盗まれた宝珠〜春華王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/12 16:45



■オープニング本文

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 泰国は天儀本島と離れた地。嵐の壁によって隔たっていたものの、今では飛空船での往来が可能である。多数の群島によって形成され、春王朝天帝と諸侯によって治められていた。
 帝都の名は朱春。
 春王朝天帝の名は春華王。十一歳の時に帝位に就き、今はまだ十四歳の少年である。


 朱藩の首都、安州にある飛空船基地。
 近郊に建つ高鷲造船所で建造中なのは常春が注文した大型飛空船だ。
 常春とは春華王の仮の名。お忍びで旅をする間は地方の老舗お茶問屋『深茶屋』の御曹司として振る舞っていた。
 正確にいえば資金は提供したものの造船の発注者は常春ではなかった。若さから様々な憶測を生まないように開拓者の一人が代わってくれたのである。完成したのなら譲渡すればよい。
 お飾り同然とはいえ一国の王である春華王ならば飛空船は何十隻も所有している。しかし欲していたのは常春としての飛空船。嵐の壁を突破し新大陸へ向かうのに必要な飛空船だ。
(「うーん。『春運』がよいかな。『春暁』って二人がつけてくれたのもいいし、『薫風天駆』は響きがいいよね。『寿限無ム』は面白い感じ。『麗しき常春号』はちょっと恥ずかしいけど――」)
 春華王は飛空船の名をどれにしようかと迷いながら、天帝宮の青の間で日々を過ごしていた。何度も扇子を開いたり閉じたりしながら。それは同時に飛空船の完成を待ちわびる姿でもある。
 だが春華王は知らない。
 順調に行われていたはずの飛空船建造が滞っていたのを。


■参加者一覧
紅(ia0165
20歳・女・志
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
純之江 椋菓(ia0823
17歳・女・武
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
奈良柴 ミレイ(ia9601
17歳・女・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
将門(ib1770
25歳・男・サ
朱月(ib3328
15歳・男・砂


■リプレイ本文

●驚き
 泰国の帝都、朱春で常春と落ち合った開拓者十名は飛空船に乗船して朱藩の首都、安州を目指した。
 数日後、安州の飛空船基地へ辿り着いた一行はその足で近郊の高鷲造船所を訪ねる。この造船所では常春の大型飛空船が建造中であった。
 造船所内に立ち入った瞬間、常春一行の誰もが眼を見開いた。
「常春くんの夢の架け橋なのにゃ☆」
「その通りです。この翼は‥‥ずっと欲しかったもの‥‥」
 パラーリア・ゲラー(ia9712)が常春の右掌を両手で握り、ぶんぶんと振り回しながら一緒に喜んでくれる。
 大型飛空船の外観は殆どが出来上がっていた。首を大きく動かさなくては全体が見渡せない程の巨大さである。
(「もしこれほどの大きさのG様がいれば天儀本島すらも‥‥」)
 安州に辿り着くまでにG様布教を続けてきた剣桜花(ia1851)は、ごくりと喉を鳴らしながらよからぬ想像を巡らせる。
「常春、すごい船だよね。こんなのだったらどこでもいけそうだね」
「まず目指したいのは新大陸だけど、いろんなところに行ってみたいです」
 黒狼の獣人である朱月(ib3328)は常春と一緒に飛空船へ近づいて触ってみた。
 ちなみ常春の正体が春華王なのは開拓者に伝えていない秘密である。なので何も知らない朱月は極普通に常春と接している。初対面から気心が合った二人だ。
「あ、あのですね‥‥。実は――」
 しばらくして額に汗を浮かべた高鷲造船所の責任者が職人一名を連れて常春一行に話しかける。非常に話しにくそうで何度も言い直し、数分してからようやくいわんとしていた内容が常春一行に伝わった。
「そんな‥‥」
 常春は持っていた扇子を床に落とす。責任者によれば開拓者達が頑張って集めてくれた宝珠のうちの二個が泥棒に盗まれたのだという。
(「よりにもよって常春君の飛空船に手を出すとはな」)
 将門(ib1770)が振り向くとそこには落ち込んだ様子の常春の姿がある。
「いかな事情であれ、人様の物を奪っていい道理はありませんっ。必ず宝珠を取り返しましょう!」
 純之江 椋菓(ia0823)は扇子を拾うと常春に手渡す。
「そうですよね。くよくよしていても何も解決しませんし。盗まれたのはその二個の宝珠だけでしょうか?」
 常春は詳しい事情を職人に訊ねた。
 泥棒は二人組で窓から侵入した様子からどちらも非常に身軽。一人はひげ面の浪人風、もう一人は女性のようだが顔まではわからなかったらしい。
「みんな楽しみにしてた飛空船の完成を、私利私欲の為に邪魔するなんて、絶対許せないんだからっ、プンプン!」
 先程まで大きな瞳をさらに開いて吃驚していたルンルン・パムポップン(ib0234)が、今度は怒りが沸いてきた。
 とはいえそれだけでは何も始まらない。ルンルンはパラーリアと一緒に用意されていた似顔絵へさらに注釈を加える。女性については顔がわからないので容姿のみである。
「第三次開拓が騒がれるようになってから、大小の賊の動きも活発になっているのは存じておりましたが‥‥」
 似顔絵の一枚を手にとって眺めながらフレイア(ib0257)が呟く。
「後は‥‥宝珠だけ?」
「宝珠以外にも一部の施工は残っています。内装も完全ではありませんし。ただこれらは一週間もかからずに終わる予定です」
 柚乃(ia0638)は気になっていた点を責任者に質問した。
「完成はもうすぐ‥‥なんとしてでも取り戻さないとね」
「そうですね。みなさんと一緒ならきっと何とかなります」
 柚乃は盗みなんて許せないと常春に告げながら胸元で両の拳を強く握りしめる。
「飛空船は私達の楽しみでもある。なにの宝珠を盗み出した、だと。ふざけた奴等だ」
 紅(ia0165)は似顔絵を握りしめると造船所を真っ先に飛びだした。『必ず取り戻し、後悔させよう』と声を発しながら。
 開拓者達は各々の考えにそって行動を開始する。
(「子供達から話しを訊いてみようかな」)
 奈良柴 ミレイ(ia9601)も似顔絵を片手に安州の繁華街を目指す。
 それと泥棒二人のとは別にもう一枚、似顔絵を手にしていた奈良柴だ。それは泰国から朱藩に来るまでの飛空船内で描いたもの。奈良柴と同じく行方不明の常春の兄に興味があったパラーリアと共同で仕上げた似顔絵である。
 兄の似顔絵はほんの少しだけ常春が年齢を重ねた感じに仕上がっていた。唯一目立って違うのはいつも笑っている感じの細い目だ。しかしこれには注釈が必要である。
 常春と兄との年齢差は六歳。そして常春が兄を最後に見たのは十一歳の頃。つまり似顔絵に描かれた兄は十七歳の容姿だ。
 現在の常春は十五歳なので兄が生きているとすれば二十一歳のはず。兄の似顔絵をそのままを信じてはいけなかった。
 それともう一つ。常春は肝心な兄の名前を語ろうとはしない。あまりに困った様子だったので奈良柴もパラーリアも深く追求はしなかった。

●造船所内
 高鷲造船所では常春と一緒に柚乃、朱月、純之江、将門が待機していた。
 宝珠探しには危険が伴いそうなので安全を考えてだ。場所についてはいろいろと意見が出たのだが最後は常春の希望を通したのである。
「坊ちゃん、宝珠は絶対私達で取り返してきますから、その間にゆっくり飛空船の名前でも考えててください〜」
 元気に窓から外に飛びだしていったのはルンルン。何故窓からなのかと問われれば、おそらくニンジャだからであろう。
「必ず取り返すからっ。あたちしたちはトモダチだもん☆」
 そういって常春達と一緒に『お〜!』と景気づけをしてからパラーリアも出かけてゆく。
「皆が行方を捜しているところですから‥‥ひとまず今は待ちましょう。はい、お茶ですよ」
「ありがとう、純之江さん」
 純之江は湯飲みを常春の前にある卓に置いた。
「常春クン、船の名前は決まったの‥?」
 飛空船の名前が気になっていた柚乃が常春に訊ねてみる。
「えっと『春暁』にしようかなと思っている。大型飛空船『春暁』だね」
「そうなんだ」
 柚乃はなるべく常春の話し相手を努めようとしていた。ちなみに『春暁』の命名者の一人、純之江はとてもニコニコした様子である。
「この団子、美味しいよ。常春にも分けてあげるよ」
 造船所の責任者から差し入れられた団子を真っ先にもぐもぐと食べていたのが朱月。行儀が悪いのではなく、率先して毒味役を買って出た結果だ。自分の過去からいっても暗殺については常に注意すべきだと考えていた朱月である。
「常春君、少し出てくるからな」
 将門は団子を一串頂いて椅子から立ち上がった。
 散歩がてらに他の造船所で怪しい動きがないかを知るためだ。あくまで念のためで、どちらかといえば常春の身辺警護に注力するつもりである。
 外に出ていった仲間達が泥棒の情報を調べ尽くすまでには時間が必要だ。それまでの間、造船所内の掃除などを手伝う一同であった。

●囮
「断じて許すまい‥‥見つけたのならどのような目に遭わせてやろうか!! いや、すまない。つい思いだしてしまってな」
 紅は宝珠を扱う商人のところを回り、犯人探しを行っていた。怒りをあらわにしていたのはわざと。すべては宝珠を手に入れる形で泥棒二人を探しだそうとしている仲間の手助けだ。探している者がいると知れば泥棒二人も焦るに違いないと考えたのである。
 その為には出来るだけ広範囲に噂を流さなくてはならなかった。
 一通りの商人の元を訪ねた後は、ゴロツキ共がたむろする胡散臭い酒場で存在を知らしめる紅だった。

●昼間の酒場近く
「よし。そっちいったぞ!」
「通すな! 守れ!!」
 賑やかな裏道。奈良柴は球を蹴って遊ぶ子供達を眺める。
 場所は安州の飲み屋街周辺。球『ともだち』は奈良柴が貸したものだ。
「これを見てくれる? この二人、知ってたら教えて」
 仲良くなってから奈良柴は似顔絵を見せながら子供達に話を切り出す。何となく覚えのある子もいたようだが、他人のそら似の場合もある。
 詳しく子供達から聞きながらいろいろな場所を訪ねる奈良柴だ。浪人風の男とそれらしき女性が一緒にいた証言も存在していた。
 球は子供達にあげたのだが、後で常春が同じものを奈良柴にくれる。またかかった駄賃についても常春は用意していた。
 得られた情報は造船所に戻った時に仲間へと伝えられるのだった。

●酒場 その一
「ちょっと聞いておくれよ、そこの旦那。このご時世、飛空船の一つでも欲しいと思っているんだが、いい話は知らないかい?」
 暮れなずむ頃の酒場内。剣桜花はいつもと違う口調でガラの悪そうな連中に声をかける。足下の裾をわざと乱れさせながら。
「そりゃ出来合の飛空船を買うのが手っ取り早いさ。でもさ、せっかくなら設計から気に入った船に仕上げたいし、何より訳有りなんでね。金払いの心配は無用だよ、ほら」
 宝珠が欲しいのをほのめかしながら、剣桜花は床にわざと貨幣をばらまく。
(「常春さんのいう通り、両替屋でお金も手に入りましたし。後は賊が見つかれば‥‥」)
 黒服をまとい、顔をベールで隠したフレイアは剣桜花の様子を少し離れた卓で眺めていた。
 両替屋で得た残りの見せ金は後で剣桜花が造船所の職人に頼んだ箱に収めるつもりである。交渉の際に囮として使う予定であった。

●酒場 その二
「そんな話を持ちかけられたんですかっ」
 ルンルンは飛空船の関係者が集まる酒場を選んで探りを入れた。誰もがあまり話したがらないので苦労したものの、いくつかの情報が手に入れる。
 宝珠を売ろうとしていた女性が昨晩この店に来たという。すぐにも換金したい様子だったそうだ。ただ、話しに乗ってくる客が誰もいなかったようで再びやってくる可能性は低かった。
「こんな感じですっ?」
 それはそれとして取引の相談を持ちかけられた相手から聞いて女性の似顔絵を完成させたルンルンであった。

●秘密
 飛空船建造の作業が終わる夕方。
「ちょっとお話しを聞かせて欲しいのにゃ‥‥にゃ〜?」
 パラーリアが声をかけただけで高鷲造船所に務めるその職人は逃げ出した。
 職人は飛空船技師の鎚乃助が教えてくれた人物。泥棒騒ぎがあってから仕事を休みがちで様子が変だったらしい。
 志体持ちのパラーリアにとって普通の人間を捕らえるなど造作もなかった。あっという間に追いついて観念させる。そして事情を聞いた。
 その職人は以前、酒場で建造途中の飛空船の自慢話をしたのだという。その相手がどうやら泥棒二人組とそっくりであったようだ。気づいてからというもの、どうしたものかと悩んでいたと吐露する。
 職人が盗みそのものには関わっていないのを確かめた上でパラーリアは内緒にする約束した。その代わりに知っているすべてを聞かせてもらうのだった。

●取引
 常春の安全を計る為に尽力したのが柚乃、純之江、朱月、将門。
 紅の動きによって何処にいるやも知れぬ泥棒は焦る。
 奈良柴の情報で調査の範囲が狭められた。
 ルンルンによって泥棒の女性の容姿が判明する。
 剣桜花とフレイアは仲間の情報によって泥棒二人と接触する機会を得た。
 ここで一本の糸が泥棒二人と繋がった。そしてパラーリアが得た泥棒二人の人物像を鑑みて対策が修正される。
 安州に到着してから三日目の日中。
 造船所に残る常春の警護は柚乃と奈良柴が担当する。他の八人が向かった取引現場とは人通りの多い賑やかな往来であった。
 使い走りといった感じの酒場で知り合った男が指示した場所だ。見せ金で別所を希望してみたが、これだけは相手側も譲らなかった。
 最初に確認すべきなのは今回の取引相手が本当に泥棒二人組なのかに尽きる。秘密裏に宝珠を売りたい相手だからといって必ずしも問題の泥棒二人組とは限らない。もちろん使い走りの男に探りを入れて特徴は間接的に確認済みなのだが。
 純之江は見せ金が詰まった箱入り袋を重たそうに抱える演技をしながら彷徨いた。一人で来るようにといわれていたが剣桜花とフレイアも人混みに紛れてすぐ側に待機する。
 路沿いの屋根上にルンルンと共にいたパラーリアは、純之江に近づこうとしている女が泥棒の特徴とそっくりなのを確認した。
 伝える方法として使われたのが手紙付きの手裏剣である。ルンルンが放った手裏剣が剣桜花近くの軒に突き刺さる。
 女の導き通りに純之江は一軒の射的屋へと入ってゆく。追いかけたい気持ちを抑えて開拓者達は合図を待つ。
 すぐに非常に甲高い音が射的屋から聞こえる。それは泥棒二人組が揃った時に鳴らすとされたもの。純之江が仲間から借りた呼子笛の響きであった。
 フレイアと剣桜花が射的屋へと飛び込んだ。
 ルンルンとパラーリアは射的屋に隣接する建物の屋根へと分かれて移動し、高見からの監視を続行する。
 離れて待機していた紅、将門、朱月は急いで射的屋を地上から取り囲んだ。
 射的屋の中では大立ち回りが始まる。
 純之江はお金が盗られないように退く。
 剣桜花が浪人風の男から宝珠の一個を奪い返す。フレイアは窓から逃げだそうとする女をアムルリープで眠らせて捕縛に成功する。
 宝珠一個を握りしめた男が射的屋から飛びだすのを目撃したルンルンは大声で知らせながら追いかけた。パラーリアは確認のために射的屋内へと入る。
「覚悟はいいな!」
 紅は男が逃げられないように立ちふさがった。追いついた朱月が隙を見て宝珠一個を身体を捻りながら舞うように男から奪い返す。
 よじ登って逃げようとした男だが塀の影には将門が隠れていた。
「ま、盗みで儲けようとするからこういう目にあう。自業自得さ」
 刀を抜いた将門はあっという間に男を地面へと叩き落とすのだった。

●そして
 宝珠二個はその特徴から間違いなく高鷲造船所から盗まれたものだと判明する。目撃された容姿からいっても捕まえた男女は泥棒二人組で間違いなかった。
 泥棒二人の処遇は安州の官憲に委ねられる。
 宝珠二個が戻ってきた事で職人達も奮起し、予定より早く大型飛空船『春暁』は完成した。
「完成か。よかったな、常春」
「本当に‥‥よかったです。もうすぐこれで」
 紅は隣で『春暁』を見上げている常春の肩を軽く叩いた。
 他の仲間達も一緒に新造の大型飛空船を見上げるのだった。