Ψ嘆きの回転木馬Ψ
マスター名:霜月零
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/06 02:02



■オープニング本文

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「みんな、これを壊すのが好きなのねぇ?」
 くるくる。
 くるくる。
 細く長い指先で、ソレはくすくすと笑いながら氷晶球を弄ぶ。
 自分の部下が、玩具がまた一つ壊されたというのに上機嫌だ。
 血染めのカフィーヤすらその手に戻ることは無かったというのに。
 唯一惜しむらくは最後まで見れなかったこと。
 数個の氷晶球はソレが回す度に数が増え、無数に空を漂った。
「そんなに壊したいなら、沢山用意してあげるわ。壊したいんでしょう。ねぇ?」
 くすくす。
 くすくす。
 残忍さの滲む子供の声で、ソレは笑い続ける。
 本当はわかっているのだ。
 開拓者達の真意を。
 けれどあえてそれは口にせず、ソレは部下を、玩具を手招きする。
「お前はちゃんと最後まで、わたくしに観せてくれるわよね?」
 ソレの問いかけに、部下は姿を変える。
 きらきらとシャンデリアのようにまぶしい光を放ち、氷で出来た乙女の像を中心にいくつもの乗り物が円を描いて回り始める。
 二人乗り用の馬車、スラリとした肢体の駿馬。
 馬車を守るように立つ氷の騎士。
 その周囲にはいくつもの氷晶球がきらきらと輝きながら浮遊する。
「ねぇ、お前達。わたくしの可愛いおもちゃ達。わたくしを、もっと楽しませて頂戴?」
 ソレに頷いて、氷のメリーゴーランドは飛び立った。


 ジルベリア最北領・スウィートホワイト首都ホワイティア。
 その広間に突如現れた氷のメリーゴーランドに人々は悲鳴を上げる。
 きらきらと輝くそれに子供達は瞳を輝かすが、大人達が全力で子供達を抱きかかえその場を逃げさる。
 そしてそれは賢明な判断だった。
 一瞬で無人となった広場で、メリーゴーランドは歌を奏でだす。
 

♪あの方の為に 叫んでおくれ
                悲鳴の歌声 血の宴
           氷晶球は 壊しておくれ あの方もそれを望んでる♪

 無数の中から 真実ひとつ
           一つ壊せば駿馬が暴れだす 二つ壊せば馬車が踊る
                      三つ壊せば誰かが生贄 壊すごとに悲鳴が響く
           生贄は多ければ多いほど 奏でる悲鳴は心地よい♪
 生贄決めたら 覚悟を決めて 
           たった一つの真実が壊れたら
                      貴方が私を呼び覚ます♪
 逃げてもいいの 街も消えるの
           輝く光は貴方を止める
                荒ぶる馬は直線に 躍る馬車はくるくると♪
 蹄は大きく高らかに 鬣からは氷の針を
                回る馬車は吹雪と共に 守る騎士は剣を掲げる
 私はここで待っている 歌い踊り輝きながら
                           悲鳴を上げる玩具達を♪



■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
ジレディア(ib3828
15歳・女・魔
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
サイラス・グリフィン(ib6024
28歳・男・騎
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂


■リプレイ本文

●質問はお手柔らかに
 メリーゴーランドを思わせるアヤカシ出現。
 その報を聞いて駆けつけたのは、竜哉(ia8037)、ラシュディア(ib0112)、ジレディア(ib3828)、高崎・朱音(ib5430)、サイラス・グリフィン(ib6024)、ジェーン・ドゥ(ib7955)の六名。
 だがラシュディアとジレディアは駆けつけたというよりは巻き込まれたといったほうが正しいだろう。
 二人で露店に買い物に来ていただけなのだから。
(厄介なものに巻き込まれたけど……これを放って置く訳には行かないな)
 ジレディアに下がっておいてと指示し、ラシュディアは一歩前に進み出る。
 アヤカシたるメリーゴーランドは氷の乙女を中心に駿馬と馬車、それに騎士が歌に合わせて回転し続けている。
 そしてその周囲には無数に浮かぶ氷晶球。
「ピエロの言葉が思い出されますね。ゲームだと」
 この広場に最初に現れた氷のピエロを思い出し、ジェーンは無銘業物「千一」を紐解いた。
 氷のアヤカシに遭遇するのはこれで三回目だ。
 もはや偶然などでは決してありえないその状況に、三体のアヤカシの背後に居るであろう黒幕に思いを馳せる。
「毎度毎度……こうも相性の悪そうな相手ばかり寄越しやがって。趣味の悪い遊びが好きなことだな」
 ジェーンと同じく三度目の遭遇となるサイラスも溜息混じり。
 アヤカシに遊ばれるのも慣れてしまったのだろう。
 驚きや緊張よりも余裕が伺える。
「……なんでしょう……この敵は遊んでいるのですか?」
 後ろに下がっていたジレディアは、周囲の仲間達の言葉にピンと来る。
 そして漂う氷晶球に触れるか触れないかの位置でじっと見つめる。
 無数に思えるそれは果たして全て同じなのだろうか?
 材質は一見、氷に見える。
 触れてみれば冷たいのかもしれない。
 だが迂闊に触れる事ははばかられた。
「つまらぬサーカスの次は遊園地と来たか。何やら此奴等の主は遊びが好きなようじゃな。我の趣味には合わぬがのぉ」
 にやりと笑って余裕の朱音は、血塗れにも等しい竜哉を支えている。
 いや、正確には寄り添っているだけだ。
 孤高の騎士の矜持を傷つけるような真似はしない。
 だが重体の身体である竜哉に万が一の事があった場合、すぐに対応出来るように朱音は真っ直ぐに敵を見据えながらも決して竜哉から気を逸らさない。
 そしてそんな朱音の気遣いを気配で感じながら、竜哉はすっと背筋を伸ばし、切れ長の瞳をアヤカシに―― メリーゴーランドと、全ての氷晶球を視界に入れながら問いかける。
「こちらから二つ質問をしたいが、良いか」
 竜哉の口から言葉が紡がれたその瞬間。
 ―― 世界が揺らいだ。


●本物はどれ?
 ぐらりとブレる視界に一瞬、竜哉は、そして開拓者全員が身構えた瞬間、ソレが姿を現した。
 否、姿を現したのはソレの影。
 黒い鏡に映しこんだかのような姿のソレは、楽しげに笑う。

『聞いてあげるわ。わたくしの可愛いおもちゃ達』

 氷の乙女像の前に、まるで氷の乙女の瞳から映し出されたかのような位置で、等身大のソレの影は言葉を発する。
 氷のピエロと、氷の獣。
 その二体を相手取った時に感じていた目線、そして響いた声。
 それが今、目の前の影からハッキリと感じ取れる。
「これは一体……」
 不意の出来事に目を見開き、ラシュディアから贈られたチョーカーをぎゅっと握り締めるジレディアを、ラシュディアが咄嗟に背に庇う。
(敵は倒す、大事な人を護る……両方をやらなきゃならないのが辛い所だが、覚悟はできてる)
 ジレディアと敵の射線に割って入り、最愛の少女を背に守りながらラシュディアは初めて目にする敵に拳を握る。
 下級アヤカシとも、中級アヤカシとも明らかに異質な存在感を放つソレは、恐らく……。
 握った拳に冷たい汗が滲む。
(随分と高尚で悪趣味なものだとは思っていましたが)
 ジェーンの黒い瞳も現れたソレから逸らせない。
(氷の乙女の瞳からか?)
 そしてサイラスはクスクスと笑うソレよりも、ソレが何から映し出されているのかを見極める。
(あまり相手のお遊びに付き合うのは好きではないのじゃが、さてどうしたものかのぉ) 
 流石に声に出すのははばかりながらも朱音はマスケットの標準を確実にソレに合わせる。
 そして、最初に問いかけた竜哉は。
「『真実』と『嘘』の氷晶球には『違い』があるのか」
 背水心を用い、痛みを訴え続ける身体を騙しながら、毅然とした態度でソレに挑む。
 問いかけられたソレは、楽しげに頷いた。
 自分に構われたのが嬉しくて仕方がないようだ。
「ならば『真実』は今俺達の全員が見える位置にあるのか。まさか、ランダムではないよな?」
 竜哉の問いに、ソレはもう一度頷く。
 そして――。
『ご褒美よ?』
 にっこりと微笑むソレに開拓者全員が身構える。
 次の瞬間、竜哉を氷が包み込む!
 氷の彫像と化すかと思われた事態は、だが一瞬にして崩壊、竜哉の氷は粉々に砕け散った。
「なん……だと……?」
 竜哉は自身の身に起きた事態に驚愕する。
 それでも叫んだり慌てふためいたりしないのは常の心の鍛錬の賜物だろう。
 誰もがその場で目を見張る。
「まさかとは思うが、そなた傷が消えておるようじゃのぅ」
 マスケットの照準をソレから決して離す事無く、傍に付き添っていた朱音が竜哉の異変に気づく。
『壊れかけの玩具なんて、つまらないもの』
 クスクスと楽しげな笑い声を残してソレは消え去った。
(生かすも殺すも相手の気分次第か)
 だが、こちらもただ黙って遊ばれたりはしない。
 サイラスは今にも動き出しそうな氷の馬車に斬りかかる!


●躍る馬と馬車
 キンッ……!
 金色に輝くオーラをまとうサイラス。
 その彼が馬車に振り下ろしたロングソードを、氷の騎士がその剣で受け止める。
 氷の甲冑をまとうその騎士の強度は如何ほどのものだろう。
 だが騎士はその場を動かない。
 何か動く条件があるのかもしれない。
 押し負けはしないものの均衡した力にサイラスは一旦退く。
「そう簡単に壊されはしないってか」
 騎士の剣が届かないところまで一気に下がったサイラスは、腕に巻いたカフィーヤで額の汗をぬぐう。
 氷のピエロと氷の獣。
 その二体と対峙していた時に持っていたそれは、サイラスにとってもはやお守りのよう。
「この歌にそって考えるなら、一つ壊したら馬が、二つ壊したら馬車が動いてくる……?」
 高らかに誇らしげに歌う氷の乙女像を見つつ、ジレディアはそう推理する。
 だが騎士はいつ動くのか?
 歌にはないようだが、サイラスの動きを止めた所を見ると、馬車を守っているのか、もしくは近づく敵を迎撃するのか。
「乙女像も視ることで何らかの能力を発動する可能性があります。動きがあれば警告願います」
 周囲に叫び、まだこちらを攻撃しては来ない駿馬にジェーンが接近、刀で切りつける。
 馬車からも騎士からも離れた氷の駿馬は足を狙ったジェーンの剣をその尾で受け止める。
 だが駿馬にはそれほど強度はないのか、氷の尾はパラパラと砕け散った。
「ま、ともかく邪魔な遊具は壊すに限るの。こちらに攻撃してくるような玩具はいらぬのじゃ!」
 氷晶球と味方と。
 その僅かな隙間を見極めて、朱音も砲撃を放つ。
 黒幕が去っても、目の前のアヤカシは消えはしないのだ。
 ならば迎撃するのみ。
「折角の褒美だ。存分に使わせてもらおうか」
 重体を瞬時に治された衝撃から立ち直った竜哉もその剣を振るい、その場を動かぬ駿馬の足に狙いを定める。
 乙女像の歌は止まらず、輝く瞳は真っ直ぐに開拓者達を捕らえている。
「その歌声はとまるのかな?」
 乙女像を観察していたラシュディアがその喉元に手裏剣を放つ。
 花びらのごとく薄いそれは願い違わず乙女像の首を切り裂き、歌声がやんだ。
 切り裂いた首元から血のように氷の破片が舞い散る。
 次の瞬間、乙女像が光り輝き眩い光がラシュディアを包み込んだ。
「ラシュディアッ!」
「くるなジレディーッ!」
 ジレディアが叫んで駆け寄ろうとするが、ラシュディアがそれを制する。
 駆け出そうとした足を止め、ジレディアは代わりにラシュディアと乙女像の間にストーンウォールを出現!
「無事か?!」
 叫ぶ朱音にラシュディアが頷く。
「なんともないね。ただ、まったく動けない」
 苦笑する彼は、どうやら無事のようだ。
 だが口以外は動かせないのだろう、光を浴びたままの姿で微動だにしない。
「輝く光は貴方を止める……光は、乙女像を傷つけると発動ですか……」
 全員が氷晶球を壊さぬよう動いていることが功を奏している。
 迂闊に壊し敵が自由に動いていたなら、動けなくなったラシュディアを果たして守りきれていただろうか。
「デカいだけあって何が出てくるかもわからんが、こちらの動きを束縛も出来るとなると中々厳しいとは思うんだが」
 弱点は必ずあるはず。
 そう、先ほど感じた氷の乙女像の瞳とか。
 だが瞳は二つ。
 その内の一つが真実だとしても、残り一つは偽物だ。
 そして。
「……おい。馬の様子がおかしくはないか」
 竜哉が異変に気づいた。
 先ほどまでメリーゴーランドの周囲に配置されていただけの8体の駿馬が全員、こちらを向いているのだ。
 その場で蹄を鳴らし、鬣が逆立つ。
「伏せろっ!」
 咄嗟に叫び、竜哉はその場に伏せる。
 そして拘束の解けたラシュディアはジレディアを抱きかかえて横に飛び、ジェーン、サイラス、朱音もその場に伏せた。
 刹那、無数の氷の針が駿馬達から放出され、開拓者達の頭上を通り過ぎた。


●真実見抜くその瞳
 無数の氷の針は開拓者こそ傷つけられはしなかったものの、周囲に浮かぶ氷晶球にダメージを与えた。
 氷の針を受けた氷晶球は、大小さまざまなひびを発生させている。
 もはやいつ壊れてもおかしくはなかった。
「まったく、時間制限までつけてくるとはのぅ!」
 竜哉を狙っていた駿馬に朱音のマスケットが炸裂する。
 強度のさほどない駿馬は朱音の狙い定めた銃弾に砕け散る。
「単独で動いてくる様に見える……けれどそれなら何故乗りやすい様な鞍がついているのか……」
 駿馬の形状に疑問を感じつつ、ジレディアは氷の針の攻撃を防ぐべく次々とストーンウォールを駿馬の前に出現させる。
 まだその場を動き出してはいないのだから、目の前に遮蔽物があれば攻撃出来ないはずだ。
 事実、駿馬の二度目の氷の針は全てストーンウォールに突き刺さり、石の壁を破壊するに留まった。
(やるしかないようだな。例え外れでも)
 既に周囲の氷晶球にはひびが入っている。
 ならばそれは偽物の可能性が高い。
 今まで対峙したピエロと氷の獣が持っていた本物は、こんな簡単にひび割れなどしなかった。
 サイラスの意思を感じ取り、ジェーンが頷く。
「援護致します」
 サイラスを狙う駿馬に、その鬣から放たれる氷の針を剣で次々と叩き落しながらサイラスが氷の乙女に近づく隙を作る。
「ほれ、どこを見ておる。汝の敵は我じゃ!」
 同じ位置に留まらず、射撃しながら移動する朱音も駿馬の気を自分に向けさせる。
 そしてジレディアとラシュディアは。
「その属性を確認させて頂きます……サンダー!」
「さっきは遅れをとったけれど、今回はそうはいかないよ」
 ジレディアの魔法が駿馬を貫き、ラシュディアのクリスタルマスターが駿馬を砕く。
「真実は、その瞳だ!」
 サイラスは剣を横凪ぎに払い、氷の乙女像の両目を瞬時に裂ききった。
 粉々に砕ける両の瞳は氷の涙を流し、全ての偽物が砕け散る!
 そうして。
 氷の乙女像の瞳には先ほどとは明らかに異なる赤い瞳が出現し、その周囲を氷の馬車がゆっくりと回りだす。
 生き残っていた駿馬二体に騎士がまたがり、真っ直ぐに開拓者を見つめる。
 誰一人として生贄たる犠牲者を出さず真実を見極めた開拓者達はどこか遠くから、
『正解』
 そう呟く笑い声を聞いた気がした。