綾姫の調査 〜巨勢王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/07 23:41



■オープニング本文

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 巨勢親子襲撃には謎が残った。
 襲ってきた集団はシノビ。使われた武器には朱藩に隠れ里を持つシノビ一派に由来する特徴があったものの、国王殺害を企む輩がおいそれと証拠を残す訳がないと断定は見送られた。
 これについては巨勢王と朱藩国王・興志宗末との間で話し合いが行われたようだ。武天と朱藩を険悪な関係に追い込もうとする仕業と結論づけられる。
 敵の狙いが巨勢王ではなく娘の綾姫であった点も不可解である。
 巨勢王がすぐ近くにいたにも関わらず標的とされたのは綾姫。武天に混乱をもたらそうと画策するのならば巨勢王を狙った方が話が早い。娘を人質にするようなまどろっこしい策は必要なかったはずである。
 謎のシノビ集団が欲したのは綾姫の命なのか身柄なのか、それとも別の何かか。
 どうであれ綾姫の安全をはかる為に護衛として開拓者が呼ばれる事となった。臣下で十分だとの反対意見も城内から出たのだが、巨勢王の強い一言によって一蹴される。
「去年の今頃は開拓者達と苺狩りをしたのにのう。賊に狙われているが故に仕方がないのじゃが‥‥」
 まだ幼さが残る綾姫は侍女の紀江が持ってきた苺を城内の一室で頂く。
「来年に期待致しましょう、綾姫様」
「そうじゃな。なんだかんだといって、こうして今も元気に苺が食べられる。感謝せねばな」
 紀江に強く頷いた綾姫は器の中の苺を全部平らげてしまう。
 その日の晩。寝床で綾姫はある事に気づいた。母の形見であるお守りがほんのりと輝いていたのだ。お守りの袋の中に入っている小さな宝珠が輝くなど綾姫の知る限りでは一度もなかった。
「‥‥見えるのじゃ」
 綾姫が袋から宝珠を取り出してみると掌に何かが映る。よく見れば地図のようだ。どうやら町中のようで大通りや路地が記されている。
 翌日、綾姫は父である巨勢王にお守りについてを話す。
「襲われたのがきっかけで光るようになったのかもな‥‥。もしや、それが襲ってきた輩の狙いだったのかも知れん」
 地図に興味を示した巨勢王はさっそく臣下に紙へと写し取らせる。
「父様、わらわも是非に調べたいのじゃ。きっと狙われたのはこのお守り。城に置いておけば大丈夫なのじゃ!」
「そうはいってもな、綾姫よ――」
 さすがの巨勢王でも愛娘には弱い。開拓者の護衛付きを条件にして地図の調査を渋々認めるのであった。


■参加者一覧
雪ノ下・悪食丸(ia0074
16歳・男・サ
水波(ia1360
18歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●相談
 天儀本島・武天の国。
 早朝、此隅の城を訪れた開拓者六名は町娘に変装した綾姫と侍女の紀江を連れて外へと繰り出す。
 綾姫の希望により蕎麦屋の座敷で話し合いの場が設けられた。
「宝珠の投影を写した地図はこれなのじゃ。どう見ても町中なのじゃがよくわからなくてのう。今の此隅とは違うように思える。別の場所の可能性も捨てきれんが、かといって昔の此隅かも知れんし‥‥。父様の命で臣下が蔵書や古地図を当たっているようじゃが、それとは別に調べてみたくてのう――」
 綾姫が一通り説明し終わったところでちょうど蕎麦が運ばれてきた。ひとまず食事の時間となる。
「この間の襲撃が姫様の宝珠が狙いだとすると、宝珠は宝の在り処でも示してるのかな?」
「かも知れぬ。金銀財宝だとすればかなりのものじゃろうな。わらわを狙うとあれば」
 雪ノ下・悪食丸(ia0074)に答えると、綾姫は掛け蕎麦の丼から鰹だし香る汁を直接飲んでみる。ちなみにかき揚げがのった天ぷら蕎麦である。侍女の紀江によって毒味済みだ。
「わたくしも地図といえば宝の地図を思い浮かべます」
「それがやっぱり一番か。雪ノ下殿もいうておったが、わらわもそう思うのじゃ」
 依頼書にあったように襲撃者達が欲したのは綾姫の母親が残した宝珠であろう。そのような視点で水波(ia1360)は綾姫との話しを進める。
(「さしでがましい願いでしたが聞き入れて下さってよかったです‥‥」)
 鈴木 透子(ia5664)はざる蕎麦を頂きながら城で行われた巨勢王との謁見の場を思い出す。事前の情報なしで旅行中の、しかも龍で移動している相手を狙うのはとても難しい。もしかすると内通者がいたのではと伝えたのである。
 巨勢王も不審に考え、山奥に同行して敵に殺されたはずの臣下達の素性洗い出しを秘密裏に行うと約束してくれた。ただ忠信を持って亡くなった臣下が殆どであろうから親族の不信を招くような調査は行えない。故にかなり時間がかかりそうである。
(「何か現体制に対抗しうる御旗となるべきものなんだろうか。闇の歴史が記されてるとか‥‥」)
 西中島 導仁(ia9595)は美味しそうに蕎麦を頂く綾姫の笑顔を横目で眺める。とにもかくにも巨勢王の期待に応える為に全力を尽くす所存であった。
(「綾姫様の身の安全を最優先としませんと」)
 宿奈 芳純(ia9695)は人魂で作った雀で周囲に敵が潜んでいないかを調べてから箸を手にとった。敵は神出鬼没と考えておいた方がよさそうである。
 人魂による宿奈芳純の視覚が戻ってから蒼井 御子(ib4444)は話しかけた。
「宿奈おにーさん、元気みたいでなによりだねー」
「こちらこそ。最近はどうでしたか?」
「楽しいことが一番でいつもやってるよっ!」
「それはよかったです。この店の蕎麦、美味しいですね」
 蒼井御子は宿奈芳純と並んで蕎麦をすする。月見蕎麦の味は格別である。
 お腹が膨れて今日の方針が決まったところで蕎麦屋を後にする。さっそく調査は開始されるのだった。

●此隅
 一行はまず宝珠から写し取った地図を片手に此隅の中を散策した。
「大通りと区画を手がかりにしてみたら如何でしょう?」
「そうじゃな。この太い道筋が大通りとするならば‥‥ふむふむ」
 歩きながら綾姫が広げた地図を水波は覗き込む。たまに立ち止まっては目印になりそうな建物はないかと周囲を見渡す。
「そう言えば、その地図だけど。どこか見覚えが有ったりするトコだったり‥‥」
「父様もわらわも懸命に思い出そうとしたのじゃが‥‥無理だったのじゃ。ひょんなことで思い出すかも知れんが今のところはまったくなのじゃ」
 目があった綾姫に蒼井御子が訊ねる。そしてずっと気がかりだったこともこの時に伝えた。
「実はキミのフリして、友友で好き勝手なことをしちゃってゴメンナサイっ!」
 深く頭を下げた蒼井御子にキョトンとする綾姫。
「まったく気にするでないぞ。あれは父様が出した依頼の行いじゃ。必要とあればいつでも真似して構わぬ」
 頭をすぐにあげさせて微笑む綾姫である。仲良しの約束としてしばらく手を繋いで歩いた蒼井御子と綾姫だ。
「この辺りはこのようでした」
 宿奈芳純は人魂で形作った雀で空から地上の様子を観察。元に戻るとすぐさま紙に俯瞰図を描いて綾姫に見せる。
「助かるのじゃ。やはり鳥の視点は便利じゃの」
 綾姫は宿奈芳純が描いたものと自らが持つ地図を見比べる。確認方法として非常に堅実な手だ。
「あそこに文献を扱っていそうな本屋があります」
 鈴木透子は本屋に立ち寄ろうと綾姫に勧める。
「これだって調査ですよ。調べましょう」
「そうじゃな。城にない古地図もあるかも知れんしのう」
 鈴木透子を先頭にして綾姫も店内に入る。貸本屋であったが中には貴重と思われる販売用の高価な書物も並んでいた。
「これはよさそうじゃ。こっちも――」
「選んで買わないと運ぶのが大変です」
 数日後には神楽図書館で調べるつもりなので、その時にまとめて検討するつもりで手当たり次第買い求められた。
 綾姫と一緒に地図の場所を探す仲間達とは別に護衛を専任する者達もいる。仲間の集団から少し離れた位置から西中島は後方をついていった。
(「今のところ追跡している賊はいないようだが‥‥」)
 気になる輩を見つけると、すっと腰の鞘に触れる西中島である。
「この間の襲撃が姫様の宝珠が狙いだとすると、宝珠は宝の在り処でも示してるのかな?」
 雪ノ下は綾姫にした質問を護衛役仲間の西中島にも訊ねてみる。
「俺は闇の歴史を炙り出す証拠が隠されているのではないかと考えているのだ。国家転覆を謀れる程の金銀財宝ならば納得がいこうが、少々の金子では一国の王とその娘を狙うには釣り合わんからな」
 西中島は綾姫から視線をそらさずに自らの考えを述べた。
「財であるかも知れないし、闇の歴史を証明する何かかも。他にも考えられるものがあるとすれば‥‥」
 雪ノ下は機会があるごとに仲間の考えを訊いてみるのだった。
 二日間をかけて調べた結果、現在の此隅に似た地域はないと綾姫は判断する。途中で手に入れた古地図は十三枚にのぼった。
 二日目の深夜、一行は精霊門で神楽の都へと移動。前もって風信器を利用して予約をとっておいた宿で朝まで身体を休めた。

●神楽の都
 三日目。早めの昼食を済ませてから一行が向かった先は神楽図書館である。
 様々な書物が保管されている知識の泉。一部の書物は開架式だが重要文献は閉架式が採られていた。一行が望んだ古地図は貴重なものなので重要文献に含まれる。
「以上でよろしいでしょう」
「うむ」
 鈴木透子が目録から選ぶと綾姫は頷く。さっそく司書に申請して書架から運んでもらった。
「古地図だけでもかなりありますね」
「目を通すだけでも大変なのじゃのう。だが頑張るのじゃ」
 水波は綾姫の隣りに座って写した地図と古地図を照らし合わせる。神楽の都や武天の各都市の地図も数多く含まれていた。
 憂慮として地図には大きな罠が含まれている場合がある。
 戦国の世ならその土地を詳しく示す情報は秘中の秘。その為にわざと間違えて描かれた地図もある。そのまま信じては迂闊だといえた。
 それでも過去を調べるにはこれしかなかった。机についた者達は目を皿のようにして比べてみる。
「この地図は任せておいてねーっ。‥‥眠くなるけどがまんがまんっ」
 蒼井御子は机に広げた地図をじっと見つめながらじりじりと移動してゆく。
「挿し絵がある書物もありますね」
 宿奈芳純は武天と神楽の都周辺都市に関する文献をあたってくれた。頁を慎重に捲り続ける。
 紀江も手伝う中、西中島は読書室から出たばかりの廊下で警戒していた。
(「あまりじろじろ見るのも何なのだが‥‥仕方がない」)
 西中島はなるべく怪しまれないよう部屋を出入りする一人一人を注意深く見張る。片手に持った本を読むふりをしながら。
 雪ノ下は窓際に待機して危険が迫っていないか部屋全体を見渡す。
(「綾姫様、元気でよかったな」)
 雪ノ下は綾姫が元気でほっとしていた。理由はどうであれ命を狙われたのである。落ち込んでいても不思議ではなかった。
「た、大変です! 綾姫様!!」
「どうしたのじゃ。図書館では静かにせねばいかんぞよ」
 確認し終えた地図を返しにいった紀江が焦った様子で綾姫の元に戻ってくる。
「返却をしていた際に司書の方が仰いまして。今日の朝早く、私どもと同じように古地図を調べに来た者達がいたとのことです」
 さらに紀江が司書に詳しく聞いたところ、自分達と同じように地図を見比べる為に来訪していたらしい。無理に文献を借りていこうとして一悶着あったようだが、それは図書館側の努力で阻止されたという。
「その者達はこの目録に注目していたとのことです」
 紀江が卓で広げた目録の頁には『寄贈前』の印が並んでいた。
 図書館側が貴重な資料の散逸をおそれて蔵書家に寄贈を願ったところ、死後にならばとの約束が交わされた書物の一覧であった。
「騒がしいようだが」
「綾姫様、どうかされましたか?」
 紀江の慌てた様子に西中島と雪ノ下も集まって全員が机の周辺に揃う。
「城内に賊の間者が潜んでいる可能性を王に進言させて頂きましたが、その危惧が現実だとすれば宝珠から写した地図の情報が洩れていたとしても不思議ではありません」
「そうだとすればわらわ達と同じように賊等は地図の場所を明らかにしようと動いてることになろうぞ‥‥」
 鈴木透子の意見に綾姫が腕を組む。
「ここは一刻も早く蔵書家の元に参じましょう。綾姫様を襲うような輩です。もしや押し入られているかも知れませんので」
 水波の意見はもっともであった。
「そうじゃな。向かおうぞ」
 綾姫が決断すると全員で検証していた資料を返却して外へと出る。
「ここは俺の背中へ」
 雪ノ下が腰を落として振り返った。
「うむ、頼むぞ」
 雪ノ下の背中に綾姫がおぶさる。
「舌を噛まぬよう気をつけて」
「は、はい!」
 紀江は西中島が背負って先を急いだ。
 蔵書家の屋敷は神楽の都内。通りを一気に駆け抜けて程なく到達した。
「‥‥お伺いしたいことがありまして――」
 少々息が乱れていたものの今は大事と考えて宿奈芳純が門を叩いた。しかし誰も姿を現さない。
「これほどの屋敷なら門番がいるのが普通だよねっ」
 蒼井御子が門に併設されている小部屋の壁も軽く叩いてみたが、やはり出てくる様子は感じられなかった。
「あたしは庭の中を探ります」
「では私は門番を探してみます」
 緊急の事態だと判断した鈴木透子と宿奈芳純は人魂で小動物を出現させて屋敷の内部を調査する。まもなく倒れている屋敷の使用人と思われる人々を発見した。
「緊急の状況だな。少し退いてくれ」
 西中島は門から一同を遠ざけると『殲刀「朱天」』を構えた。そして真空刃で門に亀裂をいれる。近づいて上段からの一刀を加えると門に大きな穴が空く。そこから一同は屋敷の中に足を踏み入れた。
「今すぐ治療します」
「私よりも‥‥ご主人様を‥‥、きっとあそこに‥‥」
 水波は酷い刀傷を負っている屋敷の若者を庭で発見した。閃癒で治療している最中に屋敷の若者が大きな蔵を指差す。
「綾姫様と紀江様は俺が守ってみせる!! だから行ってくれ!」
 雪ノ下は綾姫と紀江の護衛に徹した。またこれ以上の危険に近づける訳にもいかないので待機が妥当だと判断する。
「後で向かいますので」
 水波も倒れている怪我人達を助ける為に庭へと留まる。
「これに隠れていれば大丈夫です」
 鈴木透子も綾姫達を守るために残ることにした。念のために『結界呪符「白」』による白い壁を出現させておく。
 他開拓者三名は蔵へと駆け込んだ。
「待てっ! 一方的に奪うために力を振るおうとする者どもよ!!」
 西中島は明らかに怪しい出で立ちの賊一人を真空刃で吹き飛ばす。
「そなた達! わらわがいると知っての狼藉か!」
 暗がりの中、蒼井御子は綾姫の真似をして賊等の注意を引いた。考えている通りの敵ならば綾姫の存在は非常に強いものに違いないと。
(「今のうちに」)
 宿奈芳純は賊が虚等をつかれている間に『結界呪符「白」』の白い壁を屋敷の主人と思われる老人の近くに出現させた。
 西中島はわざと大振りで賊等を牽制。賊等は笛を鳴らして遁走をはかる。
「ま、待ってくれ! それは持っていかんでくれ!!」
 蔵の床に倒れている屋敷の老人が叫んだ。
 その声は庭にいた雪ノ下の耳に届く。振り返ると近くを怪しい人物が駆け抜けようとしていた。賊一人だと勘づいた雪ノ下は相手との間合いを一気に縮める。
「示現流一の太刀、チェストーーーッ!!」
 滑るように繰り出された雪ノ下のスマッシュが賊の横腹に決まった。その際、賊の服が破れて紙束が散らばる。
 傷ついた賊は仲間の手を借りて撤退してゆく。雪ノ下は綾姫と紀江の護衛を優先してその場に留まるのだった。

●そして
 迅速な治療のおかげで命を落とした者はいなかった。
 屋敷の主人の名前は『矢文遠野』。
 盗まれた書物の題名は『古地遙々』。長く蔵に仕舞われていたので、持ち主の矢文も内容までは知らなかった。
 開拓者の機転のおかげで一部の頁が手元に残る。それらを読み解くと理穴の昔の様子を書き残した本だと判明する。
「この一部、何となく似ているのじゃ」
 頁の切れ端に描かれた地図と宝珠の投影がよく似ていた。どうやら宝珠が指し示す場所は理穴のどこかのようである。
 時間の許す限り調査を続行したものの、それ以上はわからずに依頼が終了する。
「理穴かも知れぬとわかっただけでも大収穫なのじゃ!」
 城への帰り道、雪ノ下がくれたクッキーと石清水を頂きながら綾姫は非常に喜んでいた。
 開拓者達は綾姫と紀江を送り届ける。そして深夜、再び神楽の都へと戻るのであった。