狙いは砂金?〜巨勢王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/14 21:03



■オープニング本文

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 シノビらしき賊等に襲われた武天の王、巨勢宗禅の幼い娘『綾姫』。
 調査を進めてゆくうちに彼女が持つ母の形見である宝珠を賊が奪おうとしていたのではないかという推測が成り立った。
 お守りの宝珠によって投影された地図がどこかを確かめる為に調査が行われる。
 過程で地図の真実を確かめようとする別の集団の存在が浮かび上がる。綾姫を襲った賊と考えられ、また巨勢王側の情報が筒抜けになっているとの疑いが濃厚となった。
 蔵書家の矢文遠野が所有していた文献『古地遙々』は、屋敷を襲撃した賊によって奪われた。しかし開拓者の機転で一部の頁は残る。照らし合わせてみると宝珠の地図は理穴のどこかだと判明する。宝珠の投影で浮かび上がる地図と表記の一部が一致したのである。
 これまで経緯から巨勢王臣下の中に裏切り者がいる可能性が大いに膨らんでいた。そこで巨勢王は絶対の信頼を置く臣下のみに開拓者達の調査結果を精査させる。
 しばらくして巨勢王と綾姫に報告があがった。それによれば地図が指し示していた位置はすでに魔の森へと飲み込まれた周辺であるという。
 調査続行を諦めようとした矢先に一報が入る。
 以前の緑茂の戦いによって魔の森との境界線が押し戻され、おかげで瘴気の一帯から外れて現在は立ち寄る事が可能になっていた。
 開拓者達は巨勢王の命によって理穴東部にある『仁良』の町跡へと赴いた。そして長く隠されていた鉱山だったことを突き止める。
 亡くなった巨勢王の妻、綾姫の母でもある『紅楓』は、理穴の王族『儀弐家』の血筋。お守りの宝珠に莫大な財宝の隠し場所が隠されていたとしても不思議はなかった。
 鉱山の奥に存在していたのは精錬された金ではなく、地下水脈によって自然に堆積した砂金。その量は半端なものではなかった。
 仁良は隠し鉱山と同時に罪人を集めた労働収容所の意味合いを持っていた。そこのことを謎のシノビの首魁女によって告げられた綾姫は驚きを隠せなかった。母の形見であるお守りの宝珠は首魁女の先祖が儀弐家に贈ったものだという。それが巡って綾姫の手元にあると。実際、首魁女も対となる宝珠を所有。鉱山の奥に二つの宝珠が辿り着くと砂金が開放される仕掛けになっていたのである。
 生還後、綾姫と開拓者は巨勢王にすべてを話す。巨勢王は理穴の王『儀弐重音』に連絡をとった。そこでかつて仁良の管理を任されていた氏族が『鳥島家』だと判明する。
 すでに鳥島の家系は途絶えていた。果たして首魁女が本当に鳥島家の末裔であるのかには疑問が残るものの、それを否定する証拠もなかった。仮に『鳥島シノビ』と呼ぶことになる。
 問題なのは今後についてだ。
 すでに現地の調査について儀弐王から許可をとっていたが、国家を揺るがす程の莫大な砂金が眠っていると判明した以上、このままとはいかなかった。
 舵取りを誤れば友好的であった武天と理穴の関係に亀裂が生じてしまう状況に陥ってしまう。そういった思いが巨勢王の脳裏を過ぎる。
(「もしや‥‥」)
 巨勢王は鳥島シノビの首魁女の狙いがここにあるのかも知れないと考えた。当然、大量の砂金を手に入れるのも計画のうちだろうが、二国の間に疑心暗鬼を生じさせる搦め手ではないだろうかと。
 だとするならば武天を体現している巨勢王がこれ以上全面に出て行動するのは得策ではなかった。危険があるにせよ綾姫に任せなければならない状況といえた。
 理穴側からも儀弐王自らではなく代理の者が仁良に派遣されることとなる。儀弐家に縁のある『鈴鳴御代』という名の綾姫と同世代の娘だ。
 高官を互いに派遣しなかったのは王家同士の信頼関係を示すものである。
 仁良の護りは綾姫が指揮する『武天隊』と御代が指揮する『理穴隊』の役目となった。
 現場の指揮系統が二つに分かれている体制は非常に問題が多いのだが、こればかりは互いの国家の威信に関わるので簡単に一つにする訳にはいかなかった。
 綾姫はギルドを通じて懇意の開拓者を応援として呼び寄せようとする。
 開拓者を乗せた飛空船が仁良に到着する日は激しい朝焼けで幕を開けた。嫌な予感がした綾姫であった。


■参加者一覧
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
水波(ia1360
18歳・女・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
ハンス・ルーヴェンス(ib0404
20歳・男・騎
将門(ib1770
25歳・男・サ
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ


■リプレイ本文

●仁良
 理穴東部の廃墟の町『仁良』。
 かつて金の鉱山町とされてきた仁良だが、その真実は囚人の収容所を兼ねた労働施設。理穴の鳥島一族が管理してきたのだが、魔の森に呑み込まれたせいですべてが無に帰す。しかし今では魔の森が後退したおかげで立ち入りが可能だ。
 そして発覚した鉱山奥の砂金。地下水脈によって自然堆積したものであり、その量はあまりに膨大にのぼる。
 発見者側の代表である武天の巨勢王は、国土として仁良の所有権を持つ理穴の儀弐王といくつかの約束を交わす。
 そのうちの一つが砂金を鉱山から完全に運び出すまで警備として武天と理穴のそれぞれの部隊が常駐するといったもの。武天隊を指揮するのは巨勢宗禅の娘、綾姫。理穴隊の指揮は綾姫と同年代の『鈴鳴御代』が担当する。
 厳戒態勢が敷かれた中、開拓者十名が飛空船にて仁良に到着した。
 拠点には急ごしらえの簡易宿舎が二十棟設営されていた。伐ったばかりの丸太を組んで造られており、長期の使用は考えられていない。それでもすべての人員を休ませることはできないため、係留する飛空船も活用されていた。
 武天隊所有の飛空船は大型一隻、中型三隻。開拓者を含めて総勢百五十五名。理穴隊所有の飛空船は大型二隻、中型二隻。総勢二百一名にのぼった。
「よく来てくれたのお」
 開拓者達が宛われた部屋にしばらくすると綾姫が侍女と護衛を連れて来訪する。
「実はお願いがあります。こちらに来るまでに仲間と話し合ったのですが、出来れば綾姫様と衣食住を供にしてお守りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「わらわは飛空船で暮らしておるが、それならこの宿舎へとすでに用意されておる緊急用の部屋に移ろうぞ」
 鈴木 透子(ia5664)が開拓者一同を代表して行った提案は綾姫に受け入れられる。そっそく一緒にやってきた侍女達に命じて移動の用意が図られた。
「男性陣は隣室で待機にさせてもらいます」
 紙木城 遥平(ia0562)はいつでも綾姫の側に駆けつけられるようにするつもりである。味方の陣地とはいえ、よからぬ輩が紛れているかも知れないからだ。
(「過去が絡み合い生み出した因果とはいえ、綾姫様や若い世代にまで引き摺って欲しくはないものです‥‥」)
 水波(ia1360)は綾姫に期待しながらも気の毒に感じていた。この責務は少女にとってあまりに重いもの。その意味では理穴側の鈴鳴御代についても心配であったのだが。
 食事の際には常に綾姫の傍らにいて解毒出来るようにするつもりの水波だ。
「ばっちり俺が守ってやるからな。任せておいてくれな」
「頼もしいぞよ」
 ルオウ(ia2445)が二の腕の力コブを見せながら綾姫の前でポーズを作った。綾姫も真似てみるがやはり女の子。まったく全然盛り上がらない。ルオウと綾姫が二人して笑う。
 ルオウは迅鷹のヴァイス・シュベールトを上空に飛ばして警戒としていた。
「鳥島シノビについては、相手の出方次第だな。襲ってきたら対処する、それしか俺には浮かばん。それはそれとして理穴隊との関係はどうなのだ? やけにぴりぴりとした雰囲気を感じるが」
「そのことなのじゃが――」
 西中島 導仁(ia9595)の問いに綾姫は眉をへの字にして困った表情を浮かべた。互いにそつなく警備を行っているものの、情報の交換はまったくないといってよかった。正確にいえば交換はされているのだがかなり遅れてのものだった。
「皮算用な話でもあるのだけど。いい?」
「何でも申してたもれ」
 帽子のツバを指先で持ち上げる蒼井 御子(ib4444)に強く頷いた。
「首魁を捕まえた時、持っているだろう宝珠と首魁自身の取扱いについて、決めておかないといけないと思うんだ」
「ふむ」
 蒼井御子は混乱が起こらぬよう出来るだけ事前に約束を決めておいた方がよいと綾姫に進言する。首魁については捕縛した場合、武天側が預かることが決まっていた。しかし首魁の女が持つ宝珠についてはまだ未定であった。綾姫は感謝して理穴側とあらかじめ交渉しておくと答える。
「ルプスに嗅がせたく、そちらの方々の品を何か頂戴したく存じます」
「何に使うのじゃ?」
 ライ・ネック(ib5781)は忍犬のルプスに判別させるために侍女を含めた綾姫の側近達の品を求めた。願いは聞き入れられ、綾姫の命によってしばらく後に届けられる。これは鈴木透子の忍犬、遮那王にも貸し出された。
「綾姫、少しよいか?」
「くるしゅうない。近こうよって構わぬ」
 綾姫の耳元で将門(ib1770)が囁いた。
 将門は武天側、理穴側のどちらにも間者が忍び込んでいるのではないかと危惧していた。綾姫も兵の身元は事前に調べさせてある。ただそれをもすり抜けて潜り込んでいる者もいるかも知れず安心は出来ない。間者がいると想定した上での警戒体制を敷いていると綾姫は返答する。
(「ここは綾姫と鈴鳴御代のお手並み拝見といこうじゃないか」)
 ハンス・ルーヴェンス(ib0404)はアーマーケースを窓際に置いていた。危険が迫れば窓周辺を壊してでも外に出られるようにと。
 鳥島シノビの狙いを綾姫と想定して様々な策を仲間と用意したハンスである。合い言葉や緊急時の役割など。それに灯りも数多く用意していた。
「難しい話はこれぐらいにして、お茶にでもしましょう。よろしいですか?」
「おお、何かよいものでもあるのかや?」
 フレイア(ib0257)は用意してきたチョコレートケーキを綾姫に見せた。バターケーキに杏のジャム、それをチョコレート入りのフォンダンでコートしたものだ。紅茶も用意してあった。
 さっそく全員で頂いた。
 ライネックの毒味を恨めしそうに綾姫が眺める。ようやく食べられる時が来ると、にこにこと笑顔を浮かべながら堪能する。
 親睦の贈り物としてこのチョコレートケーキを作りたいとフレイアは綾姫に願い出たが、さすがに駐留の人員が多すぎて手に余った。そこでレシピを理穴の首都、奏生に送って甘味の専門店に作ってもらうことになるのだった。

●不安
「金が出てきて皆おかしくなる‥‥。綾姫様の母上が金山を隠したのは、今みなが感じている不安を同じように感じたからなのかもしれません」
「わらわもそう思うのじゃ。欲というのは恐ろしいものよ。余程の善人でさえ狂わすでの」
 深夜、並んで布団へと横になりながら鈴木透子と綾姫はお話をする。水波、フレイア、蒼井御子、ライネックも同室で小声にて相談していた。
「気になるのは首魁の女が持つ宝珠です。綾姫様の宝珠もそうですが、まだ秘密が隠されているかも知れません。今後も注意が必要かと」
「ボクは挨拶回りをしてきたよ。内も注意が必要だけど外から紛れ込んでくる者もいるかも知れないし」
 水波と蒼井御子はそれぞれの考えを口にする。
「飛空船への破壊工作が心配です。綾姫を通じて警備を強固にするようしてもらいましたが‥‥」
「私は鉱山が気に掛かりましたので、そちらへの注意喚起をお願いしました。何にせよ、私達自らが動けない状況は歯がゆいものです」
 フレイアとライネックは互いの顔を見合わせた。
 隣室で待機していたのは開拓者の男性陣、紙木城、ルオウ、西中島、ハンス、将門である。
「それにしても砂金なぁ‥。そんなに重要なもんなんかなぁ‥金になんのはわかんだけど、喧嘩してまで」
「大金を巡って国の関係が拗れるのはよくあること。それに洞窟内に雪崩れ込んだ砂金の量があれば大きな騒ぎを起こすのは簡単。国家転覆まで至るかは敵の才気次第だが」
 これからの時間に備えて夜食のうどんで腹を満たしながらルオウとハンスは金を話題にした。ルオウは箸で、ハンスはフォークを使って。警備には加わらないにしろ、姫を守るために二十四時間体制での注意は必要だと判断したからだ。
「姫さま、落ち着いていましたがやはり気苦労はいろいろとあるのでしょうね」
「華奢なように見えて、胆力、決断力共になかなかの姫だ。きっと大丈夫だろうさ」
 紙木城と将門は布団を布いて眠る支度をする。
「敵が来たのなら叩くぐらいしか俺には案が浮かばん。綾姫の指示あればそれに従ってな」
 西中島は窓の隙間から外を眺める。篝火の輝きが警備の強固さを物語っていたが、敵はシノビ。どのような手で来るのかわからず誰もが不気味さを感じていたのだった。

●不穏な噂
 開拓者の多くが不安に感じていたものは、不穏な噂として武天隊と理穴隊の間に広まり始めた。
 武天隊が砂金を奪って本国に逃げようとしていると理穴陣営の口の端に上る。
 武天陣営には理穴隊が失態をなすりつけようとしていると。それを理由に撤退させる魂胆だと兵達は話題にしていた。
 噂は開拓者によってまとめられて綾姫に報告される。
「このままではまずいぞよ。手を打たなければならぬのだが」
「噂を否定したところで疑心暗鬼にとらわれた者達の心は簡単には晴れないでしょう」
 会議の席で綾姫と鈴鳴御代は思案して意見を交わす。
 理穴隊の上層部も噂の存在は知っていた。ただ開拓者達がもたらした内容の方がより正確であった。

●窃かに
 その日の夜は満月がいつもよりも輝いているように感じられた。野外を不用意に彷徨っている者があれば容易に見つけられるほどに。
 しかし侵入者の立場で逆の発想をしてみれば、はっきりと位置がばれてしまう松明などの灯りを持たなくても済む状況。自由に両手が使え、日中よりも目立ちにくいのは確かだ。隠れながら移動する術に長けた鳥島シノビにとっては絶好の機会といえた。
 鳥島一族の末裔を名乗る首魁の女は仁良の郊外を駆けていた。草木をすり抜けて百を越える配下を引き連れて。
 作戦もなく無闇に特攻を仕掛けているわけではない。武天、理穴のどちらにも『草』として忍び込ませた者達がいる。今頃は手筈を整えているはずだった。『草』とは忍び込ませた陣営の内部深く完全に溶け込ませた間者を指す。時には敵地に住まい、二世代に渡っての草といった者も存在するという。
 鳥島シノビが立てた作戦とはこうだ。
 草が派手な事件を画策して武天と理穴の両隊の注意を引きつける。その間に首魁の女率いるシノビ集団が秘密の入り口から鉱山内に潜入。持ち込んだ組み立て式の道具類を使って砂金を採取。一週間後、再び敵陣営に紛れている草が騒ぎを起こす。その隙に遠方で待機させていた飛空船を呼び寄せて砂金を積載。まんまと金をせしめて逃走するといった手筈になっていた。
 ちなみに最初の騒ぎとして綾姫の誘拐を計画。陽動なので失敗してもよし。もしもうまくいけばなおよしといったところだ。
 秘密の入り口は仁良内ではなく外縁から続いている地下通路。当時、暴動が起きた場合に脱出用に掘られたものだ。首魁の女が聞いた先祖の言い伝えによれば、この地下通路を使って魔の森の浸食から逃れたという。地上は焦った囚人達のせいで混雑し、逃げられる状況ではなかったようだ。

●秘密の通路付近
 足を止め、首魁の女が指さした先にあったのは仁良間近な場所に佇む岩。墓を模して作られており墓碑名まで刻まれていた。
 岩にシノビの配下等が手をかけようとした時に風が吹く。
 その正体は三体の龍。
 駿龍・驟雨、炎龍・獅皇吼烈、甲龍・妙見が仁良内に建つ石造りの廃屋の屋上へと舞い降りた。側には主人である水波、西中島、将門の姿があった。
 他にも影がある。
 月光を背にする霊騎・ブリュンヒルドから降りたのはフレイア。しかしブリュンヒルドにはまだ人が乗っていた。
 小柄な人物がフレイアの導きによって飛び降りる。
 紙木城が連れてきていた鬼火玉・小右衛門がいっそう輝いて廃屋の屋上を明るくすると、小柄な人物の正体がはっきりとする。
「こんなところまでしゃしゃり出て来たのか‥‥。綾姫」
 首魁の女の呟きの通り、それは綾姫であった。
 綾姫の右を守るのは迅鷹・ツキを肩に乗せた蒼井御子。左には迅鷹・ヴァイス・シュベールトを腕に掴ませているルオウ。
 前には忍犬・ルプスを連れるライネックと、屈んで忍犬・遮那王の背に手をやる鈴木透子がいた。
「見え見えなのじゃ。賊の大将よ」
 綾姫の呟きは非常に小さなものであったが遠くまで届く。誰もが刮目して息を殺していた瞬間だったからだ。
 突然、月明かりに照らされた大地に点々と染みが現れた。その正体は夜空を覆うように放たれた大量の矢。
 綾姫に気を取られた無防備な鳥島シノビの集団へと理穴隊が射った矢の雨が降り注ぐ。理穴隊の弓攻撃に続いて刀を手にした武天隊のサムライ達が鳥島シノビの集団へと斬り込んだ。
 仁良郊外の一角はさながら戦場の様相を呈した。
「お菓子が敵を燻りだすのに役立つとは」
「チョコレートケーキを用意した甲斐があったようです」
 紙木城とフレイアが綾姫へと振り向いた。
「おかげで助かったぞよ。フレイア殿のを真似て奏生の菓子職人が作ったあのケーキに靡かず、席を外す者を洗い出してみたら間者が見つかったのじゃからな」
 綾姫はチョコレートケーキを口にしなかった者を調べるよう開拓者達に頼んでいた。もちろん甘味が苦手な者もいるので全員が敵に該当したわけではない。ただ工作の機会を欲していた間者にとって突然の自由時間は天からの助けのように感じられたのだろう。チョコレートケーキには目をくれず、綾姫の周辺で不穏な動きを見せたところを捕らえたのである。
 詰問については理穴隊に任せた。鈴鳴御代の顔を立てるためだが事がばれないように慎重に行われる。それによって秘密の入り口の存在と陽動作戦が判明したのである。
「よく気づいてくれましたね」
 鈴木透子は忍犬・遮那王の頭をやさしく撫でる。鳥島シノビが来襲するのはわかっていたが、実際の動きを探り当てたのは遮那王の鼻のおかげだ。ライネックの忍犬・ルプスも足の速さと犬の嗅覚で正確さを後押ししてくれた。
「やはり鉱山内に忍び込む算段でしたね」
「本当だね。しかし十年も前から勤めていた役職を持つ人も間者だったなんて」
 ライネックと蒼井御子は洗い出しの際のことを思い出す。
「すばしっこい奴らだったな」
「奴らの野望、打ち砕いたといった感じか」
 間者の工作を実際に食い止めたのは将門と西中島である。
「しかし爆発物を仕掛けるとか、いろいろと考えたもんだな」
「壁の中にまで仕込んでいたからな」
 ルオウとハンスは間者が仕組んだ陽動の破壊工作を阻止した上で、爆発したように見せかける用意をしていた。現在、遠くで輝いている火事のような光は二人の仕掛けによるものだ。
「そろそろ安全な場所移動された方がよさそうです。綾姫様」
 味方の負傷者の治療を終えた水波が綾姫に近づく。鳥島シノビが煙幕などを使って紛れて綾姫を狙うのではないかと危惧していた。戦場から離れていたものの、捨て身の志体持ちならば近づけない距離ではなかった。
 そもそも綾姫が敵前にわざと現れたのは意趣返しのため。
 忍び込ませておいた間者の陽動で武天と理穴の両陣営を欺いて鉱山内に入り込むのが鳥島シノビの作戦。それを綾姫の注目による陽動と秘密の入り口周辺に潜んでいた理穴隊の弓攻撃によって再現していたのである。
 これには鳥島シノビを武天、理穴の誇りにかけて殲滅するといった決意が込められていた。故に危険だからといって綾姫の性格からいって避けては通れなかったである。
「姫!」
「矢だけならどうってことはないのが」
 西中島と将門が刀で弾き飛ばす流れ矢の数が増えてくる。
 ざっと眺めて鳥島シノビの集団は三割の戦力を失っている。撤退か玉砕覚悟で相手の大将の首を狙うかの瀬戸際といってよかった。
「‥‥わかったぞよ。鳥島シノビの阻止には成功した。これ以上の欲はかかぬとしよう」
 綾姫が決断して後退することが決まる。
「先頭は任せてくださいね」
 鈴木透子は鼻を利かせる忍犬・遮那王と一緒に綾姫の先を歩む。
「それでは後で会いましょう」
「紙木城殿の献身、特と心に染み入るぞよ」
 紙木城は囮として綾姫とは別行動をとった。鬼火玉・小右衛門の輝きを綾姫一行だと敵に間違えさせるために。
 宿舎までの距離を逆算したハンスはアーマー・シュヴァルツケーニヒを起動させる。それまでは練力が持つだろうと。
「やはり狙ってきたか!」
 シュヴァルツケーニヒの機体でハンスが綾姫の盾となった。銃撃二発が装甲を跳弾して地面へとめり込む。
「大丈夫です。こちらに」
 綾姫を身を挺してかばったのはライネックも同様である。幸い怪我もなく綾姫を包むように守りながら先を急いだ。少々の暗がりでも忍犬と一緒ならば平気である。まして二頭もいれば道案内としては充分といえた。
「この辺りなら充分だな」
「頑張ってね」
 ルオウと蒼井御子は双方の迅鷹を夜空へと放った。仁良中央でそこらにある篝火のおかげで明るかったからである。おかげで敵の位置がすぐに判明した。
 蒼井御子が奏でた剣の舞のおかげでその場の仲間全員に活が入る。
「ここは一掃しますわ」
 フレイアが立ち止まって魔杖を構える。そして放たれたのがブリザーストーム。広範囲に放たれた吹雪が綾姫の命を狙う鳥島シノビを足止めした。
 将門と西中島も残り、綾姫が安全な場所に逃げおおせるまで立ちふさがった。
「どこか怪我は御座いませんか?」
「わらわは大丈夫じゃ。それよりもきっと怪我をした兵達がおるはず。戻ってきたら閃癒とやらで癒しをよろしく頼んだぞ」
 心配する水波に元気だと綾姫は格好をつけた。
 それから約三十分後。
 鳥島シノビが約五分の四の兵を失ったところで撤退。武天隊、理穴隊は合わせて死者三名、重傷者八名の圧倒的勝利で幕を閉じる。ほとんどは自害してしまったが、鳥島シノビ側のシノビ三名を捕虜にするのだった。

●そして
 残念ながら遠方で待機していた敵の所有する飛空船については逃げられてしまう。つまりかなりの手駒を潰したはずだが、敵の戦力にもまだ余裕があるといえた。
 準備も整い、しばらくすれば砂金を鉱山内から運び出す作業も始まるだろう。今しばらく仁良の警戒は続けられるのだった。