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■オープニング本文 前回のリプレイを見る シノビらしき賊等に襲われた武天の王、巨勢宗禅の幼い娘『綾姫』。 調査を進めてゆくうちに彼女が持つ母の形見である宝珠を賊が奪おうとしていたのではないかという推測が成り立った。 お守りの宝珠によって投影された地図がどこかを確かめる為に調査が行われる。 過程で地図の真実を確かめようとする別の集団の存在が浮かび上がる。綾姫を襲った賊と考えられ、また巨勢王側の情報が筒抜けになっているとの疑いが濃厚となった。 蔵書家の矢文遠野が所有していた文献『古地遙々』は、屋敷を襲撃した賊によって奪われた。しかし開拓者の機転で一部の頁は残る。照らし合わせてみると宝珠の地図は理穴のどこかだと判明する。宝珠の投影で浮かび上がる地図と表記の一部が一致したのである。 これまで経緯から巨勢王臣下の中に裏切り者がいる可能性が大いに膨らんでいた。そこで巨勢王は絶対の信頼を置く臣下のみに開拓者達の調査結果を精査させる。 しばらくして巨勢王と綾姫に報告があがった。それによれば地図が指し示していた位置はすでに魔の森へと飲み込まれた周辺であるという。 調査続行を諦めようとした矢先に一報が入る。 以前の緑茂の戦いによって魔の森との境界線が押し戻され、おかげで瘴気の一帯から外れて現在は立ち寄る事が可能になっていた。 開拓者達は巨勢王の命によって理穴東部にある『仁良』の町跡へと赴いた。そして長く隠されていた鉱山だったことを突き止める。 亡くなった巨勢王の妻、綾姫の母でもある『紅楓』は、理穴の王族『儀弐家』の血筋。お守りの宝珠に莫大な財宝の隠し場所が隠されていたとしても不思議はなかった。 鉱山の奥に存在していたのは精錬された金ではなく、地下水脈によって自然に堆積した砂金。その量は半端なものではなかった。 仁良は隠し鉱山と同時に罪人を集めた労働収容所の意味合いを持っていた。そのことを謎のシノビの首魁女によって告げられた綾姫は驚きを隠せなかった。母の形見であるお守りの宝珠は首魁女の先祖が儀弐家に贈ったものだという。それが巡って綾姫の手元にあると。実際、首魁女も対となる宝珠を所有。鉱山の奥に二つの宝珠が辿り着くと砂金が開放される仕掛けになっていたのである。 生還後、綾姫と開拓者は巨勢王にすべてを話す。巨勢王は理穴の王『儀弐重音』に連絡をとった。そこでかつて仁良の管理を任されていた氏族が『鳥島家』だと判明する。 すでに鳥島の家系は途絶えていた。果たして首魁の女が本当に鳥島家の末裔であるのかには疑問が残るものの、それを否定する証拠もなかった。仮に『鳥島シノビ』と呼ぶことになる。 今後の採掘再開は別にして、仁良鉱山奥に自然堆積した砂金については大方が決着した。理穴、武天の首都へと綾姫指揮の元で無事砂金が運ばれたからである。 配分の比率は理穴七に対して武天が三。これに合わせて理穴側が武天建造の飛空船を購入することが決められていた。アヤカシへの対策として武天からはすでに理穴へと派兵が行われているのでその一環といえる。 理穴の首都、奏生への空中輸送の際に襲ってきた鳥島シノビに関しては撃退。敵飛空船六隻中四隻を轟沈させる。残る二隻については行方不明であった。 「のう、父様」 武天の都、此隅。綾姫は父である巨勢王と共に城庭を散歩していた。色づき始めた紅葉を鑑賞するために。 「砂金を奪おうと襲ってきたきゃつらが本当に理穴氏族の末裔、鳥島一族かどうかはわからぬが、これで終わりとは思えぬのじゃ。砂金奪取はあくまで手段であって目的ではない。理穴を、否、儀弐家を滅ぼすことこそきゃつらの悲願なのじゃから」 「そうはいってもな、綾姫よ。理穴は友好国とはいえこれ以上は内政干渉に当たろう。武天内ならともかく他国で勝手は出来ぬ」 綾姫は巨勢王から久しぶりに肩車をしてもらう。 「元はといえばこの形見の宝珠が切っ掛けなのじゃ。‥‥あの首魁の女にとってはもう奪う意味はないのじゃろうな」 「そうであろう。そうであって欲しいものだ」 綾姫は巨勢王との会話の中でふと思い出した。首魁の女が持つ宝珠と形見の宝珠が近づくと輝き出す性質を。 砂金を開放する鍵としての役目は終えたといってよいが、逆に鳥島シノビを追い込む術になりはしないかと考えを巡らす。 「鳥島シノビにはもう関わろうとはせぬ。わかったのじゃ、父様。ただ、今一度理穴の奏生に行ってみたいのじゃ。砂金を届けにいったときは楽しむ時間の余裕がなかったのでのう」 「理穴のどこかに鳥島が隠れているやも知れん。それは奏生とて同じこと」 渋い表情をした巨勢王だが愛娘には弱かった。観光だと念を入れた上で旅の許可を出す。護衛として開拓者をつけるのも約束の一つだ。 (「あの首魁の女がこれと同種の宝珠に拘りを持っているのならば‥‥それが逆に自分を首を絞めることになろうて」) 綾姫は首魁の女が奏生内に身を隠していると考えていた。何故なら儀弐家滅亡を狙うのならば、危険があってもあの地でなければ果たせないからだ。 もう狙われなければよいのではない。自分の命と形見の宝珠を狙い、また亡くなった母『紅楓』を嘲笑した首魁の女を野放しにするなど綾姫の自尊心が許さなかった。 良くも悪くも綾姫は父である巨勢王の性格によく似ている。当の巨勢王は娘のことになるとからっきしの弱気になってしまうのだが。 綾姫が奏生見物に向かうのはもうすぐであった。 |
■参加者一覧
雪ノ下・悪食丸(ia0074)
16歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562)
19歳・男・巫
水波(ia1360)
18歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
将門(ib1770)
25歳・男・サ
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● 天儀本島北部に存在する理穴の冬はとても厳しいものがある。 凍える寒さの真夜中零時。綾姫は武天の此隅から、開拓者十名は神楽の都にある精霊門を通って理穴の首都、奏生にて合流を果たす。 歯の根が合わない状況で朝まで野外で過ごすのは綾姫の身体に障ると考えた開拓者達は宿を探した。深夜に叩き起こして無理をいった手前、宿の主人に多めの金子を渡して数日間の寝床として部屋を借りる。 一同は冷え切った身体を温めるために宿の主が用意してくれた鮭煮込み鍋を囲炉裏端でつついた。 談笑の中、綾姫の表情が気になった鈴木 透子(ia5664)の一言で雰囲気はがらりと変わる。 「本当のことを話して下さい。気もそぞろなご様子からして観光ではなく他の何かを計画なされているのでは?」 綾姫は箸の動きを止めた。 「‥‥実はのう、奏生見物は方便なのじゃ。何度も煮え湯を飲まされた鳥島シノビの首魁に鉄槌を食らわせたいのう。わらわの想像に過ぎぬが、きゃつらはこの奏生に潜伏しているに違いない。捜しだして捕縛する‥‥難しいのであれば成敗しても構わん。すべてはわらわが責任を持つ」 瞳の奥で光を放ちながら綾姫は真意を語る。 (「自らの手での幕引きを求めるか‥‥」) それとなく想像がついていた将門(ib1770)は黙ったまま一同のやり取りに耳を傾ける。意見を述べるのはその後からでも遅くはない。 「また思いきったものだねー、綾姫様も」 「迷惑をかけるやも知れんが頼む」 蒼井 御子(ib4444)は綾姫の気持ちに感心しつつ迷惑などと思っていないと首を横に振る。 「綾姫様の御身はこの俺にお任せを。この悪食丸身命を賭してお守りいたします」 「つものように期待しておる。頼んだぞ雪ノ下、いや悪食丸よ」 雪ノ下・悪食丸(ia0074)に自ら鍋からよそった器を綾姫は手渡す。こんなことしか出来ぬがすまぬと一言添えて。 「最後までお手伝いさせていただきます、綾姫様」 「お願いするのじゃ」 水波(ia1360)は父親の巨勢王とよく似ていると思いながら綾姫に応えた。 「さらなる変装が必要でしょうね。姫様の容姿を覚えているシノビもいるでしょうし」 「顔の化粧と髪型で印象を変える必要がありそうじゃな」 紙木城 遥平(ia0562)は大店の娘といった感じに綾姫を変装させようと提案して本人に受け入れられる。紙木城自身は随行する使用人の格好をするつもりである。 「どのような敵なのか、教えて頂けるでしょうか?」 「それもそうじゃな――」 この依頼で初めて見知ったジークリンデ(ib0258)のために一通りの説明が行われた。鳥島シノビと首魁の女がこれまでどのように綾姫と関わってきたかを。 「集合場所はこの宿でよいとして」 「綾姫護衛と情報収集の二手に分かれるのがよいですね」 ライ・ネック(ib5781)と宿奈 芳純(ia9695)は具体的な捜索方法を提案する。 「晴らせるとよいな」 「うむ。力を貸してたもれ」 西中島 導仁(ia9595)は綾姫と目が合うと強く頷き合うのだった。 ● 日が昇り、綾姫一行はさっそく奏生内を探ることにした。 鳥島シノビが潜伏しているというのは綾姫の勘であって根拠があるわけではなかった。それでも力を貸してくれる開拓者達に綾姫は心の底から感謝する。 女性陣の手を借りて髪型を変更し、薄い化粧を施された綾姫は別人のようである。背を誤魔化すために裾の下には高下駄も履いていた。 「これほどたっぷりの蜂蜜を使ったものは初めてなのじゃ♪」 甘味処に立ち寄った綾姫は数々のお菓子に笑顔を零す。同行の開拓者達が先に食べてから綾姫が食す。 「今日最後の予定の紅葉の綺麗なところにも美味しい饅頭があると宿主人がいっていました。そちらは樹糖入りのようですが」 「お〜♪」 特に紙木城は綾姫の毒味役を回数多く引き受けてくれた。 「食材の質と菓子職人の腕前、どちらが欠けてもこの味は出せないでしょう」 もしものために解毒を心得る水波も一緒に行動する。 散策は飛空船の発着場にも立ち寄る予定になっていた。鳥島シノビが移動に便利な飛空船を手放しているとは思えず、それならば奏生のどこかにあるに違いなかった。偽装や格納などの隠蔽工作を施しているだろうが。 (「この店の裏口は‥‥厨房を通ったところにあるな」) 雪ノ下は事前に用意した安全な食事で済ませたかった。しかし喜んでいる綾姫の姿を見て考え直す。自らはいつ何時、敵に襲われても綾姫を連れ出せるよう気を配る。 「奏生にも魔の森を追われた難民が集まっていると聞いたのですが――」 鈴木透子は看板娘に心付けを渡して最近の奏生の様子を教えてもらう。外からやってきた者達がどの辺りに集まっているのを知るために。 「次は城が綺麗に見える高台だな」 西中島は紙木城に支払いを任せると暖簾を潜って一番に外へと出た。往来の中に怪しい人物がいないかどうか目を光らせるのだった。 ● 綾姫一行とは別に単独で探る開拓者もいる。 「こちらを包んでもらえるでしょうか?」 外套に身を包んだ宿奈芳純は街の各所で品々を購入する。 鳥島シノビに対してをすべて秘密裏に終わらせられた場合、巨勢王に怪しまれないよう観光をしてきたと思わせる状況が必要だ。そこで宿奈芳純はお土産物を購入していたのである。 「奏生は綺麗ですね。観光に来てよかったです。ここまでよいところですと逆にいえば見所ではないところは‥‥あるのでしょうか?」 宿奈芳純は売り子と世間話をして探りを入れる。奏生で暮らそうと各地から人々がやって来ているのは確かだった。 ● (「儀弐家の方々が住んでいたのがここなのですか‥‥」) ジークリンデが訪ねていたのは儀弐家縁の屋敷である。 儀弐家が街中に用意した隠れ家だが今現在は使われていない。重要な秘密会談に使われたとの逸話が残っていた。 管理については奉行所が行っており、現在でも一般人が立ち入れるのは一部区画のみ。大半は国が利用しているのだが実体は明かされていなかった。 ジークリンデは時間が許す限り、ここで出入りの者の監視を行おうと考えていた。 ● 昼間から酒場を点々と梯子していた将門が立ち寄ったのが二八蕎麦の屋台である。強烈な鰹出汁の香りに惹かれたせいもあったが、酒盛りの男達が楽しそうに歌っていたのが一番の理由だ。 酒を奢りながら『胡散臭い新顔はいるか?』と一人に訊ねると『お前がそうだ』と言い返される。違いないと将門は一緒に大声で笑い飛ばした。 冗談は別にして新顔が増えているのは確かなようだ。様々な職に属する者達が口々に新人を話題にする。 理穴西部の魔の森が縮小傾向にあるので、安心した者達が戻ったりして人口が増えてきているのだろうというのが彼らの見解だ。 (「精査しないといけないが」) 鳥島シノビの輩がそれらの人達に混じって奏生に潜り込んでいると将門は想像する。 酒饅頭が美味しいとの評判のお店を教えてもらった将門は宿に土産として持ち帰る。非常に綾姫が気に入り、滞在中何度も店に足を運んだ将門だった。 ● 「これは美味しいね。ついついたくさん食べてしまうよ」 蒼井御子は広場の片隅で甘栗を食べながら吟遊詩人達の唄に耳を傾けていた。詩は色恋を語るものだけでなく、世相を現す内容も混ざっているものである。 同じ吟遊詩人として現状の奏生を知る上でこれ以上の情報源はないと蒼井御子は踏んでいた。 場所を変えては詩人達の唄を聞く。感銘を受けたり有益な情報をもたらしてくれた詩人にはいくらかの金子を置いてゆく。 (「これは‥‥」) 蒼井御子は一人の詩人が気にかかる。出てくる地名や人物名は違うものの、どう判断しても鳥島一族の歴史を語っているとしか思えなかったからだ。 後をついてゆき、怪しい詩人の棲家を探しだしておく。それは以外なことに材木問屋であった。 ● (「ここですか?」) ライが市女笠を持ち上げて眺めたのは油問屋。屯所などで街の情報を収集する際にこちらの噂を耳にしたのである。 主人がしばらく世間に姿を出しておらず、また殆どの人足が入れ替わったともいわれていた。 もう一つ気になったのが問屋は問屋でも米問屋。こちらも油問屋と同じような状況であった。 ライは宿に戻ると仲間達も様々な経路から多種多様の問屋の噂を入手していた。 敵国を陥落させるのに必ずしも刀剣や槍、弓矢が必要な訳ではない。経済を牛耳るのも一つのやり方だ。 実際、鳥島シノビの首魁の女は大量の砂金を得ようとしていた。その砂金を使って武器を購入し兵を雇い、儀弐家を攻め滅ぼすやり方もある。だがもしかすると砂金を使って理穴の経済を混乱に陥れて傾国に導こうと画策していたのかも知れなかった。 ● 数日間の調査の上、綾姫一行は首魁の女がいるであろう場所をいくつかに絞り込む。 どれも商いを仕切る屋敷ばかり。材木問屋、呉服問屋、米問屋、油問屋、飛脚問屋、酒問屋の六ヶ所だ。 材木問屋は蒼井御子が追っていた吟遊詩人が関わっていたところから。 呉服問屋は鳥島シノビの偽装飛空船を所有している疑いから。 米問屋と油問屋は内部の人間の入れ替わりの激しさから。 飛脚問屋は外から入ってきた者達に中心に行われていた募集の怪しさから。 酒問屋は水で薄めた酒が売られているといった噂から。 どれも確固した証拠があるわけではない。鳥島シノビとは別の悪徳の可能性も残っていた。 綾姫は調査の途中から宿と繁華街を往復して補助的な情報収集のみとしてきた。 宝珠の輝きが反応したら、それは首魁の女に綾姫の接近が知られたのと同義だという鈴木透子の主張に納得したからである。 その代わり宝珠を開拓者の誰かに預けることはせず、荒事の場に自ら向かうのを綾姫は譲らなかった。 宝珠が輝くかどうかを確かめるのは深夜。すべてを一晩で回らずに二個所に留める。 問屋の外周を歩いて綾姫が持つ宝珠が輝くかどうかを確かめた。決行の一日目は酒問屋と油問屋を回ったが反応なし。雪ノ下が綾姫を背負い、シノビのライの導きによって庭まで潜入して確かめたが宝珠は輝かなかった。 決行の二日目。この日は飛脚問屋と呉服問屋を確認する予定になっていた。 まずは飛脚問屋を一日目と同じように探ってみたが宝珠に反応はなし。そして次に向かった呉服問屋の北側外周の路上にて綾姫が立ち止まった。 「いるのじゃ‥‥。大して離れていないところにあの女狐が」 「首魁の女ですね」 激しく輝く宝珠のお守りを握りしめた綾姫は一番近くにいた雪ノ下の顔を見上げる。その声は当然、他の開拓者達の耳にも届いた。 「速攻だな。正体がばれないうちにすべてを片づけよう」 大振りに片手を構えた将門から仲間達が数歩離れる。 将門は木製の塀へとあっという間に筋を入れて蹴飛ばした。するとまるで最初から切り込みがあったかのように塀の一部が外れる。 「さあ、こちらに!」 西中島は雪ノ下と同じく綾姫の護衛を担っていた。 首魁の女を捜す頼りは綾姫が持つ宝珠。より輝く方向へと雪ノ下と西中島に守られながら綾姫が庭を駆ける。 一同が鯉の泳ぐ池の橋を渡る途中、屋敷の方から笛の音が鳴り響く。首魁の女も宝珠が光ることで綾姫側の存在に気づいたのである。 (「うまくかかったようです」) 鈴木透子は路上で宝珠が輝いたのを知った瞬間に夜光虫を出現させていた。 輝く夜光虫は暗がりで目立つ。それぞれ別方向に飛ばした夜光虫を鳥島シノビの下っ端が追いかけていた。 「ここを塞いでおけば」 池の橋を渡り終わると宿奈芳純は立ち止まり、結界呪符「白」で出現させた白い壁で通り道を次々と塞いでいった。追ってくる鳥島シノビが花壇や池の中を通らなくてはならないように。 「もう突入がばれてしまいましたので構いませんわね」 宿奈芳純と共に足を止めたジークリンデはブリザーストームを唱え始めた。そして多勢の敵に対して吹雪を見舞うと中には姿勢を崩して池へと落ちる者もいた。 「綾姫様、ここは任せて先に行って!」 屋敷へ辿り着くと蒼井御子は詩聖の竪琴で夜の子守唄を奏でた。駆けて迫ってきた敵が牛歩となり、最後にはへたり込んで眠ってしまう。 「俺もここで食い止めよう」 眠りに抵抗する敵もいるかも知れず、それらに対処するためにサムライの西中島は蒼井御子と共に縁側と繋がる廊下付近に残った。 足止めに残った以外の者達が襖を開けては抜けて奥へと進んだ。より宝珠の輝きが強くなるように。 ライは途中から天井裏へと登って別行動をとる。かなり接近したので超越聴覚によって首魁の女の移動を耳で感じられるようになったからだ。 「念のためです。失礼します」 「助かるのじゃ」 紙木城は事前に綾姫へと加護結界をかけてあったが、廊下の角でわずかに立ち止まった瞬間にかけ直す。 激しい物音が聞こえる方向を目指すと、ライが首魁の女、配下三名と戦っている真っ最中であった。 綾姫を護衛を仲間に託した将門は隼襲の俊敏さで参戦した。 「よく頑張りましたわ」 将門が敵側の勢いを抑えている間に、水波は傷ついたライを閃癒の輝きで癒す。 「疾風の如く敵を貫く我が槍捌き、受けて見よっ!!」 ここまで綾姫を守ってきた雪ノ下も将門とライに加勢する。配下三名を討ち、残るは首魁の女のみとなった。 鈴木透子が放った式が首魁の女に絡みつく。 「まさか‥‥あのお姫様が追ってくるとはな」 その隙に将門、雪ノ下、ライが協力して首魁の女を取り抑える。 綾姫は首魁の女が戦いの最中に落とした小袋を拾う。それには対となる宝珠が仕舞われていた。 「これは‥‥火薬?!」 水波が廊下に隣接した部屋からの臭いに気がつく。首魁の女が綾姫を見上げながらニヤリと笑う。『道連れだ』と呟いて。 一同は一斉に屋敷から逃げだした。綾姫は雪ノ下が背負う。首魁の女は将門が担ぐ。 しかしいくら部屋から離れても火薬の臭いは消えなかった。首魁の女が身体に火薬の袋を巻いていたからである。すでに導火線は点けられていた。 将門は点火を阻止するため首魁の女と一緒に池の中へ。同じように綾姫も含めた一同も池へと飛び込んだ。 次の瞬間、呉服問屋の屋敷は爆発炎上する。 当然騒ぎになったものの、一同は闇に紛れて無事に逃げおおせた。 そして深夜零時、首魁の女を連れて精霊門で武天の都、此隅へと移動。首魁の女は綾姫が知る秘密の場所へと幽閉されるのであった。 |