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■オープニング本文 それは、先月の本の買い出しの時、草紙問屋の主人からおまけにと貰ったモノ。 「なんでも、朱雀寮の卒業生が亡くなって、その本が売られた時、中に挟まっていたのだそうです。なんだか地図というか建物の図面のようで‥‥、興味があればどうぞ」 と朱雀寮の図書委員達に渡された古い地図を見つめていた図書委員会副委員長は大きく頷くと 「やっぱりそうですね。面白くなりそうです」 楽しげに微笑んだのだった。 「大掃除‥‥ですか?」 月に一度の委員会活動の日。 一年生達を迎えに行った二年生達はそう、と後輩達に頷いた。 「そうなりよ。一二月の委員会活動は去年と同じで年に一度の朱雀寮大掃除なのだ!」 朱雀寮の基本的な清掃は職員が行っている。 とはいえ自分の学び舎の掃除を学年でも掃除しているが、なかでも年に一度の大掃除は大掛かりなものになると去年の保健委員長は言っていた。 「先日の買い出しの時に補充した薬品を整理していざと言う時直ぐに使用できるようにしないといけません。本格的な冬に入る前に薬草園の手入れもしなくてはなりませんし。忙しいですよ」 「調理委員会は台所の大掃除ね。こまめに掃除して綺麗にしているつもりだけど、日々の汚れって結構溜まっているものなのよ」 「体育委員会は教室や廊下とかの掃除。あと、各委員会の手伝い。担当が決まってない分、仕事は探せばいくらでもある。しっかりやれよ」 今月には戻ってくるだろうが長期実習中の三年生に変わり、二年生達が一年生に指示を出す。 『用具委員会は用具倉庫の大掃除ですね。用具倉庫はいつも使っているところ以外にもいくつかあって、私も全ては把握していないのです。これを気にしっかり確認して掃除をしましょう』 ふむ。 「ん? どうしたの?」 図書委員会副委員長の小さな声に気付いた同輩がそんな声をかけた。 「いえ、図書委員会が図書室の整理と掃除、虫干しをするのはいつも通りなのですが、皆さんにちょっとご相談したいことがあるのです。特に用具委員さん」 『えっ?』「はあ?」 首を傾げる用具委員二年と仲間の前で、彼女は一枚の古い紙を広げた。 「これは?」 「この間、本の買い出しに行ったとき本屋さんから貰った紙です。なんだか古地図のようなものなのでちょっと調べていたのですけどね。どうやらこれは朱雀寮の地図っぽいのですよ。で、ここに書付けがあって‥‥」 皆で紙を覗き込む。 紙の端にはこう書かれてあった。 『この紙を手にせしもの。謎を解き辿り着くべし。 一.せあおひす やすねわ 二.ろめ いへは 三.てわ そそろ 四.からきを いとろき はじまりは入口。朱き鳥が汝らを導く。 仮名唄と共に進むべし』 なんだか謎めいている。 「謎を解いて辿りつけとあるのです。 でも人が簡単に入れるところに何か解りませんが、隠すなんてことできないでしょう? きっと倉庫とか、もしくはどこかに埋められているのではないかと思うのですよ。ちょっと解読に協力して貰えません? そして一緒に宝探し、してみませんか?」 図書委員会副委員長はそう言うと楽しげに笑った。 古い地図。それに宝と言う言葉には人の心を浮き立たせる何かがあるようだ。 確かに興味はある。 「仮名唄ってなんだろうね? あいうえおじゃないよね」 「はじまりは入口って、どういう意味?」 もう、皆、顔を寄せ合い意見を交わしている。 「おいおい、掃除は忘れるなよ〜」 背後から担当教官の声が聞こえるが、果たして聞いているかどうか。 かくして朱雀寮の宝探しが始まったのだった。 ちなみに第一の暗号を解くとこんな紙が見つかる。 『皆の笑顔を作る場所。駄伊怒湖絽 祖戸 馬津野来乃史他』 第二の暗号が指し示す先では 「薬草園。水と二と仲良くなれないけれど、湯と九とは仲良しさん。 おいしい彼女の名札の下を探して」 というカードが見つかった。 その場所で見つかった紙にはこうかかれてあった。 「仕事に使われない委員会室。裏しかなくて表のない場所」 さらにそこ探すとこんな紙と鍵の入った箱を手にすることになるのだ。 『第十三用具倉庫 宝が目の前で君を待っている。 手に持っている鍵で扉は開く。 でも、良く考えて。宝はどこ? 貴方の前には四つの扉。 色はそれぞれ白赤青黄色。 中はそれぞれ宝と本と物置とゴミ。 開けていいのは一度だけ。かたっぱしから開けてみようなんてそんなズルはしてはいけない。 そんな君にヒントをあげよう。 一つの部屋は整頓好き。一つの部屋は綺麗に並び、一つの部屋は掃除が嫌い。一つの部屋が君を待つ。 青の部屋は掃除が嫌い。だから綺麗で静かなその部屋は青の部屋の一つ先。 宝の部屋は恥ずかしがり屋。右か左の端にある。 ゴミの部屋の次の扉は黄色い色。実は掃除をしやすいから。 物置の、隣の部屋は赤じゃない。宝の部屋でも実はない。 我が寮の仲間よ。 君に幸せがあらんことを』 最終目的地の十三倉庫には色々な色の扉の小さな部屋がたくさんある倉庫だった。 四つの扉が正しい色合いで並んでいるところを見つけられれば、何かが、ひょっとしたら宝が見つかるのかもしれない。 さて、寮生達は無事謎を解き、目的地にたどり着けるだろうか? 宝を見つけられるだろうか? あれ? 掃除は? |
■参加者一覧 / 芦屋 璃凛(ia0303) / 俳沢折々(ia0401) / 青嵐(ia0508) / 蒼詠(ia0827) / 玉櫛・静音(ia0872) / 喪越(ia1670) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 平野 譲治(ia5226) / 劫光(ia9510) / 尾花 紫乃(ia9951) / サラターシャ(ib0373) / アッピン(ib0840) / 真名(ib1222) / 尾花 朔(ib1268) / クラリッサ・ヴェルト(ib7001) / カミール リリス(ib7039) / ピークアブー(ib8320) |
■リプレイ本文 ●朱雀寮大掃除再び 朱雀寮は言うまでもないが朱雀をシンボルとしている。 そして朱雀は炎を司ると言われる霊獣だ。 そのおかげと言う訳でも無いだろうが、朱雀寮の大事な行事の時に雨に祟られた事はあまりない。 今回も年に一度の朱雀寮大掃除の日。 12月には珍しく暖かくのどかな天気に恵まれたその日、図書室では 「〜〜♪〜♪〜〜」 楽しげに雑巾を動かしながらアッピン(ib0840)図書委員会副委員長が本棚の埃を 取っていた。 「まずは乾拭き、それから水拭き〜」 「埃がかからないように気を付けて下さいね〜」 既に本棚の本の殆どは外に運び出されていて、その側で 「サラちゃん。本の扱いはそっと丁寧に。下に蓆を引いて並べてね。カミールちゃんは和綴じの本の紐を一度解いて、もう一度しっかりと結びなおして。でも、あんまりきつくはしないこと」 「はい。先輩」 「解りました。こう…でしょうか?」 俳沢折々(ia0401)に指導を受けながらサラターシャ(ib0373)とカミール リリス (ib7039)は本を木陰に出した机の上に丁寧に並べていった。 「そうそう、その調子。いつもお世話になってる自分達の学び舎だもの。ちゃんと綺麗にしてあげないとね。本を出したらまず水を使った掃除。本棚が完全に乾かないと本を戻せないから」 「はい」 頷く二人の様子を見ながらクラリッサ・ヴェルト(ib7001)は一足先に手に持った雑巾を水に浸して固く絞る。 手にピンと水の冷たさが刺さるようだ。 「もう冬…。今年ももうすぐ終わりかぁ…」 「うん、もうすぐ一年も終わりだね。確か去年の大掃除の時はねずみが出たんだっけ…。あれからもう一年経つんだ。去年もこうやって本の虫干し、やったんだよね。先輩に本の扱い方、教わって…」 思い出す様に折々は微笑する。一年生達は知らない先輩の事だから、正直あまりピンとは来ないのだが…。 「先輩の先輩、ですか?」 「そう。小さくて可愛かったですよ〜。伊織先輩は」 アッピンも楽しそうだ。 パタパタと尾花朔(ib1268)のハタキも踊っている。 自分もいつか、先輩達の事をこんな風に語り後輩に仕事を教えるのだろうかと一年は思う。 そんなこんなで午前中、皆で一生懸命仕事をしたので図書室の掃除と本棚の整理はあらかた終わった。 そしてもうすぐお昼休みだと言う頃 『アッピンさん、そろそろいいですか?』 トントンとノックの音と一緒に入ってきた人を見て 「あ、はい。折々ちゃん、ちょっとここお願いしてもいいですか? 少し、出てきたいのですが…」 手に持った雑巾をおくとアッピンが折々にそう声をかけた。 「あ、青嵐(ia0508)君、紫乃ちゃん。うん、一区切りはついたからいいけど、なあに?」 客は同じ寮生達。その一人泉宮 紫乃(ia9951)は 「これです。以前伺った…」 とあの「紙」を差し出した。 「あ、例の暗号ってやつ?」 「そうです〜。課題が始まる前にちょっと探してみようと思いまして〜。でも宝探しも謎解きも得意ではないんですけどね〜。それで皆さんに相談してみたんです〜」 「第一の暗号は解けました。それで調べてみたいと思いまして。アッピンさんをお借りしてもいいでしょうか?」 「いいよ。行ってらっしゃい」 あっさりと折々は頷くと手をひらひらと振った。 「皆も興味あるなら行ってきてもいいよ〜。本を取り込む夕方までには戻って来てねえ〜」 折々の言葉に好奇心の背を押されたのかサラターシャとカミールも軽く頭を下げるとアッピン達の後を追って行った。 「もう…別に逃げるわけじゃないんだから掃除終わってからでもいいのに」 「まあまあ、楽しそうじゃない。私も後で覗きに行くつもりだからクラリッサちゃんも行って来たら?」 少し呆れたようにため息をついたクラリッサであるが、そこは朱雀寮の寮生である。 好奇心と興味は十二分にあるが、掃除を放り出して行くのには抵抗があって…。 「まあ、後で時間があったら…」 「いい子だね。じゃあ、後で一緒に行ってみようか?」 褒められて頭を撫でられて。 「は、はい。じゃあ、掃除…早くやってしまいましょう」 慌てて背を向けたクラリッサに折々は小さく優しく微笑んだのだった。 ●台所のばつの木? 『一.せあおひす やすねわ 二.ろめ いへは 三.てわ そそろ 四.からきを いとろき はじまりは入口。朱き鳥が汝らを導く。 仮名唄と共に進むべし』 『ここにある仮名歌、はいろは歌を指しているのだと思います。そして始まりは入口と言う言葉は最初の言葉が、朱雀寮の入口、朱雀門を表していると言う事…ではないでしょうか?』 暗号を解読した青嵐が仲間達にそう教えた。 「んじゃあ、進むってのは?」 首を傾げる喪越(ia1670)に補足するように続けたのは、紫乃だ。 「文の最初に数字が付いています。その文字から数字の数だけいろは歌を前に進んで、ということです」 「う〜ん、さっぱりわけわかめ?」 頭に疑問符を飛ばす喪越とは正反対に、ああ、と朔は手を叩いた。 「やっと意味が解りました。つまり一番初めの『せ』は一文字先の『す』二行目の『ろ』は二つ先の『に』と読むのですね」 そうすると確かに文が浮かび上がってくる。 すさくもん まんなか にし はちほ きた ななほ そのした ほるへし 「朱雀門 真ん中、西八歩 北七歩 その下、掘るべし…ここか?」 トントンと足元を叩いた劫光(ia9510)がスコップを握る。軽く土を掘って暫し。 「箱だ」 「お見事です。紫乃さん。凄いですね」 歓声と笑顔の中、出てきた古い木箱を開けるとまた紙が現れる。 『皆の笑顔を作る場所。駄伊怒湖絽 祖戸 馬津野来乃史他』 また、暗号であるが今度は 「ああ、覚えがあります〜」 二年生達の中に明るい声が弾けた。 「覚え、と言いますと?」 「私達が一年生の時に、図書委員会の歓迎会で暗号クイズをやったんですよ。その時に似た感じの問題が出たんです。ようするに漢字の頭の文字を拾って行くので…」 「だいどころ、外、ばつの木の下、ってなんか冗談か〜?」 『ばつ、ではなくて松でしょう? ほら、行きますよ!』 一行が食堂、台所に着いた時 「綺麗に磨いてあげるわね。うん、美人さん。いつもありがとう」 調理委員会副委員長 真名(ib1222)は力を入れて鍋を磨いているところであった。 一生懸命に、本当に懸命に磨いていたので 「真名さん!」 朔と紫乃が彼女を呼ぶまで、二人や台所の外の喧騒に真名は気付かなかったようである。 「あ、どうしたの? みんなして」 寮生が大勢集待っている様子に首を傾げた真名は皆の話を聞き、ああ、と笑う。 「ばつの木ならあそこじゃない?」 「えっ? 松の木ではなく?」 首を傾げる紫乃は真名の指の先を見た。そこには二本の松の木が寄り添う様に立っている。 「ああ、なるほど。この方向から見ると二本の松がバツを象るように見えるのですね」 「なら、この根元…ってか?」 喪越が松の根元を調べるとまた木の箱があった。 中にはやはり紙が入っている。 『薬草園。水と二と仲良くなれないけれど、湯と九とは仲良しさん。 おいしい彼女の名札の下を探して』 「なんでしょう? これは、なぞなぞでしょうか?」 「よく解りませんが薬草園とあるのですから、薬草園に行ってみましょうか? 真名さんも行きませんか?」 朔の手が真名に向けて差し出される。しかし 「ゴメン。興味あるけど時間ないなあ〜。後で何があったか教えて」 彼女は首を横に振った。 「解りました。また後で…」 無理に誘わず先に進んでいく仲間と二人を見送って 「さあ、大掃除、大掃除。悩んでる暇なんてないのが嬉しいわ。彼方君。興味があるなら後で行ってもいいから区切りがつくまでもう少し頑張ってね!」 「はい!」 真名は服の袖を大きく捲り上げたのだった。 ●薬草園のびわ 「あら、お二人とも。もういいんですか?」 保健委員会副委員長、玉櫛・静音(ia0872)は昼食を終えて戻ってきた保健室で既に作業に戻っている瀬崎 静乃(ia4468)と蒼詠(ia0827)にちょっと驚いたように目を見開いた。 「まだお昼の時間は残っていますよ。午前中一生懸命働いて下さったんですからもう少し、ゆっくりしていても良かったのに」 「保健室の…整理、あと少しだったから。午後からは、薬草園の草むしりと整備…したいでしょ」 「僕は薬の名前を覚えようと思って…。教えて貰えるいい機会ですから」 「そうですか」 頼もしい仲間に感謝を含んだ笑みを向けると静音も作業に戻る。 正確には戻ろうとしたになる。丁度そこに窓の外から 「失礼します。ちょっとよろしいですか?」 聞きなれた声がかかったから、である。 「紫乃さん。皆さんも何かあったのですか?」 集まっている寮生達にそう問い、返ってきた答えと 「薬草園への入場を許可して貰えますか?」 という質問に 「ええ、わかりました。許可致します」 静音は頷いた。と、同時に外への扉を開け、上着を羽織る。 「私も同行します。皆さんも行きませんか? 午後からは薬草園での作業ですから…」 「…私は、ここに区切りを付けちゃう。蒼詠君…行ってきていいよ」 「行こうよ! 用具委員会は皆で宝探ししてるんだ」「僕も少しだけ抜けて来たから。ね?」 「えっと、じゃあ、はい。すみません。ちょっと行ってきます」 静乃は残り、蒼詠は半ば拉致られるように引っ張られていった。 「それは、ビワだと思います」 問題を聞き静音はあっさりそう答えた。 「ああ、なるほど。ゆ「びわ」く「びわ」というわけですね」 蒼詠が頷くと薬草園の端にビワの木が見えてきた。 「あ! 白い花が咲いてる〜」 「ビワの花期は丁度冬なんです。冬に咲く珍しい花の一つなんですよ」 静音の言うとおり青々とした緑の葉に小さいが可憐な花が房のように集まって咲いている。 「ビワは葉も実も薬効が高く優れています。薬草園にも数本植えられていますが、名札というか立札は一つだけですね」 指差された先には小さな札が確かに立てられている。木の下を掘るのは良くない事だが名札の下なら問題あるまい。 「ここは私に掘らせて下さい。失礼します…」 「あ、お手伝いします」 紫乃が膝を付くと蒼詠も寄り添う様にして名札の下を掘った。 「この暗号は寮内を熟知していないと作れない、きっと先輩が作った気がします。だから、何があるか。何が待っているのか。楽しみです」 「そうですね。あ、ありました…」 真っ黒になった二人の手から差し出されたのは今までと同じ箱。そしてその中にはやはり紙があった。 『仕事に使われない委員会室。裏しかなくて表のない場所』 「仕事に使われない委員会室?」 首を捻る蒼詠の背中を劫光がポン、と叩く。 「じゃあ、うちのところだな。今頃譲治達も戻ってる筈。よし! 行くか!」 「わわっ! 待って下さい!!」 劫光に手を引かれ、仲間達に背を押され助けを求めるように後ろを振り返った蒼詠に静音は笑顔で手を振った。 「終わったら戻って来て下さいね」 友人同士のお楽しみもあっていいだろう。そう思いながら保健委員会副委員長は手を振ると 「さて、静音さんの所に戻りましょうか」 少し大きく伸びをして自分の友人の所へと帰っていったのだった。 ●仕事に使われない部屋の表と裏 午前中忙しく働いたお昼休み。 「ふう〜。大変だったなりね〜。大丈夫なりか? 璃凛」 大きな腰掛椅子にボンと身体を預けた平野 譲治(ia5226)は気遣う様に少し離れた椅子でへばっている芦屋 璃凛(ia0303)に声をかけた。 「いえいえ。先輩の方がすっごい働いてたでしょ〜。大丈夫です?」 「劫光が訓練室や実習室掃除しといてくれたみたいなりから、普段行き届かない所を〜と思ったのだ」 「でも、騎獣小屋は広いし臭いし、一人じゃ大変だったんじゃないですか?」 「いやいや。凛や朱里が手伝ってくれたなりから〜、ん、およ?」 食堂で物色してきたお菓子を摘まみながら雑談。そんな昼休み休憩中。 外が急に騒がしくなったのを感じて、二人が入口の方を見た時、扉が大きく開いた。 「邪魔するぞ」 「ありゃ? リリス。皆も何してるの…?」 「ちょっと宝探しをしてるんだ」 「お宝?」 飛び起きた譲治に劫光が事情を説明する中、一緒に入ってきた寮生達は委員会室の中をあちらこちら探し始める。 「裏しかなくて表のない場所…。おもてなし、で応接室かと思ったのですが…」 「委員会室ですからね、そんな応接室とか色々分けてあるわけでは無いでしょうけれど…ここじゃないんでしょうか?」 あちらこちら探すが目的の物は見つからないらしい。 「いっそ裏庭とかかもしれません。表庭とは言わないものですし…」 サラターシャがそう言った時だ。紙をじっと見ていた譲治がふと呟いた。 「屋根裏、じゃないなりか?」 「え?」「へ?」『あっ?』 寮生達が目を瞬かせる。 「だって探すのは委員会『室』なのだ。そして応接室なんて誰でも入れるところに宝箱はおかないもんなりよ。さぶろーならともかく、おいらたちは掃除もちゃんとしてるし」 三郎と言うのは先代の体育委員長で、この部屋を無茶苦茶に散らかしていたことがあるのだが、そこまで説明する必要は今は、ないだろう。 確かに、と顔を見合わせた仲間達に譲治はさらに続けた。 「ついでに言えば『裏しかない』ってことは『裏がある場所』じゃないといけないなりよ。応接室は『おもてなし』ではあっても裏は無い。委員会室に裏のある場所は屋根裏だけなり!」 パチパチパチ。知らず拍手が上がった。こういうなぞなぞは子供の方が解るものなのかもしれない。 「っていうか実は、さっき屋根裏掃除した時それらしいのもう見つけたのだ」 ガクッ。 「後で皆に見せてあげようと思ったのだ」 そう言って差し出された箱からはまた紙が出てきた。そして、今度は鍵も。 「どうやらこれが最後みたいですね〜。第十三用具倉庫だそうですよ。行きましょうか〜。急げば昼休みそんなに遅れずに仕事に戻れます〜」 「おう!」 と手を挙げる寮生達。一年生達は後からやってきたクラリッサと璃凛を加え全員揃ったのでさらに賑やかだ。 「謎解きと言うのは難しいものですね」 「なに難しい顔してるの? あんまりそんな顔してるとふけるよ」 「老ける…な訳ないでしょう」 「じゃあ、璃凛さんも最後の謎、一緒に解きに行きましょう」 「さては、何も考えないのでは無いですか?」 「そっ、そんな訳無いって…。解いて…みせ…るよ。先輩、行ってきていい?」 「おいらも、もちょっと休憩してから仕事に行くなりからいいのだ。がんばれ〜なり!」 譲治に劫光はいいのか? と小さく声をかける。 いつもなら真っ先に飛び出して行きそうなのに。 「う〜ん、今回はちょっと出遅れたし、掃除もしなきゃなんないし、先輩もいないなりからね。またの機会になのだ。なんかいいもの見つけたらお土産よろなのだ」 「解った。じゃあ後でな」 そう言って仲間達の後を追いかけていく劫光の背中に譲治は軽く手を振って見送ったのだった。 ●用具倉庫の宝部屋 『第十三用具倉庫 宝が目の前で君を待っている。 手に持っている鍵で扉は開く。 でも、良く考えて。宝はどこ? 貴方の前には四つの扉。 色はそれぞれ白赤青黄色。 中はそれぞれ宝と本と物置とゴミ。 開けていいのは一度だけ。かたっぱしから開けてみようなんてそんなズルはしてはいけない。 そんな君にヒントをあげよう。 一つの部屋は整頓好き。一つの部屋は綺麗に並び、一つの部屋は掃除が嫌い。一つの部屋が君を待つ。 青の部屋は掃除が嫌い。だから綺麗で静かなその部屋は青の部屋の一つ先。 宝の部屋は恥ずかしがり屋。右か左の端にある。 ゴミの部屋の次の扉は黄色い色。実は掃除をしやすいから。 物置の、隣の部屋は赤じゃない。宝の部屋でも実はない。 我が寮の仲間よ。 君に幸せがあらんことを』 普段用具委員会でも滅多に足を踏み入れない第13用具倉庫は小さな部屋がいっぱい並んだ倉庫であった。その倉庫は扉が四室ずつ並び色分けされている。 この中から正しい色合いの並びを見つけ出し、宝の部屋を探し当てる必要があるわけだ。この最後の謎解き。意見は実は二つに分かれた。 白赤青黄 白=本 赤=物置 青=ゴミ 黄=宝 という意見と 赤(宝)・青(ゴミ)・黄(物置)・白(本) という意見。 「端が本か宝であるのは間違いありません。そして青の部屋の横が物置で一つ先が本の部屋なのですから一番手前が白、つまり本の部屋で、奥が宝だと思うのですが……」 「あ〜。なるほど解釈の違いだな。先というのを手前に見るか奥に見るか。俺は先ちゅーのは前に進むことだと思うから白が奥で前が赤を推すぜ」 そうして彼らは手分けして二種類の色の並びの扉を探した。 結果… 『ふむ、この並びしかないようですね』 赤、青、黄、白の並びの扉を見つけたのだった。 白、赤、青、黄の並びの扉は無い。 「なら〜、この赤い扉が宝の部屋でしょうか〜。開けてみましょうね〜」 鍵を握りしめたアッピンが赤の扉のカギ穴に鍵を指すと小さく音がして鍵が回った。 「開いた!」 そして扉の開いた先には…。 ●それぞれのお宝 「へえ〜。それじゃあ、そこは先輩達が残して行ったアイテム部屋だったんだ〜」 図書室に戻ってきたアッピンの説明に折々は感心したように頷く。 「そうなんですぅ〜。いろんな品物が、もう雑多にあって、メモが壁に貼ってありましたよ〜」 『ようこそ、ここまでたどり着いた我が友、我らが仲間よ。 ここにある物は先達からの贈り物。 一人一つ、ご笑納されて貴殿の勉学に役立てられたし』 「と、言うわけでこれ、お土産です〜」 折々に差し出されたのは羽根ペンだった。確かに勉強の役にたてられそうだ。 「皆は何貰ってきたの?」 「私は、この水袋を。変わったものでしたので」 「私達はぬいぐるみを…」 見れば図書室にぬいぐるみが二つ飾られてある。 一つはとらで、もう一つはもふらのぬいぐるみ。 「璃凛にはうさぎを押し付けました〜」 明るくカミールが笑う。 彼女が喜んでいるのか悲しんでいるかは解らないが、どんな顔をしてうさぎのぬいぐるみを見ているかは想像するに楽しい。 「朔君は調理道具セットなんだ」 「はい。手入れが良くて便利そうだったので、つい」 「聞くところによると〜。この暗号は何年も前の図書委員の先輩が作ったものらしいですよ〜。図書室の本の、あんまり人が読みそうにない本に何枚か今も挟んであるらしいとの事でした〜」 「でも、たいてい一学年に一人は見つけて、全員で宝探しすることになるっぽいですね。学校再発見みたいで、確かに楽しいことでした」 言いながら朔は紫乃の言葉を思い出す。 『この暗号は寮内を熟知していないと作れない…』 「来年に向けて、私達も暗号、考えませんか? この暗号もかなり長く使われているものでしょうから。皆さんと考え、寮をぐるっと回る、楽しい物を」 その言葉に折々はそれいいね、と笑いはじめる。 だったら、どんなのがいいだろうと考えながら本を片づける図書委員達を見つめるアッピンの胸には紺碧の勾玉が夕日の光を弾いて揺れていた。 宝探しの顛末を話し 「これはお二人にお土産です。どうぞ」 紫乃は静音に羽根飾りを、静乃にコサージュを差し出した。 「貰ってよろしいのですか?」 「僕も…役に立ってないから宝はいいと思ったんですけど…彼方君と清心君に捕まってこれ、被らされちゃって…。だから貰って下さい」 顔を赤らめた蒼詠の頭には可愛らしいもふら帽子がある。 「何がだから、か解らないけど…。ありがとう」 「では、せっかくなので頂いておきますね」 二人は先輩と同輩と、後輩の優しい気持ちを手に取った。 「じゃあ、頑張って掃除を終えてしまいましょう。璃凛さんや体育委員の皆さんも手伝いに来て下っていますし」 立ち上がり、外に出ようとする紫乃にふと呼び止め静音は聞いた。 「紫乃さんは何を貰ったんですか?」 「保健室に、とも思ったのですが、ここにはあまり匂いの強いものは合わないので。後で皆の笑顔の集まるところでご覧になって下さい」 「?」 そう言って笑った紫乃の笑顔は春を待つ花のようだった。 「それで、彼方君は何を貰ったの?」 大掃除を終えた食堂と台所で、真名は彼方にそう聞いた。 「僕は呼子笛です。何かあった時に役にたちそうだから」 「ふ〜ん。良かったじゃない?」 言いながら竃から下ろした鍋を、そっとテーブルの上に乗せる。 「後はこれを冷ましてっと。じゃあ、私は図書室に本を借りに行って来るから後をよろしくね」 三角巾を取り、乱れた髪を螺鈿の櫛で直した真名にはい、と彼方は頷く。 「夕方には皆、食堂に来るでしょうから、詳しく話を聞くわね」 そして歩き出した真名は食堂にふんわりと薫る春の匂いを感じ、足を止めた。 さっき、この櫛を持ってきてくれた紫乃のからのこれもお土産だ。 「まだ冬は来たばかりだけど、冬が来たなら春も遠くないってね」 一度だけ伏せた顔を前に向けて真名は歩き出した。 そして用具委員会室。 『用具委員会、総員傾注!』 集まった用具委員達を前に副委員長が檄を飛ばす。 『さて! いろいろ巡る事はできましたし、今回は使っていない用具室を中心に大清掃!ですよ。 己の得物は持ちましたか? 掃除の神様にお祈りは? 部屋の隅の埃を心行くまで排除する心の準備はOK?』 どこまで本気か冗談か解らない言葉と様子にわあ、と清心は顔を顰めた。 「副委員長なんだか凄いですね〜」 「ああ、いつになく廃テンションだな。最後の問題落としたことがそんなに悔しかったか…」 『そこ! 静粛に! 無駄口は叩かない』 バシンと乾いた音が部屋に響く。副委員長青嵐が己の得物でテーブルを叩いた音だ。 「はい!」 思わず背が伸びてしまうのは条件反射というかお約束、だろうか。 『逃亡は不覚悟とみなします。さぁ諸君、掃除をするぞ!』 「おう!」 鬨の声と共に動き出す委員達。その中で一人喪越は鳴きまねをする。 「せっかく貰った花札でいいんちょと遊ぼうと思ったのに〜」 『それは後! 今日は一人でも遊ばせておく時間は無いのですよ。さあ、働きなさい!』 バシーンともう一度高い音が響く。ハリセンが喪越の尻を狙う。 「うわ〜ん。誰だ。こいつにハリセンなんか持たせた奴は〜〜」 今度は本当に泣きながら走り出した喪越を腕組みして見つめる青嵐の手にはハリセン「笑神」が握られていた。 「感謝、感謝なりね」 丁寧に。丁寧の上にも丁寧に。 見えないところまで隅々と掃除をする譲治の前で、カタン。小さな音が鳴った。 顔を上げた譲治の前に差し出されたのは小さな張り子のもふらと暖かい湯のみとである。 「お疲れさん。土産だよ」 「肉まんもあるぞ」 「ありがとうなのだ。劫光。三郎〜」 土産と差し入れを差し出した人物達に、嬉しそうに譲治は声をかけると作業の手を止めた。 「お宝探しは楽しかったなりか?」 「まあな……」 肉まんを頬張りながら聞く譲治に曖昧に答えてから劫光は自分が手に付けた甲をそっと撫でる。 あの宝部屋で目に付いたこれを手に取ったのは見覚えがあったからだ。 「なあ、三郎?」 「なんだ?」 「これはあんたが去年使ってた品だろう? あの宝部屋の品物ってあんたらが入れてったのか?」 「鍵は体育委員会にあるからな」 柔らかい言葉は肯定を表すが勿論、それだけじゃない、と彼は続ける。 「代々三年が卒業する時、あそこに後輩の為にいろいろ詰め込んでいくんだ。だから、まあアクセサリーから武器、防具まで様々なんだけどな。俺達も前に宝探しをして貰った。だから、そのお返しにちょっと入れてった訳だ」 なるほど。と劫光は思う。 この宝探しの本当の宝は、きっと小さな品物では無いなにか、なのだ。 「ま、貰ってありがたいと思うなら、お前らも卒業の時、後輩になんか残して行ってやればいい。順送りってことだ。…譲治。もう一個食べるか?」 差し出された肉まんをいいと、譲治は手で押し返した。 「夕飯のごちそう、入らなくなるからいいのだ。あ、でも、できるなら璃凛や保健委員にも持って行ってあげて欲しいのだ。きっとこの寒空で頑張って寒い思いしてるなりから」 後輩を気遣う譲治の言葉に三郎は微笑した。 そして、歩き出す。 「解った。じゃあ、頑張れよ〜」 三郎の背中が朱く染まっている。夕暮れももう間もなくだ。 「よ〜し、後ひと頑張り!」「そうだな。がんばろう!」 二人もまたそれぞれの仕事に戻って行った。 朱雀寮を飛び立っていった鳥は、いつも彼らを見守ってくれる。 いつか、自分達もそうなれるように。 そんな決意と思い。そして幸せな時間を生んで朱雀寮の宝探しと大掃除の一日は過ぎようとしていた。 |