【陰陽寮】朱雀入寮試験
マスター名:夢村円
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/28 19:25



■オープニング本文

●梅雨時、また巡る刻
 場所は五行の首都、結陣。
 久し振りに自室へ戻ってくれば小窓を開けて、五行王の架茂 天禅(iz0021)は目を細め差し込む光に目を細める。天儀も既に6月、夏を目前に鬱陶しい季節へ移行していた。
「玄武寮の建て直しは間に合ったか」
「はい、駆け込みですが何とか‥‥寮長らの人選も大よそ終わっています」
「そうか」
 五行の陰陽四寮ではこの時期、入寮試験が行われる。
 手近にいた側近へ尋ねれば帰ってきた答えを聞きながら真っ白な紙を前に、天禅は四角い墨を硯で磨って墨を生む。
 やがてじわり黒い水が出来れば、それに筆を浸し各寮長への文を認め始めて‥‥青龍寮の新たな人員配置をどうすべきかと今更に思い至る。
「‥‥嫌いではないのだがな」
「何か仰られましたか?」
「いや、引き続き我に代わる青龍寮の寮長の人選も継続して頼む」
 そしてポツリ漏らせば、尋ねる側近には首を左右に振って応じるが頷いた側近のその表情には苦笑めいた笑みが浮かんでいて‥‥架茂はそれを見ない振りして筆を走らせるのだった。

 陰陽四寮は国営の教育施設である。陰陽四寮出身の陰陽師で名を馳せた者はかなり多い。天禅も陰陽四寮の出身である。一方で厳しい規律と入寮試験、高額な学費などから、通える者は限られていた。
 寮は四つ。

 火行を司る、四神が朱雀を奉る寮。朱雀寮。
 水行を司る、四神が玄武を奉る寮。玄武寮。
 金行を司る、四神が白虎を奉る寮。白虎寮。
 木行を司る、四神が青龍を奉る寮。青龍寮。

 つい最近になって玄武寮の建て直しが終わり、寸でではあったがその人員も集められたからこそ、その門戸が今年になって久々に開かれる事となったが‥‥白虎寮は未だ建て直しが続いていて今年も入寮試験は見送りとなっている。

「‥‥こんなものか」
 やがて、側近が去ってから陰陽寮の各寮長宛に送る文を認め終えると、架茂は何を思ってか再び小窓の外を見やるのだった。
「今年はどうなる事か‥‥」

●朱雀寮、入寮試験
 基本的に朱雀寮の入寮試験は口答試験と面接で行われる。

『陰陽寮 朱雀の入寮試験案内
 入寮資格 陰陽師である。もしくは陰陽師の力を得たいと思う者であること。

 入寮試験内容
 以下の口頭問題を答えること。

1、人魂召喚において形を与えられる最小値と最大値を答えよ。
2、瘴気回収を自分が使用した場合、魔の森で使用する場合と神社仏閣で使用する場合の数値を答えなさい。
3、自分以外の人物(一般人)がいる場合にアヤカシからの攻撃を受けた。
  活性化している術(スキル)は斬撃符、呪縛符、地縛霊このうちのどれを使って対処するか、その理由も述べなさい。

 その後、寮長の面接を経て合格者を決定する。
 寮長には入寮への意気込みを得意な術と共に100文字以内で述べなさい。

 会場は五行 陰陽寮 朱雀。
 日の出と共に受付を開始する。
 日没時に終了。
 以上』


 その張り紙を見て、同時に募集された玄武寮などと比べて
「試験、これだけ?」
 と首をかしげたものもいるようであった。
 玄武寮は研究を重視する寮であるから、まあ特別だとしても‥‥。
「そういえば、朱雀寮って陰陽師らしくない人が集まるで、有名なんだって」
「朱雀寮って、入るの簡単なのかな?」

 しかし彼らの多くは知らない。
 朱雀寮において口答試験は最低限の知識を見るモノに過ぎないということを。
 こと、朱雀寮の特に一年において一番に求められるものが何か、ということも。


 陰陽寮は広い。会場は朱雀寮のどこだろう?
 試験日当日、緊張の面持ちで探す受験生に明るい声で朱雀寮の寮生が声をかける。
「君は、受験生だね。試験会場に案内するよ」
 そして彼、彼女は貴方に問う。
「君はどうして開拓者に、陰陽師になりたいと思うの?」
 と‥‥。


■参加者一覧
/ 芦屋 璃凛(ia0303) / 蒼詠(ia0827) / サラターシャ(ib0373) / クラリッサ・ヴェルト(ib7001) / カミール リリス(ib7039


■リプレイ本文

●朱雀寮入寮試験
 その日は初夏と呼ぶにふさわしい朝。
 開拓者達は、結陣の都の一角。
 独特な雰囲気を放つ建物の前に立っていた。
 陰陽四寮。
 普段、資格のない者には入る事ができないその扉が今日は開かれている。
「急がなくっちゃ、急がなくっちゃ!」
 走る少女が扉を潜り抜ける。
 明日からこの門を通り学ぶ、新たな才の持ち主を探し、発掘する為の今日は入寮試験の日、だからである。

 陰陽師の学び舎として名高い五行の陰陽寮は朱雀、玄武、白虎、青龍の四寮よりなる。
 そこでは通常ではなかなか知る機会の無い技を学ぶことができ、知恵や知識、己の力を高めることができる。
「ふう〜、間に合った。っとここは朱雀寮、でいいんだよね?」
 とはいえ、昨年正式に運営されていたのは朱雀、青龍の二寮であった。
「それで、今年は三寮? ふ〜ん、玄武ってのが加わるんだ〜」
 芦屋 璃凛(ia0303)は渡された告知のビラを見ながら周囲をキョロキョロと見る。
 周囲には明らかに開拓者な者もいれば、一般人っぽい者もいる。
 総勢は百人程であろうか?
 その数は思ったよりは少ないが‥‥
「今年、修理を終えて新規の募集を開始した玄武は、架茂王の出身寮で、研究を専門にするんだって。そっちに流れた人も多いみたいだね〜」
 彼女の気持ちを読み取ったのだろうか、そんな声をかけてきた生徒に璃凛はとっさに振り返った。
「はじめまして。私はクラリッサ・ヴェルト(ib7001)。よろしくね」
「あ、ご丁寧なあいさつどうも。うちは芦屋 璃凛。よろしゅう〜」
 差し出された手を握り合い、少女達は同じ目的を持つ者同士と認め合う。
「でも、そういう事情があったんやね〜。色々あって忙しかったからなあ〜」
 苦笑するように、でも明るく頭を掻く璃凛にクラリッサは微笑しながら
「でもきっと玄武より朱雀寮向きね。一緒に合格できたらいいな」
 そう心からの思いを告げた。
「うん、そうやね」
 周囲がざわめきはじめる。
 陰陽寮の生徒だろうか?
 若い開拓者が門の所に机を置いたり、準備をし始めている。
 それを見つめる受験生も色々な人物がいる。
「今回は女の子が多いかな?」
 向こうには朱い目をした黒髪の少女がいるし、あちらにいる細身の女性は金の髪が美しく目立っている。
 少し緊張の面持ちを見せている向こうの彼女は、肌の色からしてアル=カマルの人間であろうか?
 妙に落ち着いた風のある少年が
「こんにちは。僕、彼方って言います」
 黒髪の少女に声をかけている。
「あ‥‥こんにちは。僕は‥‥蒼詠(ia0827)です。よ、よろしく」
 少年を見て、何故だか姿を隠した少年もいるが、彼も受験生なのかもしれない?
 同じ人物は一人としていない。
 ただ共通することはある。
 それぞれが、それぞれにこの場に夢や希望を持って来ているという事。
 陰陽師という職業に。
「間もなく、試験を開始します。朱雀寮に入寮を希望する者は門の前に整列して下さい」
 銀の髪の女性が静かに、だがリンとした声を響かせる。
 試験開始、ざわめいていた受験生達はぴた、と口を閉ざした。
 それぞれの運命を変える試験が、今、始まろうとしている。

●ひっかけ問題?
 今回、朱雀寮の入寮試験として用意された口頭試験問題は3問である。

1、人魂召喚において形を与えられる最小値と最大値を答えよ。
2、瘴気回収を自分が使用した場合、魔の森で使用する場合と神社仏閣で使用する場合の数値を答えなさい。
3、自分以外の人物(一般人)がいる場合にアヤカシからの攻撃を受けた。
 活性化している術(スキル)は斬撃符、呪縛符、地縛霊このうちのどれを使って対処するか、その理由も述べなさい。

「あの‥‥僕、何か、間違えているでしょうか?」
 試験官の青年の顔を見て、たった今、口頭試験の問題を言い終えた蒼詠は心配そうに問いかけた。
「ああ、いいえ。気にしなくてもいいですよ」
 と答えた青年は蒼詠にそう指示をする。
「では、門の左を進んで下さい。中に案内板がありますから」
 試験官の指示には従わなくてはいけない。
 小さく一礼して歩き出そうとする蒼詠に
「ああ、待って下さい」
 と青年は呼び止めた。
「これをどうぞ」
 差し出されたのは紙に包まれた小さな焼き菓子であった。
「ご褒美ですよ? この後も頑張って下さいね」
 そう声をかける青年の笑顔はとても優しくて、蒼詠はもう一度お辞儀をしてから門を潜り抜けた。
(気のせい‥‥ですよね?)
 さっき、試験の問題を言い終えた時、彼が何ともいえない、苦笑のような笑みを浮かべたような気がしたのだが‥‥。
 とりあえず、いつまでも引きずっていてはいられない。
 気持ちを切り替えるように蒼詠は胸元の菓子を抱きしめると、試験官と後に残る受験生に会釈して指示された通り扉の左に向けて歩いて言ったのである

 さて、蒼詠の解答はこうである。
「えっと‥‥一番の問題は、最小値1cm。最大値10cmです。
 二番は確か‥‥魔の森が200以上、神社仏閣で0だったと思います。
 三番は呪縛符を使用して動きを鈍らせ、効果中に一般人を逃がします。あと斬撃符を使用して自分に注意を向けさせ、その内に逃げてもらうとか‥‥両方併用なら確実性が上がるでしょうか?」
 この答えに致命的な読み違えがあることに気付いた者はいるだろうか?
 実は今回の試験。
 受験者の三分の二が間違えた所があるのだ。
「難しいですよね。割合で考えると解りづらいし‥‥」
 受付を務める銀の髪の女性と、雑用を買って出た赤い髪の女性はなんとも言えない顔をして肩を竦めた。
 それは試験官の青年が蒼詠に見せた表情とほぼ同じ色を湛えている。
 ちなみにアル=カマルからの受験生カミール リリス(ib7039)の解答はこう、であ
「1番はえっと‥‥、少し大きな虫からトカゲくらいの大きさかな。単位判らないので、ごめんなさい。
 2番は魔の大地や、魔の森が200以上で神殿などが0です。
 3番は斬撃符ではないかと思います。一撃で仕留める事で安全確保が出来ます。それによって助けたつもりでも、アヤカシの罠だったりするかも知れませんし」
 さらに採点用紙を見続けるなら芦屋 璃凛の解答はこうであった。
「人魂の大きさは、3分くらいから3寸くらいかと。
 瘴気回収は‥‥確か魔の森が200以上で清浄な場所ではゼロじゃ無かったかな?
 あとは、一般人がいるなら呪縛符かな。うちだけじゃないなら押さえ込んでまず、人を護るか、逃がさないといけないと思うその後はうちがどうにかしてみせるから」
 ついでにクラリッサ・ヴェルトのものも並べてみる。
 実はこの四人の口頭試験評価はほぼ同じなのである。
「えっと、まだ駆け出しなので、母から教わった知識ですが‥‥人魂は最小1cm、最大10cmと思われます。瘴気回収は‥‥初期段階として魔の森だと2倍以上で以上で神社なら0。
 朽ちて忘れ去られた神社なら半分とか‥‥丑の刻参りで怨みが溜まってたら神社でも普通の場所と同じくらいになるかもしれないけれど‥‥。
 それから人を助ける事が優先である以上、実際には敵によるけど‥‥呪縛符を使うと思います。
 呪縛で足を取り、命中精度を鈍らせて逃げ易くする組みついた式を剥がす事に時間を使ってくれるかもだし私だけで護りながら戦えないから」
 この四人の共通の間違い。
 それは第二問。瘴気回収における練力の回復量である。
 問題は
「良く知られている割合に囚われて考えるとわかり辛いですよね」
「そんなに意地の悪い問題じゃないけど‥‥焦って読み違えちゃったかな?」
 受付担当官の一人がそう言って微笑した。
「は〜い、次はこの子です。よろしくお願いしますね。君なら大丈夫でしょ。頑張って下さい、彼方君」
 頭をポンポンと叩かれて、照れた笑みを浮かべながら彼方と呼ばれた少年は頭を下げて答えを告げた。少年は陰陽寮出の陰陽師に育てられたと言う。その知識は確かなものであった。
 彼と、もう一人が完全な正解を答え、合格のコースを進んだ。
 その正解者サラターシャ(ib0373)の解答を見ればどこが間違いか気付くだろうか?
「問一は最小1cm。最大で10cm。
 問二は魔の森で8以上。神社仏閣は0
 問三では呪縛符を使います。大切なのはアヤカシを倒すことではなく、一般の方を安全に逃がす時間を稼ぐことだと思いますので」

 問題二。瘴気回収を『自分が使用した場合』魔の森で使用する場合と神社仏閣で使用する場合の数値を答えなさい。
 つまり問われているのは効果判定の基準値ではなく、それを踏まえて術を使用した時の練力の回復量なのだ。つまり魔の森では自分の練力量の8パーセントというのが正しい。
 回復する数値量を、と書いていなかったのがひっかけに近いというか、癖のある問題である。
「でも、まだ挽回のチャンスはある筈だからね。未熟であっても、それは逆に伸び代が大きいってことじゃないかって思うから、頑張って欲しいなあ〜」
 祈るように見送る先輩達の思いを、彼らは知る由もないけれど。

●面接試験
 口問試験の通過者は朱雀門から出て右と左に分かれる。
「右をと言われましたけど、一体どこにどう行けばいいのやら‥‥」
 案内板が出ているわけでも無い。見知らぬ場所。しかも陰陽寮だ。
 緊張の面持ちで周囲を見ながら歩くサラターシャに
「‥‥こんにちわ」
 後ろからふんわりと優しい声がかかった。
「は、はい!」
「‥‥貴方、新入生かな? はじめまして」
 振り向いた先には手元に書類を持ち柔らかく微笑む女性がいる。
「新入生、というよりは受験生ですが。はじめまして」
「ああ、迷子、ね? ここは、広いから‥‥。良ければ面接会場に案内しますけど?」
「お願いします!」
 そう言うとサラターシャは手招きする茶色の髪の女性の後に着いて行くことにした。
 女性と言っても少女に近い年だ。自分より十は違いそうな気がする。けれど‥‥
「先輩‥‥ですか?」
「うん、今度の二年。よろしく、ね?」
 年下の先輩。サラターシャはなんだか、楽しい気分になった。
 彼女は横に並び、先の合戦や、結陣の話題など他愛もない世間話をしてくれる。緊張をほぐそうとしてくれているのかもしれない。
 実際サラターシャはどこか固くなっていた心が解けて流れていくのを感じていた。
「そういえば、ね。陰陽寮は四寮あって、去年は青龍と朱雀だけだったんだけど、今年は玄武も加わったの。架茂王の出身寮‥‥ね」
「ああ、そんな話を聞きました。研究を重視するって面白そうですね」
 軽く微笑しながら答えたサラターシャはふと、足を止めた。自分より一歩早く足を止めた彼女は自分を見ている?
「ねえ? ‥‥どうして開拓者に、陰陽師になりたいと思ったのか、聞いていいかな? 朱雀寮を選んだ理由も‥‥」
 彼女の目は真剣で、だからサラターシャも真剣に答えることにする。目の前にいるのが寮長だと思って‥‥。
「私は魔術師として精霊と親しくしてきました。精霊と瘴気は幾つかの点で似通っています。その相似から瘴気の謎を解き明かしたいと思っています。的外れかもしれません、ですが私は知りたいのです。瘴気とは何かを」
「瘴気の謎‥‥ね?」
「はい。朱雀寮を選んだ理由は瘴気をより詳しく知る為です研究するのなら玄武寮、戦術を学ぶなら青龍寮、瘴気を知るのなら朱雀寮だと思いました」
「朱雀寮にも‥‥いる。瘴気のコントロールとか、できないかなって研究したがってる二年生」
「そうですか? ぜひご一緒できればいいですね」
「うん。‥‥じゃあ、ここが試験会場だから」
 彼女が指し示した先には確かに講堂らしき場所がある。
「ありがとうございました。合格できたら、よろしくお願いします」
「うん」
 自分を見送る先輩に一礼してサラターシャは階段を上って行く。
「‥‥がんばって。また、ね」
 背中にそんな声を確かに聞いて‥‥。

「え〜っと、左ってどっちに行けばいいのかな?」
「およ? 迷子?」
 きょろきょろと左右を見て自分の行く道を探していた璃凛はそうかけられた声にと、その声の主に目を瞬かせる。
「試験を受けにきた受験生なりね! 良ければ試験会場まで案内するなりよ!」
 目の前の相手は大柄な方では無い自分よりもさらに小さい。
「え〜っと、誰? もしかして先輩?」
 どうみても子供である。しかし、堂々とした様子は同じ受験生とは思えない。
「そうなり! これでも朱雀寮の二年生なりよ。よろしくなのだ。名前、聞いてもいいなりか?」
「あ、芦屋 璃凛。よろしく」
「りょーか〜い。璃凛。行くなりよ」
 慣れたように先を歩く小さな先輩。慌てて小走りで後を着いて行く。
「朱雀寮は広いなり〜。だから良く迷子になる人が多いのだ〜」
「へえ〜」
 試験に緊張していたつもりはないが、周囲を見る余裕も無かった自分に気付いて息を吐き出す璃凛に
「そういえば」
 前を行く先輩が、ふと振り向いて璃凛の方を見た。
「璃凛は開拓者なりね? おいらもなりよ! 朱雀寮は殆どが開拓者と掛け持ちなのだ」
「へえ〜」
 明るく笑いかける彼には確かな実力を感じる。確かに今の自分よりは上なのだろう。その彼がふと話し出す。
「むか〜し、アヤカシに家族を襲われる幻を見たなり。それは幻だったけど、絶対に本当にしちゃいけないとおもったのだ。だから、おいらは開拓者になったのだ」
 前を歩く彼の背中からはその表情は見えない。
 けれど
「おいらの目標は、家族や‥‥皆を守る事なりよっ!」
 心意気、というか思いは伝わってきた。
「璃凛は? どうして陰陽師や開拓者になりたいと思ったなりか?」
「う〜ん、うちは赤ん坊の頃捨てられてたのを陰陽師の師匠に拾われたから〜。あ、でも陰陽師になるって決めたのは自分だからね」
 はっきりと言う璃凛に彼は一瞬きょとんとした顔を見せたが直ぐに笑顔になる。
「そっか!」
「そ。うちは、一人前になりたいんだ。師匠に拾ってくれて育ててもらった恩に報いたいからさ破門扱い‥‥だけど」
「うん。いいと思うなりよ。そういうの大好きなり」
 無邪気な笑顔。璃凛も何故だか心がほんわりと明るくなるようだった。
「あのさぁ‥‥朱雀寮ってどんなとこなのかな」
「いろんな面で面白い所なりよ。委員会活動とかもあって学年縦割りで思いっきり遊ぶなり!」
「遊ぶ?」
 きゃっきゃと話しているうちに目的の場所に着いた。
 最初の方向からだいぶ違った所に来たような気がするが
「んじゃ! 頑張ってくるのだ〜」
 応援するように先輩が手を振ってくれるからにはこちらで間違いはないのだろう。
「ありがと〜。じゃあまたね〜」
 そう言って思いっきり手を振ると璃凛は階段を足取り軽く昇って行った。

 正しく指示された道を歩いてきたつもりだったがどうやら道に迷ってしまっていたらしい。
「貴女は、受験生ね。試験会場に案内します。私は朱雀寮二年生です。さ、どうぞ」
 だから、そう言って優しい笑顔の女性が声をかけてくれた時には心底ホッとした。
「はっ、はいアル=カマルから来ましたカミールリリスです。よろしく、お願いします」
 そう言ってリリスは案内役だと言う女性の後を着いて歩き始めた。
「向こうが一年生の講義室、あっちは実習訓練場ね」
 一つ一つ場所を指差しながら教えてくれる女性は本当に良い人だな。と思う。
 だから。
「これから貴方と一緒にやっていく事になるかもしれない先輩として質問させてもらってもいい?
 貴方はどうしてこの朱雀寮を選んだの?」
 そう問われた時、ちょっと返答に窮してしまった。それはひょっとして目の前の先輩に対して凄く失礼なことかもしれないと思ったからだ。
「ん?」
 でも嘘はつけない。リリスは躊躇いながら答える。
「ボクは‥‥その‥‥玄武行きたかったんですけど‥‥間に合わなくて」
「あ〜、そうんだんだ〜」
 表や顔には出さないがほんの少し、女性の声が沈んだのが解る。
 だから、ではないがリリスは顔を上げた。
「でも陰陽寮に入りたくて。役に立ちたいんです‥‥、それに自分に自信が無いところを変えたいから。‥‥きっとそんなに簡単じゃ無いでしょうけど」
 思いに嘘は一つもない。だから真っ直ぐに顔を上げて目の前の女性。
 いや、先輩になるかもしれない人の顔を見る。上がり症である自分。
 胸はドキドキして弾けそうだが、ここは引いてはいけないと思う。
「そう。解ったわ」
 自分をどう見たかはわからないが、彼女はそう言って優しい笑顔を変わらず見せた。
「一緒に勉強できればいいと、思う。自分自身を変えたいと思うなら、朱雀はいい場所だと思うわ」
 言いながら彼女はスタスタと前を行き
「はい、あそこ。あの講堂で寮長が待ってるわ」
 ある場所を指し示した。最初の場所とは全然違う方向に来てしまったが間違いは先輩の案内だ。
 間違いは無い筈である。
「‥‥ありがとうございました」
 頭を下げる彼女にリリスは頭を下げた。
「頑張ってね。また会いましょう」
 そう言って自分を見送ってくれた彼女の笑顔は、本当に最初に声をかけてくれた時と同じであった。
 いや、最後にもっと優しくなったかもしれないと思いながら、彼女はさらに緊張しながら面接への階段を上ったのである。

 講堂に案内された蒼詠は一人の男性と相対することになった。
 眼鏡の下にある視線が鋭い。
 意図しているのか、それとも生来からのものか。
「試験の問題が何かは改めて言いません。己の考えと意思を持って答えなさい」
 相手を威圧するような迫力に怯みそうになるが、蒼詠は手を強く握りしめて顔を上げた。
「僕は、サムライの家に生まれました。‥‥でも、どんなに頑張っても僕は、サムライにはなれなかったんです」
 言いながら目元が熱くなるの。思い出すだけで心が俯きそうになるが、その時ここに来るまでに出会った二人の言葉を思い出した。
 一人は同じ受験生の少年。
「友達になろう。一緒に頑張ろう!」
 そう声をかけてくれた。
 そしてもう一人はここまで案内してくれた青年。
『貴方は、何を是として陰陽師の業を見につけようと思ったのです』
 人形を繰りながらまるで気分をほぐすように問いかけた青年に蒼詠はこう答えたのだ。
「困っている人を助けられる‥‥その為の力と知識を身に着けたいと思いました」
 蒼詠の答えに青年は優しく微笑み、頷いてくれた。
『私は1を知り、2を得るよりも。1をどこまで追求できるか。を実行したかったのです。大丈夫。貴方の選択は正しい。何を為し、何を願い、何を求めるのか。この寮は、その様な思いに答えてくれます』
 自分の望む力を手に入れられるなら、ここで怯むわけにはいかない。
 真っ直ぐに顔を上げ蒼詠は答えた。
「サムライになれなかった僕に、陰陽師の才能があると言ってくれた師匠がいました。今はもう亡き人ですが、あの人みたいに困っている人を助けたい。困っている人に少しでも力になれるよう、立派な陰陽師になりたいです。得意、と言えるかは判りませんけど‥‥あえて選ぶなら治癒符でしょうか? 人を助け守る、その力をここで身に着けたいのです」
 試験官は彼の言葉を黙って聞くと
「解りました。結果は後日知らせます」
 そう言って試験の終了を告げた。
 お辞儀をして彼の前を去る蒼詠。
 顔を最後に合わせた時、彼の表情に笑みが浮かんでいたと思ったのはきっと気のせいではないと思いながら。

「よう! クラリッサ!」
 面接を終えて階段を下りてきたクラリッサはそう言って自分の名を呼ぶ人物の方を見た。
「貴方は‥‥」
 自分をここまで案内してくれた朱雀寮生である。確か友人であると言っていたか‥‥。
「無事試験は終わったか?」
「無事、かどうかは解りませんが。一応」
 母の知り合いで、陰陽寮の先輩。
 敬語を使って話すクラリッサに彼は手を横に振って笑う。
「自分の思う事は伝えられたんだろ? なら、大丈夫だ」
「そう‥‥だといいな」
 クラリッサはそう言って試験を思い出すように目を閉じた。
『正統派の陰陽術も学んでみたいと思ったのと、陰陽術をもっと広く役立てたいから。
 それで母さんのこと少しは手伝えたらって。あ、今の内緒で。照れくさいから‥‥。
 でも研究ばっかりの堅苦しいのは苦手だから朱雀にしました。得意な術は呪縛符です』
 あれで、良かったのかどうかは解らない。
 その時、ぽんぽん。大きな手が頭を撫でた。
「お前は、陰陽術を誰かの為に使いたい、って思ったんだろ?」
 顔を上げて彼を見る。
 彼がまるで自分の心や不安を読むように言ったのは、きっとさっき同じことを彼にも話したからだ。彼は試験官ではないのだから彼が何を言っても関係は無い筈だが
「リーゼロッテの為や他の誰かに役立てる為に、なら、大丈夫だ」
 自分に向けられた笑顔と、妙に安心感と説得力のある言葉にクラリッサの心から、少しずつ不安が消えて行く。
「で、どうする? 試験も終わったことだし、質問があるなら答えてやるぞ。さっきはあんまり時間が無くて案内もできなかったから帰り道、施設の案内でもしてやろうか?」
「ありがとう。お願いします」
 頭を下げたクラリッサの頭にもう一度、ぽんと手が乗る。
「手加減はしなかったぞ、ってリーゼロッテに言っておいてくれ」
「えっ?」
 遠くで花火が上がるような音に囁くような声は遮られ、聞き返した返事は届かない。
「ほら、行くぞ」
 先を行く先輩の後を、クラリッサは走るようにして追いかけて行った。

 そして朱雀寮。知られざる試験会議。
 朱雀寮 寮長 各務 紫郎の前で試験官達は自分が担当した生徒達を皆、支持していた。
 まるで、応援するかのように。
「知識も、考えもしっかりしている。落とす要因は、どこにもない‥‥と思います」
「ちょっと無鉄砲かもしれないなりけど、でも、元気で資質もあると思うのだ! ちゃんと誰かの為に戦える子なり!」
「彼女にはきっと朱雀寮が玄武より向いてると思う。そう思ってもらいたいから‥‥」
『彼の求める力は、きっと朱雀でこそ、見出せると思うのです。自分の選んだ道を公開してほしくは無いですしね』
「誰かの役に立ちたいと願う思いを、育て、導いてやりたいと、思う」
「彼には素質もあって、意思もあります。あの真っ直ぐな情熱を、私は尊敬します」
「一度、入った白虎を退寮してまで、共に歩みたいと言う友人がいると彼は言いました。学びたいと言う意思と、支え合い、共に歩み己を高めようと思う心。それこそ朱雀に求められるものであり、私が担当した彼にはそれがあると思います」
 陰陽寮朱雀の第一試験は口頭試験。
 だが第二試験は寮長の面接ではなく、寮生の面接。
 試験結果に何より高い意味合いを持つのは、実技ではなく、寮長との会話でもなく、寮生達による選抜なのだ。朱雀寮というある種、陰陽師らしくない者達の集う場で、学びの三年、いや、ひょっとしたらそれ以上を共に歩む仲間をそれぞれが確かめる為。
「解りました」
 黙って話を聞いていた寮長はそう言うと筆を走らせる。
「陰陽寮 朱雀 合格者」
 と。

●合格者発表
 今年の朱雀寮の受験者は一般人や志体持ちを合わせて50人前後であったという。
 そして合格者は約十名。
 昨年に比べれば合格者は少ないが、その分、厳選していると寮長は王に告げたらしい。
 その厳選された合格者の名前が、今日、門の前に張り出さていた。

『陰陽寮 朱雀 合格者
 合格者は準備を整え入寮式に参加すべし。

 主席合格者 サラターシャ 次席合格者 彼方
 蒼詠、クラリッサ・ヴェルト、芦屋 璃凛、カミール リリス、清心‥‥。」

 今年も新入生を迎えた朱雀寮の、新しい一年がまた始まろうとしている。