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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 寒い夜だった。 そろそろ天儀では春の足音が聞こえてくる三月。 だが、ここジルベリア最北領・スウィートホワイトでは真冬となんら変わりのない寒さを維持していた。 (寒いわね……当たり前だけれど) スウィートホワイト領の片隅にある遊郭街『露甘楼』の遊女・月白はその小さな手にふうっと白い息を吐きつける。 手袋を付けた上からでも、凍えた指先が少しでも温まるように。 露甘楼の女主人の言うとおり、手袋にコート、手編みのマフラーを巻いてきちんと防寒対策をしてきたつもりだったが、まだまだ甘かったようだ。 手にしたランタンが灯す範囲は小さくて、見上げる夜空は遠すぎて、まるでこの世界にたった一人でいるかのような気分になってくる。 『夜間出るのなら、用心棒をつれていってね? 最近、不穏な噂を耳にするの。幼子が神隠しにあうって……もちろん、貴方は幼子ではないわ。けれど一人ではどうか出歩かないで』 心優しき女主人は月白を案じてそんな事を言っていたけれど、月白はそっと一人で抜けだした。 普通、遊郭といえば外出もままならないもののようだが、露甘楼では遊女の出入りは自由だったし、取りたくない客を取らされる事もなく、だから月白が店を出るときも用心棒は「お気をつけて」と声をかけてくるだけで特に咎められる事もなかった。 露甘楼からそのまま遊郭を北に抜けて、街中を通って。 町外れの丘の上からならそれが良く見えると聞いたから、月白はランタンを足元に置き、夜空に目を凝らす。 (見られない……?) 深い藍色の空には小さな星で埋め尽くされ、冬の澄んだ空気がより一層星を強く輝かせた。 それだけでも、夜間でも明るい遊郭街では見られない絶景。 (いつも見れるものではないものね……) 『星屑の丘で光のカーテンが見れるらしい』 そんな噂を耳にしたのは、露甘楼を訪れた客からだった。 星屑の丘はその名の通り星が良く見えるから名づけられた名前で、光のカーテンと呼ばれるそれは夜空を光がカーテンのように揺らめき彩る現象で、ここスウィートホワイト領でも珍しい事だった。 (お父様と見れたのが……きっと奇跡) もう何時の事だろう。 数年……いいや、十年は経っているのだろう。 姿こそその頃とほとんど変わらない幼さを維持している月白は、けれど本当はもう、それなりの歳。 アヤカシに襲われて父は行方不明となり、一人残された月白は親戚を名乗る見知らぬ女に露甘楼に売り飛ばされた。 父親に会いたいとは思わない。 もう殆ど記憶にもないのだ。 露甘楼での日々が楽しくて、薄情かもしれないが思い出すことも稀だった。 けれど今日、光のカーテンの噂を耳にしてしまったら、どうしてもいてもたってもいられなかった。 (そろそろ戻らないと……カナリアさんが心配するわね) 胸に広がる消失感を小首を振って振り払い、足元のランタンを手に取る。 かさりとする物音に月白は振り返りると、草むらの中からこちらを覗いている少年と目が合った。 そんなところから子供が何をしているのか。 そう問いかけようとした次の瞬間、 「!!!」 一瞬だった。 月白は見知らぬ男達に羽交い絞めにされ、縛り上げられていた。 叫びたくとも硬い手のひらに強く口を抑えられ、声がでない。 「見ろよ、こいつは上玉だっ!」 悪役らしすぎる発言に、月白は心の中で舌打ちする。 頤を捕まれ、値踏みする男の顔を睨み付け、口を塞いでいる手に思いっきり噛み付いた。 だがそんな事で怯む者達ではなく、月白に噛まれた男はその手の平を一切の躊躇なく月白の頬に叩き付けた。 泣きたくなどなくとも、痛みで涙が込み上げてくる。 「おいおい、商品に傷を付けるなよ」 リーダーらしき男が笑いながら月白に猿轡を噛ませる。 「このランクならこいつ一人でももう十分じゃねぇか? そうそういねぇだろこのレベル」 「余分なことを考えるな。俺達は言われたことだけをこなせばいい」 「めんどくせぇなぁ。この間ペトロシティに運んだヤツには途中で死なれるし、後何人だぁ?」 「まぁ、顔以外は割りとどうでもいいんだが、なっ!」 後頭部を殴られたのだろう。 強い痛みに月白の意識はゆっくりと遠のいてゆく。 狭まる視界には地面に落ちた手編みのマフラーと、草叢から驚愕に目を見開き、固唾を呑んでこちらを覗っている少年。 (どうか、逃げて……) そう願い、月白の意識はそこで途切れた。 露甘楼に月白の身につけていたマフラーと共に見知らぬ少年が飛び込んできたのは、その翌日の事だった。「これっ……どこでっ?!」 露甘楼の芸妓にして駆け出し開拓者の朽黄は少年の手にしたマフラーに青ざめる。 それは、朽黄が月白に贈ったものだった。 緊迫した空気。 すべてを少年から聞き出した女主人は青ざめながらも凛とした眼差しを朽黄に向ける。 「ギルドに依頼を出しましょう。お願いできるわね?」 女主人の言葉に朽黄は大きく頷いて、全力で開拓者ギルドへと駆け出した。 |
■参加者一覧
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
御桜 依月(ib1224)
16歳・男・巫
高崎・朱音(ib5430)
10歳・女・砲
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
ミーリエ・ピサレット(ib8851)
10歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●作戦は三段構え! 「それで、詳しい話を聞きたいわ。特に少年、あなたからはね」 レヴェリー・ルナクロス(ia9985)は息を整えながら露甘楼に集まった仲間達と、誘拐事件を目撃した少年に尋ねる。 『月白誘拐』 その緊急事態を聞きつけて全力で駆けつけたようだ。 「いくら月白ちゃんが可愛いからって、誘拐しちゃおうとはけしからん! 絶対に助け出さないと……!」 顔見知りが攫われたとあって、自身も本当に愛らしい姿の男の娘・御桜 依月(ib1224)も焦っている。 「我を攫わぬとはけしからん奴等じゃ。汝は既に露甘楼の皆に話したと思うが、我らにももう一度話してもらえるかのぉ?」 冗談とも本気ともつかぬ高崎・朱音(ib5430)は今日も遊郭において誰よりも遊女らしい出で立ちだった。 「ミーリエが絵に描いてみるんだよ! 絵に起こす事で、明確になるって事もあるしね」 ミーリエ・ピサレット(ib8851)は持参した筆記用具と羽根ペンを取り出して、露甘楼の床に和紙を広げる。 促された少年は羽根ペンを手に取りもう一度、ゆっくりと記憶を辿りだす。 「おろ? 手ぬぐいにはこんなマークが描かれてたのか?」 叢雲 怜(ib5488)が少年の手元を覗き込む。 暗くてよく見えなかったとの事で、何の模様だか判らないといっていたそれは、絵に描いてみるとどこかでみたような柄というか文字というか。 「愛、と読めるわね」 天儀の文字によく似たそれに、レヴェリー以下4人、村雨 紫狼(ia9073)をばっと振り返る。 幼女大好きと公言してはばからない彼の衣服には『愛正義真実』の文字が! 「ままままったまった、そりゃないぜ?! 俺は露甘楼遊女心友よ? 心の友だぜ、ないって!!」 あぁ、悲しいかな、今回の依頼で唯一のアラサー男性・村雨紫狼。 仲間達のジト目に慌てて首を振る。 「わかってはおるのじゃが、常日頃汝を見ておるとのぉ?」 小型のマスケットをくるっと回して朱音は不適に笑う。 少年が全く違う体格だったと慌てて首を振るまで、村雨は生きた心地がしなかった。 「必ずあの娘は連れ戻す。ええ、必ずよ……だから出迎えの準備をしていなさい」 「月白の事は我らに任せるがよい」 今にも倒れそうな露甘楼の面々や朽黄にレヴェリーと朱音はそう宣言。 そしてレヴェリーは依月と、朱音は怜と、村雨はミーリエと、それぞれペアを組んで捜査を開始! (無事でいてくれよ、月白ちゃん……!!) 村雨は焦る気持ちを足に込めて、ミーリエを小脇に抱える勢いでホワイティアの街を駆けて行く。 ●情報は丁寧に行動は確実に。 (残り時間は後二日か) 村雨は周囲を警戒しつつ、そんな事を思う。 月白が攫われたのが昨日の夜。 少年の証言から、誘拐犯は月白をペトロシティへと運ぼうとしているようなのだ。 昨日の夕方までにはホワイティアからペトロシティへの定期貨物馬車が出ている事から、次に定期便が出発する二日後までが勝負。 「おら、こんな賑やかなとこ初めてきただ!」 隣にいるミーリエはいつの間にか愛らしい少女からやんちゃな少年に様変わりしていた。 誘拐犯が狙っているのは10歳ぐらいの見目の良い幼女。 その条件に当てはまってしまっているミーリエは狙われないように変装したのだ。 毛皮の帽子を目深に被り、愛らしいピンクのショートヘアを出来るだけ隠し、お洒落とは言い難い防寒服に身を包んだ彼女は、どこからどう見ても田舎の少年。 口調も変えてわざとズボンの膝をぬけるようにしてヨレさせたり、手が込んでいる。 「おいおい、あんまり俺から離れるなよ? せっかく案内してやってるんだからさ」 村雨も調子を合わせて田舎の親戚を案内しているかのように装う。 そっと手を引くのは、決して下心からではない。 万が一にもミーリエが攫われないようにだ。 村雨に手を引かれながら、ミーリエはおのぼりさんよろしく周囲をきょろきょろと見渡す。 少年が描いてくれた似顔絵は思いのほか上手で特徴をつかんでいて、もしも犯人達に遭遇出来たらすぐにでもわかりそうだった。 「この先のカフェに寄った時かもなの」 依月はきょろきょろと周囲を覗いながらそんな言葉を漏らす。 一緒に腕を組んで周囲を見渡すレヴェリーも頷く。 「そうね。大事なものなのだから、見つかるまで探さなくては」 呟いた言葉は側でもし聞いている人がいたとしても本当の意味がわからない。 二人は『落し物を探す町娘』を演じていた。 万に一つ、誘拐犯達に月白を探している事を悟られては不味いのだ。 彼女を探している事を知られる事なく探す、それには別のものを探しているふりをすればいい。 そしてレヴェリーは目立つ事を恐れ、いつも必ず身に着けている仮面を外していた。 この仮面を人前で彼女が外すのは何度目だろう? そう何度もある事ではない。 (あの時は紗々芽の為だったわね……友の為なら、構わないわ) 普段は仮面で隠している目元に直接感じる冷たい風は、いま孤独に怯えているであろう大切な友を思い起こさせる。 「カフェのマスターに聞いてみようかな」 仲間達と待ち合わせ場所にと打ち合わせしておいたカフェに、二人は路地裏で聞き込みをしながら向かって行く。 「さて、この手の輩が寄りそうな所はどこになるかのぉ」 「きっと露店あたりなのだぜ」 朱音と怜はレヴェリーと依月とは逆に、『落し物を拾った町娘達』を演じていた。 ただし、落し物は仲間達のものではなく、なんと犯人達のもの。 「こんな人相をした人の落し物拾ったんだけど見掛けなかったかな? もし見かけてたら教えて欲しいのだぜ」 怜は少年が描いてくれた犯人達の似顔絵の一つを通りすがりの人々に見せて尋ねて回る。 「きっと大切なものに違いないからのぉ、届けてやりたいのじゃ」 目立たないようにと露甘楼で予め地味な格好に着替えた朱音は、ほんの少し居心地が悪そうに落ち着かない。 やはり豪奢な衣装に慣れ親しんでいると、ごく一般的な洋服は難しいのかもしれない。 「沢山食料を買い溜めしていったって、本当かなっ?」 露天商の一人の言葉に怜は興奮気味に詰め寄る。 月白を攫っているのなら外食などは出来ないだろうし、出来るだけ目立つ事を避けるなら食料品を買い込んで定期便が出る日までやり過ごすのではないか。 そんな怜のカンが当たっていたかもしれない。 お店、特に食料品を扱うところを中心に聞き込みしていた甲斐があったのだ。 朱音も小さな体を露店に乗り出して猫耳をぴくぴくさせる。 「えっ? 遊郭に住んでいるらしいのです?」 怜と朱音、顔を見合わせる。 木の葉を隠すなら森の中、女を隠すなら女の中。 灯台下暗しだ。 遊郭では幼女が無理やり売られてくる事など日常茶飯事なのだから。 「場所も近いしのぉ?」 誘拐された星屑の丘は露甘楼から月白が一人で歩いて行ける距離なのだ。 犯人達のホワイティアでの拠点が遊郭の近場にあってもなんら不思議ではなかった。 二人は露天商にお礼を言って、足早に待ち合わせのカフェへと急いでゆく。 ●必ず月白を助け出す! 人気のない夜間。 深夜という程でもないが、人気のない裏通りを依月は不安気に彷徨う。 その隣にはいつも通りの豪奢な衣装に身を包んだ朱音。 昼間の地味さと打って変わった華やかさは堂々とした朱音の雰囲気に良く似合い、また、人目を引いた。 「どこにあるのかのぉ?」 いつもの自分を押し殺し、朱音は縫い包みを抱きかかえてそんな呟きを漏らす。 心細げな雰囲気すらも漂わせ、依月と二人で道に迷った少女を演じ続ける。 ―― 先にその気配に気づいたのは朱音だった。 さり気無さを装いつつ、朱音は依月に目配せを送る。 依月も気づき、わざと誘き寄せる為にその場に立ち止まる。 「もう疲れちゃったんだよ」 探し疲れて動けない……そんな風を装う依月に、そして隣の朱音に、果たして敵は引っかかった。 暗がりの中、すっと潜む陰に依月は一瞬にして捕らえられ、朱音は伸びた腕からするりと回避! 「ふ、かかったようじゃな。お主等には聞きたいことがあるでの、しっかり答えて貰うのじゃ」 相手の答えなど聞く耳持たず、朱音はフロントロックの引き金を躊躇いもなく引く。 最も狙ったのは相手の足だが。 「何だこいつっ?!」 驚く声を上げ、敵―― バンダナの男は朱音を捕らえようとした腕が宙をかき、撃たれた足が崩れてその場に転げまわった。 事態を即座に悟った覆面の男は短い舌打ちをして依月だけでも攫おうとするが、即座に村雨の拳が覆面の男の顔面にきまる。 幼女然とした依月と朱音を囮にし、けれど決して二人が本当に危険にはならないようにつかず離れず周囲に皆待機していたのだ。 「犯人の捕縛を頑張るのです。 みな、諦めて降伏するのだぜ!」 もう既に皆戦闘体制だったから、怜は銃を覆面の男に向けて高らかに宣言。 バンダナの男は志体を持っていないのか、朱音に撃たれた一撃で泣き叫んでいた。 「無駄な抵抗はよすんだ。お前もシノビなら力量差はわかるだろう?」 村雨が依月を背に庇い、剣を構える。 次の瞬間、朱音の銃が火を吹き、弾丸が覆面男の頬を切り裂く。 覆面が取れたその顔にはありありと驚きの表情が浮かんでいる。 「気づかぬとでも思ったかのぉ? この場はレヴェリーに任されておるのじゃ。洗いざらいすべて話させるぞぇ。自害などさせぬわ」 村雨が覆面の男の両手を手拭で縛り上げて拘束すると、朱音は つかつかと覆面の男に恐れることなく歩み寄り、その口に小さな手を捻じ込む。 苦痛に歪んだ表情を見せたものの覆面の男は声を上げず、されるがまま。 「およ? まさかそれ毒薬なのかなっ」 朱音が強引に男の口から取り出した丸薬を見て怜が目を丸くする。 依月も同じ思いだった。 よもやまさか即座に自害しようとするとは。 「ふんっ。無抵抗の幼女を殴る様な輩じゃからのぉ。目的の為には手段を選ばぬじゃろうて。我らを見くびるでないわ」 『絶対に殺すことなく全てを聞き出して』 レヴェリーに頼まれていた事を朱音は思い出しながら、彼女を思う。 同時刻。 レヴェリーはミーリエと共にとある遊郭で敵のリーダーと対峙していた。 そこは、昼間のうちに怜と朱音が聞きだした敵の拠点。 万が一外れていた時の為に依月と朱音の囮作戦と、敵拠点襲撃を同時に実行したのだ。 「邪魔よ、退きなさい……!!」 かつてこれ程までに怒りを露にするレヴェリーがあっただろうか? 二丁拳銃を構えるリーダーに臆するどころか槍を構えたまま一歩も引かずに睨み合う。 周囲に集まってきた誘拐犯の仲間達はミーリエが手裏剣で片付けている。 「威勢が良いな、嬢ちゃん」 じりじりと二人の間に流れる空気が緊迫してゆく。 一体、いつまでそうしていた事だろう。 一瞬は永遠に、永遠は一瞬に。 そしてその時はきた。 「あの子を、これ以上傷つけさせはしないわ……っ!」 レヴェリーの怒りをそのまま具現化したような赤い槍がリーダーに向かって突き立てられる。 そして同時にリーダーの二丁拳銃がレヴェリーに向かって撃ち放たれる。 赤い穂先はリーダーの腕を貫き、弾丸はレヴェリーの銀の髪と脇腹を撃ち抜いた。 「レヴェリーちゃんっ?!」 叫んで駆け寄ろうとしたミーリエをレヴェリーは手で制す。 「こんなもの……どうってことないわ。……あの子の受けた苦しみに比べたら! さぁ、あの子はどこにいるの!」 荒い息のまま、レヴェリーは止血もせずに誘拐犯達に問う。 リーダーを失った烏合の衆は我先に逃げ出し、囮作戦を終えた村雨、依月、朱音、怜が駆けつける! 「酷い怪我なんだよっ」 依月が慌ててレヴェリーに治癒を施す。 「こっちだ!」 村雨が幼女好きの本能で部屋を見つけ出す。 薄暗いその部屋には縄で縛り上げられ、憔悴しきった月白の姿が! 「待たせて御免なさい、月白。助けに来たわよ」 自身も治療されたばかりだというのに、レヴェリーは慈愛の笑みを浮かべて月白を抱きしめる。 最初に月白を見つけたのは村雨だったが、何故か彼女に駆けよりはしなかった。 幼女が好きだからこそ、わかっているのだ。 普段なら「俺が月白ちゃんを抱っこするぜ〜!」と鼻息の荒くなる村雨だが、レヴェリーと月白を距離を置いて見守っている。 男性、特に月白を攫った男達となんら変わらない村雨に今触れられるのは辛いだろうと、レヴェリーが月白を抱かかえる。 ●反省してね? 大切な家族であり仲間なのだから……。 露甘楼に着くと、そこには女主人・カナリアを始め、朽黄と紗々芽、そして大勢の遊女達が月白の帰りを寝ずに待っていた。 店はもちろん閉めていた。 月白の姿を見て、カナリアは大粒の涙を零す。 「良かった……無事で……」 怒る事無くその場に泣き崩れるカナリアに、月白はもうどうしてよいかわからない。 「大事な『家族』を心配させたの。何を言うべきか、解るわよね?」 レヴェリーに促され、月白は深く頭を下げる。 月白は心配をかけたかったわけではなかったのだ。 確かに、父との思い出を一人で見たかったというのは事実だ。 だがそれ以上に、自分一人の思いつきで用心棒を連れて行くのが憚られたのだ。 行方不明事件もそうだが、ここは遊郭。 露甘楼が客を選ぶとはいえ、些細ないざこざから乱闘に発展する事もある。 そんな時、用心棒を月白が連れてでてしまえば露甘楼が手薄になってしまうのだ。 だからこそ、一人で出かけたのだが……。 カナリアの涙の前にはどんな言い訳も出来なかった。 「一件落着かな? 実は遊郭にとっても興味があるんだよね♪」 抱きしめあうカナリアと月白を見て、ミーリエがそんな事を言い出す。 「だよな、遊郭だもんなー。俺も幼女ハートが激しくてとまらないっ、むはーっ!」 村雨もいつもの調子を取り戻して遊女達に愛の目線を飛ばしまくる。 「おうおう、元気がいいなぁ。じゃあいっちょアタイが相手してやろうじゃないか」 くくっと笑って月白と同ランクの人気を誇る露甘楼の人気遊女・濡羽が村雨を誘う。 スレンダー美女に誘われた村雨はその場でスキップしだした。 「皆様には、こちらを……」 普段は自室の御簾の向こうからあまり出てこない香炉前が、お守りを皆に手渡す。 ジルベリア最北領・スウィートホワイトの鉱山で取れた鉱石を巫女が清め、香炉前が香を焚き染めながら手作りのお守り袋に詰めた物だとか。 「お? みんな、空を見るのだぜ!」 怜が気づき、空を指差す。 そこには、光のカーテンが。 満天の星空の中、淡く輝く緑の光が露甘楼と開拓者の皆の無事を祝うかのように揺らめいているのだった。 |