アヤカシの報復 〜綾姫〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/06 19:35



■オープニング本文

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 武天は天儀本島最大の版図を持つ国である。
 王は赤褐色肌の巨勢宗禅。巨勢王の名で通っている巨漢の男には娘がいる。
 その名は『綾』。普段は綾姫と呼ばれていた。
 父親に似ず器量よし。亡くなった母親の紅楓に似たおかげだ。
 紅楓は理穴国の王族、儀弐家の血筋。綾姫は親戚となる理穴国王の儀弐重音にどことなく面影が似ている。
 綾姫は飛空船で編成された武天軍を統率した経験もある才女の綾姫だが、まだ十歳と若いどころか幼いといってよかった。


 東房での戦いに参加していた綾姫は龍騎兵によって届けられた巨勢王からの親書に目を通す。急遽、信頼する臣下に指揮を任せて武天へと帰国した。
 此隅城に戻ったばかりの綾姫は最初に侍女、紀江の部屋を訪ねる。
「‥‥綾姫様、すみませんが身体が思うようになりません。床の中から失礼します」
「そのようなこと気にするでない。大丈夫かや?」
 伏せる紀江を綾姫が見舞う。
「ご心配して頂いてありがとう御座います。ですが私は平気ですのでどうかご公務に戻られてくださいませ」
「案ずるな。こうして紀江の顔を見にくるのも公務の一つじゃて。私事でも来るつもりだがな」
 紀江は綾姫の苺畑を守ろうとして腕を骨折していた。その他にも傷を負い、それが原因で熱もある。
 綾姫は怪我を負った他の侍女やサムライも見舞った。その後、郊外の苺畑へと足を運ぶ。
 苺畑の一部は踏み荒らされて酷い有様である。もうすぐ春を迎えて実をならせようとしていた苺の苗が千切れ枯れかけていた。
「無念じゃ」
 屈んだ綾姫が小さな青い苺の実を手に取る。
 紀江を含めた綾姫の臣下達が必死に抵抗してくれたおかげで被害はこれだけで済んでいた。
 襲ったのは野盗の集団だが奇怪な妖術を用いたらしい。全員か一部かはわからないもののアヤカシが絡んでいるのは間違いなさそうである。
 人里離れた土地ならまだしも綾姫の苺畑は武天の首都、此隅のすぐ近くに存在する。野盗がしでかした行為は綾姫と巨勢王の顔に泥を塗ったに等しかった。
 巨勢王は現在、東房での戦いに関連して此隅を留守にしている。事態を勘案して戦いの最中に綾姫を戻したのも頷ける話である。
「何としても野盗を掴まえねばならぬ。わらわと父様に対しての宣戦布告なのじゃろう。巨勢宗禅の娘、綾はこのような非道を断固許さぬのじゃ」
 綾姫は市中に野盗が潜んでいると考えていた。
 野盗が機会を窺って今度は此隅そのものを混乱に陥れようと企んでいるとすれば見過ごすわけにはいかない。
「これ以上、好き勝手はさせぬ」
 綾姫は万が一の事態に備えて懇意の開拓者を呼び寄せるのであった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
柄土 神威(ia0633
24歳・女・泰
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ


■リプレイ本文

●踏み荒らされた畑
「宣戦布告ねー‥‥ほんっとうにいい度胸、だね‥‥」
「丹精込めて作った畑を大勢で踏み荒らすとは‥‥断じて許せるものではない」
 蒼井 御子(ib4444)とフランヴェル・ギーベリ(ib5897)は震えながら拳を強く握りしめる。
『甘い苺を台無しにするなんて信じられない! さっさと下手人を捕まえるわよ!』
 フランヴェルの人妖・リデル・ドラコニアも大変なお冠である。
 武天此隅の郊外。開拓者一行は綾姫と共に苺畑を訪ねていた。言葉こそ発しなかったものの、綾姫も唇を噛みしめる。
「せっかく綾姫さんが育てた苺を駄目にするやなんて酷い奴らやな」
 神座真紀(ib6579)が枯れてしまった幹と葉を拾い上げた。
「せやけど綾姫さんの畑と知って襲ったんやとしたら、苺食べる為とかやなくて何か目的があったんやろか?」
「苺畑を狙うというと‥‥恐らく、この前の作戦で薙ぎ払われた残党が裏で糸を引いているかと考えられます」
 神座真紀と視線が合った三笠 三四郎(ia0163)が自分の推測を言葉にする。
「食べ物を粗末にするのはだめなのにゃ‥‥。綾ちゃんは心あたりあったりするのにゃ?」
「心当たり、父様の所業も含めればいくらでもあるのでなんともいえぬ。多勢にとって益であっても、そうでない者も少数おるのでな。ただ今回はアヤカシの報復と考えるのが一番理に適っていよう」
 パラーリア・ゲラー(ia9712)に答えながら綾姫は自分の考えを一同に伝えた。
 三笠がいうように理穴東部から流れてきたアヤカシが関わっている可能性もある。また各地のアヤカシが霍乱を模索している場合もあり得た。
「苺畑での戦いは激しいものだったようですね。敵の正体を掴める証拠が残っているかも知れませんよ」
 紙木城 遥平(ia0562)は折れた槍の穂先を拾う。そして『術視「弐」』を使って確かめてみた。穂先はただの武器のなれの果てであったが、そうでない物もあるかも知れない。
 綾姫から判明している当時の状況が語られる。
 野盗は百名前後。此隅方面から苺畑を襲って引き返していったという。
 術は遠吠えのようなものを介して発せられたらしい。それによって多くの盗賊が人並み以上の力で暴れた結果がこの惨状である。
 その場に立ち会わせたサムライの私感だが、志体持ちよりかは弱かったらしい。それ故に修練を積んだサムライ技を持ってして何とか対抗できたようだ。
 全員で荒らされた畑を探してみることにする。
「まさか苺畑を荒らすためだけに生まれたアヤカシとかじゃないですよね?」
 柄土 神威(ia0633)は草木のアヤカシを想像して苦み走った顔をしながら畑を探った。
「これは?」
 しばらくして発見されたのが飛空船の起動宝珠である。紙木城によって呪術がかかっていないかを確かめた後で綾姫に手渡された。
「一体どの船の宝珠なのじゃろうな」
 付けられていた札からすると中型飛空船のものらしい。ただ船名を示す表示はなく、丸に囲まれた中の文字と伍とだけ書かれてあった。
 野盗ではなく空賊の可能性も出てきたところで本格的な捜査が開始される。
「ここからそれほど遠くではないな」
 九竜・鋼介(ia2192)が広げたのは綾姫から事前にもらった此隅の地図だ。奉行所が注意を払っている酒場などの破落戸のたまり場に印が付けられている。
 地図は望む開拓者全員に手渡されていた。
「わらわが足手まといになるのは本意ではない。城で吉報を待っているぞよ」
 綾姫は調査には加わらなかった。
「綾姫様、ちょっと、いいかな?」
「どうしたのじゃ、御子殿よ」
 臣下が準備した龍に乗って此隅城へと戻ろうとした綾姫だが、蒼井御子からの提案を受けてしばらく苺畑に残ることにした。
 仲間が捜査に向かった後で蒼井御子は畑の中央に椅子を置いて『詩聖の竪琴』を取りだす。
「よい曲じゃ」
 綾姫が蒼井御子の演奏を聴いて感想を呟く。約三時間、蒼井御子は『精霊の聖歌』を奏で続けて苺畑の瘴気を払ってくれた。

●捜査
 轟龍・さつなに乗った三笠は上空から野盗が辿ったと思われる経路を探る。
「百名もの人間がまとめて移動したのなら、それなりの痕跡があってもおかしくはないと思いますからね」
 三笠は轟龍・さつなに話しかけながら眼下を見つめる。
 苺畑から此隅へと通じる経路はいくつかあった。人通りの多い街道での目撃例はないようなのでそうではない道を探る。
 草木が雑多に生える岩だらけの荒れ地に着陸してみる。足跡が多くあったことから、ここが集合場所であった可能性が高かった。
「飛空船はありませんね」
 残念ながら畑で拾われた起動宝珠と対になる飛空船は見あたらなかった。三笠は再び轟龍・さつなに乗って上空から観察する。
 荒れ地に集まった後で散らばりつつ此隅へと戻っていったと考えられた。
「周囲に怪しまれずにあれだけの人数が暮らせる場所は――」
 三笠はその後数日間、武天近郊の飛空船係留地に通い詰める。そして長期滞在の飛空船を調べるのであった。

 紙木城は鬼火玉・小右衛門を連れ歩きながら瘴気の痕跡で足取りを探る。
 苺畑から此隅方面の道を辿りながら一番瘴気が濃い順路を絞り込んだ。盗賊にアヤカシが含まれていたのならば残り香のような瘴気があると踏んでいたのである。
「この分かれ道ですと‥‥」
 実際にそれなりの手応えはあった。該当のアヤカシによるものかはわからないものの、濃い瘴気を辿ることはできる。
 そして辿り着いた此隅の門は地図に載っていた治安が悪い地域にほど近かった。
 ここで一つの疑問が浮き上がる。異形のアヤカシならば一見しただけで正体がばれてしまうのではないかと。

「しばらく町に滞在するのですが、近寄らない方がよい場所とかありますか?」
「ああそれなら――」
 そう道ばたで訊ねた相手に柄土神威が襲われる。
 破落戸を軽くいなし、この辺りがそうなのだと実感したところで飯処へと立ち寄った。
 酒と煙草の臭いが立ちこめる中、武術の道場がないのかと訊いてみても給仕は無表情のまま。そっといくらかの駄賃を忍ばせるとにこりと笑う。
 給仕に教えてもらった剣術道場は確かに盛況であった。但し、真面目に稽古している様子は窺えなかった。
 怪しいと思いながらも証拠は今のところ一つもない。たまたま近くにあった宿の二階を借りて観察することにした。
「綾姫様にこれを頼みますね」
 柄土神威は日が暮れるのを待つ。そして二階の窓から迅鷹・夕霞を放つ。これまで得られた情報を認めた手紙は無事に此隅城の綾姫の元へと届けられた。

 九竜鋼介は苺畑を離れる前に愛刀の「鬼丸」を綾姫に預かってもらっていた。
 ボロの着物や外套を纏って腰に下げるのは虎徹のみ。顔にもくたびれた襟巻きなどを巻いて目だけを出す。
 人妖・瑠璃には背嚢の中で我慢してもらった。
「最近景気のいい話はあるか」
「あったらこっちが教えてもらいたいもんさ」
 酒場で声をかけても梨の礫ばかり。しかし酒をおごれば相手の口も少しは軽くなった。
 ある商人が人集めをしていたといった噂を聞き出す。一週間ほど前の話だが、ここ数日も似たようなことをしているのだという。
 人集めの理由までは明かされていなかった。
 九竜鋼介が足下に置いた背嚢から鼠が一匹飛び出す。人妖・瑠璃が人魂で化けた鼠であり、酒場での内緒話をこっそりと拝聴して回る。
 人集めをしていた商人は泰国から来たといっていたが違うようである。多くの傍観者は理穴訛りを商人から感じていた。
(「理穴か」)
 理穴といえば綾姫が先頃アヤカシと戦った土地である。九竜鋼介には引っかかるものがあった。

「ぬこにゃん、今日からは町中での調査なのにゃ」
 パラーリアは苺畑を調べたその日、此隅城で負傷した者達の看病にあたる。体調がよい者から当時の事情を聞いた上で翌日に町中へと繰り出した。
 治安の悪い地域へと出向き、仙猫・ぬこにゃんには近所の野良猫への聞き込みをお願いする。猫呼寄を使えばそれらの猫達に協力も仰げるはずである。
 自らは大人数がたむろできそうな大きめの古屋敷を探す。しかしそういう場所にいたのは不特定の弱々しい人々ばかりであった。
(「ねぐらがわかれば一発なのにゃ。でもそれがどこなのか‥‥」)
 パラーリアが悩んでいると細い垣根の上を歩いて仙猫・ぬこにゃんがやってくる。そして教えてくれた。ある空き地に商人が飛空船を着陸させて人集めをしていると。
 残念ながらパラーリアがいったときにはもう誰もいなかった。
 翌日、空き地へと張り込んだパラーリアと仙猫・ぬこにゃんに飛空船が着陸するのを目撃するのであった。

 蒼井御子は治安が悪い地域には出向かず、その他の周辺を探ってみる。周辺からの方が第三者の目としてわかることもあるからだ。
(「この辺り、だよね」)
 上級迅鷹・ツキに上空を見張ってもらいつつ、邪魔にならない空き地で吟遊詩人として演奏を奏でた。
 演奏を喜んでくれた人達にさりげなく世間話を交わす。するとここ数週間、悪さをする輩が増えているようだ。
(「お金をもらって、悪いことをしているのかも」)
 仲間達が得た情報によって蒼井御子は人集めをしている商人がいることを知る。自分が調べた内容と合致する内容で腑に落ちた。
 ある日、たまたま疑わしい商人が所有している飛空船を街中で発見した。
「ツキ、お願いね」
 蒼井御子は迅鷹・ツキに飛空船を追跡させることで証拠を掴もうとするのであった。

 フランヴェルは苺畑で発見された起動宝珠の出所を探ろうとしていた。
「これだけど、どうかな?」
 まずは綾姫から信用できる飛空船技師を紹介してもらう。そして詳しく調べてもらった。
「鍵だけじゃわかることは殆どなくてね。ただこのような札を交易商人の多くはつけているようだ。それは間違いない。余程の大商人じゃないと大型飛空船を所有していない。だとすれば最初の想像通り中型の飛空船の起動宝珠だろうな、きっと」
 フランヴェルは起動宝珠の合い鍵についても訊ねる。はっきりいって複製は難しいようだ。元々の起動装置を丸ごと交換した方が手っ取り早いという。
 フランヴェルはその技術を持つ飛空船の修理屋をあたることにする。
 三人目でそれらしい仕事を引き受けた職人を発見した。しかし具体的な依頼者の話となると口は堅かった。
 結果、修理屋の元へと通い詰めることとなる。
『これ美味しいんだから、食べてみなさいよ』
 人妖・リデルはお茶菓子を買ってきたりと頑張ってくれた。
「これは素晴らしい仕事だね」
 三日目にようやく聞き出すことに成功する。どうやって口説き落としたのかはフランヴェルだけが知る秘密であった。

 神座真紀(ib6579)は羽妖精・春音と一緒に可愛らしいメイド服姿で此隅内の様々な商店を訪ねて回った。
「まぁ百人分位大量に買えば喜んでおまけもしてもらえるんやろけどな。でもそんなに買う人なんてそうおらんやろ?」
「確かにおらんですけれど、いないわけではありませんで」
 そういって鎌を掛けつつ神座真紀は商人から情報を聞き出す。時には羽妖精・春音に誘惑の唇を使わせて商人の口を軽くした。
 情報を持っていそうで口が堅い商人には実際に商品を購入した。
 食料品関連ならば此隅城で充分消費できるので問題はなかったのである。綾姫からの許可はちゃんと得ていた。
 此隅城に直接納品すると足がつくかも知れないので、偽装した飛空船に載せておく。後日こっそりと此隅城へ運び込まれた。
 聞き込みでわかったことといえば、ある交易商人がたくさんの食料を欲していたことだ。かなりの分量にも関わらず毎日のように買い込んでいた。
 その行為そのものは商人なので不思議ではない。しかし誰かを養っているような買い方が怪しかった。

●相談
 四日目の此隅城。最新の情報を土産にして開拓者達が綾姫の元に集まる。ざっくばらんに話せるよう個室で行われた。
 畑から摘まれた苺が振る舞われた。苺畑が全滅していなかったことにほっと胸を撫で下ろす開拓者だ。
「なるほどのう」
 綾姫が開拓者達から聴いた話をまとめる。
 苺畑を襲った野盗は理穴と武天を渡り歩く『厳蔵』という商人が首謀者らしい。曖昧なのは背後にアヤカシが見え隠れするからだ。
 厳蔵は武天内の自らの敷地内に野盗を匿っている。また此隅内の治安の悪い地域にある剣術道場も集まりの一つのようだ。
 剣術道場に集められた者達は此隅全体で騒ぎを起こしている。殆どは些細な諍いばかりだが綾姫には陽動のように思えて仕方がなかった。
 本隊となるのは厳蔵の敷地内で息を潜める者達である。苺畑を襲った輩はおそらくこちらだと察しがついていた。
 紙木城が瘴索結界で探った結果によれば厳蔵が所有する敷地内周辺の瘴気は濃かった。アヤカシが隠れているとすればこちらであろうと推測される。
「剣術道場はこの際、放っておいて構わないでしょう」
「あたしもそう思うのにゃ。きっと本隊が捕まればおとなしくなるよ〜。あとで奉行所の人にがんばってもらえばよいのにゃ」
 柄土神威とパラーリアの意見に綾姫が頷く。異論を挟む者はいなかった。
「決起の日は明後日が怪しいやね。食料の買い込み方からの想像やけどな」
「明後日は派手に暴れろって剣術道場の奴らがいわれているようだ。俺もその意見に賛成だ」
 神座真紀と九竜鋼介によれば明後日の此隅内で騒ぎが起こるという。
「事前に抑えるには今から明日までが期限というわけだね」
「一所に集まっている間に叩くのが一番でしょう」
 フランヴェルと三笠の意見を聞いて綾姫は暫し瞼を閉じる。
「‥‥こっそりと奉行所の者達に周囲を固めさせようぞ。飛空船があっても逃がさぬよう空の警備もしっかりせんとな。皆には敷地に突入して野盗を倒し、厳蔵なる首謀者を引きずりだしてもらいたいぞよ。それとアヤカシは退治でよろしくなのじゃ。生け捕りをせずとも構わん。場所は外れとはいえ此隅の街中じゃ。周囲に被害が及ばないようにするのを優先してたもれ」
 綾姫の指示が出て細かい作戦の打ち合わせに入る。
「綾姫様は、離れていてね」
「御子殿は心配性じゃの、大丈夫じゃよ」
 蒼井御子と綾姫は指切りげんまんで約束をするのであった。

●敷地内へ
 五日目の四時頃。
 此隅の奉行所の者達が配置についた。地上に配備されたのは三十名。上空監視の飛空船三隻にはそれぞれ十名が乗り込んでいる。
 人員を絞ったのは外部に情報を漏らさないためである。
 開拓者八名が厳蔵の所有する敷地内へ突入したのは朝日が昇る直前だった。
 まず二カ所の門番と見回りをわずかな時間で倒しきる。もちろん敷地内の者達は知られないよう隠密に。
 轟龍・さつなを駆る三笠が低空で内側へと入り裏門の閂を外した。三笠は再度浮き上がって上空から状況を確かめることにする。
 開拓者七名は朋友と共に内部へと突入した。
(「さすがぬこにゃんなのにゃ」)
 侵入に気がついた内部の見張りが鐘を鳴らそうとしたところを、仙猫・ぬこにゃんが飛びついて止めさせる。迅鷹の夕霞とツキも屋敷内へ飛び込もうとする野盗を風斬波で威嚇して身動き出来なくしてくれた。
 追いついた開拓者が倒すことで屋敷の襖が開けられるまで中にいた野盗等は突入に気づくことはなかった。
 寝ぼけながら反撃しようとする野盗等。しかし素手で挑んで来ても開拓者達の敵ではなかった。手足を狙って戦闘力を奪い、畳や床へと転がす。それでも何割かの野盗は戦闘態勢を整えた上て迫ってきた。
「こちらが濃いです」
 紙木城が瘴気の濃い方向へと仲間達を先導してくれる。日は昇っていたものの戸板や雨戸が閉じられた屋敷内はとても暗く鬼火玉・小右衛門の輝きがとても役に立つ。
「奥に二人いるのか?」
 暗視を使った人妖・瑠璃が九竜鋼介に教えてくれる。首謀者の厳蔵らしき男と犬のような顔した人がいることを。
 鬼火玉・小右衛門が大広間の天井まで浮き上がることで敵二人が開拓者達から見えるようになった。
 厳蔵らしき人物がみるみるうちに犬男へと変化していく。二体の犬男・妖が開拓者達を睨みつける。
 犬男・妖二体が吼えた。すると野盗の動きが速く力強くなったように感じられる。
『よくも同胞を!』
 犬男・妖二体が板間を駆けて開拓者達に襲いかかってくる。
 前に出た九竜鋼介は回転切りすることで仲間の盾となる。犬男・妖二体は九竜鋼介の攻撃によって左右に避けるしかなくなった。
 そのまま別々に犬男・妖二体が庭へと飛び出す。
 開拓者も分かれて外に飛び出した。右に神座真紀、蒼井御子、パラーリア。左に柄土神威、紙木城、九竜鋼介、フランヴェルである。
 その時、三笠は轟龍・さつなと共に敷地内から飛び立とうとする中型飛空船に迫っていた。急襲を使って接近し鋭い爪で取りつく。
 するとわずかに浮かび上がった中型飛空船が姿勢を崩して大地に船底をぶつける。
 搬出作業の途中だったのか船倉へと繋がる甲板扉が開放されていた。山積み木箱の一つが転がって壊れる。
(「もしや」)
 箱から零れたのは大量の銃砲であった。
 この一隻を逃したら剣術道場の人員を掻き集められて此隅が酷い状況になる。そう判断した三笠は全力での阻止を心に決めた。
 炎龍突撃による真っ赤な炎のような気を纏った轟龍・さつなは再離陸を試みる中型飛空船の後方機関部に突撃を仕掛ける。
 大きく破損した中型飛空船は敷地内でのたうち回るように転がった後で消沈するのだった。

●成敗
「許さない、だよっ!」
 幻影を纏う蒼井御子が黒猫白猫の演奏でパラーリアと神座真紀を支援する。
「首謀者でもアヤカシなら話しは別やで!」
 神座真紀は不動で身を固めつつ蒼い毛が混じった犬男・妖に『長巻「焔」』で剣撃を繰り返す。常に動いて蒼毛犬男・妖の牙と爪攻撃を避け続ける。
 隙を見て蒼毛犬男・妖に近づいた羽妖精・春音が混乱の舞で翻弄して飛び去っていく。
 距離をとって蒼毛犬男・妖が休もうとしても迅鷹・ツキによる風斬波攻撃でそうはさせなかった。
(「これでどうなのにゃ」)
 蒼毛犬男・妖の戦い方を把握した上で六節による素早い月涙の矢を射ち込んだ。同時に仙猫・ぬこにゃんも幻惑の瞳を使ってくれる。
 様々な弱体化が効いた蒼毛犬男・妖では神座真紀の長巻を避けることができなくなる。
『無念‥‥』
 下腹に大きな刀傷を負った蒼毛犬男・妖が地面に倒れる。すぐに瘴気の塵へと還元していった。
 もう一方の犬男・妖も別の開拓者達によって追いつめられていた。
 迅鷹・夕霞と同化した柄土神威が茶色が混じった犬男・妖の背中に気功波を命中させる。
 フランヴェルは二天をもってして『殲刀「秋水清光」』を茶毛犬男・妖の正面に叩きつけた。その間、人妖・リデルは神風恩寵で仲間の傷を癒す。
 九竜鋼介による焔陰によって炎の刃が胴体を貫いた。これが止めとなって茶毛犬男・妖が地面へと力無く転がる。
 人妖・瑠璃はまだ動ける野盗が近づくのを力の歪みで阻止してくれていた。
 それまで精霊の唄で仲間を支援していた紙木城が茶毛犬男・妖にどうしてと言葉を投げかける。すると『復讐』とだけ呟いて瘴気の塵へと崩れ去っていった。
 首謀者二体を倒したところで開拓者達は後の始末を奉行所に任せることにする。綾姫の元に帰還して首謀者の厳蔵がアヤカシの片割れであったことを報告した。
「それでよい。‥‥やはり理穴東部の生き残りのアヤカシが遙々武天此隅まで来たのじゃろうな」
 綾姫は納得がいった様子である。
 開拓者達は綾姫の勧めもあってそれから数日間、此隅城に留まることにした。苺畑の片づけをしたのである。
「ありがとうなのじゃ♪」
 荒れた苺畑の一角は確かに今何も望めない。
 だが来年は違う。ここにもまたたくさんの苺が実ることを夢見るのであった。