文献 〜春華王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/09 00:46



■オープニング本文

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 泰国は天儀本島と離れた地。嵐の壁によって隔たっていたものの、今では飛空船での往来が可能である。多数の群島によって形成され、春王朝天帝と諸侯によって治められていた。
 帝都の名は朱春。
 春王朝天帝の名は春華王。十一歳の時に帝位へと就き、今もまだ少年であった。


 曾頭全と深い関わりのある旅泰『火樽』の蔵十二棟に納められていた武器は、開拓者達の協力によって秘密裏に葬られる。
 破壊や延焼によってすべて使い物にならなくなったはず。これで曾頭全の企みすべてが阻止出来たわけではないが、かなりの時間稼ぎになったと考えられた。
「それは本当なのか?」
 天帝宮。春華王たる常春は誰もいないはずの湯殿で呟いた。
 背でもたれている岩を通じて常春にのみ声が伝わるよう細工が施されていたのである。報告していたのは天帝直属の諜報を得意とする僕だ。
 泰国には大学が存在する。
 常春は天帝宮のものだけでなく大学に保存された資料からも曾頭全の実体と過去を探らせていた。
 かなり以前に一通りが終わって今は二度目の最中に驚きの事実が判明する。実は各地から書物を収集した際に所蔵を外れた書物が多数あるらしい。
 外した理由などは目録の紛失によってわからなくなっていた。そもそもこの事実が日の目をみたのは図書室の棚の裏に落ちていた数枚の書類によってである。
 陰謀のにおいがするものの、今は無視して常春は話しを続けた。
「その場所は?」
「南部の官僚、深山家の敷地内にあるようです。地下蔵がありますので、そこにあるかと思われます。現在は使用人十名が留守を守っている状態なのですが‥‥」
「どうかしたのか?」
「我々で潜入を試みたのですが失敗に終わりました。その十名の男女、ただの気のよい者達に見えますが全員が志体持ち。それもかなりの手練れでありまして」
「その者達にこちらを勘づかれたということか?」
「いえ、単なる盗人だと判断しているはずです。警戒を少々強めている程度でしょう」
 長い時間、常春は諜報の僕と話す。
 地下蔵のある敷地は町中で衆人環視の元にあるといってよい。それでも大量の資料を閲覧、または手に入れなければならなかった。
 数日間、考えた末に常春は所蔵の書物の奪取を選択する。
 春華王として手を回せば入手は可能だろうが世間にばれてしまうであろう。曾頭全の耳に入ったら大事といえる。
 朱春ギルドを訪ねた常春は懇意の開拓者達に連絡をとるのであった。


■参加者一覧
伊崎 紫音(ia1138
13歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
朱華(ib1944
19歳・男・志
ヤリーロ(ib5666
18歳・女・騎
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ
中書令(ib9408
20歳・男・吟
松戸 暗(ic0068
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●緊張の時間
 深夜の泰国南方上空。
 超中型飛空船『春嵐号』は闇に紛れて飛行中。
 闇夜の鴉如く地上から目視するのはまず不可能な溶け方なのは、パラーリア・ゲラー(ia9712)の案によって沼地に激しく着水して泥を被っていたからである。
 泥が乾いてもわずかに色が薄くなる程度で船体表面は充分な暗色を保っていた。但し、あまり長くは保ちそうもない。激しい震動があればそれだけで剥がれそうな状態ともいえる。
 突撃の時が来るまで春嵐号は深山家の地下蔵が存在する泰国南部の椒町まで一分もかからない上空を旋回していた。
 地下蔵の正しい位置を探るためにルンルン・パムポップン(ib0234)、ライ・ネック(ib5781)、松戸 暗(ic0068)の三名が先行して椒町内に潜伏中である。
「町の様子はどう?」
「今のところ、静かだよ〜。時間に余裕があるからお茶でも淹れるのにゃ♪」
 作戦中、パラーリアは常春に頼まれて春嵐号に残ることに。猫又のぬこにゃんは空いている席で丸まってお休み中だ。
「隠さなければいけない資料ってどんなものなのか、すごく怪しいですね」
 伊崎 紫音(ia1138)は強攻着陸後の春嵐号の防衛を担当する。強風に晒されながら炎龍・紫と一緒に甲板上で待機していた。
 甲板には中書令(ib9408)と駿龍・陸の姿もある。
(「時間制限はありますが、敷地内にいる全ての護衛戦力を無力化することは不可能ではありません。寝てしまえばこちらのものです‥‥」)
 中書令は夜の子守唄を敵に聴かせて眠らせ、無力化してしまおうと考えていた。そのためには駿龍・陸の機動力が不可欠といえる。
 朱華(ib1944)は握り飯で腹を満たしながら薄暗い乗降口近くで時計を気にしていた。
「そろそろのはずだが‥‥。ま、胡蘭ならきっと平気だろう」
 ちなみに朱華の朋友『猫又・胡蘭』は先行のシノビ三名に同行中である。
「これでいつでも突入できます」
 ヤリーロ(ib5666)は船倉内にあった。ケースから取り出したアーマー・ノッカーの胴に触れながら見上げる。
 アーマーの起動には少々の時間がかかり、また待機中にもわずかながら練力を消費してしまうので乗り込む見極めが肝心といえる。艦橋からの伝声管による指示には常に注意を払うヤリーロだ。
 その頃、椒町では深山家の敷地内にシノビの三名が潜入を試みようとしていた。
「すみません。夜分にすみません。いらっしゃいますでしょうか?」
 薬売りの格好に扮した松戸暗が門の金具を叩いてしばらく待った。すると中から門に併設された小部屋から中年男性の使用人が出てくる。
「当家に何用でしょう?」
 物腰柔らかい中年男性だが身のこなしに隙がない。松戸暗はそう感じた。足下にいた忍犬・太郎が中年男性の顔を見上げて構える。
「夜分に申し訳ないのですが、薬を少々買って頂けないでしょうか?」
「そういわれましても間に合っていますので」
「あの‥‥実は宿代もなく、仕方なくこうして日が暮れても売り歩いているのです。後生ですから――」
「そんなこといわれましても」
 泣き落としの押し売りといったやり方だが効果はあった。やり取りしている間は使用人の一人を惹きつけていられる。もしも一晩の宿を貸してもらえたのならしめたもの。内部に潜入して工作が可能だからだ。
「どうかしたのか?」
 門の裏に隠れていた使用人がひょいと顔を見せた。
 松戸暗はこれまで話していた使用人を倒して敷地内へと入り込もうかとも考えていたが寸でのところで留まる。相手が一人ならやりようがあっても二人ではまず無理。倒せたとしても他の使用人達に気づかれるに違いなかったからだ。
 松戸暗が門の前で使用人二人とやり取りをしている最中、ルンルンとライは塀を乗り越えて敷地内への侵入を果たす。忍犬・ルプス、猫又・胡蘭も一緒だ。ちなみにルンルンはアーマーケースを背負っていた。
(「ニンジャ部隊の作戦成功です! さて次はっと」)
 ルンルンはライに手振りで合図を送ってから猫又・胡蘭を同行させて時計回りに庭を偵察する。ライは忍犬・ルプスを連れて反時計回りだ。
 地下蔵への出入り口が庭のどこかにあればよいのだが、屋敷内の場合は非常に厄介である。
 ルンルンとライは闇に紛れて探った。人工物だけでなく、例えば大木の烏鷺の中が出入り口になっていないかも疑う。強制的に行き来出来ないよう埋めてしまった可能性も考えて、地面の質や色に境目がないかも注意する。
「こちらは痛風によく効くと評判なんです。わたくしの祖父も――」
 門外の松戸暗は使用人二人を相手にして必死に薬を買ってもらおうとするふりで時間を稼いだ。
(「厳重ですね‥‥。あの二人も志体持ちなのでしょうか?」)
 気配を感じたライは身を屈めて灯篭の裏へと身を隠す。定刻の見回りのようだが女性二人組が庭を歩いていた。
 門番の件といい、主がいないはずの屋敷にしては厳重すぎる昼夜問わずの警戒態勢といえる。これで隠匿の書物が隠されている疑惑がさらに深まった。
(「気づかれた‥‥?!」)
 女性二人組は非常に勘が良かった。ライが隠れる灯篭の近くに長く立ち止まって周囲を窺い続ける。
(「開拓者になったとしたら熟練者といってよい相手です‥‥」)
 ルンルンも別所でライと似たような状況に陥っていた。息を殺してひたすらに一所で固まる。
 それでもルンルンとライが敵に発見されなかったのはシノビとして優れていたからだ。志体持ちとはいえ屋敷の見張り達は隠密の術を身につけてはいなかったのである。
 見張りをやり過ごし、それぞれに半周したところでルンルンとライは庭の片隅で再会した。
 庭では地下蔵へと通じる出入り口は見つからなかった。これで出入り口の在処は屋敷内の線が濃厚になる。
 ルンルンとライはの潜入を試みようと屋敷の渡り廊下へと近づいた。しかし急いで離れる。何かに気づいた忍犬・ルプスが一同を止めるために一番前へ出て通せんぼしたからである。
(「こりゃ、はー坊に尾頭付きの鯛でも奢ってもらわんと割が合わんの」)
 忍犬・ルプスの嗅覚を信用していた猫又・胡蘭は即座に目くらましの閃光を放った。
 ルンルン、ライ、ルプス、胡蘭は踵を返して一番間近な堀へと駆け抜けた。
 わずかな間の後で降り注ぐ矢と銃弾。屋敷の使用人達が狙ったものだ。
 二人と二体は攻撃をくぐり抜けながら庭木を利用して塀を跳び越えて敷地外へ。
 ライの推測になるが屋敷内には心眼かそれに類する術を備えた者がいたようである。それに忍犬・ルプスが気づけるはずがない。だが絶対嗅覚で人の存在を把握したのは確かであった。
「敷地内で何かが起きたようだ」
「あの女と犬、もうあんなところに!」
 門前にいた使用人達が遠くの松戸暗と忍犬・太郎を追いかけた。騒動を耳にした使用人達が自分から目を離した瞬間、松戸暗は逃走をはかっていた。
 春嵐号の突入時刻は作戦立案時の決定事項。闇夜に紛れて船体を隠したまま、風を切る音だけが屋敷の上空から近づく。
 深山家の使用人達が目視する頃には、春嵐号はすでに着陸態勢に入っていた。
「着陸するのにゃ!」
「全員、何かに掴まって!」
 操縦桿を握るパラーリア。伝声管にかじり付いて船内の仲間達に注意を促す常春。
 全周囲に風を噴出して姿勢制御。強風吹き荒び、深山家の敷地内では土煙が舞い上がる。その範囲は凄まじく屋敷の敷地殆どを覆う程に広がった。
 春嵐号は暗闇と土煙に紛れながら庭の一番拓けた場所へと着陸を果たすのであった。

●炎
「ここは常春くんにお願いするのにゃ」
「積み込み、頼んだよ!」
 パラーリアは艦橋を常春に任せて船倉へと繋がる後部開閉扉へと移動する。猫又・ぬこにゃんはパラーリアの指示で敵の庭へと飛び出した。
 当初、パラーリアは猫又・ぬこにゃんに深山家の屋敷を燃やすことで敵の霍乱を狙う指示を出そうとしていた。
 しかしつい先程撃たれたばかりの狼煙銃によるシノビ達からの連絡によれば、地下蔵への出入り口発見には至らなかったようだ。
 現状で屋敷に火を放つのは捜索を考えれば得策ではない。そこで猫又・ぬこにゃんには庭の枯れ草を燃やすように頼んだ。
 猫又・ぬこにゃんが口に銜えた松明を枯れ草に触れさせて火を移す。
 暗闇と土煙の中にあっても着陸中の春嵐号を探すのは巨大な船体故に容易といえる。逆に深山家の使用人達は夜陰に紛れて身を隠しやすい。
 暗いのが不利ならばいっそのこと明るくして同じ土俵に立った方がよい。そのためにも燃えさかる枯れ草は好都合である。少々炎に炙られた程度で春嵐号が燃え上がることはなかった。
「妙ですね‥‥」
 炎龍・紫に乗って春嵐号の周囲で警戒していた伊崎紫音は首を傾げた。
 侵入者を排除するために屋敷の使用人達は春嵐号を破壊、または手中に収めようと集まってくるのが普通。しかしその気配が感じられなかったからである。
(「このような場合、敵はどのような作戦を立てているのですかね‥‥」)
 想定していなかった空虚な時間だが、無駄にせぬよう伊崎紫音は頭を働かせる。そして気づいた。急いで艦橋に近づいて窓越しに船内の常春へと自分の考えを伝える。
 深山家の使用人達が受けた命令は、もしもの襲撃者から資料を守ることではない。資料の保管はあくまで優先度が低い希望。外部の者の手に資料が渡る危険をおかすのならば破棄が優先されているのではないかと。
 常春も似た危惧を以前から抱いていた。
「みんな、頼んだ‥‥」
 常春は視線を屋敷の方角に移して嫌な予感が当たったと心の中で呟く。
 それから数分後、使用人達を連れ回したシノビ三名が敷地内へと戻ってくる。
 ルンルンは使用人達の目を盗んでアーマー・X2ーG『影忍』の姿。ライと松戸暗はそれぞれに忍犬を連れていた。猫又・胡蘭の姿もある。
「ここは‥‥ボクが守ります」
 屋敷へと向かった仲間達と合流したかった伊崎紫音だが、ぐっと我慢して春嵐号の周囲に留まった。後に中書令から協力を仰がれて、眠った敵を縛って軟禁するのを手伝うことになる。
「準備ばんたんで待ってるのにゃ♪」
 パラーリアは船倉内に運び入れるための滑車式のクレーンの準備を整えながら仲間の到達を待つ。
 主戦場は地下蔵の出入り口が隠される屋敷内となった。

●激火
 駿龍・陸に龍騎する中書令が屋敷の中庭へ着地すると即座に『琵琶「青山」』で夜の子守唄を奏でた。
 眠りを誘う旋律が屋敷の内部へと染み渡る。
 すべてを網羅することは適わなかったが、地下蔵への出入り口が屋敷内のどこかにあるとすれば子守唄の範囲内に引っかかっているはずである。
(「左後方に一人いますが大丈夫です‥‥」)
 中書令は演奏を一区切りにして超越聴覚で人の動きを確認する。寝息や寝返りの音で判断すると戦闘不能の敵は三名。活動している敵のうち四名は仲間達との交戦中だ。
 駿龍・陸夜に乗ったまま移動。理想はすべての使用人に子守唄を聴かせて眠らせること。そうなるよう中書令は演奏に勤しんだ。
 朱華と猫又・胡蘭は逃げ回る使用人を屋敷内で追いかけていた。壁面を駆け上ったりなどの激しい動きをしながらも互いに軽口を叩く。
『やれやれ‥‥年寄りを扱き使うとはの‥‥』
「まあ、そう言うなよ。あとで、良い魚をやるから」
『それじゃがな。鯛の尾頭付きで手を打とうではないか。真鯛か石鯛がよいのじゃが』
「それは欲のかきすぎじゃないか?」
 朱華は雑談を交えながら猫又・胡蘭から細かい情報を聞きだした。
 猫又・胡蘭は怪しい屋敷内の二カ所を朱華に教える。町中を逃げ回りながらルンルン、ライ、松戸暗と話し合った結論である。立ち入って調べることは適わなかったが、外側からの観察と勘から導き出したもの。ちなみに逃走中はルンルンの影縛り、ライの忍眼、松戸暗の抜足、胡蘭の閃光を効果的に駆使して追いかけてきた使用人達をつかず離れずに翻弄したのだった。
「では任せた。よろしくな」
『猫一匹に任せるとはしょうがないやつじゃ。まあ鰤で手を、いや肉球を打とうか』
 朱華と胡蘭が追いかけている使用人はここまでの動きからして囮のようである。引き続きの追跡は猫又・胡蘭に任せて、朱華は二カ所のうちの一つを目指す。
(「掃除を怠けておいてくれれば一発でわかるのにな」)
 到着した朱華は注意深く戸を引いた。
 使われていない部屋ならば床や畳に埃が積もっている。しかしこの空き部屋はそうではなかった
 途中で切り上げてもう一つの怪しい場所へと集まっているはずの仲間達と合流しようと考えなかったわけではない。それでも朱華はもしかしてと丁寧に床や壁を調べた。その努力はしばらく経ってから実を結ぶことになる。
 屋敷の北東周辺では激しい轟音が連続で鳴り響いた。
 アーマー・ノッカーを駆るヤリーロが行く手を遮る鉄扉を破壊しようとエグゼキューショナーと呼ばれる斧を全力で打ち込む。
 ヤリーロが一番に地下蔵の出入り口と思われる地点に辿り着いたのは春嵐号組であったことと、ノッカーのオーラダッシュを多用したおかげだ。もちろんシノビ達からの情報も。
「きっとこの奥にあるはずです!」
 鉄扉と壁の間が開いてきたものの、まだ時間がかかりそうだとヤリーロが思い始めた頃、ノッカーとは別の駆動音が急速に近づいてきた。
「手を貸します!」
 現れたのはアーマー・影忍を駆るルンルン。
 二体のアーマーで呼吸を合わせて当時に体当たり。三度目の激突で鉄扉は大きく拉げて吹き飛んだ。その間に何人かの仲間が合流を果たす。
 地下へと続く階段を下りるとさらなる二枚目の鉄扉が立ちふさがっていた。階段は狭まっており、アーマーを活用するには難しいほどの狭さである。
「ここは任せてください」
 到着したばかりの松戸暗が鉄扉へと近づいた。
 ライが暗がりを松明で照らしてくれる中、松戸暗が鍵の位置を確かめる。そして一呼吸つけてから破錠術を使う。右手が鍵の周辺に触れるとかすかな金属音がした。開錠は成功し、軽く押すだけで鉄扉は音を立てて動く。
「先に行かせてもらいます!」
 鉄扉が開いた瞬間、ライが松明を口に銜える忍犬・ルプスと共に駆け下りる。松戸暗も忍犬・太郎と一緒に地下へと突き進んだ。
 ヤリーロとルンルンはアーマーをその場に残して地下へと向かう。
 ライは忍眼で仕掛けられた罠を壊しながら階段を下る。階段が終わる頃には仲間の全員がライに追いついた。
「ルプス、どうしました?」
 三枚目の鉄扉を松戸暗が破錠術で開けている途中で、ライは忍犬・ルプスの行動が気にかかる。開錠が終わって鉄扉を動かすと隙間から煙りが洩れてきた。
 すさかず夜を使ったルンルンは時間が止まった世界で地下蔵へと突入。
(「二人なら‥‥いけるのです!」)
 一気に近づいて双方の使用人の鳩尾を強打して動けなくする。
 煙の割に火は点けられたばかりであった。資料の数冊が燃えた程度で殆どすべてが無事に済む。
 使用人の二人はきつく縛って地下蔵の隅っこに転がしておく。
 地下蔵の天井は一部が開く構造になっており、そこから桶による井戸汲みの要領で資料を上げ下ろしできるようになっていた。
「これでいいはず‥‥よし、動いた」
 天井開閉の仕組みが解明されたのは朱華の手柄である。彼が調べた部屋に設置されていた紐を操作することで絡繰りによって開かれた。
「交代でアーマーを動かすとよいと思うのですけど」
「賛成です。それでいきましょう」
 ルンルンとヤリーロはアーマーを再起動させてから地下蔵の真上の部屋へと移動。縄がついた板を地下蔵へと降ろす。
「次はあの山をお願いします」
「あそこが片づいたら楽になりますね」
 ライと松戸暗は地下蔵に残って降ろされた板の上に資料の冊子を載せていった。
 残る深山家の使用人達は中書令と伊崎紫音の活躍で排除される。
 中書令が夜の子守唄で眠らせて伊崎紫音が縄で縛り上げた。正面から戦えば大変だったかも知れないが、使用人達は殊の外睡魔に弱かった。うまく隙をついた格好となる。
「あの飛空船、爆発するかも知れませんので近寄らないでください」
「今、この家の使用人達が動かそうとしていますので」
 騒ぎを聞きつけて集まりだした町の人々を中に入れないようにしたのも中書令と伊崎紫音の二人だ。
 急いで資料を春嵐号へと積み込む開拓者仲間達。
「この奥はいっぱいなのにゃ」
 春嵐号の側まで資料を運べば、後はパラーリアが船倉内に収納してくれる。連携は順調でギリギリだったが土地の役人が来るまでに運び込みは終了する。
 敷地内に町の人々が入り込んでこないうちに春嵐号は離陸。闇夜の向こうに飛び去るのであった。

●そして
 開拓者達は常春等と共に時間が許す限り秘密基地で資料の精査にあたる。
 黙々と目を通す者達。古い時代の風習が記述されたものなど、的を射ない資料も多く存在していた。
 欠伸は伝染するもの。
 全員が同時に欠伸をしたことも。
 わざわざあの地下蔵に運ばれていたことを考えると、どれも間接的に重要な情報が記されているのかも知れなかった。ただ核となる事実がわからなければ無意味なもの。それを探し求めて誰もが頁を捲る。
 常春はあるお伽噺の冊子に目を通し始めた。他の資料とは違いすぎる稚拙な内容にわざと外してあったのだが、疲れて横になったときに目に付いたのである。
「これは‥‥」
 読んでいくうちに常春の眼の色が変わってゆくのだった。