素早さならば負けません
マスター名:神櫓斎
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/30 01:00



■オープニング本文

 男は痛むこめかみを指で押さえながら、深い溜め息を吐いた。
「どうしたものか‥‥」
 小さな村の中を、文字通り縦横無尽に跳び回るのは、小さな白い生き物――ウサギだ。
 ウサギ自体は以前から村の近くに生息しており、村の中でもちょくちょく目撃されていた。
 一羽や二羽なら可愛いのだが、こう数が多くては迷惑以外の何ものでもない。家から出るにも足元を確認してからでなければままならず、ともすれば家の中にまで入り込んで物陰に隠れては、跳び出して村人たちの肝を冷やしていた。
 農作物にも被害が出ており、村人たちは頭を抱えている。さらに村のあちらこちらに巣穴を掘るせいで、老人や子供が転倒する事故が相次いでいた。
 最近ではウサギに噛みつかれたとか引っ掻かれたという村人も出てきており、村としても放置しておくわけにはいかなくなっている。
 単なるウサギであるならば村人たちの手にも負えるのだが、どうやらこのウサギたちの中にはアヤカシが混じっているようなのだ。
 足元を跳ね回るウサギたちを見やり、男は再び溜め息を吐く。
「これはもう、我々の手には負えないな‥‥もう彼らに頼るしかない、か‥‥」
 男はうなだれたまま頭を振り、開拓者ギルドへ文を送ることを決めたのだった。


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
奈々月纏(ia0456
17歳・女・志
奈々月琉央(ia1012
18歳・男・サ
フィー(ia1048
15歳・女・巫
フィリン・ノークス(ia7997
10歳・女・弓
一心(ia8409
20歳・男・弓
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
犬子丸(ia9455
12歳・男・シ


■リプレイ本文

●圧巻
 村の中を所狭しとばかりに跳び回るウサギ。
「これはまたたくさん出たものだな‥‥」
 ある種壮観とも言える光景に、一心(ia8409)は苦笑交じりに呟いた。
「はわ!? わ!? なあなあ、琉央琉央ッ! めっちゃかわええ兎さんが仰山おるぅ!!」
「落ち着けって」
 藤村纏(ia0456)は、恋人である琉央(ia1012)の袖をぐいぐいと引っ張りながら、かわいいを連呼している。
「開拓者としての初陣じゃ、それを思うと緊張するのう」
 相手はウサギとはいえアヤカシ。緊張ぎみの犬子丸(ia9455)ではあるが、どことなく楽しそうでもあった。
「お姉ちゃんと一緒に依頼受けられて嬉しいっ♪」
「ん‥‥」
 フィリン・ノークス(ia7997)はフィー(ia1048)にぎゅっと嬉しそうに抱きつく。フィーもまたためらいがちにそっと妹の頭をなでた。
「被害が大きくなる前に片をつけるんだぞ」
 すっと二槍を構え、ルーティア(ia8760)は表情を引き締める。
「さ〜ってと、それじゃ狩りを始めますか」
 不敵に笑う緋桜丸(ia0026)の声を合図に、白く小さなアヤカシとの戦闘は開始したのであった。

●跳ね回る白
 相手の数が多いため、二人一組で行動することになった。
 効率よく倒していくために、北側は緋桜丸とルーティア、南側は藤村纏と琉央、東側はフィーとフィリン、西側は一心と犬子丸がそれぞれ担当することとなる。
「しっかしまあ、本当に多いな」
 得物を構えながら、緋桜丸は溜め息をついた。足元にまとわりついてくるウサギは、アヤカシか否か。
「注意をひいて判断するのは?」
「よし、やってみるか」
 ルーティアの提案に緋桜丸はすうっと大きく息を吸い。
「こっちだ、アヤカシども!」
 緋桜丸の声に、数匹のウサギがぴくりと反応する。ほとんどのウサギが驚いて逃げる中、その数羽だけが二人を警戒した様子で見ていた。
 よく見ればうっすらとではあるが瘴気をまとっている。
「あれがアヤカシだな」
 二振りの刀を構える緋桜丸。と、一匹のウサギが彼に飛びかかってきた。
 素早く刀を交差させて攻撃を防ぐと、そのまま押し切る形で斬り捨ていく。
「数は多いけど、弱いのが救いだな」
 背後ではルーティアが二槍を素早く突き出して一羽ずつ確実に仕留めていった。
「おっと」
 緋桜丸の背後に迫る影を見つけたルーティアは、すかさず槍を突き出す。
「油断は禁物、だぞ」
 にっと笑うルーティア。槍の先には瘴気をまとったウサギ。
 と、緋桜丸は瞬間的に間を詰め、ルーティアのそばの空間を一刀両断する。
 とさりと軽い音にルーティアが首をめぐらせれば、両断されたアヤカシが一羽横たわっていた。
「お互いさまだろ」
 緋桜丸とルーティアは顔を見合わせると、互いににっと不敵な笑みを浮かべたのである。

「この何割かがアヤカシやねんか。‥‥ちょっと区別つくか不安なところやね?」
 周囲を見回しながら、纏は顎に手を添えて小首を傾げた。
 琉央は盾を構えて纏に注意を促す。
「纏、いくぞ。気を付けろよ」
 ウサギたちが掘ったらしい穴は、視界に入るだけでも十数ヶ所はあった。
 足を取られるようなことがあっては、アヤカシたちに攻撃のチャンスを与えることに他ならない。
「相手をしてやる!」
 琉央は足元に充分注意しながら、アヤカシの気を引くために声を上げた。
 途端、数匹のウサギたちが跳びかかってくる。
 構えた盾で攻撃を防ぎ、払う。
「攻撃するんは気が引けるけど、アヤカシはアヤカシやもんね。村の人に被害も出てるそうやし」
 アヤカシに素早い一撃をくらわせながら、纏は残念そうに呟いた。
「きゃっ!?」
「どうした!」
 纏が上げた小さな悲鳴に、琉央は慌てて振り向く。どうやら穴に足を取られてバランスを崩し、尻もちをついてしまったらしい。
 チャンスとばかりに纏に襲いかかるアヤカシ。咄嗟に刀を薙ぐことで、どうにか攻撃を受けることは免れた。
「はー、危なかったわぁ」
「だから注意しただろ? ‥‥けがはないか?」
 ほうと安堵の息を吐く纏に手を差し伸べる琉央もまた、安堵の表情を浮かべている。
「心配してくれて嬉しいわぁ。おおきに」
 纏はにこりと笑い、その手を取るのだった。

 まるで耳のような癖っ毛をぴこぴこと揺らしながら、フィーリンは満面の笑みを浮かべていた。
「頑張ろうね、お姉ちゃんっ」
 フィーはこくりと頷きながら周囲に目を凝らし、ウサギがアヤカシか否かを瘴索結界を使って見極めている。
「‥‥あっちと‥‥そこのウサギ‥‥」
 フィーがすっと指さした先には、うっすらと瘴気をまとったウサギが数羽、じっと彼女たちを見つめていた。
「まかせてっ」
 意気揚々と弩を構え、狙いを定めるフィーリン。鋭い視線をアヤカシに向け。
「矢をプレゼントだよ♪」
 放たれた矢はアヤカシの頭部を射抜いて地面に横たわらせた。
「‥‥きゅっとやって‥‥どかーん‥‥」
 ぽそりと呟いて、フィーも術を放っていく。
 視認できる範囲のアヤカシを倒し終えた二人は、途中で見つけた巣穴の確認に向かった。
 フィーは瘴索結界でその巣穴の中を探る。
「‥‥ん‥‥いないみたい‥‥」
「そっか、よかった。‥‥みんなはもう終わったのかな?」
 弩を下ろし、フィーリンは村の中央に視線を向けた。

 一心と犬子丸は、事前に準備してきた網を使った罠を仕掛けているところだった。
 穴の多い一角に当たりをつけて、地面と平行に張っていく。
「アヤカシが逃げた場合、罠に向かうように仕向けよう」
「ここに追い込めばいいんじゃな?」
 一心に向かって犬子丸は力強く頷いた。短刀の柄に手をかけ、臨戦態勢をとる。
 ふと犬子丸は、視界の隅を走る影に気付いた。視線をやれば、うっすらと瘴気をまとったウサギが悠々と跳ねている。
「そこのアヤカシ、覚悟せい!」
 びしっ! と指をさし、犬子丸は駆け出した。けれどおとなしく待ってくれるわけなどなく。
「待つのじゃー!」
 案の定追いかけまわす羽目になってしまう。
「犬子丸殿、そのまま罠の方へ!」
「りょ、了解じゃ!」
 一心の声にはたと我に帰った犬子丸は、どうにかアヤカシを罠へと誘導し。
 追い立てられたアヤカシたちは、二人が仕掛けた罠に見事にかかった。
「あまり時間をかけては、アヤカシが増えるとも限らないからな」
 アヤカシたちが逃げないようにと一心はすばやく網をまとめ、一心は弓矢で、犬子丸は手裏剣で一羽ずつ確実に仕留めていく。
「そろそろ他の組も終わったころだろう」
「そうじゃな」
 一心の言葉に頷きながら、犬子丸はおもむろに懐から紙を取り出した。
「犬子丸殿、何を?」
「うむ、ウサギの巣穴を記した地図を作ろうと思うてな。‥‥意味はないかもしれぬが、もしかすると何かの役に立つかもしれないじゃろう?」
 犬子丸はにこりと笑い、一人黙々と地図の作成にいそしむのであった。

●村の名物に
 すべてのアヤカシが片付いた後、一行は村中に開けられた巣穴を埋めて回った。
 普通のウサギが棲んでいるような穴は、老人や子供がつまずくなどの危険が生じる可能性がある場所を除いて残しておく。
 ウサギの巣穴は迷路のようになっているというが、アヤカシが掘った穴はそれほど深さのないものがほとんどであった。
「しかし、普通のウサギに被害がなくて何よりだな」
 手に付いた土を洗い流しながら、一心は言う。しっかりと判断したおかげで、どこの組でも普通のウサギたちに被害は出なかったのである。
「そうだな。‥‥被害があっちゃ、寝覚めも悪いだろうし」
 手拭いで手を拭いながら、緋桜丸は頷きながら笑みを浮かべた。
「‥‥ウサギ‥‥かわいい‥‥」
「ふわぁ〜‥‥ウサギってあったかいねぇ〜♪」
 フィーとフィリンの姉妹は、ウサギを抱き上げて嬉しそうに笑い合っている。
 時折その背中に顔を近付けては、もふもふとした感触を楽しんでいる様子だ。
「ほんま、かわええねぇ」
 ウサギを抱き上げてほくほく顔なのは纏である。すぐそばでは琉央が、仕方ないな、というふうに苦笑を浮かべていた。
「きちんと環境を整えて管理すれば、うまくすればウサギが村の名物になるかもしれないな」
 後で村長に提案しておこうと、ルーティアは腕を組みひとり頷く。
「もしかしたら、これが役に立つかもしれぬのう」
 犬子丸は完成した地図を眺め、にっこりと微笑みを浮かべたのだった。

 ウサギとふれあうことができる『白兎の村』が誕生するのは、それから数ヵ月後のことである。