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■オープニング本文 その村は、本当に、村とも言えない程の小さな集落であったという。 数家族、20人前後の彼らは魔の森からほど近い所に居を構え、狩りや炭焼きなどをしながら花ノ山城や南郷砦などを顧客に生活をしていたらしい。 あったという。 いたらしい。 表現が過去形であるのには勿論理由がある。 「先の襲撃で私の故郷が壊滅したらしいのです」 そうか細い声で言って項垂れたのは岩屋城で働いていたと言うある兵士だった。 「私はその時、命令により住人の避難にあたっていました。立花家の皆々様の素早い指示のおかげで無多くの人々は避難が叶いました。岩屋城も多くの避難民を受け入れたのです。しかし‥‥」 そのせいで、と言っては何だが岩屋城と、それを守る者達は身動きが取れなくなった。 集まってきたのは女子供や傷病者達ばかり。救いと守りの手が無ければ命を簡単に吹き消されてしまうのが目に見えている。 さらに続くアヤカシの襲来。 いくら家族が心配でも、沢山のか弱き人々を、己の仕事を、仲間を、そして主君を見捨てて一人その場を離れられるわけがなかった。 「きっと、避難している! きっと‥‥」 そう自身に言い聞かせて、彼はこの戦いにおいての自らに与えられた役割を全うしたのだった。 彼自身は志体があるわけではない。けれど、必死になって働いた。 人々に声をかけ、食料や飲み物を配り。 襲撃の際には最前列に加わって懸命に闘った。 そして、地獄のような時を経ての‥‥終局。 勝利に沸き立つ人々の中、彼は避難してきた人々の中に故郷の友を、家族を、知り合いの顔を探した。 岩屋城の避難民だけではなく、各館や花ノ山城や許可を得て伊織の里や高橋の里まで調べに行った。 しかし、家族はおろか知り合いの顔は誰一人見つけられなかったのだ。 「あの辺はほぼ壊滅状態だ。アヤカシどもに飲み込まれて家もなにもあったもんじゃない。まだ残党も多いし、周囲は腐敗の毒まみれだ。‥‥残念だが諦めた方がいい」 南郷砦からなんとか脱出した兵士が、そう伝えてくれたが、それでも彼は諦めることができなかった。 依頼の内容は村の確認と、もし遺体が残っていればその埋葬と遺品さがし、とされている。 場所的に言えば南郷砦よりなお魔の森に近い所であるから、確かに生存者がいる可能性は少ないだろう。 さらにアヤカシの残党がいればそれを退治することも必要になる。 まき散らされた瘴気の影響も考えれば差し出された報酬は決して多くなく、あまりにも割に合わない仕事であると言えた。 「勿論、色々な意味で危険ですから、無理にとは申しません。ただ、私も我が儘をお願いして休みを頂いた身。この時を逃しては再び行けるのがいつになるか解りません。 ですので、なんとかお力をお借りしたいのですが‥‥」 とりあえず依頼を受理すること自体に問題は無い。 そう告げた係員にありがとうございます。と頭を下げて彼は背を向けた。 歩き去るかと思っていた彼は、足を止め、背負向けたままこう呟く。 「私は、少しだけ後悔しています。 何故、あの時家族を探しに行かなかったのだろうと。持ち場を離れて村に行けば、もしかしたら皆を救えたかもしれないのに‥‥。私一人、いてもいなくても状況はきっと変わらなかったでしょうに‥‥。私は守りたいもの全てを失ってしまったのに‥‥」 「おい‥‥」 「詮無い事を申し上げました。お許し下さい。‥‥よろしくお願いします」 伸ばされた係員の手から逃げるように、彼は走り去って行った。 残された依頼書を見ながら係員は思う。 戦乱は終わりを告げた。 しかし、民達にとっての戦いはまだ終わっていないのだ、と。 |
■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
尾花 紫乃(ia9951)
17歳・女・巫
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
尾花 朔(ib1268)
19歳・男・陰
将門(ib1770)
25歳・男・サ
鉄龍(ib3794)
27歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●無力な手のひら 開拓者達も解っていたつもりであった。 今回の戦乱の大きさも、被害の大きさも。 けれど、大災害とさえいえるアヤカシの襲撃から人々を守り、生き抜き、勝利した喜びに溺れなかったと言い切ることはできない。当たり前の事だ。 ‥‥けれど目の前に広がった光景は、そんな喜びさえも吹き飛ばしてしまうものであった。 声もなく、言葉もなく、彼らもただ立ち尽くす事しかできなかった。 「大丈夫ですか? 太一さん?」 武炎の街道。 先頭を黙々と歩く青年に泉宮 紫乃(ia9951)はそう声をかけた。 けれど、返事は帰らない。 朝、割と早くに岩屋城を出発してから数刻。 開拓者に挨拶をして以降、案内を買って出るように前を歩く彼は殆ど無言。 志体持ちである彼らでさえ心配するハイペースで進む青年。 ガタガタに歪んだ街道。歩き辛いのに時折前衛さえも追い越しそうな足の速さだ。 荒い息は口元を押さえる布を細かいペースで揺らしているのに、休憩しようという気配さえない。 その後を着いて歩きながら 「やれやれ、声もかけられないな」 将門(ib1770)は声と共にそんな思いを吐き出した。 あの青年は今回のアヤカシの襲撃で、家族や故郷の村を失ったという話は聞いている。 故郷がアヤカシの襲撃を受けたと知っても、人々を守ると言う仕事の中、助けに行くことどころか、家族を探しに行くことさえもできなかったのだ‥‥とも。 「守りたかったものを守れなかったのは辛いな」 「合戦の影響がこんな所にも‥‥か。やりきれん」 将門の声が聞こえたわけでは無いだろうが、依頼人の横を歩く鉄龍(ib3794)もほぼ同時に同じような思いを呟いていた。 武炎の戦乱は大きく長い戦いであったが、開拓者を始めとする多くの者の協力で人間側の勝利に終わった。 けれど、その勝利の代償はあまりにも大きい‥‥。 「止まれ!!」 先頭を歩いていた竜哉(ia8037)が後ろに向けてそう声を上げた。 強い、強制の声だ。 「どうしました?」 駆け寄る尾花 朔(ib1268)に答えるのは鞭を握り締める皮音。 「アヤカシの気配だ。1‥‥2、結構数が多いか」 「屍人、ではないな。蟲‥‥蜂だな」 「ヘラルディア(ia0397)。フェルル! 後方はどうだ!」 前衛の男子達に問われて二人の巫女。 ヘラルディアとフェルル=グライフ(ia4572)は周囲の様子を探る。 「‥‥とりあえず左右に敵の気配は感じられませんね。はっきりと解るのは前の10体ほど。かなりのスピードです」 「後方も特に異常なし。前面の敵に集中して下さい!」 「解った!」 というと同時に彼らは敵に向かって踏み込んでいく。 「危ないですから、下がって!」 フェンリエッタ(ib0018)はそういうと依頼人の手を強く引いて、後ろに送りその背で庇うように前に立った。 「あの程度の敵なら、皆さん直ぐ倒して下さいます。少しだけ、待って下さいね」 よろめいて膝を追った依頼人と目線を合わせるようにして声をかけたのは紫乃である。だから気付いてしまった。 草を震える手で握りしめる青年と、まだ初秋だというのに立ち枯れ真茶色に染まった草木と大地に。 ●眠れない夜 開拓者達は、なんとか明るいうちに村まで辿り着ければと思っていた。 しかし、予想外の道の歩きにくさと、襲撃の残党とも呼べるアヤカシの多さに開拓者達は早めに予定の変更を決めた。 「早く、‥‥辿り着きたいんです!」 そう言う青年の言葉に一瞬フェルルとヘラルディアは顔を伏せたが、 「お気持ちは解りますが、夜の山道は危険であると考えます。これまでの襲撃回数から考えましてもここで村に急ぎましても今日、思う行動をすることは難しいと思いますね」 「軽々しい言葉は、同じ籠城を戦った者として言えない事は解っています。けれど‥‥どんな状況でも最善を尽くしますから、私達を信頼して任せて下さいね」 二人の巫女に優しく声をかけられてはそれ以上の我も通せなかったのだろう。 小さく頷いた彼と共に開拓者は野営の準備をした。 「だからまずは、はいっ。腹ごしらえして力をつけないとですよ♪」 事前に用意しておいたフェルルのおにぎりなどで簡単に夕飯を済ませて、交互に休む。 けれど‥‥ 「眠れないのか?」 いつまで経っても用意された天幕に入ろうとしない依頼人に将門が見かねて声をかけたのはもうかなり、夜も更けてからの事だった。 「‥‥眠れないんです。あの日からずっと。身体を横たえて目をつぶると、もう二度とこのまま目覚められないのではないかと言う恐怖が襲って来るんです。 静かにしていると両親や、弟、妹。友人や知り合いの者達の悲鳴が、声が聞こえて来るんです。 実際に見たわけでは無いから幻聴だって、解ってはいるんですけれど‥‥」 初めて聞く依頼人の青年の「声」に薪を焚火に投げ入れていた朔はその手を止めた。 血を吐くような、と言う言葉があるが彼の「声」はまさにそれであった。 「魔の森の近くに住むことの危険は知っていたつもりでした。 でも、父は腕のいい狩人で。祖父はかつて城に仕えた戦士で、アヤカシと国の最前線を助ける村の存在を誇りに思っていたんです。僕が城に努めるのも‥‥本当に喜んでくれました。 今回もいち早くアヤカシ襲来を知らせるのろしを上げたと言う話も聞きますから、きっとぎりぎりまで戦ったのだと思います‥‥でも‥‥」 懸命に語る言葉、思いの一つ一つが刃のようだ。開拓者に突き刺さってくる。 おそらく自分自身さえも傷つけているあの日の後悔。けれど、止めることができない‥‥。 横に座る将門も、木に背中を預けている竜哉も近くの倒れた丸太に腰を下ろしている鉄龍も、ひょっとしたら天幕の中で聞いているかもしれない女性達も、その慟哭を止める術を知らなかった。 「先の戦いは貴公のような「できる限りのことをする」人間の力が集まってこその勝利だったのだが‥‥。貴公の村の者達も同じことをしたのではないか?」 「それは解っています‥‥でも、いえ‥‥なんでもありません」 思いと言葉を飲み込んだ青年を、朔は立ち上がり、そっと天幕へと促す。 「そろそろ休んで下さい。明日はもっと大変になります。無理にでも身体を休めないと‥‥」 遠ざかって消えていく二人の声を聞きながら男達はそれぞれの思いで暗闇に朱い炎を見つめていた。 ●遺されたもの 開拓者達かその村に辿り着いたのは朝と昼の丁度狭間の時間であった。 正直に言えば、ここまで来る間ある程度の想像はしていたつもりだった。 大アヤカシがばら撒いた毒の多くこそはアヤカシの消滅と共に消えていたが、ここまで来る道はやはり尋常では無かった。 アヤカシの大群が通って凸凹になった街道とか、瘴気の毒に負けたのだろう立ったまま立ち枯れた木や草とか、毒に焼けた跡の残る兎や猪、獣達の放置された死体とか、逃げる途中で投げ出されたであろう服や荷物が積まれた大八車とか。 そんなものを沢山見て来たから、どんな悲惨な状況でもある程度覚悟はできているつもりだった。 けれど、実際に見てみればそんな覚悟はつもりでしかなかった事を思い知らされる。 村の入り口で開拓者達を最初に出迎えたのは倒れた馬であった。 あちらこちら齧られて既に半分に白い骨が浮き出ているその馬の背後には、馬車の紐がまだ括られている。 馬車の背後にはごく僅かの荷物だけが残されていた。 後は中に残されていたのは小さな人形と血痕。そして‥‥手のひらに乗りそうな小さな右手。 人形と手を大事に布に包み、青年は先に進んでいく。 吐き気がしそうな腐臭の中、辿り着いた先は、おそらく村の中心部であったに違いない。 僅かながら建物の面影が残っている。 そう、僅かながら。 家々の多くは押しつぶされ、壊され、叩き潰され、あるいは焼かれ一切の形を留めていなかった。 濃すぎる瘴気の中、まだ残る血の匂いは開拓者達の鼻を心を焦がす様に刺激した。 「‥‥酷い‥‥」 焼けつくような喉で誰かがそれだけ言うのが精いっぱい。 その光景の中、青年はふと、足を止めて何かを抱きしめていた。 彼が誰かの手を取っている。 「誰か‥‥いるのですか?」 フェルルは側に駆け寄り、そこで凍りつく。 そこに「いた」のは右半身だけ残された男性であった。 手に剣を握り締めたままの彼は今はもういない敵を睨みつけるように立ち尽くしている。 「‥‥とう‥‥さん‥‥。う、うわああああっ!」 青年の声が紅い村に響く。聞くのは開拓者だけ。生きるのは彼らだけ。 死者にしがみ付き泣きじゃくる青年に、開拓者達は何のかける声さえも持っていなかった。 「何をするんです!」 ハッと気付いたフェンリエッタが青年の手を掴んだ。 と同時に気付いたのだろう。竜哉が彼の手を捻るとカランと音を立てて何かが地面に落下した。 それは、死んだ戦士の手に握られていた剣である。 「何を馬鹿な事を考えているんですか! 止めて下さい!」 フェルルが青年の肩を掴み振ると青年がそこから逃れようと暴れ、もがく。 「お願いです。死なせて下さい。僕は、皆の所に行きたいんです! 僕だけ、一人生き残っても仕方ない!」 「フェルル!」 青年を今度は鉄龍が羽交い絞めるように抑えるが、彼の叫びは止まらない。 「僕は、失ってしまった。一番大事な者達を。守りたかったのに、助けたかったのに手の届かないところで死なせてしまった。だから、‥‥だからせめて皆の所に行かせて下さい。お願いします!!」 「落ち着いて下さい!」「しっかりして」 ヘラルディア、フェルルが宥めようとしたその時 パシーン!! 乾いた音が響いた。 「朔‥‥さん?」 目を丸くする紫乃の横で朔は青年の頬に打ち込んだ手で彼の胸元を掴むと、その顔を目をまっすぐに見つめて言った。 「しっかりしなさい! あなたが見届けて下さい、あなたが見ずして誰がそれを知りますか? 伝えますか? あなただけが語れるんです、あの村を、そこに住む人々を、見ずに消えますか?忘れ 去りますか? ‥‥捨て去りますか? あなたが死んでしまったら、この村はやがて忘れ去られて朽ちていくでしょう。歴史からも、地図からも、人の心からも。 それでいいんですか! 彼らをもう一度殺すんですか?!」 「僕が‥‥皆を殺す?」 青年の目に一度消えた、微かな正気の色が戻る。それを確かめて、ええと朔は頷いた。 「生き残った者は、歯を食いしばってでも生きていかなければ行けないんです、沢山の思いと共に。私も、あなたも。‥‥確かに苦しい世界です。生きているより死んだ方がよっぽど楽かもしれません。けれど‥‥あなたは生きている。生きているからこそ彼らの為にできることがある筈です。それを探して為すことこそが、生き延びてしまったものの義務なのですよ」 「私は‥‥守る者になりたくて、家族の反対を押し切って騎士の道を志した。 家族さえ守れないなら何が騎士だ! そう思ってしまうけど大事な役目を投げ出し駆けつけたなら、家族は私を叱りつけるのでしょう。 そしてもし私がここで死んでゆく身だったならこう思うの。「『貴方』がここにいなくて良かった」と。 大切な人には生きていて欲しいから‥‥無事を願い、祈る。それが家族でしょう?」 「でも‥‥僕は‥‥」 鉄龍の腕から解放された彼は、地面に両手をついて開拓者達を見る。 「生きていて‥‥いいのでしょうか?」 「それを決めるのは君自身だ。だが‥‥君にしかできないことは確かにある。例えばこの村の死者達を眠らせる事」 「このまま残された遺体をアヤカシに喰われたり、屍人として利用されたりしてもいいのか?」 「‥‥あっ」 「どうしたい? 俺達は君の望むとおりに手伝うさ」 手を差し出して青年を立たせた将門はそう言って、小さく、本当に小さく笑う。 青年はその時、初めて気付いた。 開拓者達がとても優しい目をしていることに。 自分をずっと見守ってくれていたことに。 「一緒に、頑張りましょう‥‥」 彼は手で目元を拭って、震える声で、けれどはっきりと答えたのだった。 「はい‥‥」 と。 ●すくい上げた思い その後、開拓者達は毒にも近い濃い瘴気の中、作業を続けた。 村のあちらこちらに散らばった死者達をできる限り、解る限り集め、青年と共に身元を確認した。 「‥‥お願い。誰か、答えて‥‥」 フェルルの必死の願いは届かなかったけれども、血の匂いやがれき、足にまとわりつく泥やアヤカシにもひるまずに死者を捜した開拓者の力で、ほぼ全てと思われる住人達の亡骸や遺品が見つかった。 中にはアヤカシに喰われてしまったのか、亡骸が見つからない者もいたが、側にあった遺品や衣服を丁寧に見て、一つ一つ、確かめて友や家族の死を確かめて行ったのだった。 そしてその日の夜。 「いいか? 点けるぞ」 「はい‥‥」 遺体や遺品の一部を集めた薪の上に火が点けられた。 ゆっくりとだが確実に炎はがれきなどで作った薪と台を包んでいった。 「どうか‥‥安らかにお眠り下さい」「天で私達を見守っていて下さいませね」 フェンリエッタと朔の奏でる笛の根が燃えて爆ぜる火花の音と共に住人達を空へと運んでいく。 「‥‥私達は無力ですね」 炎を見つめながら目元に涙を滲ませる紫乃を否定も肯定もせず、ただ竜哉は呟く。 「何時だって、犠牲になるのは一般人の生活だ。開拓者はそれを自らの生活の種にしている‥‥それが事実だ。けれど‥‥」 そこから先を彼は言葉にしなかった。 けれど、なんとなく解る気がして将門も鉄龍も空を仰ぐ。 忘れない、そう心に誓いながら。 どんなに力があっても、どんなに集団を率いても。大きな災害を前にして、届かないもの、零れ落ちるもの、助けられないものができる。 まして力を持たない人の手でできることは限られている。 死んだ者達には何もできない。 だからこそ生き延びた者達が彼らの分まで生きなくてはならない。 彼らを忘れず、たくさんの命の上に自分の命があることを決して忘れずに自分の手で、零れたものを救おうとすること。それこそが生き延びた者の義務なのだろう。 天を見つめ、地の上で。彼らは燃え上がる炎と登る煙をいつまでも見つめていた。 その後、青年太一がどう生きたか。岩屋城で別れてからの開拓者は知る由もない。 「これだけは申し上げておきましょう。任に有って心遣いを受けた方々は必ずや感謝してると思いますね」 「あなたがいたから、助かった命が沢山あるんです。だから‥‥自分がいなくても良かった、なんて言わないで下さい」 開拓者の言葉に笑顔を見せた彼が二度と自ら死を選ぶことは多分ないだろうが。 夢を見る。 彼が故郷に帰り、花に溢れた村の墓標の前に参る夢を。 新しい家族と共に。 その日が早く来ることとこんな依頼が二度と出ない事を祈り、開拓者は彼を見送ったのだった。 |