【玩弄】氷の城1
マスター名:霜月零
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/18 11:31



■オープニング本文

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 その日。
 ジルベリア最北領スウィートホワイト首都ホワイティアは、恐怖と混乱に陥った。
 元露店通りの広場に、突如として氷の城が現れたのだ。
 そして城壁を越え、街を囲むように球状に出現した氷の壁。
 ホワイティアの街は、分厚い氷に覆われ、そこに住む人々は一瞬にして閉じ込められた。
 巨大なスノードームのようになった街の天辺から、塔のように突き出た城の最上階が見える。
 壁の破壊を試みるものもいたが、悉く失敗に終わった。
 物理攻撃はもちろんの事、魔法攻撃も通じなかったのだ。
 クスクス、クスクスと。
 楽しげな笑い声が町中に響き渡り、氷の城から粉雪と共に招待状が降り注ぐ。
 氷で出来た招待状には、城の内部地図と、ご丁寧にそれを作ったであろうモノの名前―― 刹血華の署名。

「ねぇ、お前達。可愛いオモチャたち。わたくしを、楽しませて頂戴?」

 氷の城と、氷の街と。
 一瞬にして作り上げる事は、上級アヤカシたる刹血華にとっても、容易ではなかった。
 ほぼ全ての練力を使い果たしたと言っていい。
 それでも、楽しめるなら些細な事だった。
 自らの住む最北の塔をでて、舞台に上がれと誘うオモチャ達の為に、刹血華はこの地に来たのだから。
 練力など、時間さえあればいくらでも回復する。
 街の住人を閉じ込めたから、当分餌にも困らない。
 大して空腹を感じてはいないから、今はまだ閉じ込めておくだけだけれど。
 人々が泣き叫び、恐怖する声は彼女の耳を楽します。
 だがそれ以上に、オモチャ達と遊ぶほうが楽しいのだ。
 城の一階と地下を繋ぎ迷宮とし、罠を張り巡らせた。
 二階は、自身の分身とも言えるアヤカシ達を。
 そしてここ、最上階にてまつ彼女。
 北の居住で傍に控えさせていたアヤカシは、全て城の内部に放った。
 逆らうもの、逃げようとするものは情け容赦なく一瞬にして消し去った。
 迷宮内の事は、氷晶球が無くとも手にとるようにわかる。
 城自体が、氷晶球のようなものだった。
「ねぇ、お前達。わたくしを楽しませて頂戴?」
 もう一度呟いて。
 刹血華は氷の椅子に腰掛けてその時を、待つ。


◆迷宮◆
 招待状に地図が明記されています。
 地図に嘘偽りはありません。
 迷宮への入り口は計3箇所。

A:門番=氷のミノタウロス
 上級アヤカシ一歩手前の中級アヤカシ。
 身長2m程度。
 牛の頭を持ち、筋骨隆々の人の肉体を持ったアヤカシです。
 もちろん、その体は氷で出来ています。
 手にするのはバトルアクス。
 巨大な斧です。
 特殊能力は超回復。
 凄まじい回復力と、HPの高さを誇ります。
 但し、素早さはそれほどではありません。
 二階へ至る階段を守っています。
 倒さずに隙をついて二階へ抜けても問題はありません。
 階段の幅は、4人がギリギリ同時に通れる程度です。


B:門番=無し
 門番たるアヤカシがいません。
 但し、迷宮が入り組んでおり、A、Cの入り口から進入するよりも多くの時間を要します。
 ですが確実に二階へと進むことが出来るでしょう。
 B地区内には、多数の氷晶球が浮かんでいます。
 触れると爆発するので注意。
 この地区に一番多くの罠が仕掛けられています。
 また、氷光(アイスライト)が無数に沸きます。
 一見、蛍のように光り輝く小さなアヤカシですが、一定数見続けていると強い幻覚作用が発生します。
 激しく点滅している氷光は攻撃的です。
 ゆっくりと点滅している氷光は此方から攻撃しない限り無害です。


C:門番=試練の扉
 文字通り、試練を科してくる扉です。
 アヤカシではありません。
 条件をクリアしない限り、扉は何をしても開きませんし、壊れません。
 扉は合計6回の条件を提示してきます。
 1回目:長剣による剣技。
 扉の周囲を点滅する氷晶球3個を、点滅に合わせて切り裂いてください。
 判定:攻撃。200以上で成功率UP

 2回目:回避
 一定数扉から放たれる氷の矢を、全て避けてください。
 矢の大きさは20cm程度。
 速度はまちまちです。
 楯や剣で防ぐ事は出来ますが、回避としてカウントされません。
 判定:回避。250以上で成功率UP

 3回目:魔法攻撃
 扉の前に次々と出現する氷の壁を魔法で撃破してください。
 判定:知覚。200以上で成功率UP

 4回目:命中
 扉から放たれる氷のプレートを全て撃破。
 魔法、物理、攻撃手段問わず。
 判定:命中。250以上で成功率UP

 5回目:防御
 扉から放たれる氷の礫に耐え切ってください。
 高い防御力があれば、耐え切れます。
 ですが一歩間違えば重態の危険が最も高い試練です。
 判定:防御。200以上で成功率UP

 6回目:扉を打て!
 扉との一騎打ちです。
 高い防御力を誇る扉ですが、渾身の一撃で撃破しましょう。
 判定:攻撃。300以上で成功率UP

◆注意◆
 どの入り口から進入してもOKです。
 プレイングに必ずどの入り口から進入するか明記して下さい。
 参加者様同士で別々の入り口を選んだ場合、それぞれ別の入り口から進入します。
 城の内部は区分けされている為、内部で合流は出来ません。
 例えばAの入り口から進入して、Bの地域に進入は出来ません。
 但し、途中で引き返して、再度、別の入り口から進入する事は出来ます。
 また、二階に辿りつけば合流出来ます。
 


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ジレディア(ib3828
15歳・女・魔
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
サイラス・グリフィン(ib6024
28歳・男・騎
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂


■リプレイ本文

●氷の城へ
「まさか街中に堂々と現れるとはのぉ。ここまで派手な招待を受けたらいかねばならぬの」
 遊郭街の露甘楼。
 そこから高崎・朱音(ib5430)が見上げる先には、氷に覆われた空と、その氷を突き抜けてそびえる城。
 朱音のその手には、刹血華からの招待状がある。
 いってしまうのかと不安気に問いかける朽黄に、朱音は不適に笑う。
「主らも十分注意するがよい。ま、我等がさっさと終わらしてくるから大丈夫じゃと思うがの? それでも終わらせるまでは何があるかわからぬしのぉ」
 大丈夫だと、安心させるように朱音は朽黄をなでる。
 朽黄のほうが幾分背が高いから、朱音は少し背伸び気味だ。
「……無事に戻らなかったら、許さない」
 一見無表情な遊女仲間の月白も、口調こそ冷静だがその瞳には強い不安が見て取れる。
 朱音はもう一度二人に大丈夫じゃと笑い、氷の城へと走り出す。


「漸く黒幕の登場……か」
 相も変らぬ悪趣味さに、サイラス・グリフィン(ib6024)はため息を漏らす。
 なぜに玩具たる自分達だけでなく、街の人々まで巻き込むのか。
 そしてサイラスは、街の人々への被害がまだ出ていないことにほっともする。
 アヤカシが街に放たれたりしていないのは、サイラス達を刹血華が待っているからだろう。
 もっとも、この事件が長引けば冬の為の蓄えが損なわれるのは明白。
 刹血華のお遊びに終止符を打つ為にも、人々を解放するためにも。
 サイラスはカフィーヤをお守り代わりに腕に巻き、招待状と共に城へ向かう。


「お願いがあります」
 ホワイティアのギルド受付で、ジェーン・ドゥ(ib7955)は受付嬢・深緋と向き合う。
 ギルドでは、ジェーン達と同じようにこの街に既に閉じ込められた開拓者と共に、一般人の避難誘導手配をしていた。
「立ち寄ってもらえて嬉しいわよぅ。用があるのは、これでしょう?」
 ジェーンの真剣な眼差しを受け止めて、深緋は大量の薬や包帯、そして梵露丸を取り出す。
「もうご準備いただいていたのですね」
「まぁね。あの女の討伐、任せたわよぅ? じゃないと、新作の簪買いにいけないのよね」
 ふふっと笑い、本気なのか冗談なのか深緋はそんなことを言う。
「この街の人々を救う為にも、必ず」
 ジェーンは受け取った薬を確認する。
 これだけあれば、使うタイミングさえ間違わなければ、練力切れも起こさずに済むだろう。
 深く礼をして、ジェーンは開拓者ギルドを後にした。


「ほとんど時間をかける事無く、これだけのモノを現出させるとは一体どれほどの……」
 氷の街に閉じ込められたジレディア(ib3828)は、無意識のままに懐に手を当てる。
 そこには、最愛の人から贈られた指輪が。
 決して無くしたくなくて、指からはずしてそこに入れたのだ。
 最愛の人と、いつも心が繋がっていられるように。
 ジレディアは、きゅっと唇を引き締める。
 いま、守ってくれる最愛の人は傍にいない。
 粉雪と共に贈られてしまった招待状を手に、ジレディアは氷の城へと歩んで行く。


「よっ! 久しぶり。ずいぶん厄介なことになっちゃったね」
 ホワイティアの道端で、水鏡 絵梨乃(ia0191)は古酒を片手に手を振る。
 その先には、旧知の仲の竜哉(ia8037)だ。
「相変わらずだな。急ごうか」
 頼もしい友人を、竜哉は促す。
 彼女の手にも竜哉の手にも、氷の招待状が握られている。
 ならば行き先は同じ。
 二人、氷の城へ走り出す。
 絵梨乃の下駄が石畳を蹴り、高らかな音を立てる。
「氷の城か。ボクの好奇心がビンビンに刺激されるよ。ついでに危険すぎるって第六感が叫んでる」
「引き返すか」
「ありえないね」
「判っている」
 軽口を交わしながら二人が城の前にたどり着くと、そこには、既に仲間達が。
「それじゃま、皆城攻めに行こうか?」
 竜哉に頷いて。
 六人は、氷の城の扉を押し開ける。


●試練の扉
 第一の試練。挑戦者サイラス。
 今日の彼は、ロングソードのみを携えていた。
 二刀流が主の彼にしては、珍しい事。
 ロングソードを両手に持ち、試練を語る扉と向き合う。
 彼の髪の色とよく似たその刀身は、周囲を囲む氷の輝きを受けてより一層眩しさを放つ。
「いつでも準備は出来ている」
 サイラスの緑の目が、扉から出現した三つの氷晶球を凝視する。
 まずは、左。
 輝いた瞬間、サイラスの剣が切り裂く。
 次は、中央。
 これも、問題ない。
 右に、左に。
 氷晶球が光を灯すが、サイラスは惑うことなくこれを的確に切り裂いてゆく。
 見守る仲間達からみても、余裕が見えた。
 だが、次の瞬間、見ていたジレディアは息を呑んだ。
 氷晶球が三つ同時に輝いたのだ。
 ゆっくりと輝いていた今までとは明らかに違うその輝きに、けれどサイラスは動じない。
「問題ないね」
 サイラスは剣を横薙ぎに走らす。
 氷の乙女の瞳を、切り裂いた時と同じように。
 三つの氷晶球が砕け散り、歓声が沸き起こった。

 
 第二の試練。
 それを受けるのは絵梨乃だ。
「攻撃を避けるのには自信があるよ」
 古酒を煽り、絵梨乃は片手で口元を拭う。
 回避だけでなく、全てに自信を持てる実力者である彼女は、けれど決して油断しなかった。
 無数に思える氷の矢が、扉の前方に出現する。
 次々と飛来するそれは、絵梨乃が今いた床に突き刺さるばかり。
 絵梨乃には触れられもしない。
 下駄の音が氷の床を蹴り、小気味よいダンスの様に曲を奏でる。
「それで、終わりだね!」
 絵梨乃が最後の矢を掴む。
 だが次の瞬間、矢が細かい小さな矢を撃ち放ち、絵梨乃を貫いた。
 回避以外は、許さない。
 そんな刹血華の意思を反映したかのような、汚い不意打ち。
「やってくれるね……! 修行に比べれば、こんなの朝飯前だ」
 たいした怪我ではなかった。
 絵梨乃は手に残る氷の矢をパキリと砕いた。


 第三の試練。
「試練の扉、ですか」
 真鍮製の杖を掲げ、幼いジレディアはけれど一歩も引かずに扉と対峙する。
 扉の前方に、氷の壁が出現する。
 ジレディアは冷静に、氷の変化を見続ける。
「風の精霊達よ、この指先に集い踊り、敵を滅せよ……サンダー!」
 杖が激しく振動し、稲妻がその先端から迸る。
 稲妻は氷の壁のわずかな隙間も見逃さず、その中心を貫いてゆく。
 徐々に、徐々に距離を詰めて出現する氷の壁は、段々と速度を増してゆく。
(あいつがいない今、彼女は俺が守りきる)
 サイラスは、いつでもジレディアの身代わりとなれるよう、距離を詰める。
 だがそれは懸念だった。
 ジレディアは決して怯まず、そしてその知覚力は群を抜く。
「そんなことは、させません!」
 出現するだけではなく、開拓者達全員を押しつぶすかのように倒れこんできた氷の壁に、ジレディアから迸る炎が一直線にうねりを上げる。
 砕け散った氷が、祝福のようにジレディアに降り注いだ。


 第四の試練。
「アレに当てればよいのじゃろ?? ならば我が行かせて貰うのじゃ」
 扉の前に次々と出現した氷のプレートに、朱音が頷く。
「我と対峙出来る事を誇るがいい」
 朱音のマスケットが激しく弾丸を撃ち放つ。
 次々と現れるプレートは、けれど出現した瞬間に撃ち抜かれてゆくものだから、周囲は蒸発した氷の蒸気で溢れた。
「砲術士小隊隊員としてはそうそう外すわけには行かぬ。我の力の見せ時じゃしの」
 砲術士のみで構成される、千響衆に所属する朱音ならではの言葉だ。
「ふ、この程度ならどうということはないの。残りは任せるのじゃ」
 マスケットから銃架「金輪」に持ち替えて、最後の一撃を放った朱音。
 もとより避ける気も外す気もなかったようだ。
 悠然と銃口を吹く彼女の辞書に、敗北の二文字はない。


 第五の試練。
 それは、この試練の中でもっとも辛い物だろう。
 避けることを許されず、ただその肉体のみで攻撃を耐え続けなければならないのだから。
 この試練に名乗りを上げたのは、竜哉だった。
「全員、範囲外に退避してくれ」
 避けるつもりも逃げる気もない竜哉だったが、万が一に備えて皆に促す。
 サイラスがジレディアをさり気なく背に庇う。
 扉の正面に立つ竜哉。
 その身体に、一つ、二つ。
 小さな礫が飛んでくる。
 竜哉はそれを楯で受け流す。
 三つ、四つ。
 少し大きくなったそれは、速度を増す。
 竜哉の端正な顔を、礫が掠めてゆく。
「三番結線―― 是・王之盾――」
 竜哉が低く呟く。
 瞬間、彼の周囲にオーラの障壁が出現、無数に飛来し始めた礫を弾く。
 次々と飛来するそれを障壁で何度も防ぎながら、竜哉は耐え切った。
 こめかみに脂汗が滲む。

 第六の試練。
「手の内は既にご存知だと思いますが。それでも尚、我々の力が見たいというのであれば、お見せしましょう」
 刀を抜き、ジェーンはすっと意識を引き締める。
 ここまでの試練で、彼女は常に扉を見続けていた。
 大量のオーラが彼女を包む。
 そして――。
「貴方の好きにはさせません!」
 渾身の一撃が、試練の扉の上部を貫く。
 刀を中心にヒビが走り、ヒビは円を描いて細かく扉を砕ききる。
 崩れる扉のその先には、氷の階段が上に向かって真っ直ぐに伸びていた。
 

●階段のその先へ
「さて、後は奥へと進むだけかの? 罠やら敵やらまだいそうではあるが……そこは気をつけるしかないかのぉ。罠には引っかからないようにせねば」
 試練の扉を抜けると、そこには氷の階段が続いていた。
「上に向かう前に、治療を済ませてしまいましょう。深緋様からこちらを預かりました」
 ジェーンが治療器具を広げる。
 無傷の者は少ないが、重体者もいない。
 周囲にアヤカシの気配はなく、治療時間は十分にあるだろう。
「お、お酒もあるんだ。もーらいっ♪」
 絵梨乃が嬉々としてお酒を受け取る。
 氷の矢を受けた身体は薬よりもお酒を欲しているようだ。
「絵梨乃、ヴォトカでよければ、こちらにも」
 サイラスが、嬉しそうにお酒を煽る絵梨乃にヴォトカも勧める。
「そんなに飲んだら酔っちゃうよ」
 絵梨乃はそういってヴォトカを受け取るが、いまだかつてどんなに彼女に飲ませても、彼女が完全に酔う姿を見たものはいないだろう。
 それほど、彼女はお酒を飲みなれているのだから。
 氷の階段に明かりが一段一段灯ってゆく。
 開拓者達に、早く上っておいでと誘っているかのように。
「ちゃんと待っているといい、最期までの楽しみの為にね」
 ジェーンに治療を施されながら、竜哉は階段に、そしてそれをしている刹血華に視線を流す。
 そしてジレディアは。
「見ているのでしょう? 刹血華。いいでしょう。あなたのゲームに付き合ってあげます」
 懐に入れた指輪を服の上から押さえ、ジレディアは上空を見上げる。
 その先には、氷の天井。
 その更に上空に、彼女彼らを招いた上級アヤカシ刹血華がいる。
「今の内に得意がっていればいい。……勝つのは私達です!」
 高らかに宣言し、ジレディアはきゅっと指輪を握り締める。
 必ず、あの人の元に返ると胸に誓って。