無人の町 〜巨勢王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/24 14:05



■オープニング本文

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 シノビらしき賊等に襲われた武天の王、巨勢宗禅の幼い娘『綾姫』。理由を調べてゆくうちに彼女が持つ母の形見である宝珠を賊が奪おうとしていたのではないかという推測が成り立つ。
 お守りの宝珠によって投影された地図がどこかを確かめる為に調査が行われた。
 過程で地図の真実を確かめようとする別の集団の存在が浮かび上がる。綾姫を襲った賊と同一と考えられ、また巨勢王側の情報が筒抜けになっているとの疑いが濃厚となった。
 そして蔵書家の矢文遠野が所有していた文献『古地遙々』は、屋敷を襲撃した賊によって奪われた。
 開拓者の機転で一部の頁は残る。照らし合わせてみると宝珠の地図は理穴のどこかだと判明した。宝珠の投影で浮かび上がる地図と一部の表記が一致したのである。
 これまで経緯から巨勢王臣下の中に裏切り者がいる可能性が大いに膨らんでいた。そこで巨勢王は絶対の信頼を置く臣下のみに開拓者達の調査結果を精査させる。
 しばらくして巨勢王と綾姫に報告があがる。それによると地図が指し示していた位置はすでに魔の森へと飲み込まれた周辺であるとの結論が記されてあった。
 調査続行を諦めようとした矢先に一報が入る。以前の緑茂の戦いによって魔の森との境界線は押し戻されていた。おかげで瘴気の一帯から外れて現在は立ち寄る事が可能だという。
 あらためて開拓者ギルドで依頼募集が行われた。一度は魔の森に呑み込まれて誰も住まなくなった町『仁良』を探索する内容である。
「父様、わらわも行きたいのじゃ」
「ならぬ!!」
 子煩悩な巨勢王もさすがに危険が大きすぎると綾姫の同行を認めない。今回の調査は開拓者達にすべてが委ねられるのだった。


■参加者一覧
雪ノ下・悪食丸(ia0074
16歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
水波(ia1360
18歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
朱華(ib1944
19歳・男・志
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●出発の時
 武天の都、此隅は山間に存在する。
 森深い近郊の中腹で密かに着陸待機していた中型飛空船は、王の巨勢宗禅が用意させたものだ。
 理穴東部の仁良調査を依頼された開拓者達は夜道を歩いてまだ暗い間に辿り着く。殆ど同時刻に別の道筋から護衛を引き連れて現れたのは巨勢宗禅の娘、綾姫であった。
「お守り、少しだけ貸してくれな? 大事なものは、必ず返すから」
「うむ。そのつもりで来たのじゃ」
 朱華(ib1944)の言葉に綾姫がお守りを手渡す。形見の宝珠が納まっているものだ。
 朱華を含めた仲間の推薦もあって実際にお守りを預かったのは蒼井 御子(ib4444)である。
「お久しぶり、だよ。頼りないかも、だけど。任せてもらえる、かな?」
「わらわも行きたかったのじゃがここは託そうぞ。よろしく頼むのじゃ」
 蒼井御子は受け取るとさっそく丁寧に布へと包んで胸元深くに仕舞った。現地に到着するまではこのままずっとだ。
「では出発だな。魔の森を押し返すくらいの気合いで行くことにしよう」
 タラップに足をかけた西中島 導仁(ia9595)に続いて次々と開拓者仲間が中型飛空船へと乗船してゆく。
「面白そうなところは残しておきます」
「わらわもいつかは行かなくてはならぬと予感がしておる」
 綾姫といくらか話してから鈴木 透子(ia5664)は飛空船へと乗り込んだ。
 当初の計画では午前十時に城庭へと待機させた飛空船から出発としていた。その後、巨勢王に相談して秘密裏に変更してもらった経緯がある。文献『古地遙々』を奪っていった敵側に情報が洩れているのを心配したからだ。
「雪ノ下悪食丸、全力で挑みます」
「頼もしいのう。じゃが無理はせぬようにな」
 最後に乗船したのが雪ノ下・悪食丸(ia0074)だ。綾姫に臣下の礼で挨拶を終えるとタラップを駆け上っていった。
「現地では蒼井さんを中心にして隊列を組みたいと考えています」
 紙木城 遥平(ia0562)は飛空船内の座席に腰掛けながら仲間達に作戦を提案する。
「シノビが狙っていたことも考えると油断はできませんね」
 水波(ia1360)は相談に参加しながら宝珠についての考察を続けていた。宝珠に地図を託した者は綾姫の母親で間違いないのだろうかなど。
「仁良に眠る何かは、臣下に裏切りを強要し、巨勢王と綾姫様を襲撃するのも厭わない程の何かなのは確実。余程のものなのでしょう」
 ジークリンデ(ib0258)は『何か』の存在が人々の生命を脅かすものでないよう心の中で祈る。
「不審者は見つかりませんでした。少なくとも追っ手の姿はありません」
 宿奈 芳純(ia9695)は人魂で出現させた小鳥で周囲を探った結果を報告する。直径一キロメートル円の範囲を隈無く見回ったが怪しい存在は見つからなかった。
 準備が整った中型飛空船はまだ夜が明けぬ空へと飛び立つ。理穴の国東部にかつて存在し、一度は魔の森に呑み込まれた町『仁良』を目指して。

●廃墟
 仁良近郊に中型飛空船が着陸したのは翌日の夜が明けて間もない頃。中型飛空船の留守を巨勢王配下の操船人員達に任せた開拓者達は仁良へと徒歩で向かった。
 辿り着くまでの景色は新たに芽吹いた草木のおかげで荒れた大地といった印象は誰も感じなかった。ただ道といえるものがすべて消えており、地域が長く人や獣が住まない土地になっていたのがありありとわかる。
「早く手がかりが見つかればよいのですが‥‥」
 鈴木透子は未だ城内に内通者がいると睨んでいた。出発の時刻と離陸場所をずらしたものの、敵は慌ててこちらに向かっている頃だろうと想像する。
 しばらくして木々の隙間から建物らしき存在が見えるようになった。
 町と外の境を示す木戸は腐り果て、ほんのわずかだけ佇まいを残す。かつて仁良であったはずの土地にも草木が覆い被さり、木造の家屋は崩れ落ちているのが殆どでゆっくりと土に還ろうとしていた。はっきりとした町の痕跡は石材によって造られた建築物だけに限られる。
「さあ、町の深くに入ろうか」
 西中島は腰の得物に手をかけながら蒼井御子の前を歩いた。
「呪術がかけられている様子はありませんね」
 紙木城は『術視「壱」』を使用して周囲を窺う。実際に見つけたのなら水波に『術視「参」』を頼んでどのような罠かを探ってもらうつもりでいた。
「綾姫様、使わせてもらうよ」
 蒼井御子は懐のお守りから宝珠を取り出す。宝珠に変化がないかを注意しながら先に進んだ。
「ここは魔の森ではありませんが、近いのは事実です。追っ手だけではなく、アヤカシとの遭遇に注意しないといけませんね」
 水波は瘴索結界で周囲を探りながら仲間と行動を共にする。
「この建物には特に怪しい点はありませんね」
 雪ノ下は健在な建物があれば内部に足を踏み入れてみた。いつ崩れてもおかしくないので注意深く調べる。
「小物はそこらにいるようだが‥‥」
 先頭の西中島はアヤカシを見つけると即座に刀で斬り伏せる。殆どが一撃で瘴気に戻せるほどの弱いアヤカシばかりであったが油断は禁物であった。
「少々お待ち下さい」
 宿奈芳純は人魂で飛ばした小鳥で廃墟の地図作りを行う。後で宝珠が映し出す地図と照らし合わせるために。
「宝珠に反応はありますか?」
「特にないんだよね」
 ジークリンデが蒼井御子が持つ宝珠を覗き込む。ちなみに建物奥の暗がりではジークリンデが作り出したマシャエライトの火球の照らしがとても役に立った。
 半日が過ぎ去ったところで町の約三分の一を探索し終わる。
 石材で建てられた廃墟内で簡易な食事をとりながら話しあった結果、この仁良はかつて鉱山の町であったのではないかという推測が浮かび上がった。わずかに残っていた物品や建物から在りし日を想像したのである。
 一番不思議なのは鉱山としての記録が残っていないことだ。事前にわずかな情報しか手に入らなかったものの、鉱山で栄えた町ならばそれについて触れられているのが普通と思われた。
「秘密の鉱山だったのでは?」
 ジークリンデに呟きに仲間達が同意する。
「だとするならば‥‥おそらく金山か銀山では? 位置的に宝珠の採掘は考えにくいです」
 紙木城の考えはこうだ。
 国家経済を語る上で金と銀が非常に重要なのは語るまでもない。安全を考えれば公にしないのが得策。故に隠し金山、銀山の存在はいつも世間の噂としてのぼる。
「ちょっとした宝なら一国の姫を狙うには値しないだろう。一生逃げ回るはめになるだろうからな」
「だが金山の財宝となれば一国の姫様を狙うだけの価値があると。そういう話か。卑怯な」
 西中島と雪ノ下は言葉を交わしながら怒りの表情を浮かび上がらせた。
「だが本当にここがかつて金山か銀山だったとして‥‥果たして残っているものだろうか?」
「魔の森の浸食が急だったとすれば持ち出す暇もなかったかも知れませんね。金は特に重いものですから」
「なるほどな。もしくは鉱脈を発見したばかりでまだまだ埋蔵していたって可能性もあるか」
「それもあり得ますね」
 朱華と水波が考察を続けていると石材に腰掛けていた宿奈芳純が突然立ち上がった。
「何者かが‥‥十二名来ます。足の速さと継続力からして全員が志体持ちと思われます」
 人魂の小鳥で観た状況を宿奈芳純は語る。まるで自分達一行の居場所を知っているが如く正確に近づいていると。
「位置が知られているのだとすれば‥‥この宝珠が関係しているのかも」
「少し輝いているような。気のせいかな」
 鈴木透子が蒼井御子と一緒にお守りの中の宝珠を確かめる。確かに蒼井御子のいう通りにうっすらと輝いてるように見えた。
 開拓者達は即座に襲来の敵へと対応した。
「南方に罠は見あたりません」
「北方も大丈夫」
 術視によって紙木城と水波が再度周囲の呪術を探る。
「アヤカシらしき瘴気は近くにはない」
 『心眼「集」』で瘴気を探った朱華は二刀を手にとった。
 宝珠を守る蒼井御子を中心にして開拓者一行は移動を開始する。
(「狙いは綾姫様から借りている宝珠‥‥」)
 雪ノ下は強く奥歯を噛みしめて『珠刀「阿見」』を鞘から抜く。
「このまま近づくようなら敵と見なす!!」
 追っ手の姿がわずかに見えたところで西中島が急停止した。振り向くと腹の底から大声を出す。
 ほんのわずかだけ風の音だけが場を支配する。誰かが一呼吸する間に変化が現れる。
「敵、といえば敵だね。わたしらは」
 女の声が開拓者達の耳元に届く。ゆっくりと近づいてきた一つの影が離れた位置で止まった。
「その宝珠、こちらに渡せばもう綾姫を狙う真似はしない」
「はいそうですかと、こちらが呑むとお思いで?」
 逆光で姿がはっきりと見えない女に対してジークリンデは眉をひそめた。
「お互いに知らないことがありそうだ。そこで話し合い‥‥という訳にはいかないのだろうな」
「どのみち譲歩するつもりはないからな。返事はないのだな。‥‥これで交渉決裂と見なす」
 朱華に答えた逆光の女が建物の狭間へと隠れる。
「荒れ狂う雪よ!」
 すかさずジークリンデが放ったのはブリザーーストームの吹雪。固まっていた敵三名のうち一人を巻き込んだ。
「ここは守りに徹します」
「蒼井さん、こちらに」
 鈴木透子と宿奈芳純が出現させた『結界呪符「白」』の壁で次々と飛んでくる手裏剣を弾き飛ばす。
「あの女が近づいてきたときにお守りの中をこっそりと覗いてみたら、さらに光が強くなっていたよ」
「わかりました。みなさんにも伝えます」
 蒼井御子は力の歪みで敵の動きを阻止した紙木城に耳打ちする。すかさず紙木城は呼子笛で仲間に暗号を送った。捕縛すべきは話しかけてきた首魁の女だと。
 とはいえ敵も志体持ちの実力者揃い。十二名といったこちらを上回る数もあって開拓者側も無傷とはいかなかった。
「もう一踏ん張りです!」
 輝いた水波が閃癒で仲間達を癒す。これでもう一踏ん張り出来ると開拓者一同は身体を奮い立たせる。
 機を感じた前衛たる西中島、雪ノ下、朱華は首魁の女に迫って取り囲む。とはいえ敵側も棒立ちしているはずもない。加勢が集まって激しい乱戦が繰り広げられた。
「よぉぉぉし! 次っ!」
 西中島が刀を振り下ろすと飛んだ血沫で壁に一筋の線が描かれる。
「俺は風だ、風は斬れん!!」
 雪ノ下は敵の背後に回って力を持って敵を叩き伏せる。
「邪魔をするな!」
 敵の腹を足裏で蹴飛ばし、その上で二刀で仕留めたのは朱華だ。
 そして首魁の女へと振り向いた時に目撃する。首魁の女の首元に綾姫から蒼井御子が預かっている宝珠入りのお守りとそっくりな袋がぶら下がっているのを。ぼんやりと光っているのはおそらく綾姫の物と同じように宝珠が納められているのだろう。
「綾姫には近い将来、地獄を味わってもらう‥‥。そう伝えろ、開拓者よ!!」
 首魁の女が笛で合図を出すと敵側は一斉に撤退した。残された地面に転がる瀕死の敵三名は服毒をして泡を吹き、すぐに動かなくなる。格好や使った技からいっても敵側はシノビで間違いなかった。

●綾姫の母
 邪魔が入ったものの、開拓者による仁良全体の調査は続行された。
 現存する建物や判別可能な道からいって、宝珠が映し出した地図は仁良を示したもので間違いなかった。加えて坑道への出入り口と考えられる地点を三カ所探し当てたところで現地での行動は終了する。
 こちらが立ち去った後で敵側に坑道内を調べてしまうかも知れない。そのような可能性が残ったものの、地図を映し出す宝珠がなければおそらく意味がないのであろう。そうでなければここまで執拗に地図を示す宝珠を狙わなかったはずだと開拓者達は推測していた。
 武天の都、此隅の城へと帰還した開拓者達は真っ先に巨勢王へと直接報告する。話が洩れるといけないので大広間ではなくこぢんまりとした個室で。
 すべてを聞いた巨勢王は腕を組んでしばらく瞼を閉じて考え込んだ。
「そうか‥‥。その女は姫と似たお守りを持っていたのか。なら話さなくてはな。これから耳にするすべては他言無用」
 巨勢王は突然に自分の正妻であった綾姫の母『紅楓』の生い立ちを語り始めた。
 紅楓は理穴の王族、儀弐家の血筋。理穴東部に広がる魔の森の対処に関連するアヤカシ討伐に武天の巨勢王が力を貸す理由の一つがこれである。
 それ故に紅楓が残したお守りの宝珠が理穴に存在する隠し鉱山の秘密を秘めていても不思議ではないという。
「次に頼む時には理穴の隠し鉱山について少しはわかっていよう。理穴王の儀弐重音に訊ねる他ないがな。似たお守りを持っていた女についてもわかることがあるかも知れぬ‥‥」
 調査結果に感謝した巨勢王は開拓者達を城に二日間滞在させて労った。
 その間に借りていた宝珠入りのお守りを蒼井御子は綾姫に返す。その際、綾姫にも調査で得た情報を伝えるのだった。