【朱雀】目指す道
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/06 22:43



■オープニング本文

【このシナリオは陰陽寮朱雀の二年生用シナリオです】

 陰陽寮の二年生になって課題の難易度はやや上がってきている。
 ただ、やることは開拓者仕事と基本変わらないな。などと寮生達は思いはじめていた。
 陰陽術は人を守り助ける為にある。
 それが朱雀寮の基本理念であるから、当然でもあるのだが。

 月に一度の全体講義の日。
 寮長が壇上に上がって講義をしていた。

「以前にもお話したことがありますが、アヤカシと総称してはいてもその外見、能力は様々です。動物と指してクマ、うさぎ、りす、キツネ、タヌキ。その他すべてを指すのと同じこと。クマ一つとっても色や外見、能力が違うものがあるように。人間と呼んでもアル=カマルの人々、ジルベリアの人々、天儀の住人、全ての外見などが違うのと同じようにアヤカシの特性は様々で、いくら調査資料を集めても、これで終わりと言う事はありません」
 それはその通りだと寮生達は納得する。
 彼らはそれを身を持って知っている。
「また術に関しても実際にやってみたり、体験してみたりしないと解らない事も多いでしょう。例えば人魂にしてもその名称から「人の形を取れる」と思う者は後を絶ちません。
 ですが実際は、既存の生き物をモチーフに多少のアレンジは出来ても形を取れないものも多いことは皆さんも解っている筈です」
 確かに、術も使い方次第で色々変わってくる。
 こういう使い方ができるかと現場で試してできなかったことは意外に多い。
「故に、陰陽寮生はいつも、探究心を失ってはならないのです。そこで、今回の課題ですが、二年生の進級論文のテーマを決めて下さい」
「えっ?」
 二年生達は目を見開く。
 寮長の課題発表が唐突であるのはいつものことだが、今回はいつにも増して意味が解らない。
 その気持ちを読み取ったのだろう。
 寮長はちゃんと補足説明をしてくれた。
「朱雀寮の進級課題は基本的に、どの学年も実技と小論文です。
 実技の課題は今はまだ言えませんが二年生の小論文は術、もしくはアヤカシに関して一つのテーマを決め、それに関しての研究、考察を纏めて貰うことになります」
 その分類区分がそれぞれが選んだ術、アヤカシの研究選択であることは言われるまでもなく解っているだろうと寮長は続けた。
「アヤカシ研究の方は、今まで自分が興味を持ったアヤカシ一種について調査、研究、考察を行って下さい。必要とあれば申請の上、アヤカシ牢にいるアヤカシでの実験も許可します。
 術研究の方も、自分が極めてみたい。もしくは興味がある術に付いていろいろ試し、このような応用の仕方ができる、これはできなかった等を試してみて下さい。それを年度の終わりの進級試験で文章にまとめて発表して貰うことになるでしょう」
 なるほど、と二年生達は納得する。
 進級試験まで半年。
 今回決めた自分のテーマに基づき、今後の依頼や課題で情報を集めたり、色々使い方を試したりすれば、進級試験時の論文が充実する。
「基本的に大きな理由がない限りは、今回申請した内容の変更は認められません。但し互いの了承が得られるなら数人の共同研究を行うのも許可しましょう。
 自身の目指す目標を定め、それに役立つ課題を選ぶのが良いと思います。
 期限までにテーマを決定し、その理由と共に提出すること。それが今回の課題です。
 二年生の終わり、三年生になって陰陽寮を代表する者に相応しいと納得できる論文が提出できるように期待していますよ。以上」
 そう言うと寮長はスタスタと部屋を出て言ってしまった。

 テーマを決めて、それについて実験や研究を行う。
 初めてのことで、まだ雲をつかむような話だ。
 何をどうしていいかも解らない。しかし
「だんだん学府らしくなってきたかな?」
 寮生達はどこか胸が沸き立つのを感じていた。


■参加者一覧
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
玉櫛・静音(ia0872
20歳・女・陰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
瀬崎 静乃(ia4468
15歳・女・陰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
劫光(ia9510
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951
17歳・女・巫
アッピン(ib0840
20歳・女・陰
真名(ib1222
17歳・女・陰
尾花 朔(ib1268
19歳・男・陰


■リプレイ本文

●朱雀寮の二年生
 陰陽寮は陰陽師にとっての最高学府である。
 最高の環境で勉学に励むことはできるが、同時に寮生達にもある程度の知識が求められるのはある意味当然の話である。
 そして課題も一年より二年、二年より三年とより難しくなっていくのも‥‥。
「うんうん、本当に学府らしくなってきたねぇ。つまり俺にとっては完全アウェーという事だ〜」
「何泣いているなりか? 喪越(ia1670)」
「な、泣いてなんかないもん! これは心の汗だもん」
『あ〜、譲治さん。あんまり構わなくていいですよ。難しい話にオーバーヒートしているだけでしょうから』
「ああ。なんか納得したなり」
「するな! ジョージ! くっそ〜。俺様の超カッコイ(ry滑空艇で夕日に向かって爆走してやる〜」
「いいなりね。おいらの強と一緒に飛ぶなりか?」
 はたから聞いていれば冗談か漫才にしか聞こえないような話であるが彼等はけっこう真面目に会話している。
 今回の二年生の課題は進級試験の論文課題を決める事。
 話題はもちろんそれである。
「で、青嵐(ia0508)と喪越はもう決まったなりか? 課題?」
 朱雀門前の騎龍待機所。そこで出かけようとしていた者と戻ろうとしていた者は真っ直ぐに問いかけてくる小さな同輩に声をかけられた。
「アッピン(ib0840)にちょっと実験室というか箱の作成手伝いを頼まれてな‥‥ってずいぶんストレートに聞くんだな?」
 平野 譲治(ia5226)の問いに二人の用具委員は顔を見合わせると、
『いいえ』「まだだな」
 それぞれに首を横に振った。
『まだ、もう少し考えたいですね。‥‥さっきの様子からするに貴方もまだのようですが‥‥』
「うっせ! 俺は俺なりに考えてんの! で、‥‥そういう譲治はどなの?」
『そういえば、さっき寮長の所に質問があるからと言っていませんでしたか?』
「うっ‥‥実は、もっかい考え直しって言われたのだ」
『「えっ?」』
 心配そうに自分を見る二人に譲治は珍しく大きく息を吐き出しながら理由を告げた。
「おいらは術選択だから壷封術にしようと思ったのだ。でも、自分が習得していない術は
ダメだって言われたのだ」
 落ち込むように首を下げた譲治を慰める術がとりあえず二人には無い。
「あ〜、まあ、その辺は仕方ねえわな」
「それで、皆にちょっと聞いて考えようと思ったなりよ。皆、それぞれ色々考えたり、動いたりしてるみたいなりね〜。って、わ! なんなり?」
 気が付けば譲治の横に青嵐の騎龍嵐帝。反対からは譲治の騎龍小金沢 強が顔を覗かせている。周囲には鷲獅鳥の真心や甲龍の文幾重もいる。
「心配してくれたなりか? 大丈夫なりよ。別の課題の目途はついてるのだ!」
 龍達に笑顔を見せる譲治に青嵐と喪越は少し安堵しながら
「負けてらんねえ、かな?」
『そうですね。好きなこと、やって見たいこと。今回の課題は自分自身との対話と戦いですから』
 小さく笑みを交わしたのだった。

●課題探し
 中庭の実戦訓練場で、劫光(ia9510)は身体を動かしていた。
 正直、彼は煮詰まっていたのだ。
(これまでの実戦や聞いた講義なんかから、術について思ってきた事は色々あるし試したい事もある。だが、これを1つ、というのがなかなか思いつかない。どうしたものか‥‥)
 どうやら他の二年生もいろいろ悩んでいるようである。
 ぼんやりと池を見つめる瀬崎 静乃(ia4468)や術を手の中で弾かせながら考え歩く尾花朔(ib1268)の姿を見かけている。双樹は朔の人妖槐夏が心配していたと言っていた。
「だがこればっかりは誰も助けてくれないし、助けてやれないしなあ」
 そんなことを考える視線の先で、ふと仲間の顔を見つけて劫光は訓練の手を止めた。
 的に向かって術を放っているのは青嵐だ。
「どうした?」
『ああ、お邪魔しましたか? ちょっとした精神集中ですよ』
「そうか」
 劫光は頷いた。理由は聞くまでもないからだ。
『劫光さん』
「なんだ?」
『思ったことはありませんか? 我々の陰陽術はどこまで融通が利くのか。他の技術と組み合わせることは出来ないのか、と』
「思わなくはないな」
 答えはしたが、正直青嵐は自分の答えなど必要としてはいないだろうと劫光は思う。
 自分の考えをまとめる為に話しているのだろう。
 だから、それを黙って聞く。彼の考えが自分にも方向性を考える手がかりをくれることに気付いたからだ。
『私はここから見直してみたいのですよ、「陰陽術」そのものを』
「なるほど、それで、お前の道は決まったんだな?」
『ええ、まだ朧にですけれど。提出までに考えもちゃんとまとめるつもりですよ』
「ああ、お互いに頑張るとしよう」
『ええ、話し相手になって下さってありがとうございます』
 頷きあって二人は別れた。
「よし、いっちょ欲張りに行ってみるとするかな?」
 けれど目指す先は別れてはいないようである。

 秋の日は落ちるのが早い。昏くなった図書室で
「‥‥乃さん、紫乃さん‥‥」
 自分を呼ぶ声にハッと泉宮 紫乃(ia9951)は顔を上げた。
「朔さん‥‥どうしたんですか?」
 ぼんやりと自分を見つめる視線に朔は窓を、正確にはその先の紫を越えて黒になった外を指で差す。
「紫乃さん、帰られませんか? 外もだいぶ暗くなってきましたし‥‥」
「えっ? もう、そんな時間ですか?」
 驚いた顔の紫乃にはい、と朔は頷く。
「根を詰めて倒れては元も子もありませんし、ゆっくり心を解せばポロッといいアイディアが出るかもしれませんよ?」
「はい、ありがとうございます」
 慌てて紫乃は出した資料を手早く片付けると本を書庫に戻すと立ち上がり、当番の図書委員に一礼する。
「お待たせして、すみませんでした」
「いえいえ。でも方向は決まったのですね」
「はい‥‥真名(ib1222)さんと治癒符の研究をしようと思っています」
 廊下を歩きながら話す二人の視線の先、噂をすればの言葉通り、真名がやってきて手を振っていた。
「やっほ〜。二人ともお疲れ様〜。今、委員会の当番で美味しい夕食作ってきたから一緒に食べに行きましょ〜」
「いいですね」「ありがとうございます」
 三人は連れだって一緒に廊下を歩く。真名の肩口では管狐の紅印がふよふよと踊り、紫乃の足元では忍犬瑠璃がトコトコ付いて歩く。
「お二人は共同研究することにしたんですね?」
 問いかける朔に真名と紫乃。二人は頷いた。
「そう。治癒符を研究対象にして一緒に調べることにしたの。あ、でも論文そのものは別々に書くんだけどね」
「はい。方向性が違いますから」
 言いながら真名は少し、遠くを見るような目をする。
「‥‥そういえば、私たちの始まりだったわよね」
「はい‥‥」
「治癒の術を。壊すんじゃなくて守る術をって、思って陰陽寮に入ってきた。だから紫乃を見て、『この娘は私と同じなんだ』って嬉しく思って友達になれる、って最初に思った起点だもの。治癒符の術は‥‥」
 目を伏せた真名は過去だけを見ていたわけではない。今も仲良く並ぶ二人を見るのが少し辛いから。
 親友と同じ人を好きになり、その人は親友を選んだ。それを恨むつもりはないけれど
(やっぱりちょっと胸が痛い。かな? でも‥‥)
「あの‥‥いっしょにやりませんか?」
 そう声をかけられたとき、純粋に嬉しかった。自分はやはり紫乃が好きだから
「私の予感、間違ってなかった。一緒にやろう、紫乃」
 素直に手を取れたのだ。
「それで、図書室の資料はどうだった?」
「はい。この文献によると‥‥」
 仲良く肩を並べて話しつ合う二人を、嬉しそうに愛しそうに朔は見つめていた。

●胸に抱くもの
「食屍鬼、ですか‥‥?」
 玉櫛・静音(ia0872)は誰もいない保健室で、飲み込んだ唾で喉を鳴らしながら目の前の友人、静乃を見た。
 なんとなく声が上ずってしまっているのを自分でも感じる。
「うん‥‥ダメ?」
「ダメ‥‥と言うわけではありませんが‥‥」
『‥‥あの。既に研究のテーマが決まって無ければ、一緒にやらないかな?』
 先日の授業の後、そう声をかけてきた静乃の提案に、静音は素直に頷いた。
 良く知り、信頼する相手の提案であったからという単純な理由でもあったのだが。
 しかし、まさか人や動物の屍をヨリシロにする、ある意味で最もおぞましいアヤカシを選んでくるとは‥‥。
 自分もいくつか候補は考えたが、彼女の選択にどこか信じられないような思いと共に静音は静乃を見た。
 だが次の瞬間首もとまで出かけた
「どうして?」
 の言葉を静音は出すことは無かった。
 ここ数日彼女が色々と調べていたことは知っている。
そして彼女の目と抱え、揃えた資料が全てを語っていたからだ。
(最も忌避したい相手だからこそ、知り尽くし対抗すべきと考えたのでしょう。それは自分にとっても同意できる意義のある事‥‥)
 それに、食屍鬼と戦う時、幾度となく思ったことがある。
 この体にもきっと家族がいた筈。
 いや、食屍鬼だけではない。憑依されたら二度と救えない不死に憑依された者達。
 憑依して奪われた身体から引きはがして奪い返すことができたら‥‥。と。
「もし‥‥ダメなら‥‥」
「いいえ」
 伺う様な静乃を見て静音は首を横に振った。
「そのテーマで良いです。改めてお願いします。静乃」
 彼女をパートナーとして研究を進められる事を誇らしく感じながら静音は静乃に手を差し伸べた。
「うん‥‥よろしく」
 静乃も静音の手を握り返す。
 こうして、二年生唯一の共同研究班は成立し、さっそくの検討と意見交換を始めたのだった。

 ジャラジャラと鍵が集まった束を持って俳沢折々(ia0401)は重い扉を開けた。
「かるみ、灯りよろしくね、って‥‥うわあっ!」
 暗闇の中で足元にぶつかった生暖かくて柔らかいものに思わず折々が声を上げると
「なんだ? 主席? なしてこんなところに?」
 暗闇から妙に明るい声が響いたのだった。
「喪越くん? 君こそなんで??」
 折々の鬼火玉が足元を照らす。
 周囲に呻き声が響く陰陽寮のアヤカシ牢、思わずあげてしまった声を潜めながら折々は足元に座る喪越を瞬きしながら見ていた。
「あっちにはアッピンもいるぜぃ。アヤカシ選択だから、牢の使用許可出やすいしな」
「あ、折々さんも来てたんですか〜。課題は纏まりましたかぁ〜」
 奥の方からやってくるアッピンの手にはかなり大きな箱がある。
「うん、あとちょっと。アッピンちゃんは決まったの?」
「はい。スライムを。それでアヤカシが環境で変化するかどうか、ちょっと実験しようと思って来たんですけどね〜」
 ふ〜ん、と頷く折々は一度だけ目を閉じると、顔を上げた。
 目の前にいるのは気心の知れたアヤカシ選択の仲間。
「ねえ、喪越くんはこのアヤカシ牢に以前反対してたよね。それでもアヤカシ選択するの?」
 およ? と喪越は首を傾げつつ目に真剣な光を宿らせた。
 その言葉がこのアヤカシ牢に疑問を持っていると解るからだ。
 彼女は二年主席。陰陽師としての強い信念を持っている事は知っている。
 だがそういう人物が自分のようにアヤカシ牢への疑問を口にするとは思わなかったのだ。
「ま、戯言と思って貰っていんだけどよ」
 そう前おき、頭を掻きながらも彼は真剣に折々の問いに答える。
「俺の最終目標は、人間とアヤカシの和平。その為にはまずアヤカシの心理を知る必要がある。互いの存在を理解し、尊重できねえと和平なんてありえねえだろ?」
「でも、それでアヤカシを実験に使ってもいいんですかぁ〜?」
 アッピンはあえて問う。もちろん、答えは解っている。
「ま、だから座禅なんて組んでみたわけだ。覚悟を決める為にな。目的を達成するにゃ、千の憎悪と万の業を乗り越えなきゃならんだろうよ。そのくらいしんどい道だって事くらいは理解してるつもりさ」
「意外に喪越くんって真面目なんだね」
「そうさ。今まで気づかなかったのか?」
 おどけた口調の喪越と見守る様な眼差しのアッピン。
 仲間達を前にして折々は自然に胸に手を当てていた。
(みんなとなら、いつかきっとできるかもしれない‥‥。陰陽寮の暗部に切り込みアヤカシ牢をなんとかすること‥‥)
 喪越のようにはっきりと今はまだ口にできないけれど‥‥。
「どうしたんです?」
 心配そうに顔を覗き込むアッピンになんでもない、と首を振って折々は明るく手を上にあげる。
「うん! 全員で、三年生になる為に。がんばっていこうよ!」
 その意気はアヤカシ牢の暗さの中でもまるで光のように輝いている。
「で、アッピンちゃん。実験とやらの結果はどう?
「そうですねえ〜。スライムを砂漠に近い環境に置いたら何か変化はないかと思ったんですが変化はない様なんですよね〜」
「環境が変わっても変化はしないってこと? 見た目が同じでも別種の生き物なのかなあ」
「実験のやり方かもしれないですねぇ〜。どうしても砂漠と同じ環境を作って維持するのは難しいですから」
「おいおい‥‥お嬢さん方。外でやった方がええんでないかい?」

●目指すもの
 そして、提出期限の夜。
 寮長はそれぞれの課題を確認していた。
 術応用とアヤカシ研究に提出された課題を分類する。

 こちらは術応用の寮生達。
 テーマは治癒符を選択しました。最も得意とする術であり使用する機会が多い事。傷を
癒すという術の特性上術自体をきちんと理解し使用しないと命を左右する可能性がある事。この二点が治癒符を選択した主な理由です。
 例えば植物やケモノ、アヤカシに効果はあるのか。薬と併用したら効果に差が出るのか。二人で同時に術を使用したら効果は増すのか、など。疑問を一つずつ検証し、治癒符のことをより深く理解したいと思っています。 泉谷 紫乃。
 
 劫光【テーマ】『悲恋姫』
 高位といえるランクの術だが、使えば敵味方の区別なく被害を与えるという特性上、使いにくい部類に入るだろう。
 だからこそあえてこの術を選ぶ。
 呪いの声という炎や氷の様な具体的な現象でないこの術は他の術よりも謎が多く研究のし甲斐がある。
 更に特性上、他者との連携に使い辛い術である為、使い手も限られる。
 だが前衛の心得のある俺なら他の者よりも実戦で生かす機会がある。
 他者が出来ない事こそ、遺す価値がある。

 課題について 尾花 朔
 瘴気回収を研究しようと想います
 周囲に漂う瘴気を回収する、其れを練力に変える、それならば其れを体力回復に変更できないか、回収というのであれば浄化に転用できないか、もし出来る可能性が有れば、助かる人も増えるかもしれません
 騎士の聖堂騎士剣の様な作用も出来るかもしれません、応用と言う所で色々考えられる点で選びました。

●課題提出 青嵐
 私は傀儡操術を研究しようと思います。
 入寮時の回答とは異なった術となりますが、この術には他とは違う可能性があると思います。
 まず「人の形」を動かす事による、「模倣」の可能性。
人の形である以上、ある程度武術等の「型」も模倣できるのではないかという考えです。
 形式化した動きを繰り返させることが出来るなら、単純作業を行う仕事も可能になります。
 重いものも運べるなら、陰陽師が日常で役立てる幅が増えますからね。

【瘴気回収】 平野 譲治
 瘴気を錬力に変える事が可能。
 そもそも錬力とは何か。
 そこの調査から始め、瘴気への返還を可能とするプロセスを調査。
 プロセスを理解、再現できるようであれば、アイテム化を行い、陰陽師以外でも使用可能か調査。
 それをすることにより、アヤカシ発生の操作を誘発できないかと考える。

『治癒符』をテーマにします。
 瘴気から「有」を生み出そうとするせいか、どちらかと言えば壊す方に偏る陰陽術の中では珍しく、この術は人を治す術。
 他の術と比べても消費が激しく、効果も思った様には上がらない術だと言う認識です。
 ここまでが限界なのか?
 救う為の術としてもっと極めていく事ができないのか?
 それを確かめてみたい、他の用途を見つけ可能性を広げて行きたい、と思うのがこの術を選択する理由です。 真名


 こちらはアヤカシ選択だ。
【テーマ】「剣狼の空腹度が行動および能力に与える影響の考察」
 俳沢折々
 アヤカシが人を襲う理由が食欲に基づくものであるにも関わらず、
 まだ踏み込んで研究が行われていないのが、アヤカシの「食」についての実態だと考えている。
 究極的には人間以外の何かで剣狼の飢餓感を満たすことはできないか、を知りたい。
 が、流石に現状ではそこまでの調査は至難と判断。
 その前段階として、剣狼が空腹度合いに応じて如何なる反応を見せるのか探る。

『食屍鬼について』 玉櫛 静音。瀬崎 静乃との共同研究
 理由は私の知る上で、知人や友人に偽りの生を与え動かし襲うこれらのアヤカシこそが、私たち人間にとって、最も度しがたい種類のアヤカシだと考えるからです。
 食屍鬼の特徴や特性を研究し対策方等を見つければ、その被害を少しでも止められるかもしれません。
 遺体や物体に憑依するのを阻止したり、憑依を引き剥がしたりする手段を見出す為の手がかりとなれば良いと考えてこのテーマを選択します。

『食屍鬼について』 瀬崎 静乃。玉櫛 静音との共同研究
 開拓者には馴染みが深く、研究対象としては余りにも一般的過ぎて面白味に欠けるかもしれない。
 しかし、遺体や物体に憑依しそれを操る能力は、とても面白い研究材料になるのではと考えたのが理由。
 相当困難ではあるが可能ならば、憑依した遺体や物体から食屍鬼を引き剥がす手段のきっかけを得たい。
 もちろん、能力だけではなく、食屍鬼の生態や出現経緯などを調査するのも面白いと思う。

 スライムについて アッピン
 スライムは一般的なアヤカシであり、シンプルな構造をもつ反面、統率者がいる場合の強固な群体性や赤粘水や強酸性粘泥、粘泥甲冑などの多様性を持つことでも知られています。
 このスライムの反応の仕組みや、酸や毒性の仕組みを研究・解明することで、スライムの群体性のもつ危険性やスライムのもつ酸や毒性を排除し、逆に汚水の処理や医療などへの応用などスライムのもつ可能性を含め研究したいと思います。

 研究対象アヤカシ:屍人
 人間の死体に取り憑くとされるこのアヤカシ、捉え方によっては人間とアヤカシの境界に在る存在なのかもしれない。その発生プロセスや生態をより詳細に調べ、被害を減らす為の対応策やアヤカシの普遍的な行動原理を考察する。
 ひいては、瘴気とは何か、人間の魂とは何か、という根源的なテーマに迫る事になるだろう。互いの存在を改めて認識し、その絶対的な対立構造を瓦解させる一助となる事を切に望む。 喪越。


 それぞれが十二分に考えて出した結論を寮長は確認し、受理した。
 元より不合格が発生する課題では無い。
 彼等はそれぞれが目指す目標を持って課題に取り組むだろう。
 全てが叶えられはしないだろうが、一歩を歩き出さなければ永久に目的に届くことはない。

 この課題が、そしてそれに取り組む残る半年が彼等にとって目標に届く為の一歩になることを寮長は心から願っていた。