海賊退治 〜綾姫〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/29 17:50



■オープニング本文

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 武天は天儀本島最大の版図を持つ国である。
 王は赤褐色肌の巨勢宗禅。巨勢王の名で通っている巨漢の男には娘がいる。
 その名は『綾』。普段は綾姫と呼ばれていた。
 父親に似ず器量よし。亡くなった母親の紅楓に似たおかげだ。
 紅楓は理穴国の王族、儀弐家の血筋。綾姫は親戚となる理穴国王の儀弐重音にどことなく面影が似ている。
 綾姫は飛空船で編成された武天軍を統率した経験もある才女の綾姫だが、まだ十歳と若いどころか幼いといってよかった。


 希儀発見後、巨勢王が一番に力を注いでいたのが飛空船建造である。
 朱藩の国王『興志宗末』と協力して各地の造船所に発注要請。正月を除いて日夜、作業の音が途絶えたことはないといわれている。
 建造用として武天国と朱藩国は虎の子の資材在庫までを提供していた。高品質な鉄、木材、そして宝珠をだ。
 特に木材は伐ってすぐに使えるものではなく、数年は乾燥させなければならないのでとても貴重。代わりに将来の需要に備えて希儀では大量の自然木伐採が行われているという。
「海賊とな?」
 綾姫は巨勢王の片腕として随行した神楽の都から武天の此隅城に戻っていた。庭の片隅で育てている苺苗の手入れをしながら臣下からの報告を聞く。
 武天西方の港町より木材を積載した海上輸送大型船が朱藩安州の港へ向けて出航。途中、海賊に襲われて船ごと奪われたという。
 積まれていた大量の木材は長年の乾燥を経て板にまで加工されており、非常に商品価値が高かった。
 襲撃されて行方不明から一週間後、輸送大型船は理穴西部海岸線の沖で発見される。積み荷は消え去り、怪我と食料不足などで船員の半分が亡くなっていた。
 生き残った船乗りの証言によれば、どこかの海域で接舷した他の大型輸送船に積み荷の木材を運ばされたという。そして海賊共は去り際に帆柱を倒していった。
 残された船乗り達は死を覚悟していたものの、偶然にも漂流しているところを漁船に発見してもらったというのが海賊襲撃の顛末である。
 木材は武天発注の飛空船に使われる予定だったもの。資材が届かなければ作業が滞ること必至といえた。
「父様の計画を邪魔するとは不届き千万な輩じゃな」
 作業を止めて綾姫が立ち上がる。
 まず襲われた船乗り達に見舞金や香典を届けるよう報告の臣下に指示を出す。その上で海賊退治の指揮を自ら執る意志を伝えた。巨勢王からは直接に許可をもらうので準備を進めておけと。
「海賊退治はせねばならんが、姫自らが出向く必要はなかろう‥‥」
「間接的とはいえ父様を愚弄した輩が許せんのじゃ」
 愛娘にお願いされると父親は弱い。しかも自分のためにといわれたら尚更だ。
 承知した巨勢王だが綾姫の安全のために開拓者ギルドに護衛を依頼する。
 海賊退治の作戦はすでに決まっていた。
 綾姫や開拓者は船乗りに扮して木材の輸送大型船へと乗り込む。襲撃者がやって来たら抑え込み、逆に海賊船を奪う。
 その後、海賊に占領された輸送大型船を演じつつ、捕虜から聞き出した待ち合わせの海域へ。海賊仲間の輸送船と接触して捕らえる寸法だ。
 以前に盗まれた木材を取り返せればよいのだが、どこまで達せられるかは一同の頑張り次第といえる。
「まるで天儀刀のような鋭い刃じゃの」
 夜、綾姫は用意した包丁を庭の篝火にかざす。調理係として誰かの娘に化けて乗り込むことになる。
 父親役は開拓者の誰かに。年齢的に難しいのであれば船乗りの誰かに頼むことになるだろう。
 一週間後、綾姫と開拓者達を乗せた木材輸送の大型船が武天西部の港町から出航するのであった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
柄土 神威(ia0633
24歳・女・泰
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ


■リプレイ本文

●船乗り
 木材輸送の巨大な船でも大海原と比べれば小さなものである。大型船『守丸』が武天西部の港町を出航してから三日が過ぎようとしていた。
「やり口が手馴れているというか、以前に襲った海賊は誰かが飼っているのかしら?」
 柄土 神威(ia0633)は望遠鏡を片手に帆柱の上にある檣楼に座っていた。
 海賊の正体や関連を考えながら海と空を眺める。海岸線から離れて航行しているせいか今朝から今まで一度も他の艦船を見かけてはいない。
 船の後方ではかなりの人数で網引きの真っ最中である。しばらくして網が甲板にまで引き揚げられた。
「大漁なのにゃ〜♪」
 パラーリア・ゲラー(ia9712)は活きがいい鯛を掲げて甲板室の屋根で寝ころんでいた仙猫・ぬこにゃんに見せる。
「ツキが喜ぶよっ。約束通り、もらっていいかなっ?」
 網引きに参加していた蒼井 御子(ib4444)は魚の山を前にして悩んだ。迅鷹にとっては大きな魚よりも丸飲み出来る小魚の方がよさそうである。
 現在の迅鷹・ツキは迅鷹・夕霞と並んで帆柱の天辺に留まって周囲を警戒していた。
「綾ちゃん、たくさん獲れたよ〜。まだまだあるけど一番美味しそうなのを持ってきたのにゃ♪」
「お刺身がいいなって、皆いってたよー」
 パラーリアと蒼井御子は二人で鮪を掲げるように担ぎ板場まで運び込んだ。
「間近で見ると鮪はこんなにも大きなものなのか。驚きなのじゃ。おおっ、まだ生きておる! 気絶しているだけなのじゃな」
「血抜きは板長にお願いしましょうか。見学すればちょうどよい勉強になりますし。呼んできますね」
 綾姫と紙木城 遥平(ia0562)はさっそく一メートルを超える鮪の調理に取りかかる。
 まずは板長の鮪の血抜きからだ。ちなみに板長には綾姫の父親役を引き受けてもらっていた。一般的にいって女の子が木材の輸送船に乗っているのは不自然だからだ。必要ないかも知れないが念のためである。
「こいつは明るくていいねぇ」
 包丁を振るう板長が見上げると鬼火玉・小右衛門が天井付近に浮かんでいた。
 小右衛門は常に護衛として綾姫の側にいるのだが、さすがに板場内では邪魔になってしまう。そこで灯りとしての役目である。
 急所に包丁を入れた鮪を逆さまに吊し血を抜いた後、紙木城と綾姫が協力して鮪を下ろす。
 パラーリアと蒼井御子はその後も海産物を板場へと運び込むのであった。
 三笠 三四郎(ia0163)と九竜・鋼介(ia2192)は船倉で龍の世話をしていた。釣れた魚の一部は餌として提供される。
「薄暗い場所ですみませんが、もう少し我慢してくださいね」
 三笠は美味しそうに魚を食べる轟龍・さつなの背中を撫でる。
「せめて美味しいものでも食べてくれ。海賊が来たらそのときは頼むぞ」
 九竜鋼介は汚れていた鋼龍・鋼の鎧を布で綺麗に磨いてあげた。
 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)と神座真紀(ib6579)は網引き漁が終わった後の甲板掃除を率先してやってくれる。
「しかし人死にまで出とるのは見逃せられへんな。きつい仕置き程度では済まされん。本当なら綾姫を危険な目にはあわせたくはないのやけれど‥‥」
 神座真紀はブラシを逆さまにし、杖で甲板を叩いてわざと音を鳴らす。自分の小さなため息が聞こえないように。
「出航前に訊ねてみたけど、綾姫の決意は固かったからね。厨房にいてくれるなら比較的安全だろうし。ボクたちが気にかけてあげれば大丈夫さ」
 フランヴェルは男性に見えるようさらしを巻いて胸のふくらみを隠していた。
 ちなみに開拓者達は誰もが船乗りに見えるよう服装に工夫を凝らしている。
 蒼井御子は別の役割として綾姫とそっくりになるようカツラまでかぶっていた。万が一の時には身替わりになれるようにとの判断からである。
 綾姫と同じく蒼井御子も女の子だが、志体持ちの力を見せれば船乗りとして誰にも疑われないはずである。
 航海は順調。だがそれはこの大型船『守丸』にとって望むものではない。綾姫の父親である巨勢王にとってそうであったとしても。

●海賊
 四日目朝。大型船『守丸』が漂う海は霧に覆われていた。太陽は昇っているはずなのにまるで夕闇の暗さである。
「来た?」
 帆柱の檣楼で見張りをしていた柄土神威は、上空を飛んでいた迅鷹の夕霞とツキの異変に気がついた。肩にかけていた毛布を取り去り、望遠鏡で全周囲を確認する。
 やがて霧の中に浮かんでは消える船影を知った。
 隣で寝ていた船乗りを揺らして起こし、船内へ向かわせる。呼子笛を使うには海賊と疑わしき船が近すぎると判断したからである。
「ぬこにゃん、どんな様子か教えて欲しいのにゃ」
 甲板室内に寝泊まりしていたパラーリアはいち早く船員からの伝達を知る。仙猫・ぬこにゃんを抱きかかえて、窓の隙間から外を眺めさせた。
 猫心眼三度目の際、仙猫・ぬこにゃんは霧が薄くなった一瞬に別船の様子を眼で捉える。
 霧に紛れて近づこうとしている船の甲板にいたのは二十名前後。誰もが武器を手にしていた。
 それを聞いたパラーリアは海賊船に違いないと判断。総合的に考えて海賊の実戦集団約四十名が襲おうとしていると仮定する。
 これらの情報は伝声管で真っ先に綾姫の元へと伝えられた。
 綾姫の着替えを待って廊下の紙木城は特別室に入る。ここは後部機関室上部に作られた隠し部屋である。
 外見は雑な感じだが内部は鉄板で囲まれていて強固な造り。また覗き窓があるので外の様子もわかりやすい。
「仲間の応援に向かいますので、一旦この部屋を離れさせて頂きます。お側には小右衛門をつけますが、どうかお気をつけてくださいね」
「うむ。混戦の中ではわらわは足手まといになろう。それは心得ておる」
 紙木城は綾姫に挨拶をして退室した。しばらくの綾姫護衛は鬼火玉・小右衛門のみに託される。
(「海賊船はこの大型船を破壊するつもりはなさそう。やはり木材の強奪が狙いのようね」)
 柄土神威は檣楼に這い蹲るように見張りを続行していた。
 まもなく甲板室の扉が開いて中から蒼井御子が出てくる。近づいてくる海賊船を知らないふりをして固定の椅子に座り、鼻歌を唄いながら小刀でジャガイモの皮を剥く。
 これが日中ならば遊んでいるふりをするところなのだが、今なら朝食の下ごしらえが一番それらしい。
 甲板にはさらに船乗りが現れた。全員が船乗りに化けた開拓者である。
「ボクもう海の上は懲り懲りだな。港に帰ったらこの仕事を辞めるんだ‥‥」
 フランヴェルは気弱な新人船乗りを演じる。
「なにいうとんのや。借金、仰山抱え込んで首回らんようになったいうから、船長に頭下げてこの仕事世話してやったちゅうのに」
 神座真紀は二本持っていたブラシの片方をフランヴェルに押しつけるようにして渡す。
「あー、ぬこにゃん待ってほしいのにゃ〜」
 パラーリアは甲板上を走り回る仙猫・ぬこにゃんを追いかける。パラーリアとぬこにゃんの足が墨か何かで汚れていて甲板に足跡を溢れさせた。
 その様子に神座真紀は怒ってみせたがこれも演技。海賊側が望遠鏡で眺めているはずであった。
(「お願いします‥‥」)
 甲板室下の階段には紙木城の姿がある。彼は仲間達が甲板へ出る前に加護結界を施していた。
 後は甲板の開閉扉下で待機する三笠と九竜鋼介にかけるのみである。終わったら綾姫の元に急いで戻らなければならない。
 檣楼の柄土神威には見張りを始める前に施しておいたがとっくに切れているはず。かけ直したいものの、それが出来る状況ではなかった。
 そろそろ海賊船の存在に気づかなければおかしな状況になってきた。フランヴェルは震えながら海賊船を指さす。
(「接舷されそうだね。よしっ!」)
 蒼井御子はジャガイモの樽の中に隠しておいた『トランペット「ミュージックブラスト」』を手に取って高らかに鳴らす。黒猫白猫の効果が周囲の仲間達に力を与えた。
 トランペットの響きを合図にして船乗りに化けていた開拓者達は演じるのをやめる。
 フランヴェルとパラーリアが助走で勢いをつけて大きく跳んだ。海面を越えて足をつけた先は荒くれ者犇めく海賊船の甲板である。
 それまでフランヴェルの背中に隠れていた人妖・リデル・ドラコニアが力の歪みを使う。
 フランヴェルを背後から襲おうとした海賊は斜め上に上半身を捻りつつ、奇声をあげて倒れた。
『フラン、私の許し無しに死んだら許さないわよ? いくら背中を任せるっていったって無防備過ぎるわよ』
 ふんっと鼻息荒く人妖・リデルはフランヴェルに小言をいう。
 刹那に人妖・リデルが襲われた。フランヴェルが服の下の忍び帷子を盾にすることでリデルを庇う。反撃の水平斬りを海賊に当てた後で迫る攻撃を受け流した。次に放った一撃で海賊は甲板に転がる。
「ありがとう、リデル」
『わ、わかればいいのよ、わかれば‥‥』
 人妖・リデルはフランヴェルに神風恩寵を使おうとしたが、さすがにまだだと判断してすぐに両腕を引っ込めるのだった。
 蒼井御子のトランペットが鳴ったすぐ後に甲板の床扉も開放されていた。
「行きましょう、さつな」
「鋼龍、たった今駄洒落を思いついたぞ。これを綾姫に披露するまでは死ねないな」
 霧の空に飛び出したのは轟龍・さつなに騎乗した三笠と鋼龍・鋼を駆る九竜鋼介である。
 海賊側は完全に出鼻を挫かれる形となった。
「手加減はできないし、するつもりもないからね」
 フランヴェルが振るった『殲刀「秋水清光」』が宙に円を描いて海賊をなぎ倒す。
『本気になればこんなものよ』
 人妖・リデルはもうフランヴェルの背中に敵を近づけさせることはなかった。
「ぬこにゃん、発火なのにゃ!」
 パラーリアは仙猫・ぬこにゃんと協力して戦っていた。
 側の壁面が燃えだして驚く海賊共。敵の隙を見逃さずパラーリアは『戦弓「夏侯妙才」』による乱射で海賊をまとめて倒しきる。
 すぐに扉を抜けて海賊船内部への侵入を果たす。有象無象の輩を倒すときには乱射とガドリングボウがとても役に立った。
 一人で廊下を歩いていた小柄な海賊に仙猫・ぬこにゃんが『幻惑の瞳』をかける。
 混乱した海賊から服を奪うのは造作もないこと。パラーリアは船乗りから海賊の格好に着替えた。目指す先は操舵室。運が良ければ海賊船長もいるはずである。
 海賊船甲板での戦いは新たな展開をみせていた。
 ラッシュフライトで海賊共の銃撃を避けつつ、九竜鋼介が駆る鋼龍・鋼は海賊船後部へと降り立った。そして風宝珠を利用した推進の噴射口を鋭い龍の爪で狙う。
「これさえ壊してしまえば逃げることも‥‥ん? まてよ」
 九竜鋼介は後々のことを考えて修理可能な噴射口横に穴を開ける程度の破壊に留めた。さらに龍鎧で強化した鋼龍・鋼で帆柱をなぎ倒す。これで海賊船は波間に浮かぶだけの存在となる。
 三笠と轟龍・さつなはフランヴェルに加勢。急襲での挟撃を試しつつ、頃合いに海賊船へ三笠が飛び乗って二刀を構えた。
 轟龍・さつなはそのまま上空から海賊共を翻弄してくれた。三笠は咆哮で自らに海賊共の注意を引きつけて迎え撃つ。
(「きっと志体持ちですね。腕は我流のようですが実戦で鍛えてきた片鱗が見え隠れします」)
 三笠は剣気が効かない海賊剣士と刃を交えた。早めに倒しておかないと後々で厄介になる。そう感じた三笠は全力で相手をした。
 勝負は一瞬で決まった。不動で身を守りつつすれ違いざまに海賊剣士の片腕を落とす。
「それだけの覚悟があるのならば、普通の生き方も出来たでしょうに」
 まだ立ち向かってくる海賊剣士の魂ごと三笠は叩き伏せた。
 その頃、襲われた側の大型船『守丸』の甲板でも戦いが繰り広げられていた。
「春音、仕事やで!」
『‥‥が、がんばるのですぅ』
 神座真紀は頭の上で寝ていた上級羽妖精・春音を鷲掴みにして起こす。先程起こしたばかりなのだが、二度寝していたのである。
 神座真紀に放り投げられた羽妖精・春音だが自力の羽根で宙を舞う。勇気を振り絞り、目立たないよう海賊の頭上へと移動。混乱の舞で飛び回って海賊を惚けさせた。
「その調子や! 春音、この帆柱は死守や。強そうな相手のときは眠りの砂を使うんやで」
『わ、わかったのですぅ』
 神座真紀が死鼠の短刀の柄で渠打ちをして海賊を気絶させる。新たな海賊が飛び移ってきたことを知り咆哮を使って引き寄せた。
 綾姫がいる船内には絶対向かわせない覚悟の神座真紀である。
 船乗り達も銃撃で加勢。甲板室の銃眼から砲身を伸ばし、迫る海賊に弾をお見舞いした。
 帆柱から飛び降りた柄土神威は目前を彷徨いていた海賊に箭疾歩で踏み込む。海賊の懐で骨が軋むような拳突きを腹にねじ込んだ。
「出来れば船内には入れたくないもの。誰かが縛りに来るからそこで寝ていてね」
 柄土神威は甲板に転がる海賊に一言かけてから次の敵を探した。
 拳を食らった海賊は地獄の苦しみを味わってから悶絶する。直前まで死んだ方がましと考えていたのに違いない。
 蒼井御子も大型船『守丸』の甲板で戦っていた。乗り移ってきた海賊に『重力の爆音』を叩きつける。
「コッチは手加減出来ないかも‥‥ケド、海賊してるんだから、覚悟してね、だよっ!」
 重力の爆音の効果は凄まじい。卑劣な笑みを浮かべていた海賊が浴びた途端に赤子の泣き顔のようになって怯んだ。
 迅鷹・ツキは蒼井御子の背後を狙っていた海賊に風斬波を放つ。助けてくれたツキにお礼をいってから蒼井御子は戦況を確認する。
(「最終手段の、精霊の狂想曲は使わないで済みそう」)
 大型船『守丸』での戦いは終局を迎えようとしていた。
 柄土神威が迅鷹・夕霞と煌きの刃で同化して残る海賊共をすべて倒してくれた。新たに移ってくる海賊もいるかも知れないが大した驚異にはなり得ない。
 海賊船でも事態は収拾に向かおうとしている。
 パラーリアが海賊船の操舵室に到達したとき、窓と屋根が破壊された。鋼龍・鋼が烈槍を帯びさせた鋼の獣爪で引き裂いたのである。
「こ、降参だ! だから俺の命だけは奪わないでくれ! 助けて!!」
「根性無しなのにゃ」
 手下には威張っていた海賊船長だが、自らは剣を構えることすらしない腰抜けだった。
「姫さま、あらかた終わったようです」
 特別室の紙木城は伝声管の報告で船外の状況を知って綾姫へと伝える。
「わらわの出番がなかったのは残念じゃが、これは喜ぶべきことでもあろう。海賊の生き残りを白状させて奪われた木材を取り返すのじゃ」
 綾姫の指示はすぐに仲間達に伝えられるのであった。

●悪徳商人
 快晴の海に漂う一隻の輸送大型船。
 傷んでこそいたもののまだまだ現役の船。何故か船倉内は空である。寄港先で荷を載せて運ぶのが輸送船の日常であるはずなのに。
 この大型船『銭』の持ち主は海賊と共謀した悪徳商人だった。海賊が強奪した品を買い取って秘密裏に売り飛ばすのを生業としている。
「この間の木材はあれほど高く売れるとは思わなんだ」
 悪徳商人は取引相手である海賊船の到来を待つ。
 この海域は潮流の関係で他の船は滅多に現れなかった。飛空船も基本の航空路から外れているようで同様の状態である。
 禁制の品や盗品をやりとりするにはうってつけの海上といえた。
 約束から一時間遅れて海賊船が水平線から現れる。奪ったと考えられる大型飛空船を引き連れて。
 大型船『銭』は『守丸』と書かれた大型船と接舷する。荷が運びやすいよう両船は縄でしっかりと固定された。
 荷を運び込む前に海賊船長へ挨拶する必要があった。悪徳商人は土産の酒樽を小舟に積んで海賊船へと向かう。
 海賊船長は甲板で悪徳商人を出迎えた。
「船長、お元気でしたか。‥‥以前伺ったときよりも船が大分傷んでいるようですね。今回のお仕事は大変だったご様子ですな。いつもの海賊帽は被っていらっしゃいませんが、どうなされたので?」
 作り笑顔で悪徳商人が海賊船長に歩み寄る。海賊船長の後ろには手下が並んでいたが、以前に見た者達とは違うように思えた。
「そう、大変だったのだ。海賊稼業の足を洗いたくなるほどにな」
 呟くように答えた海賊船長が肩を掴まれて無理矢理に倒される。それをしたのは後ろに控えていた一人。海賊に化けていた九竜鋼介である。
 綾姫と開拓者達は全員海賊に扮していた。
 三笠が悪徳商人の腕をとって甲板に跪かせる。悪徳商人が連れてきた手下二人は柄土神威とフランヴェルが抑え込んだ。
 悪徳商人が見上げるとそこには海賊帽を被った綾姫の姿があった。
「どうかと思うて被ってみたが‥‥つまらぬ帽子じゃ」
 綾姫が呟くと神座真紀が海賊帽を外してくれた。海賊帽は倒れている海賊船長の背中へと投げ捨てられる。
「盗品取引の現場、よもや言い逃れはせぬよな。のう、どこぞの馬の骨よ」
「うるせぇ。ガキの分際で‥‥。せ、船長、これは余興か何かですよね? そう仰ってください!」
 綾姫を侮辱した悪徳商人は海賊船長に呼びかけ続ける。しかし返事はなかった。
 護衛のパラーリアと蒼井御子は綾姫の左右に立っていた。
 二人は綾姫の笑顔を横目で見た後で頬から一筋の汗を垂らす。どうなっても知らないといった雰囲気で。
「歳をとるだけで分別が得られると勘違いをしている御仁じゃ。丁重にお持て成ししてたもれ。くれぐれもだぞ。一分の隙もないようにな」
 綾姫の指示で紙木城は悪徳商人に猿ぐつわを噛ませて両腕を縛った。
 悪徳商人に雇われていた手下共も海賊船の甲板で繰り広げられていたやりとりにようやく気がついてざわめきだす。
 しかしそれ以上のことは起こらなかった。
 少々の武装はしていたとはいえ、所詮は悪徳商人にこき使われるだけの小狡い粗忽な者達。海賊共とは違って荒事には疎い。投降するしか道は残されていなかった。

●そして
 大型船『守丸』は木材を積んだまま予定通りに朱藩安州への航行を再開する。
 海賊船と悪徳商人の大型船『銭』は武天領地の沖に停泊。綾姫と開拓者達は海賊船に滞在した。
 轟龍・さつなに騎乗した三笠がひとっ飛びしてくれたおかげで、翌日には武天国官憲を乗せた船がやってくる。
 後は武天官憲に任せて綾姫と開拓者達は役人が準備した飛空船で武天此隅へと移動した。綾姫にとっては帰還である。
「大儀であった。皆の者よ。よくぞ綾姫を守ってくれた」
 開拓者達は巨勢王と謁見した。是非にと勧められて此隅城で身体を休めることとなる。
「綾姫‥‥鋼龍と触れ合ったことはあるか? 無いなら交流を深めてはどうだ? ‥鋼龍だけにってな」
 綾姫が九竜鋼介の駄洒落に大いに笑う。
「今は拘留中の悪徳商人と海賊船長が白状するかどうかがとても気がかりじゃ。それが終わったら存分に遊びたいのう〜♪」
 『鋼龍』と『交流』に『拘留』で返した綾姫である。もちろん、それを待たずして城の庭で龍達と遊んだ。
 悪徳商人の尋問で以前に奪われた木材の流れた先が判明する。九割は在庫のままで残っていて一週間後には取り戻すことに成功した。
 神楽の都に戻っていた開拓者達は報告を記した綾姫からの手紙を受け取るのであった。