてみせようぞ」
 綾姫は話し合いの席で瞳を輝かせながら儀弐王に頷いた。理穴東部の空は武天飛空船団が護ると。
 旗艦・大型飛空船『不可思議』に戻った綾姫はさっそく各艦船の責任者を集めて具体的な作戦行動を決める。
 『氷羅』と『砂羅』が出現するであろう場所は予想が立てられていた。情報分析に長けた大雪加の指揮する理穴ギルドの手柄である。
 全長四百キロメートルといった長大な魔の森境界線すべてを守らなくてもよいのは非常に助かった。予想のせいぜい五十キロの範囲ならば飛空船にとってわずかな距離だからだ。
「本日着いた理穴奏生からの便には多数の開拓者が乗っていると聞いたぞ。今から参ろうぞ」
 綾姫は儀弐王のためならばと精力的に動いた。
 神楽の都で集められた開拓者が精霊門を経て奏生へ。そして理穴軍の大型飛空船に乗船して理穴東部までやって来ていた。
「空中での戦いなのじゃが、やってはくれまいか?」
 綾姫自ら声をかけて協力的な開拓者を集める。
 それから数日後の宵の口。
 闇の中を飛ぶ武天飛空船団は不思議な現象と遭遇した。
 汗ばむ暑さだというのに雪が降ってきたのである。そして砂嵐が巻き起こる。それぞれ十分にも満たない間であったが、危機感を覚えるには十分な出来事であった。
 さらに日を跨いだ深夜。
 魔の森は再び胎動を始めた。瘴気を伴う繁茂による魔の森の拡大。そして侵攻のアヤカシの大軍。魔の森の中から多数の飛翔アヤカシが浮かび上がる。
 大アヤカシの『砂羅』と『氷羅』は武天飛空船団からは確認できなかったものの、それは関係なかった。
「まずは巨体の空飛ぶアヤカシを宝珠砲を狙い撃て!! 龍騎兵などの空中戦要員は各甲板で待機。号令次第で総攻撃じゃ!!」
 綾姫の指示は狼煙銃の信号によって各艦船へと伝えられる。
 準備が整った各飛空船の宝珠砲が火を噴く。二度目の戦いの幕が上がる瞬間であった。


■参加者一覧
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
将門(ib1770
25歳・男・サ
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●真夜中の空中戦
 暗闇の空で点々と輝いていたのは星ではなかった。それは武天飛空船団の各船に取りつけられた照光宝珠によるもの。
 武天飛空船団は綾姫指揮の元、まるで踊るかのように連動する。
 姿勢制御用の各風宝珠を噴かしながら一斉に船首の向きを変更。宝珠砲台が仰角を調整して雲霞の如く迫る飛翔アヤカシの群れを正面で捉えた。一射目は各艦船の指揮者の号令に合わせて宝珠砲が放たれる。
 『天鵞絨の逢引』で支援する蒼井 御子(ib4444)は大型飛空船『不可思議』の右舷廊下にて『詩聖の竪琴』を奏でた。ちょうど右舷列の砲手全員にかけられる位置取りで。
「そうだね。ツキ? ちょっと綾姫様のこと、頼めるかな?」
 次弾装填の合間、嫌な予感が脳裏を横切った蒼井御子は迅鷹・ツキにお願いする。艦橋外部で待機してもしもがあれば綾姫を守って欲しいと。よくしてくれた綾姫のことをツキは覚えているはずである。外部に繋がる砲台の隙間からツキを外へと飛ばす。
(「んー‥‥なんだか、乱戦になりそうな気配がするねー」)
 蒼井御子はツキが闇に紛れて見えなくなっても暗闇の空を眺め続けた。
 ツキはすぐによい待機場所を見つける。艦橋上部外板に凸凹があり、静かに突起部へと掴まって翼を休めた。
 蒼井御子を除く開拓者達は不可思議の甲板、もしくは甲板下の船倉で待機していた。宝珠砲が実質無効になる接近戦に持ち込まれてからが航空戦闘担当の出番である。
「始まっているみたい‥‥」
 甲板のフェンリエッタ(ib0018)は空龍・キーランヴェルを側に置きながら眼下に目を凝らした。上空と同じように地表近くでも無数の光が軌跡を描いている。
 光は上下関係なく宝珠砲による弾道の軌跡。地表では砲台と化した朱藩飛空船団の各艦船が砲撃していると思われる。
 観察していると地表の一部が少しずつ赤く灯りだす。榴弾によって魔の森が燃え始めたのだろうとフェンリエッタは推測した。
(「真夜中の戦闘は厄介って考えていたけど、明るくなれば地表までの距離を間違えることはなさそう。すごく明るくなればいいのだけれど‥‥」)
 魔の森の延焼が広がれば灯りとなって夜空も照らしてくれるはずである。そうなることをフェンリエッタは願った。
 西中島 導仁(ia9595)は炎龍・獅皇吼烈の頭部に取りつけたランタンに炎を灯す。か細い光だが、ないよりましだろうと。
「綾姫にアヤカシの露払いを頼まれたのだ。ここは頑張らねば」
 獅皇吼烈に話しかけながら自らを鼓舞する西中島である。
 将門(ib1770)も西中島と同じく鋼龍・妙見に取りつけたランタンに炎を灯す。
「今のところ優勢のようだが」
 それが終わると不可思議から放たれる砲弾の光軌跡を目で追った。
 光軌跡が消えてから三拍の待つと一瞬だけ輝く。飛翔アヤカシの群れの一部に榴弾が命中した現象である。
 甲板の鈴木 透子(ia5664)は空龍・蝉丸の頭を撫でてあげながら戦況を見守った。
「今の状態で吹雪いたり、砂塵が舞ったりしたら大変かも‥‥」
 少しでも互いを目視しやすくするために航空戦闘班全員が腕と龍の首に黄色い布を巻いていた。これは鈴木透子が出した案によるものである。但し、隠密を好む者は敢えてつけていない。
 ルオウ(ia2445)は滑空艇・シュバルツドンナーなので黄色い布は艇首にくくりつけた。
「航空戦闘が始まったら真っ先に飛んでくれって綾姫に頼まれたからな。ドンナーも張り切ってくれよ」
 ルオウは滑空艇・シュバルツドンナーに腰掛けながら、もう一度作戦手順を頭の中で反芻する。
 シュバルツドンナーには『照明弾』が搭載されており、一分間だけだが辺りを照らすことができる。暗闇の航空戦闘において、これがあるとないとでは大違いといえた。
 紙木城 遥平(ia0562)は甲板にて武天龍騎兵による偵察連絡を待ちわびていた。
 戦端が開いて約二十分後、遠方に狼煙銃による光球を発見する。まず間違いなく武天龍騎兵による連絡だ。
「行きましょうか」
 紙木城は炎龍・韻姫に跨って甲板から浮上する。同行を頼んだ将門も龍騎飛翔して光球が消えた方角を目指す。
 紙木城と将門を追いかけるようにして中型飛空船八隻。小型飛空船三十四隻。さらに龍騎武天兵の一部も動いた。これら別動兵力は当初の紙木城の案より綾姫の判断によって少々の変更が加えられている。
(「こちらの方角に砂羅は隠れているはずです」)
 紙木城は上空での戦場が大きく二つに分かれると考えていた。
 想定通り砂羅と氷羅といった大アヤカシが二体も動くのならば、敵全体の動きも自然にそうなると踏んだのであった。

●暗闇の中で
 宝珠砲による榴弾を受けつつも飛翔アヤカシの群れは武天飛空船団に迫る。
 飛翔アヤカシの群れはそれなりの高度を保っていたために武天飛空船団の方が地表に近かった。宝珠砲は仰角をつけて放たれる。
 空中戦闘において一般的に高い方が有利といわれていた。高所から低所に移動するのは非常に楽だが、上昇するにはそれなりの時間と労力を伴うからである。
 この位置取りを綾姫はわざと選択していた。
 守るべきは地上で戦う味方の軍であり、そこまで飛翔アヤカシを辿り着かせないのが武天飛空船団の役目。綾姫が儀弐王と交わした約束の要といえた。
 同じ高度で戦った方がやりやすいのはわかっていたが、それでは簡単に地表へと向かわれてしまう。高空のアヤカシの群れから見て武天飛空船団が地表に蓋をしている状態こそが綾姫にとって理想といえる。それに近い状態が維持されていた。
 アヤカシの群れが散りながら近づいてきたので、一部を除き宝珠砲一斉砲撃は中止。ここからは航空戦闘兵の出番となった。
「近くの方がいいかな?」
 蒼井御子は宝珠砲が再び活躍するときまで綾姫の護衛をしようと考えた。
 艦橋に向かい、許可を得た上で綾姫を見守る。迅鷹・ツキは言いつけを守って外装で未だ待機中である。
 武天飛空船団から二キロメートル先で暗闇での空中戦が始まろうとしていた。さすがにこの距離だと飛空船の宝珠光は届かない。
「アヤカシがいなけりゃもっと良かったんだけどなっ! まずは一発目だぜ!」
 『弐式加速』にて特攻気味に突っ込んだ滑空艇・シュバルツドンナー搭乗のルオウはさっそく照明弾を敵の直中に叩き込んだ。
 照明弾は目映い光となって一分程度辺りを照らす。アヤカシが視認しやすくなれば味方にとってこれほど好都合なことはなかった。
 ルオウの他にも少人数だが滑空艇に搭乗する武天兵はいた。彼彼女達も照明弾を撃つことによって辺りを照らし、味方が攻撃しやすいよう支援する。
「少し暴れてから配置につくとしよう」
 炎龍・獅皇吼烈を駆る西中島はアヤカシの直中で大暴れ。火炎を噴いた炎龍・獅皇吼烈は浮遊する水母・妖を鋭い爪で掴む。そのまま一気に引き裂いた。西中島も二刀を持ってして寄ってきた虫型のアヤカシを次々と両断する。
 わずかなランタンの灯火ではアヤカシがかなり近づくまで目視できない。そこから一瞬の判断で攻撃を喰らわすのを繰り返す。
 西中島は敵中で二十分程暴れた後で本来の役目と考えていた不可思議の護衛へと戻った。
 空龍・蝉丸を操る鈴木透子は全長十五メートルもある巨大蟷螂・妖に追いかけられていた。
「蝉丸はこういうの得意ですから絶対に追いつかれません」
 彼女の呟きは負け惜しみではなく事実である。鈴木透子は不可思議の左舷一番砲台担当と事前に相談して連携をとっていた。
 夜光虫によって空龍・蝉丸に乗る鈴木透子の周囲が輝いた。その光の動きを頼りに砲撃手は宝珠砲を放つ機会をはかる。
 空龍・蝉丸は不可思議の左舷二百メートル前後を一定の速さで一直線に飛んだ。鈴木透子の視界から不可思議の灯火が後方に消え去った瞬間、激しい轟音が鳴り響いた。
 ふり返ると自分達を追いかけていた巨大蟷螂・妖の身体の四分の一が抉れて消し飛んでいた。
 巨大蟷螂・妖は力無く自由落下を始める。瘴気の塵になって風に吹き飛ばされてゆく。
 もしもの撃ち洩らしを考えて待機していた龍騎武天兵達が元の配置へと戻った。その中には西中島の姿もあった。
 鈴木透子はこの後も強そうなアヤカシを誘導して宝珠砲との連携で四体倒すのに成功する。
 最初の砲撃から約一時間後。フェンリエッタは空龍・キーランヴェルと共に無双状態に突入していた。駿龍の翼と風の咆哮を駆使して縦横無尽に動きながらアヤカシを倒してゆく。地表の魔の森延焼のおかげで敵が視認しやすくなってきたからである。
 それ以前は逆に暗色の空龍・キーランヴェルの特徴を利用して闇に紛れながらアヤカシを倒した。自らも目立たぬような格好に扮していたフェンリエッタである。
 キーランヴェルの『蹄鉄「アルスヴィズ」』による打撃とフェンリエッタの『ブレイブランス』による突きが次々と繰り出される。
 また鈴木透子と同じように引きつけたアヤカシを宝珠砲で仕留めてもらう戦いも実践する。戦果は十メートル級の巨大甲虫・妖二体である。
「これは?」
 フェンリエッタは突然の砂嵐に巻き込まれる。
 吹き飛ばされないよう上半身を伏せて空龍・キーランヴェルの首元に掴まった。つけていた『風読のゴーグル』のおかげで視界は確保されていた。
 深刻な事態は次の現象が加わった時に発生する。砂嵐に吹雪が合わさったのである。
 砂粒に氷がまとわりついて棘状になり、小さな多量の撒菱へと変化する。さらに砂嵐と吹雪によって酷い乱気流が発生。敵味方構わずの大混乱が上空で発生した。
 時間にしてわずか二十秒の出来事であったが、フェンリエッタだけでなく単独飛翔していた多くが被害を被る。
 この現象がアヤカシ側の意図した攻撃であったのか、偶然の出来事だったのかはその後もわからず仕舞いとなる。
「痛ってぇなー」
 ルオウは目を瞑ったまま身体を激しく震わせて鋭利な砂粒を身体から払った。さらに大きく旋回して逆さまになり機体から振り落とす。
 とはいえ夏場の小さな氷なのですぐに溶けてただの砂粒と化した。
「おいおい?」
 ふらふらになってぶつかってきた蝉・妖をルオウが蹴って離してから刀で始末する。アヤカシ側もかなり傷ついた様子である。
「ここは俺がやるべきだな。凌ぐぞ!」
 西中島は不可思議の真下を飛んでいたおかげで凶悪な砂嵐と吹雪に巻き込まれないで済んでいた。この混乱を利用して不可思議を含む船団の間近まで迫ったアヤカシを阻止すべく全力を出す。
「獅皇吼烈、ヒートアップだ!」
 力無く空中に漂うアヤカシの群れに突っ込む炎龍・獅皇吼烈の西中島。
 アヤカシに対して一方的に攻撃を加え続ける。三分を経過した頃、ようやく弱々しい反撃を受けた。
 不可思議を守っていたのは西中島だけではなかった。この時、迅鷹・ツキも艦橋付近を飛び回る巨大蜂・妖と戦っていたのである。
 偶然にも砂嵐と吹雪の難を逃れたのか巨大蜂・妖は活発なまま。迅鷹・ツキとの激しい空中戦が繰り広げられた。
 大きく旋回しながら巨大蜂・妖の背後を取ろうとするツキ。
 速さこそないものの自由な動きで翻弄する巨大蜂・妖。
 その様子は不可思議の艦橋からも目視できた。
「綾姫様、危ない!」
 艦橋内の蒼井御子は綾姫へと駆け寄って抱きついた。巨大蜂・妖が尻から針を放つ仕草を見逃さなかったからだ。
 蒼井御子と綾姫が床に倒れる瞬間、艦橋の窓に蜂の針が命中する。填められていた分厚い水晶にひびが入った。
「こっちに」
「すまぬ」
 蒼井御子は床を這いずり、盾になりそうな頑丈な座席の裏へと綾姫を誘導する。
 飛ばした針では窓の分厚い水晶を破れないと悟る巨大蜂・妖。尻に針をつけたままぶち破ろうと落下を利用して艦橋の窓に突進する。その巨大蜂・妖の軌道を迅鷹・ツキは体当たりで逸らした。
「ツキ?!」
 蒼井御子は座席の裏から力無く落下する迅鷹・ツキを目撃する。
 しかしすぐに持ち直した迅鷹・ツキは上昇して風斬波を放った。それだけでは巨大蜂・妖を倒せなかったものの、大切な時間稼ぎをしてくれた。
「やらせん!」
 状況に気がついた西中島が加勢。無事、巨大蜂・妖を倒しきった。
 フェンリエッタ、鈴木透子、ルオウは協力して傷ついた武天龍騎兵達を誘導していた。凶悪な砂嵐と吹雪の中心部で生き残った味方である。
「邪魔なんだよ!」
 先頭のルオウは目前を漂うアヤカシをまとめて回転切りで散らす。一番近くの味方大型飛空船まで残り五百メートルである。空の道を切り開くルオウだ。
「もう少しです。気をしっかりしてくださいね」
 殿を務めるフェンリエッタは特に酷い大怪我の武天龍騎兵と龍を神風恩寵で治癒する。但し、全員を癒す余裕はまったくなかった。後方から追いかけてくるアヤカシを倒しながら、少しでも早く味方の飛空船に辿り着けるよう心の中で願う。
「蝉丸にまかせます。あのアヤカシを引き離してください」
 鈴木透子の頼みに吼えて答える空龍・蝉丸。
 空龍・蝉丸は傷ついた武天龍騎兵達を狙う活発な大鷹・妖に駿風翼でわざと急接近。その上で鋭利な羽根によるアヤカシの攻撃を躱して挑発した。お前なんかの攻撃が自分に当たるはずがないと。
 空龍・蝉丸は傷ついた武天龍騎兵達から大鷹・妖を引き離すのに成功する。
 ルオウ、フェンリエッタ、鈴木透子の奮闘のおかげで傷ついた武天龍騎兵十四名が無事大型飛空船へと収容された。約二十分後には龍と共に回復して戦線に復帰したという。さらに十九名の武天龍騎兵を救ったルオウ、フェンリエッタ、鈴木透子であった。

●別動
 紙木城と将門が同行する別動飛空船団も本格的な航空戦闘を開始していた。宝珠砲の火力を主軸とした戦い方である。
 中型飛空船八隻による宝珠砲の斉射。それに加えて小型飛空船三十四隻の砲撃が続いた。
 偵察によって飛翔アヤカシの群れがいるとされた暗闇の空間に吸い込まれてゆく輝く砲弾の軌跡。
 これらが繰り返されていくうちに敵との間が狭まって視認できるようになる。また地表での魔の森の延焼がより広がったおかげともいえるだろう。
 飛翔アヤカシの群れの中央には穴が空いた。さらに砲撃を続けて蜂の巣の状態にまで持ち込もうとするとアヤカシ側が動く。棘状の遠隔攻撃をこちらにしつつ、扇状に広がって別動飛空船団を包み込む陣形を取ろうとしているのが見て取れた。
 そうはさせないために一部の中型と小型の飛空船、そして武天龍騎兵は連動する。
 別動飛空船団を包囲するために北と南から迫る二つの敵勢力に対して攻撃を開始。北側の戦いには紙木城。南側の戦いには将門が参加した。
 中央に残った多数の飛空船はひたすらに宝珠砲を撃って敵戦力を減らす。
「みなさん、両側に回り込まれるのさえ阻止すればアヤカシ側に打つ手はなくなります。最後の掃討は僕たちの仕事ですが、瀕死の敵に止めを刺すだけで済むはずです」
 紙木城はすでに伝達済の作戦をもう一度復唱して北側武天龍騎兵達に聞かせた。まもなく羽音を立てて迫るアヤカシとの接近戦が始まる。
 紙木城自身は精霊の鈴を片手に精霊の唄を歌い、傷ついた味方を癒すのに専念する。
「気をしっかりしてください。まだです。ここで死んではいけませんよ」
 時には怪我のせいで乗っていた龍から落ちそうになる龍騎兵を急降下で駆けつけて掴んで支えた。
 戦い故に死傷者はどうしても出る。
 範囲攻撃となる炎龍・韻姫の業火炎でアヤカシを威嚇。戦いを見守りつつ、優勢なまま撤退の時期をはかる紙木城である。
「多いな‥‥。ここなら味方を傷つけることもないだろう。気兼ねなくやってしまおうか」
 鋼龍・妙見を駆る将門は周囲の敵の中で一番手強そうな浮遊大型エイ・妖に向けて真空刃を放ち続ける。間近まで迫ったところで奥歯を噛み、刀の柄を強く握り締めた。そして柳生無明剣を叩き込むべく大型エイ・妖に接近を試みる。
 鋼龍・妙見は気流の流れを利用する『ラッシュフライト』で翻弄しながら大型エイ・妖へと急接近。爪を相手の胴体にしっかりと食い込ませた。続いて柳生無明剣による幻影の剣先が大型エイ・妖の胴体を貫いて穴を空けた。
 これで大型エイ・妖はかなりの力を失った。将門に応戦した武天龍騎兵達によって一分後には完全なる瘴気の塵と化す。
 二時間半が経過した頃、別動飛空船団の全兵力は七割となる。頃合いと感じた紙木城は狼煙銃で本隊への合流による撤退の合図を出す。
 この周辺のアヤカシを当初より約三割にまで減らせていたが、殲滅までもっていくのにはかなり苦労すると判断したのである。
 残ったアヤカシもおそらく本隊と戦っている仲間と合流を果たそうとするだろう。最終決戦はその時までとっておく。
 真っ暗だった夜空は白み始めていた。

●そして勝利
 空での戦いにはいくつか節目があった。
 アヤカシの群れが立て直しをはかるために一時撤退をした時、武天飛空船団側も兵力の再編成を行った。もちろん兵にはできる限りの治療と休養が与えられる。
 再び正面衝突。
 武天飛空船団の宝珠砲火力は衰えを知らず、再侵攻してきたアヤカシの群れを一気に蹴散らす。
 拮抗していた戦いも崩れる時は一瞬の出来事。まるで敵が腑抜けたと感じられるほどの一方的な戦いとなった。開拓者を含めた航空戦闘の兵達は残った飛翔アヤカシを掃討。完全なる上空制圧に成功する。
(「儀弐王様はどうなさっておるのじゃろうか‥‥」)
 伝達網が混乱していたために地上での戦いがどのようになっていたか、なかなか綾姫の耳にまで届かなかった。
「そ、そうなのか! 砂も氷も倒したのじゃな?」
 ようやく吉報が入る。綾姫は大喜びした後で近くの座席へと腰掛けた。疲れていたせいで笑顔を浮かべたまま寝てしまったという。
 そして儀弐王を此隅城に招いて大宴会を催す夢を見る。その中には今回活躍してくれた開拓者の姿も。目が覚めたとき、綾姫はしばし現実と夢の区別がつかなかった。