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■オープニング本文 「折り入ってお頼みしたいことがありましてのう……」 神妙な面持ちでそう切り出したのは、とある寺で和尚を務める老人だった。 彼が和尚を務める寺は山の中腹にあり、周囲は木々に囲まれている。春には桜が、夏には新緑が、秋には紅葉した木々が、そして冬には雪化粧した景色が広がる、美しい場所だそうだ。 「近頃、夜になると寺の周囲で妙な物音がするようになりましてな。何事かと覗いてみれば、動くものがありましてのう」 老人が月明かりを頼りに目を凝らしてよくよく見れば、その動くものは数匹の狸と狐であったという。 「ごく普通の狸やら狐やらが一匹二匹おる程度なら構わないのじゃが、それがアヤカシとなれば放っておくわけにもいきますまい。……昼間は子供たちも訪れますからのう」 寺では毎日のように子供たちに勉強を教えておるため、被害が出る前にどうにか退治してほしいそうである。 「この通りじゃ。どうかこの爺に、開拓者様の力をお貸しくだされ」 老人は深く頭を下げてそう頼み込むのだった。 |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
正木 鏡太郎(ia4731)
19歳・男・サ
慧(ia6088)
20歳・男・シ
千古(ia9622)
18歳・女・巫
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
ミリランシェル(ib0055)
18歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●化かし合い? 「和尚さまは、なぜ狐狸がアヤカシだとわかったのですか?」 単刀直入に、千古(ia9622)はそう問いかける。 一目見ただけではごく普通の老人としか取れない、依頼主である和尚は、もっともな疑問だと言わんばかりにひとつ頷いてから口を開いた。 「わしは昔、開拓者をしておりましてな。当時はアヤカシ退治にあちこち飛び回ったものじゃ。‥‥ですが、寄る年波には勝てませんでのう‥‥」 和尚は茶を一口すすってから、ふう、と息を吐く。 「強いて言うならば経験‥‥ですかの。みなさまもそういうご経験がおありでしょう」 「ふむ、確かにな。‥‥して、どの方向から来たかなどはおわかりになりますか?」 険しい表情のまま蘭 志狼(ia0805)は尋ねる。この寺が子供たちの学び舎となっている以上、再び安心して学べるようにしなくてはならない――彼はそう思っていた。 「寺の前に集まっているのを見ただけでの。過去に開拓者をしていたとはいえ、現役を引退してからずいぶん経ちますからのう‥‥申し訳ないが、来た先などは突き止めていないのじゃよ」 「じゃあ、変化するような様子はあった?」 ミリランシェル(ib0055)はのほほんとした様子で出された茶に口をつける。 「そういう様子はないようじゃったが」 「ですが、完全に変化しないとは言い切れませんね。対策として、合言葉を決めておくのはいかがでしょうか」 口元に手を当てて、千古はそう提案したのだった。 同じ頃、アヤカシとそのねぐらを探しているのは北条氏祗(ia0573)と水津(ia2177)である。周囲に生える木々の合間を、二人は充分に注意を払いながら歩く。 「アヤカシそのものは発見できなくても、普段通る道くらいはわかるはずです‥‥」 言う水津の体は、かすかな光を発していた。それは周囲に結界を張り、瘴気の有無を確かめている証拠である。 「いるにはいるですが‥‥数体ずつばらばらにいるですよ‥‥」 しばらく辺りを探っていた水津は、軽く頭を振って呟くように言った。 「夜を待つのではなく、今の内に討ってしまってはどうだ?」 氏祗の意見に、水津はしばし考え込む。確かに不意を突くのはいいかもしれない。だが、相手は二十、対してこちらは二。 「数が多いうえにばらばらにいますから、討ち漏らす可能性がありますですよ‥‥」 「む‥‥確かに討ち漏らしては元も子もないからな」 少々名残惜しそうに一度だけ振り返ってから、氏祗は水津と共にいったん寺へと戻るのだった。 和尚から聞いた情報を元に出現範囲を予想し、罠の設置をする三人。 「大事な大事な幼子の遊び場、コックリなぞには不似合い‥‥」 正木 鏡太郎(ia4731)は言い、そしてどこか楽しげに鼻歌を歌いながら虎ばさみを設置している。 「‥‥こんな感じでしょうか」 ルエラ・ファールバルト(ia9645)は千古の提案により、出現予想範囲の低い位置にタコ糸を張り、ところどころに鈴をつけて、アヤカシが触れた際にすぐにわかるようにしていた。彼女のすぐそばでは、慧(ia6088)が黙々と、アヤカシの逃走経路となりえるところにトリモチやまきびしを仕掛けている。 「逃走防止にも、発見の助けにもなろう‥‥」 子供の学び舎を脅かす危機と戦う準備は、着々と進んでいた。 ●狐狸合戦! 日も落ち、辺りは夕闇に染め上げられている。念のためにと用意した「阿」「吽」、そして予備としての合言葉である「そば」「うどん」をそれぞれ脳裏で反芻しながら、アヤカシである狐狸を待つ。警戒されて逃げられぬよう、手にした松明は点けていない。 出現範囲外で息をひそめてしばらく待っていると、木々の合間からちらと影が見えた。一瞬遅れて、澄んだ鈴の音がちりり、と響き。 そして、松明が点る。 「‥‥十九‥‥二十。ふふ、愉しめそうだな」 氏祗は影――アヤカシの数を数えるとにやりと口の端を引き上げ、すいと両手に刀を構えた。 「聞けアヤカシ共! 我こそは相州の三つ鱗、北条氏祗! いざ勝負!!」 大声を上げる氏祗に、アヤカシたちは一斉にその視線を向ける。一瞬のうちに敵意の赤に染まる四十対の目が、それらがアヤカシであることの証であると言えるだろう。 「子供の平和守るために頑張るぞー! それが私の使命!!」 ミリランシェルはぴゅうと口笛を吹いてから三味線を構え、勇壮なる物語を奏で始めた。その音は折れない心となって皆を奮い立たせる。 「逃げ道はないと思え‥‥」 手裏剣でアヤカシたちを戦闘しやすいようにうまく誘導しながら、慧は静かに言った。 接近してくるアヤカシを短刀で斬り捨てながら、まだ見ぬ主のためにも、今は修練の時、と己に言い聞かせるように心の内で呟く。 「くっくっく‥‥我が焔にて焼かれたいものはどなたですか‥‥?」 水津は怪しく笑いながら、炎を出現させた。アヤカシと人間以外には影響のないものであるから、寺や木々を燃やす心配はない。 「燃えるです燃えるですよ‥‥」 普段はおとなしい彼女であるが、炎を扱う時は攻撃的だ。襲いかかってきた狐をものともせず、その清らなる炎で薙ぎ払っていく。 「さぁ、ユリ子‥‥お客様だ‥‥饗応の準備をしなさい‥‥」 鏡太郎は愛用の刀を愛おしそうにひとなでしてから抜刀した。全身を武器とし、手数を重視して戦う土間倉流は、彼が創始となる。言ってしまえば我流だが、彼にとっては由緒正しい流派なのだ。 「本物の狐や狸なら、もふもふしたかったです」 残念そうに言いながら、千古は鏡太郎を支援するように術を使って攻撃していく。彼女の術によって歪んだ空間は、アヤカシの動きを止め、怯ませるには効果的だ。 「ってか歌で力が上がるってあんまり信じれない‥‥不思議よね」 むーと唸りながらも、ミリランシェルは武勇の曲を奏でている。その視線は、アヤカシが逃げはしていないかと、油断なく周囲に向いていた。 「何者であれ、手加減する気はない‥‥蘭志狼、推して参る!」 槍を手にした志狼は、腰を低く落として吼えた。隙を探る狸たちを、槍のリーチを最大限に生かして牽制し、仲間が攻撃できる機会を作ろうと試みる。 時折飛び掛かってくるアヤカシは払い退けるようにして、なるべく攻撃を受けないようにしてはいるが、多少のダメージは致し方ないと志狼は考えているようだ。 「決して逃しはしません」 志狼の作ってくれた機会を逃すまいとルエラは薙刀を振るう。今まさに飛びかからんとしていたアヤカシは空中で斬撃を受け、瘴気の煙を噴きながら地面へと落ちていった。 「相州の三つ鱗‥‥その眼に焼き付けるがいい!」 半数まで減ったところで、氏祗が吼えた。劣勢に追い込まれていたアヤカシたちが、一斉に彼へと意識を向ける。 だが、彼は笑った。そして構えた二刀を容赦なくアヤカシに叩き込んでいく。 それぞれの獲物を下ろした時には、静けさを取り戻した夜が訪れていたのであった。 ●危機は去りて 「やったーっ!」 無事依頼をこなせた喜びと安堵に、ミリランシェルは思わず万歳三唱をする。初めての依頼ということもあってから、のほほんとしているように見えても、緊張していたらしい。 慧は討ち漏らしがないかと耳を澄ませ、水津と千古は負傷者の治療へと回っている。志狼とルエラは、境内に壊れたところなどはないか見て回りながら罠の回収をしていた。 「和尚様‥‥コレカラも、子供たちに優しくあって下さいな‥‥」 「子供は国の宝であるからな」 寺の中で待機していた和尚に報告を終えた後、鏡太郎は言った。氏祗も賛同するように頷いている。 「本当に、ありがとうございました」 和尚は二人の言葉に何度も頷き、ただただ感謝の言葉を述べるのだった。 |