海での遭遇 〜春華王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/13 19:59



■オープニング本文

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 泰国は天儀本島と離れた地。嵐の壁によって隔たっていたものの、今では飛空船での往来が可能である。多数の群島によって形成され、春王朝天帝と諸侯によって治められていた。
 帝都の名は朱春。
 春王朝天帝の名は春華王。十一歳の時に帝位に就き、今もまだ少年であった。


 泰国南部は冬場でも滅多に雪が降らない温暖な気候で有名である。それ故に沿岸部では海を娯楽にして人を集める観光地も多かった。
「何だか陽の光も違っているように見えるよ」
 泰国の春華王は地方の老舗お茶問屋『深茶屋』の御曹司『常春』として眼下の海岸線を見下ろす。
 ギルドを通じて集まってもらった懇意の開拓者に大型飛空船『春暁号』で泰国北部の朱春まで迎えに来てもらって乗船。そのまま南部にやってきた次第だ。
 広い飛空船駐留地が目指した町近郊になかったので海面に着水する。場合によっては沿岸の町まで小舟を漕いで向かうつもりだが、まずは春暁号を拠点として海を楽しむ計画を練っていた。
 最初は釣りである。さすがに甲板からでは海面まで距離がありすぎるので常春は仲間達と共に船体側面にあるバルコニー状の突起部分で釣り竿を握る。
 夕食分を賄えるほどの釣果を望みながら一匹もかからずに時間だけが過ぎ去ってゆく。
 そんなのんびりとした時に事件は起こる。
「どうかしたの?」
 一緒に釣りをしていた開拓者の一人が立ち上がって遠くを指さす。常春はつられてその方角に振り向いた。
 目を凝らしてみれば海面に点が二つ。よくよく見てみればどちらも船で一方が追いかけていた。
 追いかけられているのは帆があるので通常の船。追いかけているのは形状からいって海上移動も可能な中型飛空船だと思われる。事情はわからないものの、嫌な予感がした常春は釣りを中断して二隻の船を追うことにした。
 二隻に近づく途中で追っていた飛空船側が略奪行為を働いていることに気がつく。即座に助けようとしたものの、略奪をしていた中型飛空船が離水して大空に飛び立つ。
 春暁号はそのまま略奪の中型飛空船を追いかけるのだった。


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
伊崎 紫音(ia1138
13歳・男・サ
奈良柴 ミレイ(ia9601
17歳・女・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
朱華(ib1944
19歳・男・志


■リプレイ本文

●追走
「急いで追いかけます! みんなどこかに掴まって!!」
 海釣りをやめた常春は艦橋へと戻り、操縦席に設置されていた伝声管に向けて声を張り上げる。
「宝珠出力上昇、このまま安定させる。任せろ!」
 宝珠が並ぶ機関室に戻った朱華(ib1944)は当直の船員に手を貸す。
「坊ちゃん、いつでもいけますよっ!」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)は春暁号全体の出力を監視して報告した。
「左右の姿勢制御はやるから」
 操縦補助の奈良柴 ミレイ(ia9601)は春暁号が転覆しないよう操縦の一部制御を受け持つ。
「行きます!!」
 常春が伝声管で指示を出してから約一分後、海面スレスレを飛んでいた春暁号は船首を鋭角に天へと向けた。船底の一部が海面に接触して大きな飛沫を巻き上げた瞬間、春暁号は巨体を急速に上昇させた。
「常春クン、もうちょっとだけ南だにゃ!」
 パラーリア・ゲラー(ia9712)は艦橋の前方窓近くの取っ手にしっかりと掴まりながら賊の飛空船を目で追う。
 艦橋や機関室が賊の飛空船追跡で大忙しの頃、甲板下の格納庫には玲璃(ia1114)、伊崎 紫音(ia1138)、ジークリンデ(ib0258)の姿があった。
 三名は春暁号が水平飛行に移るのを待って龍の発艦準備を始める。自分達の朋友だけでなく仲間のもいつでも飛び立てるようにと。
「今追っている飛空船の外観から想像すると操縦室はどの辺りになるでしょうか?」
「機関室の位置も教えてもらえると助かります。向こうが自棄になったら何をするか分からないですから」
 玲璃と伊崎紫音は準備を整える合間に伝声管を通じて高鷲造船所から招いている応援技師にいくつかの疑問を投げかけた。
「中型飛空船なら船体前方だと思うが中には変わった構造もある――」
 応援技師は賊の飛空船にもっと近づかなければ断言した答えは出せないと二人に告げた。現在望遠鏡を使って視認できるのは賊の飛空船後部のみ。これで知り得る情報はほんのわずかだと。
「接舷の前にはわかりますか?」
「乗り込む直前になるだろうが、そのときには伝えられるはずだ」
 龍に繋がれていた綱を外し終わったジークリンデも応援技師への質問に加わる。
 春暁号は次第に賊の飛空船との距離を縮める。但し、旋回性能となれば中型飛空船である賊の方が有利に違いなかった。一計を案じた常春は先手を打つ。
「賊の飛空船との距離が半里を切ったらさらなる加速をして追いつきます」
 常春は強行接舷を実施する旨を全船内に伝える。機関室や艦橋にいた開拓者は格納庫へと移動。いつでも賊の飛空船へと突入出来る体制をとった。
 春暁号は急速接近して賊の飛空船の右側に接舷。船体が激しく振動する。操縦席についていた常春も例外ではなく、激しく前後左右へと揺らされた。
 龍騎した開拓者四名は衝撃を避けて接舷前に甲板を飛び立つ。同じようにルンルンも滑空艇・大凧『白影』で単独飛行をこなす。
「常春くん、廊下の隔壁は全部閉めたのにゃ」
「了解。碇と鎖を敵船に絡めたから強制開放しない限り簡単には離れないよ」
 開拓者の中で唯一春暁号に残ったのがパラーリアである。甲板にいるパラーリアは艦橋の常春と伝声管でやり取りをしながら賊の来襲を警戒した。一部の乗員にも銃砲や弓矢で守りに参加してもらう。
(「敵の仲間の振りをするのが一番だが‥‥」)
 朱華は接舷の瞬間、賊の飛空船に飛び移っていた。目立たぬように内部へ潜入するためだ。物陰に隠れていると一人だけの賊を発見する。
 賊が伝声管での報告をやり終えた瞬間、朱華は背後から手刀で気絶させた。服や装備を奪って急いで賊に変装するのだった。
 その頃、賊の飛空船からの銃撃は大空を舞う開拓者達を襲っていた。
 わざと軌道をぶれさせて狙いにくくさせたまま突進する。春暁号からも銃砲や弓矢による応戦が行われている真っ最中だ。
 龍騎と滑空艇の開拓者達は賊の飛空船を挟んで春暁号の反対側から突入した。賊側の攻撃を集中させずばらけさせるために。
「ニンジャの力で成敗なのです!」
 ルンルンが強攻着陸で無理矢理に賊の船へと降りた。小さな甲板上で踊るように賊の攻撃を避けながら屋根のような部分に登って身を伏せる。
 賊の攻撃がルンルンに集中したおかげで他の開拓者も賊の飛空船潜入に成功する。龍の爪で取りついたり、または接近して飛び降りたりなど方法は様々であったが。
「風がしばらく強くなりますのでそれだけでもかなり揺れるはずです。姿勢に気をつけて」
 玲璃はあまよみで知った天候を周囲の仲間に伝えた。強い風が吹き荒び、賊の飛空船は大きく揺れていた。
「ここの制圧は任せてください」
 殲刀「朱天」を鞘から抜いた伊崎紫音は甲板にいた賊達に仕掛ける。上空から炎龍・紫の援護を受けながら一人一人と力を奪ってゆく。弾いた賊の刀が回転しながら甲板へと突き刺さる。
「こっちだって、役立たずの烏合の衆。マヌケもここまで酷いと罪よ」
 奈良柴は腰を屈めて両手で薙刀「巴御前」を構え、咆哮で賊等の注意を引きつけた。伊崎紫音を狙っていた賊の一部が奈良柴を目指す。
 甲板周辺に人質の姿は見あたらなかった。もし囚われているのなら船内に違いないと戦いながら奈良柴は想像する。
 激しい戦いの最中、甲板から船内へと繋がる扉を守っていた賊を稲妻が貫いた。ジークリンデが放ったアークブラストによって。
「まずは安全を確保します」
 扉周辺を制圧したジークリンデは船内に踏み入れる。内部の賊に対してはアムルリープを活用。出来るだけ騒ぎを大きくしないよう眠らせてしまう。まもなく甲板の賊が片づき、ルンルン、伊崎紫音、玲璃、奈良柴も船内に突入する。
「ルンルン忍法ジゴクイヤー‥‥みなさん、捕まってるらしい人達の声はあっちから聞こえますよ」
 ルンルンは廊下の十字路で超越聴覚を発揮する。
 ここで龍と滑空艇によって潜入に成功した開拓者達は二手に分かれる。
 操縦室を目指すのはルンルン、伊崎紫音。人質の安全を確保するのは玲璃、奈良柴、ジークリンデ。別動の朱華は操縦室に向かっているはずであった。

●人質救出
 いくつかの推測によって人質がいるであろう場所の見当はついていた。それが盗んだ物資が置かれているはずの船倉内の一部を仕切って作った小部屋だ。
「しかしまあ俺達の船に乗り込むなんざ、どこの馬の骨‥‥おい、突然どうしたんだ?」
 小部屋を見張っていた賊の一人が突然、床へと崩れ落ちた相方に声をかける。その相方はいびきをかきながら爆睡していた。
 屈んで相方の肩を揺らそうとした見張りは首筋に冷たい触覚を感じる。
「こんなに隙があったらダメじゃん」
 見張りの首筋に薙刀を当てていたのは奈良柴。寝転がるもう一人の見張りをアムルリープで眠らせたのはジークリンデだ。
 玲璃は見張りから鍵を奪って開錠。小部屋には女性六名の人質が囚われていた。ちなみに六人とも泰国の獣人『猫族』の娘達であった。
「もう大丈夫です。どこか痛いところはありませんか?」
 玲璃は怪我をしていた女性達の傷を閃癒で癒す。不幸中の幸いで重傷者はいなかった。
「しばらくここでおとなしくしていてくださいね」
 ジークリンデは賊の見張り二名を小部屋へと押し込み、あらためてアムルリープで眠らせる。さらに鍵を閉めて逃げ出せないようにしてからその場を立ち去る。
 玲璃、奈良柴、ジークリンデの三名は、安全を確保するために囚われていた猫族の娘六名を連れて一旦春暁号へと引き返すのだった。

●操縦室
 ルンルンと伊崎紫音の二人が操縦室の扉が望める廊下の角で立ち止まった。
「何をしているんでしょうか?」
「仲間割れかも?」
 そっと覗き込むと不思議な光景を目撃する。扉を守っていた賊の見張り二名を派手な格好をした賊一名が刀の鞘で気絶させていたのだ。
 ルンルンと伊崎紫音は派手な格好の賊が振り向いてようやく気がついた。賊だと思っていた者が朱華の変装であるのを。手を振りながら近づいて朱華と合流する。
(「いきますよ」)
 タイミングを合わせて伊崎紫音が扉を開けてくれた。一番に操縦室へと突入したのは夜で時間を停止させたルンルンだ。
(「まるで止まってるように遅いもの‥悪人には、天罰が下っちゃうんだからっ!」)
 ルンルンは操船している賊の操縦士を席から吹っ飛ばして入れ替わる。
 伊崎紫音は賊の首領らしき偉そうな男の武器を横一文字の刀振りで吹き飛ばす。
「無駄な抵抗は止めて下さい」
「わっ、わかった‥‥」
 続いて首領の喉仏に刀の切っ先を当てた。
 朱華は残る賊二名の溝打ちに深く拳をねじ込んで即座に黙らせる。賊全員を後ろ手に縄で縛って操縦室の制圧は完了した。
「仲間を全員降参させろ、今すぐに。俺達の力はわかっただろう。このままだと全滅するだけだぞ。それでよいのなら構わないが」
 朱華は髪を掴んで賊の首領の頭を伝声管に近づけた。
「てめぇら‥‥武器を捨てろ。ここまでだ」
 諦めた首領の呟きは賊の飛空船内に響き渡る。
「後は役人さんに引き渡して、一件落着ですね」
 伊崎紫音は窓を覗き込み、接舷中の春暁号を眺める。
「これで坊ちゃんとのバカンスの続きができますね」
 ルンルンは賊の飛空船が暴風で姿勢を崩さないよう操縦し続けた。
 まもなく人質を助けた仲間達が賊の飛空船に再乗船。宝珠がある機関室も押さえて完全に賊の飛空船を掌握する。
「待つのにゃ。逃がさないのにゃ〜」
 賊の一部が龍で逃げだしたものの、真っ先に気がついたパラーリアが駿龍で追跡。賊の一味は一人残らず捕縛されるのであった。

●歓迎
 春暁号の操縦は常春、賊の飛空船についてはルンルンが受け持つ。襲われた海上の船まで戻り、囚われていた猫族の娘六名を送り届けた。
 春暁号と賊の飛空船は海上の船を先導にして海岸へと辿り着いた。そこは主に猫族が住む漁師町だった。
「大変なところを助けていただいたそうで、どのように感謝してよいのやら」
 賊を引き渡す際、官憲の他に町の長も春暁号の一行の前に現れる。
 春暁号の一行は屋敷へと招かれた。水浴びによる涼みの馳走を受けてから広い客間へと通される。
「魚料理がいっぱいですね。さすが猫族の漁師町だけあります」
「本当なのにゃ。天儀風のお刺身まであるのにゃ〜」
 常春と並んで卓についたパラーリアが運ばれてきた料理を眺める。
 泰国にも魚介類を生食する鱠料理は存在していたが、皿に並べられた様子は天儀風になっていた。山葵と醤油も用意されており、猫族の料理人の中に天儀通がいるのがうかがえた。一行に天儀出身者が多いのを気遣ってくれたのだろう。
「これは秋刀魚のお刺身ですね」
「はい。ちょっと早いのですけど、ちょうどお供えの時期ですし」
 伊崎紫音の側にいたのは囚われていた娘のうちの一人である。頭の上の耳をピコピコ動かしながらにこやかに答えてくれた。
 泰国の猫族は八月の五日から二十五日の間に月に向かって祈る風習があった。その時に秋刀魚三匹をお供えするという。祝詞は様々だがどれも月を敬う内容のようだ。
 長の一言で無礼講の宴会が始まった。
「秋刀魚の塩焼きか。‥‥うん、こいつはうまい。うますぎるぐらいだな」
 朱華は冷酒を引っかけながら焼きたての秋刀魚を摘んだ。空いた腹に染み渡る味に思わず呻ってしまう。
 こうなると箸が止まらなくなった朱華だ。ぱっぱと平らげられた皿が重ねられてゆく。
「漁師料理はいろいろとあるのですね」
 玲璃は好みの料理を頂く。
 海草を使った鍋などもあって料理は多種多様。冷たい水が張られたたらいの上の器には『ところてん』もあった。
「坊ちゃん、ほらほら。あ〜ん、してくださいっ」
「え! あっあの‥‥」
 ルンルンは匙で掬った磯鍋の白身を常春の口元に運ぶ。顔を赤くして断る常春だが、ここはニンジャの押しの一手。まんまと食べさせるのに成功する。ちなみにねだって常春から西瓜を食べさせてもらったルンルンだ。
「これ、扇子をあげるから。忘れていったのも合わせて」
「そうだった! この間はごめんね。奈良柴さん」
 常春は奈良柴から受け取った扇子「芍薬」と「巫女」をさっそく広げてみる。さっと仕舞い、鮮やかに広げるのを瞬く間に繰り広げる。ほんのわずかな者にしか見せたことがない、常春の隠し芸であった。
「これは‥‥とてもよいものですね。気品のある香りがなんともいえません」
 姿勢を正しながらジークリンデが匙で頂いていたのは泰国産の『めろぉん』。中央部分の種やワタが取り除いて外皮の柔らかい内側のみを頂く実である。直前まで冷水に浸されていた『めろぉん』はとても格別。ジークリンデは常春にも勧めた。
「ものすごく甘くて美味しいね」
 春華王が正体の常春でも食べたことがない程の美味めろぉんだ。絶賛の嵐に気をよくした村の長は後で一人に一個ずつ土産として手渡してくれる。
 日が暮れてから猫族のお供えにも参加する。月光を浴びながら一緒に歌って踊るのだった。
 それからの数日間、春暁号の一行はこのまま漁師町で過ごすことにした。
「ほら、坊ちゃん。泳ぎましょう」
「えっと‥‥実はダメなんだ」
 水着に着替えて泳ぐ機会もある。しかしここで常春の金槌が判明してしまった。張り切るルンルンを切っ掛けにして特訓が開始される。
「そうそう。ゆっくり手足を動かしても大丈夫だよ〜」
 パラーリアは木板を用意してきて常春に使わせてあげた。その甲斐あって二十メートル前後だが常春は泳げるようになる。これ以上は体力の問題だろう。
 ゆっくりとくつろいだ春暁号の一行は村人達に感謝して立ち去る。
 春暁号は泰国の帝都、朱春で常春を降ろすと朱藩の首都、安州へと向かう。高鷲造船所に春暁号を預けた後で精霊門を使って神楽の都へと戻った開拓者達であった。