もふもふの真偽を問う!
マスター名:神櫓斎
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/10 21:50



■オープニング本文

 小高い丘の上に、とある生き物が大量発生したらしい。
 その知らせはすぐさま開拓者ギルドへと届けられた。しかし依頼書を見るなり、受付係の青年は困惑の表情を浮かべる。
「‥‥えっと、これ、アヤカシ‥‥なんすかね」
 もふらさま似のアヤカシが20匹。依頼書にはそう書かれていた。一番大きいものでは、何と2メートル近くあるという。
 もふらさまならぬ『ふらも』と呼ばれるそのアヤカシたちは、丘の上を占領し、近付こうとするものを威嚇して追い返すそうだ。
「被害はないって言っても、放っておくわけにはいかないっすもんねぇ‥‥。つか、よく気付いたもんすね」
「依頼人がもふらさま好きなんだとよ。何つったかな‥‥まにあ、だったか」
 俺だったら気付かないっすよと呟く青年に、彼の先輩にあたる受付係が顎に手をやりながら答える。
 ふらもはもふらさまとそっくりな姿をしているが、よく見れば本物のもふらさまとは表情が違うらしい。
「はぁ‥‥とにかく、アヤカシならどうにかしないとっすね」
 青年はまだ首をひねりながらも、依頼書を貼り出したのであった。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
桐(ia1102
14歳・男・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
細越(ia2522
16歳・女・サ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
セシル・ディフィール(ia9368
20歳・女・陰
今川誠親(ib1091
23歳・男・弓
黒色櫻(ib1902
24歳・女・志


■リプレイ本文

●もふもふの丘
 丘の上には、もふらさまがいっぴき。
 春の種まき、豊穣祈願。しとやかな慈雨を希う、夏の夕暮れ。秋の収穫を皆でお祝いしたら、冬は日向でのんびり微睡の淵を逍遥する。そうやって季節がひとつ巡ると、また春がやって来て。
 雪が消えた春の丘には――

 ふらもが、いっぱいっ!?

 もふもふ、もふもふ
 もふもふ、もふもふ、もふもふ‥‥ずんっ!!

 やわらかな緑の丘を覆い尽さんと展開するもふもふの大群。
 その数、二〇余。やたら大きいヤツがいっぴき混じっているが、殆どはもふらさまサイズで何やら可愛げもあるような。壮観、あるいは、奇観と形容すべきか‥‥小さな村の救援要請に応え集った開拓者たちも、しばし、唖然と見入ってしまった。

「なーにやってるんだろうね、あんな所で」

 ちょっぴり呆れ気味に小首をかしげた赤マント(ia3521)。大量のもふらさまさまに見えるアレが、実はアヤカシ・ふらもだとは未だ気付いていない様子。
 そんな赤マントのお隣で、細越(ia2522)は興味深げに眸を細める。

「ふむ、もふら様‥‥いや、ふらもか? 瘴気でも精霊力でも同じ形を取る事が多いという事は、もふら様の形は姿無きものが形取り易いのであろうか?」
「それにしても如何してこんなに沢山、こんな所に集まったのかしら?」

 確かに、あのもふもふ感は、形無く漂うモノがふわふわと寄せ集まりやすい形態なのかも‥‥
 半ば自問のように落とされた細越の呟きに、セシル・ディフィール(ia9368)も頷いた。思想するふたりの会話が、もふもふ群らがる集団の中でひときわ大きなふらもの上で視線を止めた赤マントの脳裏に、赫い閃光を走らせた。

「‥‥まさか、巨大もふらと合体して、さらに巨大なもふらになろうとしているとか!? ――そんな事はさせないよっ!」

 びしりと格好良く突き付けられた指の先。赤マントの決意を燃え上がらせたとも知らず未だ平和(?)にくつろぐ、もふもふ系アヤカシの群れを見つめ、桐(ia1102)が切なく吐息を落とす。

「もふら様から毛は刈り取れないので、中身はどうあれもふもふ感あふれるあの毛は欲しい所ですが‥‥アヤカシですから倒したら消えてしまうのですよね、本当に残念です」

 もふもふに罪はないのですもの。と、拳を握りしめた桐の嘆息を耳に、見るとはなしにふらもの群れを眺めていたルオウ(ia2445)は慌てて視線をそらせた。

「やべぇ、目が合っちまった」

 いつでもどこでも元気いっぱい。気力、体力共に絶好調のガキ大将も、黒目がちのつぶらな瞳には弱いのか。いつもより気持ち微笑ましげに向けられる周囲の視線に、唇を尖らせた。

「ちっ、アヤカシの癖にもふら様と似たような外見なんてしてんじゃねーよ。‥‥‥斬り難いじゃんか‥‥」
「‥‥確かに。少々、引き金が重いですね」

 照れを隠して毒吐くルオウに、今川誠親(ib1091)も愛用の機械弓を弄びながら苦笑を零す。

「せやなぁ。もふらそっくりのアヤカシかいな。これはまた、やりにく‥‥」

 腕を組み、しみじみ頷く天津疾也(ia0019)。
 ルオウのみならず、この男まで‥‥意外に侮れないかも、ふらもって‥‥。
 開拓者の道を歩み始めたばかりの黒色櫻(ib1902)がどきどきしながら見守る前で、疾也は沈痛な面持ちで何やらもったいをつけて言葉を区切った。

「――く‥は、ない相手やな、うん」

 けろりと言って、舌を出す。
 彼にとって世の中、お銭より魅力的なモノは存在しない。

「とりあえず問答無用でアヤカシは消毒や――」

 ちょっぴり物騒なセリフをのたまいながら。
 ふわもこ可愛いもふらさまに良く似た外見のふらもを前に困惑を隠せない同行者たちの中、只ひとり、俄然やる気な疾也だった。


●これが、ふらもだ!!
 見るからに強面のアヤカシならともかく、相手はもふらさま‥‥じゃなくて、ふらも(×二〇匹)。
 言うまでもなく、脱力系。
 もふらさま似のふわもこな外見は、やはりというか見かけだけ。――アヤカシに限った話ではないけれど――可愛い花には、毒がある。

「いざ近寄ってみると、結構大きいのね」

 前脚で土を掻きつつ頭を低くさげる威嚇の姿も、また可愛らしい。
 余裕綽々、ついふらふらと前に出た櫻は、その《魅了》に、一瞬、敵意を忘れた。気付いた時には、どすどす地面を揺らして突進してくるアヤカシがすぐ目の前に――

 ドシ―――ンッ!!!

 重いモノがぶつかる鈍い衝突音に、居合わせた誰もが思わず首をすくめる。
 赤マントの見立てどおり、なかなかの破壊力。そして、ふらもの威嚇には《荒ぶる鷹のポーズ》と似たような効果があるようだ。つぶらな瞳にみつめられ、出端を挫かれただけという気もする。――俊敏な身のこなしを身上とする者たちには、少しばかり要注意かも。

「‥‥今回は、甲龍がいないことを忘れていました‥‥」

 相棒さえ同行していれば、華麗な連携が披露できていたはず。
 桐の手当てを受けながら、悄然と肩を落とす櫻。残念ながら、今回は彼らの朋友たちに精霊門を通り抜ける許可はおりなかったのだ。――大きな怪我もなかったのが不幸中の幸い。ふらもの力の片鱗も見られて、2度、美味しいということで。
 改めて、仕切り直して策を練る。

「落とし穴掘っておいて、誘えば落ちそうじゃねえか? 特攻してくるタイプみたいだし」

 都合良く、《罠伏り》に心得のある今川もいることだし。
 先ずは、足を止めるコト。わき目も振らず一直線に突進してくるふらもなら、きっと引っ掛かるに違いない。ルオウの提案に、セシルもいくらか天頂より西に傾いた太陽を見上げた。

「‥‥今夜中に作ってしまえば、きっと気づかれないと思うわ‥‥」

 確かに、もふらさまは四六時中、居眠り半分。精霊のくせに――否、精霊だからこそ?――怠けモノの代名詞のような存在として広く知られているのだけれども。果たして、アヤカシであるふらもも同じ性質を持っているのだろうか。片や、精霊。そして、アヤカシ。互いに似て非なるモノ、その類似と相異に興味の尽きない細越だった。


●真夜中の穴掘り
 草木も眠る丑三つ時。
 濃藍の空に月の光はなく、星影がやたら綺麗な朔の夜。いつもより濃密な夜陰を揺らして聞こえくるのは、若葉萌える丘より寄せる涼やかな風に揺れる草擦れの音‥‥ではなく、「ZZZ‥」と轟くふもら(×二〇匹)の爆睡大鼾と、ざくざくと土を掘り返すつるはし、シャベルの不協和音。

「あっちのふらもには異状なしだよ!」

 その俊足を活かしてふらもの偵察を買って出た赤マントが、大地に穿たれた真新しい穴の周辺で掘り出された土を片付けつつ見張りを兼ねて夜陰の向こうを窺っていた桐に声をかける。
 赤マントからの言葉を受け止め、桐は大きく深い落とし穴を覗きこんだ。

「今のところ気付いてないようです」
「おう! こっちもあともうちょいだ!!」

 穴の底から、ルオウが元気に言葉を返す。
 なにしろ相手は、普通サイズのものだけでも、ざっと二〇。――全部を穴に落とす必要はないのだけれど――それなりに大きな穴が必要で。力仕事にはちょっと自信のあるルオウの隣で、セシルが小さく吐息を落とした。

「‥‥やはり、数が多いのがネックですね」
「それもそうやが、夜通し穴掘るんが地味やちゅーねん、気ぃ滅入るわ‥‥」

 掘り当てた大きな石を細越と力を併せて取り除きつつ、疾也もぼやく。
 地味な下準備の積み重ねが明日の成功を支えているのだ、と。もちろん頭では理解ってはいるが‥‥黙々と下を向いて穴を掘るのは性に合わないと思う疾也だった。
 深く考えず常に全力投球でコトに当たれるルオウがちょっぴり羨ましい。

「――時間外手当は付くんやろか?」
「天津君、そんなコト言ってないで、早く終わらせないと。落とし穴を掘って終わりじゃないんですから。――少しでも休んでおかないと」

 むしろ、メインはその後だったり。
 《罠伏り》を使って仕掛けを差配する誠親に指摘され、疾也はかくりと項垂れる。

「ちぃとばかし夢見るくらいええやんか‥‥」

 夜空に響く、お気楽呑気なふらもの鼾が恨めしい。
 この恨み晴らさでおくべきか! 幸せそうな夢見るふらもを全てまとめて、がっつり退治してやるとスコップを握りしめる疾也であった。


●もふもふの真偽を問う!
 優しい春の陽光に、朝露の光る丘。
 爽やかな小鳥の声に。新緑の丘を埋める、ふわふわのもふもふ――

「‥‥ああ‥。あのもふもふに埋もれられたら‥‥」

 叶わぬ想いを胸に、桐は最後の見収めとばかりにもふもふの大群を眺めやる。とりあえず、満足するまで――もふもふに埋もれる日まで真の満足は得られないのは判っているが――存分にもふもふを心に焼きつけたら戦闘開始。

「何よりも速く、です!」

 ふわりと春風に舞う《神楽舞・瞬》に後押しされてひらりと翻るは、最速の証、伝説の赤マント。ふらもの大群を前に臆することなく、すらりと伸びたふたつの足でしっかりと大地を踏みしめ対峙する。

「赤は神速を齎す!!」

 伝承の文言をお呪いのように今一度心に誓い、世界一の気炎を表す少女を横目に、ルオウも大きく息を吸い込んだ。珠刀「阿見」を握りしめ、丹田に溜めた気合と共に腹の底から声を挙げる。

「いっよーしっ‥‥来やがれえええええええっ!!!!!」

 渾身を込めて発せられた《咆哮》が大気を揺るがし、長閑な朝は日向の淡雪より呆気なく消え失せた。
 くるり、と。一斉に開拓者たちを振り返ったふらもの群れが、地響きを立て突進を開始する。――土煙を巻き上げて迫るもふもふはどこか津波にも似て。アレはもふらではなくアヤカシなのだと、桐は改めて心に刻んだ。

「弓を専門とするものには敵わぬかも知れぬが、才能は無くとも鍛え続けた我が強弓食らうがいい」

 藍に染められた美しい弓より放たれた細越の気概は、空気を切り裂きながら一直線に走り抜け、先頭を走るふらもに突き立つ。痛みと驚愕に跳ね上がったふらもは、だがその悲鳴諸共後続の波に巻き込まれてすぐに見えなくなった。
 だが、怒れるふらもの足は止まらない。
 無数の足が大地を蹴りつける地響きに怒りの咆哮がうねり、絡み合って小さな丘をぐらりと揺らす。
 今度こそ、修行の成果を試す時。薄く震える膝を叱咤して、構えた刀を握りなおした櫻は迎え撃たんとしっかりとふらもを見据えて顔をあげた。その眼前に、もふもふの顔を怒に染めたふらもが迫る。

 刹那――
 先頭を走っていたふらもが、櫻の視界から消えた。

「えぇっ、うそっ?!」

 もちろん、正体は魔法ではなく‥‥昨夜、みんなで夜なべして掘った落とし穴。
 ふらもは急に止まれない。怒涛の勢いで駆けてきたふらもたちは、自らの勢いに背中を押され雪崩をうって次々と穴の底へ転がり落ちて行く。

「あらあら。こうも見事に掛ってくれると、楽しいですねぇ」

 これこそ、慣れない作業に手にマメを作って頑張った甲斐があったというものだ。
 見応え十分、と。セシルはとっても嬉しそう。

「よっしゃ、今が好機や!」

 疾也の声に、細越も改めて穴の底から這い上がろうともふもふもがくふらもを狙って弓に矢を番え、誠親もずしりと重い「アーバレスト」を構えた。
 《会》で高めた攻撃力を、《連環弓》を使った連射で最大限活かしきる。――緻密に計算された誠親の狙い通り、鉄板をも軽々貫く機械弓の破壊力に粉砕されて、ふらもは次々に瘴気に還り、四散した。誠親ほどの派手さはないが、確実性を心がけ放たれる疾也と細越の矢も着実にアヤカシの数を減じていく。

「うおぉりゃあああああ―――ッ!!!」

 運よく落とし穴を回避したふらもは珠刀を携えたルオウが熱烈歓迎。大気を揺るがす《咆哮》に惹かれ、わらわらと集まってきたふらもの群れに自ら飛び込み《回転切り》で周辺を大きく薙ぎ払った。遠心力に弾き飛ばされた手負いのふらもは、俊足を飛ばして落下点に駆け付けた赤マントが《泰練気法弐》を発動させての連続攻撃で、きっちり討ち取る。

「もふら様に似てるんじゃやりにくいけど、しかたねえ!」
「あああ、あんなにもふもふに囲まれて‥‥う、羨ましいっ!!!」

 セイントローブを華麗にはためかせてもふもふの中心で大暴れするルオウの姿を、後方より眺める桐の中で何かがぷつりと切れた。大混乱の隙をつき、よじよじと穴の底から這い出してきたふもらを恨めしげに睨めつけて、手鎖「契」を装備した両手の手で印を結ぶ。

「期待を持たせた貴方が悪いのです、さわれないもふもふは目の毒なのです」

 ぱっと燃えあがった《浄炎》の清浄なる炎がふらもを包み、浄化の苦悶にのたうつふわもふのアヤカシはやがて黒い霧となって四散した。――どんなに可愛くても、ふらもはやはりアヤカシであったらしい。
 突進を繰り返すふらもを右に左に演舞にも似た華麗な跳躍で避け続けていた櫻も、限界が訪れる前にようやく見つけた隙を衝いてアヤカシへと刀を突き立てる。

「滅しなさい」

 ほのかに白む刀身が、アヤカシの邪身を貫き噴き出した紫煙が淡く瘴気に還っていくのを、櫻はその緑の眸に憐みを込めてジッと見つめた。
 朝の気配を踏みにじった喧騒は、瘴気となって四散するふらもとともにゆっくりと終息へと近づいて‥‥
 残すは、身の丈五尺はあろうかという、一際大きくもっふもふな巨大なふらもだけ。

「てめえが親玉か!くらいやがれええええ!!」

 きらきらときらめく黒い眸の魔力を奥歯を噛みしめてやり過ごし、ルオウは両手に構えた珠刀を大きく上段に構え渾身の力を込めて大地を蹴った。呼吸を合わせた赤マントが《泰練気法弐》を付して、そのぽってりとした足許を攻撃する。

「これが‥‥僕が持つ最大の速さだ!」

 《天呼鳳凰拳》をもって繰り出された会心の一撃に、さすがの巨大ふらもも平衡を失ってがくりと地に膝(?)を付いた。
 その眉間をめがけ、ルオウは跳躍の到達点より上段に振りかぶった珠刀を叩き込む。アヤカシを打ち砕く重い振動が刀を通し腕、そして、全身を貫いた。
 ほぼ同時に、ぶあついもふもふをものともせずに串刺したアーバレストのふたつの貫通穴より、黒い霧にも似た瘴気が噴き出す。

「くおおおおお―――ん!!!!」

 開拓者たちが見守る前で、瘴気となったふらもは跡かたもなく丘を渡る春風に吹き散らされた。
 戦場の熱気が去り、ゆっくりと静謐が戻ってくる。――やわらかな春の陽射しに包まれた長閑な田舎の景色には、やっぱりアヤカシより、もふらさまのがふさわしい。

「もふもふに埋もれるのは夢のまた夢ですか‥‥」

 とほほ、と。肩を落とした桐の背中をセシルが元気づけるように、ぽんと叩いた。
 掘り返した穴をきっちりと埋め戻し、近隣の村への報告を済ませ神楽の都へ引き上げるべく去って行く開拓者たちの背中を見送って、もふりとお馴染の影が姿を現す。
 誰もいなくなった丘をくるりと見回し、かくりと淋しく吐息をひとつ。

 そして――
 春の丘には、もふらさまがいっぴき。 只今、お嫁さん募集中‥‥

(代筆:津田茜)