物見遊山 〜七羽〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/13 22:30



■オープニング本文

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 兄の七羽矢吉は十五歳。弟の七羽的吉は十四歳。父が亡くなって家族は母親と兄弟のみになった。
 普段から父の商売を手伝っていた七羽兄弟は継いで交易商人となる。ただ次々と常連が離れて知り尻窄み状態。立ちゆかなくなるのは時間の問題となっていた。
 そこへきて希儀の発見である。
 ギルドに依頼して開拓者を応援に迎えながら未知の大陸へ。
 希儀の大陸南部へと到達して点在する遺跡のうちの一つを探検し、いくつかの品を持ち帰った。
 ピスタチオの実は市場で非常に好評。その他に七羽兄弟が注目していたのがキラキラと表面が輝く陶器である。
 新しい街になるであろう『羽流阿出州』(パルアディス)と名付けられた土地で情報収集。さらに調査した結果、粘土の採掘場と壊れた窯跡を発見する。
 捨てられていた欠片からしてそこが注目していた陶器が作られた場所だと断定する。
 陶芸家の『二代目万力京太郎』を連れて再度立ち寄ると助けを求める精霊達の姿が。自分達の精霊女王『ミヨニ』を助けて欲しいと懇願される。
 引き受けた一同はミヨニの本身である月桂樹からアヤカシの蛇共を排除した。今後はアヤカシに入り込まれないよう充分な罠を仕掛けるという。
 粘土の採掘場跡と焼き窯跡は精霊達の活動域に含まれるが、熊牙号一行については歓迎してくれるそうだ。
 充分な粘土を採取して天儀へと戻った二代目は作陶の日々を送る。しかし思うような陶器は作れなかった。
 紆余曲折の上、覚悟を決めた二代目は七羽兄弟の飛空船で希儀の地へ。
 開拓者のおかげで新たな小屋も出来上がる。二代目はミヨニの地で陶芸に没頭する日々を送れるようになった。いろいろと世話を焼いてくる精霊達にお礼として小柄な食器類を焼いてあげたりも。
 あるとき物資を届けに立ち寄った七羽兄弟と開拓者達は精霊達から相談を受けた。失敗し続けていたトマト栽培についてだ。間違っていた知識を修正し、農具や肥料を揃えた上で土を耕す。
 後日、お礼として一同は精霊の丸太小屋へと招待される。美味しい食事で楽しい時間を過ごす。
 日々、土を捏ねる二代目はここに来てようやく輝く陶器完成に至った。泥炭を燃料にすることでこれまでにない輝きの発生率を手中に収めたのである。
 泥炭採取ができるよう七羽兄弟と開拓者達は力を貸す。近場の底なし沼に舟橋が架けられた。
 また沢山収穫されたトマトのうち余った分はソースにされる。壺に詰め煮沸して長期保存されるのであった。


 早朝の希儀ミヨニの地。
「今日も頑張んべぇ〜」
 泥炭による陶器焼成法を編み出した二代目万力京太郎はこれまで以上に張り切っていた。
『おはよー♪』
『おっはー♪』
 男の子風の小人のガルナと女の子風の羽妖精のパリリは今日も二代目の作陶小屋へと顔を出す。率先して食事を作ったり、陶器作りの手伝いをしてくれた。
 完成した陶器の置き場はすでに満杯。緩衝用の木くずや藁と一緒に木箱へと収めて小屋の片隅に積み上げられる。
 これまでよりも日数がかかったものの、いつもの中型飛空船・熊牙号がやって来た。
 矢吉と的吉の七羽兄弟は陶器が詰まった木箱の山を見上げて驚きの表情を浮かべる。
「来るのに間があったのは確かだけどさ。さすがにこんなにも完成しているとは思っていなかったぜ」
「すごいねー。熊牙号船倉の三分の一ぐらいはこれだけで埋まりそうだよ」
 七羽兄弟は二代目から納品する陶器の目録を受け取る。
 そこから引取金額を計算して分割の借金分を引いた。残り分を二代目に手渡す。木箱の中を確認しなかったのはこれまでのやり取りで互いを信用していたからだ。かなり大きな取引であり、二代目の借金はあと一回か二回程度で完済できそうである。
 同行していた開拓者達によって陶器入りの木箱は船倉へと積み込まれた。壊れやすい陶器なので普段よりもしっかりと縄で固定される。
「一つ、お願いがあんだけんども」
 二代目が七羽兄弟に頼んだのは、ガルナとパリリを人が住む町に連れて行ってあげて欲しいといったもの。より具体的には武天此隅を観光させてあげて欲しいという。見ず知らずの自分によくしてくれたことへのお礼らしい。
「そういうことなら任せてくれ」
「でも兄さん。僕たちも商売事ならともかく遊ぶところはあまり詳しくないよね」
 七羽兄弟は悩んだ末、開拓者達に協力を求める。ガルナとパリリを案内してあげて欲しいと。
「楽しんでくるべさー」
 二代目は浮上する熊牙号を地上から手を振って見送る。
『二代目、いってくるねー♪』
『寝るときお腹、冷やしちゃだめよー♪』
 ガルナとパリリが甲板から二代目に向けて手を振り返す。
 数日後、熊牙号は予定通りに天儀本島の武天此隅に到達するのであった。


■参加者一覧
からす(ia6525
13歳・女・弓
クレア・エルスハイマー(ib6652
21歳・女・魔
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
エメラダ・エーティア(ic0162
16歳・女・魔


■リプレイ本文

●武天の都、此隅
 時刻は早朝。晴れた天候の中、中型飛空船・熊牙号はゆっくりと駐留地に着陸する。一行は手続きを済ませるとさっそく此隅の街中へと繰り出した。
 街の喧噪を前にして小人のガルナと羽妖精のパリリは進みを止める。動いている途中をまるで膠で固められたように。
『こ、これみんな人なの?』
『もしかしてアヤカシの術でだまされていたりしない?』
 パリリがガルナの頭にひっしと両腕でしがみつく。ガルナも不安なのか緋乃宮 白月(ib9855)に腕に掴まっていた。
 店先での呼び込み。勢いよく走り去ってゆく篭屋。煌びやかな服を纏う女性達。どれもパリリとガルナにとっては新鮮な体験のようだ。
「パリリは人混みが見たいっていってたけど、これはそういうもんじゃないからな」
「兄さんのいう通りだね。これは普通の光景だよ」
 七羽兄弟の言葉にパリリが横っ面を叩かれたようなヘロヘロの顔をする。余程の衝撃であったようだ。
「大丈夫ですから。ほら、みんな怒っているんじゃなくて元気なんですよ」
 緋乃宮が笑顔で微笑むと少しだけガルナの表情が和らいだ。
『ご一緒できてとっても嬉しいですっ! さあさあ、早く行きましょうっ』
『う、うん‥‥』
 上級羽妖精・姫翠がパリリの腕を取って背中の翼を羽ばたかす。パリリはガルナから手を離して再び空中へと浮かんだ。
 そんなやり取りをしている最中、からす(ia6525)は町中の案内板に目を通す。
(「此隅は鉱山の街で採れた貴石で装飾品が作られているようだ。養蚕の街でもあって絹糸を使った布や着物を理穴へ売り、また染め物を理穴から買っているとある。さすがに、ももんじ屋の紹介も多い――」)
 土産物の参考にするために覚えておく、からすである。
『クレアはん、あれこうてもええか?』
「そうね。せっかくだし食べてもらいましょうか」
 羽妖精・イフェリアがクレア・エルスハイマー(ib6652)の許可をとり、全員で屋台へと向かう。
 それは武天名物の肉料理の一つ。焼鳥の屋台であった。
『串刺しにして焼いてこうやって食べるんだ‥‥。あ、熱っ!』
 ガルナは醤油を基本としたタレに驚くと共に串の素材にも興味を持つ。希儀では竹が自生していないので最初は串の素材が何なのかわからなかった。
「それは竹という素材だ。確か二代目殿が使っていた水瓶の柄杓は竹製だ。陶器をつくる際のヘラの多くも竹製だったはず」
『あ、あれと同じのでできているんだ!』
 からすが教えてあげるとガルナは興味津々な目で竹串を見つめる。
『ほら、口の周りにタレがついているわよ。これでも使いなさい』
 そんなガルナに羽妖精・リリィがハンカチを差し出す。
『ありがとう〜♪ これ綺麗だけど拭いてもいいの?』
『構わないわ。そういう用途に使うものだから。もう、ここは都会なんだから身だしなみに注意しないとバカにされるわよ。いい?』
 少々きつめであったが羽妖精・リリィは親身にガルナの世話を焼いてくれた。
 パリリはイフェリア、姫翠と並んで座って焼き鳥を頂いた。
『おしょうゆって二代目も使っていたけど、こういうのにも使うんだね〜』
 パリリはひたすら焼き鳥の味に感心する。部位によっても味が違うと交換し合う。串刺しという形で小分けになっているのが小柄な羽妖精にとってとても便利だ。
『天儀では万能の調味料と呼ばれているみたいです。困ったときはこれで味付けするみたい』
『焼き鳥は塩焼きもええもんやで。ほら、ここ食べてみてや』
 姫翠、イフェリア、パリリは一緒に焼き鳥を楽しむのであった。
 緋乃宮とエメラダ・エーティア(ic0162)はこれからのことを相談する。
「ん、ガルナさん…一緒に‥‥色々な‥建物…回る、です‥‥。舞台とか‥‥見たいといっていました‥‥。いい芝居小屋‥‥あります‥‥」
「僕はパリリさんの案内を主にするね。姫翠と仲がいいみたいだし」
 どんな状況になってもエメラダがガルナ、緋乃宮がパリリを護衛する約束を交わす。
 片方に大事が起こった場合、全員がそちらに注目してもう片方を放置してしまうことがままある。大切にしすぎてその実ないがしろにしてしまう典型的な例だ。そうならないようにするための取り決めである。もちろん他の仲間も危機になったら助けてくれるだろう。
 ガルナとパリリの願いを叶えようと一行は街の散策を再開する。それ以外では市場に寄るのが今日の予定となっていた。
 建物をたくさん見たいというのがガルナの願い。そして人混みがどのようなものなのかを知りたいというのがパリリの願いだ。
「地衝、護衛を命ず」
『御意』
 からすの指示に従って土偶ゴーレム・地衝が先頭を歩いた。大層にいえば巨体を持ってして往来を歩きやすくするための露払いである。
 ガルナが周囲を見上げながら歩いても大丈夫なように盾となってくれた。また羽妖精達が疲れたときの止まり木ともいえる。
『地衝さん、この此隅にも開拓者ギルドってあるんだよね? 見てみたいな』
『それではこの角を右に曲がるでござる』
 ガルナの期待を叶えるべく土偶ゴーレム・地衝は道順を変える。
「ここからでも望めるあの高い建物が風信器の塔ですわ。ギルドも利用するので併設されていて、遠い場所の風信器同士でお話しができますの」
 クレアが指さした先をガルナが見上げる。ひときわ高い建物が風信器だと聞いて口を大きく開けた。
『どのくらい離れていてもお話しできるのかな?』
「最大距離は知りませんけれど、希儀の羽流阿出州の風信器とも普通に話せるようですわ」
 クレアの答えにガルナとパリリは声をあげて驚いた。髪の毛を逆立たせたような勢いで。
 一行は周囲の視線を浴びながら、そそくさと先を急ぐ。やがて武天ギルドに到着。受付に許可を取って中を一通り案内する。
『ここは何なの?』
『依頼を引き受けるところよ。ちなみに依頼の内容はさっきの風信器を使って神楽の都へと伝えられて、向こうの掲示板に張り出されるの。私達はそれを見て依頼に入るってわけ』
 羽妖精・リリィが両手を腰に当てながら自慢げにガルナへと答える。
『矢吉さんと的吉さんも依頼して開拓者さんを呼んでいるの?』
「うん、そうやって頼んでいるね。ここじゃなくて風信器を通じて別の村から頼むこともあるけれど」
 七羽兄弟がガルナに頷く。
 武天ギルドの見学が終わったところで、たくさんの建物を眺めながらついに市場へと辿り着いた。
『!!!!』
『だ、大丈夫ですっ?』
 パリリは羽根を動かすのを忘れたのか、ひらひらと宙を舞う。羽妖精・姫翠が腕を掴んだものの、パリリの落下は止まらなかった。
『おっとっと、でござる』
 気がついた土偶ゴーレム・地衝がパリリと姫翠を両手の平で受け止めてくれる。
『こ、こんなに多くの人、うううん、精霊でもこんなに多いの見たことなくて』
 パリリは目をごしごしとこすった後であらためて市場の人混みを眺めた。『すごーい!』と叫んだ後で土偶ゴーレム・地衝と羽妖精・姫翠に助けてくれたお礼をいう。
『ここには食べもんなら大抵のものがあるで〜♪』
『うんと、二代目がサンマノミリンボシっていうのを食べたがっていたんだけど、あるかな?』
 羽妖精・イフェリアが先導してパリリが欲しがった干物を売る露天商を探す。すぐに見つかり、二代目のお土産用に秋刀魚の味醂干しを購入した。
 歩きづめ飛びづめで疲れたので茶屋に立ち寄って休憩する。
『あれはもしかしてケンカしているの?』
 パリリが向かいの店前で奪い合う人の山に目を丸くした。
『あれはばーげんといって女の戦場でござる』
「私もアレと戦う気はないな」
 土偶ゴーレム・地衝とからすによれば時間限定の大安売りに群がる女性達だという。主に扱っている商品は衣類。あの奪い合いに命をかけている主婦もいるようだ。
(「あんなに強い開拓者でもためらっちゃうんだ‥‥」)
 パリリは『どんなに魅力的な品が並んでいても、ばーげんには近づいてはならない』と心の帳面に記すのであった。

●芝居小屋
 熊牙号に戻り、一晩を過ごして翌日。一行は芝居小屋を見物する。
 時代背景がわからないと理解しづらい古典よりも、わかりやすい大衆芸能の芝居が選ばれた。この選定はエメラダによるもの。ようは喜劇である。
『あ、後ろ! 後ろになにかいるよ! あ、ダメだよ! そっちいったら‥‥あああっ〜〜!』
『落ちてきた大きな洗い桶、痛そう〜。でもすぐ立ち上がっているし、ほんとは軽いのかな?』
 ガルナとパリリは夢中になって芝居を楽しんだ。
 七羽兄弟と開拓者達も幕の内弁当を頂きながら鑑賞する。枡席の座布団の上でくつろぎながら。とはいえ周囲に危険が迫っていないか気を配る。
(「喜劇とはいえもう少し趣があるのが好みなのだが。まあ、隣が面白いからよしとしよう」)
 からすはお茶を啜りながら隣りの土偶ゴーレム・地衝を眺める。
『そ、それは妙でござる。騙されているでござるよ! 真実は一つでござる!!』
 笑いの冗談を真に受けて突っ込みを入れまくる土偶ゴーレム・地衝。場は常に笑いに包まれているので多少の声も問題はなかった。
 それどころかからすと同じように地衝の突っ込みを面白がっている他の客もいた。もっとも地衝自身は天然の行動故に笑いをとろうとは考えていない。そこがまたよいのだが。
『ああ、極楽やで〜♪』
「イフェリアったら、そんなにゴロゴロしたらくすぐったいですわ」
 羽妖精・イフェリアはクレアの膝の上で寝転がりながら鑑賞。むにゅむにゅっとご満悦状態だ。
「はい、幕の内のお弁当の他にはこんなのもありますよ♪」
 緋乃宮は煎餅を二つに割ると姫翠とパリリに手渡す。
『パリリさん、固いから気をつけてくださいねっ』
『変わった色のお皿みたいね。何ていうの?』
『お煎餅ですっ』
『ほ、ん、と、か、た、い‥‥。でも美味しいね〜♪』
 煎餅を囓りながら芝居鑑賞は続く。
 ガルナの興味は徐々に舞台装置へと移る。その相手をさせられたのが羽妖精・リリィだ。
『服を引っ張らないでよ。もう! ‥‥どうかしたの?』
『幕を上げ下ろしをしたら部屋が変わったよ! 十数えるかどうかぐらいだったのに。どうしてかな?』
『あれはきっと床が回転するようにできているのよ。さっきのあばら屋は後ろに隠れただけ。この庄屋の広間はさっきまで後ろだったってこと』
『な、なるほど。そういう仕掛けなのか〜♪』
 ガルナは羽妖精・リリィにいろいろと教えてもらった。
 ガルナとリリィの様子を見てエメラダが頷く。
「ガルナさん‥‥買い物‥‥したいと‥‥特に‥‥包丁が欲しいと‥‥いってました、です‥‥」
 エメラダは小さな地図を取り出す。此隅問屋街の各店の説明が記されていた。
「ばーげんについて話したところパリリ殿は服に興味を持たれていた。開拓者御用達の呉服問屋にも立ち寄れるだろうか」
 からすの意見も採り入れて今日の予定に少々の変更が加えられる。
 やがて喜劇の幕が下りる。十分に泣き笑いしてから一行は芝居小屋を後にするのであった。

●問屋街
 次に一行が立ち寄ったのが呉服問屋である。こちらは開拓者が朋友に着せる服を仕立ててくれる特別なお店で有名であった。
 本来は特注なのだが、見本として羽妖精用の服が展示されていた。
 悩むパリリに朋友達は競って服を指し示す。
『これが似合うわ。決まりね』
 羽妖精・リリィが選んだのは朱色を基本に赤や白が混じった服。
『いやいやせっかくの夏やし、涼しいこないな服はどうや?』
 羽妖精・イフェリアはまるで水着のような服を選んだ。
『かわいいのがいいと思いますっ』
 羽妖精・姫翠が選んだのはワンピース風である。
『拙者ならこの鎧風の』
「地衝、それは却下だ」
 言い終わる前にからすから止められる土偶ゴーレム・地衝であった。
 誰もが自分の趣味が多分に入っていた。
『う〜ん‥‥どうしよう‥‥‥‥‥‥そうだ〜♪』
 悩んだ末にパリリが選んだのは服そのものではなかった。たくさんの布地を購入したのである。
 小人の中には裁縫が得意な職人もいるらしい。これらの布地をミヨニの地に持ち帰り、縫製してもらうつもりのようだ。様々な色の細めの糸も購入しておく。
 次はガルナが欲しい品々を購入する。主にミヨニの地の小人仲間へのお土産である。
『この玄翁、握りやすいや。こっちの道具はどうやって使うんだろ? 墨壺?』
 小柄な者でも使いやすい小さめの道具まで問屋街では揃っていた。玄翁に鉋、鋸などなど大工道具を購入する。
 ガルナ自身の欲しい物は包丁を含めた調理道具であった。
「包丁などの刃物を買うのに武天の此隅ほど適切な場所はない。ガルナ殿、よい判断だ」
『そうなの?』
 からすとガルナは店内の壁に飾られた数々の包丁を眺める。
「天儀刀はサムライの魂とも呼ばれている。天儀においてサムライの中心地がこの此隅だ。刀工の中には余技で包丁を打つ者も多いと聞き及んでいる。当然、その出来は珠玉のものといえよう」
 からすの言うとおり、問屋街には素晴らしい包丁が揃っていた。鎧武者姿の土偶ゴーレム・地衝の意見も聞きつつガルナは包丁を何本か購入する。一緒に砥石を買うのも忘れない。
『これで美味しい料理を作るよ!』
「それならこちらでたくさんの料理を食べていったらどうでしょう?」
 張り切るガルナに緋乃宮が提案した。夕食には出来るだけ多種多様な料理を食べることに。
「よい茶ならいくらでもお教えしよう。武天は米作りも盛んなのでよい天儀酒も多い」
 からすは茶葉と酒類購入の手助けをする。
「二代目さんは秋刀魚の味醂干しの他にビーフジャーキーも好きだといってましたよ。それに使える薫製道具が売っていました。別に牛さんのだけじゃなくて脂身の少ないお肉なら大丈夫みたいですね」
『あ、それいい〜♪ ミヨニの地で作ってあげたら喜んでくれるよね』
 緋乃宮はガルナを薫製道具を扱う店に案内してあげた。そして一式を購入する。
「ん、おもしろい‥‥読んで‥‥みるといい‥です‥‥」
『これなに?』
 エメラダが唐突にガルナへと手渡したのは武天の料理指南の冊子であった。
 店主などから口答で調理方法や道具の手入れの仕方を聞いてきたが、どうしても記憶がおぼろげ。こうして記録されたものが手元にあるとないとでは大いに違う。
『ありがとう〜♪ 薫製の作り方も一つだけじゃないんだ! 参考にさせてもらうね〜♪』
 ガルナはエメラダの周囲をグルグルと回りながら喜ぶのであった。
「これは私からよ。万力さんは甘い物も好きなはずだわ」
 クレアがガルナに贈ったのはお菓子作りのレシピと基本的な菓子作りの道具だ。
 ミヨニの地で手に入る甘味といえば蜂蜜なので、レシピにはそれを想定した修正が施されている。
『これならすぐに作れるよ〜!』
 ガルナによれば畑で麦も作っているので、小麦粉も自前で用意出来る。小麦粉と蜂蜜があればお菓子の基本はバッチリだ。
『今から楽しみだね〜♪』
 甘味好きのパリリも大喜びだ。
 みんなで夕食後、別れの時が訪れる。
「それじゃあ、久しぶりに家に帰るとするか」
「みなさんとはここでお別れだね」
 七羽兄弟はガルナとパリリを連れて武天内の故郷の自宅に戻ることに。再び希儀のミヨニの地に戻るときまではガルナとパリリは兄弟の母が世話することとなる。
 熊牙号が飛び立つのを見送る開拓者達。その手にはお礼のオリーブオイルが握られていた。