|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 兄の七羽矢吉は十五歳。弟の七羽的吉は十四歳。父が亡くなって家族は母親と兄弟のみになった。 普段から父の商売を手伝っていた七羽兄弟は継いで交易商人となる。ただ次々と常連が離れて知り尻窄み状態。立ちゆかなくなるのは時間の問題となっていた。 そこへきて希儀の発見である。 ギルドに依頼して開拓者を応援に迎えながら未知の大陸へ。 希儀の大陸南部へと到達して点在する遺跡のうちの一つを探検し、いくつかの品を持ち帰った。 ピスタチオの実は市場で非常に好評。その他に七羽兄弟が注目していたのがキラキラと表面が輝く陶器である。 新しい街になるであろう『羽流阿出州』(パルアディス)と名付けられた土地で情報収集。さらに調査した結果、粘土の採掘場と壊れた窯跡を発見する。 捨てられていた欠片からしてそこが注目していた陶器が作られた場所だと断定する。 陶芸家の『二代目万力京太郎』を連れて再度立ち寄ると助けを求める精霊達の姿が。自分達の精霊女王『ミヨニ』を助けて欲しいと懇願される。 引き受けた一同はミヨニの本身である月桂樹からアヤカシの蛇共を排除した。今後はアヤカシに入り込まれないよう充分な罠を仕掛けるという。 粘土の採掘場跡と焼き窯跡は精霊達の活動域に含まれるが、熊牙号一行については歓迎してくれるそうだ。 充分な粘土を採取して天儀への帰路に就く。 そして‥‥。 「うまぐいかねぇ。これもこれもや!」 土床に散らばる陶器の破片。さらに叩きつけられて割れてゆく皿や湯飲み。 武天此隅からそれほど離れていない山林の中に二代目万力京太郎の住まいはある。本来は陶器を作るだけの質素な作陶小屋なのだが、彼にとって自由に寝泊まり出来る場所はここしかない。亡くなった師匠から受け継いだ形見といえた。 ただ作陶に大切な道具や焼き窯はすべて揃っている。それなのに希儀で手に入れた粘土をいくら捻っても満足な出来の陶器は仕上がらない。七羽兄弟からもらった陶器の破片のように輝いた表面にならなかったのである。 やれることはすべて試したつもりだった。粘土の扱い、捻り方、釉薬、焼き方などなど。 「荒れてるな。どうしてるかと思ってな。勝手に入らしてもらったぜ」 「どうも、お久しぶりです」 声がして振り向くとそこには七羽兄弟の姿が。あまりに熱中しすぎて二代目は中型飛空船・熊牙号が小屋の近くに着陸したのも気づいていなかった。 「もったいねぇな。用は足りるんだから、そのまま売ればいいのに」 屈んだ矢吉が大きめの破片を指先で摘んで眺めた。 「陶芸家の気持ちは商売人にはわからねぇ‥‥」 「おい、その言い方はねぇだろ!」 二代目と矢吉が喧嘩しそうになって的吉が間に入った。 「まあまあ、ごま団子たくさん買ってきたんだよ。そこの火鉢を借りてお茶用のお湯沸かしてもいいかな?」 的吉の訊ねに、むすっとした表情のまま二代目が頷いた。 湯が沸いてお茶が淹れられて、三人でごま団子を食べ始める。最初は無言だったが、二代目がぽつりと呟く。 「あの壊れた窯で焼かねば駄目なのかも知んね」 「窯ってあの希儀にあった窯? 詳しく調べたけど天儀のものと大した差はなかったっていってなかったっけ?」 的吉が二代目の話し相手になる。矢吉はふて腐ったまま口一杯にごま団子を頬張っていた。 「窯だけでいえば、その通りや。だけんども空気や水が違う。天儀でも天気によって焼き具合が変わるかんな。それと薪の違いもあんかも知んねぇし」 「薪? 燃えればそれでいいんじゃないの?」 「灰がかかって自然釉になることもあるぅ。薪が違えば当然灰も変わってくらあ。それに独特な熱さ加減のおかげで輝く焼かれ方になんのかも知れんし」 「いろんな条件が重なって、あの輝きが生まれてるかも知れないのかあ」 的吉と二代目の談義は続く。茶とごま団子が食べ終わった矢吉は失敗した陶器の破片をじっと眺める。 「‥‥俺達兄弟は確かに商売人だ。だから他人様に馬鹿だ無謀だと罵られようと新しい土地だと知って希儀に向かったんだ。商売のネタを探し求めてな」 矢吉が突然話し始めた。的吉と二代目は話しをやめて矢吉へと視線を向ける。 「開拓者には手助けしてもらったけどよ、それは出来る限りの備えってやつさ。勇敢と無謀は違うからな。で、だ。二代目よ。お前が陶芸家っていうなら、陶芸に命をかける覚悟は出来ているんだよな?」 矢吉が二代目をきつく睨みつける。 「あ、あったり前だぁ!」 売り言葉に買い言葉だったのかも知れない。二代目が即答すると矢吉はにやりと笑った。そして矢吉は二代目に希儀の焼き窯や粘土の採掘場跡へと移り住むといわせた。 以前の危険なままの土地ならば矢吉も二代目を唆さなかっただろう。だが少々頼りないとはいえ、今は精霊達が守護する土地である。二代目一人が移り住むぐらいは何とかなりそうだと算盤を弾いていた。 そして一週間後。七羽兄弟は希儀で生産されたオリーブオイルを買い求める飛行に二代目も乗船させる。行きの貨物の殆どは二代目の作陶道具ばかりだ。 希儀と天儀の往復にはまだまだ危険がつきもの。雇った開拓者達に護られて熊牙号は希儀の空を目指したのであった。 |
■参加者一覧
からす(ia6525)
13歳・女・弓
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔
中書令(ib9408)
20歳・男・吟
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●精霊達と 深夜、開拓者達は精霊門にて武天の都、此隅へと移動。待機していた中型飛空船・熊牙号に乗り込み七羽兄弟と合流を果たす。 まずは山奥にある二代目の住処へと飛んで引っ越しの荷物を積み込んだ。夜明け前には完了し、二代目も一緒に発注済みの建築資材を引き取りに木工所へと向かう。 昼過ぎには必要な資材すべてが熊牙号の船倉内へと運び終わる。 そして希儀への旅が始まった。 途中で強風に難儀したものの、三日後には無事に希儀の海上空へとたどり着く。さらに半日をかけて南部にある目的の焼き窯跡周辺へと着陸した。 「運び入れる前に精霊の森を訪ねよう。断りを入れるのが筋だ」 からす(ia6525)が小屋を建てる前にミヨニを始めとした精霊の一同から許可をもらうべきだと提案する。 「僕も賛成だな」 的吉は頷いた。以前に大まかな許可は得ているとはいえ、実際に移り住むとなれば挨拶をしておいた方がよいからだ。 「そうですわね。ミヨニさんたち精霊とよい関係を築くべきですわ。今後の二代目さんの警護も頻回にお願いしたいところですし」 クレア・エルスハイマー(ib6652)が目の前を飛んでいた羽妖精・イフェリアに視線を向ける。 『おっしゃあ! 今回もウチの出番やな! ミヨニはんとこはみんなべっぴんさんやさかい、ウチも頑張り甲斐があるっちゅうもんや!』 「あなたには仲立ちをしてもらいたいんですからね」 妙な張り切り方をする羽妖精・イフェリアにクレアが注意を促す。分かっとるやん、と踊りながら相づちを打つイフェリアにクレアは少々の不安を感じながら頬をかく。 「ミヨニさんや精霊さん達への挨拶をお願いね。その後で二代目さんのためにしっかりした小屋を作りましょう」 緋乃宮 白月(ib9855)が差し出すと手のひらの上に羽妖精・姫翠が乗った。 『マスター、わかりました〜。えへへ〜、またミヨニさん達に会えて嬉しいですっ!』 片手を高く掲げて羽妖精・姫翠が喜びと承りを表す。 「それが良さそうです。あなたも挨拶をしに一緒に行きましょうね」 メグレズ・ファウンテン(ia9696)が首もとを軽く撫でると霊騎・瞬が小さく嘶いた。 以前に精霊達が罠を仕掛けて安全だといっていたのを信じて、熊牙号には特に留守番を残さず全員で向かう。 「少し場を和ませましょうか」 森に入る直前、中書令(ib9408)は仲間達を立ち止まらせて小鳥の囀りを唄う。すると小鳥だけでなく小さな動物たちが集まってきた。それに釣られたのか隠れていた精霊達も茂みや物陰から顔を出す。 「お、久しぶりだな。元気にやっているか?」 月桂樹に辿り着くまでにも多くの精霊と出会う。しかし矢吉が元気よく挨拶をしても大抵茂みに隠れてしまう。この地の精霊は恥ずかしがり屋が多いようだ。一度会った程度ではまだまだらしいと一行は話し合う。 「これを受け取ってくれ。ミヨニ殿はお元気か。そうならば会わせてもらいたいのだが」 からすは精霊達が隠れた茂み近くの地面に紙を敷いて菓子を置いた。離れると茂みの中から飛び出したいくつもの手が菓子を掴んで引っ込む。 少し待つと茂みや樹木の裏からはみ出したいくつもの手が行き先を示してくれる。その方角にはミヨニの本体である月桂樹がそびえ立つのがうかがえた。このままミヨニに会って問題ないという意味だと一行は解釈する。 「京太郎殿、精霊とのつき合いは独特のようだ」 「ああ、骨は折れそうだがいい奴らばかりじゃ。恥ずかしがり屋じゃの〜」 からすは二代目に精霊と仲良くするようそれとなく伝えておいた。 しばらくして森の拓けた場所へとたどり着く。中央には森の中で一番高い月桂樹が鎮座まします。その月桂樹が光り輝いた。 『ようこそ、おいでくださいました。私を、いやこの森を救ってくれた方々よ』 精霊女王『ミヨニ』が月桂樹から現れると隠れていた精霊達も一同の前に全身をさらした。 深呼吸した二代目が一行の中から三歩踏み出してミヨニへと近づいた。 「頼みたいことがあんだ。おいら、あの窯の近くに住んで焼き物してえだよ。許してくれるとありがてえ」 畏まった二代目がミヨニに居住の許可を求めてお辞儀をする。 『どうぞ留まって土を捏ねてくださいませ。助けて頂いたご恩をわずかでも返せるのはわたくしにとっても喜ばしいことです』 優しいミヨニに二代目はもう一度頭を下げる。 やがて堅苦しい話は終わり、ざっくばらんな場となった。 「こちら差し上げます。僕の故郷のお菓子です。良ければ貰って下さい。月餅といいます」 『ありがとうございます。せっかくです。この場で頂きましょう』 緋乃宮が渡した月餅をミヨニが口にして微笑んだ。困っていることがあるかと訊ねると自分にはないが他の精霊達にはあるかも知れないとミヨニは答えた。 ミヨニの視線が上向いているのが緋乃宮にもわかった。やはり猫耳が気になっているようなので、どうぞと触らせてあげた。普段から優しそうなミヨニだが触っている時の笑顔はまるで少女のようである。 ミヨニの意向によって開拓者達は精霊達に困っていることを訊ねる。また同時に小屋建築への協力を求めた。 「頼みますわよ」 心配顔のクレアが羽妖精・イフェリアを送り出す。イフェリアは精霊達が困っていることがないかを訊ねて回った。 『あ、そこのカワエエ姉ちゃ〜ん! どないや? 困っていることがおうたらいうてや。力になるで〜』 有無をいわせず相手の精霊の手を握り、キラキラと瞳を輝かす羽妖精・イフェリア。あーあと呟いて自らの顔を広げた片手で隠すクレアであった。それでも容姿が似ているおかげか、逃げだす精霊はいなかった。 羽妖精・姫翠も森の精霊達の中を訊ね回る。 『えっと、麦もこの辺りで育つみたいだけど麦藁ってあるのかなっ? 今は冬だけどどこかに残っていない? あると嬉しいなっ』 『‥‥‥‥‥‥‥‥たくさんある』 羽妖精・姫翠の質問に長い沈黙の後で一体の精霊が答えてくれる。 どうやら一部の精霊達は人の小屋を真似て建てて、そこに住んでいるようだ。いつでも補修できるように藁束が保存されているという。もちろん外壁に使う木材もだ。木板もあるらしい。 『よい知らせです〜♪』 どちらも提供してくれるというので、羽妖精・姫翠はさっそく緋乃宮に伝える。さらに二代目と七羽兄弟へと報告した。 「これまで僕たちが見かけていないってことは余程わかりにくいところに建てられているんだね」 的吉がうんうんと頷く。 「そりゃ嬉しいな。やったな、おい!」 矢吉は二代目の肩を叩いて喜んだ。しかし二代目は何故か顔を曇らせる。 「一方的にもらうのは好きでねぇ‥‥。決まりが悪いべさ」 「またそんなことを。めんどくせー奴だな。素直に受け取っておけよ」 二代目と矢吉がまた喧嘩を始めようとした瞬間、羽妖精・イフェリアが飛んでくる。矢吉の頭の上に乗ると二代目を見下ろした。 『妖精のカワエエ姉‥‥いやみんなは瓶や食器を欲しがってたで。木や石じゃのうて陶製がいいっていうとったな〜』 羽妖精・イフェリアの説明によれば人の様式を真似て暮らしている精霊達にとって食器類は悩みの種のようだ。今のところ自分達で見よう見まねで作った石製や木製のものを使っているが、本当は陶製が欲しいという。陶製は精霊達にとって敷居が高い加工法のようだ。 「決まったな」 「んだっ!」 側で聞いていたからすが呟くと二代目が力強く呟いた。 「小屋が出来たら真っ先に小さな瓶や食器を作るぅ。それを贈り物にすりゃええな」 二代目もこれで納得がいったようである。 「瞬、出番です。頑張ってもらいますね」 メグレズは霊騎・瞬に資材運びを手伝ってもらうことにする。熊牙号に載せられている組み立て式の荷車を活用すれば、より多くの荷物が運べるだろうと。 「重い物を運ぶのを手伝ってください。周りに怪我がないよう頼みます。もちろんあなたもですよ」 中書令はからくり・鼎の活躍に期待した。何往復もすることになるので、人手はいくらでも欲しいところ。からくり・鼎を連れてきてよかったと中書令は心の中で呟いた。 藁と木材の保管場所は森の中にあるので熊牙号を横付けしての積み込みは不可能。かなり無理矢理に着陸させた熊牙号まで約三百メートルの距離を運ぶ作業が始まった。 長年、精霊達が通ることで出来た森の自然道を利用する。幸いに荷車が通れるだけの幅があって霊騎・瞬が牽いて運んだ。 積み込みはからくり・鼎が森の精霊達と一緒に頑張ってくれる。大きく重たい物はからくり・鼎が持ち上げる。小さな精霊達は力合わせて一つずつ物を積み込んだ。 「これらの木材は長年乾燥させた上で板にされていますね。精霊の方々の技術の高さがうかがえます」 「藁の保存状態も上々です。今度、家を見せてもらいましょう。きっと素晴らしい出来に違いありません」 メグレズと中書令も積み込みを手伝う。 矢吉と二代目は熊牙号内で運ばれてきた資材を整理整頓していた。崩れないようまとめて布で覆って縄を渡して床に固定する。 「腹減ったな〜。的吉に夕飯、何を作るのか聞いておけばよかったな」 「ここんとこずっと一食抜きの生活はきついべ。ま、しょうがないけんど」 「そんなことないだろ。今日も朝と昼、ちゃんと食べたろ?」 「ずっと黙ってたけんど、おいらは一日四食が基本だかんな。日によっては五食食うときもあるぅ」 食いしん坊の矢吉だが二代目には負けたと口をあんぐりと開けた。ちなみに彼がいう一食分は普通の者の倍近い量である。 足りない資材を運ぶ最中、焼き窯跡周辺での小屋建設も同時並行で行われていた。 「支えているからその間に固定を頼む」 アーマー・白羅を駆動させるからすは二柱を立てたまま同時に支えた。 「急いで填め込みますから」 「まずはこちらですね」 緋乃宮とクレアが柱に掴まって登る。 梁を持ち上げるのは精霊達の仕事。羽妖精のイフェリアと姫翠が先導して梁を吊り上げるための縄を一斉に引っ張った。 柱も梁も半加工がされており、組み立てていけば自立した骨子が出来上がる。もちろん釘などで完全に接合する必要はあるがそれは後の工程だ。 『こっちは引っ張るで〜♪』 イフェリアは飛び続けて高所の滑車の状態を確かめながら指示を出す。 『ここはもう大丈夫だから、向こうの縄に移動しますっ。ついてきてください〜』 姫翠も空中から全体を俯瞰して判断し、早く組み立て終わるよう他の精霊達に協力を仰いだ。 的吉は野外の離れた場所で調理を請け負う。 「みんなお腹を減らしているから美味しい物を作らないとね」 「手伝おう。このジャガイモの皮を剥けばよいのか?」 「柱は立ったの?」 「一番大切な部分は終わったからもう大丈夫だ」 柱の固定が終わってアーマーを下りたからすが的吉の調理を手伝ってくれる。 熊牙号に積んできた食材もあったが、ジャガイモのように精霊達が提供してくれたものもある。家畜はその中で最たるものだ。 雌牛は周囲の草を適当に食べさせればよい。労働力にもなるし毎日手に入る牛乳はとても貴重。後で卵を産んでくれる雌鶏も提供してくれるという。自給自足の生活においてこれほど心強いものはなかった。 そのための家畜小屋作りもしなければならないものの、利便性を考えれば些細な苦労といえた。 太陽が沈みかけた頃に今日の作業は終了。すべては明日以降に持ち越された。 「たくさん食べてね。おかわりも大丈夫。まだまだあるから」 的吉が作ったシチューが全員に振る舞われる。もちろん手伝ってくれた精霊達にも。 これだけの量が作れたのは二代目の荷物の中にあった大鍋のおかげだ。一体どこで手に入れたのか首を傾げるくらいの巨大なズンドウ鍋であった。大食漢の彼にとってはこれで普通なのかも知れないが、屋台でも見かけない程の大きさを誇る。 「ふー、たくさん食べたで〜。クレアは〜ん、ダイブ♪」 「きゃっ?!」 クレアは羽妖精・イフェリアに突然抱きつかれて驚く。しかし今日は怒らなかった。小屋作りを頑張ってくれたのを知っていたからである。余程疲れたようでずるずると落ちて膝の上で寝てしまった。 「くー〜‥‥。もうお腹いっぱいですっ〜‥‥」 「‥‥‥‥ゆっくり休んでね。お休みなさい」 羽妖精・姫翠も緋乃宮に寄りかかりながら吐息を立てた。緋乃宮はやさしく姫翠を持ち上げて熊牙号のベットへと運んであげる。 「明日も頼んだ。頼りにしている」 からすはアーマー・白羅の修理を済ませてから就寝する。 「おかげで助かりました。もしいなかったら苦労して明日も資材運びをしたことでしょうから」 メグレズはブラシで毛繕いして霊騎・瞬を労う。 「あなたもここで聞いていてください」 中書令はからくり・鼎を側に座らせて琵琶で心休まる曲を奏でる。 希儀の月もまた天儀や泰儀、ジルベリア、アル=カマルと同じく静かに夜を照らし続けるのであった。 ●暫しの別れ 二代目が住む小屋は三日目に完成。牛小屋と鶏小屋も四日目には使えるようになった。 予定では小屋を完成させた時点で滞在日程を使い尽くすと考えられていたが、まだ数日の余裕があった。そこで全員で壊れた焼き窯の修理に取りかかる。 「これおんなじ煉瓦が欲しいだよ」 二代目が窯から取り外してきた煉瓦を一同に見せる。 「煉瓦の形はこんな感じにしてけろ」 二代目は干したり焼いたりする過程で小さくなるからと粘土を捏ねて三割り増しの見本を作り上げた。 「なかなか難しいのですね‥‥」 「マスター、こんな感じでどうですかっ?」 緋乃宮と羽妖精・姫翠も二代目の見本を真似て煉瓦作りに挑戦する。 「こんなもんやな。クレアはん、見てや‥‥おわっ?」 「い、イフェリア!」 作業台の上でこけてイフェリアが煉瓦になる前の粘土へとめり込んだ。せっかくだからとそのまま煉瓦として仕上げられることとなった。 「私達は燃料となる薪を用意しておきましょう。あなたの分の斧もあります」 中書令とからくり・鼎は森に薪となる木を伐りに行く。もちろんミヨニの許可はとってある。 からすと矢吉は一緒に石ばかりの崖へと向かった。窯に使われている石製部分の複製を用意するために。 「二代目のやつ、これぐらいの正方形が欲しいっていってたぜ」 矢吉が岩盤の表面に炭で線を引いて四角を描いた。 「わかった。離れていてくれ」 からすは炭で囲まれた部分を取り出すべくアーマー・白羅を操って武器を振るう。MURAMASAソードと駆鎧の鋸刀の両方を使った。 「すげぇ‥‥」 矢吉は瞬きせずアーマー・白羅の動きを目で追う。 周囲が砕かれて立方体が岩盤から浮かび上がる。練力が底を突いてアーマーが使えなくなってからは人力で削り出す。 半日後、二代目が希望していた大きさの石が切り出される。最終的には鎚と鏨で修正を加えなければならないが、それは二代目の仕事になるだろう。 「これは大きいですね。注意しないと」 それまで煉瓦作りを手伝っていたメグレズが輸送の応援として霊騎・瞬を連れてやってきた。 荷車へ石を載せて霊騎・瞬に牽いてもらうが、メグレズ、からすも後ろから押して力添えする。土が軟らかいので車輪の下に板を敷く役目は矢吉が担う。 「一休みしよう」 途中の休憩の際、からすはローズティーと菓子を振る舞った。こういうときには甘いものが一番と別に用意した蜂蜜も付け加えられる。 小屋まで運ぶ頃にはもう日が暮れていた。 「今日も大変だったね。なんとミヨニさんが精霊さんたちにイノシシ肉を持たせてくれたので、今日の晩ご飯は牡丹鍋だよ」 的吉の料理を全員で囲んで舌鼓を打つ。 翌日も窯の修理を手伝って六日目の朝に熊牙号は飛び立つこととなる。これからこの地で生きてゆく二代目とは暫しのお別れである。 「こちらお渡しするつもりなのを忘れていました」 中書令はそういってミヨニにチョコレートを手渡してから熊牙号へと乗り込んだ。 「あんがとなー。窯の修理、ちゃんとしとくでよ!」 眼下には精霊達に囲まれた二代目が叫ぶ姿。矢吉は熊牙号の中から見下ろしながら涙目になっていた。 それから熊牙号は羽流阿出州へと立ち寄ってオリーブオイルを積み込んだ。早く届けるべく船首を天儀へと向けて加速するのであった。 |