【朱雀】戦乱の後に
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/30 18:59



■オープニング本文

【これは朱雀寮一年生用のシナリオです】

 朱雀寮生になって二回目となる合同授業の日。
 講義室に集まった一年生の中には微かに疲労を浮かべる者もいた。
 先に武天で発生した大アヤカシ大粘泥「瘴海」との大規模戦闘はなんとか人間側の勝利に終わったものの、開拓者、武州軍、そして一般市民に大きな打撃を残した。
 アヤカシは人間にとって決して受け入れられぬ敵であることを身を持って知らされた気がする。
 武州の人々が受けた大きな被害を思うとなかなか笑顔になれない。
 しかし、勿論ながら授業は待ってはくれなかった。
 さらに狙ったように朱雀寮寮長、各務紫郎の語る今回の講義はアヤカシ論を中心としていた。
「アヤカシというのは魔の森の瘴気から生まれ、人に害を及ぼす存在。その総称です。同じ瘴気から生まれる式とは違う、存在そのものが毒であり、人の敵。それがアヤカシです。アヤカシの起源は明らかではなく、世界がこの形を取ったとほぼ同時かそれより前から存在すると言われ、天儀の歴史はそのままアヤカシとの戦いの歴史と言えるでしょう」
 アヤカシの種類、性質など講義の内容は複雑かつ多岐にわたる。
 つまりそれはアヤカシというものがそれほどに人にとって理解しがたいものであることを意味している。
「アヤカシという表現は、ネズミ、ウサギ、リス、トラ、犬、人を含めたすべての生き物を動物と呼ぶのと同じです。同じ種のアヤカシであっても非常に多くの種類が存在し、その生態、能力なども人にとってまだ、多くが謎に包まれています。先の武州での戦いでも今まで、知られていなかった多くのアヤカシ現れが人々を苦しめました。そして大アヤカシの驚異的な力も‥‥。知っていますね?」
 寮生達の顔が色々な思いに歪んだ。
 悔しさや、悲しさ、怒り‥‥。
「強大な敵と戦う為に、まず必要なのは情報です。相手の能力を知らず敵を倒せることなど力差があっても難しいもの。よもやアヤカシ相手に自分達が無策で叶うと思う者は陰陽師にはいないでしょうね。アヤカシを使う陰陽師とはいえ、いえ、陰陽師であるからこそアヤカシを甘く見ることは即、死に直結します」
 寮生達から帰る言葉は無言。それを肯定と取ってか寮長はさらに言葉を続けた。
「陰陽寮では今まで確認されたアヤカシの外見、能力など解る限り、情報として収集しています。その量と質は天儀全体でも上位に位置すると自負していますが、それでも、すべてを網羅しているとは言えないのが現状です。特に大アヤカシ、上級アヤカシなどは目撃証言さえも少ないのです」
 そこで寮長は講義用の書物を閉じて一年生達を見据えた。
「情報は武器、情報は力。よって、常に陰陽寮の陰陽師は目の前のアヤカシに対して退治する以上の関心を持ち、その能力、外見を次の世代に情報として伝えていく責務があるのだと理解して下さい。今回の演習はその実習です」
 前回とは違う、真剣な眼差しが一年生達を射抜く。
 それに答えるように彼らは、寮長の言葉を一言も聞きもらすまいと背筋を伸ばす。
 そして寮長は演習課題を発表したのである。
「皆さんは、武州に赴き、そこでアヤカシの能力、生態、行動調査を行って下さい」
 ざわり、と空気が揺れる。けれど、一年生の反応など気にも留めず、彼は注意を続けた。
「調査内容は今回の戦乱で現れたアヤカシの外見、能力、行動などとなります。まだ武州では襲撃の残党が多く残って人々を苦しめているようです。いますので、それらを実際に確認して、能力などの調査を行ってもいいでしょう。また退治された大アヤカシなどは実際に目で確かめることはできませんが、直接対峙した者などから話を聞き、できる限りの情報は集めて下さい。既に滅ぼされた上位アヤカシに対してのみ、不確定な情報があっても大目に見ます」
 他にいくつかの指示を与えた後、寮長は最後にと言って口を開いた。
「今回の課題は学年全体の協力、分担が重要となります。成績は個々人ではなく参加したチーム全体で取りますのでよく相談、協力を行って下さい。そして‥‥最も大事なことですが、雑な情報収集は許しません。皆さんの集めた情報は、朱雀の記録に残され、今後のアヤカシ対策の大事な資料となるのです。確実に自分の目で見た情報を集め報告しなさい。期日は一週間。では、これより開始!」

 戦いが終わって間もない戦場での課題。
 残党のアヤカシも多いというから、危険もいっぱいだ
 いつまでも甘い授業ばかりではない
 彼らは去っていく寮長と、仲間達を見ながら意欲を漲らせていた。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001
13歳・女・陰


■リプレイ本文

●はじめての実習
 今月、一年生達に与えられた課題は「武州の戦いにおけるアヤカシの調査」であった。
「よしっ、初めての実習頑張ろう」
 ぐっと手を握り締めたクラリッサ・ヴェルト(ib7001)の呟きに、同意するように仲間達も頷いている。
 正確に言えば、最初の実習は先月あったのだが、あれはお化け屋敷の興業という、ちょっとという以上に陰陽師としては異色の仕事。
 だから、本格的な陰陽寮の実習は今回が初めてである。
 いつもの仲間が一人足りないのは心細いが、それでも課題は待ってはくれないのだ。
「朱雀寮は毎月の課題実習があるんだな‥‥。その寮ごとに随分いろいろ違うんだね」
 そう言ったのは白虎で以前学んでいた清心である。
「朱雀は比較的実技系が多いらしいですね。でも、レポート、ですか‥‥苦手ですががんばらなくては」
「調査と報告が今回の課題ですよね。なるべくたくさんのアヤカシを調べた方がいいんでしょうか?」
 蒼詠(ia0827)と彼方の言葉にサラターシャ(ib0373)は準備の手を止めながらニッコリと笑む。
「それは多いに越したことはないでしょうけれど、まずは正確な情報と寮長もおっしゃっておられましたし、無理はしないことが大事だと思いますわ。調査に集中し過ぎて大怪我を追われては本末転倒ですもの」
「そうですね。この人数でどれだけ出来るか判りませんが…出来る限りのことをしなければ‥‥」
 ぐっと手を握り締める蒼詠の横から
「うわ〜。これ一人で作ったの? サラ、頑張ったね〜」
 サラターシャの手元を覗き込んだ芦屋 璃凛(ia0303)は歓声にも似た声を上げる。
「なんでしょう?」
 小首を傾げた蒼詠も、他の一年生達もやがて璃凛と同様の反応を見せた。

『調査項目 一覧
 名称
 全長
 姿
 タイプ:植物・動物・粘土・人型等
 移動:徒歩・飛行等
 攻撃方法
 特殊能力
 出現単位:単独・群等
 出現条件:場所や季節等
 知性:獣・人間等
 抵抗:物理・各属性
 弱点
 瘴気汚染:有・無
 伝承
 その他:項目に該当しない事柄』
 
 見事なテンプレートである。

「これをそれぞれが記入しておけば、向こうで記載に充てる時間が少なくできるかと思いまして」
 サラの手元を見ていたクラリッサはその一枚を手に取ると、う〜んと考えるしぐさを見せている。
「何か? 問題の所ででもありますか?」
「ああ、そうじゃなくて。これだけしっかりとした形式が作ってあるんだからギルドや図書館に残っている合戦の資料とかを事前に調べて、解るところを埋めておいて、実際に確かめたモノとの差を調べて埋めて行けばより、正確性も上がるんじゃないかな、って思ったの」
「ああ、それはいいですね」「じゃあ、手分けして調べるか」
 一年生達はその意見に同意する。皆が同じ目的に心を向けているから手早く役割分担の話し合いも進む。
 皆で話し合い、相談し、意見を出し合う。
 これがチームで作業にあたる時の良い点であり楽しい点だろう。
「先輩達に比べると人数は少ないですし、大変ですけど協力して課題を達成していきましょう」
 サラターシャの声に仲間はそれぞれに頷いて準備に動き出した。
 そんな中。
「サラ‥‥」
 璃凛がサラターシャを呼び止めていた。
「なんでしょう?」
 彼女の手元にはサラターシャの作った資料の原本がある。
「‥‥ちょっと相談があるんだけど」
 真剣な目と心で話す璃凛にサラターシャは笑顔で頷いていた。

●情報収集と戦い
 気が付けば足元にやってきているのは粘泥。
「わっ!!」
 とっさに避けながら璃凛は手に持った刃を薄茶色のそれに、突き刺した。
 何とも言えない手ごたえが武器を通して彼女の手に伝わってくる。
「うわっ! 固いっていうか刃が通んない! こりゃダメだ!」
「璃凛さん! こっちへ!」
 サラターシャの呼ぶ方に璃凛は走り出すが、見かけによらず敵は素早い。
「危ない!」
 とっさに清心が氷柱を粘泥にぶつけた。
 ほんの一瞬、止まった隙を見逃さず、サラターシャは電撃を走らせる。
 さらに止まる動き。璃凛は刃に黒い靄を纏わせた。
「普通の武器やダメでもこれなら、どうだあ!!」
『!!!!!』
 弾けるように散った粘泥は瘴気の粒となって消えていく。
「ふう〜。やっと倒せた。戦乱の時とはやっぱりちょっと勝手が違うね。それに‥‥特定の形を持たないアヤカシは、怖いな。‥‥何考えてるか判らない。武器も効き辛いし」
 ため息をつく璃凛に同意しながらも‥‥
「でも、粘泥系は普通の攻撃は確かに効き辛いようですが、その分術などの通りは良いような気がしますわ。術から逃げるような状況判断力などを持ち合わせていませんし」
「確かにね。瘴刃も良く効いた」
「この術の効果が高いって感じでは無かったですよ。元々あれです。耐久力が高い分、知覚とか回避とか、抵抗が弱いのではないでしょうか?」
 サラターシャも、そして清心も冷静に敵を分析する。
「粘泥と呼ばれるものにも色々な種類があるみたいですね。さっきであった赤い粘泥は丸くて跳ねまわって普通のモノよりも危険だったじゃないですか。武器で割ったら変な液も飛び出してきたし」
「そう言えば清心さん。さっきの火傷は大丈夫ですか?」
「あ、平気です。術もかけて貰いましたから、もう治りましたよ。火傷、というより皮膚とかを溶かすみたいですね」
 一つ一つの情報を頭とメモに書きとめていく。
 後でレポートにも纏めておくが外では時間がないからだ。
「でも、武州での戦いは大変なものだったんですね。戦乱が終わって大分経つのにこれだけアヤカシが残っているなんて‥‥」
 清心の呟きに、うんと璃凛は頷く。
「砦が、アヤカシに飲み込まれるところ見ていたけど‥‥後悔はあるよ。もっとできることがあったんじゃないか。助けられる人がいたんじゃないか‥‥って」
「仕方ないと言う言葉は使いたくありませんが、やるせなかったですね。でも‥‥」
 サラターシャはニッコリと微笑んで仲間達の方を見る。
「今、私達が集めている情報があれば明日、同じことがあった時、助けられる人、できることが増えるかもしれません。そうでなくてもそうする為に私達は学んでいるのだと思いますわ」
 だから、今はできることを全力で頑張ろう。
 目でそう言う友の言葉をしっかりと受け取って二人は頷いた。
 その時
「だ、誰か、助けて‥‥!」
 何かが崩れる音と悲鳴が聞こえる。とっさに三人は駆け出した。
「な、何? あれ?」
 見れば和風の鎧を纏ったモノが街道を通ろうとした馬車を襲っている。
「人? 落ち武者?」
「違います。アヤカシです!」
 声を上げる彼方。既に側にいたクラリッサや蒼詠達が人々を守りながら攻撃を仕掛けているが‥‥
「これ、中身は粘泥みたいなの。銃で撃ってもなんだか効果が薄いみたい」
「物理的な攻撃は、ほとんど通らない感じです。術で攻撃した方がいいかもしれません」
 言う二人は後から来た仲間に向けて、そう叫び既に攻撃方法を術に置き換えている。
 彼方は後方からの援護と人々の護衛だ。
『!!』
 クラリッサの放った炎が鎧に灯る。けれど、あれが粘泥であるというなら、苦痛もなにも感じまい。
「解った。行くよ!」
 もう一度術を刃に纏わせると、背後からの援護の気配を感じつつ、璃凛は敵に向かって一歩を踏み込んでいった。

●贈る思い 残す力
 さっきの粘泥は強敵であった。鎧を身に纏うことで普通の粘泥が持たない行動力や耐久力を手に入れていたからだ。しかし‥‥
「えっ? 戦乱ではあれが集団で襲ってきたの? それは‥‥怖かったね」
 村人から話を聞きながらクラリッサはメモを取っていた。
「上位アヤカシに統率されて、集団で襲いかかられたら、本当に恐ろしいことになりますね。普通の武器では効き辛いですし、大変でしたね‥‥」
 蒼詠も頷いている。
 さっき、粘泥甲冑と言うらしい敵から救出した人々は、一度岩屋砦などに避難していた人達が自分の村に戻るところであったらしい。
 救出のお礼にと村に招かれた彼らは、彼らの護衛をしつつ、村に到着し、その後そこを拠点に情報収集を纏めることができるようになったのだった。
「大アヤカシが瘴海だからスライム系が多いみたいだね。でもスライム系に随分いろんな奴がいたなんて、気付かなかった。緑の少し強力な奴は知ってたけど、クジラみたいに大きいのもいたんだって。空を飛んだって話だよ。信じられないね」
 実際に襲われた人々の証言は護衛の開拓者達の話も含め、できる限り書き留めていく。
「スライムばかりではなくさっき倒した蜂のような敵もいるじゃありませんか? あれも集団で襲ってきたら、とても怖いですよ。‥‥アヤカシがまだたくさんいるのに、それでも、皆さん、本当にこの村で生活していくつもりなのでしょうか?」
 心配そうに彼方が村を見る。壊れた村を修理し、穢れた場所を洗い、直す。
 気の遠くなるような作業。
 しかもいつアヤカシがまた襲来してくるかもわからない危険な場所で。蒼詠も同情の入ったような目で見るがクラリッサは一度目を伏せただけで、彼らから視線を外す。
「それは、あの人たちが決めることだから。私達がどうこう言うことじゃない」
 彼女の言葉だけ聞けば、少し冷たい、突き放したようにも聞こえ、見える。だがそうではないと解っているから
「クラリッサさん‥‥」
 蒼詠は気遣うように彼女の名前を呼んだ。
 しかし当のクラリッサはサバサバとした顔で、ペンと紙を彼らに押し付ける。
「ほら、調査継続しないと。時間が無くなっちゃうしね。スライム系とあと蜂の資料はだいぶ集まってきたみたい。後は、もう少し他のアヤカシがいないか探してみよう?」
「はい」
 二人は頷く。
 自分達は課題でここに来ているのだから。まずやるべきことをやらなくては。割り切ろうとする二人に、けれどクラリッサは片目を閉じて見せる。
「それに、この資料は写しを村に置いて行こうって璃凛が言ってたし、私達が調査のついでに敵を倒して行けば、村にもけっこう役に立つんじゃないかな」
 二人の顔にパッと笑顔が咲く。
「ああ!」「そうですね」
「でも、皆とも連携してやろう。無理はしないで」
 今にも駆け出していきそうな彼らを止めながら、クラリッサは一度、村を振り返った。
 壊滅に近い目に合っても、それでも彼らは前を向いて歩いて行こうとしている。
 彼らの道に自分達がかけられる言葉は何もない。
「なら、私達は私達のするべきことをするだけだね。目についたアヤカシはできるだけ倒して行こう」
 そうして彼女もまた、仲間達の所に走って行ったのである。

●実習結果発表
「さて」
 調査実習を終えて集めたレポートを提出し終えて数日。
 一年生達は講義室へと呼び集められた。先日の課題の結果発表であることは明白で、寮生達の間に緊張が走る。
「まず、今回の課題において特に注意すべき点が二つあります」
 緊張の表情を再び浮かべる寮生達に彼は指摘を行った。
「まずは、終了の報告をきちんと私の元にしに来なかったことです。これは例年の一年がいつも注意される点ですが、大きな減点対象ですよ」
「報告?」
 寮生達は顔を見合わせた。
 調査とアヤカシ退治と、その後のレポート作成に手も頭もいっぱいだったが、まさか報告に来なかったと怒られるとは。
「皆さんは五行の、陰陽寮と言う名を背負って行動しています。それは五行から与えられた任務であり、仕事だと思っていい。
 報告書の提出などは期限内であれば後でもかまいません。まず、与えられた任務を終えたら必ず報告を行う事。それは組織に属する者にとっては当然の義務です」
「はい‥‥」
 確かにレポートの提出は行ったが、寮長に帰還や終了の報告は行っていなかった。
 今まで、どちらかというと個人での活動が多かったからそういうところまでは頭が回っていなかったのは事実だ。
 今は開拓者では無く、陰陽寮の寮生。
 行動の結果責任を負うのは自分達ではなく寮長なのだから報告は必須ということだろう。
「もう一つは」
 そこで言葉を切って寮長は璃凛を見る。
「あたし?」
「無許可で、調査資料を他国に漏らしたこと」
「えっ‥‥あっ‥‥」
 小さく声を上げた璃凛は手で口元を押さえる。調査資料の写しを彼女は武州の村に置いてきた。寮長が言う問題点はそのことであると解ったからだ。
 仲間達も反対せず、むしろ手伝ってくれたのだが‥‥しゅんと頭が下がる。
「正確な情報を武州に残すのは復興の助けになると皆で判断しました。それは良くない事であったのでしょうか?」
 仲間を庇うようにサラターシャが声を上げるが、寮長その反論を手で制する。
「調査資料は五行のある意味機密資料です。寮生が集めた資料はさらに陰陽寮の陰陽師達の精査を受けてから世に出されるのです。自分達の調査が絶対の間違いがない、完璧な資料であると言えますか?」
 そう言われれば寮生達にそれ以上の反論は出来ない。
 組織に属する者としての覚悟や責任を改めて問われた気分であった。
 俯いてしまっている一年生達、だが寮長のフッと、小さく、だが柔らかい声が彼らの頭を上げさせた。
「無許可で、と言ったでしょう。次はちゃんと趣旨を述べた上で許可を取りなさい。そうすれば問題はなにもありません。特に朱雀寮において人々の救済以上の優先事項は無いのですから」
「えっ‥‥あ、ありがとうございます」
 彼が浮かべる笑みと声は本当に優しく暖かい。璃凛始め一年生達の心に灯を灯る。
「困っている武州の人々の為に、誰に何も言われずに自分達の考えで救助救援を行ったことは評価できます。朱雀寮生なら困っている人、苦しんでいる人を見過ごしてはいけません。
 陰陽師の力は人を助け、守る為にあるのですから‥‥」
 そう言って彼は提出されたレポートに目をやった。
 丁寧に書かれた資料には色々な視点からの調査結果が書かれている。
 今回の実習目的は、ただ戦って倒すだけじゃない視点でアヤカシを見る事は十分果たされており、裏課題の最重要項目、武州の村々の救助救援も行われている。
 中級や上位アヤカシの情報をもう少し収集してほしかったところであるが、一年生にそこまで要求するのも酷だろう。目撃証言などは纏められている。
「いろいろ注意すべき点はありますが、頑張りましたね。とりあえず今回の課題は合格としましょう」
 わあ!
 一年生達から歓声が湧き上がる。
「やった!」「よかったですね」
 手を取り合って喜ぶ彼らにだが寮長はしっかりとくぎを刺す。
「あまり有頂天にならないように。失敗は次に生かし、同じミスは繰り返さないようにしなさい。以上」
「はい。ありがとうございました!!」
 彼らは深く礼をして寮長を見送った。

 はじめての実習。
 寮長の言葉と心を深く胸に刻み込んで‥‥。