血 〜春華王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
EX
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/28 18:57



■オープニング本文

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 泰国は天儀本島と離れた地。嵐の壁によって隔たっていたものの、今では飛空船での往来が可能である。多数の群島によって形成され、春王朝天帝と諸侯によって治められていた。
 帝都の名は朱春。
 春王朝天帝の名は春華王。十一歳の時に帝位に就き、今もまだ少年であった。


 地方の老舗お茶問屋『深茶屋』の御曹司、常春。そう名乗ってきた常春の正体は泰国の春華王、その人である。
 約一ヶ月前、失踪中の兄を探すにおいて懇意の開拓者達に正体を明かす。ただ一般には伝わらないよう秘密にしてもらう約束で。
 呼び名についても変わらず常春と呼んで欲しいと開拓者達に願う春華王である。
 前春華王である常春の兄はさる女官と駆け落ちして姿を消していた。その足取りは長く不明であったが、常春が偶然に見かけた純金製の文鎮を切っ掛けにして露わになる。
 しかし向かった先にはすでにもぬけの殻となっていた。探す途中で手に入ったのは書物『妙体心草木』。泰国薬の秘伝が記されたもので、泰国の仕来りとして本来ならばこの世にあってよいのは二冊。春華王が手元に置く一冊と宮殿奥に保管されるもう一冊のみである。故に失踪の兄が持ち去ったと思われる一冊は本来あってはならないものといえた。ただ常春は処分せずに探す手がかりとして残しておくことにする。
 常春の幼名は『白鳳』。兄の幼名は『飛鳥』。かつて生活の場では弟が兄を『アス兄』と呼び、兄が弟を『ハク』と呼んでいた。
 今はどのような名で生活しているのかわからないものの、混乱を避けるために兄については『飛鳥』に敬称をつけて呼ぶことにした常春である。ついアス兄と幼き頃の調子で表現してしまう常春だったが。
 調べた範囲では飛鳥と女官の間には子供がいるようだ。我が子を救う薬を手に入れるために飛鳥は純金製の文鎮を手放したらしい。
 飛鳥の家族が生活の糧としていたのは薬草。薬草師を生業としていた。住んでいた小屋に残っていた薬の材料や昔に飛鳥が薬作りに興味を持っていたところからの推察である。
 またいくつかの証言もあって飛鳥の家族は理穴の首都、奏生に向かったと考えられた。秋には豊穣感謝祭が行われており、市がたくさんの行商人達で賑わっている。薬を売り捌くにはうってつけの場所である。
 飛鳥の家族を探し求め、ようやく会えようとした場所では騒ぎが起こっていた。駆けつけた常春と開拓者達は賊と戦う。しかし残念ながら飛鳥を人質にされて飛空船で逃亡されてしまった。


 常春は泰国の帝都、朱春に借りた屋敷で飛鳥の妻である『棗』と息子の『高檜』を匿うことにした。飛鳥親子を支えてきたもふらも一緒に。
 棗から事情を聞いたところ、泰国歴史の暗部も含めた様々な過去が判明している。
 『曾頭全』と呼ばれる組織に属していた棗は、当時の春華王であった飛鳥を引き込もうと女官として宮殿内に潜入。しかし飛鳥と棗は真実の恋に落ちて逃亡を決意する。
 逃亡の途中までは曾頭全の組織力を利用し、その後は誰にも頼らずに今に至る。高檜は旅の間に恵まれた子供だ。
 曾頭全がいつ頃から泰国に存在するのかは定かではなかった。ただ切っ掛けは泰国の王朝が真っ二つに分かれて戦っていた古の時代まで遡る。
 春王朝と東春王朝。実の兄弟同士がそれぞれの天帝となって戦いを繰り広げたという。
 戦禍の後、東春王朝が勝利を収めた。さらに年月が流れると次第に東の文字が消え去って単に春王朝と呼称される。当の東春王朝天帝もまた東を取り去って春王朝天帝と自ら名乗るようになったという。
 曾頭全は滅んだはずの分裂時の春王朝の復活を企む組織だと棗は説明した。
 だが常春は腑に落ちなかった。
 血統によって天帝を選ぶのなら兄の飛鳥は旧・春王朝の頂としては不適格者のはず。常春と両親が同じ兄は現・春王朝の血が濃いからだ。遙か昔とはいえ分裂したのだから旧・春王朝の血統ともいえなくもないが、それは非常に強引な理屈だ。
 謎はまだ残っていたもののとにかく兄・飛鳥の救い出さねばならなかった。
「おおよその察しがついています‥‥」
 棗によれば曾頭全は泰国各地に分散して身を潜めているらしい。その中でも梁山湖近くにある町『知皆』に連れ去られたのではないかと推測する。
「当時の私は曾頭全内での位が低かったので見知った施設も限られています。ですがどうか連れて行ってくださいませ」
「兄とは話したいことがいっぱいあるんです。とにかくまずは助け出さないと。昔のことはどうでもいいんです。力を貸してください」
 常春からも棗に協力を求める。
 しばらくして常春名義で開拓者ギルドに依頼が張り出されるのだった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
伊崎 紫音(ia1138
13歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
朱華(ib1944
19歳・男・志


■リプレイ本文

●知皆へ
 深夜の泰国の帝都、朱春近郊。
 常春は匿っていた棗と一緒に基地へと着陸した大型飛空船『春暁号』へと乗り込んだ。開拓者六名と高鷲造船所から派遣された乗員達が朱藩の安州からここまで迎えに来てくれたのである。
 常春は再会してすぐに柚乃(ia0638)へと自分の正体が春華王であることを告げた。
「‥‥話してくれてありがとう、常春クン」
 驚きはしたものの柚乃は動じずに常春へと微笑んだ。常春は少し照れながら小さく頷いた。
 深夜飛行の間に一同はこれから向かう知皆でどのような立ち振る舞いをするか相談を行う。翌朝には目的の町『知皆』から離れた草原へと着陸。そこから目立たぬよう地上から馬車で知皆を目指す。
 御者台に座った伊崎 紫音(ia1138)と朱華(ib1944)が交代で手綱を握ってくれた。
「折角会えたのに、こんな事になるなんて。絶対に、飛鳥さんを助け出しましょう」
「アス兄の身は大丈夫だと思うんだけど‥‥」
 伊崎紫音が荷台を振り返ると憂う常春の姿がある。
(「何だか裏で大きなものが動いているみたいだな‥‥」)
 朱華は常春から見えないように溜め息をついた。
 単なる誘拐事件ではなく泰国の闇に関わるのは明白だ。面倒事は嫌いなので普段はこういう事案に手を貸さないのだが、困っているのは常春である。出来る限りはしてあげようと参加を決意したのだった。
「そうです。きっと元気に決まっていますよ! 坊ちゃん!」
「ありがとう。美味しいねこれ」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)が手渡したハムを挟んだパンを常春が口にする。
(「素敵な王子様かと思ったら、まさかお姫様ポジションだったとは、ニンジャの勘でも読めなかったのです‥‥」)
 ルンルンは常春と一緒にパンを食べながらこれまでの出来事をいろいろと思い出す。
(「常春くんもいっていたけど、同じご両親のお兄さんだと昔の王朝の後継者で対立させつってゆう〜のには弱いかも〜」)
 パラーリア・ゲラー(ia9712)は『むむむっ』といった表情で両腕を胸の前で組みながらバスケット内のパンをじっと見つめていた。
 常春から教えてもらった遙か昔に起きた春王朝と東春王朝の対立。飛鳥が誘拐された理由はそこにあるという。
 ふとパラーリアは微笑む常春と目が合った。パラーリアは微笑み返すと新たな情報が得られるまでしばらく考えるのをお預けにする。
「あれが梁山湖でしょうか。でしたら知皆はもうすぐですね」
 玲璃(ia1114)が示した先には煌めく湖面がわずかながら見えていた。
「その通りです。知皆まであと一里もないでしょう」
 事情に詳しい棗が知っている事を改めて話してくれる。
 しばらくして障害物はなくなって遠くが望めるようになった。まるで海のような広さを誇る梁山湖が佇んでいた。
「ルンルン忍法人遁の術‥これならどこからどう見ても、ただの美少年か男の娘なのです!」
 すでに春暁号内で着替えてきたルンルンだが、ここ一番の仕上げとして髪型もばっちり男性風に変更した。他の者達も変装を完璧にして知皆への到着に備えるのであった。

●柚乃
 知皆は観光で多くの人々が訪れる町独特の活気があった。各国の首都のような煌びやかなものではなく落ち着いた雰囲気が漂う。自然の美しさもさることながら点々と遺跡が残っており、悠久の歴史に彩られた土地といえた。
 宿を決めた一同は散り散りになってさっそく調査を行う。
 柚乃は赤を基調にした泰国の伝統服姿に髪の両側をお団子風にまとめていた。懐には管狐・伊邪那の宝珠が大切に仕舞われてある。
「そういえば八曜丸が食べたがっていたよね‥‥」
 さすが朽葉蟹の産地だと柚乃は感心する。街角でも蒸かした朽葉蟹は売られていた。
 名物を食すの後にして柚乃が向かった先は薬草を扱う店や行商の元である。
「お薬がこんなに‥‥」
 棚にずらっと並ぶ泰国の薬の瓶を見て心ときめかす柚乃だ。
 飛鳥が曾頭全内で賓客待遇を受けているとすれば、少々の我が儘は受け入れられているはずである。ならば流浪の旅の間、生業としてきた薬関連の店や行商の元に顔を出しているかも知れないと柚乃は考えていた。
 数日間に渡り、いくつかの店へと何度も足を運んだ。
 残念ながらこれといった飛鳥の痕跡は見つけられなかったが、店の者達の証言はいくつか得られる。
 ここのところ普段は滅多にやり取りされない貴重な薬の原材料が売れているという。また発注を受け付けたものの未だ手に入らない原材料もあって困っている店主もいた。
「その薬はなんですか?‥‥」
「普通は薬に使わない品なんですが‥‥、香木です。とびきり貴重な最高級の香木を所望されている方がいらっしゃいまして」
 残念ながら注文した相手の名前までは教えてくれなかった。しかし柚乃はこの情報に手応えを感じるのだった。

●朱華
 朱華は梁山湖の畔を散策しながら地元の漁師や子供を中心に訊ねる。様々な話を聞けたのだが、その中に気になる情報が混じっていた。
「あの建物か?」
「うん。たまにたくさんの人が集まっているよ」
 なんの変哲もなかったが周囲の風景からすると唐突感がある建物。漁村には不釣り合いな蔵であった。
「頼んだぞ」
「はー坊は猫又使いが荒いな」
 猫又の胡蘭に普通の猫のフリをして確認してもらう。塀の上を歩いて敷地の外周を回ってくると朱華の元に戻ってきた。
 胡蘭によれば蔵の中はがらんどうであるという。単独で探るつもりはなかったが、人の気配がないようなので朱華は日が暮れるのを待ってから忍び込んでみた。
(「これは?」)
 大きな蔵の扉の前に車輪の跡が残っている。また敷地内には灯火に使ったと思われる篝火用の器具がいくつも設置されていた。
 大型飛空船は無理だが中型二、三隻程度なら離着陸出来そうだというのが朱華の感想である。
 誰かに気づかれる前に朱華は退散する。それから数日間、朱華は蔵を遠くから見張ったがこれといった変化は起こらなかった。

●ルンルン
「常春坊ちゃん、安心してください、お兄さんは必ず助け出します‥折角家族揃っての幸せを、そんな古くさいもので無くさせたりはしないんだからっ!」
「ルンルンさん‥‥ありがとう」
 元気にルンルンが告げると常春が泣きそうなのを我慢して強がってみせる。そんな常春を励ますとルンルンは宿から町中へと繰り出す。
 ルンルンが予め目をつけていたのが東春王朝縁の史跡である。遙か昔に使われたとされる知皆近郊の古戦場跡に向かってみた。
 半壊した石造りの要塞跡を見つけて天辺まで登って周囲を見回す。余程巨大な要塞だったらしく、同じようなものが辺りにいくつも見つかる。
 伝説によればそれぞれが要塞の一部であり、全体はとても巨大なものだったという。にわかには信じがたいとルンルンは考えるが、もしかしてとの気持ちも残った。
「すごいのです!」
 要塞用の石を切り出したといわれる場所を訪ねたルンルンは驚きの大声をあげた。
 細々とではあったが今も岩肌から石が削り出されている。現在は硯などの工芸品用として活用されていた。
「そうだな。大昔から削っているだけあって古いところなんかは迷路になっているぞ。地元の者でも立ち入らない場所がいくつもある」
 石工から話を聞いたルンルンは古い石切場の迷路なら曾頭全の隠れ家にぴったりではないかと想像する。
(「この情報を聞いたら、坊ちゃんが喜んでくれるのも」)
 ルンルンは急いで宿へと戻り、常春へと石切場で得た情報を伝えるのだった。

●パラーリア
「もうすぐ出航だっていってたよ〜」
 パラーリアは常春、棗と一緒に観光をしながら状況を探った。
 変装は常春と一緒に男の子ぽい帽子を被って兄弟を演じる。歳の離れた姉と男の子二人の三人連れといった旅行客に扮していた。
 三人が乗った遊覧船が梁山湖へと繰り出す。甘栗を食べながら湖上からの風景を楽しんだ。
「この梁山湖でも戦いが繰り広げられたようです。東春王朝側は拠点の寸前まで敵に迫られたようですが、奇跡の逆転勝利を果たしたと記述が残っています」
 船の案内要員よりも泰国の歴史に詳しい常春がパラーリアと棗に説明をしてくれる。
「どの辺りに拠点があったのにゃ?」
「それがいくつもの説があって正確なところはわからないのです。梁山湖全体が拠点で、点々と移動しながら戦ったという説を支持していますけど」
 パラーリアは常春に質問をしながら畔を眺める。それらしき石造りの建物跡は多数目についた。
 中には地下空間が造られている要塞跡もあると棗はいっていた。実際、彼女が知る武器庫として使われていた施設はそのような場所であったという。
(「あれは‥‥なんだにゃ?」)
 パラーリアは入り組んだ崖の上に建っている要塞跡を発見する。あまりに険しい場所にあるので滅多に人が立ち入らないと案内要員はいっていたが、パラーリアには人影が見えたような気がした。
 翌日、パラーリアは単独で崖の上の要塞跡を探りに登る。かなり要塞跡はまだしっかりしていて何者かが何名か住み着いていた。
 ただあまりに小規模で曾頭全の本拠地といった印象はなかった。おそらく監視用の施設の一つではないかとパラーリアは想像する。
 耳を澄ませて会話を盗み聞いたところ、常春の兄である飛鳥はこの辺りに連れてこられているらしい。ただ下っ端同士の会話なので具体性に欠ける。問いつめてもこれ以上わからないと考えたパラーリアは騒ぎを起こさずにそっと立ち去るのだった。

●伊崎紫音
 伊崎紫音は朱華が発見した蔵とは他に飛空船が離着陸出来そうな場所を探していた。中型飛空船を所有していても怪しまれない商人の中に曾頭全の仲間がいるのではと考えたのである。
「これだけ人が多ければ、そうそう見咎められる事も無いですよね」
 外套に襟巻きと帽子の姿でざっと知皆を探る。わかったのは一番盛んな商売が朽葉蟹関連だということだ。
 地元漁師も潤っているのだが広域商人の旅泰もかなり見かけられた。各地へと生きたまま朽葉蟹を運んで卸し、利益を上げているようである。旬の寒い時期は朽葉蟹だけ商う旅泰も多いと耳にする。
 個人のお店に目を付けていた伊崎紫音だが現場を知って考え直す。朽葉蟹を扱う旅泰に注目してみようと。
 調べてゆくうちに地元出身者の旅泰でかなり大規模に朽葉蟹で商いをしている人物が気になってきた。名前は『緑勝』といって泰国中心である朱春だけでなく各地に朽葉蟹を卸している。
 朽葉蟹が水揚げされる港近くの空き地はたくさんの飛空船でひしめき合っていた。実質的に飛空船の駐留所と化しているのだが本来は国有地である。
 非常に問題なのだが賄賂を受け取った役人が見逃しているのだろう。黙認され、公にはされていなかった。
「最近になって雰囲気が変わったとか、人の出入りが激しくなったりとか、そう言う場所は無いですか?」
 以前に治安の悪い場所へ迷い込んで酷い目にあったからといって伊崎紫音はさらなる情報を収集する。そのような場所はないが緑勝には関わらない方がよいとの助言を何人かにされた。
 そして伊崎紫音は緑勝が他の旅泰よりも特権を得て安い値で朽葉蟹の買い入れている事実を突き止めるのだった。

●玲璃
 玲璃は港と宿の周辺に焦点を定めて調査を行う。
「ここでは朽葉蟹が特産品という評判を旅先で伺いまして――」
 市女笠をあげて顔を見せながら飯店の主にいろいろと話しをうかがった。
 宿周辺の観光客目当ての各店においては朽葉蟹の料理に高めの値段がつけられているのは事実だ。しかし暴利というまでには至っていない。
 旅客用の飛空船が立ち寄るようになってからは全国に噂が広まるのはすぐで、特に悪いものはあっという間に広がってしまう。横暴な商売はしていたのならすぐにおまんまの食い上げになってしまうと飯店の主は笑っていた。
 だがその言葉を鵜呑みにするほど玲璃は世間知らずではない。朽葉蟹全体の価格を維持させている団体がいないかを探った。
 ある程度の価格維持は仕方がないものの、真に問題なのは誰が実質的な権力を持っているかだ。
 当初、港の魚市場を仕切っている顔役が怪しいと踏んだがそうではなかった。また漁師の集まりでもなく役人の差し金でもない。流通を担う一部の旅泰による話し合いで決められているのだと玲璃は知る。
 三つの旅泰の商隊による価格決定が基準となって朽葉蟹の取引値段は決まっているようだ。その中に伊崎紫音が追っていた旅泰の緑勝も含まれていた。他の旅泰主の名前は『案特』と『藻波』である。
 玲璃は常春に伝える。知皆における商活動において旅泰の三商隊は非常に大きな存在だと。

●そして
 知皆を訪れて数日後。常春一行は明朝に帰路へ就かなくてはならなかった。宵の口に飯店の個室で卓を囲み、酒蒸しの朽葉蟹を食しながら今回得た情報を整理する。
 パラーリアが崖上の要塞跡で得た飛鳥が近くにいるという情報のおかげで常春は元気を取り戻す。
 柚乃が調べてきた薬屋が欲する香木については朱春に戻ってから常春が入手を試みるという。香木には同等の重さの金よりも遙かに高いものが存在しているらしい。実際に手にはいるかはわからなかった。
 朱華が注目した蔵については口が堅そうな漁民にいくらかのお金を渡して監視してもらっている。再びこの地へと戻ってきた時、新たな情報がもたらされるのを期待して。
 ルンルンが発見した石切場は曾頭全の隠れ家の候補地だ。今後の情報と合わさって正確な場所があぶり出されるかも知れない。
 伊崎紫音と玲璃が入手した朽葉蟹の取引値段を定める交易商人・旅泰の『緑勝』、『案特』、『藻波』の三商隊の存在は重要だ。曾頭全へと繋がる糸口だと常春は期待する。
「アス兄、絶対に見つけだすから‥‥。もう少しだけ待っててね」
 常春は月光に照らされる梁山湖を窓から眺めながらそう呟くのだった。