春暁号の残骸〜春華王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/30 23:45



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 泰国は天儀本島と離れた地。嵐の壁によって隔たっていたものの、今では飛空船での往来が可能である。多数の群島によって形成され、春王朝天帝と諸侯によって治められていた。
 帝都の名は朱春。
 春王朝天帝の名は春華王。十一歳の時に帝位に就き、今もまだ少年であった。


 常春は現春華王だが幼名として白鳳と呼ばれていた時期がある。逃亡によって天帝の地位を捨てた前春華王は常春の実兄で現在は幼名であった飛鳥を名乗っていた。
 兄弟二人の時は互いに幼名で呼び合う。
 曾頭全が飛鳥を欲した理由。
 それは春王朝歴九百二十年前後、天儀歴で数えるところの四百年頃から泰儀本島で起きたといわれる混乱の時代『春王朝・梁山時代』まで遡る。
 旧春王朝と東春王朝に分かれて戦った春華王兄弟の物語は現在でも語り継がれている。但し文献もいくつか存在するが諸説入り乱れた状況だ。
 ちなみに現在の春王朝の名称は勝利した東春王朝が時代を経るに従って変化したものといわれている。
 当時の東春王朝の春華王・弟は敗走の末、味方と共に梁山湖付近へと陣を置いた。攻め入ったのが春華王・兄が率いる旧春王朝の軍。
 曾頭全はその旧春王朝軍の末裔だと名乗っている。しかしその証拠は一切残っていない。
 追いつめられて劣勢であったはずの東春王朝側が旧春王朝の軍を蹴散らしたのは、とてつもない秘密兵器を使用したからだという説が存在する。
 曾頭全はその秘密兵器が梁山湖付近に隠されており、動かすためには春華王に受け継がれている知識が必要だと考えていた。
 飛鳥が連れ去られた理由はそこにある。旧春王朝の頂として欲されていたのではなかった。本物かどうかはわからないが飛鳥によれば旧春王朝の末裔が曾頭全は存在するという。
 常春が用意した朱春に程近い町の隠れ家に飛鳥の親子は住んでいた。密かに訪ねた常春は飛鳥と話し合う。
「白鳳、思い当たる節はあるか?」
「いえ、何も」
 春華王に受け継がれている知識といわれても飛鳥には覚えがない。現春華王の常春もそうだ。
 春華王として儀式をこれまで繰り返してきたが、その中にあるのだろうかと兄弟で考えたものの答えは見つからなかった。


 常春には急を要する別の懸案もあった。それは大型飛空船『春暁号』についてである。
 飛鳥救出の際に墜落、置き去りにせざるを得なかった春暁号。毎夜、脳裏に焼き付いた記憶が常春の夢の中に現れていた。
(「春暁号‥‥」)
 天帝宮の青の間で春華王たる常春は絵筆を置く。
 常春にはわかっていた。竜骨が折れた飛空船はもう二度と飛べない、飛ぶことはない。それでも何とかしたい気持ちは募る。
 常春は高鷲造船所と連絡を取って春暁号の備品回収の計画を練った。
 中型飛空船四隻で春暁号の墜落地点に強制着陸。宝珠を含めた春暁号の形見を持ち帰るといった計画である。
 問題なのは曾頭全の隠れ家からそれほど離れていない地点であるということ。また曾頭全側が調査回収を行っている場合もあり得る。
 ギルドを訪問した常春は開拓者達に協力を願うのだった。


■参加者一覧
伊崎 紫音(ia1138
13歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
朱華(ib1944
19歳・男・志
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
エラト(ib5623
17歳・女・吟
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ
嶽御前(ib7951
16歳・女・巫


■リプレイ本文

●待機
 開拓者八名が朱藩安州の高鷲造船所に到着してまもなく回収用飛空船四隻が飛び立つ。数日後、泰国朱春に立ち寄り常春を乗船させると目指したのは梁山湖方面。目的の大型飛空船春暁号墜落地点まで約三十キロメートルの上空に到達していた。
 四隻は大きく旋回を続けて春暁号周辺への強行着陸の機会を窺う。
「実は――」
 操縦室の常春は朽葉・生(ib2229)、エラト(ib5623)、嶽御前(ib7951)に自らの正体を明かした。泰国の春華王が本当の姿であると。驚いたものの三人は理解してくれた。
「常春坊ちゃん、春暁号の部品の回収、私とっても嬉しいです」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)は窓辺の常春へと話しかけながら近づいた。
「春暁号には、坊ちゃんとのいろんな思い出がいっぱい詰まってるから。悪者達は絶対近づけないんだからっ!」
「何とかして持ち帰らないとね。春暁号は私にとって家みたいなもんだったんだ‥‥」
 窓から射す太陽光の下、ルンルンは常春の手を強く握りしめる。
「春暁号を、あんな場所に放っては置けませんよね‥‥」
 常春の隣で同じく窓の外を眺めていた伊崎 紫音(ia1138)が二人の会話を耳にして呟く。気持ちの問題だけでなく、春暁号の遺留品から曾頭全が常春の正体を知ってしまう危険性もある。それだけは防がなくてはならなかった。
 座席に座っていた朱華(ib1944)は常春達へと振り返る。
「常春さん‥春暁号‥‥失くす事は、辛いな‥」
 朱華には常春の気持ちがよくわかった。数年だが苦楽を共にしてきた愛着のある飛空船なのだから。
 常春はいくつかの作戦のうち、夕闇に紛れての強行着陸を選択した。春暁号の墜落地点が岩の多い山間部だというのを重視したからだ。
 遠方に着陸し、敵に気づかれないよう春暁号の残骸に近づきたいと考えていた開拓者は多かった。しかし条件が整っているのは山の麓しかなく、そこからの登山だと志体持ちでも丸二日は要してしまう。
「わがままでごめん。でもこれ以上、春暁号を他の誰かにいじられたくないんだ。たとえ瞬きの間でも」
「私たちの春暁号を他人に触れさせておくなんてできませんよね」
 ルンルンは常春の手を握って笑顔で頷いた。
「春暁号のハートはあたしたちが助けるから大丈夫なのにゃ♪」
 パラーリア・ゲラー(ia9712)は常春の前で両腕を大きく広げる。それから一時間後、四隻の船首は春暁号の墜落地点へと向けられた。
(「春暁号のハートはもって帰るからね。いつか2世をっ」)
 やがてパラーリアは米粒のような大きさの春暁号の残骸を山肌に発見する。近くには見知らぬ飛空船が一隻着陸していた。
 敵と思われる飛空船の存在は伝声管と手旗信号によって四隻の全員に伝えられる。
(「逃がさないようにしなければなりませんね」)
 ライ・ネック(ib5781)はいち早く甲板に待機していた。
「私はここから逃げ道を防ぎます」
 魔術師の朽葉生は風に靡く髪を抑えながらライに話しかける。
「後ろをついて行きますので」
 エラトは大事なリュートを胸に抱える。
「少々の怪我なら我が治療させて頂きます。ご存分に」
 嶽御前は少し離れたところから敵に逃亡されないよう見張る所存である。
 春暁号を奪われないよう心を一つにした常春と開拓者達、高鷲造船所の人々であった。

●襲撃
 景色が赤い夕日に染まる頃、曾頭全の調査隊は今日の仕事を切り上げようとしていた。
 元春華王をアジトから奪っていったのがどのような輩だったのか。それを知るためである。
 調査隊の記録係は得られた情報に目を通す。
 船名は春暁号と判明する。
 船体性能は非常にちぐはぐに感じられた。一般論として大型飛空船は国家機関の所属が普通だ。富豪や豪商、または大規模空賊団が所有している場合もあり得るのだが極々一部といえる。
 使われている宝珠は非常に高品質なもの。船体を構成する木材や鋼鉄材もとても質がよい。にも関わらず兵装が貧弱過ぎる。慣らしの段階ではなく、それなりに使い込まれた形跡があった。また遺留品からお茶問屋『深茶屋』の名称が見つかっている。
「これは?」
 記録係の耳に小さな音が障る。
 飛空船が飛ぶ音だと感じたが天を見上げても船影は浮かんでいない。見回してもなし。なのに音だけはだんだんと近づいてきていた。
 もうしばらくしてようやく存在が判明する。夕日を背にして飛空船四隻が迫っていた。山の斜面に反響して音が届く方角がわからなかったのも災いする。敵の来襲だと気づいたときにはもう遅かった。
 一隻が上空を通り過ぎていった際、春暁号の残骸と着陸中の調査隊用中型飛空船の間を繋ぐ崖下の道が突如出現した鉄の壁で塞がれてしまう。
 調査隊は総勢十五名。うち十二名が残骸付近にいて調査用飛空船に残っていたのは調理当番の三名のみ。
 孤立した十二名は鉄壁の封鎖を突破しようと試みる。しかしどこからか飛んでくる正確無比な矢に身動き出来なくなってしまう。
 さらに岩影から現れた何者かが刀を振るうと地面を裂きながら衝撃波が飛んできた。調査員の一人が弾き飛ばされる。
 洞穴へと隠れた調査員もいたが、すんなりと赤髪の男に発見されてしまう。二刀流のうちの一刀を突きつけられて投降するしか道は残されていなかった。


 謎の飛空船四隻の襲来に曾頭全の調査用飛空船に留まっていた調理当番三名は慌てふためく。残骸の方角から悲鳴のような声が聞こえてくるものの、唯一の道は鉄の壁で封鎖されていた。
 仕方なく調査用飛空船に戻って離陸準備を始めようとしたところ、一名が突然意識を失って倒れてしまう。
 近寄って起こそうとする二人だが何かに足を引っかけて転倒。いつの間にかそれぞれの喉元に鈍い輝きを放つ刃が横たわる。
 見知らぬ二人が船内に潜り込んでいた。一人は金髪、もう一人は緑髪の若い娘。
 金髪の娘が調査用飛空船の座席に座って操縦方法を確かめだす。その間、緑髪の娘は調査員二名を縄で縛り上げようとする。
 直後、最初に気絶していた調査員一名が突然起きあがって脱走。しかし緑髪の娘が放った手裏剣が調査員の服の袖を引っかけながら壁へと突き刺さって縫い止める。
 シノビと思われる娘二名に調理当番三名は捕らえられてしまうのであった。


 調査員十二名は武器をすべて奪われて一カ所に集められる。
 殺されると覚悟した時、耳に流れ込んできたリュートの調べに眠りへと誘われる。目が覚めた時には縄で縛られて全員が薄暗い部屋へと閉じこめられていた。
 傾きの状況からいって先ほどまで調査していた春暁号の一室に違いなかった。しばらくして調査用飛空船で留守番していたはずの調理当番三名も監禁される。
 怪我人がいたものの、部屋を訪れた銀髪の娘が治療してくれた。彼女が輝きを放つと一瞬で傷が癒えるのだった。

●回収作業
「春暁号、独りぼっちにさせてしまってごめんね」
 常春は春暁号の船体に触れながら呟いた。
 巣くっていた曾頭全の調査員は全員拿捕して制圧完了。これから夜通し丸一日をかけての重要な物資回収が迅速に始まった。出来る限りの品を持ち帰るために中型飛空船四隻にてやって来たのである。
 宝珠などの重要な資材回収は高鷲造船所の技師や職人が担当。常春は全体の監督役にあたる。
 開拓者達の役目は回収作業の現状維持にあった。春暁号の周囲を巡回し、敵の密偵がいれば捕縛または殲滅。大規模に攻め入ってくる集団があれば武力を持って対抗するのが仕事だ。
「これでかなりの時間稼ぎは出来るはずです」
 朽葉生が術を使うと地面から鉄の壁が出現する。アイアンウォールの鉄壁で侵入経路を遮断し、わざと残したところにはフロストマインの罠を仕掛けておいた。
 消耗した練力を少しでも補うために朽葉生はいち早く休憩に入る。どちらも長持ちする術だがかけ直しは必要だった。
 それぞれにとって大事な品を回収する時間も仕事と休憩の他に用意されていた。
「常春さんの、何か‥‥形見、のようなものを探してみるか?」
 朱華は食堂の引き出しで箸やフォーク、スプーンを発見する。色や形が違うのは各自専用になっていたからだ。一つの木箱に詰め直して回収用飛空船に積んでおく。
 曾頭全のアジトを監視しておきたかった朱華だがあまりに遠方で叶わなかった。その代わり見張りの時には曾頭全のアジトがあるはずの南西方向を担当する。
「ありがとう、嶽さん」
「いえ、ではまたしばらく後に」
 嶽御前は見張りの合間に常春と仲間達へと加護結界を施して回った。もしもの奇襲があった時、最初の一撃さえ耐えられれば命は助かりやすい。
「これも、新しい『春暁号』には必要な物だから‥この子の事を、忘れない為にも」
 ルンルンは壁を撫でると剥がす作業に取りかかる。春暁号の仲間が増える度にサインを増やしていったプレートだ。細々とした品も袋に詰めて回収する。
(「夜陰に紛れて近づかれると厄介ですから」)
 ライは丸一日眠気を感じない完徹の術を使って休憩をとらなかった。さらに定期的に暗視の術を使って闇に目を光らす。
 死角を作らないよう春暁号から離れた場所で見張る。荒れた土地でもシノビの足ならば比較的早めに戻れるからだ。
「時々休憩を入れた方が作業効率は上がるかと思いますが、ご判断はお任せします」
「こりゃありがてぇ」
 エラトは技師や職人に甘味を差し入れた。仮眠をとりながらであっても丸一日の突貫作業は非常にきついものがある。それなのに不満一つもらさず誰もが一生懸命だ。
「闇に紛れて近付かれる方が危険ですから」
 伊崎紫音は警戒の合間に残骸の一部を退かす作業を手伝った。防塞壁の代わりとし、もしもの襲撃に備える。
(「悪巧みはしていないみたいなのにゃ」)
 春暁号の高いところで見張っていたパラーリアは時折、側の伝声管へと耳を当てる。捕縛中の曾頭全の調査員達が何かしでかそうとしていないかを確かめるために。この伝声管は多くが途切れており、殆ど直通状態となっていた。
 見張りを立てたいところなのだがその余裕はない。それに曾頭全の調査員達が秘密の会話を始めるのではないかといった期待もある。
 技師と職人達によって滑車が先端に取り付けられた巨大な柱が準備される。一つずつ回収品を各飛空船に運び入れるのではなく、まとめて積み込めるよう。
 夜間の作業は何事もなく順調に進んだ。朝日が昇ると明るくなり、作業はしやすくなる。午後には疲れが溜まって緩慢な動きになるものの、それでもすべての者が奮闘していた。
 宝珠の回収は優先的に行われる。しかし墜落の過程で下敷き状態になってしまった風宝珠一基の取り出しが非常に困難を極めた。
 暮れなずむ頃、遠くの空に二つの黒い影。曾頭全の偵察飛空船だと想像するのに大した時間は必要なかった。

●離脱
 轟音と土煙があがって一気に緊張感が高まる。
 偵察飛空船からの宝珠砲による砲撃が行われた。しかし着弾は春暁号周辺から完全に外れていた。空中から狙うのが非常に困難な場所へと春暁号は墜落していたからだ。
 二砲撃目も大外れ。三砲撃目は明後日の方角に飛んで行く始末。業を煮やした偵察飛空船二隻は強行着陸に転じる。
 しかし開拓者達に抜かりはなかった。元々、着陸に適した土地が限られている上に鉄壁などの障害物が配置済みである。
 偵察飛空船二隻はほとんど墜落といってよい状況で山の岩肌に強行着陸する。場所が見つからなかったためか、二隻の着陸地点は離れていた。
「どうかご無事で」
 嶽御前は戦いに赴く仲間達に加護結界をかけて送り出した。その後は仲間に頼まれて回収作業を指揮する常春の護衛につく。
「何故吹雪が!」
 偵察飛空船・壱から下船した曾頭全の兵達は突然現れた吹雪に巻き込まれる。これは朽葉生が仕掛けたフロストマインによるもの。これに引っかかると一時間の足止めを余儀なくされる。
(「まだ作業が終わっていません。留まってもらいます」)
 高所の岩裏に隠れていた朽葉生はフロストマインの罠の間をすり抜けた曾頭全の兵達を邪魔するようさらに鉄の壁を増やしてゆく。
(「釘付けにするのにゃ」)
 パラーリアは身を隠しながら偵察飛空船・壱へと近づいた。
 戦弓の射程距離にまで到達すると極北と月涙を駆使して機関部を狙う。風宝珠の噴出口が壊れて破片の雨が地面へと降り注いだ。待機の曾頭全の兵達が慌てふためく。
 その頃、エラトは偵察飛空船・弐から下船した曾頭全の兵達を発見した。しばらく様子を見て朽葉生が事前に設置した鉄壁の隙間をすり抜けようとしているところを狙う。
「もうすぐ夜の帳が下ります。静かにお休みください」
 エラトがリュートで夜の子守唄を奏でる。曾頭全の兵達は次々と眠りに落ちていった。
 偵察飛空船・弐を破壊しようとしたのがライとルンルンだ。シノビの技で潜入に成功する。
「ジュゲームジュゲームパムポップン‥ルンルン忍法ニンジャイヤー‥これ以上、邪魔はさせないんだからっ」
 ルンルンは超越聴覚で船内にいる敵兵の位置を把握した。ライは倒した敵の服に着替えて曾頭全の兵に化ける。
「交代に参りました」
「ここはいいから外で応戦に‥‥な、何だ貴様は!」
 操縦室に入った変装のライが曾頭全の者達の気を引いてる間に、夜で時間を止めたルンルンが操縦装置を一気に抑えた。操縦席に座っていた曾頭全の者は気がつくと床に這い蹲る。
 春暁号の撤退準備も進んでいた。
「これで本当に、春暁号とお別れですね」
 伊崎紫音は調理道具が入った袋を背中に担ぎながら縄で数珠繋ぎの曾頭全の捕虜達を引き連れる。回収用飛空船まで連れて行くためである。
 見かけに騙されて逃げようとする者もいたが伊崎紫音の力は半端ではない。三回に分けて行われたが誰も逃がすことなく移送は完了した。
「偶然と幸運のおかげとはいえ、ここまで辿り着くとは」
 朱華は最後の守りとして春暁号周辺に残っていた。
 向かってくる刀を構えた曾頭全の兵。
 朱華は上段からの攻撃を足の運びで避ける。反撃を繰り返し、×を描くようにして二刀流を放つ。紅蓮紅葉の燐光が散る中、敵兵は地面へと伏す。
「みなさん、撤退です!」
 夕日が沈む最中、常春は叫んだ。
 技師や職人達が回収用飛空船四隻に次々と乗り込む。最後に残っていた風宝珠の回収が終了したのである。
 離れて戦う開拓者達には笛の音と狼煙銃にて撤退が伝えられた。
 常春と開拓者達が乗った回収用飛空船は崖からわざと落ちるようにして離陸する。
 春暁号の残骸からは煙が立ち上っていた。鎮魂の意味を込めてわざと火を放ったのである。近くに草木などの燃えるものはないので山火事になることはない。
 闇に紛れて見えなくなるまで、常春と開拓者達は春暁号の煙を目で追い続けるのだった。