極上の品を護送せよ
マスター名:神櫓斎
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/19 00:32



■オープニング本文

 神楽の都にある開拓者ギルドには、今日も多種多様な依頼が舞い込んでいる。
 
「‥‥それでですね、上薬のかけ方がまた絶妙でして。実に美しい光沢を放っているんですよ! 無論模様も繊細で‥‥」
「はあ‥‥」
 受付の青年は、頭痛を訴え始めた頭を抱えた。
 依頼人である男は、最近手に入れたという陶磁器について、かれこれ二時間は同じ話を繰り返している。
「その模様の繊細さといったら、まるで天女が描いたかのごとく‥‥」
 こめかみに指を添えながら、青年は依頼書に視線を落とす。
 依頼の内容自体は、商品を護送するといういたって単純なものだ。
「私は実に素晴らしい品を手に入れることができました! あの色、形、模様‥‥すべてが素晴らしい!」
 大仰な見繰り手振りを交えながら、男は興奮した様子で話し続ける。
「とにかく、あの品を無傷で運んでいただきたいのです。最近は盗賊などというけしからん連中も出没していると耳にしました。石橋を叩いて渡れとも言いますでしょう?」
「ええ」
「あれは相当高価なものでしてな‥‥現物を見ていただければわかるでしょう。ああ‥‥あの色、あの形、あの模様‥‥どれをとっても素晴らしいの一言ですよ!」
 再び始まってしまった男の熱弁に、受付の青年は思わず顔を引きつらせたのであった。


■参加者一覧
那木 照日(ia0623
16歳・男・サ
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
千王寺 焔(ia1839
17歳・男・志
星風 珠光(ia2391
17歳・女・陰
スロット(ia3531
24歳・男・砂
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ
荒井一徹(ia4274
21歳・男・サ
秋月 涼子(ia4941
26歳・女・巫


■リプレイ本文

●向かうは北面
 荒井一徹(ia4274)は腕を組んで馬車の荷台を覗き込んだ。そこには、一メートル四方の木箱が二つ積み込まれている。
「いってぇ極上の品ってなんなんだろうなぁ」
「見たいな見たいなー。絶妙なんでしょ? 極上なんでしょ?」
 スロット(ia3531)はそわそわとしながら、興味津々にそれらの木箱を眺めていた。
「陶磁器、ねぇ‥‥。そんなモンをありがたがってる奴の気が知れねーぜ」
 聞こえるか否かの声音で、荒屋敷(ia3801)はぼそりと呟いた。その眼差しは実にうろんそうである。
「割ってしまったらどうしよう。借金生活なんて嫌やわぁ」
 真剣な眼差しで木箱を見つめていた秋月 涼子(ia4941)は、困ったように頬に手を当てた。
「アヤカシの相手ばかりだったからな。たまにはこういう仕事も良いな‥‥」
 馬の鼻面を撫でていた香坂 御影(ia0737)は、穏やかな表情で言う。
「焔君と一緒に受ける初めての依頼だから楽しみだねぇ」
 星風 珠光(ia2391)は、恋人である千王寺 焔(ia1839)を振り返りながら、満面の笑みで言った。
「そうだな‥‥では、改めてよろしく」
 焔は少々照れながらも、嬉しそうに答える。
「えっと‥‥では‥‥頑張りましょう‥‥」
 人見知りをしてしまう那木 照日(ia0623)は、おどおどと不安そうにしながらも、皆に向かって丁寧に頭を下げた。

●木漏れ日
 葉の間から柔らかな光が零れている。森の中を通る道は平坦で、時折石に乗り上げる以外の揺れはない。
 軽装馬車とはいえ、一行が乗るには充分な広さがあり、何かない限りは馬車に乗って移動しようというのが、皆の意見であった。
 馬車の中は、実に穏やかな雰囲気である。
「んーんん、んーんんー♪」
 スロットは上機嫌に鼻歌を歌いながら、揺れるたびに荷物を確認していた。
「そういえば目的地って焔君の故郷なんでしょ? もし時間があったらデートとかできたらいいなぁ」
「そうだな‥‥案内するよ」
 焔は珠光の言葉に、穏やかに微笑みながら頷く。
「このまま何事もなく到着できるのが一番いいのだが‥‥」
 馬車の外を見ながら、御影は呟いた。
 しばらくすると辺りの空気が変わった。湿った風が馬車の中に入り込んでくる。
「湿地に入ったぞ」
 手綱を預かっていた一徹が、振り返りながら皆にそう伝えた。
 馬車の車輪が柔らかい地面に食い込み、車体が左右に大きく揺れる。
「降りた方がいいかもな。このままじゃ重さで泥濘に嵌まっちまう」
「そうですね‥‥降りましょう‥‥」
 荒屋敷の提案に、照日は小さく頷いた。
 馬車がゆっくりと止まる。一行は荷台から降りて湿地帯を歩き始めた。
 先行するのは焔と珠光。馬車の右前にはスロット、右後ろには照日。左前では一徹が手綱を持ち、左後ろでは御影が辺りを警戒しながら歩いている。そして後方には荒屋敷と涼子がついた。
 湿気のせいなのか、辺りの岩や木肌には苔が生している。昼だというのに辺りは薄暗く、決して良い雰囲気ではなかった。
「歩きづらいわぁ」
 眉を寄せて涼子が言う。
 多量に水分を含んだ土のせいで、馬車の進みも遅い。
 突然、馬車がぐらりと傾いた。
「あわ‥‥!」
 照日が慌てて荷台に駆け寄り、積み荷を押さえる。
 どうやら泥濘に車輪が嵌まってしまったようだ。
 車輪の側を覗き込んだ珠光が、腰に手を当てて溜め息を吐く。
「簡単には動きそうにないよ?」
「スキルでも試してみっか」
 荒屋敷はそういうと『強力』を発動した。
 しかし余程深く嵌まってしまったのか、なかなか動かない。
「俺も手伝うよー」
 スロットが『強力』を発動し、荒屋敷と共に馬車を押し始めた。
 一徹は手綱を持って待機している。
「頑張ってやぁ」
 涼子が笑みをもって応援した。傍では照日がおろおろと二人を見ている。
「あわ‥‥お手伝いした方が‥‥いいのでしょうか‥‥」
 荒屋敷とスロットのお陰で、馬車は泥濘から抜け出すことができたのであった。

●湿地を越えて
 どうにか湿地を抜けて、丸木橋まで辿りついた。
 橋の幅はおよそ二メートルほど。馬車が何とか通れる程度しかない。
「ここは慎重に進もう」
 焔は言い、先行する。後に続くように珠光、涼子、そして手綱を持った照日がつく。
 待機するのは御影、スロット、荒屋敷、一徹だ。
「橋から落ちないようにしないとねぇ」
 涼子が足元の川を見ながら言う。
「ここで盗賊とか出たら嫌だなぁ」
「大丈夫だ。なにかあっても必ず、珠光は俺が護る」
 不安げな珠光に、焔は強い意思を込めた目で言った。
 馬車はゆっくりと橋を渡りきり、待機していた四人が橋を渡ろうとした時であった。
 どこからか一本の矢が飛んできたのである。咄嗟に照日が『十字組手』で矢を防ぐ。
「あわわ‥‥結構‥‥危ない‥‥」
 どうにか防ぎ、照日はほっと息を吐いた。
 皆が臨戦態勢をとった直後、前後合わせて十五人ほどの男たちが現れた。
「ちょいとその荷物、貰えんかね?」
 前方にいた頭らしき男が、刀の峰で自分の肩をとんとんと叩きながら、にやにやと笑って歩み寄る。
「んー、それは無理かなー」
 スロットは満面の笑みで対応する。
「そうかね。そりゃあ残念じゃのう‥‥。行けい」
 頭の命令に、男たちは一斉に動き出す。
「さあ盗賊ども。少しは俺を楽しませてくれよ!」
 刀を引き抜きながら、一徹は笑う。
「へへ、俺が相手してやっぜ!」
 実に楽しそうな表情で、荒屋敷は木刀を構えた。
「行かせない‥‥!」
 御影は『咆哮』で盗賊たちの注意を引き付けると、その背後に回って峰打ちをした。
「悪いが、雑魚にかまっている程俺も暇じゃねぇんだよ」
「ちょっと退いてもらうぜえ?」
 一徹と荒屋敷も、その隙を突いて盗賊たちを打ち負かす。
「俺はそんな強くないからさ、そうそう手加減できねーんだわ。来るんなら覚悟してよ、ね?」
 スロットは『隼人』を使用して盗賊の攻撃をひょいと避けながら、どこか冷たい笑みを浮かべて盗賊の一人を叩き伏せた。
 先行組である珠光は『岩首』で応戦している。
「邪魔しないでよねっ!」
 『岩首』は嘲笑ったような表情で、隕石のように炎を纏って盗賊の上に落ちた。
「退いてもらおうか」
 焔の鋭い視線に射抜かれ、盗賊たちは怯む。その隙に『巻き打ち』で盗賊たちを気絶させる。
 照日もまた峰打ちで盗賊を気絶させているが、どうにも困ったような表情を浮かべていた。
「加減が‥‥難しい‥‥」
 涼子は馬の手綱を持って待機している。優しく馬の鼻面をなでながら、子供に言い聞かせるかのように呟いた。
「すぐに終わるからねぇ」
 いくら盗賊とはいえ、一般人と開拓者。力の差は歴然である。
 十五人以上いた盗賊たちはすぐに三分の二程度になった。
 起き上がろうと上体を起こしている盗賊に抜き身の刀を突きつけ、焔は威圧的に言い放つ。
「まだやるというのなら、相手になるが?」
 突きつけられた盗賊はひっと息を飲み、武器から手を離して降参の格好を取った。
 へたり込んでいる盗賊と視線を合わせるために、荒屋敷はしゃがみ込む。
「なあ、俺らの仕事は荷物運びだけなんだ。降参してくれりゃ、骨折なんてさせねえし、役所に突き出すなんて真似もしねえぜ?」
「だ、誰が降参なんか‥‥」
「あらら、そーなの」
 荒屋敷はにっこりと笑うと、盗賊の首筋に容赦なく木刀を叩き込んだ。
 呻く間もなく、盗賊は撃沈する。
「ざーんねん」
 それを皮切りに残りの盗賊たちはあっと言う間に制圧された。
 一行は地面に転がっている盗賊たちを荒縄で縛り上げる。
 一部の盗賊は荒屋敷によって身包みを剥がされ、木に抱いた上体で縛り付けられている。
 情けない顔の盗賊たちを見た荒屋敷は、満足そうな表情で実に爽やかに言い放った。
「役所に突き出さないつったろ? ま、その格好で蝉みたいに鳴いてりゃ、その内通りがかりの仏様が助けてくれっさ!」
「仏様ならええけどねえ」
 涼子はにこやかに笑って、そんな追い討ちの言葉をかけた。

●到着
 それ以降は何事もなく、夕刻には北面の仁生に辿りつくことができた。
 交易の要地であるここには多くの商店が立ち並び、また数多くの歴史的建造物が建ち並んでいる。
 一行は都へ入ると、真っ直ぐに依頼人の店へと向かった。
 店の前では依頼人の男性が不安げな表情を浮かべて立っている。
「皆さん、ご苦労様です。それで、商品は‥‥」
「無事だ」
 御影が馬車の中の木箱を指した。
 依頼人は荷台に駆け寄るとすぐさま木箱の中を確認する。そして商品が無事であることを知ると、ようやく安堵の笑みを浮かべた。
 従業員を呼ぶと、木箱を店内に運ばせる。
「さすがですね! 本当にありがとうございました」
 依頼人は一行に深々と頭を下げ、何度も礼を言った。

「懐かしいなぁ」
 辺りを見回した焔は、目を細めた。
 夕日に染め上げられた町には多くの人々が行き交い、賑わっている。
「ここが焔君の故郷なんだね。時間もあるし、デートしよ?」
 珠光は焔に寄り添うと、彼を見上げて微笑んだ。
 焔は頷くと、珠光の手を握り締めて歩き出した。
「色々なお店があるんやねぇ。ちょっと覗いてみようかなぁ」
 涼子は物珍しそうに辺りを見回している。
「さてさて。もうちょっと稼いでこようかなーっと」
 スロットは大きく伸びをすると、楽しげに路地裏に消えていった。
「無事に届けられて‥‥よかったです‥‥」
 ほっと胸を撫で下ろしている照日に向かい、御影は微笑んだ。
「ひやっとする場面もあったけど、何とかなったな」
 荒屋敷は腕を組み、うんうんと頷いている。
「終わりよければすべて良し、ってな」
「何はともあれ、お疲れさん!」
 一徹の豪快な笑みをもって、護送任務は無事完了したのであった。