【玩弄】氷の城2
マスター名:霜月零
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/26 01:37



■オープニング本文

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 例えば、こんなオブジェはどうだろう?
 氷の城の中で、刹血華は氷晶球を見つめてイメージする。
 玩具を、開拓者を、一人ひとり一列に並べて、血と恐怖で綺麗に飾りつけて。
 その全てを凍らして。
 永遠に、飾り続ける。
 この氷の城の中で。
 それとも、一瞬の輝きを楽しむ為に、首をはねてしまおうか。
 ほら、例えばこんな風に。
 お気に入りの玩具達と、直接対峙するのを心待ちにする刹血華は、すっと指を指す。
 その瞬間、刹血華の前に控えていた配下のアヤカシが一体、吹き飛んだ。
 上半身を失い、氷の床に倒れ伏す配下を、刹血華はくすくすと楽しげに見つめる。
「お戯れを……」
 いま消された配下と、鏡に映したかのように同じ姿をしたアヤカシが、氷の瞳で微笑む。
 仲間が消されたというのに、少しも動じていない。
 片翼の翼を、2度、3度。
 ふるりと振るわせる。
 片翼で飛べもしないその翼は、よく見れば氷で出来ている。
 瘴気をまとった風が、床に倒れ伏すアヤカシに流れ込む。
「遊びたいのだもの」
 ふふっと笑う刹血華。
 そして。
 いままさに上半身を失っていたアヤカシが、動いた。
 ゆらりと立ち上がり、失ったはずの上半身は何事もなかったかのようにそこにある。
 二体のアヤカシは寄り添い、手を繋ぐ。
 片翼同士、そうして寄り添うと一対にみえた。
 纏う瘴気の色も同じく、二人の間を共有する。
「お前達は、わたくしを楽しませてくれるかしら」
 氷晶球を弄び、尋ねながら、刹血華の意識は目の前の配下にはない。
 いま彼女の心は、この城に招いた開拓者―― お気に入りの玩具達だけにある。
「最大限……喜ばせてご覧にいれましょう……」
 一対のアヤカシは、深く頭を垂れて刹血華の前を立ち去った。
 刹血華は、氷晶球に語りかける。

「ねぇ、お前達。わたくしの可愛いオモチャたち。わたくしを、楽しませて頂戴?」
 
  

 招かれた開拓者達は、光の灯る氷の階段を登りきる。
 氷で出来た豪奢な扉を、押し開く。
 そこは、大広間だった。
 八角形の空間は、舞踏会でも開けそうな広さだ。
 周囲の壁には氷光がランプのように等間隔で灯っている。
 見つめても怪しい点滅はなく、ただ光源としてそこにあるようだ。
 そして、等間隔であるのは氷光のランプだけではない。
 鏡だ。
 大きな姿見が一定間隔で壁に設置されている。
 壁だけではない。
 ストーンウォールのように、大広間を一定間隔で、けれど向きは複雑に設置されているのだ。
 八方の鏡が、そして無数の鏡が、開拓者達を映し出す。
 迂闊に踏み込まず、入り口で様子を覗う開拓者達。
 
 ふわりと。

 氷の羽が開拓者達の前に降って来る。
 羽毛のように、柔らかく。
 見上げた先には、二体の片翼の氷天使。
 ステンドグラスに彩られた天井から、舞い降りてくる。
 一体では飛べぬ彼女達は、お互いを支えるように抱きしめあい、開拓者達に冷たく微笑む。
 彼女達は同時に、開拓者達に攻撃を繰り出した。
 左翼の少女はダイヤモンドダストを。
 右翼の少女は、無数の氷刺弾を。
 ダイヤモンドダストは開拓者の視界と、動きを阻害し、氷刺弾は光の速さで開拓者達を貫いた。
 そして鏡。
 お互いを映したかのような姿をしている彼女達が鏡の大広間を移動すると、二体なのか一体なのか判断が鈍るのだ。
 さらに。
 何度斬りつけても、何度燃やし尽くそうとも、彼女達は再生するのだ。
 一体が傷を負っても、もう一体が回復魔法を使う様子はない。
 けれど、一瞬の時を得て、彼女達は二体に戻るのだ。
 クスクスと、主のように笑う彼女達。
 寄り添う二人に、開拓者達は突破口を見極めようと、一度大広間から階段に戻り、扉を閉めて時間を稼ぐ。



◆ホワイティア情報◆
 広場があった場所には、最近まで露店通りと奇術団による公演が毎日行われていました。
 ですが先日、町長の意向で場所移動をしており、事無きを得ています。
 開拓者ギルドがあり、ギルドには受付嬢深緋とマッチョ開拓者を中心として、氷の城付近の住民の避難誘導を開始しています。
 遊郭街には深緋の妹・朽黄がいます。
 遊郭・露甘楼に勤めており、露甘楼女主人を中心とし、食糧の配給協力や避難場所を提供しています。
 また、氷の城から離れた地域では、そのまま自宅で住民達は氷が解けるのを待ち続けています。
 ホワイティアでは冬に向けて蓄えをしていた為、食料や薪は十分にあります。
 数ヶ月は餓死や凍死の危険はありません。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
ジレディア(ib3828
15歳・女・魔
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
サイラス・グリフィン(ib6024
28歳・男・騎
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂


■リプレイ本文

●扉の向こう
「今度は『片翼の氷天使』ですか」
 ジレディア(ib3828)が開け放たれた広間の扉を遮るように、ストーンウォールを放つ。
 片翼の氷天使達が笑う声が聞こえる。
(随分と悪趣味なアヤカシもいたものだ)
 ジレディアのストーンウォールに守られながら、ラシュディア(ib0112)は耳を研ぎ澄ます。
 鏡に映したかのように、そっくりな容姿を持つアヤカシ。
 どれ程美しかろうと、不気味な事に変わりなく。
 ホワイティアの街で、避難の遅れた住民達を誘導してから駆けつけた彼は、ジレディアが無事な事に安堵していた。
 駆けつけるのが間に合ってよかったと。
 超越聴覚にて拾う音は多い。
 ジレディアの出現させた壁に突き刺さる無数の氷刺弾の音はもとより、ダイヤモンドダストの細やかな破片の音まで拾っていた。
 二つの音が止んだ瞬間が、反撃のチャンスだ。
「さあ、私達の戦争を始めましょう。許容も慈悲もなく、ただどちらかが倒れるまで」
 カチリと鳴らすジェーン・ドゥ(ib7955)の刀は、彼女の祖父が打った無名の刀。
 彼女と幾度となく死地を潜り抜けた刀は、今まで以上に彼女の手に馴染んだ。
 何度斬り付けても、何度倒しても息を吹き返し襲ってくる氷天使。
 果たして勝機はあるのか。
「相手の良い様にやられっぱなしでは話にならん。ぼちぼちご退場願おうか」
 ジェーンの隣では、サイラス・グリフィン(ib6024)がタイミングを計っている。
 広間に再侵入する前に皆とした相談。
『二体を同時に攻撃してみてはどうだろうか』
 そう最初に呟いたのは、竜哉(ia8037)だった。
 一体ずつ倒そうにも、決して倒れる事のない一対の氷天使。
 それを一体ではなく、同時に攻撃した場合はどうなるか。
 息の合った絶妙なタイミングと、技術が必須なこの作戦。
 その大任をこなすのは、ジェーンとサイラスだ。
「さて、どれが効果あるかわからぬが……全部試してみるしかなさそうじゃの。まったく厄介な相手じゃ。じゃが我が支援するのじゃから、存分に暴れてくるが良い!」
 高崎・朱音(ib5430)がストーンウォールの隙間から豪快に氷天使を狙撃する。
「いまだ、二人とも!」
 朱音の狙撃に一瞬攻撃の止まった二体の氷天使に、ラシュディアが叫ぶ。
 サイラスとジェーン、二人が目線で合図し、ストーンウォールから広間へと躍り出る! 
  

●思い出と、標的と
(ここまで被れば、いっそ笑えてしまうな)
 宝珠から加工された指輪を全ての指にはめ、竜哉は今までの事を思い出す。
 ダイスのピエロ、アイスライオン、回転木馬の騎士と虚実の歌姫。
 そしてそれらと戦う英雄の物語。
 その物語は竜哉の知る人物が書いたものだ。
 完成する事が無かったその絵本は、いまも完成を待っているのだろうか?
 もう二度と、手の届かないどこかで。
 ふっと。
 竜哉は口の端に笑みを乗せる。
 過去よりも、今この現実を。
 竜哉の指から放たれた鋼線が、広間の鏡に放たれた。
 闇を切り裂くかのようなその一閃は、サイラスとジェーンの動きを阻害する鏡を切り裂き消し去った。
 シャラシャラと崩れてゆく鏡の破片を踏み込んで、サイラスとジェーンが、それぞれの氷天使に向かい合う。
 ジェーンに降り注がれる氷刺弾を、彼女は急所のみを篭手で庇い、皮膚を切り裂くその痛みに耐えながらも接近し、避けさせない一撃を切り込む。
 そして同時にサイラスも、金色のオーラを纏い、ジレディアの放つストーンウォールを壁にしながらダイヤモンドダストをやり過ごし、目視できない素早い剣撃を繰り出した。
 二体、同時に。
 まるで鏡合わせの様に同じ場所に与えた傷。
 今までどちらかが傷つこうとも癒えてしまった氷天使の傷は、塞がらない。
 塞がらないのだ。
「種は明かされました。もう逃がしません」
 再びタイミングを合わせる為に、ジェーンとサイラスは一歩退き、ジレディアの作る壁に身を潜める。
『鏡合わせの様に同じ場所に傷を付けて欲しい』
 そう二人に提案したのも竜哉だ。 
 明かされた種に、竜哉は追撃を加える。
 無論、その鋼線がダメージを与えられないことはわかっている。
 ジェーンとサイラスが、剣と刀という切り口を同じに出来る武器を扱う二人が、同時に攻撃できるようにする為の援護だ。
「どこをみているんだか。敵はそっちだけじゃないんだからな」
 ラシュディアがその機敏な動きを最大限活用して、鏡の上から上に飛び移る。
 その指先から放たれる手裏剣は四連続で氷天使を翻弄する。
 手裏剣は氷天使の氷の肌を切り裂き、鏡を撃ち砕く。
(瘴気は、やはり一体からもう一体へ流れている……だが鏡に異変はないのか)
 竜哉は真実を写す片眼鏡を、漆黒の瞳を凝らして覗き込む。
 瘴気は二体の氷天使の間を共有し、流れる瘴気はお互いの傷を癒しているようだ。
 だが鏡に異変はみつからない。
 氷天使の姿を映し出し、その存在を惑わせるのみ。
「多少射程が足りなくともなんとかなるのじゃ。千響衆所属の我を舐めるではないわ!」
 皆の戦う中心点から、遠く離れたその場所で、朱音の純白の銃身が荒ぶる。
 ぎりぎりの射程、むしろ、僅かばかり足りないそれを補うのは呼吸。
 一糸乱れぬ呼吸は、命中力を高め、狙いを外す事がない。
「その羽、狙わせて貰うのじゃ。飛び立たせなぞせぬぞ」
 二体の氷天使は、一体では飛べもせぬのに、二体がそろうと舞い上がるのだ。
 お互いの失った羽を、補完しあうかのように。
 そのせいで、サイラスとジェーンが同時に浴びせれたのはまだ一撃のみ。
 だが片翼を一瞬でも失った今ならば。
「もう片方も失ってもらうよ」
「二度と飛べはしないでしょう」
 サイラスとジェーンが、再びオーラを纏わせて二対に挑む。
 ダイヤモンドダストの範囲に入らずにはいられないが、それでも動けないわけではない。
 行動を阻害されながらも同時に打ち下ろす刀と剣は、氷天使の翼を根元から切り落とす。
 砕け散る翼は、二度と元には戻らない。

『玩具の分際で……っ!』

 憎しみを込めた氷の瞳で、氷天使から放たれた氷刺弾は、サイラスとジェーンには避けれなかった。
 突き刺さる氷は、サイラスの、そしてジェーンの体中から血を流させる。
 痛みに屈する二人ではなかったが、動きを鈍らされた身体と、止めようもない出血は二人の体力を大きく奪い去る。
「それ以上はさせないよ」
 竜哉が自身に気を引くために、鏡を砕きながら氷天使の腕に鋼線を巻きつける。
 氷天使が追撃として放った氷刺弾は、大きく狙いを外して天井に突き刺さる。
 だがダイヤモンドダストはその場に放たれた。
「伏せてください!」
 ジレディアが叫び、氷天使と仲間達の間に再びストーンウォールを作り出す。
 そしてそれは、二体の氷天使の意識を、一気にジレディアに向けさせて――。


●最後の一撃
「どうしてっ……!」
 なにが起こったのか。
 一瞬の出来事だった。
 氷天使はジレディアを最大の敵とみなしたのか。
 迸る氷刺弾は無数に壁に突き刺さり突き崩し、ジレディアに放たれたのだ。
「……大丈夫、これぐらい」
 ジレディアをその肉体で盾となり、守りきったラシュディアは血塗れで笑う。
 かすり傷一つ、ジレディアにはついていないから。
 だから、微笑める。
 最愛の少女さえ無事なら、全身から血を流そうとも笑っていられる。
「許しませんっ! 許しはしません……っ!」
 怒りと涙を溢れさせながら、ジレディアの指先から稲妻が迸る。
 真っ直ぐに、ジレディアと氷天使を結ぶように放たれたそれは、本来なら無意味。
 だが、朱音の援護で傷を残した。
「弱点がわかれば後は倒すのみじゃ。このような遊びはさっさと終わらせるに限るの」
 ジレディアがアークブラストを撃ち放った瞬間、後方から全てを見渡していた朱音がタイミングを合わせて狙撃したのだ。
 無論、部位も合わせて。
「傷つけてはいけない相手を、傷つけたようだね」
 竜哉が止めを刺せるようにと、氷天使を鋼線で絡めとる。
 切り裂くだけのそれは、氷天使の傷が癒える事によってその体内に取り込ませ、二対の動きを阻害する。
「その瞳には、もう何も写させはしないよ」
「これで、全てを止めて見せます」
 サイラスと、ジェーン。
 最後も二人同時に踏み込んで。
 二人の剣は氷天使の眉間に深々と突き刺さる。
 絶叫を上げ、崩れてゆく氷天使。
 氷の破片はダイヤモンドダストのように散らばり、そして消え去った。


●最上階へ
 ステンドグラスに彩られた天井が、ゆっくりと開いてゆく。
 まるで、花が咲くように。
 輝く氷の階段が、花の中から降りてくる。
『登っておいで』と先へ誘うように。
「さて、そろそろ玩具は尽きたかの? 親玉が出てきても良さそうじゃが」
 にやりと笑い、天井を見上げる朱音。
 姿は見えずとも、そこにいるはずの刹血華。
 朱音達がそこに辿り着いた時、彼女はどんな顔をするのだろう。
(あれの思う様にはさせない、楽しませて等やるものか)
 サイラスは強く思う。
 もう十分、楽しんだはずの刹血華。
 その楽しみを止めるのはサイラス達だ。
「痛みますか?」
 ジレディアが紫の瞳に涙をためて、ラシュディアの傷口に止血剤を塗り込む。
「気にしないでジレディー。避け切れなかったのは俺の責任なんだから」
 ラシュディアはジレディアを守れたのだからと、心の中でだけ呟く。
 どれ程傷つけられようとも、ジレディアだけは守りきる。
 それは、いついかなる時でも決して変わりはしない。
 たとえ相手が、上級アヤカシであっても。
「血塗れですね」
 ジェーンは自身もそうだが、血塗れた仲間達の止血を始める。
 氷天使の攻撃は、即死よりもこちらの体力を奪うことが目的だったのか。
 一撃の威力よりも、全員の細かな傷による出血が激しいのだ。
 一つ一つの傷は大きくないというのに。
「俺達は人間だからね」
 ジェーンに止血剤を塗られ、包帯を巻かれる竜哉。
 手を握り、開く。
 痛みが完全に無くなる訳ではないが、少し休めばみな、回復するだろう。
 輝く階段に、氷光がふわりふわりと漂う。
 まるで休むのを待つとでも言いたげに。
 次で、きっと最後の戦いになる。
 皆で見上げる天井は、憎らしい程に美しく輝いていた。