毒を以て毒を制す
マスター名:神櫓斎
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/25 04:49



■オープニング本文

 神楽の都にある開拓者ギルド。ここには日々さまざまな依頼が舞い込んでくる。
「今回皆様に討伐していただくのは、とある村の近郊に出現した蜂型のアヤカシです」
 言いながら受付係の女性は依頼書を提示した。
「体長二十センチメートルほどの蜂型アヤカシが二十匹。加えて司令塔としての役割を持った女王蜂らしき体長1メートルほどの蜂型アヤカシが一匹です。今のところ被害は出ていないようですが、いつ人を襲うかわかりません。ですので、その前に討伐していただきたいのです」
 動きがすばやく攻撃力も高いが、一匹一匹はもろいらしい。だが女王蜂は硬い甲殻でその身を守っているようだ。
「おもな攻撃方法は突き刺し、かみつき、ひっかき、そして切り裂きです。突き刺しやかみつき攻撃には毒が付加されるようですね」
 険しい表情のまま、受付係は続ける。
「女王蜂は、羽を擦り合わせることで発生する音による錯乱攻撃もおこなってくるようです。敵の攻撃方法は多彩ですが、皆様が負けるようなことはないと思います」
 ですが、と一拍置いてから、受付係は集まった面々の顔をぐるりと見渡す。
「万が一、ということがあり得ないとも限りません。……油断なさいませぬように」
 受付係は言い含めるように、きっと視線を強めたのだった。


■参加者一覧
桔梗(ia0439
18歳・男・巫
タクト・ローランド(ia5373
20歳・男・シ
日野 大和(ia5715
22歳・男・志
痕離(ia6954
26歳・女・シ
柳ヶ瀬 雅(ia9470
19歳・女・巫
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
陽乃宮 沙姫(ib0006
21歳・女・魔
グリムバルド(ib0608
18歳・男・騎


■リプレイ本文

●注意喚起と敵情視察
「村の近くにアヤカシが出現したことは知っている?」
 村長である老人にそう訪ねたのは、桔梗(ia0439)であった。普段からあまり表情を変えることのない彼であるが、その紫の瞳には心配そうな色がありありと見てとれる。
 老人は重々しく頷き、ため息を吐いた。聞けば、依頼を出したのはこの老人であるという。村人たちに一応の注意をしてはいるが、開拓者たちの口から改めて注意をしてほしい、とのことであった。
 それを受けて村を回っているのは柳ヶ瀬 雅(ia9470)と賀 雨鈴(ia9967)である。
「アヤカシを退治し終えるまで、安全のため村にいてください」
 雅は穏やかな物腰でやわらかく微笑みながら、雅は一軒一軒丁寧に注意して回り。
「少しの間、村の外に出ちゃだめよ? 怖ーいアヤカシがいるからね」
 雨鈴は子供たちと目線を合わせるためにしゃがみ込んで、優しく注意を促した。

「‥‥どうやら林と道との間をうろうろしているみてぇだな。数は‥‥聞いた通り、か?」
 アヤカシたちに見つからない位置を見定め、そこから注意深く敵を観察しているのはタクト・ローランド(ia5373)だ。
「対象が出してるらしい音以外は特にないよ。他のアヤカシがいる可能性は低そうだね」
 耳に神経を集中させ、痕離(ia6954)はアヤカシの出す音から様子を探る。
 日野 大和(ia5715)もまたじっと林のあたりを見つめ、呟くように言った。
「‥‥ここからじゃ巣があるかどうかはわからないな」
 彼らの視線の先では、陽乃宮 沙姫(ib0006)とグリムバルド(ib0608)の二人が、アヤカシに見つからないよう細心の注意を払いながら、危険を示すための立て看板を設置している。
「んー‥‥こんなもんかな。ちょっと曲がってる?」
 看板から少し離れて、グリムバルトは首をひねる。
「念のためにストーンアタックを当てておいた方がいいかしら」
 沙姫は看板のすぐ横にある木をしげしげと眺めながら言った。木の上にアヤカシがいるならば、事前に倒しておいた方がいいだろう。
「これだけ近くにいて襲われないんだから、大丈夫じゃないかな」
 グリムバルドのセリフに、沙姫は下から枝の間を覗き込んだ。危惧すべき影は見当たらない。
「うーん‥‥それもそうね」
 反対側にも同じように看板を立てた後、アヤカシに気付かれる前に合流しようと、二人は周囲に充分注意を向けながら一旦村へと戻ったのである。

●毒を喰らわば
 各々が準備を終えたのを確認し、一行はアヤカシの出現場所へと向かった。
 待ち受けているのは、ギルドで聞いた通りのアヤカシたち。中でもひときわ大きい女王蜂は、周囲を忙しなく飛び回る蜂たちに守られるようにして、堂々たる風体で一行を待ち構えている。
「うっし、さっさと終わらせて帰るぞ。‥‥行くぜ、痕離」
 タクトは痕離に不敵に笑いかけながら、すらりと刀を引き抜いた。
「君の腕、頼りにしているよ?」
 応じるように、痕離も微笑を浮かべながら双剣を構える。
 そして女王蜂から一番離れた蜂に向かって、ほとんど同時に駆け出した。接近するなり、タクトは刀を振るって蜂の羽に斬りつける。
「できるだけ早く、片を付けたいものだ」
 タクトの背中を預かる形で位置取りしている痕離は、タクトの攻撃でバランスを崩している蜂にすばやい斬撃を与えた。
 アヤカシたちが大人しくしているはずもなく、怒ったように激しく羽をはばたかせながら開拓者たちへ攻撃を開始する。
「黙ってやられるわけにはいかない、ってことかしら」
 口元にかすかに笑みを浮かべながら、沙姫は襲い来る蜂にサンダーを放った。そう威力の強い技ではないが、怯ませるには充分である。
「さっさと駆除して、村の人達に安心してもらうとすっかね」
 グリムバルドは頭をかきながら、沙姫の攻撃で怯んだ敵にファルシオンによる重い一撃を喰らわせた。重撃は蜂の体を分断し、瘴気へと変えていく。
「‥‥春になったら、放牧地になったり、遊び場になったり、するのだろうか」
 広い野原をちらと横目で見てから、桔梗は蜂に術で攻撃を与えた。空間が歪み、蜂の体がいびつにねじれる。
「それならなおのこと、皆がけがする前に退治しないとね」
 仲間の勇気を奮い立たせるために武勇の曲を奏でながら、雨鈴は桔梗に応えるのだった。
「あまり人に見られたくなかったんだが‥‥。この汚い翼をな‥‥」
 そう言う大和の背には、深い黒色をした翼が表れている。感情がたかぶると現れる飾りとも言えるそれを、彼は瘴気の翼と呼んでいた。
「さて、当たるかどうか試してみるか」
 大和はとん、と軽く地面を蹴って、すぐ傍まで迫っていた蜂に蹴術を喰らわせる。鋭い蹴りは蜂の頭をもぎ取り、離れた胴体は湿った音を立てて地面へと落ちたのだった。
「村の安全のためにも、ちゃっちゃと片付けてしまいましょうね」
 道の方から誰かが来はしないかと、雅の意識が道の方へ向いた時である。一匹の蜂が、隙ありとばかりに彼女へと一直線に向かっていった。
 雅がその蜂に気付くより一瞬ほんの早く、蜂の毒針が彼女を襲う。
「きゃあっ!」
 雅がとっさに掲げた腕に、その針は容赦なく突き刺さった。
「雅‥‥!」
 瞳に危惧の色を浮かべた桔梗が、負傷した腕をおさえてうずくまる雅のもとへと駆け寄った。すぐさま解毒を施して神風恩寵で傷を癒す。
「すみません‥‥ありがとうございます」
 顔を歪めながら、雅は痛みに震える声で謝罪と礼を述べた。
 アヤカシとはいえもろい蜂は、彼ら開拓者の脅威とはならず、蜂たちはあっという間にその姿を瘴気へと変えていく。
 身の危険を察知したのか、それまで堂々たる構えで成り行きを見守っているふうだった女王蜂が、ついに動いた。およそ1メートルを超える、硬い甲殻に守られた体躯。
「ようやく女王のお出ましってわけか」
 闘志に爛々と瞳を輝かせるのはグリムバルド。雨鈴はどこかゆったりと霊鎧の歌を奏でながら、誰ともなしに呟くように言う。
「もうひと押しってところかしら?」
 威嚇するように羽をせわしくはばたかせている女王蜂を挟み込むようにして位置取るのは、タクトと痕離だ。共にタイミングをはかりながら、相手の出方を見る。
「そちらの針と僕の蜂‥‥どちらが上か試してみるかい?」
 女王蜂は鋭い爪を持った前脚を振り上げると、にやと不敵に笑う痕離に向かって振り下ろした。
「ふふ、遅いよ」
 瞬間木の葉が舞い、女王蜂の視界を遮る。痕離を見失った女王蜂は苛立ったように羽を激しく擦り合わせた。
 それはギルドで聞いた音による錯乱攻撃である。けれど雨鈴の曲で抵抗力が上がっている彼らには通じない。
「ご自慢の羽を燃やしてあげるわ」
 沙姫は言い、火球を投げつけた。女王蜂は突然の熱さに怯む。
「足止めくらいにはなるでしょうか」
 先ほどのお返しとばかりに、雅は女王蜂を術で攻撃した。歪んだ空間は、充分女王蜂の足止めとなる。
「これで火が点きゃ楽なんだがな‥‥」
 痕離が出現させた幻術である木の葉を見て、タクトはこっそりと溜め息を吐いた。そして痕離とアイコンタクトを取ると、もがく女王蜂に同時に火遁を放ったのである。
 いくら硬い甲殻を持とうとも、強烈な炎の前には盾ともならず。ごうごうと音を立てて燃え盛る炎に包まれ、女王蜂は熱さにもがいていた。そして線香花火のようにぼたりと墜落する。
「‥‥景気良く燃えておくれ、その毒もすべて‥‥ね」
 言いながら痕離はすっと後退した。彼女の後ろから姿を現したのは、太刀に紅の炎を纏わせた大和である。
「漆黒の翼の前に‥‥ひれ伏せ!」
 声と共に振り下ろされた太刀は、女王蜂を包む炎ごと断ち切ったのであった。

●毒、ついえて
 無事アヤカシを倒し終えた一行は、村へ報告に向かった雅とグリムバルドを除いた六人で、林やその周囲に巣がないかと見て回る。木の枝や地面なども注意深く確認していったが、アヤカシのものと思わしき巣は見当たらない。大和が敵の有無を心眼で確認したが、幸い残党もいないようであった。
 一行は一般人への被害を出さずに済んだことに安堵しながら、アヤカシの脅威が再びこの村に訪れぬように願うのであった。