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■オープニング本文 ここは辺境の小さな町。 「ねえ、お父さん。ユーリは今頃どうしているかしら‥‥」 仕事の手を止めて呟いた娘に、父親は、さあな。と言いながら空を見上げた。 「あの子は歳の割にしっかりとしている。大丈夫さ、きっと」 「でも、お父さんには結局会えなかったんでしょ。だったらそれで終わりでいいじゃない。どうして旅になんか出るの? 旅の先でまた何かあったりしたらそれこそ誰も助けてくれないのに‥‥。この町でだったら何も、困ることなんかないのに‥‥」 「オリガ‥‥」 俯いた娘の頭に大きな手がそっと乗る。 「お前は、ユーリが好きだったのかい?」 オリガと呼ばれた娘は顔を赤らめて下を向く。そして小さく頷いた。 「多分、好き‥‥なんだと思う」 「そうか‥‥」 恋する娘に複雑な思いはあるが、ユーリの事は良く知っている。 あの子がこの町に母親に連れられてきた5歳の時から知っている。 いい子だから、どこかの馬の骨に取られるよりはいくらかいいだろう。 「大丈夫さ。ユーリ君はきっとこの町に帰ってくる。ここにはニーナさんも眠っているし、あの子の故郷なんだからね。帰ってきたらアタックするんだね。諦めてはダメだよ」 「うん。私頑張る」 明るく笑い合う父子。だがそれを 「いいや。あの子は諦めな。オリガ」 止める静かな声が響いた。 「おばあさま?」 「母さん。一体何を?」 「あの子は重すぎる運命を背負っている。お前の手では支えきれぬだろうよ」 「おばあさま!」 何を言っているのだろうとオリガは思った。 元々この町に二人を連れてきたのは祖母なのに。 ずっと二人を愛し、面倒を見続けていたのは彼女なのに。 訳を聞こうとオリガが足と心を向けかけた、その時だった。 突然聞こえてきたいくつもの蹄の音。馬の声。そして人の気配がそれを遮ったのは。 「ここに、ユーリ・ソリューフという男はいるか?」 突然馬上からかけられた声に、父も娘も、祖母も驚くしかなかった。 「誰? 貴方方は?」 「こちらの質問に答えろ!!」 「そんな男はいないよ!」 「母さん!」 イライラとした怒鳴り声がオリガを打ち付ける。それに反発するように声を上げたのは母を背に庇い、父の胸元に逃げた娘を抱きしめて。三人の中でただ一人の男は、目の前の人物達を見つめた。 四人、いや五人の男達。整った服装に帯びた剣は彼らが騎士であることを知らせる。 服の胸元に縫い付けられた紋章は、どこかの貴族のものだろう。 そこまで確認してから彼は男達の質問に答えた。 「確かに、少し前まではこの町にいました。しかし、今はいません。母親が亡くなったのを機に旅に出ると言って出かけてもう一カ月以上になります」 「やはり、いたのか!?」 「? 少し前までは確かに。母親思いの優しい子ですよ」 ユーリを庇うように言った男の言葉など、騎士達は聞いてはいない。 「やはり、死んだというのは嘘だったんだ」 「ニーナの奴。我々をたばかって!」 「だからあなた方は一体誰なんですか! ニーナさんを悪く言ってユーリを探すあなた方は!」 「うるさい! 黙れ!!」 「キャアア!」 「オリガ!」 「お前達が知る必要はない! 行くぞ! なんとしても見つけ出すんだ!」 馬首を返して走り去る騎士達。突き飛ばされた娘を抱きおこし見送る彼らはそれぞれの思いで唇を噛みしめていた。 さて、とギルドの係員は考える。 ここに二枚の依頼書がある。 一つはジェレゾの名家からの依頼。 もう一つは辺境のある一家からの依頼。 どちらも人を捜して欲しいというものであった。 探す人物の名はユーリ・ソリューフ。 貴族からの方はユリアス・ソリューフと書いてあるが、銀髪、青い瞳。20歳前後の青年というところまで同じであるから、同一人物を探しているのだろうと思われる。 『我が一族の後継者を探している。早急に見つけ連れ戻されたし』 こちらは貴族の方の依頼だ。 『ユーリを探している怪しい集団がいます。ユーリを見つけて気を付けるように。できるなら逃げた方がいいと伝えて下さい』 これがもう一つの方の依頼。以前、ユーリが行方不明になった時、それを心配して探す依頼を出してきた家族からのものだから、こちらは彼の身を案じての事だろう。 同一人物を探す二つの依頼。別々に分けては対立の元であるから、ユーリ捜索として一つの依頼とし、どちらを受けるか開拓者に決めて貰うのが妥当だろうと係員は手続きを開始する。 ユーリは確か、少し前ジェレゾに出向き、開拓者と小さな公演を開いて、その後近くの街を回ると言って彼らと別れた。 広いジルベリア、たった一人の人物を探すのは簡単ではないだろうが、彼は吟遊詩人を生業とするものだから身を隠して旅はしていない筈だ。 もうじきジルベリアは秋の収穫シーズンだから、祭りなどに顔を出しているかもしれない。 「しかし、貴族の後継者、か? 聞く限りそんな感じじゃなかったんだがな。いや、むしろ‥‥」 係員はそこで喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。 憶測で言っていい話ではない。 まずは彼を見つけ出すこと。 全てはそれからだ。 依頼書を貼りだして、係員はあの青年の銀の髪と青い瞳を思い出していた。 |
■参加者一覧
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
神鷹 弦一郎(ia5349)
24歳・男・弓
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
リディエール(ib0241)
19歳・女・魔
アイリス・M・エゴロフ(ib0247)
20歳・女・吟
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
トゥルエノ・ラシーロ(ib0425)
20歳・女・サ
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
アルベール(ib2061)
18歳・男・魔
サフィラ=E=S(ib6615)
23歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●二つの依頼 開拓者ギルドに人探しの依頼が舞い込むのは珍しいことでは無い。 だが同時に、おそらく同一人物を探す二つの依頼が舞い込むことはやはり珍しい話だ。 「久しぶりに仕事だな、八尋‥‥頑張るとしよう」 神鷹 弦一郎(ia5349)は愛龍である八尋の背を軽く叩くと町の側へと舞い降りた。 ここは小さな町。ジルベリアの首都ジェレゾにほど近いこの町で、同じ依頼を受ける仲間達が待っている筈であった。 「やっほー、ここここ」 酒場に入った弦一郎は自分を呼ぶ明るい声に振り返った。 入口からかなり離れた奥でサフィラ=E=S(ib6615)が手を大きく振っている。 「少し、声が大きくは無いか?」 微かに声を潜めながら彼は自分を呼ぶ仲間の方へと近づいて同じ席に腰を下ろした。 「これで全員揃いましたね」 「遅くなってすまない」 優美に笑うアルベール(ib2061)に弦一郎は軽く首を下げるがいいえ、と彼は笑って手を振る。 「いえ、別に遅れてはいませんよ。それに仕事はまだ始まったばかりですから」 「探す人物はユーリ・ソリューフと言う銀の髪、二十歳前後の青年。ユリアス・ソリューフと言う名かもしれない。正直‥‥雲を掴むような話ですわね」 アレーナ・オレアリス(ib0405)は広げた依頼書を見てふんわりと告げると横に座る同行者を見た。 フェルル=グライフ(ia4572)とフェンリエッタ(ib0018)。 それにトゥルエノ・ラシーロ(ib0425)にリディエール(ib0241)も。 彼女達は気付いている筈だ。この依頼が告げる探し人が、かつて依頼で出会ったあの青年であることを。アレーナ自身はそのことを告げるつもりは無かったが 「ユーリ・ソリューフでしょ? 私、知ってるよ。銀の髪のとっても綺麗な吟遊詩人。え〜っと、あったこれこれ」 陽気なサフィラはケロッとした顔でそう告げると、荷物から一枚の紙を取り出した。 美しい青年の顔が描かれている。 「前に、今回と同じ一家からね、ジェレゾで行方不明になったユーリを探してって依頼を受けたの。これは、その時使った似顔絵。けっこう似てたっていうか笑顔はこれより綺麗かな?」 「そこまで言ってしまわれますの?」 「へ? なんで??」 「ジェレゾで、行方不明? 何か、あったのですか?」 「え〜っと、お父さんに会いに来たって言ってたよ。で、会えなくて困っていた所に、お母さんの形見の剣を盗まれたって困ってて‥‥。そう言えばちゃんと聞いてなかった。フェルルさん。あの剣の紋章ってなんか意味があるの?」 「紋章のついた‥‥剣?」 疑問符を浮かべるサフィラの横で絵を見つめながら一人黙っていたニクス(ib0444)は顔を上げた。 「義兄様?」 イリス(ib0247)が諌めるように、問うようにニクスを見るが、彼はその視線は気になどしない。 「話を聞く限りユーリを知る者も多いようだが、彼が何故貴族に追われ探されるのか。その理由を知っているのか?」 フェルル。ニクスはそう目で彼女を名指ししていた。 「知っていることがあるならどうか、お教えいただけませんか? 知らないことで最悪の事態が起きてしまう。そんなことは避けたいと思うのです」 アルベールの言葉は正論で、まったく正しい。けれど‥‥フェンリエッタにはそれを言葉にすることはできなかった。彼女は実際に最初の事情を知っているわけでは無い。叔父に聞き、形見の剣を見たがまだ、確信を持てる程ユーリを知らないのだ。 「ユーリさんは何か複雑な事情をお持ちのようなのですが‥‥」 リディエールもユーリに何かがあるのは感じている。けれど、それが何であるかは解らない。 もう一人、事情を良く知っていると言えるのはサフィラであるが、彼女は言うとおり形見の剣に付けられた「紋章」の意味を知らない。だから状況を繋げ意味を付け口にできるのは、ここには一人しかいないのだ。 「フェルル」 もう一度ニクスが名前を呼ぶとフェルルは顔を上げた。 その表情は、まさに意を決したという言葉がふさわしい顔であった。 「これは、かなりの憶測が入ります。さらに私の思うとおりであるのなら、今回の依頼に矛盾も生じるのです。でも、知っておいて頂くべきだと思うから‥‥話します」 開拓者達のテーブルがシンとなる。 周囲は煩いほど賑やかなのに、まるで『嵐』の前のようだ、とアルベールは思った。 けれど、数瞬後、彼は自分の考えを訂正する。 「ようだ」ではないと。 「ユーリさんは、皇帝陛下のお子ではないかと思うのです」 フェルルの告げた言葉は正しく開拓者達に嵐の始まりを告げたのだった。 ●貴族側の言い分 「正式にご依頼をお受けします。つきましてはお探しの人物につきまして詳しくお話を聞かせて頂きたいのですが」 そう言って依頼人である貴族の家を訪ねたのはアルベールとアレーナ。そして弦一郎であった。 アルベールのエイレーネーと、アレーナのウェントス。そして弦一郎の八尋を入り口で預けて、彼らは屋敷の中に入って行くことになった。 しかし、ここは貴族の館。弦一郎はこういう場での人とのあたりはあまり得意では無い。 だから、話を聞くのは二人に任せ周囲の観察にとりあえず専念することにした。 建物はセンスも良く調度も整っている。 ある程度の実力がある家のようだ。 だが、 (活気がないな) 弦一郎はそう感じた。 現役の貴族家であるのならもう少し活気があってもおかしくない筈なのに。 言っても使用人がいないとかではない、掃除も行き届いている。 なのに言ってみるなら「年老いた」印象を家そのものが放っているのは何故か。 考えている間に招き入れられた応接室の扉が開いた。 立ち上がり礼を取るアルベールにならって弦一郎も礼をする。 入ってきたのは初老と言うには少し歳のいった老夫婦であった。 「私がこの一家の当主、レイル・バートリだ。これは妻のナターシャ。それで、ユリアスの行方は知れたのか?」 「これから本格的に調査に入ります。その前に、ユリアス氏の特徴や捜索に必要な手がかりをお伺いできないかと思い、参ったのです」 正装したアレーナの丁寧な質問。 だが完璧な礼は 「そんなものはない! 事態は一刻を争うのだ。早くユリアスを探し出せ!」 怒声によって返された。 「あなた‥‥落ち着いて下さい」 怒りによってか、ごほごほと咳込んだ夫を優しく庇いながら、側にいた夫人がアレーナの問いに今度は答える。 「ユリアスは我が一族の次男の息子。我が孫にあたります。早くに息子は亡くなり一族の後継者候補として教育を受けて育ったのですが、病により死んだと我々は聞かされていたのです」 「死んだと聞かされていた、とはどういう事でしょうか?」 質問をアルベールが引き継ぐ、夫の目を確認するように見てから、夫人はこう答えた。 「息子は下級貴族の女と恋に落ち、我々の反対を押し切って子をもうけました。しかし、その後直ぐに 病にかかって死んだ為、女を実家に返し我々は子を引き取ったのです。それがユリアスです」 「それは‥‥」 思わず思いを口に仕掛けた弦一郎をアルベールは手で制して話を続けさせる。 「ユリアスは六歳の時、感染の病にかかりました。その為ユリアスを母である女の家に預けたのです。ですがソリューフ。女の一族はユリアスが病から立ち直れず死んだと言ったのです。それから十五年余り我々はユリアスは死んだと思っていました」 つまり、母親が我が子を可愛さに、死んだと嘘をついたと言うのだろう。 「ソリューフの家は女の父親の死と共に廃嫡となっておりますが、それなのにソリューフを名乗る者がいると私達は偶然耳にしたのです。もし、本当にユリアスであるなら孫として改めて我が一族に迎えたいと思っております。それがあの子の為でもあります。難しい依頼であるのは承知ですが、どうぞよろしくお願いします」 婦人の会話終了と共に入ってきた使用人が彼等に帰りの道案内をすると告げた。 つまりは帰れ、ということなのであろう。 立ち上がった開拓者の背中に 「良いか! 必ずユリアスを連れ戻せ。必ずだ!」 さらなる怒声が降る。それに追い立てられるように彼らは部屋を出た。 「何か嫌な感じがしますね」 「死んだと思われていたユーリさんを今更必要とするのは、なぜか‥‥」 「調べる必要がありそうだな」 彼らは胸にスッキリとしない何かと思いを抱えながら、それから暫くの後、館を後にしたのだった。 ●命をかけた約束 ユーリ捜索の依頼者の一人、貴族家の調査に向かった開拓者達がスッキリとしない思いで館を出たのと同じ頃、もう一組の依頼人オリガ一家の元に訪れた開拓者達もまた、わだかまる思いを抱いて龍に乗ろうとしていた。 「何も、話してもらえなかった‥‥な」 シックザールの背を撫でながら息を吐き出すニクス。 フェンリエッタは、俯いて顔も上げられないフェルルの肩を抱きしめるのが精いっぱいだった。 空を飛んでいた鷹がくるりと空を回ってフェルルの側に寄ってくる。 まるで慰めるように身を寄せる鷹に 「ありがとう」 そう言ってフェルルは顔を上げたのだった。 「そうですね。落ち込んでばかりはいられません。とにかく、彼の行動パターンとかは聞けたんですからそれに沿って調査を続けましょう」 「ユーリさんは志体を持たないから龍は乗れない筈ですけど、馬はとても上手だそうです。移動に馬を手に入れている可能性もありますね」 「それにジルベリアはもうすぐ収穫のシーズンだ。あちらこちらで祭りが行われるだろうから、その祭りに顔を出しているかもしれないな。歌と楽器が上手いとはいえ、なかなかそれだけじゃ食べてもいけないだろうしな‥‥」 三人は得られた情報をすり合わせて素早く纏めた。 「私は、ゆっくり歩きながらジェレゾに向かって街道沿いの村を探して行きます。お二人は向こうに戻って捜索されている皆さんと合流して下さい。可能なら情報の共有も」 「解った。先に戻っている」 「私は南部辺境の方も少し調べてきます。あちらには旅芸人に特に保護を与える町もあるので‥‥ご無理はなさらないで下さいね」 駿龍キーランヴェルに跨ったフェンリエッタが先に空に舞い、そしてニクスも後に続く。 二人を見送ってからフェルルは彼等がいる時には出せなかった大きなため息を吐き出す。 思い出してしまっていたのだ。 あの一家の老女を。 一家の話を聞くにユーリは、母親の形見を家族同様に暮らしてきたオリガ一家にさえ、ちゃんと見せた事はなかったらしい。 唯一知っていると聞いた老女に話を聞こうとした瞬間、彼女は逃げるように部屋に籠ってしまった。 部屋には入れて貰えたものの 『ご息女達から聞きました。ユーリさんが持つという重すぎる運命の話を。貴女は彼のどんな運命を知っておられるのですか?』 『悪い様には致しませんし誰にも洩らすつもりもありません。ユーリと家族の方が大事であれば、貴族達より先に見つけて取る行動も変わってくるかも知れません。教えて頂けないでしょうか?』 『彼の重い運命、それ故に何かを始めようとしている事は私達にも解ります ニーナさんが彼を守る為ここに身を寄せただろう事も。けれど私達が知る事実は少なくて何からどのように守ればいいのか。知らなくては本当の意味では何も守れないと思うのです』 『きっとユーリさんには大望がある‥‥それはきっと、困難な道。私はその手助けをしたいんです。 その道が正しいものなら背を押して。けど、もしその道程を急いだり焦ったりしているなら、深呼吸させてあげたいと思います‥‥。誰が見ても納得できる正しい道を選びとれるように。 ユーリさんの道の手助けができるよう、よければ彼に纏わる話を教えて下さい』 開拓者達がいくら願っても、彼女は口を閉ざし何も、語ってはくれなかった。 いや、残してくれた言葉もあった。 たった、一言だけ。 『お嬢様と約束したのです。命ある限り、決して誰にも語らぬと‥‥』 「‥‥命にかけても守りたい約束、ですか‥‥」 お嬢様。 それほどまであの老女にとって、ユーリの母との約束が大事であるというのであれば無理に聞き出せなくても仕方ないかもしれないと、フェルルは思っていた。 「とにかくユーリさんを早く探さないといけないですね。行きましょう、サン」 フェルルは相棒に手を伸ばしかけた手をとっさに引き戻して、身構え、そして駆け出した。 聞こえて来る悲鳴と、そして争いの気配。 「止めて下さい! 離して!!」 「ユリアスの居場所を教えよ!」 「お待ち下さい!!」 「フェルルさん!」 とっさにフェルルは争う二人の間に割入った。 一人はオリガ、もう一人は騎士の鎧を纏った青年であった。 「我は暴漢に非ず。バートリ家に仕える者。ソリューフの乳母にユーリの居場所を問おうと思っただけだ」 「なれば礼を持って問うべきでしょう。依頼期間は彼らは私達の依頼主です。ギルドと事を構えるつもりでしょうか? 争い聞かば我が仲間も戻ってきますよ」 フェルルが手をさし伸ばせば迅鷹がその翼を翻していく。 「解った。ここは引こう。娘。また改める」 やっと騎士らしい仕草で去って行った男を見送って後、フェルルは背中で守ったオリガの方を向く。 「大丈夫でしたか?」 「はい、ありがとうございます。実は皆さんに渡すモノがあって追いかけて来たんです」 フェルルにお辞儀をしたオリガは、二つの荷物をカバンから取り出した。 厳重に封じられた封筒と、それから小さな包み。 「こっちの封筒はおばあさまからです。おばあさまが死んだら開けて読んでよい、と言っていました」 差し出された封筒をフェルルは黙って受け取った。 「おばあさま、一体何を考えているのかしら。死んだら、なんて縁起でも無さすぎですよね。私も気になるんですけど‥‥。でも、本当にどうするかは皆さんで決めて下さい」 そう言ったオリガの顔は冴えない。 でも、自分自身考えが暗くなっていると解っているのだろう。振り切るように首を振ると今度はもう一つの包みを差し出した。今度は笑顔で、だ。 「あと、こっちはユーリに会ったら渡して下さい。マフラーなんです。これから寒くなるから使って、って。そして12月、18歳の誕生日には皆でお祝いするから帰って来てねって伝えて下さい」 「解りました。出会えたら必ず」 手紙を受け取った時とは違う満面の笑顔でフェルルは荷物を預かる。 この二つの品物が、後に重要な意味を持つことを今の彼女はまだ知る由も無かった。 ●吟遊詩人の行方 さて、ジェレゾ近郊で調査を続ける開拓者達は、捜索にやや行き詰まりを感じていた。 「あれだけ目立つ方ですのに、どうしてこれほど手がかりが掴めないのでしょうか?」 ため息をつきながらリディエールは縛った髪を解いてため息をついた。 「そうね。これだけ目撃証言が見つからないのもおかしいわね」 護衛役のトゥルエノも首を傾げずにはいられない。 「お帰りなさい。どうでしたか? お二人とも?」 待ち合わせ場所に先に戻っていたのであろう。出迎えてくれたイリスに二人は首を横に振った。 「他の皆さんは、まだあちらこちらを探して下さっています。けれど、どうしてもユーリさんの居所が掴めないのです。ゆきたろうに依頼人さんから預かった荷物で匂いを追って貰ったりもしたのですか‥‥」 「こちらもです。隣町でゴロツキに絡まれていた踊り子さんを助けた、という目撃証言はあったのですが、そこから先が解らない。腕が立つとはいえ一般の方ですし、お一人でそんな危険な道を行ってはいないと思うのですが‥‥」 二人はそれぞれう〜ん、と考え込む。 何か見落としているところはあるだろうか? 「これから秋にかけてジルベリアはあちらこちらで祭りが行われるそうです。旅芸人達もたくさん集まるでしょうし、それらに紛れ込まれたら、探すのは難しくなりそうですね‥‥」 軽く言ったのはイリスであった。 「「!!」」 しかし、トゥルエノとリディエール。二人はその瞬間、顔を見合わせた。 「それじゃない?」 「それですね。きっと‥‥」 「? どういうことですか?」 「私達は、ユーリさんを探していた。銀の髪、青い瞳の吟遊詩人を。でも、一人では目立つ人も何人もの旅芸人の中では、見つかりにくいとは思いませんか?」 「フェルルの想像が当たっていたとして、自分がもし知られたくない素性を持っていたら目立たないように身を隠して旅をすると思うわ。でも、それじゃあ吟遊詩人の仕事にはならないから、ひょっとしたら旅芸人のキャラバンとかに紛れて仕事をしたりしているのではないかしら?」 「だったら、探し方を変えてみないと! 私、クラウディアで余所で探しておられる皆さんにお声かけしてみます」 「私も炎龍で飛ぶわ。イリスはジェレゾでの聞き込み直しと連絡係をお願い」 「解りました!」 三人は走り出した。 そして、ジェレゾから少し離れた小さな街。 「えっと‥‥ここにユーリは居ないっと。これで、三つ目なんだけど‥‥うにゅーっ‥‥ここに居ないとなると次はこっちかなっ?」 色々と得た情報を書きこんでいるので、もうだいぶ黒くなってしまった地図を片づけながらやれやれ、とサフィラは肩を竦めた。 「ユーリはどこに行ったのかなあ? 約束したのになあ」 そう、オリガと自分は約束した。 「ユーリの事は必ず見つけるから、大船に乗った気持ちで待っててねっ♪」 サフィラは思う。 (約束は絶対に守りたいのになあ) そう言えば、アルベールが言っていたことがある。 『最初に、ユーリさんが旅に出た目的はユーリさんの旅の目的は『父に会う為』。 一度門前払いに在ったのなら、今はきっとその為の準備も兼ねて旅をしているのではないかと思います。 今は、味方になってくれそうな人を探して居る所ではないでしょうか、だとしたら危険地域で誰かを助けたり、仲間探しをしていたりするのでは‥‥』 「仲間、か〜。私達の事も仲間だと思ってくれてるといいんだけどなあ〜。まったく、もう水臭いんだから!」 小さく八つ当たってから彼女は村の外へと歩き出した。 途中、旅芸人らしい一団の馬車列とすれ違う。 「ここの祭りはあと2週間後くらいの筈だから、これから人が集まってくるのかもしれない。後からまた来てみようかな‥‥行くよ。Kebakaran!」 サフィラがもし、集団を気にしていたら気付いていたかもしれない。 少しだけタイミングが悪かった。 「新しい町ね。ユーリ。ご挨拶代わりに踊るから、伴奏をお願い」 「任せて下さい!」 旅芸人の一座の訪れに人々が集まってきた。 吟遊詩人の竪琴に、軽業師の動きが人々を惹きつける。 そんな中、一際注目を集め、美しく舞う踊り子の胸元には赤い石のついたペンダントが美しく輝き、揺れていた。 |