【砂輝】消えた少年
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/13 20:05



■オープニング本文

「あのバカ! いっつも心配させやがって!!」
 開拓者ギルドにやってきた少年は開口一番、そう言うとテーブルを叩いた。
「おい、落ち着いて説明しろ」
 係員はそう言って宥めながらやってきた陰陽師の少年、清心の話を聞こうとする。
「すみません」
 自分が冷静さを失っていたことに気付いたのだろう。
 清心はそう言って謝ると依頼書を差し出しながら、事情の説明を始めた。
「彼方、‥‥友人である開拓者が依頼を受けてから戻ってきません。探しに行ってやって下さい」
「依頼ってどこに行ったんだ?」
「アル=カマルです」
「!!!!!?」
 係員は言葉を失った。
 アル=カマルと言えば現在戦乱の真っただ中。
 アヤカシと人の思惑とが交錯している戦場である。
 そこに開拓者とはいえ少年が? 一人で?
「止めたんですよ。危ないから止めろって。でも、陰陽寮の入寮試験が近くて、あと少し入学金が貯まらないからって戦場に荷物を届けに行く依頼を受けたんです」
『大丈夫だって。戦乱に首を突っ込んだりはしないよ。足手まといになるの解ってるから。荷物を届けたらすぐに戻ってくるから。ちゃんと準備もしていくしね』
 龍で戦場近くのオアシスに荷物を運ぶ依頼そのものは無事、終わったと聞く。
 なのにその後、彼が戻ってこないのだ。
「話に聞くところによると、オアシスでアヤカシに襲われたキャラバンがあったそうで、そのキャラバンの商人の妻が周囲の止めるのも聞かず、砂漠に夫を探しに出たんだとか。で、あいつはそれを追いかけて行って行方が知れなくなったんです」
 現場はパル・オアシスとニノ・オアシスの間。
 主戦場である場所からは離れているものの、アヤカシ出現の可能性は十分にある。
 加えて近くで砂嵐出現の噂もある。龍は火龍を連れて行った筈だが女性を連れているなら一緒に乗って戻ってくることはできないだろう。
「来月には陰陽寮の入寮試験があるんです。いくら入学金がいるったって試験に間に合わなかったら意味ないじゃないですか。お願いします! あの馬鹿を見つけ、連れ戻して下さい」
 言葉は悪いが、依頼人の少年が友人を心配していることはよく解る。
「問題は時間との競争、だな」
 砂嵐やアヤカシの脅威、砂漠での生存時間。そして‥‥陰陽寮の入寮式。
 一刻を争うこの難しい依頼を戦乱の最中、受けてくれる者がいるだろうか。
 依頼書を見つめながら、係員は言葉にならない思いを唾と一緒に飲み込んだのだった。

 岩場の一角で身を潜めながら少年は大きくため息をついた。
「まいったなあ‥‥」
「ごめんなさい。私のせいで‥‥」
 少年の声を聴きつけたのだろう。
 細い声で申し訳なさそうに謝る女性に少年は慌てて手を振った。
「貴方のせいじゃない。僕の見通しが甘かったんですよ。せめて治癒符を覚えてくるべきだった‥‥」
 パル・オアシスを出てニノ・オアシスへ向かう途中、行き倒れていた女性を見つけたまでは良かった。
 だがその直後、大きな砂嵐が発生し、彼らはこの場から動けなくなってしまったのだった。
 女性は衰弱しきっており、一人で歩けない。
 彼方は足をくじいてしまった。なんとか岩場の影に洞窟のような場所を見つけ、隠れることはできたが周囲はまだごうごうと音を立てて砂の嵐が止まず暴れている。
 せめて、龍が無事であればオアシスまで行って貰い、助けを求めることもできるのだが砂嵐の最中、彼方の炎龍も、砂嵐に巻き込まれた時の衝撃で羽を痛め、飛べなくなってしまっていたのだ。
 水や食べ物、毛布などはちゃんと用意していた為、彼方と女性は数日くらいはなんとかなるだろうが、龍の方は怪我が治るのと、弱るのとどちらが早いだろうか?
 慣れない砂漠を怪我をした身で一人歩いて越えられる、とまでは思っていないし、万が一自分が離れた間に女性や龍に何かが有ったらここまで来た意味がなくなってしまう。
 ふと、頭の中に声が聞こえた。
『お金に目が眩むから‥‥仕事はちゃんと選びなさいっ』
 そう言ってくれたのは、開拓者とその人妖であったろうか。
「せめて、誰かと一緒に来ればよかった。僕、このまま死ぬのかなあ? 陰陽寮の試験、もう直ぐなのに‥‥」
 そんな弱気な思いは女性の前ではおくびにも出さない。
「大丈夫、必ず救助が来ますから」
 と笑いかけた彼は、祈るように空を見上げたのだった。


■参加者一覧
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
紗々良(ia5542
15歳・女・弓
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
リン・ローウェル(ib2964
12歳・男・陰
ティンタジェル(ib3034
16歳・男・巫
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
サクル(ib6734
18歳・女・砂
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文

●砂漠に消えた少年
 依頼の話を聞いた時から実は何人かは気付いていたようだった。
「最近‥‥見ないと思ったら‥‥アル・カマル?」
「あの‥‥紗々良(ia5542)さん? あいつもあいつなりに‥‥」
 まったく‥‥と、小さいながらも確かな怒り声と声と顔を作る紗々良に依頼人である陰陽師清心は宥めようと手を伸ばす。
 最初はすごい剣幕でだったのは依頼人の方なのにより怒っている人を見ると頭が冷えるのは人の常らしい。
 その肩に背後からポン、と手が乗った。
「大丈夫ですよ。心配しないで」
 笑いかける鈴木 透子(ia5664)の声は二重の意味が込められていることを清心は理解し、手を下ろした。
「行方不明の子とお知り合いなのですか?」
 準備をしながら首を傾げるティンタジェル(ib3034)にまあ、と真亡・雫(ia0432)は肩を竦めて見せる。自分も、透子も紗々良程ではないが彼とは縁が深い。
「色々と開拓者、というか災難に縁がある子ですね。自分から首を突っ込んでいる、とも言えますけど」
「確かに、以前の依頼で『突っ走るのは良くない』だのと言っていた癖にこの結果とは‥‥ふっ、相変わらず面白い男だな」
 雫も、小さく笑うリン・ローウェル(ib2964)も彼を語る言葉は不思議に優しかった。
「それが彼方君だから‥‥しょうがない。でも‥‥それと、これとは‥‥話が、別。ちゃんと見つけて‥‥怒ってあげないと」
「確かに、僕がここまで興味を惹かれた同年代の人間は初めてなんだ」
「ふ〜ん」
 叢雲 怜(ib5488)は腕を組む。依頼人が言うにはその少年は自分より確か2〜3歳年上なだけの筈。でも、ここまで開拓者が心配する人物とは‥‥。
「いい子なんだ。会うのちょっと楽しみになって来たのだぜ。何としても砂漠から助け出さないとな」
「‥‥うん、楽しみにしてて」
 紗々良の浮かべた笑みは優しげで怜は
「うん!」
 大きく頷いたのだった。

「皆の言うとおり、見知らぬ女性を助ける為に飛び出すとか。良い奴じゃないか。そんな奴をここで終わらせる訳にはいかないぜ」
 そう言ってクロウ・カルガギラ(ib6817)は地図を広げた。ギルドから借りた周囲の地図である。
「俺達がいるのがこのパル・オアシスだ。そして話を聞くと砂漠に向かった女性とそれを追ってった彼方って子はこのニノ・オアシスを目指す途中で消息を絶ったと思われる」
「とりあえず、ラクダをお借りする手配は整えました。もし、無理そうなら砂漠の上を渡り易い手作りの道具を用意しようとも思ったのですが」
 クロウとサクル(ib6734)はアル=カマルの住人。砂漠の行動には慣れている。
 とりあえずの準備や行動方針について開拓者達は彼らの意見を聞くことにしていた。
「砂漠の中央に近い所では、合戦が繰り広げられている。流石にそっちに行った可能性は無いだろう。けど、このニノ・オアシスに向かう途中の交易路に今、砂嵐が発生しているとの噂がある。‥‥砂漠の砂嵐を舐めちゃあいけない。巻き込まれたらアヤカシだってタダじゃあ済まない危険なものなんだ」
「出発時点ですでに三日経過ということで、何か理由があって帰るに帰れない状況と見るべきですね。ひょっとして砂嵐に巻き込まれた、とか」
 ごくり、つばを飲み込んだ雫にクロウは同意する
「その可能性は十分にある、それに女性のご主人が襲われたと言うアヤカシの問題もあるだろう。油断はできない」
 一刻も早く助けに行きたいと心は逸る。
 けれど二次遭難をしては意味がない。
 砂漠の先達のアドバイスを心に刻みな、準備と打ち合わせを整えた開拓者達は異邦の大地へと足を踏み入れたのだった。

●灼熱の大地にて
 オアシスとオアシスを繋ぐルート、と言っても普段は他の砂丘と大差ない。
「ほら、そこの所。砂の山が崩れやすくなってる。気を付けて」
 慣れないラクダに乗っていく砂漠行は思いの他気力を消費するもので、開拓者は改めてアル=カマルの気候の厳しさを思い知らされた気分であった。
「改めて見なくても、本当に砂ばっかりなのだぜ。こんなトコで迷うと同じような景色で益々迷っちゃいそうだな、っていうかもう、どっちの方がどっちだからよくわからくなってきた〜」
「慣れれば、それほどではないのですが、やはり日中は辛いですよね。思ったよりも風も強いし‥‥昼間休んで夜に動きますか?」
 気遣う様に石清水を差し出すサクルのそれを断って怜は自分の水筒の蓋を開けた。
 ついでにもう一つの提案にも首を横に振る。
「大丈夫。それに、その子もきっと同じ光景ばかりに飽きてる。早く、助けてあげないと」
 真っ直ぐな怜の言葉と目に頷いて彼らは先を急ぐことにしたのだった。

 やがて先頭を行っていたクロウの足がピタリと止まる。
「ここ‥‥かな」
「何が‥‥って、ああ‥‥、アヤカシに襲われたというキャラバンの場所、ですか?」
 透子は唇を噛みしめながら周りを見た。
 オアシスの人間に聞いたところでは、生存者が保護された話は無かったと言う。
「戦乱の最中でちゃんとしたガイドを雇いきれなかったか、逸れたアヤカシに襲われたのか‥‥」
 確かに砂に埋もれた道具や荷物などがみられる。
 腐臭はそれ程でもないが、良く見れば白ざらしのあれは‥‥おそらく。
「死体の様子からしてジャバト・アクラブに襲われ、ハーピーどもに屍を啄まれたというところかもしれません。その上に砂嵐が通って姿を隠してしまった。気の毒な話ですね」
「ジャバト・アクラブ?」
 首を傾げるティンタジェルにクロウはサクルの話を引き継いで説明する。
「猫の上半身とサソリの尻尾を持つアヤカシだよ。毒を使うから気を付けて‥‥。でも、この調子では多分、生存者はいないようだね」
 いつまでも引きずっていてはいられない。切り替えるように顔を上げるとクロウはさて、と仲間達の方を見た。
「ここから、二手に別れる。で、良かったんだよな」
「はい、あまり人出を分けすぎるのも良くないでしょう。中心地点を決めて時計回りと半時計回りで調べて何かあったら知らせに来る‥‥で」
 クロウは空を見上げた、砂嵐は去ったとはいえ砂漠に不慣れな人間だけで周囲を歩かせるのは危険に思えた。
「じゃあ、俺とサクルさんは分かれて班に入ろう。ここだとあんまりだから‥‥向こうの砂場にベースキャンプを張って行動開始と行こう」
 小さく手を合わせてその場を離れた開拓者達は交易路のほぼ中間点だと言う場所にキャンプを張ると休憩もそこそこに捜索を開始したのだった。

 荒い風が砂漠を吹き抜ける。
 ほんの少し油断をしていると直ぐに口や鼻に砂が入ってくる。
 日差しも信じられないくらい強い。
「暑くても頭はしっかり守って下さいね。でないと直ぐに倒れてしまいますよ」
 仲間達を気遣いながらサクルは何度目かのバダドサイトを発動させた。
「‥‥こちらの方向には、人影や岩場がありませんね。もう少ししたら、さっきの場所に戻りましょうか?」
「心配ですね。早く見付けてあげませんと、大変な事になる予感が‥‥」
 サクルの言葉にティンタジェルがそう応じかけた時。
「危ない! 上!!!」
 前方から突然の声が言葉を遮った。
 二人は咄嗟にラクダを止めとにかく飛びのいた。
 と同時、上空から直下。何かが突き刺さるように二人がさっきまでいた所に飛び込んできたのだ。
「ハ、ハーピー? なんでこんなところに?」
「戦場から逸れて来たのかしら?」
 一瞬呆然としたティンタジェルを守るようにラクダから飛び降りた雫が、刀を構えた。
 幸い敵は一匹のみであるようだ。
「なるべく戦闘は避けたかったけど、仕方ない。一匹だけなら‥‥ここは片づけてしまおう。援護、お願いします!」
 振り返ってそう言った雫に答えるようにリンは呪文を紡いだ。
「解った!! 我指す、禍々しき調べにて全てを狂わせ‥‥ディーヴァ!」
 この先制攻撃を選んだ事が実は幸運であった。
 ハーピーは本来知覚攻撃を得意とするもの。
 空から先に魅了などをかけられていたらやっかいなことになっていただろう。
 だが、呪声に思考を乱されたハーピーはティンタジェルの力の歪みの援護も受けて、地上に墜ちてくる。それを
「ここまです!」
 雫の渾身の秋水が切り裂いた。
『ぐぎゃああっ!!』
 悲鳴を上げながら消えていくアヤカシを見て、開拓者は顔を合わせる。他の敵が集まって来ないうちにこの場を離れようと彼らが思ったその時、
「あっ! あれを見て下さい!」
 開拓者達は喜びの声を上げる。
 サクルが指差した先には空鏑の軌跡が真っ直ぐ、空に向かって伸びていたのだった。

●見つけ出した命
 彼らが空鏑を見つける少し前。
「‥‥計算によればこの辺だと思うのですけれど。もう一発狼煙銃を上げてみますか‥‥」
「お〜い! 彼方〜〜。いるんなら返事してくれ〜。助けに来たぞ〜」
 大きな声で呼びながら捜索を続ける怜達の頭上に
「あちらの方に岩場が見える。もしかしたら‥‥ん? あ、あれはなんだ?」
 不思議な小鳥が現れ、空に円を描いた。
 クロウが声を上げるとその小鳥は躊躇わずに降下し透子と紗々良の間を舞い‥‥
「おいで!」
 そう呼んだ透子の指先にスッと躊躇いなく降りてきた。
 二人は、もちろん他の開拓者もその小鳥をじっと見つめる。
「これは、式ですね。陰陽師が使う人魂です」
「それに‥‥、この子見覚えがある‥‥。彼方くん、ね?」
 顔を寄せた紗々良の呼びかけに小鳥は何かを訴えるように大きく羽ばたいた。
「この近くにいる? 案内して!」
 紗々良が言うのと、小鳥が飛びたつの、そして開拓者達が走り出すのはほぼ同時であった。
「あの岩陰! あそこに龍の姿のようなものが見えた!」
 クロウの言葉が開拓者達の核心となる。岩場の中央、亀裂のような場所に向かってひた走り
「彼方君!?」
 紗々良は呼んだ。と自分達を導いてきた小鳥の姿が消え、洞窟の影が動いた。
「皆さん?」
 聞こえた声は間違いようもない。自分達が探し求めていた人物の声で
「彼方君!!」
 彼らは駆け寄った。
「‥‥どうして、ここに‥‥うっ!」
「彼方君!!!」
 開拓者達の顔を認めるや否や、まるで崩れ落ちるように倒れた少年をとっさにクロウと怜が支える。
「大丈夫ですか? しっかりして下さい」
「‥‥僕は、平気です。でも、あの‥‥奥に女性と、僕の‥‥龍が」
「そちらの方は任せて下さい。怪我をしています。それに‥‥ずいぶん衰弱していますね。紗々良さん。早く皆を」
 安堵からか、張りつめた緊張の糸が切れたのか。
 意識を手放した彼方に既に治癒符を発動させている透子を見ると紗々良は
「‥‥わかった」
 頷いて空に空鏑を放ったのだった。真っ直ぐ、澄んだ音で空気を切り裂いたそれが仲間達を呼び集めたのは、それから間もなく。
 開拓者達は砂漠に消え、探し求めていた命をやっと見つけ出したのだ。

 その日の夜、開拓者達は無理をせず一晩を砂漠で過ごした。
 水を与えられ、治療を受けた彼方は直に意識を取り戻し、彼女が保護した女性も軽い疲労が見られるものの命に別状は無いようだった。
 ある意味一番危険な状態だったのは彼方の連れていた炎龍であったのだが、それもティンタジェルの治療で怪我が治ると直ぐに嬉しそうに羽を広げたみせた。
 そして、毛布で身を寄せ合って一夜を過ごした彼らは帰路に着く。
 途中、婦人の希望でキャラバンが襲われたと思われた場所に寄った。
 婦人は探し求めていた夫のモノらしき荷物を見つけ号泣し、開拓者達にかける言葉は無かったが彼女は夫の遺体捜索は無理しなくていいと開拓者に笑いかけてくれた。
 龍で先に帰ればと開拓者は告げたが、依頼を見届けたいと言った彼方も最後まで共に歩き翌日の昼過ぎ、やっとオアシスに帰り着いたのだった。

●見送られし者
 開拓者と、彼方が女性と共にパル・オアシスに戻りついた時、彼らを一番に出迎えたのは
「かあちゃん!!」
 駆け寄ってきた一人の子供であった。
「お前!!」
 弱り切った身体は透子と紗々良に支えられながらも膝を付いてしまうが、それでも彼女は息子をしっかりとその胸に抱きしめたのだった。
「ごめんよ。父ちゃんを連れて帰れなかった」
 涙を流す母親に
「バカ! かあちゃんのバカ!!」
 子供は大きな声で怒鳴っている。
「かあちゃんまでいなくなったら、おいら一人ぼっちになっちゃうじゃないか! おいらはとうちゃんとかあちゃんを守るってやくそくしたんだから! もう、あんなバカなことはしないでおくれ。‥‥おねがいだから‥‥」
「ごめん、ごめんよ‥‥」
 二人の様子を遠巻きに見ていた開拓者達は、静かに、そっとその場を離れた。
「‥‥無事に連れ戻れて、本当に‥‥良かった」
 我が事のように嬉しそうに笑う少年彼方。彼は
「彼方‥‥君」
「なんですか? 紗々良さん?」
 なんの警戒もなく振り向いて
「いたっ!!」
 パチン、その額を弾かれたのだった。
「人助けは、尊いこと、だけど‥‥自分の身を、省みないのは…無謀、よ。反省、してね?」
「『突っ走るのは良くない』だのと言っていた癖にな。人のふり見て‥‥と前に学んだのではなかったか?」
 めっ! と怒り顔を作る紗々良の言葉にも、リンの攻めにも彼方は反論せずに下を向く。
「すみません‥‥。また迷惑をおかけしてしまって‥‥」
 素直で真っ直ぐな心の少年が下げた頭に
「ハハハ!」
 明るい笑い声が降った。
「えっ?」
 顔を上げる彼方の側には八つの笑顔があって、
「もう、心配‥‥かけちゃ、ダメ」
 目の前にある紗々良の瞳の暖かさと共に彼は目を瞬かせた。
「でも、こんなことでも無きゃ会えなかったんだし、結果オーライってね」
「はい。無事に戻れて何よりです。私も少しですがお役にたてて良かった」
 少年達がそう言って片目を閉じれば
「砂漠は大変でしたでしょう? 女性と龍を守って生き延びただけでも素晴らしいことですわ」
「まあ、これも恩返しみたいなものさ。後は君がかんばるだけだな」
 砂漠の二人が笑いかける。
「そういうことだ。これで入寮試験を落ちたらただではすまさんぞ‥‥」
「友人が心配してたよ? ふふ、でも目の前の困っている人を見捨てられないという気持ち‥‥僕は、好きだけどね。‥‥試験、頑張ってください」
 自分の為に来てくれた開拓者の思いを胸に
「解りました! ありがとうございます」
 彼方はもう一度頭を下げたのだった。

 そうして、彼は故郷に向かって一足早く飛び去って行く。
 入寮試験まで、もう時間的にはぎりぎりだが多分、何とか間に合うだろう。
「朱雀寮志望ですか、そうですか‥‥」
 見送る仲間達も、一人寂しげに繰り返す透子でさえも彼の試験の成功を青い、アル=カマルの空に願い祈っていた。