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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 泰国は天儀本島と離れた地。嵐の壁によって隔たっていたものの、今では飛空船での往来が可能である。多数の群島によって形成され、春王朝天帝と諸侯によって治められていた。 帝都の名は朱春。 春王朝天帝の名は春華王。十一歳の時に帝位に就き、今はまだ十四歳の少年である。 宮殿奥の『青の間』。 ここは何人であっても春華王の許可無しには立ち入ることが許されない部屋である。 今のところ入室の自由を許されているのは侍従長の『孝 亮順』のみ。秘密裏に孝亮順が連れてきた影武者の少年も許されてはいるのだが、これは永遠に公式とはなり得ない。 ちなみに地下通路によって繋がれている宮殿敷地内の離れの家屋が影武者の少年の住む場となっていた。この地下通路はいくつもの出口があり、お忍びで春華王が常春として外に出かける時にも用いられるものだ。 「これは‥‥熊、いや違う。何なのだ? 亮順」 春華王が贈り物の掛け軸を広げて首を傾げる。竹林らしき場にいる熊らしき妙な生き物が笹竹を囓る絵がそこには描かれていた。 「これは大熊猫。熊に似ておりますが、このように白と黒で色分けされた毛を持つ変わった生き物。水墨画ゆえにこのようになっているのではありません。パンダとも呼ばれております‥‥が、わたくしめも実物を目にしたことは一度しか御座いませぬ」 「パンダか‥‥。いや名は知っておったのだが、まさかこれがそうとは‥‥」 パンダの掛け軸を気に入った春華王は、しばらく青の間の片隅に架けておいた。毎日眺めているうちにやがて本物に会いたくなる。 (「調べたところ、非常に個体が少ない生き物のよう。とてもではないが、私一人ではどうにも。ここはやはり‥‥」) 春華王は次にお忍びで出かける先を決めた。 そこは泰国南部、竹が多く自生しているパンダが棲息すると噂されている森であった。 |
■参加者一覧
紅(ia0165)
20歳・女・志
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
純之江 椋菓(ia0823)
17歳・女・武
伊崎 紫音(ia1138)
13歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●パンダ探し 旅客飛空船に乗って二日後。一行は森の外縁へと辿り着く。泰国南部特有の暖かい気候で植物の葉は青々としていたが季節は冬。風が吹くと寒いので常春もそれなりに着込んでいた。 「この森にパンダがいるらしいんです。行きの間に伊崎さんと一緒に描いたのがこれです」 常春が広げた巻物には竹林に佇む熊のような生物が描かれてある。白黒のみで色分けされた生き物だと常春は説明した。 「白と黒と聞いたので縞々とか、虎模様を想像していたのですが、常春さんによればこんな感じらしいんです」 絵を描いたもう一人である伊崎 紫音(ia1138)も半信半疑の表情を浮かべる。 「柚乃もパンダは見たことがないから‥‥とても楽しみ。‥八曜丸もないよね?」 柚乃(ia0638)は隣りのもふら『八曜丸』に話しかける。八曜丸は興味なさそうにもふっと頷いた。 「パンダ、ふうむ。パンダ‥。白と黒の熊か。どういう理由でこの色になったのやら。興味深いな‥‥」 紅(ia0165)は巻物を覗き込んだまま何度も唸る。 「毛が白黒になってるなんて面白いですねぇ。ぜひ、私も一度見てみたいですっ」 「熊みたいなのに竹の笹が主食らしいんだよ。だからこの絵みたいに竹の側にいるんだって」 純之江 椋菓(ia0823)はさっそく森の藪を覗き込んでみるが、竹は一本も生えていなかった。広い森なので竹の植生は点在しているらしいと常春から聞いて納得する。 「これ、とっても暖かいよ。ありがとう」 常春がパラーリア・ゲラー(ia9712)に見せたのは手にはめられた毛糸の手袋。パラーリアがずっと編んでいたもので、先程出来上がって贈られたものだ。 「手がかじかんじゃって絵が描けないとか寂しいもんね〜♪」 常春を見上げるパラーリアである。 「好物は竹、なら好物の所にパンダさんありです!」 さっと跳び上がったルンルン・パムポップン(ib0234)は枝に掴まるとグルリと回る。そして枝の上に乗って森の奥を眺めた。 まずは常春に待機してもらう集落を探さなくてはならなかった。三時間ほど森を彷徨って集落を発見する。 「この小屋を貸して頂けますか?」 純之江が集落に住む老翁に交渉して小屋を貸してもらう。対価は常春の懐からだ。 「竹藪? この辺りではみかけんの。パンダは曾祖父が森を迷子になったときに見たとか聞いた覚えがあるの」 ついでに竹藪とパンダについてを老翁に聞いてみるものの、どちらもよく知らないようである。そこで老翁が知る森にある人家を教えてもらい、手分けして話しを聞きに行くことにした。 「気をつけてくださいね!」 「常春さんの安全は任せてください。待ってますっ!」 常春と護衛の純之江はパンダ捜索に出かける仲間達を見送るのだった。 ●ルンルン 枝から枝へと飛び移るルンルンを追いかける影。 「捜査の基本は足だって、動物をたくさん飼っているムッシュ五朗さんも言ってたもの!」 「キキィ〜!」 ルンルンは途中から何故かついてきた小猿に話しかけながら集落を探していた。ちなみにムッシュ五朗は彼女しか知らない人物である。 新しい集落を見つけたルンルンは小猿と別れた。訪問するとパンダそのもの、もしくは竹藪が近くにないかと人々に訊ねて回る。 「パンダは知らないけど、ここから東に竹林はあるよ。森の中だけどね。とはいえ遠いから覚悟は必要さね」 「ふむふむ‥‥。ありがとうございます!」 三十路の女性が教えてくれた竹林の位置をルンルンは地図に記す。 地図は森の外縁が大まかに描かれているもので、殆ど何かあるのか記載されていなかった。 「ずっと行くと尖った岩があると‥‥。そこから道なりに進むと小川があるんですね」 他の集落民にもあたり、この集落から竹林に至る道しるべを教えてもらうルンルンであった。 ●パラーリア 「煙がのぼっているのにゃ♪」 高い杉の木の天辺で辺りを見回したパラーリアはするすると幹を伝う。ぴょんと地面に下りて小川にかかった橋を渡る。その先には小屋があった。 小屋に住んでいたのは筋肉隆々の木こり。パラーリアは元気に挨拶をするとさっそくパンダについて訊ねてみる。 「笹を食べるパンダを探してるんだよ〜」 「パンダってあの白黒のことか? 長いこと森ん中で木こりやってりゃ見たことはあらぁな。だがよ。そんな俺でも滅多に遭遇しねぇな。ま、森の一部とはいえ竹藪に好んで立ち入る木こりはいねぇからな」 大笑いした後で木こりはパラーリアの他の質問にも答えてくれる。 木こりが知っている竹藪はここから半日の場所。距離は大したことないのだが、至る道が荒れていて歩きにくいらしい。 二週間程前になってしまうのだが、パンダのものらしき足跡や排泄物を竹藪近くの森の中で見かけたことも教えてくれた。 「木こりさん、ありがとうだよ〜」 パラーリアは非常食のいくつかをお礼として木こりにあげると小屋周辺を立ち去る。 「常春くんに早くしらせよ〜。純之江さんはいるけど、やっぱりおいてけぼりは寂しいよね」 まずは仲間との情報交換が先だとパラーリアは来た道を辿って戻るのであった。 ●紅 「やはりこの森にも熊はいるのか」 「夜になれば狼の遠吠えも耳にするだろう」 紅は森の中で偶然に会った猟師に森の状況を聞いた。危険について一通り把握すると本題であるパンダについてを訊ねる。 藪といえるほどの密集度はないものの、竹の集まりがいくつか点在する辺りを猟師は知っていた。紅はそこに向かってみる。 (「さてと。まずは‥‥」) 紅は心覆を使って殺気を察知されにくくする。その上で竹が生える周辺に近づいて心眼でパンダを探った。 パンダらしき存在が見つからなかったところで今度は足下の地面に注目する。パンダの足跡や排泄物、食べカスが残っていないかを確認して回る。 別の竹が生えている周囲に移動し、再びパンダ、または存在を示す証拠を探った。 「これは自然に倒れたものではなさそうだな‥‥」 若い竹が大量に倒されている跡を紅は発見する。但し、枯れた様子から最近に起こったことではないと結論づけた。パンダは一ヶ月から二ヶ月前、この辺りにいたかも知れないが今はどこかに移動してしまったと。 パンダを発見できなかったのは残念だが、いないことを確かめられたのも重要な調査結果である。 紅は常春が待つ集落へと戻るのであった。 ●柚乃 「竹藪‥パンダ‥。‥八曜丸も白と黒の熊さんみたいな生き物を見つけたら、柚乃に教えてね」 柚乃はもふらの八曜丸を連れて森の中を彷徨う。 「竹林があれば‥教えてください。あと‥他の集落も――」 柚乃は新たな集落に到着すると地図を片手に訊ねる。いつの間にか八曜丸と遊んでいた子供達にも聞いてみた。 「パンダなら俺、知ってるぜ!」 「ウソつけよ。森で迷子になったときに偶然見かけただけのくせに」 しばらく子供達の会話に耳を傾ける柚乃だ。子供達によれば、この集落から北東の方角で見かけたのだという。 「ありがとう‥探してみるね」 柚乃と八曜丸は集落を後にして北東に向かってみる。 「ここかな‥」 しばらくして柚乃と八曜丸は竹藪に辿り着いた。ただもう日が沈みかけた頃でパンダを探す時間は残っていなかった。 目印になりそうな周囲の物を地図に描き込むと、急いで常春の元へと帰る柚乃と八曜丸であった。 ●伊崎紫音 「あの、パンダを探しているのですが、何処に居るかご存知ありませんか?」 「パンダ? あの熊のようで違うヘンテコリンな模様のやつのことかい」 伊崎紫音は常春が待つ集落を中心に三キロ円の中にある人家を渡り歩く。集落もあるがこの森には家族単位で居を構える人々もいたのである。 「かなり奥の方じゃないといないみたいですね」 暮れなずむ頃、伊崎紫音は岩の上に座って調査内容を紙の上でまとめた。近くに竹が自生する地域があるものの、そこにパンダが棲息している気配はない。少なくともここ数年は見かけられていなかった。 だからといってパンダがいないとも限らなかった。この点については仲間達の報告と照らし合わせれば浮かび上がってくる事実もあるだろう。 出来ればパンダを探したかった伊崎紫音だが、確実性のある有力な情報が得られなかったこともあって一旦引き返すのだった。 ●常春と純之江 そして集合 集落の小屋に残った常春と純之江は仲間達の為に夕食作りをしていた。 野菜は集落の人達から譲ってもらう。それに純之江が捕まえた猪肉を加えての牡丹鍋である。 「ゴホッゴホッ‥‥」 釜で飯を炊く常春は煙に巻かれて咳き込んだ。少し離れたものの、また近づいて薪を抜いて火加減を調節する。天儀出身の者が多いので白飯が喜ばれるだろうと。 「牡丹鍋もいい感じですっ。後は冷めないように蓋をして。みなさん、もうすぐでしょうか」 純之江は狭い座敷の囲炉裏に吊された鍋をしゃもじでかき回す。ちなみに肉類が駄目な人用にお野菜だけの鍋も別に用意されていた。 日が完全に落ちた頃には全員が調査から戻ってくる。ご飯と牡丹鍋の夕食を楽しく楽しく食べ終わり、柚乃が淹れてくれたお茶を飲みながらパンダの情報を突き合わす。 まずは竹の自生地域を一つの地図に描き込み、すでに捜索された場所にはバッテンを記した。さらに人家も描き加えて情報の偏りがないかを判断する。 ぽっかりと地図上に大きな未調査地域が浮かび上がるものの、パンダがいるかも知れない竹の自生地域も二カ所判明した。 まずは有力な二カ所の竹の自生地域を調べた上で、それでもパンダが見つからなければ未調査地域に足を踏み入れるとの総意が決まる。 「そういえば常春クンの家って老舗お茶問屋だったよね? 珍しい泰のお茶が欲しいんだけど、オススメってある‥?」 柚乃は寝る前のくつろぐ時間に常春とお喋りを楽しんだ。 「お茶っていろいろあるんだ。黒茶とか白茶とかもあるけど、クセが強いからやっぱり一般的な緑茶がいいんじゃないかな。緑茶っていっても天儀とは少し製法が違うみたい。その中でもジャスミンの香りを緑茶につけた茉莉花茶はお勧めだよ」 常春は自分が好きなお茶を柚乃に勧めた。 (「お兄さんだし、同じものに興味を持ってるかも?」) パラーリアは寝袋へ入る前に懐から紙を取り出して広げてみる。それは以前、常春に描いてもらった常春の兄の似顔絵だ。森の人達にこの絵について聞いてみると、見たような見たことないようなと曖昧な答えが返ってきた。もしかするとこの地を常春の兄が訪ねているのかも知れない。 常春が柚乃から借りた毛布にくるまる。狭い小屋の中、ひしめき合いながら一晩を過ごした一行であった。 ●パンダ 夜明け前に起きた一行は出発の準備を整える。 特にパラーリアは常春、純之江、柚乃、伊崎紫音と一緒に全員のお弁当作りを頑張った。食材の一つとなる川海老はルンルンと紅が獲ってきてくれる。卵などのその他食材は昨日のうちに常春が集落の人達から調達してあった。 常春の歩く調子に合わせながら一行は森を進んだ。途中で熊と遭遇するが事前の情報のおかげで特に慌てることなく逃げおおせる。 一つ目の竹藪を隈無く探したものの、パンダとは出会えなかった。 「パンダ、見つかるといいのにゃ♪」 「きっと次のところで見つかるよ。それにしてもこの川海老の天むすびと卵焼き、美味しいね」 パラーリアの前で常春がおむすびを頬張る。次の竹藪へ向かう前に全員で昼食を頂いた。焚き火でお湯を沸かしてお茶と一緒に。 「ふと思ったんだけど、こんな竹藪で白と黒だと保護色にならないんじゃないかって。パンダって不思議な生き物ですよね」 ルンルンが周囲の竹藪を眺めながら首を傾げる。 「白黒じゃかえって目立ちそうだよね」 「あっ、私解っちゃいました、きっとパンダさんは、元々水墨画世界の生き物なのです、だからあれが保護色に違いありません、正に東洋の神秘です!」 常春へとにこっと微笑んだルンルンである。常春は大きく頷きながら微笑み返す。 昼食が終わって二つ目の竹藪に向かう。ようやく辿り着いた頃には日が暮れようとしていた。 夕闇の中、開拓者達は急いでパンダを探す。誰もがあきらめかけた瞬間、紅が藪の中で動く物体を発見する。よくよく見ればそれはパンダであった。 ●絵筆 一行は天幕を張り、交代で休みながら一晩中パンダを見張り続けた。そして翌朝。 「明るい日の下で見ると本当に白黒だね。すごいな〜」 常春は張り切ってパンダの写生を始める。心なしかいつもより元気な楊子だ。 開拓者達は常春とパンダの周囲に散らばって見守る。パンダはというと地面に座って笹を千切っては食べ続けていた。 「白黒が本当なのはよくわかったが‥‥寝て食べてばかりいるような。ぐーたらなのか?」 刺激を与えたりはしなかったが、紅はパンダの様子にあきれた表情を浮かべた。昨晩からずっと寝ているか、食べているのかのどちらかである。むしゃむしゃと笹を口に運ぶ仕草が愛らしいといえばそうだが。 「逃げる感じがしたら教えてね‥八曜丸」 柚乃は常春とは反対側でもふらの八曜丸と一緒にパンダを見張る。どこかのんびりとした雰囲気が、もふらと共通するように感じた柚乃も絵を描いてみた。もふらの八曜丸とパンダが並んだ様子を。常春が望んだので描いた絵を交換した柚乃だ。 「少し狩ってきますっ」 純之江柚乃は昼と夜の食事の為に食材探しに出かけた。朝食は軽く済ませた程度であったので体力がつく食べ物を探そうと頑張る。夕食の主役は野鳥の丸焼きであった。 「笹を食べてる姿も、可愛いですね」 伊崎紫音が集めてきた笹をパンダは怖がらずにむしゃりと食べ続けた。常春はひたすら筆を走らせる。 「常春坊っちゃんが満足するまでは目を離せません。ジゴクイヤーがあれば、絶対に逃がしませんよ」 ルンルンは竹の上部でブランブランと揺られながら下方のパンダを見張る。ちょっと目が回ってきてもガマンガマンのニンジャであった。 やがて常春は十枚のパンダの絵を描き上げる。線描のみだが躍動感には素晴らしいものがあった。特に眠そうなパンダの絵は非常に好評だ。 「どっかな?」 常春の写生が一段落したところでパラーリアは球「友だち」をパンダの近くに投げてみる。すると抱きかかようとするがポンッと弾いてしまう。 そんなパンダがきょとんとした様子も常春はささっと紙に写し取ったようである。とにかく絵を描くことに夢中であった。 パンダと一緒の二日間を竹藪で過ごし、一行は帰路についた。 朱春に戻った時、常春は途中で買い求めた白墨を開拓者達に贈る。何となく名前がパンダを思い起こすからというのが理由である。 「パンダ、見つけてくれてありがとう。絵をたくさん描けてとっ〜ても楽しかったです!」 常春は開拓者一人一人に白墨を手渡すと、笑顔で往来の人波の中へ去ってゆくのだった。 |