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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 各地でアヤカシによる大規模な災いが起こる中、武天も例外ではなかった。 いくつかの地方で勃発する混乱は、どれも武天の都『此隅』を破壊せんとする意図が見え隠れする。 各地に警戒を命じた武天国王『巨勢宗禅』であったが、飛空船団を用いての巡回にも同乗していた。国王ならば中央で構えるべきとの声もあったものの、自らの目で確認しなければ納得しなかったのである。開拓者の協力によって解決に向かった小判消失事件のように情報戦が仕掛けられている可能性を危惧する面があったのかも知れない。 空中からの国土偵察は大型飛空船『不可思議』、中型飛空船『烈風』と『烈火』の三隻からなる。不可思議には巨勢王の他に護衛として集められた開拓者達の姿もあった。 「何だ? あれは?」 見張りの一人が確認した異常事態はすぐさま巨勢王に伝達される。そして開拓者達が巨勢王が待機する操縦室に呼ばれた。 俯瞰の景色は非常に稀なもの。二体の巨大な怪物が山の中腹で戦いを繰り広げている様子であった。 大山椒魚のような怪物は尾までを含めれば全長十五メートル前後。もう一体の丸太を棍棒のように持つ白い毛むくじゃらの人型怪物は十メートルを越えていた。見かけ上は立っている人型怪物の方が巨大だ。 すぐさま二体に攻撃を仕掛けようとも考えた巨勢王だが、戦いの間近には村が存在していた。武装飛空船三隻が攻撃をしたのなら巻き込むこと必至である。それに大山椒魚の怪物が身を挺して村を護っているようにも見えた。 「二体の正体はわからぬが、あのままでは村が破壊されてしまうだろう。そうならぬようにしてもらいたい」 巨勢王の命じに応じて開拓者達は地上へと降り立つ。 まずは状況を知るために村へ立ち寄ると、人々は大山椒魚のような怪物を『ぬし様』、白い毛むくじゃらの大男を『破鬼』と呼んでいた。 ぬし様は少し離れた湖に棲む大昔からの村の守り神。破鬼は周辺の集落や村をことごとく破壊しているところからつけられた名のようだ。 これまでに破壊してきた道筋を考えると破鬼が向かっている先は武天の都、此隅のようである。 ぬし様は『ケモノ』、破鬼は『アヤカシ』だろうと見当をつけた開拓者達は戦いの場へと赴くのだった。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
水波(ia1360)
18歳・女・巫
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
将門(ib1770)
25歳・男・サ
エラト(ib5623)
17歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●戦い 地上へと降りた開拓者達は急ぎ村へと立ち寄る。 村人は大山椒魚のような全長十五メートル前後の怪物を『ぬし様』と呼び、近くの湖に棲む大昔からの守り神だと語った。伸長十メートル前後の白い毛むくじゃらの大男『破鬼』は、周辺の集落や村を破壊しながら此隅の方角へと向かっているという。 状況を知った開拓者達は白い息を吐きながら積雪の斜面を駆け上がる。巨大な二体が戦う度に轟音が響いて足下が揺れた。 邪魔な木々の間を潜り抜けると視界がひらける。その時、開拓者達の目に入ってきたのは破鬼の打撃によってぬし様が力無く雪面に転げる様子。周囲の雪が体液で染まるような無惨な姿であった。 「ぬし様!」 水波(ia1360)は思わず叫んだ。 大山椒魚に似たぬし様はどう見ても陸に上がって戦うのに適した身体とは思えない。それでも何かがぬし様を突き動かしているのだろうと水波は推測していた。しかし先程立ち寄った際に村人から聞いてみたものの混乱の状況下、はっきりしたことは分からなかった。 「ぬし殿、助太刀しますぞ!」 相手との距離を目見当で計った無月 幻十郎(ia0102)は、咆哮をあげて破鬼の注意を引こうとする。 しかし破鬼は少し振り向いただけだ。転げたまま雪の斜面を少しずつずり落ちてゆくぬし様へと一歩一歩近づくのを止めようとはしなかった。 「駄目だな。これは‥‥」 西中島 導仁(ia9595)も続いて咆哮を使ってみたが効果は認められない。無月と一瞬目を合わせた西中島は二人揃って武器を抜くと倒れているぬし様の方向へと走る。 他の開拓者達も殆ど同時に駆け出した。どう見ても破鬼がぬし様に止めを刺そうとしているとしか思えなかったからだ。 「まずはこちらで阻止します。その間によろしくお願いします」 宿奈 芳純(ia9695)は間合いに入ると立ち止まった。『結界呪符「白」』と取り出して召喚したのは白く巨大な壁。倒れたままのぬし様と近寄ろうとする破鬼との間にそびえて盾となる。 突然の障害物の出現に破鬼は遠吠えをあげると持っていた丸太の棍棒で殴打した。 「間合いは厳しいが、至近で斬らんことには倒せん」 破鬼が白い壁へと意識をとられている隙に将門(ib1770)は近づいた。焔陰による炎を纏わせた『刀「嵐」』を勢いのまま破鬼の右足首へと突き立てる。 無月は殲刀「朱天」に込めた気合いを破鬼の額へと放った。西中島は真空刃を破鬼の右腿へと当てる。 「破鬼との戦いをしばしお願います」 エラト(ib5623)は仲間達への支援として『トランペット「ミュージックブラスト」』を吹いた。白銀の世界に響き渡る。奏でられた騎士の魂のおかげで開拓者達はさらに奮い立った。 「ぬし様、痛いでしょうけど少しの我慢です」 水波は閃癒の輝きを放ってぬし様の治療を開始する。かなりの深手を負っていた。 やがて仲間達への支援を一通り行ったエラトは、心の旋律でぬし様との意志疎通を図ろうとした。 (「貴方さまと村を救うため参りました。今戦っているアヤカシを村から引き離して村に被害が及ばないよう戦う所存です。ご協力願えますでしょうか?」) エラトは心の中で何度も呟いた。自分達は味方であると。 水波の閃癒でぬし様が持ち直す。まだ完璧ではなかったが力強い足取りで雪面を駆け上っていった。そして急速停止を試みながら身体を横回転させて尾の部分を鞭のようにしならして破鬼の足の掬う。 勢いよく転倒する破鬼。開拓者達は雪煙を浴びながらもそれぞれに腕で額に庇を作り、目を細めて破鬼とぬし様から目を離さなかった。 「巨大怪物の決戦だな‥‥」 西中島の呟きは無理からぬことだ。これだけの巨体同士がぶつかり合う状況など滅多に目にする機会はない。 破鬼はすぐに立ち上がると丸太の棍棒を乱暴に振り回す。当たれば大怪我を負うかも知れないが闇雲なのは明らかだ。 「ぬし殿は回復したようだな。おぉぉっと、危ねえぇ」 無月はぬし様の立ち位置について、常に破鬼と村の間へと移動しているのではと判断する。 破鬼がとる行動の優先順一位は村の方角への侵攻だ。ぬし様への対処は二位の順だと思われる。おそらくぬし様はその事をわかっていて戦っているのだろう。 つまり破鬼を力ずくで引っ張る以外に村への侵攻を阻止する方法はなく、現実的には空に浮かぶ巨勢王率いるの飛空船群が活躍する機会はなさそうである。ぬし様も破鬼を村から引き離すのをあきらめている様子が窺えた。 ぬし様と破鬼の間にあっては非常に戦いにくいのは明白。正面から戦いたかった無月だが破鬼の後ろへと回り込んだ。前衛の仲間達も似た判断をしたようで破鬼の横か後ろへと移動を心がけていた。 ぬし様を支援しようとしている仲間についてはその限りではなく、わざと破鬼の正面に立つ者もいる。 「正面はぬし殿に譲ってやるとしよう。だが破鬼とやらには譲れねぇよ。これ以上は行かせねぇ」 目前にあった岩を足がかりにして無月は一気に破鬼の足下へと近寄った。刀を破鬼の右踵に突き立ててえぐる。 「とにかく右だ! 足腰が立てなくなれば勝機が生まれるはず!」 西中島は引き続き真空刃を破鬼の右太股に集中して放ち続けた。もちろん破鬼もぼうっと立っているだけでなく攻撃を仕掛けてくるので足を取られる雪上で避けもした。時には刀の峰で受け流してより深手を負わせられるように機会を狙う。 「これでどうだ!!」 破鬼の右足首を挟んで無月の反対側から攻撃を仕掛けた将門。練力を込めた雪面を赤く照らす刀身が破鬼の体内にめり込んでゆく。 「今がよい機会です! 皆様下がって!」 水波は持っていた焙烙玉を破鬼の足下に投げた。雪崩の可能性もあり得るのだが万が一にも起きたとしても村とはまだそれなりに距離がある。加えて宿奈芳純が雪崩防止用にと戦いの場より下方の斜面へ白い壁をいくつか出現させてくれていた。ぬし様が破鬼の侵攻阻止を踏ん張ってくれていたおかげもあって雪崩は起こらなかった。 破鬼は焙烙玉爆発の一押しで雪の斜面に右膝をついて屈んだ。開拓者達が攻撃を右足側に集中した成果がここに実る。 「第一幕。幻妖降誕」 宿奈芳純は術を唱えて白狐を降臨させる。現れた白狐は牙を剥き、爪を輝かせて攻撃に加わる。 「ここが肝心でしょう。すべてはこの一瞬に」 エラトは再びトランペットで騎士の魂を高らかに吹いた。真っ白な世界にその存在を誇示するが如く勇ましく。 その響きは将門の意見によって一時避難をしていた遠くの村人達の耳にも届いたという。 ぬし様が尾を高みから振り下ろして破鬼の頭を攻撃。雪に破鬼の顔をめり込ませる。 破鬼の足の負傷はすでに回復の片鱗を見せ始めている。倒すのなら今だと開拓者一同は一気に攻め立てた。 喉元に食らいついた宿奈芳純の白狐を破鬼が引き離そうと躍起になる。そのおかげで丸太の棍棒が遠くへと放り投げられた。 将門は今一度の新陰流の刀撃を破鬼の脇腹へと深く突き刺す。さらに力の限り何度も斬りつける。 正面に回った無月はここぞとばかりに近くの岩へと足をかけて高く跳び上がった。そして破鬼の脳天へと唐竹割を食らわす。おそらく瘴気であろう血のような何かが破鬼の頭から吹きだした。 西中島は破鬼の右足が復活しないよう集中して攻撃を加えた。ぬし様に声をかけるとわかってくれたのか一緒にやってくれる。 ぬし様が尾で叩いて破鬼の右足首を押し潰す。西中島は少し離れた位置に立ち、放った真空刃で右腿を切り刻んだ。 水波が行ったのは閃癒による支援。ぬし様の回復をより完璧に、そして傷ついた仲間を癒していった。 エラトは騎士の魂が途切れぬようにトランペットを吹き続ける。 ついに破鬼が力尽きた。身体から力が消え去って人形のようにだらりとなる。そして瘴気へと戻っていった。その様子を開拓者達は少し離れたところから確認した。 エラトがぬし様へと語りかけるかのように心の旋律を奏でる。 頷くような仕草をみせたぬし様は開拓者達に背を向けて歩き始めた。その方角にはぬし様が棲む湖があると開拓者達は後に村人から教えてもらう。 一時避難していた人達も破鬼が倒されたのを知り、村へと戻るのであった。 ●そして 「すべてを任せてしまったな。村に被害はなかったのはさすが開拓者だ」 龍で大型飛空船から降りた巨勢王は村で開拓者達と再会する。 一同は感謝した村人の歓迎を受けようとしていた。巨勢王が現れたところで宴の始まりである。 「アヤカシを惹きつける何かが村にあるのではと考えたのですが‥‥特にないようなのです。人の命や恐怖が好物のアヤカシ故に単に村を襲ってもおかしくはないのですが、それだけとは到底思えません。破鬼を退治して落ち着きましたので村人達も思い出すかも知れませんが今のところ――」 水波は箸へ手をつける前に村人に訊ねた結果を巨勢王に報告した。 「当人達が気づいていない大切な何かが、この村に隠されているのかも知れんな。おっと、わしの事は気にせず呑んで食べようぞ。このもてなしは開拓者の皆に向けてのものであろう」 巨勢王は水波が注いでくれた盃の酒を一気に呑み干す。この時、水波は巨勢王にバレンタインの感謝としてチョコレートを贈った。試しに巨勢王は酒の摘みにしてみる。 水波が使った焙烙玉も含めて後に巨勢王は開拓者達が消費した一般の品を補充してくれた。 「ここの酒はいけますなあ。おっととっと。ほれ今度は俺の番だ。おいおい、妙なつもりはないから遠慮するな」 破顔した無月も酒をぐいぐいと喉へと通していた。村娘の酌で頂く熱燗は格別だといって。 「そうですか。氷が張っている季節にも関わらず、ぬし様は現れたのですか。もしかすると傷のいくつかは厚い氷を無理矢理破るときに出来たものかも知れませんね。教えて頂いてありがとう御座います」 宿奈芳純は明日の早朝、湖まで案内してもらう約束を村人から取り付ける。この地を去る前にもう一度ぬし様に感謝の意を表したいと考えていたからだ。 「さすが山の料理、豪快だな。それに美味い」 西中島は村人が用意してくれた猪料理にかぶりついた。近くで採れる岩塩で包んで蒸し焼きにされた肉は程良い脂のおかげでとてもよい味であった。 「ちゃんと避難してくれていたようだな。勝敗は水物、俺達が負けてからの避難では遅いからな」 将門は感謝する村人から料理責めにあっていた。さすがに全部は食べきれないので仲間へと振って自らは酒を嗜む。 濁酒にはこの地で採れる草が漬けられており、なんともいえないよい香りがした。酒好きの巨勢王や無月にも好評のようである。 「こちらが武天名物の肉料理の一つなのですね」 料理好きのエラトはレシピを想像しながら地元料理を頂いた。今夜は村に泊まるので明日にはアレンジした何品かを作るつもりである。いくつか食材をとっておいてもらえるように頼んだエラトだ。ちなみに朝食として羊の乳で煮込むシチューを作ることになる。 感謝の宴は夜遅くまで続いた。 翌日の昼頃、開拓者達は巨勢王と共に大型飛空船へと戻ろうとする。その去り際に、もしかすると破鬼が狙ったのは湧水ではないかと一人の村人が開拓者達に話しかけてきた。 村人が使うだけでなく下流の川と続いてかなりの人間が恩恵にあずかっているといってよい。また山椒魚が棲んでいるのも、ぬし様が守ろうとした理由の一つかも知れなかった。 乗船が終了すると大型飛空船は村の上空付近から移動を開始する。その時、ぬし様が棲むという湖の上を通過してから此隅へと進路をとるのだった。 |