謎の遠吠え 〜巨勢王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/13 19:35



■オープニング本文

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 空と海を隔てた武天国と泰国。
 二国は祭典を計画。今現在は交渉段階だが準備は着々と進んでいた。
 その中の一つが刀の準備。
 祭典が開催されたのなら親好の意を表して互いに贈り物を交換し合う形になる。
 武天の刀剣愛好家の間では『武天十二箇伝』と呼ばれる選出が存在する。宝珠を考えず刃の鍛えに重きを置いた評価なので、刀そのものの評価とは必ずしも一致しない。しかし刃の鋭さもまた天儀刀の魅力に違いなかった。
 巨勢王が選んだのは武天十二箇伝に選ばれているうちの流派『長家』。長曽禰興里を創始者としており、虎徹は国内外で有名である。
 泰国へ贈る一刀を長家十六代目、長曽禰喝破に打ってもらおうとしたところ、行方不明の状況。とはいえ大凡の予想はついていた。
 喝破は将棋の真剣師としての一面も持つ。いろいろとあったが開拓者達によって巨勢王と喝破の対局は果たされる。そして作刀も行われる形となった。
 二人の勝敗については秘密にされた。巨勢王はわざと負けるような相手を好まない。かといって巨勢王に畏怖を抱いて手を抜いても誰にも責められはしないだろう。
 しかし恐れ知らずの喝破は真剣勝負を持ちかけたはずだ。この場合の真剣とは賭け事を指す。もし喝破が勝ったとするのならば巨勢王から何を巻き上げたのか。判明するには今しばらくの時間が必要だった。
 作刀を請け負った長曽禰喝破は拠点の鳥架村に戻る。この村は此隅から南の遠方に位置し、金指山の裾野に存在した。
 鳥架村の側を流れる雉川ではたたら製鉄用の砂鉄の採取が可能。また炭焼きに必要な木材を上流から運ぶ手段としても用いられていた。
 鳥架村には村長がいるものの、実権を握っているのは長家の当主。つまり現在においては喝破に他ならなかった。
 その鳥架村が大蛇に襲われるものの、被害は最小限で済んだ。盗られた喝破愛用の鎚も開拓者達によって取り戻される。但し、作刀は予定よりも遅れ気味となっていた。
 喝破の件とは別の事案で綾姫が武天を代表して泰国を訪れることとなる。土産として運ぶのは苺。綾姫の好物でもある。
 航空路上でアヤカシに襲われ、秘密裏に苺へ毒を混入させられそうになるのものの開拓者達の活躍にて阻止。無事に泰国訪問は終了するのだった。


 時は綾姫が泰国訪問中。場所は武天・鳥架村。
「これでようやく作刀が再開できようぞ」
 深夜、長曽禰喝破は弟子達に囲まれながら壊したばかりのたたら製鉄用炉の前で屈む。
 ぶっ通しで何日もかけて砂鉄を融かし続けて、ようやく玉鋼の巨大な塊が姿を現した。後は鉄球で割って良質な破片を集めれば刀身の鋼材が揃う。
(「しかし‥‥なんだな。焦臭いのは間違いねぇな」)
 ここのところ、聞いたこともない獣らしき遠吠えが頻繁に轟いていた。もしアヤカシからの警告だとすれば大蛇襲撃の二の舞いが迫っていることになる。
 巨勢王から派遣されたサムライ達が警護してくれているのだが、喝破は少々心持たない。サムライ達が悪いのではなく、アヤカシに対抗するのには志体持ちでなければ難しいからだ。
 警備のサムライ三十名の中で志体持ちは二名。少ないように感じられるものの、これでも巨勢王は相当な采配をしてくれたはず。開拓者に関わっているとつい忘れがちになるのだが、志体持ちは滅多にいない貴重な存在だからだ。
 喝破は作刀の障害を除くべく開拓者ギルドに依頼する。しばらくして第一陣の開拓者十名が鳥架村を訪れた。サムライ三十名、開拓者十名の警護で十日が過ぎ去る。
 十三日目には第一陣十名が村を去って第二陣と入れ替わる予定だ。
 喝破の作刀は中盤に差し掛かる。これからが真の佳境であった。


■参加者一覧
雪ノ下・悪食丸(ia0074
16歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ


■リプレイ本文

●鳥架村
 朝焼けの山間上空を航行していた中型飛空船はやがて下降を始める。着陸したのは武天の鳥架村。武天十二箇伝として有名な『長家』の長曽禰興里が住まう鍛冶の村である。
 泰国との友好に関わる刀を造る現在、鳥架村では不穏な空気が漂っていた。それを払拭するために開拓者ギルドに依頼が出され、たった今到着したのが第二陣に数えられる。第一陣は入れ替わるように飛空船へ乗船し神楽の都への帰路に就いた。
「んー‥‥嫌な予感がするんだよーっ」
 鍛冶工房に隣接する休憩用の家屋に案内された蒼井 御子(ib4444)は腕を組み首を傾げながら呟いた。
 上空から感じていたことだが大地を踏みしめてよりはっきりとする。依頼書にあった遠吠えこそ聞こえなかったものの鳥架村にいるだけで心が圧迫されるような気分に陥った。
「大蛇のアヤカシの件に続き、謎の遠吠えか。悪意を感じるな。しかも、でかい陰謀が絡んでいるようだ」
 雪ノ下・悪食丸(ia0074)が話していると室外から届く鋼を打つ鎚音が止んだ。まもなくお茶菓子と湯の沸いたヤカンを片手に喝破が現れる。
「遠路遙々ご苦労、警護をよろしくな。大蛇に邪魔されたら次は遠吠えときたもんだ」
 喝破は茶を淹れながら第一陣の開拓者達が護衛した期間に起きた出来事を語る。
「その夜になると聞こえる謎の遠吠えについてだが、村の者達はどうなのだ? やはり不安になっているのだろうか」
「そんな柔な奴はこの村にはいねぇな! ‥‥っていいたいところだが殆どがそうだろうな。俺も少なからずあるってのが本音だ。顔や態度に出さずに滅入っているのもたくさんいるだろう。俺に出来るのはギルドへの依頼と飯を豪勢してやるくらいしかねぇな」
 西中島 導仁(ia9595)の質問に喝破が顎の無精髭を左手で撫でながら答える。
「虫の知らせ、なんとなくでも勘というのはおろそかにできないもの。気になる点があれば教えてほしいです」
「一日を経るごとに遠吠えの時間が長くなっていたんだが、ここのところ短くなってる感じがするな。正確に計ったわけではないが」
 喝破が紙木城 遥平(ia0562)に湯飲みと一緒に第一陣の警備記録帳を渡す。
「失礼。警備の巡回経路はどのようになっていますか?」
「ちょっと待ってくださいね」
 宿奈 芳純(ia9695)に頼まれた紙木城が記録帳の頁を捲る。
 駐在している警備のサムライ達に混ざる形で第一陣は鳥架村を警護したようだ。つまりどの班にも必ず志体持ちがいる格好である。
 一人でも志体持ちがいればアヤカシに襲われたとしても暫しは食い止められる可能性が高まる。その間に応援を呼ぶつもりだったのだろう。
「私は伝令役を務めさせて頂きます。その前に一通り、確認させてもらいますね」
 ライ・ネック(ib5781)はお茶をごちそうになるとさっそく外に出た。地上だけでなく屋根の上などシノビの技を使って護りに隙がないかを確かめる。
 開拓者達はサムライの警護達との顔合わせをして本格的に鳥架村の警備を始めた。やがて太陽が山裾に姿を隠す。山深い鳥架村では平地よりも一足先に闇が訪れるであった。

●遠吠え
「聞こえる‥‥。これがきっとアヤカシの遠吠えだね。まるで心が抉られるような。北からかな?」
「そうですね。何とも不気味な叫びです。響きから察するとかなり離れているようですが」
 深夜。蒼井御子とライが巡回を控えて家屋にて夜食のかけうどんを食べていた時にアヤカシの遠吠えが届くようになった。
 その響きはそれぞれに巡回中の開拓者達の耳にも入る。
「これですか‥‥。失礼」
 紙木城は一緒に警備していたサムライ達から離れて櫓に登る。そして遠吠えの方向を探った。山間に反響していたものの大まかに北からだとわかる。昼間に仲間達と手分けして行ったサムライ達から聞き込みの内容とも一致していた。
 翌日、雪ノ下と西中島は休憩時に昨晩の遠吠えを話題にした。
「あの遠吠えの主が一連の首謀者だろうか?」
「そうかも知れないが、もっと裏に大物が控えているかも知れないな。ん?」
 雪ノ下と西中島は鎚の打撃音に鍛冶の家屋へと振り向いた。中には喝破と弟子数人がいるはずである。
「俺もいつかは、名刀を手に入れたいぜ」
「同じく、俺もだ」
 開拓者のサムライ二人は暫し鍛錬の鎚音に耳を傾ける。この積み重ねによって今まさに名刀が産まれようとしているのだと。
 昨晩、喝破に聞いたところによれば、もうすぐ被せと呼ばれる質の違った鋼を合わせる作業が行われるらしい。本来ならば刀身の頑丈さと斬れ味の良さは相反する。矛盾するはずの兼ね備えを可能にする技法こそが被せだという。
 遠吠えの不安を排除して喝破に助力したいと雪ノ下と西中島は決意を露わにするのだった。
 日が暮れて第二陣が到着してから二回目の夜。やはりアヤカシのものと思われる遠吠えが鳥架村に響き渡った。
「仰っていた通り、昨日よりも短くなっていますね」
 宿奈芳純は就寝しようと布団の中に入っていた。横になって目を開けたまま遠吠えを聞き終わる。
 短くなる間隔がこのままの調子ならば三日後に途切れる。
 折り返しになって遠吠えは再び長くなるのか、それとも脅迫の猶予が切れたことを示しているのか。開拓者達は最悪を想定して動くのであった。

●襲撃
 遠吠えがなくなるはずの夜が訪れた。
 駐留のサムライ達と開拓者達は日中の間に睡眠と休憩を済ませて全員が警戒に当たる。村人達はいつでも避難出来る状態で待機していた。
 この緊張状態の連続こそがアヤカシの思惑そのものかも知れない。手のひらの上で遊ばれている印象もあったが対策をしない訳にはいかなかった。
「まるでこちらの作業を見透かしているようだな。まったく、何て奴らだ」
 喝破が憤慨したのは被せの作業日に重なったからだ。
 作業など事情を知らない者にとっては予定を少しだけ遅らせればよいというだろう。しかしこれまでの作業のノリや気分なども確実に仕上がりへと影響する。特に精魂を込めた作刀においては。
 反対意見もあったが喝破は数人の弟子と共に作刀を続行。鳥架村では刀造りがすべてにおいて優先された。深夜に鎚音が響き渡る。
「霧ですか‥‥。これでは視界が悪くなってしまいます」
 村で一番高い木の上で耳を澄ませていた月下のライが呟いた。
 濃い霧が森の方角からゆっくりと流れてくるのを目撃したからである。霧の発生についてはアヤカシの仕業なのか自然現象なのかまではわからなかった。
 村の様々な場所で焚かれている篝火がぼんやりと霞みだす。
「まずいですね。この状況は」
 霧のせいで霞む灯火を眺めながら陰陽師たる宿奈芳純は気を引き締めた。はっきりしたものではなかったが瘴気による悪寒を感じていたからだ。
「えぇと、蛇がいたのってあっちだっけ‥? 木霊のせいですぐにはわからないかも知れないけど、集中さえすれば」
 蒼井御子は特に大蛇が現れた方角へと注意を向けていた。帽子を少し持ち上げて獣人の狐耳をそばだてる。
「あれは?!」
 アヤカシらしき存在の第一発見者は村外縁を巡回中する紙木城であった。
 霧の向こうから急速に迫るうめき声が鼓膜を震わせる。
 瘴索結界によって探知した印象ではアヤカシの可能性大。村の周囲を含めて様々な場所に準備してあった鳴子へと駆け寄って激しく打ち鳴らす。
 同行していたサムライ達には連絡のために村へと向かわせた。
 最初の襲撃は囮による陽動もあり得るので駐在のサムライ内に含まれる志体持ちは村内で待機する約束である。
(「単体ではなく複数?!」)
 突然に霧の中から現れた鋭い爪の引っ掻きを紙木城は避けきれない。だが予めかけておいた加護結界のおかげで深手を負うことはなかった。
 大木の太枝に跳び乗った紙木城は状況を推し量る。瘴気探知によって敵は三体だと感じたが攻撃を避けているうちに修正した。
 三体とも馬ほどの大きさの四つ足アヤカシなのだが、そのうちの一体に何者かが騎乗していたのである。つまり瘴気の存在は四つといえた。
 巨大な四つ足アヤカシ三頭にはそれぞれ攻撃に特徴があった。爪、牙、角と武器にする部位が違っていた。
「志体持ちの青年よ。関わりを持たないほうがいいと忠告したはずだよね。もしかしてあの場にはいなかったのかい? まあ、いい。君一人と遊び続けるわけにはいかないのでね。失敬」
「そちらは!!」
 アヤカシらしき人物は紙木城に話しかけると角の四つ足アヤカシに跨ったまま村を目指す。しかし咆哮の響きの後に霧の向こうで激しい火花が二回飛び散った。
「待たせてしまったな!」
 咆哮の主は西中島である。
「武天武士が蜻蛉に構えた時、それは相手を仕留める宣言」
 蜻蛉と鬼腕を発動させ、『珠刀「青嵐」』を構えていたのが雪ノ下だ。
 先ほどの火花は西中島と雪ノ下がアヤカシ等とやり合った時に生じたものである。サムライの二人は紙木城がいた場所の一番近くを巡回していた。
 三名になった開拓者は背中を合わせて言葉を交わす。簡単に作戦を決めると霧の中を駆け回ってアヤカシ等との戦いを本格的に始めた。
 四つ足アヤカシ三頭の動きは素早く、霧による視界の悪さも相まって捉えるのはとても難しかった。それでも西中島が咆哮によって引きつけたところで雪ノ下、紙木城と共に狙う。
 戦いの最中、アヤカシらしき人物の言葉で四つ足アヤカシの名が判明する。
 角の特徴を持つ四つ足アヤカシは『突猛嵐』。牙の特徴を持つ四つ足アヤカシは『砕猛嵐』。爪の特徴を持つ四つ足アヤカシは『裂猛嵐』と呼ばれていた。
 西中島が裂猛嵐の爪攻撃を刀の峰で受け流す。その直後、何かが落下しながら裂猛嵐の背中を切り裂いた。
「霧の中でこのアヤカシの動き、鼻が利くようですね。雪ノ下さんの後方に爪のアヤカシがいます! 角は西中島さんの右! 牙は紙木さんの真正面です!」
 落下してきたのは『忍刀「暁」』を携えたライ。暗視を駆使して敵の位置を把握し、叫んで仲間達へと知らせた。
「こちらにいましたか!」
「村はサムライの人達が警戒してくれているよっ!」
 数分後に宿奈芳純と蒼井御子も駆けつける。
 宿奈芳純はさっそく『結界呪符「白」』で壁を出現させて敵の逃げ道を塞いだ。ただ、四つ足アヤカシ三体はかなりの跳躍力がありそうなので越えられてしまうかも知れない。味方の追走を邪魔しないよう配慮する。
 さらに焙烙玉を使って突猛嵐に騎乗するアヤカシらしき人物の足止めを狙った。それは同時に村への合図にもなっていた。本隊らしき敵との交戦中といった意味だ。
「ここは夜の子守唄よりも精霊の狂想曲だねっ。いくよー、みんなよろしくね」
 木の枝に腰掛けた蒼井御子は詩聖の竪琴を奏でた。流れたのは精霊の狂想曲。周囲に潜んでいた精霊が荒れ狂って一斉にアヤカシ四体へと襲いかかる。
「なかなか面白い術を使うようですね」
 四つ足アヤカシ三体は精霊達の攻撃に身を震わせる。しかしアヤカシらしき人物はまったく動じていなかった。
「コレは、きっと間違いない、のだろうね」
 演奏を続ける蒼井御子の呟きを近くにいた宿奈芳純が耳にした。宿奈芳純も同意見である。
「いつまでも構ってはいられませんので。それでは」
「蝕め」
 宿奈芳純が黄泉より這い出る者を放つ寸前、アヤカシらしき人物は突猛嵐の背から飛び降りた。そして瞬く間に範囲外へと逃げおおせてしまう。その方角の先には鳥架村が存在した。
 幸いなことにそびえる白い壁のおかげでアヤカシらしき人物の足が一瞬だけ止まり、ライが追いつく。放たれた手裏剣は弾かれてしまうものの、さらに西中島と雪ノ下が追いつく余裕が生まれた。
 紙木城が上段から振り下ろした唐竹割によってアヤカシらしき人物が盾とした手甲が砕け散る。続いて西中島の刃がアヤカシらしき人物の袖を切り取った。
「なるほど‥‥。ここまでの手練れでしたか。遅くなりましたが、私はアヤカシの『御怨』(みおん)。また会うこともあるでしょう。以後お見知り置きを。この度はこれにて」
 御怨を四つ足アヤカシ三体が囲んだ瞬間、嵐のような突風が巻き起こる。収まった時には姿が消えていた。
 もしやと考えた開拓者達は急いで村へと戻る。だが何事もなく村は平穏で肩透かしを食らう。
 霧が消えかかる夜の鳥架村では喝破による鎚の音が響き続けるのだった。

●そして
「おかげで刀造りも順調だ。あれから遠吠えは聞こえなくなったしな」
 第二陣が到着してから十日目。喝破は酒宴の席を用意してくれた。
 霧中での戦いの後、アヤカシの遠吠えはぴたりと止まる。だからといって危険が去った訳ではないのだが、脅迫に似た漂う雰囲気は一掃された。作刀の被せもよい手応えで終わって喝破は上機嫌である。
 開拓者達が話題にしたのは戦ったアヤカシについて。特に人型のアヤカシ『御怨』は印象に残っていた。
「きっと中級以上、かあ‥‥」
 蒼井御子は山の幸を頂きながら天井を見上げる。
「御怨の名、覚えておこう‥‥」
 焼いた猪肉を頬張る雪ノ下は戦いにおける御怨の動きを思い出す。
「全力は出していないように思いましたよ」
 紙木城は御怨が手を抜いていたように感じていた。
「あの四つ足の三頭だけなら何とでもなったのだがな」
 西中島は椀をじっと見つめた後で中の汁と具を飲み干す。
「あの素早さ‥‥尋常ではありませんね」
 宿奈芳純は箸を止めて呟いた。
「配下も突猛嵐、砕猛嵐、裂猛嵐の三頭だけではないと考えます」
 ライはおかわりしたご飯を腹の中に収めてから仲間達に答える。
 翌朝、第二陣の開拓者達は第三陣を連れてきた飛空船へと乗り込んで神楽の都への帰路に就いた。
 第三陣の滞在期間は平穏そのもの。喝破は刀身を無事完成させたのだった。