【朱雀】西の一族
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/05 22:54



■オープニング本文

【これは朱雀寮二年生用のシナリオです】


 同窓の好、というものを侮ってはならない。
 学び舎という所は、普通だったら出会うことない者同士が出会い、知り合い、友となれる場所である。
 共に笑い、苦しみ、時として同じ思いで涙を流した者同士の絆は、周りが思うより、そして本人たちが思う以上に強く、深いものなのだ。

 さて、と彼らは思った。
 彼らは共に同じように手紙を持っている。
 別々の場所で、別々の相手から別々に貰った同じ内容のそれにため息をついたのだ。
 相手は、同窓の友。
 思いは十二分に理解できる。
 けれど、是とはけして言えない内容のそれ‥‥。

「あいつらだったら‥‥どんな答えを返すのかな‥‥」
『ご主人様?』
 首を傾げる人形の頭を西浦三郎は大丈夫だ、と笑って撫でて仕事に戻り、
「彼等にも聞いてみましょうか」
 そう言って筆を取ると各務紫郎は手元の書類に目をやったのだった。

「今回の授業は、まあいつもどおりのアヤカシ退治だ。陰陽寮に助けを求める依頼が来ているので、それに基づいてアヤカシを倒して来ること。但し、今回は以前選択した強化授業によってちょっと縛りはある」
 二年生担当教官 西浦三郎はそう言って例によって月に一度の課題に集まった二年生達にそう通達した。
「縛り?」
 そう言って首を傾げる寮生達に三郎は頷く。
「まず術応用選択者は、瘴気回収以外に活性化させる術は一つとすること。人魂も治癒符も一つとして扱う。一つの術をどこまで使いこなせるかを見るということだな。一つの術をこういう使い方出来るかな? と試してみるのもいいだろう。また皆で役割を分担して協力し合うのもありだ」
「一つだけ‥‥か」
 ちょっと難しくもあるが、課題の趣旨は理解できるから、文句を言う者はいない。
「そしてアヤカシ研究の選択者は、今回は直接戦闘には関わらなくていい。代わりに、今回の戦い、全てを記録することを命じる。どこで、アヤカシを見つけたか、どのようにして戦闘に入ったか、どんな術を相手が使い、自分達はどう対応してどう倒したか。
 全ての戦闘を可能な限り詳しく記録する。例えば10体のアヤカシと出会い、倒したら10体分記録して提出すること。記録の仕方は自由。勿論、サポートとして戦闘に参加することは妨げない」
 なるほど、と二年生達は思う。
 課題内容は違うが、やるべきことはどちらも同じ。
 互いに協力し合い、助けを求める者の為に術を行使する。
 朱雀寮の基本理念は、何年になってもきっと変わりはしないのだろう。
「特に質問などは無いな。では、課題開始とする」
「ちょ、ちょっと待つなり! 場所はどこなのだ? それからアヤカシの種類は‥‥」
「ああ、すまん。忘れていたな」
 二年生達の質問にそう言った三郎が、書類を開こうとした時だ。
「五行の西にある小さな町。その近くの森です。最近そこに獄卒鬼か鉄甲鬼と思われる大鬼を頭とする鬼の集団が住み着いて人を苦しめているとの報告が入っているのです。
 その近辺で商いをする商人達から街道を守って欲しいとの依頼も出ています。やや強敵かもしれませんが貴方達ならできますね?」
「寮長!?」
 いつの間やってきたのか、寮生達の背後からかけられた陰陽寮朱雀寮長 各務 紫郎の声に二年生より目を見開き、驚きの声を浮かべたのは西浦三郎の方だった。
「あそこで‥‥、ですか?」
「?」
 半ば固まった三郎の問いかけや、寮生達の疑問符に答えることなく、寮長は微笑して続ける。
「ただし、五行には国家に属しない陰陽集団がいくつかあります。中央から離れれば離れる程、そのような集団の力が強く近くの町村に影響していますので、波風はなるべく避けるようにして下さい」
「波風?」
「まあ、アヤカシの取り合いになる様なら相手を立てて、ということですかね。私達はお金を貰ってアヤカシ退治をしている訳ではありませんから‥‥。とにかく今回の課題に関しては以上。では早速準備にかかって下さい」
 寮長がそう言ったと言う事は、もう何を聞いても話してはくれないということは解っている。
 立ち上がると二年生達はそれぞれ準備に動き出したのだった。

 その後の寮長と三郎の会話。
「寮長‥‥、西のあの村は西家のテリトリーです。ご存じの筈。周囲が心配するほどのアヤカシが出ているのであれば‥兄‥‥いえ、西家が放って置く筈はありません。時間的に‥‥あいつらとかち合う可能性がありはしませんか?」
「それを狙っての配置です」
「えっ? でも、西家は五行や架茂王をよく思っていません。あいつらに危険が及ぶ可能性は‥‥ないとしても喧嘩を売られたり、逆に仲間にならないと誘われたりしたら‥‥」
「二年生達が西家と出会って、どうするか。何を思うか‥‥。私はそれを知りたいと思ったのです」
「ですが‥‥」
「西家は悪い者達ではありません。むしろ思想は朱雀に近い。それは、貴方が誰より良く知っているでしょう? 三郎?」
「寮長‥‥」

 そして、西の村でアヤカシ退治をしていた寮生達は出会うことになる。
「我ら、西の一族。西家! 架茂の犬ども! 何用だ!」

 彼等との「再会」が朱雀寮二年生達に、新たな舞台への道を開こうとしていることを彼等は知る由もない。


■参加者一覧
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
玉櫛・静音(ia0872
20歳・女・陰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
瀬崎 静乃(ia4468
15歳・女・陰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
劫光(ia9510
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951
17歳・女・巫
アッピン(ib0840
20歳・女・陰
真名(ib1222
17歳・女・陰
尾花 朔(ib1268
19歳・男・陰


■リプレイ本文

●課題と言う名の依頼
 それはいつもと変わらぬ風景。
「んじゃ、行って来るなり〜」
「おお! 行って来い! 凜も皆の言う事を良く聞いてな。怪我するなよ〜〜!!」
 元気に手を振りながら飛び跳ねる平野 譲治(ia5226)にそう笑って西浦三郎は実習に向かう二年生達を見送った。
 彼らの姿が朱雀の大門から完全に見えなくなったのを確認し‥‥
「はあっ‥‥。大丈夫かな。奴ら」
 講師として寮生には絶対見せない顔でため息を吐き出した彼は懐から一通の手紙を取り出す。
「西浦三郎殿」
 と当てられた表書きの横には、三年を共に過ごした仲間の名前が書かれていた。

 そして、五行の西。森の中。
「しっかし、パンピーの危機にも授業の側面を持たせにゃならんとは、国のお抱えも厄介だわな。とっとと助けに行くで良いだろうに? っとこの辺で良いかね」
 滑空艇と龍で先行してきた朱雀寮二年生達は、少し遅れる仲間達を森の中で待ちながらそんなことを呟いていた。
 滑空艇を森の側、目立たない広場に隠しながらそんな事を言う喪越(ia1670)に
『急を要する危機であれば、そうしたでしょう。その辺の状況の下調べは済んでいて我々に任せられると踏んだからこの課題を与えたのだと思いますよ』
 ツッコみを入れるのは青嵐(ia0508)である。龍の嵐帝の背を撫でながらニッコリと笑みは作っているが言葉は鋭い。
『あの‥‥大丈夫ですか?』
 心配そうに問うのは陰陽寮の人形『凛』であるが
「ああ、大丈夫なりよ。別にケンカしてるわけじゃ無いなりから。な? 強〜」
 譲治の言葉にうんうんと瀬崎 静乃(ia4468)も頷く。
「あれも、コミュニケーション‥‥みたいなもの、だから」
 けっこう強い口調でするこの二人の言い合いはまあ、はたから見ると十分ケンカに聞こえるのだが、同じ委員会の仲間同士。
 ケンカするほど仲がいいのだろう。多分。
「まあ、ほっとくといいですよ〜。それより皆が来たら聞き込みはしないといけないですね〜。やわらぎさん達にはここで待っていて貰うとして〜、どの辺を拠点にするべきですかねえ〜」
 のんびりとした口調で言いながらアッピン(ib0840)は図書室で借りてきた地図を広げている。
「真心もここでおとなしくしていて下さいね」
 玉櫛・静音(ia0872)も鷲獅鳥にそう言い聞かせると仲間達と共にその側に近寄った。
「ここが、問題の村ですね。で、街道沿いということだから‥‥アヤカシ達が出るのは主にきっとこの辺‥‥でしょうか?」
「アッピン。この村の奥の方に付いているこの丸印なんなりか?」
 村の奥、大きな山のふもと付近を指差す譲治にああ、と思い出したようにアッピンは答える。
「この辺にも集落があるらしいです。村と言うのには小さいらしいのですよ。聞くところによると寮長が言っていた陰陽集団の隠れ里があるとかないとか‥‥」
「隠れ里‥‥? なんだかシノビみたい‥‥ね」
「陰陽集団〜。わかの人達、なりかねっ! だったら嬉しいなりねっ♪」
『隠れ里とは、隠れなければならないようなことをやっている、ということなのでしょうか?』
 それぞれが、それぞれの思いを抱え地図を見つめる中、
 ガサ!
 背後で草の揺れる音がした。とっさに振り返り、身構える寮生達。
 だが
「俺達だ。攻撃なんぞしてくれるなよ」
 そう告げた耳慣れた声に彼らはホッと胸を撫で下ろす。
「遅かったのだ。待ってたなりよ〜」
 駆け寄った譲治に草むらから現れた劫光(ia9510)が笑む。
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃったね」
「お待たせしました。ちょっと荷物の準備にも手間取りまして」
 俳沢折々(ia0401)と尾花朔(ib1268)も苦笑しながら言うので
「気にしないでいいですよ〜。これで全員無事揃ったですからね〜」
 アッピンは手を横に振る。
「大荷物だな。言ってくれたら龍に乗せてやったのに。‥‥譲治と青嵐が」
 泉宮 紫乃(ia9951)が持っている荷物運びを手伝いながら喪越は言うが、今度は青嵐もツッコまない。
『そうですよ。いくらでもお手伝いしますから』
 笑う青嵐の足元で紫乃の忍犬瑠璃が身をすりよせている。
「予定の変更などはありますか?」
 確認する朔にアッピンは再び地図を広げて見せた。
「今のところは無いですよ〜。今がここで、問題の村はこっちですね〜」
「じゃあ、予定通りね。村で情報収集してから仕事を開始しましょ?」
「そうだな。まずは状況を知る事が第一だ。町や人に害が出てないかを先に確認する。いつもの通り、人を第一でいくぞ」
 真名(ib1222)や劫光の言葉に、勿論異論などはない。皆立ち上がって動き出す。
「あ、賽子振ってみよっと」
 ころころと、譲治の手から転がった賽子が指し示した数字は5。
「お、なんか、いいことありそうなりね」
 譲治はそう言うと嬉しそうに笑ったのだった。

 その後、寮生達を村で待っていたものは、けっして「いいこと」では、なかったのだけれど‥‥。

●西家との出会い
「お前達! 何をしている!!」
 村で情報収集をしていた朱雀寮生達は、突然かけられた声に目を瞬かせた。
 男達が数人、こちらを睨んでいる。
「その服装からして陰陽師のようだが、ここが我々の領域と知っての振る舞いか!」
「は、放して下さい!」
 男の一人が静音の手を掴んで捻り上げる。
 それを
「止めてくれないか! 女性に対して無礼だろう?」
「青嵐さん?』
 パシンと青嵐の手が払って静音を救い出した。と当時に目の前の相手を強く見つめ返す。
「‥‥大丈夫?」
 庇うように寄り添った静乃もスッと青嵐の後方、から彼らを見た。
「服装からして」という彼らの言葉を借りるなら彼らも陰陽師であるのは間違いない様だ。数は五、いや六人。年は皆、自分達と同じくらいかそれ以下であろうが、血気盛んな目をして剣を帯びている者もいる。
「何事だ?」「どうした?」
 争いの気配に村のあちこちに散っていた二年生達が集まってきた。
 数はこちらの方が上。
 それに僅かに怯んだ様子を見せたが青年達は威勢を崩す様子は見せない。
「貴様ら、何者だ? 何をしに来た? 名を名乗れ!」
「名前を聞くのなら、先に名乗るのが礼儀ってものじゃあないかな」
 睨みあう二組の陰陽師集団。
「貴方方は‥‥西家の方ではないのですか?」
 様子を見ていた村人の一人が小さな声で紫乃に問いかけてきた。
「私達は陰陽寮の二年生です。依頼を受けてこの近くの森のアヤカシを退治に参りました」
「陰陽寮? 五行の飼い犬か‥‥」
「ちょっと。そんな言い方ってないんじゃないですか?」
 真名の反論をふん、と鼻で笑うと彼らはさらに胸を張った。
「我ら、西の一族。西家! 架茂の犬ども! 何用だ!」
「そうだ。ここは我らの領域。村の依頼を受けてアヤカシ退治に来たのは我々だけの筈。一体どこの依頼を受けて来たと言うのだ!」
 そこまで聞いて彼らはああ、と思い当たった。
 寮長が言っていた『五行に属していない陰陽集団』。その一つであろう。と。
「犬、とはご挨拶だな」
 嘆息しながらも劫光はその言葉を受け止める。
 権力の中にいて力の中に庇護される。
 そんな自分達をそう思う者もいるということは半ば予想できていたことだ。
「はいはい、犬めが参りましたよ〜っと。躾のなってねぇ駄犬だけどな。飼い主がろくでもなかったら鎖をちぎって噛みつくくらいには」
「ちょっと黙っていてくれないか?」
 青嵐はそう言って喪越を睨むが、彼の目に宿る光の鋭さは喪越と大差ない。
「ねえ、ここはちょっと任せて」
 前に立った折々と女性達に男達は頷くと一歩下がった。
 そして折々が代表として話す。
「私達は陰陽寮朱雀の二年生。実習として課せられての事ではあるんだけれど、依頼を受けてきたのは本当。この村近くを通る隊商の人達からかなり強敵の鬼アヤカシが出てるから退治して欲しいと頼まれたんだ」
「うむ、その件に関してなら我々も同じ情報で動いている。近くに獄卒鬼を頭とする鬼の集団がいると。西家にこの村から依頼が出されたので、我々がここに参ったのだ」
 ちゃんとした返事が返る。冷静に話をすれば、話が分からない相手では無い。
 顔を見合わせた少女達とりあえず下出に出ることにした。
「依頼がかち合ってしまったのですね。私達は、皆さんのお邪魔をするつもりはありません。ですが、もしよろしければご協力をさせて頂けないでしょうか? 強敵ということですもの」
 丁寧に頭を下げて頼む紫乃に予想通り、目の前の青年は赤面する。
「な、何を言う! お前達の力なんぞいらん。俺達が任されたんだ。俺達だけの力で‥‥」
「別に手柄を横取りするつもりはありません。報酬も無用です。私達はアヤカシを退治し、村の方達や街道を行く方々が安全になればそれでいいのです」
「何か指示があるなら基本的に無茶な話でなければ従うよ。正直、ここでこうしている時間ももったいないもの」
「勝手に‥‥来たのはごめんなさい。でも、お互い邪魔や、敵対は‥‥したくないと‥‥思う」
 美少女達に頭を下げられて、頼まれて、どうやらこういうのに免疫がないのだろうか、彼らは動揺を隠しきれずさらに大きな声を上げる。
「お、お前達! 五行の奴らだろ? プライドとか、メンツとか無いのか?」
「「「「「「ない」」」」」」
 正確に言うなら、ありません、とか。ないですよ。と言った者もいたのだが、とにかくあまりにもはっきり、きっぱり、秒で即答されて、彼らは明らかに振り上げた拳の行き場に困っていた。
「さっきの質問にお答えしましょうか? 何をしに来たと問われれば大切なモノを護りに来た、と。命を、思いを守る、それに境界線は無いと思っています、今やるべきは諍うより一匹でもアヤカシを減らし、護ることではありませんでしょうか」
「目の前で困っている民が居る、それに応えられるなら応える。それだけだ」
「困っている人がいて、そこに危機が迫っているのに、何をいわんやですよ〜」
「アヤカシを倒したいというなら邪魔をしようとは思わん。だが、互いに協力し合えば仕事が楽になると思うぞ?」
「「仕事を減らしてくれたら困る」と言われりゃそれまでなんだが、まさか「もっとアヤカシが人間を襲ってくれれば」と思ってるわけでもねえだ‥‥」
「あたりまえだ!! 西家にそんな奴がいるもんか!」
 おや、と喪越は最後の、ろを言う前に返った返事ににんまりと笑う。
「な〜ら、決まりなのだ。一緒に共闘っ! とっととやっつけて皆で遊ぶなりよ!! 困ってる人をそのまま、喧嘩なんかしてる時間のが惜しいなりよっ!」
 譲治が明るく飛び跳ねれば、仕方がないなというように青年達。西家の陰陽師達も苦笑交じりに笑った。
「仕方ない。手伝わせてやる。足手纏いになるなよ!」
「それは、こっちのセリフだ」
 といつもなら言うであろう劫光も何も言わず腕を組みながら笑む。
「双樹。お前は後方で凛達と後方のフォローよろしく」
「槐夏も。必要があれば神風恩寵を使用して下さい、毒が有れば解毒も御願いします」
『解りました!』『イエスマスター』
「よし! 行くか!」
 そして、二つの陰陽集団は同時に走り出したのだった。

●実習であり実践、そして実戦
 敵の数は、実は寮生達や、西家に与えられた情報よりも多かった。
「やはり、頭は獄卒鬼のようです」
「敵の数は20を超えるみたいだ。殆どは小鬼や悪鬼兵等ですが武装している者もいるな」
 人魂で偵察をしていた紫乃と陰陽師が、仲間達に報告した。
「ちっ! 厄介なことになったな」
 舌打ちする西家の陰陽師の気持ちは正直解らないでもない。
 獄卒鬼は強敵だ。単体でもかなり厄介だが、集団を指揮されれば下級の敵であっても侮ることはできない。
「それじゃあ、俺達が先陣を切ろう。お前さん達は確実に敵を倒してくれ。リーダーっていうか一番腕の立つ奴は‥‥あんたか?」
 陰陽寮生達の指示に、不満そうな表情を浮かべた者もいるがそれをリーダーらしき青年が制して頷く。
「まずは、獄卒鬼を倒さなきゃならん。俺が奴に隙を作る。そこを突いてくれ」
「命令するな、と言いたいところだが、いいだろう。止めは任せて貰う」
 数名ずつ小さなチームのようなものができたところで、
「大変です!」
 アッピンが慌てた様子で声を上げた。
「どうしたんです?」
「鬼達が、人を引きずっています。村の方か、それとも隊商の方かは解りませんが‥‥」
「なに!?」
 囚われた人がいるのなら、のんびりはしていられない。
 一刻を争う!
「よし、行こう!!」
 目で合図をして森の木々に身を隠した劫光達。
「あれが‥‥頭目か。人質が奴の前に差し出される前に‥‥行く!」
「何をする気だ?」
 問いかけて青年は口を閉じた。劫光が普通以上に精神を集中しているのが解るからだ。
「深く‥‥静かに。行け!! 無より出でし者よ! 汝の敵を倒せ」
 術の完成と放たれた声と同時‥‥何かが見えない、それが敵の首領、獄卒鬼に襲い掛かっていく‥‥。
『ぐがあああっ!』
 獄卒鬼が胸元を押さえて悲鳴を上げる。
 周囲の鬼達は何が起きたか解らないので、動揺を隠せない
「黄泉より這い出る者? あんな高度な技を‥‥お前らが?」
 驚く青年に劫光は言い放つ。
「早く行け! 俺達も援護する。ここからは大乱戦だ。人質を取り戻して一気に行くぞ!」
 見れば、陰陽寮生達も朋友鬼火玉かるみや管狐紅印などを従えて戦いを始めている。
「解った。お前達に負けないぞ!」
 そうして、彼は手に持った剣に瘴気を纏わせると崩れるように膝を折った獄卒鬼と人質の間に飛び込んで行った。

 そこからは大乱戦となった。
 最優先したのは捕えられていた人々の確保。前衛として飛び込んで行った西家の青年と劫光がそれを行った。突入に気付いた鬼達は人質を盾に、もしくは殺そうと駆け寄ったが
「させないのだ!!」
 譲治がとっさに術を発動させた結界呪符「黒」に阻まれる。
「こっちっ! こっちが安全なのだっ! 凛! 双樹! えっと‥‥槐夏もこの人たちを頼むなり」
『解りました』
 後方の仲間に人々を託すとまた敵に踏み込んで行く。
「君達の戦い方は朱雀寮のそれに近いね」
 武器に爆式拳を乗せて戦う西家の一人。その背後に迫っていた敵の頭を割って蒼嵐はそう微笑んだ。
「何を言ってる?」
「君達の理念は認められるってことさ。野良犬かと思ったけれど」
 見ていればわかる。彼らが人の命を優先に、さらに森の被害も最小限にして敵を倒そうとしていることが。術をただ行使するだけではなく自らが戦おうとしていることが。
「でも、油断しちゃいけない。必ずトドメを。瘴気に還すまでが退治だ」
 言いながら彼は剣をアヤカシの胸へとさらに突き刺す。
「行くよ!」
 縛った銀の髪が青年の前で揺れる。無防備な背中に青年は
「ああ」
 そう言って着いて行ったのだった。

「ほらほら、囮と壁は任せな!」
 そう言って武器を振り回しながら仲間の術詠唱を守る喪越。
 鬼の攻撃を受けて倒れた青年。トドメを指そうと迫る鬼の眼前を小鳥が飛び、雷が走る。
「こっちへ!」
「静乃、防御は頼みます。『怜音(レヲン)、吹き付けなさい!』」
 結界呪符「白」と氷柱で助ける少女達の横では紫乃と朔のコンビがさらに追加攻撃を加えていた。
「そっちには敵が集まっていますよ〜。正面から当たらないで裏か横から回るのが良いですよ〜」
 そんな声をかけてくれるアッピン。
 そして
「ほら、怪我を見せて」
 敵の刀に切られた傷を隠す青年の手をひっぱる真名。
「どうして俺達まで治療するんだ?」
「怪我をしてる人に内も外もないでしょう!」
 そう言って術を発動させた真名にはひょっとしたら聞こえていたかもしれない。
「やれやれ。参ったな。俺達の負けだ」
 そんな青年の呟きが‥‥。

 全てを終えた西家と朱雀寮の陰陽師は村人達に大歓迎を受けた。
 けが人の治療や村の修復なども終えた後、お礼をしたいと言われれば断る理由は無かったのだ。
 燃える炎を囲んで村人達の心づくしの料理と酒。あっという間に酒盛りが始まる。
「お前達やるなあ〜」「お前達もな‥‥」
「ほらほら、皆も遊ぶなり〜」
 村人達や子供達も巻き込んでの大騒ぎの中、
「やれやれ、初仕事だと思って心配してきてみれば‥‥。まあ、仕方ありませんか。朱雀寮生の実習とかち合ったのなら‥‥」
 そんな柔らかいがどこか厳しい声が背後から降ってきた。
 聞き覚えのある声。
 瞬間、西家の者達は酔いが醒めた様に飛び立つと膝を折る。
「透様」
「透?」
 喪越が酒を置き、目を擦るとそこには立ち尽くす青嵐が。
「久しぶりですね。皆さん。ここで会ったのも何かの縁です。後でお願いしたいことがあるのですがよろしいですか?」
 そう言って微笑したのは紛れもなく、かつての朱雀寮用具委員長 七松透であったのだ。

●西家と朱雀寮
 西の村を出る時、彼らは恩人として盛大な見送りを受けた。
「次に会った時は負けないからな!」
 強く握られた手の暖かさを確かに感じる。
 再会した元用具委員長もまた変わらぬ笑顔で手を振った。
「また、会いましょう」
 そう言って。

 さて、実習を終えた寮生達は朱雀寮に戻り、まずは寮長 各務紫郎に報告を行った。
 西家の事そのトラブルを含めて全て伝える。
「かちあった西家の陰陽師達とは協力体制を取って敵を倒した。後の状況観察などは向こうがやる、とのことだった」
「資料は今、纏めているところです。数日中には必ず」
 そう言った折々に寮長は満足そうに頷いた。
「いいでしょう。特に問題となるところはありません。勿論、資料は精査しますが、今回の実習は合格とします。良くやりました」
 安堵の表情が二年生達に浮かぶ。
「ありがとうございました。では」
 退室しかけた二年生は、はた、とあることに気付いて足を止めて振り返る。
「どうしました?」
 問う寮長に顔を見合わせた寮生達を代表するかのように、もう一度折々が答える。
「西家の長からの伝言だそうです。『待っている』と伝えて欲しい。と」
 暫く沈黙した寮長は
「解りました」
 その返事に二年生達は今度こそお辞儀をすると部屋を出たのだった。
 そして今度は教官の部屋へと向かう。
「お帰り」
 自分達の帰還を知り待っていたであろう教官に
「さぶろー。透と西で会ったのだ。戻って来ないのかって言ってたなりよ〜」
 ワザと明るく譲治は告げた。
 透は何も語らなかったけれど、彼が西家に属したことを三郎は当然知っていた筈だし、三郎と西家に何かがあることは簡単に感じてとれる。
 今、聞いても教えてくれる筈はないから‥‥それ以上を彼らは問わなかった。
『伝言、確かに伝えました』
 そう言って立ち去ろうとする彼らを、
「待て!」
 三郎は呼び止めた。
「‥‥西家を、どう思う?」
 快活な彼には珍しい、絞り出すような声に小さく笑って喪越は答える。
「気のいい連中だったぜぃ。終わってから一緒に酒を飲んだ。ああいう連中、嫌いじゃないね」
 それを聞いて三郎は
「そうか‥‥ありがとう」
 と小さく頷き微笑んだのだった。

 西家と寮長や三郎との間に何かがあるのは間違いないだろう。
 けれど、それを問う事を今はしないと彼らは決めていた。

 宴会の後、西家の青年の一人は寮生達にこう告げていた。
「なあ〜。お前らも西家に来いよ〜〜。五行なんかじゃ無くたって人を助けたいって思いがあれば陰陽師はそれでいいだろ〜」
「いっしょに架茂をぶっとばそうぜ〜」
 彼らの思いは少し、解る。しかし今の自分達にはこの場所が大事である。
「いつか、また会いましょう」
 彼らとはまた再開することになるだろう。
 それが敵対でないことを願いながら朱雀寮の陰陽師としての日常に戻って行ったのである。