【朱雀】晩秋の鬼ごっこ
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/01 22:27



■オープニング本文

【これは朱雀寮一年生用のシナリオです】

 毎月恒例の陰陽寮の合同講義。
 一年生の授業は月の半ば十五日頃に行われる。
 今回の寮長の講義は朋友と呼ばれる存在についての話が主だった。
「滑空艇やアーマー、土偶ゴーレムなど一部のものを除き、朋友と総称される生き物達の多くは天儀に元々存在する精霊や、ケモノなどの類です。しかし、その中でも別格の存在が二つ、あります。それが人妖とジライヤです。今回は特に人妖について話をしましょう」
 一年生達は講義を書き留め、真剣に話を聞く。
 朋友は開拓者にとって身近な存在であるから興味も深い。
「人妖という存在は開拓者の皆さんには朋友としてなじみが強いかもしれません。しかし人妖というのは本来陰陽師が瘴気を集めて生成したものであり、どちらかというとアヤカシに近い存在です。成長することもなく、気まぐれなところが多いですが、絆を深めれば大事なパートナーとなってくれます‥‥。瘴気から生まれた存在に形を与えるのは熟練した陰陽師にとっても簡単な事ではなく、その為人妖というのは総じて数が少なく一般の人の中にはその姿を一度も見ることなく生涯を終える者も少なくありません」
 そうなのか。と一年生達は思う。
 開拓者の中には、人妖を朋友として連れている者はいる。
 寮生にも何人か。
 だから、あまり特別なものと感じた事は無かったのだが‥‥。
 そんなことをぼんやりと考えた時だった。
「さて、皆さん、今回の課題ですが鬼ごっこをして貰います」
 寮長があっさりと、今回の課題を発表したのは。
「はあ?」
 寮生達は目を瞬かせる。あまりにも意外な言葉だった。
「鬼ごっこ?」
「そうです。皆さんには逃げる人妖を追いかけて貰います。朱里」
『はーい!』
 そう言って手を上げたのは陰陽寮の人妖。朱里である。
 直接一緒に何かをしたことはあまりないが、陰陽寮朱雀の寮生の世話役を担当しているので、顔を合わせた事は一度ならずある。
「場所は陰陽寮から少し離れたところにある森。そこで朱里が隠れますので皆さんはそれを探して下さい。期間は丸二日。三日後の朝から始まって五日後の朝までに朱里を見つけられれば皆さんの勝ち。捕まえられなければ皆さんの負けです。人間で無い者を捜索し捕える訓練と思って下さい。但し、いくつか条件はあります」
 そう言って後、寮長は赤い手ぬぐいを各人に渡し、条件をいくつか指折る。
「まず、第一にあまり派手な攻撃手段をとらないこと。術の選択は自由ですが朱里は一切の攻撃スキルを持たないし、使用しません。万が一にも朱里に強い攻撃を与え消失させた場合は失格以上のペナルティーとなります。
 第二にその赤い手ぬぐいを必ず腕に巻いておくこと。その手ぬぐいを朱里によって取られたら、その時点で失格です」
「つまり、朱里さんはこちらに攻撃を仕掛けてくる可能性もある、ということですね」
『というか、チャンスがあれば攻めに行くよ。朱里は結構格闘技は強いのだ〜』
 ぐっと力こぶを見せる朱里。
 朱雀寮には実技教官の西浦三郎などけっこう、肉体派の陰陽師もいる。
 そこで「朱雀寮の人妖」をやっているからにはそれなりの実力があるのかもしれない。
 個人行動は危険と言うことだ。
「第三に期間中は森から出ることは禁止です。朱里は森から出ませんし、出たら失格ですので、ある程度の用意はして行って下さい。まだ秋とはいえ森は寒いですよ」
「朱里さんは、大丈夫なのですか?」
 心配そうに問う一年生に寮長はニッコリと笑って大丈夫と首を振る。
「朱里は人妖ですから、基本食はいりませんし、寒さにも耐性があります。心配なのは皆さんの方です。体調を崩さないように気を付けて‥‥。以上、質問は受け付けませんので下調べ等をしっかりして課題に臨んで下さい。では、課題開始!」
『がんばってね〜。待ってるよ〜〜』
 それだけ言って退場してしまった寮長。
 明るく手を振って余裕の朱里。
 残された一年生達は思わぬ課題に戸惑いながらも準備を始めた。

 晩秋の森での鬼ごっこが今、始まる。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001
13歳・女・陰
カミール リリス(ib7039
17歳・女・陰


■リプレイ本文

●鬼ごっこの始まり
「はあっ?」
 芦屋 璃凛(ia0303)の頓狂な声が部屋に響く。
「リリス、今、なんて?」
 間もなく始まる実践実習。
 その準備をしていた一年生達は仲間であるカミール リリス(ib7039)から出た思わぬ質問に目を瞬かせていた。
「だから、あの‥‥、鬼ごっことは、何ですか?」
 がくっと、大きく崩れ倒れた璃凛程ではないが、聞いていた他の仲間達も少なからず脱力しているようだ。していないのは彼方くらいなもの‥‥。
「そうですか。‥‥意外ですね。鬼ごっこというのは天儀ならではのものだったのでしょうか?」
 どこか感心したように言う蒼詠(ia0827)が横を見る。
 そこにいるのはジルベリア出身の女子二人。
「鬼ごっこ、と言う名前ではありませんが似たような遊びはありますよ。懐かしいですね」
「そう。一人追いかけ役を決めて、残りが逃げる。捕まえられたら負け、ってね」
 サラターシャ(ib0373)とクラリッサ・ヴェルト(ib7001)の言葉にカミールはポンと手を叩く。
「あっ、何となく判ります。アル=カマルでも言われてみれば似たような遊びはあるかもしれません」
「どこの国でも子供の遊びって結構共通点があるらしいですよ」
「僕はずっと山暮らしだったからなあ。式達と遊んだりはしたけど鬼ごっこってしたことないや」
「まったく、世間知らずはこれだから‥‥」
「なんだよ! そんな言い方って」
 肩を竦める清心に彼方は頬を膨らませるが、まあまあ、と蒼詠はそれを制して‥‥
「でも、人妖である朱里さんを捕まえる鬼ごっこ。簡単な様でいてとても難しい課題ですね」
 仲間達の意識を課題へと戻させた。一年生達もそれぞれに頷く。
「確かに。人妖さんであるということは人魂も使えるでしょうし。何より彼女は鬼でもあるのですから下手をすれば私達の方が捕まえられてしまいますね」
「それに森の中ってことは野宿でしょ。ちょっと寒そう。体調崩さないようにしないとね」
「授業用の防寒具は借りてあるから。後は個人で工夫して‥‥」
 一年生達の準備が終わる頃、
『やっほ〜。準備はできたかな〜』
 部屋の扉が開いて少女が彼等の前に姿を現す。
 彼女が陰陽寮の人妖朱里。彼女を捕まえる鬼ごっこが今回の課題なのだ。
「はい!」
 一年生達の返事に頷いて先頭を切って朱里は歩き出す。
『りょーかい! それじゃあ、そろそろ行くよ〜』
 後を追いかける仲間達。それを小走りに追いかけながら
「みんなで鬼ごっこ‥‥、課題だけど、面白そうだな」
 璃凛は、子供様な笑顔で楽しそうに微笑んだのだった。

●かくれんぼ? 鬼ごっこ?
 試験の舞台となるのは陰陽寮の裏山のさらに裏の小さな森。
 小さな森と言っても勿論、それなりの広さはある。
「私が森に入って一刻くらいしたら入ってきて」
 そう言って森に隠れてしまった朱里の姿はもうどこにも見つからない。
「これほどの木の間に隠れられてしまったら、簡単には見つかりませんね」
 キョロキョロと周囲を伺いながらカミールは言うが、その声はどこかウキウキとしたものを感じさせる。
「楽しそうですわね?」
 サラターシャの言葉にカミールは照れたように頷いた。
「アル=カマルは砂漠が多いので。ちょっとこういうのが珍しいと思うのです。あ、あれはリスですか? 木の間を走り回って可愛いですね」
「リス?」
 ふと寮生達の動きが止まった。
「とりあえずは璃凛さんが言った通り森の把握から始めた方がいいかな? いつ仕掛けられるか解らないから‥‥」
 クラリッサはそう言った次の瞬間、手に持った石を
「カミールさん! しゃがんで!」
 カミールに向かって投げつけた。
「わわっ!」
 カミールが頭を押さえて屈んだその直後、
『良いカンしてるね! あと少しで行けるかと思ったのに〜』
 嬉しそうに言ったのはカミールの足元のリス。それがドロンと人型になる。
「まだ始まったばかりなのにそうそう落ちる訳にはいかないから」
『そうだね〜。じゃ、また後で〜』
 朱里はそういうと瞬時に鳥に変じて去ってしまった。
 呪縛符はかけたが‥‥逃亡を妨げるには力が足りなかっただろう。
「流石‥‥油断はできませんね」
 羽ばたき、遠ざかる影を見送りながら一年生達は誰ともなく、呟いていた。
 
 そして夜。
「ダメっ! 朱里ちゃん、素早い!」
 森の中、囲んだたき火を見つめながら璃凛はどこか悔しげな声を上げた。
「一回襲われましたが、どうも決め手に欠けて‥‥、瘴気回復も、この程度の森では朱里さんがいてもいなくても変わりないようで‥‥存在を感じ取ることはできませんでしたね。あ、ありがとうございます」
 差し出された椀を受け取ると蒼詠はお礼を言った。
 ちなみに今日の夕食は野菜とキノコ入りの味噌雑炊。
「実習中の食料は寮から持ち出していいそうですよ。と言うわけで芋がら縄と干飯で雑炊をにしてみました。キノコは現地調達ですけどちゃんと食べれるものだから大丈夫です」
 調理委員会の彼方が夕食当番を買って出たのだ。
「荷物持ちより楽ですよ」
「役に立ちたいって言ってたし、男の子でしょ。文句言わない」
「うん、でも美味しい。流石ですね」
「暖まる〜」
 飲み物は甘酒。
「お茶もありますよ」
 一日中森を歩き、疲れて冷え切った身体には暖かさが何よりのご馳走である。
「で、襲撃の話だけど、こっちも一回来た。逃げながら攻撃か〜。初日だというのにスゴイよね〜」
 気持ちが緩んだわけでは無いがクラリッサが深いため息をついた。
「油断するなって意味だろうけど的確に仕掛けてくるからね」
「組手も結構強いよ。力負けしそうだったもの」
 言うだけの事はある。
 璃凛も今日の対決を思い出した。

『璃凛さん、後ろ!!』
『えっ? 嘘!?』

 小動物に化けられて、背後に回り込まれたのだ。
 とっさに蒼詠が声をかけてくれなければ布を取られていたかもしれない。
「は〜。人妖いいな。欲しいな〜。師匠は、持つ気が無かったから、見た事無くてさ」
「人魂が便利だしね。森の中にはリスやうさぎが沢山いるから。紛れられるとちょっと解らない」
「でも、‥‥逆に言えば森の動物たちの様子を感じ取って違う気配を感じ取れれば彼女の存在を見つけられるかも、ということでしょうか? そこで提案なのですが‥‥」
「なるほど、それはいい案ですね。相手が仕掛けてくることが解っているからこその手段。勿論こちらから仕掛けて捕まえられれば一番ですが‥‥」
 今の所、圧倒的に相手ペースではあるが、一年生達の間に流れる空気は明るい。
「暗くなったり緊張しすぎても仕方ないしね」
 明るく笑う璃凛に皆、頷いた。
「じゃあ、今日の所は寝よう。はい、時計貸すから時間になったら交代ね」
「最初は僕が入ります。男子は三交代のどこかに必ず入るようにしましょう」
 クラリッサに渡された時計を受け取って彼方が頷いた。
「この時計は‥‥」
「ちょっと、中見ちゃダメだからね。恥ずかしいから」
 毛布に包まってしまったクラリッサと、彼女の決意が籠った時計を
「はい」
 彼方は見つめ、微笑んだのだった。

●最終決戦
 さて、二日目の夜。
 鬼ごっこもいよいよ終盤だ。
『さ〜て、どうしようかな〜』
 木の上に腰かけた人妖朱里はぶらぶらと足を揺らしながら暗い森の奥、燃える炎を見つめていた。
 暗視も使っているから周囲に集まっている寮生達の様子は良く見える。
 楽しげに何か食べている様子が見えた。暖かい湯気の中の笑顔も。
 今年の一年生も仲が良い。二つのチームに別れているようだが夜は合流して昨日と同じく一緒にご飯を食べているようだ。
『連携は悪くないんだけど、ちょ〜っと攻撃に積極性がないかなあ〜』
 こちらから攻撃してくることを解っているからか、なかなか彼等は自分達から攻めに来ないのだ。午前中もほぼこちらからの攻めを受ける形であった。
 まあ、森に隠れた自分を見つけ出す決め手がないというのもあるだろうが‥‥。
『璃凛ちゃん達のチームも油断ならないし、もう一つのチームは数が多いしね〜』
 ただ、連携はしっかりとしていて、攻めに行く隙がなかなかない。
 何度か攻めてみたが、こちらも決め手がないのだ。
『このまま逃げ切るのもできなくはないけど、それだと寮長、怒るだろうなあ〜』
 彼女にとってこの課題は三度目。自分に何が求められているかは解っている。
 朱里は小さく肩を竦めると
『よしっ! 行こう!』
 何かを決めたように拳を握りしめた。木から飛び降りた瞬間に『朱里』の姿は消える。
 小さな木鼠になって一年生達との最終決戦へと走り出したのである。

『? あれは?』
 鼠に変化して炎に近づいた朱里はふと感じた気配に、とっさに身を潜めた。
(サラターシャさん、だったっけ? 一人で、何を?)
 そう思った瞬間、サラターシャはふう、と大きく息を吐き出し木に背中を預けていた。
「‥‥疲れました。この夜が勝負ですから、こちらから仕掛けに行かないといかないんですけど‥‥、少しだけ‥‥」
 そのまま、スススと背中を滑らせて地面に座り込む。
 無防備な赤い布が朱里のすぐ近くで揺れた。
(随分、無防備と言うか‥‥あからさまな感じ? 誘ってるのかな? でも‥‥ここは‥‥!)
『行く!』
 と朱里が声をかけ人の姿に戻ったのと、サラターシャが飛び退くのと草影から様子を伺っていた一年生が飛び出てくるのはほぼ同時だった。
『うわっ! やっぱり罠?』
 朱里はそれでも足を止めず、サラターシャの懐にその俊敏さで近付くと足を払い、布に手をかけた。
「きゃっ!」
 サラターシャは手を下げ懸命に逃れようとしたがほぼ0距離からの攻撃を避ける術は無かった。せめてもと詠唱した呪文が完成したと同時。布が奪われる!
「サラ!」
 クラリッサが気遣う様に間に割り込み声をかけるが、意識を朱里から離すことができない。彼女は俊敏だ。一瞬でも目を離せば次は自分の布が奪われる‥‥。
「動きよ。止まれ!」
 クラリッサと、布が奪われる直前完成したサラターシャ。
 二人の呪縛符が朱里の動きを鈍らせる。そこを見逃さず飛び込んでいく清心。カミールもさらに呪縛を強化する。それでも
『ま、負けないんだから〜』
 渾身の力で朱里は背後に迫った清心に肘鉄を食らわせるとそのまま手を掴み投げ飛ばした。
「わああっ!」
 そのまま二人目に迫ろうとするが、
「させないよ!!」
 そこに踊りこんできた者達がいる。清心を背後に庇い飛び込んできたのは‥‥。
「璃凛さん! 右を!」
「了解。蒼詠、左お願い。彼方! 後ろに回り込んで!!」
 サラターシャとは別のチームだった筈の一年生達。隠れてタイミングを見計らっていたのだろう。
 最初のチームよりいくらか戦闘に長けた彼等に朱里はたちまち追いつめられることとなった。
 逃げ出そうにも切れ間なくかけられた呪縛符の効果で、変身もできない。
 それでも後退しようと後ろを見たその時、三人は息を合わせての捕獲に飛び込んでくる。
 璃凛の攻撃を横に躱して足払いをかけようとするが、反応は身体の思うより鈍い。
 鍛えられた体育委員会の攻撃は侮れないものがある。
 そこに間を開けず蒼詠、彼方が攻めてきて背後のメンバーも呪縛符のさらなる重ねかけで援護してくる。
 一人だったら、二人だったら、まだ何とかなるかもしれなかった、が完全に連携した3人と四人の力比べ。数度にわたる呪縛符の重ねがけ。
「捕まえましたよ!」
 蒼詠のタックルに尻餅をついた時、朱里は大きく息を吐き出しとうとう両掌をあげた。
『解った。降参。私の負け‥‥』
「「「「「「「やった〜!」」」」」」」
 まさに歓声と呼ぶべき声が森に響き渡っていた。

●友と言う名のライバル
 朱雀寮に戻った七人は朱里と一緒に全員で寮長に報告に向かった。
「なるほど。それで朱里はまんまと捕まった訳ですね」
『は〜い。ごめんなさい』
 しょんぼりと頭を下げる朱里を見て少し可哀そうな心境になる一年生達であったが、それを感じ取ったのだろう。
『ああ! 気にしないで。これは勝負だもん。引っかかった私が悪いの』
 慌てて朱里は手を振って彼らに笑いかけ
「そうです。特にこのような場においてはある意味負けるのが役目であるとも言えます。気にすることはありません」
 そう寮長もフォローした。少し心が軽くなる。
 そんな一年生達を柔らかい眼差しで見ていた寮長各務紫郎は凛とした声で結果を発表する。

「最終的にサラターシャさんの布が外されましたが、それは囮としての役目を果たした、ということでもありますから、一年生の作戦勝ちと言えるでしょう。今回の課題は多少の成績上下はありますが、全員合格とします!」
 わあ、と歓声が上がり一年生達は手を取り合って喜んだ。
「森は寒かったでしょう。ゆっくり休みなさい」
「はい」「朱里さん、ありがとうございました」
 返事をして立ち去ろうとする一年生達。その後方にいた三人を
「少し待ちなさい」
 静かな声で寮長は呼び止めた。
「なんでしょうか?」
 答えたのは蒼詠だ。書類を見ながら寮長は彼と彼方。そして璃凛を見て問う。
 実際に朱里を捕まえたチームに声がかけられた。
「最終的に囮で朱里をおびき出し、捕える案はある程度一年生の総意でもあったようですが、捕獲などはあえて二つに分かれたチームに拘ったようですね。何故ですか?」
 顔を見合わせた三人は少し返事に困った顔をしたが、やがて璃凛が顔を上げて答えた。
「仲間だからって、協力するだけじゃ無くて競う事も必要だと思ったから」
「解りました。戻りなさい」
「ふう〜。拙いこと言っちゃったかなあ〜」
 廊下で扉を閉めた後、璃凛はため息のような声で小さな心配を吐き出す。
 本心ではあるが、課題のとらえ方によっては協力体制が足りないと見られる可能性もある。
「ああ、それはあり得そうですね。でも別にいいと思いますよ」
「そうですね。甘えあうばかりが仲間じゃないというのは正しいと思います。それにその方が面白いじゃないですか」
 笑って肯定してくれた仲間に安堵の顔で頷いて、璃凛は先に行った仲間達の後を小走りに追いかけたのだった。

「ご苦労様でした。朱里」
『はい。寮長。今年の一年生は仲間意識が強く強敵でした』
「そうですか‥‥」
 任務を無事終えた人妖を労って後、成績表に向かい合いながら寮長は
「なかなか頼もしい一年ですね。これからが楽しみです」
 嬉しそうに楽しそうに微笑んでいた。