Ψ喜びの歌姫Ψ
マスター名:霜月零
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/07 22:10



■オープニング本文

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 ソレに良く似た姿となった氷の乙女像は、高らかに歌い続ける。
 氷の乙女が歌うと、駿馬が、馬車が、騎士が輝く。
「嫌な歌声だね。いつまでも聞いている義理はないよ?」
 黒髪の騎士が宣言し、アヤカシに癒された身体を最大限に利用し、氷の乙女像に斬りかかる。
 だが氷の駿馬に乗った騎士が邪魔をする。
「無粋なやから達じゃのぅ? もう出番はとうに終わっているぞぇ!」
 黒い猫耳を大きく震わせ、艶やかな少女は派手な砲撃で迎撃する。
「どんな敵でも、ひくことはしないよ」
 金髪の青年は最愛の少女を守りながら、手裏剣を放つ。
「その口は閉じて頂きます」
 そして冷静沈着な金髪の騎士は吹雪を吐く馬車の窓に剣を付きたてた。
 無機物のそれは付き立てられた剣に痛みは感じず、けれど吐き出す吹雪が弱まった。
「飽きもせずに吹雪を吐き続けるとは邪魔臭いな」
 カフィーヤで吹雪を払い、一瞬晴れた視界から一気に馬車との間合いを詰め、馬車を引く馬の足を剣で砕く。
 だが馬車は騎乗騎士と違い馬が引いているように見えるだけで実際は馬がなくとも動くのだろう。
 砕かれた足を引きずることもなく馬車は一際大きくその場で回り、特大の吹雪を開拓者達に向かって撃ち放つ。
 放たれた吹雪は180度前面に広がり開拓者達の視界を、体力を奪ってゆく。
「守られているばかりではありません……」
 魔法使いの少女はファイヤーボールを騎乗騎士に向かって発動する。
 炎の固まりをその身で受けた騎乗騎士の鎧が溶け、腕が崩れた。
 だが氷の乙女像がその姿に似合わぬ優しげな曲調を口ずさむと取れかかった騎乗騎士の腕が元に戻った。
 但し、まだ溶けたままだ。
 優しげな歌は騎乗騎士だけでなく、馬車の砕かれた足をもじわりと回復してゆく。
「人すらも治せるのだから、その配下がアヤカシを癒せるのもまた必然か?」
 黒髪の騎士がこの目の前のアヤカシどもの黒幕に癒されたように、姿を模した氷の乙女像もまた、回復能力を持っているようだ。
 ただ、黒幕と違って瞬時に癒すことは出来ないようだが。
 開拓者達は休む間もなく戦いを繰り広げる。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
ジレディア(ib3828
15歳・女・魔
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
サイラス・グリフィン(ib6024
28歳・男・騎
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂


■リプレイ本文

●戦場はそのままに
 歌う氷の乙女とそれを守るように立ち塞がるアヤカシ達。
 竜哉(ia8037)は真っ直ぐに腕を空に伸ばして叫ぶ。
「戦場の儀礼に則り、最高の敬意を払わせて貰う。WKMT! 最強の武器をこの手に!」
 竜哉の叫びに呼応して、大空から甲龍・ WKMTが現れた。
 彼と常に行動を共にし、彼が望むことを理解したWKMTは、自らに預けられた武器の中から竜哉のその手に斬竜刀・『天墜』を落とした。
 そしてくるりと竜哉の頭上を一回だけ回り、少しだけ巻き舌のように思える特徴的な鳴き声を残し、WKMTは即座に戦場を離脱する。
(まずは騎乗騎士、その後に馬車といった感じだな)
 馬車の吹雪を鬱陶しげに払いのけ、サイラス・グリフィン(ib6024)は太陽を思わせる金色のオーラをまとい、騎乗騎士の前に立ちはだかる。
 氷の駿馬に乗った氷の騎士はそんな挑戦的なサイラスをどうみたか――。
 高らかに嘶く氷の駿馬は大地を大きく蹴り、一直線に突進を繰り出し、騎乗する騎士は渾身の力で剣を構える。
 突進してくるそれにサイラスは避けず、その馬の足に狙いを定めた。
 避けようと思えば避けれたのかもしれない。
 だがサイラスは自身の身の安全より速度を取った。
 多少の被害よりも、即座の殲滅。
 オーラに包まれたサイラスの体がさらに輝き、オーラの流れに金の髪が逆立った。
 全身のオーラがマインゴーシュに流れ込み、その先端からオーラが砲弾のように氷の駿馬の足目掛けて放たれる。
 金色の弾丸は真っ直ぐに駿馬の足を貫き砕いた。
 足を崩された騎乗騎士は大きくバランスを崩し、その氷の剣はサイラスの髪をたった一房削いだに過ぎない。
 さらりとした金髪が舞い散った。
 氷の乙女像が優しい歌を紡ぎだす。
「回復しますか。ですが全てが砕ければそれもままならないでしょう」
 乙女の歌声に治癒されかけた駿馬の足に、ジェーン・ドゥ(ib7955)が一気に間合いを詰め、得意の接近戦で分厚い刃が叩きつける。
 駿馬の前足は治る事無く砕け散り、片足を失った駿馬はその場に倒れ付した。
 その背から投げ出された騎士はゆらりと立ち上がり、盾を構える。
「さて、面倒なものはなくなったし、ここからが本番じゃの。さっさと悪趣味な遊園地は閉園して貰うのじゃ」
 一癖も二癖もあるアヤカシの一団の中にいるというのに、高崎・朱音(ib5430)はどこまでも楽しげだ。
 彼女の構えるマスケットから放たれる銃弾も楽しげに爆ぜ、敵を貫く。
(なんだか厄介な事に巻き込まれたような……?)
 たまたま今日この日にこの場所に居合わせてしまったのが運のつき。
 よりによって上級アヤカシ絡みの事件に巻き込まれてしまったラシュディア(ib0112)は、心の中で冷や汗をかきつつ、最愛の少女・ジレディア(ib3828)を背に庇いながら周囲の動きに目を配る。
 駿馬の足を砕いたサイラスに向かうもう一体の騎乗騎士に、即座にクナイを投げてその行動を阻害する。
 ジレディアが傍にいる今、あまり敵の注目を集める事は得策ではない。
 ラシュディアが注目を集める分、ジレディアにも危険が及ぶ可能性は高くなる。
 だが偶然この場に居合わせたとはいえ仲間を見捨てるなどという行動はありえない。
 ラシュディアは覚悟を決めて、ジレディアを気にかけつつも自らに攻撃を繰り出す敵の動きを難なく避け、仲間に向かう敵の攻撃進路を次々と妨害してゆく。
「本物を壊したのですから、ゲームは終わりではないのですか?」
 ラシュディアに妨害され、進行方向を狂わされた騎乗騎士にジレディアはフローズを放つ。
 ソレが聞いていたなら楽しげに笑うであろう挑発を口にしながら、次々と生み出すフローズで敵の動きを遅れさせる。
 急に速度をずらされて仲間に激突する馬車、視界を部分的に遮られる氷の乙女、俊敏な動きこそが要のはずの鈍間な駿馬。
 馬車は無意味に吹雪を吐き出す。
 そして騎乗騎士はサイラスから竜哉に狙いを変え、突進突撃を繰り出す!
「唯一太刀に、天すら墜とす意をこめ……断ち切る!」
 竜哉は練力を下半身に込め、真っ向から迎え撃つ!
 自身の力と騎乗騎士の突進力。
 それが正面からぶつかり合い相乗効果を高め、剣と剣のぶつかる音が激しく響く!
 竜哉が踏みとどまる足元周辺の石畳が凹み、砕ける。
 一瞬の攻防は、234mという長さを誇る天墜が、騎乗騎士を真っ二つに叩き斬るという現実で幕を閉じた。
 壮絶な亀裂音を響かせながら砕けてゆく氷の騎士と氷の駿馬は、視界を妨げられながらも歌う歌姫の癒しの声でも癒しきれない。
 一際大きな悲鳴にも似た裂音と紫の瘴気が周囲に響き消え去った。


●氷のメリーゴーランド
 歌姫の歌が、今までの優しげな声から攻撃的な曲調に代わる。
 アヤカシ達の氷の体が赤く輝いた。
 駿馬は嘶き、馬車は激しく暴れだす。
「攻撃力強化か、バーサクでしょうか。どちらにせよその一撃を受けるのは得策とは思えません」
 歌の変化と共に様子の変わった騎士の、盾の構えを解いたその剣を、ジェーンは太刀で受けずに流す。
 流された騎士の剣は最初の勢いを失っているにもかかわらず、街路樹を一撃で破壊する。
 そして吹雪で騎士を援護しようとする馬車は、ジレディアが止めた。
「助勢などさせません」
 激しい吹雪を、自らが生み出す炎で止めたジレディアは、続けてサンダーを撃ち放つ。
 聖杖「ウンシュルト」が震え、迸る電撃は炎で溶けた馬車の身体を貫いた。
 馬のような嘶きと、不快な機械音を響かせて赤く燃える馬車は一際大きく回転した。
 吹き付ける吹雪が雹を混じらせ、ジレディアに吹き荒れる!!!
「ジレディー!」 
 避けきれない彼女にラシュディアが一瞬でその傍に駆け、抱き飛ぶ。
 90℃コーンの吹雪の範囲から完全に逃げ切れるものではなかったが、直撃を免れただけでもましだろう。
 凍てつく氷の礫がラシュディアの肌を裂くが、ジレディアには髪一筋ほどの傷すら付いていないのは流石。
 範囲内にいた竜哉は、剣を地面に突き立て身を屈め吹き飛ばされるのを留まり、ジェーンは側面からの車輪部破壊を試みる。
 吹雪の死角から放ったジェーンの太刀は、馬車の車輪を吹っ飛ばす。
 そしてジレディアを抱きかかえながら、ラシュディアは暴れる馬車に手裏剣を放つ。
 馬車の額ともいえる中心部に突き刺さるそれは、皆が与えたダメージに加算されて止めを刺す。
「ジレディーに触れさせはしないよ」
 抱きかかえていた彼女を一瞬だけ地面に降ろし、ラシュディアは屈んでその背に乗るようジレディアを促す。
 一瞬真っ赤になったジレディアは、だが即座に羞恥心を押し殺し、ラシュディアの背に身体を預ける。
 今は恥ずかしがる時間などないのだ。
(盾となるぐらいしか出来ないが)
 ジレディアを背負って戦闘を続けるラシュディアを、サイラスは懸念する。
 もともとジレディアは小柄だし、華奢で愛らしい。
 シノビの機敏なラシュディアなら彼女を抱えての戦闘も、サイラスがみたところそれほど負担にはならないように思える。
 それでも人一人背負って戦う事に違いはなく、いつでもラシュディアを補佐できるように、サイラスは立ち位置をつねにラシュディアを視界に納めれるように動く。
「どうせならもっと我を楽しませるものをしてくれればよいものを。とりあえず援護はするから、遠慮せず戦うがよい。ま、遠慮なぞ誰もせぬか」
 敵が吹雪なら、こちらは銃弾の雨といわんばかり。
 朱音の銃撃は止まる事無く吹雪を突きぬけ、アヤカシ共の身体に無数の弾丸が埋まってゆく。
 中でも片足を失っていた駿馬のダメージはその姿を完全に破壊するほど。
 ジレディアによる再度のフローズで動きを阻害され、歌姫の癒しの歌もその身に埋まった無数の弾丸の前には無意味な念仏だった。


●時よ止まれ
 乙女像の取り巻きの数は既に半数を切った。
 残る取り巻きも皆、無傷たりえない。
 そして無意味な攻撃を止め、乙女像の守りに入る。
 歌い続ける乙女像の赤い瞳が開拓者達を憎憎しげに睨み付けた。
 そんな歌姫の顔面目掛けてファイヤーボールを撃ち放つのはジレディアだ。
 取り巻き達が炎に溶けるのであれば、その中心の乙女像も同じように火に溶けるのではないか――。
 だが歌姫はその顔面への攻撃を自らの手で受け止める。
 胸の前で組んでいた両手は動かせないわけではなかったようだ。
 そして炎によるダメージはその腕を溶かすが、痛みを感じる事はないのだろう。
 乙女像が即座に光り輝き、ジレディアに、そして彼女を背負うラシュディアに放たれる。
「効果があるかは賭けになりますが『光』という属性をもつなら……」
 懐にしまっておいた銀の手鏡を即座に取り出し、ジレディアは光の反射を試みる。
 だがジレディアを包み込む光は一筋ではない。
 手鏡に収まる量ではなく、また、ただの光ではないそれには反射という概念はなかったのかもしれない。
 ラシュディアはその背中で石のように固まってしまったジレディアを背負ったまま、石畳を蹴りつけ全力で氷の乙女像から離れる。
「彼が動けるという事は、乙女像の光は浴びたもの全てを止めるのではなく、あくまで自身を攻撃したものに対してのみ有効のようですね」
 変化を常に気にかけていたジェーンが気づく。
「私はまだ戦えます……っ!」
 手鏡を構えた形のまま、動けなくなったジレディアは唯一動く口から叫ぶ。
 口さえ動かせれば、スキルは使えるのだ。
「俺が騎士を押さえるよ」
 ジレディアを狙って襲ってくる騎士の前に、サイラスが立ち塞がる。
 騎士の氷の剣をマインゴーシュで受け、ガラティンで騎士の首を払う。
 人であるなら血しぶきが舞い散るであろうそれは、氷の欠片を撒き散らし瘴気と化す。
 乙女像の歌声が再び変わり、馬車が黄緑色に輝いた。
「ち、ちょこまかと動きでないわ! 狙いをつけるのが面倒になるではないか」
 自身も決して同じ場所に立ち止まりはしないというのに、朱音は残る馬車に悪態をつく。
 吹雪よりも多いのではないかと思われる銃弾は、狙わずとも外れる事無く貫き続ける。
「その動きは危険です。止めさせて頂きます」
 ジェーンがとどめの一撃を馬車に放った。
 残るは乙女像、唯一つ。
 竜哉の剣が乙女像の首を貫き、ジレディアの炎が焼き払い、朱音の銃弾が、サイラスの剣が、ラシュディアの手裏剣が、ジェーンの太刀が。
 開拓者達の全ての武器が乙女像を消し去った。


●招待への道を探して
「やれやれ、大元を叩かぬとまた来そうじゃが……ま、今回は終わりじゃの。さっさと片付けを終わらせて町の観光を再開するのじゃ」
 銃を背負いなおし、朱音は周囲を見回す。
 朱音達が迅速にアヤカシを撃破した事により周囲に被害はないようだ。
 これならすぐに観光を再開できるだろう。
(我々を玩具として見ているうちに、根城としている場所に招待される方法も考えなければなりませんね)
 ジェーンは無銘業物「千一」をカチリと鞘に収め、赤い組紐をキュッと結ぶ。
 遊びたがるソレが開拓者達を玩具として下に見ている隙に、その根城に乗り込む。
 居城もわからず本気になられれば、開拓者の被害はもちろんのこと、一般人への被害も甚大となるだろう。
 ソレが油断している今がチャンスなのだ。
「なんにせよ、情報を集める必要がありますか」
 ジェーンの呟きに、ラシュディアも頷く。
「今後の事もあるし、伝承とか文献とかギルド経由で漁りたいものだね。何かしら、今後の攻略のヒントにつながるものがあればいいんだけども」
 ギルドには、今までの氷のアヤカシに関する情報はもちろんの事、被害にあった街の事など黒幕への手がかりが必ずあるはずだ。
「それより、そろそろ降ろしてもいいんじゃないか?」
 サイラスがにやりと笑い、ラシュディアの背に目線を向ける。
「そうですよ、心配しすぎです!」
 サイラスの緑の瞳に微笑まれたジレディアは、真っ赤になってラシュディアの背から慌てて降りた。
 本当は、もっと乗っていてもよかったのかもしれないけれど。
 そっぽを向いている彼女の右手は、しっかりとラシュディアの手を繋いでいるままなのだから。
 だが当のラシュディアは、ジレディア以上に真っ赤になって「いや、違うんだっ、これはそのつまりあのっ」と言葉にならなくなっている。
 そして、竜哉は。
「次は、貴女もこの舞台に上がってくるといい」
 突き抜ける青さと、ほんの少しの冷気を漂わす北の空を本能的に見上げ、ソレに向かって呟いた。