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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 武天は天儀本島最大の国土を誇る。それ故に様々な景色を持つ。 西部の非常に長い海岸線。また首都の此隅も含まれるが、山岳部も多く存在する。平野部も広大だ。 国にとって豊かな食料が非常に重要なのは誰に説かれなくてもわかる道理である。平野部に限ったものではないが穀物地帯の維持発展に巨勢王は心を砕いていた。 施策の一つとして治水事業がある。水害を少なくするのと同時に豊かな農地を作り上げるのにとても有効なものだ。 武天のある山岳部で用水路を作り上げる為の掘削作業が行われていた。かなり大がかりなものであり、半年に渡る従事者はのべ二万人にのぼる。 山の一つをくり貫いて水を引けば、これまで無用の草原地域を田や畑に出来ると考えられていた。 完成まで後一ヶ月をきり、もうすぐと思われていた頃に大変な事態が起こる。落盤事故が発生したのである。今までにない程の酷いものが。 「それはまことか!!」 事故が発生した頃、巨勢王は現場近くの街を視察していた。半日の後に一報を聞くと臣下に街の視察に関する雑務を任せて視察専用の中型飛空船へと乗り込んだ。念の為に連れてきた護衛の開拓者達と共に。 「急げ! 生き埋めにされた者がいると聞く。今ならまだ間に合うかも知れんぞ!」 操船する配下の者を巨勢王は急かせる。 一同を乗せた中型飛空船が現地近くに着陸したのはそれから約三十分後であった。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
水波(ia1360)
18歳・女・巫
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
鬼限(ia3382)
70歳・男・泰
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
佐竹 利実(ia4177)
23歳・男・志
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
物部 義護(ia9764)
24歳・男・志
此花 咲(ia9853)
16歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●到着 大空から降りてきた中型飛空船によって芽吹いたばかりの草原が波打つ。 着地する前に梯子も使わず乗降口から飛んで大地に降りたのは巨勢王。開拓者達も習って次々と飛び降りる。 坑道を掘っている位置は遠くからでもすぐにわかった。非常にうっすらとだが未だに土煙が山肌の一部を覆うように広がっていたからだ。事故の深刻さを物語っていた。 「むぅ、落盤か」 西中島 導仁(ia9595)は煙い坑道の出入り口を見つめる。内部に入って生き埋めとなっている者を救出しようとしていたところに現場の責任者が姿を現す。 「どのようになっておるのだ? 特に救出作業が行われている様子は感じられないが?」 「それはその、二次災害の危険が大きく対策を練っていた途中でして――」 巨勢王が現場の責任者に詳しい状況を訊ねる。状況は深刻で行方不明者は十二名。掘られた最奥まで落盤しているとは考えにくく、おそらく何人かは閉じこめられているだろうと推測されていた。 (「‥‥こういう時こそ、慎重に迅速に」) 無月 幻十郎(ia0102)は周囲の状況を眺めながらも巨勢王と責任者の会話に意識を向ける。些細な情報と思われるものでも後々になって重要なものだと気づく時もあるからだ。 「殺めず傷つけず国益を成す、戦しか能の無いわしなぞより余程上等で尊い御仁らじゃ。断じて落盤などで散らせて良い命では無い‥‥」 鬼限(ia3382)は真っ先に現地の何処に怪我人が収容されているかを調べる。そして巫女である水波(ia1360)を連れてゆく。 「こちらの方ですね。全力を尽くしましょう」 呻く重傷患者の前で水波は踊る。神風恩寵による風の精霊の力によってまずは命を繋ぎ止めるように努めた。 包帯などの仲間から集めた分も合わせて治療に役立ててもらう。まだ怪我した全員の治療は完全に終わっていなかった。 「こりゃ大変。あっちもこっちも慌ててなさる。それにしても春が近いというのに冷えますねぇ」 真珠朗(ia3553)も怪我人の様子を心配する。比較的軽い怪我とはいえ寒空の下で待機させられている者が多くいた。まずはあり合わせの材料で担架を作るつもりだったのだが、その前に焚き火を熾す。暖がとれるだけでも気持ちが休まるというものだ。 「ここにいらしたんですかい? 私は先にひとっ走りして見て来たんでさ」 これから坑内に入ろうとした矢先、風鬼(ia5399)が奥から現れる。ひとっ走りして先に様子を確認してきたのだという。 落盤の跡は酷い有様だが、死亡者も含めて見える範囲に被害者は残っていなかったと風鬼は説明する。 「それは聞き入られぬ」 多くの開拓者達が外に留まる事を進言したものの巨勢王は意に介さない。これまでずっと先頭に立ってきたからこそ武天の氏族をまとめる事が出来、また民もついてきたという自負が巨勢王にはあったからだ。 生き方を変えるという事は死ねといっているのと同じだと巨勢王は笑い飛ばす。 現場の責任者を含めた何人かの作業従事者と共に巨勢王と開拓者達は坑道へと足を踏み入れた。 「ぬぅ、これは大惨事だな」 喜屋武(ia2651)は落盤の現場を見て呟く。 輝きを放つ宝珠に照らされているおかげで闇に惑わされる事はなかった。土煙が漂っていたものの落盤そのものは前もっての情報の通り、かなり落ち着いている。ちなみに喜屋武は鉱石採掘を取り仕切る氏族出身者であるのでこういう場には慣れていた。 「この明かりは心強いですね。冷静に、かつ迅速にいきましょう!」 此花 咲(ia9853)は仲間と作った担架を隅に置いて準備を整える。動けない怪我をした行方不明者が見つかったのなら使うつもりで担架は念の為に四つ用意しておいた。 「反応無し! 作業開始だ!」 佐竹 利実(ia4177)はさっそく心眼で落盤の方向に人がいないかを確かめた。これから先も定期的に仲間と協力して心眼で探りながらの作業を行う予定である。 救出作業が開始され、坑道を塞いでいる土砂や岩が取り除かれてゆく。 「落盤は収まっているようですが、安全をはかりながらやりましょう」 物部 義護(ia9764)は動ける作業従事者達と一緒に土砂や岩を滑車を使って外に運んだ。 今は一刻を争う故に土砂を取り除いてゆくので精一杯だが再度の落盤も心配だ。坑道内部の半円状にそって石材を積み上げてゆく工法がとられていたが、今は土嚢袋で補強してゆく他ない。 再度の落盤の兆候はみられなかったが、危険と背中合わせの救出作業が続けられるのだった。 ●息苦しさ 坑道の先すべてが落盤で埋まったとは考えにくく、閉鎖空間に閉じこめられた作業従事者は少なくないと考えられていた。閉鎖空間に一体何名が生存しているのかはわからないものの、空気に限りがあるのは確実だ。 他にも危険な要因は考えられたが、まずは窒息死する前に助け出さねばと巨勢王と開拓者達は汗を流して力を振るう。 ツルハシなどの掘削道具を手に落盤の土砂と直接格闘していたのはサムライである無月、喜屋武、西中島、巨勢王の四名。岩が邪魔な時には強力による筋力増強によって破壊してゆく。力のバランスを考えてここは志体持ちのサムライだけの務めとなる。 心眼による生存者探索と土砂運搬を任されていたのが志士である佐竹利実、物部義護、此花咲の三名。泰拳士とシノビである鬼限、真珠朗、風鬼の三名は土砂運搬と坑道の補強に尽力していた。 軽傷までの生き残った作業従事者達も懸命に手伝う。仲間の命を救う為に。 水波は坑道の外で後方で治療にあたっていた。生死に関わる緊急を除き、新たに救出される者がいるのを信じて力は温存される。いざという時に使えないのでは話にならないからだ。 突貫の救出作業は日が暮れても続いた。 交代でわずかな休憩をとり、その際に握り飯で腹を満たして再び作業に戻る。 作業こそは続いていたがだんだんと口数が少なくなり、やがて無言での掘削作業となってゆく。さすがの巨勢王でもそうである。 光明の変化が起きたのは真夜中。 「一人‥‥います」 物部義護が心眼により落盤の土砂が積もっている箇所で、人らしき存在を探し当てたのである。 心眼が使える者全員で再確認をした上で集中的に土砂が取り除かれてゆく。しばらくして大きな岩の重なりが発見された。一人の潰された死体と共に。 「いや、心眼でわかったのはこの者ではないぞ。別にいるはずだ」 佐竹利実は岩の隙間をのぞき込む。そして蚊の鳴くような声に気がついた。 「ここか! おい! 生きていたら返事をしろ!」 喜屋武が腹這いになりながら顔を岩の間へ突っ込んで叫び、耳を澄ませる。 「‥‥‥‥た、すけ‥‥て‥‥‥‥」 その場にいた全員が行方不明者の声を聞いた。誰の顔にも力強さが甦る。 「ちょっくら行ってきますさぁ。すぐに戻ってきますんで」 風鬼は早駆を使って外で治療にあたっている水波を呼びに行く。まだ時間がかかりそうなので救出後に担架で運ぶより、あらかじめ水波を呼んでおいた方がいいと考え直したからだ。 「ゆっくりと、ゆっくりとだ。そこ滑るぞ」 「王よ、右へ動くぞ」 巨勢王と西中島は二人で重なっていた一番上の岩を持ち上げて移動させる。 「手が見えた。岩と岩には挟まれていない様子。外見からは大きな傷は見あたりませんね」 宝珠の明かりが届きにくい位置だったので無月が肩で岩のつっかえをしながらランタンで隙間を照らす。 「もう大丈夫です。もう少し手を伸ばして」 小柄な身体の此花咲が潜り込み、行方不明者を岩の間から引っ張り出す。抜けたのを確認したところで無月が退くと上に乗っていた岩が転げ落ちた。 「任せて下さい。必ず救います」 水波はすぐに舞い、重傷の行方不明であった者に神風恩寵の風を送る。そしてひとまず安心できるところまで回復させてから外に運び出した。 その任は鬼限と真珠朗が受け持つ。 「よかったですねぇ。助けられる命ってやつで」 真珠朗が包帯を巻き終えたところで救出者を担架へと乗せた。 鬼限はすでに亡くなっていた行方不明者に手を合わせてから担架の片側へ手をかける。そして真珠朗とタイミングを合わせて担架を持ち上げた。 「まずは一人目じゃ。まだ奥に生存者はいるだろうて」 鬼限は外の篝火に向かって坑内を歩きながら真珠朗に話しかける。 遺体も丁重に運び出され、掘削作業は続行されるのであった。 ●救出 最初の救出から一時間後に残念ながら二人の遺体が発見される。 その頃になると坑道の奥にいる多数の生存者が心眼によって確かめられる。 その数八人。行方不明と考えられていた全員である。 奮起した一同だが、最後の難関として巨大な岩が行く手に立ちふさがっていた。無理に退かせば再度の落盤を引き起こしかねない程の大きさだ。慎重な行動が求められた。 協議の末、まずは柔らかい土の部分を掘って細い穴を貫通させる。 「大丈夫か! 全員無事なのか?」 「酷い怪我をしているのが一人。あとは軽い怪我をしている」 西中島の訊ねに答えが返ってきた。疲れた様子ではあったものの、はっきりした物言いで救出しにきた一同は安心する。 「どうするべきか‥‥」 喜屋武はツルハシを杖にしながら考え込む。皮肉な話だが巨大な岩が坑道の天井部分を支えている可能性が高かった。無理に退かせば再度の落盤が起こるかも知れない。 喜屋武は自分の考えをその場の全員に伝えた。 相談の上、酷い怪我をしている者が心配なものの、ここで焦っては仕方がないと結論が出る。 「せっかくの差し入れだ。落としちゃいけませんで」 真珠朗が棒の先に袋をくくりつけたものを穴へと差し込んだ。まずは通じた穴から治療用具、さらに水とおにぎりが送られる。 巨勢王と開拓者達は作業従事者達と相談を繰り返す。そして天井部分への支えを用意した上で、岩を砕いて突破する案がまとまった。 「かなりの数を運ばなくては」 佐竹利実は太い丸太を担いで坑道内に運び入れる。多くの作業従事者、他の開拓者達も手伝う。 「ここでいいかねぇ?」 無月は丸太を組む際に手を貸す。 「そんなもんじゃ」 鬼限は丸太の組み合わせ部分を縄で縛っていった。 「早さが肝心でさ」 風鬼は高所を飛び回って丸太の接合部分に長い釘を打ち付ける。 「そうなのか。すぐにまた会える。もう一がんばりだ」 物部義護は穴を通して閉じこめられている者達と会話を続けた。常に奥の状況を知りたいのと閉じこめられた人々を元気づける為だ。 「今は全力を尽くしましょう」 「そうですね。ここから癒すのは難しいので。突破出来たのならすぐにでも」 此花咲と水波は治療に備えて様々な準備を整える。坑道の中と外、両方で。 補強が終わり、岩を砕く最終段階に入る。 無月、喜屋武、西中島が岩の前に並んだ。 「皆の者、力を貸してくれ!」 散々止められたのだが、やはり自分もやるといって巨勢王も岩の前に立つ。手にはとても太くて頑丈な鉄棒。全力をもって一気に巨大な岩を砕いてゆく。 酷く振動したものの、組まれた丸太の補強のおかげで坑道の天井は持ちこたえた。 土煙が舞う中、通り抜けられそうな隙間が見つかる。佐竹利実、物部義護、此花咲、鬼限、真珠朗、風鬼が中に飛び込んで救出を開始する。 鬼限と真珠朗は重傷者を担架へと乗せて真っ先に運ぶ。佐竹利実、物部義護、此花咲、風鬼も体力が尽きかけていた者を背負ったり担架へ乗せたりして外へと連れ出した。 準備を整えていた水波は重傷者が運ばれてきた瞬間に治療の舞いを踊るのだった。 ●そして 落盤の土砂の下から発見された死者は計三名。奇跡的に岩の狭間で発見された者が計一名。そして閉鎖された奥の坑道で生存していたのが計八名。 行方不明者だった全員が発見される。そして重傷者二名の命は取り留められた。 すべての予定を取りやめて巨勢王は現地に数日間滞在した。当然ながら開拓者達も一緒に。 落盤の原因は坑道の上部にあった水脈にあった。溜まっていた水が何かの拍子で抜けて陥没。その勢いが伝わって坑道の落盤を引き起こしたというのが真相のようだ。落盤事故の半日程前に比較的近くの崖の斜面で大量の水が吹き出したのが目撃されていた。 補強が完全に行われてから掘削作業は再開される運びとなる。 開拓者達は現地の状況を確認しながら身体を休めた。それが巨勢王の指示であったからだ。 「失わないで済んだ命は救えたはず。思わぬ事態であったがよくやってくれたぞ」 帰りの飛空船の中で巨勢王は感謝の言葉を開拓者達にかける。 武天の都、此隅に戻ってからも開拓者達は城で数日間持てなしを受けた。巨勢王の趣味である将棋の相手もさせられたのだが。 かなりの無理をした開拓者達だが、それなりに回復したところで神楽の都へと戻るのであった。 |