偽の綾姫 〜巨勢王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/20 22:01



■オープニング本文

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 武天の都、此隅で起こっていた小判が消失する事件の犯人は開拓者達の活躍によって捕まった。
 犯人の名は『清倉』。
 泰国出身の彼が属していたのは旅泰の街『友友』の両替屋。
 友友は武天内に存在する金融が盛んな街だ。友友・両替屋は名こそ貧弱に感じられるものの、銀行といってよい規模を誇っていた。
 両替屋は紙幣流通の泰国と天儀本島などの硬貨を仲立ちするのが主な役目である。
 両替屋の内部にはいくつかの派閥があり、その中の一つに東両派が存在する。清倉が属していたのも東両派なのだが、あろうことかアヤカシと与したという。
 一定の期間を置いて消えてしまう小判を使って武天の経済を混乱に陥れ、その間に東両派が友友・両替屋の実権を掌握しようとの腹づもりだと清倉は証言した。
「うむ‥‥」
 巨勢王はその事実を知ってどのように対処するのかを悩んだ。多額な税を収めさせる代わりに友友に一定の自治を許していたからである。
 無理な介入は武天と泰国の軋轢を生みかねなかった。とはいえ自国の経済が破壊されようとしているのを黙って眺めているのは無能に他ならない。
「父様、どうなされたのじゃ?」
 夕食時、七歳の娘『綾姫』が心配そうに巨勢王を見つめる。ガラにもなく思い悩んでいたのが透けてしまっていたようだ。
「何でもないぞ。ホラ!」
 目の前の膳に置かれていた武天名物の肉料理をがぶりと食する巨勢王だ。
「‥‥そうだ、姫よ。父のために少し働いてもらえぬか?」
「かまわぬが‥‥何をすればよいのじゃ?」
「しばらく外出を控えてもらえればそれでよい」
「それでよいのか?」
 巨勢王は当分の間、城から出ないよう綾姫に頼んだ。
 綾姫を拐かした賊が潜伏しているのを理由にして、友友に踏み込む大義名分を作ろうと巨勢王は考えていた。
 もちろん綾姫はそっくりな偽者。賊が拐かした事実も偽。贋の小判に対しての意趣返しも含まれる。
 たくさんの配下に綾姫を探させるふりをさせて、東両派とアヤカシの繋がりの証拠を押さえる算段。偽の綾姫を拐かす役目は秘密裏に集めた開拓者に任せるつもりである。
 正月が明けて作戦は決行されるのだった。


■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102
26歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
水波(ia1360
18歳・女・巫
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
将門(ib1770
25歳・男・サ
朱華(ib1944
19歳・男・志
華表(ib3045
10歳・男・巫
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●友友
 武天の地にある友友。
 天儀本島最大の武天において、首都此隅をも上回る程の金融業が盛んな街。巨額の税を国庫に収める代わりに自治権を含めた優遇措置を受けている地域でもある。
 特権を許しているとしても派閥争いにおける武天への裏切り行為を巨勢王が看過できるはずもなかった。アヤカシが絡んでいるとすればなおさらだ。
 友友の街に隣接した飛空船基地へ一隻の中型飛空船が着陸する。
 真っ先に飛空船を降りて大地に立ったのは一人の少女。
「さて、ここからだね。気を引き締めるつもりだよー。おっと‥‥ここからはわらわじゃ。それでは皆の衆、行こうかの」
 蒼井 御子(ib4444)は偽の綾姫役を演じる為に髪を黒く染めていた。耳は髪型と簪などの装飾を工夫して隠す。吟遊詩人たる武装は外していたが、着物の奥にブレスレッド・ベルだけは忍ばせる。
「日差しはどのように? 姫‥‥じゃなくお嬢様」
 無月 幻十郎(ia0102)が持っていた番傘を開いて蒼井御子の頭上にかざす。
「傘の出番は雨が降るまで待とうぞ。さすがにこの冬空ではな。気になるのならそちが庇になるがよいぞ」
「ははっ」
 無月は番傘を引っ込めると蒼井御子にピタリとついた。周囲の視線から偽の綾姫たる蒼井御子を隠すようにして、逆に怪しい行動をわざととる。
「あれは何じゃ?」
「飛空船基地の敷地を利用した楽市楽座だそうです。姫様」
 蒼井御子に答える紙木城 遥平(ia0562)は身嗜みを整える為の専属侍従として振る舞う。櫛や化粧を始めとした道具類も持ち歩いていた。義耳を用意したのも紙木城であった。
「少し観て参りましたら如何でしょう。各地からの物産が多く取り扱われていると聞いております。舶来の珍しい品に巡り会えるやも知れませんし」
 水波(ia1360)は事前に調べてきた知識を使って市を案内をする。噂話が大好きな商人が集う場所は目立つのにうってつけである。
「美味そうじゃの。この焼き栗は」
 蒼井御子が焼き栗の香りに誘われる。
「そうですね。ではここにあるすべての栗を所望しましょう」
 ジークリンデ(ib0258)の言葉に店主が驚きの表情を浮かべた。
「いや、さすがに持ちきれませんので三袋が適当かと。それでよろしいでしょうか? あ、綾姫さ‥‥ま!?」
 店主に聞こえるか聞こえないかの声で西中島 導仁(ia9595)が蒼井御子に囁く。
「うむ。それがよいぞ」
「では店主殿、こちらを」
 蒼井御子の了承を聞いた隣りで聞いていた無月がずっしりと重たそうな革袋から代金を小判で支払う。釣り銭はいらぬと付け加えて。
「それでは失礼致します。お役目、務めさせて頂きます」
 焼き栗を受け取ったのは華表(ib3045)。つけていたもらふの面を少しずらして先にいくつか栗を食す。緊張気味の行動は毒味役そのものである。
「店主よ。この友友で他に美味いものが食べられる店を知らないか? 金に糸目はつけるつもりはない。高級なほどよい。あちらにいらっしゃるのは止ん事無き姫様だからな。おっと内密に頼むぞ」
 一行から少し離れて行動していた将門(ib1770)だが、この時ばかりは近づいて店主に対して大げさに振るまった。
「ああ‥えーと‥何というか偉い人の護衛であるのは間違いないんだ。やたらなところに泊める訳にもいかないので、良さそうな宿も教えてもらえないだろうか?」
 朱華(ib1944)も将門に加わって綾姫を連れたらしき一行であるのを店主にわざとひけらかす。内緒にしてくれと頼んでみたが店主にその気配は微塵も感じられない。それこそが狙いだ。
 飛空船を店舗にした楽市楽座を一通り見て回った偽綾姫一行は友友の繁華街へと足を運ぶのであった。

●宴
 友友の街を見学した後で偽綾姫一行が辿り着いたのは老舗料亭。一見さんお断りのところを袖の下に忍ばせた小判でごり押ししたのである。
 豪遊を決め込むにはこの店を外す訳にはいかなかった。友友・両替屋に関わる商談が行われているともっぱらの評判であったからだ。
 ここで綾姫の存在を印象づけられたのなら両替屋に話が伝わるのは確実のはず。老舗料亭の口が堅いといってもそれは世間に対しての事。贔屓の客である両替屋に耳打ちしないはずがなかった。
 宴が繰り広げられたのは、廊下から三つの部屋を経なければ辿り着けない奥の広間。途中の部屋で将門は胡座をかいて酒と食事を頂いていた。
「この料亭の守りはちゃんとしてますえ。蟻一匹、入る隙間もありゃしませんぇ。あんさんもあちらで遊ばれたら?」
 舞子が一人、将門の杯に酒を注いだ。
「いや、あの姫はそこらのお大尽とは格が違うお方なのだ。ま、好きにやっているから気にしないでくれ」
 酔わない程度に酒を嗜む将門は、襖の隙間から洩れてくる隣りの灯りを眺める。
「美味しいのお〜」
 偽の綾姫こと蒼井御子は豪華な料理を満喫していた。内陸部にある友友で山の幸が出るのはそれほど珍しいものではない。しかし干物にされていない魚介料理は別だ。さらに刺身となれば幻と勘違いしてもおかしくはなかった。その幻が宴の席には並んでいた。
「こちらもお食べになって平気です」
 華表は毒味役をこなしながら豪華な食事を楽しむ。特に用意された甘いあんこ入りの料理を食べてもふらの面の下に隠れた顔を綻ばせた。
(「今のところは平気のようだが‥‥」)
 窓際に座る朱華は常に外の様子を気にかけていた。
 偽綾姫一行は知る由もないが、夕暮れ時に巨勢王の配下六十名が三隻の飛空船に分かれて友友に到着している。報が伝えられ、両替屋が誘拐されたといわれる綾姫の捜索をし始めるのは翌朝からであった。
「あ、綾姫さ‥‥‥いえ、お嬢様はリンゴの果汁が飲みたいそうなのだ」
「え?」
 舞子の一人に追加の料理を頼んだのが西中島。コホコホンとわざとらしい咳払いをして綾姫の名を出したことを誤魔化そうとする。舞子は一瞬、怪訝な表情を浮かべるものの、すぐに笑顔に戻った。
「そこのお姉さん。明日もこの街を遊覧するつもりなんだが、よい店を知らんかね? 綾ひめ‥いや、お嬢様が好きそうな菓子屋とか。ついでに銘酒が手に入る店も教えてもらえるかな。はっはっはっは」
「お菓子とお酒でやんすか?」
 杯を手にする無月もさりげなく綾姫の名を出してみる。
「それでは一献、踊らせて頂きます」
「一緒に舞わせてさせて頂きますね」
 巫女である紙木城と水波は舞子と一緒に場を盛り上げた。
「せっかくです。わたくしも」
 同じく巫女の華表も踊る一幕もあり、宴は盛り上がったまま最後を迎える。
「宿までの籠をお願いします。こちらは気持ちですので」
 ジークリンデは立ち上がると女中に一行が乗るための籠を頼んだ。その際、手間賃として小判を握らせて女中を驚かすのだった。

●追跡者
 滞在二日目。午前の間は地元で有名な菓子、射的屋、歌舞伎などを楽しんだ偽綾姫一行であった。しかし午後になって事態は一変する。
「待て! そこの者等!」
 路地裏を駆ける二つの集団。
 先を駆けるのは偽綾姫一行。追い駆けるのは謎の集団。
「ついに嗅ぎつけられたみたいだねぇ」
 無月は迫る者達の言動から察して両替屋の東両派だと断定する。その考えに反対する仲間はいなかった。
 逃げているうちに水路と並ぶ道へと突き当たる。
(「頃合いだろう」)
 西中島の目配せによってここが戦いの場となった。
 とはいえ手応えからいって東両派の追っ手は普通の者達。みぞうちに軽く拳を入れて動けなくしたり、水路へと放り込んで戦意を消失させてゆく。
「離れて見張るのはここまでだな」
 屋根を伝って遠くから監視していた将門も戦いに参加する。
「姫を狙う者は‥‥これで全部か」
 一通り片づくと朱華は近くに隠れている敵がいないか心眼で確かめた。
「綾姫様、お怪我は?」
「大丈夫じゃ。どこも痛うない」
 水波の心配にくるりと回ってみせる偽綾姫役の蒼井御子。そのやり取りをまだ意識がある東両派の者達へと見せつけた。
「これからは騒がしくなりますね。少し彼らに教えてもらいますか」
 紙木城は倒れている者の中から適当に選んで東両派が関連する施設の位置を訊ねた。嘘をつかれるかも知れないのでかまをかけながら複数人に。
「少し治療をしておきます」
 華表は怪我の具合が酷い者のみだけに神風恩寵を施しておく。元気になってまた追われるのも何なのでそれなりに。
「少なくとも友友にもアヤカシが何体が潜んでいるようですね」
 ジークリンデもいくらかの情報を倒れている東両派の者達から聞き出した。
 それからしばらくは往来を闊歩していても東両派の者達に追われることはなかった。しかし賑やかな場所から外れるといきなり襲われる。当然、軽くいなして偽綾姫一行は事なきを得た。
 宿をとれば周囲に迷惑をかけるのは必至だと感じた一行は、小屋の一つを内緒で借りて一晩の夜露をしのいだ。立ち去る際には少々の金子を置いて。
 豪華な一日目とはうってかわった夜を過ごす偽綾姫一行であった。

●最終日
 追われているのは分かっていたが、三日目ものんびりとした態度で偽綾姫一行は街を散策する。
「む。秘密の旅行中であった。すまぬな。これで足りるかの?」
 目立つ一行故に理不尽な因縁をつけられる場合もあったが、蒼井御子は金で解決を試みた。昔観た金持ちはそうであったと。大抵はそれで片づくが中にはそれですまない者達もいた。
 少々懲らしめて尋ねると何者かに頼まれたとゴロツキ連中は吐く。東両派だろうと察しがついたものの、無理に探すことなくゴロツキ連中を開放する。
「そうなのか。大変なのだな」
 西中島が焼き芋を買う時に耳にしたのは、巨勢王の配下が綾姫を攫った賊を探すために友友へやってきているという噂だ。それは大義名分で今頃両替屋内に蔓延る東両派の壊滅にあたっているのは想像に難くなかった。
 その直後に巨勢王の配下らしき集団とすれ違う一幕もあったのだが、話しかけられもせずに通り過ぎてゆく。
 昼食を済ませた一行は蒼井御子の提案である場所に出向いた。そこは現在の敵といってよい相手の本拠地。友友・両替屋である。昨日立ち寄ろうかどうか迷ったのだが、敵に動きがあったのでやめたのである。今日訪れたのはだめ押しの為だ。
 偽綾姫の蒼井御子は自ら両替を試した。
「持ち合わせているのが小判ばかりでな。街で使いやすいように崩して欲しいのじゃ」
 最初は正体がわからなかった受付だが、将門と水波のやり取りではっと気が付いたような表情を浮かべる。
 少々お待ちをといって受付が席を外す。嫌な雰囲気を感じ取った一行は素早く外へと逃げた。案の定、追っ手が現れる。
 追われるのを覚悟していた一行はさっさと駆け出す。
「少し多すぎますね」
 裏道に入った時、ジークリンデは立ち止まってアイアンウォールの壁を出現させた。追っ手は隙間を通り抜けねばならず一気に渋滞する。
「さすがに本部。手応えのある用心棒もいるようだ」
 いきなり頭上から飛び降りてきた者のクセのある拳を将門は紙一重で避ける。身のこなしは泰拳士。そして志体持ちに違いなかった。
「しばしお待ちを」
 紙木城は順に仲間へと加護結界を施す。それが終わるといつでも白霊弾が放てるようにと身構えた。
「今のところ、アヤカシはいないようです」
 水波は瘴索結界で得た結果を仲間へと報せる。
「姫はこちらに」
 朱華は身体全体を盾にして蒼井御子をかばう。
(「まだ大丈夫のようですが‥‥」)
 華表はいつでも仲間を癒せるようにと蒼井御子の側に付き添いながら周囲を窺う。
「無礼もの!! 万が一にも姫に怪我があったどうするつもりだ!」
 刀で攻撃を払いのけた無月は大声で敵を威嚇した。
「よし! こっちだ!!」
 真空刃を当て、敵の陣形に隙を作った西中島が叫んだ。
 両替屋内の東両派が少なくなればなるほど巨勢王の配下達の調査はやりやすくなる。その為には出来る限り引きつけて両替屋から遠ざけるのがよいと一同はすでに話し合っていた。
 人通りの多い往来は避けながらの移動。志体持ちの泰拳士の追跡は執拗で何度となく不意打ちを食らう。とはいえ偽綾姫たる蒼井御子には指一本触れさせはしなかった。
「綾姫、こちらに!」
「何をするのだ!! この国の姫なるぞ!!」
 逃げる途中でも開拓者達は自分達が綾姫一行を世間に知らしめる。言葉の節々に『綾姫』を指す言葉を織り交ぜて。
 友友の人々にとって一行が綾姫を攫った賊に見えたのか、それとも漫遊の一行に見えたのかについては様々な意見が後に残った。しかしそれは些末な事であって肝心なのは巨勢王の配下達が東両派に圧力を加えられたかどうかだ。
 偽綾姫一行が友友の街中を大暴れをしている間に、各施設への立ち入りや資料が押収されたという。直後に友友の重鎮が招集されて、アヤカシが作ったと思われる偽の小判の監視体制が用意される。この辺りの速やかさは巨勢王が東両派に反目する派閥へと根回しをしておいた結果だ。
 夜の帳が下りようとしていた頃、偽綾姫一行は飛空船基地に辿り着く。そして用意されていた一隻の中型飛空船へと乗船する。
 乗馬や駆け足で飛空船基地へとなだれ込んでくる両替屋の手の者達。取り囲まれながらも宝珠の照射を輝かせながら中型飛空船は夜空へと飛び立つ。
 終わったと船内で安心する偽綾姫一行であったが、さらに軽い一波乱が起こる。友友上空を離脱中に接触事件が起きたのである。掠めた程度で船体に破損はなかったのだが。
 すぐに水波が瘴索結界で探ってみたものの、すでに感じられる範囲に相手はいなかった。

●そして
 此隅へと戻った偽綾姫一行は、城で巨勢王から話を聞く機会を得る。その場には本物の綾姫の姿もあった。
 小判消失が確認されて、東両派は両替屋内で完全に失墜。他派閥からの粛正が行われるようである。アヤカシとの密約は泰国であってもあまりに重い罪であろう。
 死罪を畏れて逃亡した東両派の重鎮も何名かいるようだ。中型飛空船に接触した何かにその者達が乗っていたのかも知れなかった。
 巨勢王と綾姫から礼をいわれた開拓者達は城でゆっくりと一日を過ごす。そして真夜中の零時に精霊門を使い、神楽の都へと戻ってゆくのだった。