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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 兄の七羽矢吉は十五歳。弟の七羽的吉は十四歳。父が亡くなって家族は母親と兄弟のみになった。 普段から父の商売を手伝っていた七羽兄弟は継いで交易商人となる。ただ次々と常連が離れて知り尻窄み状態。立ちゆかなくなるのは時間の問題となっていた。 そこへきて希儀の発見である。 ギルドに依頼して開拓者を応援に迎えながら未知の大陸へ。 希儀の大陸南部へと到達して点在する遺跡のうちの一つを探検し、いくつかの品を持ち帰った。 ピスタチオの実は市場で非常に好評。その他に七羽兄弟が注目していたのがキラキラと表面が輝く陶器である。 新しい街になるであろう『羽流阿出州』(パルアディス)と名付けられた土地で情報収集。さらに調査した結果、粘土の採掘場と壊れた窯跡を発見する。 捨てられていた欠片からしてそこが注目していた陶器が作られた場所だと断定する。 陶芸家の『二代目万力京太郎』を連れて再度立ち寄ると助けを求める精霊達の姿が。自分達の精霊女王『ミヨニ』を助けて欲しいと懇願される。 引き受けた一同はミヨニの本身である月桂樹からアヤカシの蛇共を排除した。今後はアヤカシに入り込まれないよう充分な罠を仕掛けるという。 粘土の採掘場跡と焼き窯跡は精霊達の活動域に含まれるが、熊牙号一行については歓迎してくれるそうだ。 充分な粘土を採取して天儀へと戻った二代目は作陶の日々を送る。しかし思うような陶器は作れなかった。 紆余曲折の上、覚悟を決めた二代目は七羽兄弟の飛空船で希儀の地へ。 開拓者のおかげで新たな小屋も出来上がる。二代目はミヨニの地で陶芸に没頭する日々を送れるようになった。いろいろと世話を焼いてくる精霊達にお礼として小柄な食器類を焼いてあげたりも。 あるとき物資を届けに立ち寄った七羽兄弟と開拓者達は精霊達から相談を受けた。失敗し続けていたトマト栽培についてだ。間違っていた知識を修正し、農具や肥料を揃えた上で土を耕す。今年のトマト畑は期待大であった。 精霊は自由気まま。 自然の中を走ったり飛んだり。樹木の烏鷺や茂みに潜むこともあれば地面で寝そべっていることもある。 希儀ミヨニの地に住む、特に小人の精霊達は少々変わっていた。人の生活を模して暮らしていたのだ。 特に丸太小屋が好みなのだが、自分達の背の高さに合わせて小さめに建てられている。大体人が住む家屋の三分の二といったところ。森の片隅にひっそりと並び、集落を成していた。 ちなみに精霊の力によって招かざる客には集落がわからないようになっているらしい。集落の存在を知って勝手に侵入しようとしても森の途中で迷子になってしまうという。 ある日、ミヨニの地にある陶芸家『二代目万力京太郎』が住まう小屋へと男の子風の小人のガルナが訪問する。 二代目は天儀・武天からやってきた人間である。かつて希儀にあった煌めく陶器を復活させようと粘土を練っては焼く日々を送っていた。 「おらがいってもいいんか?」 『大歓迎だよー』 二代目はガルナから文字が書かれた葉っぱを受け取る。どうやら小人達の丸太小屋で開催される晩餐会への招待状のようだ。 『あのさ、できればこのあいだの人達も呼びたいんだ。パリリがそうしなさいって。ぼくもそれがいいとおもったんだ』 ガルナが言葉にしたパリリとは女の子風の羽妖精のことである。 このあいだの人達とはトマトの育て方を教えてくれたり、今は深い眠りに就いている月桂樹の精霊女王『ミヨニ』を助けてくれた者を指す。そうでなくても二代目が大丈夫と判断した精霊に好意的な者なら大丈夫らしい。 「たしが、この間またくるっていっでだような気が。そうそう、五日後ぐらいだな。前後しそうだども」 『みんな、しばらくいる?』 「三日ぐれえはいつもいんぞ」 『ならそれぐらいになったらここに毎日くるね。晩餐会はみんながやってきた翌日の夕方からやりたいんだけれどいい?』 「十分だべさ。あいつらも喜んべっ」 無事役目を果たしたガルナは笑顔のまま二代目の小屋を後にする。 そして五日後の正午。七羽兄弟の中型飛空船・熊牙号が二代目の小屋近くに着陸するのであった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●突然の招待 ここは希儀ミヨニの地。ゆっくりと七羽兄弟の中型飛空船・熊牙号が二代目万力京太郎の作陶小屋の近くへと着陸。まもなく乗降口の扉が開いた。 「うん、大丈夫でしたね‥‥」 階段を降りる柚乃(ia0638)は抱える仔犬の白房に話しかける。 いつの頃からかたまに乗り物酔いをするようになってしまった柚乃だ。今回の旅は大丈夫なようである。 「おい、二代目! 生きてるか?」 「もう、兄さんてばそんな言い方。こんにちは」 矢吉がいきなり戸を引いて小屋に足を踏み入れる。弟の的吉は兄の矢吉をたしなめながら後ろをついていった。外で待っていても仕方がないので開拓者七名も中へ。 二代目は小屋の奥で胡座をかいて丼飯をかっ喰らっていた。一同の姿を見て水を飲み口の中を空にする。 「あのよ、この間ガルナが来てな。おら小人んの丸太小屋に招待されたんだ。んでよ、みんなも呼びてぇってことなんだけども、どうだべ? 明日なんだけんども」 七羽兄弟と開拓者達に精霊の晩餐会に誘われたことを説明する二代目。場所は小人達の集落内にある丸太小屋で羽妖精達もやってくるという。 それを聞いた猫獣人の緋乃宮 白月(ib9855)は肩の上に座る羽妖精・姫翠と目を合わせた。 「晩餐会のお誘い、ですか。うん、楽しみです」 『晩餐会ですっ。えへへ〜、いっぱい楽しみますよーっ』 緋乃宮は尻尾をフリフリ。羽妖精の姫翠は鳥の翼のような羽根をパタパタとさせる。 その横でクレア・エルスハイマー(ib6652)はそわそわとし始めた。 「あらあら、晩餐会に御招待だったとは、迂闊でしたね‥‥。分かっていれば土産や衣装を用意しましたのに‥‥どうしましょう‥‥」 『ホンマやで〜、クレアはんの色っぽい姿が見られへんとは、何とも勿体無いのぅ』 おろおろとした様子のクレアの前を飛びながら、羽妖精・イフェリアは腕を組んでうんうんと頷いた。 『ま、ええモン喰えるやろし、妖精はんもぎょーさんおるやろから‥‥』 羽妖精・イフェリアは言葉の最後を濁しながらにししと笑う。 「こら! また悪いこと、考えていたでしょう!」 『そんなん誤解やで〜』 クレアに見抜かれた羽妖精・イフェリアは惚けながら天井近くまで飛んで誤魔化す。 「サジ太、小人さんの晩餐会だって。一緒に行こうーね♪」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は窓から身を乗り出して木の枝に留まっていた迅鷹のサジ太に話しかける。すると軽く翼をはためかせて啼いて返した。 「手ぶらはまずいよな‥‥」 「突然だけど持っていった方がいいよね」 宴会は明日の夕方なのでまだ余裕はある。七羽兄弟は羽流阿出州への買い出しを開拓者達に提案した。 「私も手土産を買いにいこうか。笑喝にはこれを託そう」 『どうぞごゆるりと。お土産期待しとります』 からす(ia6525)はからくり・笑喝に小屋へ残るように指示し、茶道具とお菓子類を預けた。おそらくしばらくすれば精霊達が遊びに来るだろうと。 「宴会なら私も手土産を持参したいところですね」 メグレズ・ファウンテン(ia9696)も買い出しに加わることに。その前にと二代目に頼んでよさそうな木材を手に入れる。 『細かい処はよく判らないけどっ。要するに御呼ばれされて宴会で盛り上げれば良いのかなっ』 「その通りですね」 首を傾げる人妖・朱雀に杉野 九寿重(ib3226)が答えていると窓の外に影が横切る。 気になった朱雀は窓から身を乗り出す。遠くの茂みにまた羽妖精らしき影が。人妖・朱雀は影を追いかけてどこかに消えてしまう。 「え?」 それからしばらく杉野は朱雀が何かをやらかさないかと心配して辺りを探し回ることになってしまった。 七羽兄弟と何人かの開拓者は熊牙号に乗船して再び羽流阿出州へ。残った者達は二代目を手伝うことにした。 ●羽流阿出州での買い出し 二代目の小屋を出てから約三時間後、熊牙号は羽流阿出州内の空き地へと着陸する。乗船していた一同はさっそく市場へと繰り出す。 「そのまま食べるもの且つ摘んで食べやすいものがよいのだが。オススメは何かね店主?」 「そりゃ、お嬢さん。希儀ならこれだよ、これ」 からすの問いに笑顔を絶やさない商売人が置いてあった袋を指さす。 袋にはピスタチオと書かれた札がぶら下げられていた。生でも食べられるし、塩と一緒に炒っても美味しい。調理にも使えそうである。 加えてからすはソーセージも購入した。一口にソーセージといってもいろいろだが、購入したのは塩分少な目の口当たりが軽いもの。茹でるだけでも充分な美味さがある。 「これなら多くの者が好きなはずです。精霊にとっても麦の恵みですし」 メグレズが購入したのはパスタ用の乾麺だ。ジルベリアに似た料理が多いこの地ならば人気の食材になるだろうと考えたのである。保存が効くのもよい。 メグレズは土産を手に入れると先に熊牙号へと戻った。そして愛用の彫刻刀『マイスターグレイバー』でまだ途中の木彫りの像を彫る。これも土産の一つである。 「まずはこれっ」 緋乃宮が真っ先に購入したのはトマト用の肥料だ。先に手伝ったトマト畑のことが気になっていた。 『お、重いのですーっ』 羽妖精・姫翠も手伝って肥料の袋を熊牙号へ運んだ後はお菓子を探す。前にチョコレートを喜んでくれたので今回も似たようなものはないかと市場を物色する。 『あれおいしそうですっ』 遠くを眺める姫翠が飛びながら緋乃宮を誘導する。 緋乃宮が後を追いかけると羽流阿出州ではまだ珍しい店舗があり、チョコレートのホールケーキが半透明な箱の中で飾られていた。 「丸太小屋が好きならこれって‥‥」 緋乃宮は尻尾をブンブンと振りながら考える。金持ち相手の商売だけあった少々値が張ったものの、是非に精霊達に食べてもらいたい。 七羽兄弟から許可をもらってあるだけ買い求める緋乃宮であった。 その頃、リィムナは楽器を求めて市場を彷徨い歩いていた。 「この前、王様の依頼で来た時はゆっくり見て回る時間無かったけど売ってるかなぁー」 いろいろと覗いてみるが楽器を扱っている出店は皆無。他の何かにしようかと迷っていると笛の響きが風に乗ってリィムナの耳に届いた。 「サジ太、教えてっ」 リィムナは迅鷹・サジ太に頼んで笛の音の在処を探ってもらう。 少し待つと高空のサジ太が円を描き始めた。その真下に行ってみると笛を吹く若い娘の吟遊詩人の姿が。足下の茣蓙には手作りの笛が並んでいた。 「これって全部買ってもいいかな?」 「まいどあり♪」 リィムナは吟遊詩人の彼女が売っていた木彫りの笛をすべて買い求めるのであった。 ●遊びに 『晩餐会まで待てずにきちゃったよ〜』 『こんにちは〜』 小人のガルナと羽妖精のパリリは弦清く二代目の小屋へと現れた。 『お待ちしておりました。ささ、こちらへ』 何故か正座をして待ち受けていたのが、からくり・笑喝。ガルナとパリリを出迎える。 『えっと、そのここに座ればいいのかな?』 笑喝の調子に巻き込まれたガルナとパリリは小屋の片隅に作られたお茶の席へ。笑喝は小振りの釜で湯を沸かし、お茶を立てて勧める。 笑喝が天儀の生物についてを話すと、ガルナとパリリは希儀との違いを教えてくれた。 希儀には天儀にはいないと思われる別種の危険動物がいるようだ。虎は泰国にもいるが獅子はあまり聞いたことがない。 『まさに、知識の泉に底はなしどすな。これ私んとこの人妖はんの言葉どす』 笑喝が感心していたその時、出入り口の戸が開けられた。外を探し回っていた杉野がパリリを見て足早に近づいた。 「先程の影はもしかしてパリリでは? 朱雀を見ませんでしたか?」 『よくわかったね〜あたしだよ〜。追いかけてきたから逃げちゃった♪ あの子はまだ森の中かも?』 パリリによれば人妖・朱雀はまだ外を彷徨いているようだ。 「‥‥行っています」 杉野は再び探しに外へ。彼女が朱雀を発見するのは日が暮れようとする頃まで待たなくてはならない。ちなみに朱雀の現在はパリリとは違う羽妖精達と森を駆け回って遊んでいる最中である。 柚乃は小屋の外で七羽兄弟や二代目と世話話をしていた。 「最近はどうです?」 輝く陶器は手応えありだが、まだ完璧なものは出来ていないらしい。それと最近、小人達のトマト畑を手伝ったことが話題となった。 「かわいい犬ですね」 的吉が顔を近づけると柚乃が抱える犬が吠える。 「先の依頼でご縁がありまして‥‥新しい家族です。皆さん、仲良くして下さると嬉しいです‥」 柚乃がペコリと頭を下げると子犬の白房はクウ〜ンと吠えてみせる。 「よろしくな。まだ四ヶ月なのか」 「これ、鶏肉だけんど食べんか?」 矢吉と二代目は白房におやつのお裾分けをした。七羽兄弟が羽流阿出州で買ってきた鶏の手羽を焼いたものだ。 クレアは熊牙号内で服装のコーディネイトを模索する。 「う〜ん。これとこれの組み合わせですと‥‥刺激的過ぎますわね」 鏡の前でポーズをとるクレアをこっそりと覗き見しようと羽妖精のイフェリアがカーテンへと近づく。 隙間から覗こうとしたその時、腕がカーテンの向こうから伸びてきた。イフェリアはむんずと掴まれる 『‥‥クレアはん、ご機嫌はどないやと思っとったらいいみたいやな‥‥。いいということにしてほな、さいなら〜』 逃げようとするイフェリアだがクレアはそうはさせてはくれない。組み合わせが決まるまで目隠しの上に簀巻きにされて転がされるイフェリアであった。 ●晩餐会 翌日の午後、ガルナとパリリがお迎えにやって来た。一同は徒歩で小人達の住処へと向かう。荷物の多くはメグレズの霊騎・瞬が積んで運んでくれるので楽である。 「トマトはあれからどうなったかね?」 『トマト? うん、もう赤くなっているのもあるよ〜』 道すがら、からすは気になっていたトマト畑についてを訊ねるとガルナから意外な答えが返ってきた。食べられるのはもう少し先だと考えていたトマトの実だが、どうやら成熟しているものもあるらしい。 「気になっていたんです。もう食べられるんですか?」 『すごーいっ』 隣りで聞いていた緋乃宮と姫翠はガルナに顔を近づける。 『この間、二代目と話したけど〜こっちはあったかいからかなっ?』 緋乃宮が頭上を飛ぶパリリに視線を向ける。このミヨニの地は確かに春というよりも、もう夏といった季節感がある。そうだと考えれば合点がいく。 「手に入るのならお料理に使ってみたいです‥。いいかな?」 『うん、いいよ〜。じゃあ、こっちを歩いたほうがいいね』 柚乃に頷いたガルナはトマト畑へ立ち寄ることに。それほどかからずに到着する。 「ここまで育っているなんて‥‥」 的吉の感想と同じように多くの者が畑を見て驚きの表情を浮かべた。 濃い緑茂るトマト畑に点々と赤い実がなっている。日当たりが特によいところに限られているものの、確かに熟したトマトの実がそこにあった。 緋乃宮は贈り物の肥料を屋根のある場所へ置いてからトマト畑に足を踏み入れる。姫翠が指先でつつくとトマトの実がかすかに揺れた。 「間引きもちゃんとやっているようだが、これも抜いたほうがいいな」 『そっかー』 からすは虫食いや病気の苗をガルナに教えてあげる。 苗の成熟の度合いは様々。その違いがどこからくるのか。ミヨニの地にはまだ謎があるようだ。 熟したトマトを収穫し、一同は小人達が集まる集落を訪れた。 「遠近感がおかしく感じられますね‥‥」 一番背の高いメグレズの身長は二百二十センチを越えている。腕を伸ばせば屋根に手が届く建物ばかりが並んでいる風景は彼女にとって非常に奇妙である。 ガルナとパリリがいっていた通り、丸太を組んだ小屋ばかりだ。その中でも一番大きな丸太小屋が晩餐会の会場となる。出入り口の扉が通り抜けられないメグレズは窓からの入場となった。 『みなさんのおかげでトマト畑もばっちりですぞ。感謝の印としてたんと食べていってくだされ』 小人を代表する白髭の長による挨拶から晩餐会は始まった。 からすと柚乃は調理場へ。 (「この地のものならば喜んでもらえるだろう」) からすはピスタチオを様々な料理に変えてゆく。 まずは簡単に塩炒りピスタチオ。擂って粉にさしてパスタにかけたりも。茹でられたソーセージはそのまま出されたり、またはトマトと合わせてサラダになる。ピスタチオを使ったドレッシングも作られた。 メグレズが手に入れた乾麺は茹でられてパスタに早変わり。 「トマトといえばやはりこれです‥‥」 柚乃は酸味の強いトマトをソースにしてパスタに絡める。甘みがあるトマトはサラダに使った。 『すご〜い♪ ありがと〜。あたしとガルナ、おんなじくらいだねぇ〜♪』 『ほんとだ〜』 メグレズが贈った手彫りの木像は特にパリリが喜んでくれる。ガルナとパリリがモデルでそれぞれに持ち帰るという。 「うめえなー」 「これ、きっと僕たちのために用意してくれたんだよ」 七羽兄弟が七面鳥の丸焼きを頬張る。 「うんめぇ〜! 塩加減がばっちりだな!」 『よかった〜♪』 二代目にも好評でガルナも嬉しそうだ。ガルナは見よう見まねで作ったエプロン姿。どうやら開拓者達が料理をしている姿に憧れたようである。 「では今度はこちらから。どうかな?」 『‥‥‥‥お、おいしい!』 からすが運んできたピスタチオがけのパスタをガルナが頂いた。 ピスタチオはこの地に自生しているので小人達もよく知っている。しかしこんな風に使った料理は初めてのようだ。 『こ、これどうやって作るの? 教えてぇ〜』 「難しいものではない」 ガルナにせがまれながら、からすは調理法を教える。 「はい、少しずつゆっくり食べてね‥」 柚乃は仔犬の白房にお肉をあげていた。すると突然、目の前にあたふたとしたパリリが飛んでくる。 『トマトで味付けしたんだよね〜あのパスタ』 「うん。どうだったかな‥?」 『だいすきぃ〜♪』 「よかった‥。まだトマトソース残っているから作る‥‥?」 羽妖精の間でトマトソースのパスタ『スパゲッティ』は大好評。丸太小屋にいる羽妖精の殆どの口の周りが真っ赤なのがその証拠といえる。 白房の世話をパリリに任せて柚乃は一旦厨房へと戻る。そして追加のスパゲッティを作るのであった。 「その口の周り、どうしたのかな?」 『えへへっ、美味しくてつい♪』 羽妖精の姫翠もスパゲッティを気に入ったようだ。緋乃宮が口をきれいに拭いてあげる。 「スパゲッティの他にこちらもどうぞ〜♪」 『ど〜ぞ〜♪』 一段落したところで緋乃宮と姫翠はホールケーキをお披露目。わざと遅く出したのは甘い食べ物が別腹だからである。 『これって丸太みたい〜♪』 『本当だ〜♪』 ガルナとパリリが卓にしがみつくようにしてチョコレートのホールケーキを凝視する中、緋乃宮は切り分けてあげた。 『ケーキって人の世界だと普通にあるの? みんな食べているの?』 「う〜ん、普通じゃないけど大きな街に住んでいれば食べられますね。絶対に買えないほど高いものではありませんし」 ケーキを食べるガルナに緋乃宮はケーキ作りの質問をされる。 今回のは買ってきたものなのでどうしようかと考えているとクレアが後でレシピを教えてくれるという。彼女は甘味好きがこうじて菓子作りが得意のようだ。 『ケーキっておいしっ』 『おいしっ♪』 姫翠はパリリと並んでチョコレートの欠片を口一杯に頬張る。 「湯煎をしてと――」 クレアがガルナに渡すレシピを卓で書いていると、横に座っていた羽妖精のイフェリアがそっと離れようとしていた。 (「相変わらずべっぴんさんがぎょーさんおるの〜。むにむにさせてもらいたいのう〜」) 手わきわきとしながら飛び立とうとするイフェリアの襟足をむんずと掴んだクレア。コーディネイトの時と似た状況だ。 『後生や、クレアはん〜』 「ダメ。ここで一緒に食べるのは構わないから」 クレアは隣の羽精霊のグループの一部をこちらのテーブルに招いた。そして紹介しあって一緒に楽しむことに。 『ま、ええか。こういうのも。こちょこちょ作戦や〜』 ちゃっかりとミヨニの地の羽精霊達とのスキンシップを楽しむイフェリアであった。 「サジ太、おいしい? そっかーよかった♪」 リィムナも迅鷹のサジ太と一緒に晩餐会を楽しんでいた。 『大きな鳥だね〜』 「サジ太はいい子なんだよ〜♪」 リィムナは小人達にサジ太のことを訊ねられて答えたり、逆に料理についてを質問したり。 希儀料理指南書にある料理が多いかと思えば、そういうものは少なかった。食材を単純に茹でたり焼いたりしたものが多い。味付けはあっても軽い塩味程度。ただ見かけについては並々ならぬ努力の跡が感じられた。 仲良くなった小人に笛をプレゼントするリィムナである。 リィムナは小人達が作ったナッツ入りの焼き菓子をデザートとして頂く。それから『フルート「ヒーリングミスト」』で演奏を始めた。小人達も贈られた笛で合わせてくれる。 「さてと♪」 踊り始めた小人達と一緒にリィムナは黒猫白猫を披露した。リィムナの周りに人影の幻影が現れて一緒にステップを踏む。 小鳥の囀りを奏でると窓から小鳥たちが丸太小屋の中に飛び込んできた。 外へ出たリィムナは華彩歌で庭の花々を一斉に咲かせる。サジ太はリィムナの頭上を軽やかに飛翔。窓にいる精霊や仲間達から拍手が送られるのであった。 その頃、別の意味で盛り上がっていた者達も。人妖の朱雀は売り言葉に買い言葉で小人の一人と競争をすることに。皿に山盛りになったジャガイモの早食い競争である。 「無理はしないでね」 『大丈夫っ。絶対負けないからみててっ』 「いえ、そういう意味では‥‥」 『いいからいいから。もう始まるよっ』 杉野の心配をよそに朱雀は大食いの戦いに挑んだ。小人としては巨漢が相手。鐘の音を合図にして一斉に食べ始める。 一皿目をクリア。二皿目、三皿目と進み、四皿目で互いに勢いが止まった。 (「だめかもっ。でもっ‥‥」) 朱雀は砂時計の砂が落ちるのを睨みながら手にしていたジャガイモを口の中へと押し込む。僅差で勝ちとなる。 互いの健闘を称え合ったところで朱雀は杉野の膝の上へ。 『やっぱりワンコのモフモフは最高だねっ。自慢したい処だよっ』 膝の上まで回された杉野の尻尾に朱雀は安らいだ表情で抱きつく。 メグレズは大工が生業の小人達と談義していた。 「釘や留め金など金属関係でなにかお困りごとがございましたら明日にでも直します。そのための道具も持ってきましたので」 『それは嬉しいね。ありがとね。でもあいにくと今は大丈夫なんだ。その代わりに道具とかを見せてもらえると嬉しいんだが』 小人達に望まれたメグレズは釘類、道具類を披露する。小人達は目を輝かせて一つ一つ説明を求めた。 荷運びを頑張ってくれた霊騎の瞬には多くの穀物や草が与えられる。メグレズは庭で静かにしている霊騎・瞬に感謝するのであった。 晩餐会は夜遅くまで続いた。 一同は小人達が用意した寝床で一晩過ごしてから二代目の小屋へと戻る。二代目の作陶を一日手伝ってから天儀への帰路に就くのであった。 |