【砂輝】飛空船を守れ!
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/06 18:30



■オープニング本文

●砂漠の戦士たち
 神託は正しかったな――
 調度品の整えられた白い部屋の中、男は逞しい腕を組み、居並ぶ戦士たちを前に問いかける。男が多いが、女性も少なくは無い。
「さて、神託の続きはかの者らと共に道を歩めということだが‥‥」
 皆が顔を見合わせてざわつく。俺は構わないぜと誰かが言ったかと思えば、例え神託と言えども――と否定的な態度を見せる者も居た。お互いに意見を述べ合ううち、議論は加速する。諍いとは言わないが、各々プライドがあるのか納得する素振りが見えない。
 と、ここで先ほどの男が手を叩く。
「よし。皆の意見は解った。要は、彼らが信頼に足る戦士たちかどうか。そういうことだな?」
 一度反対した者はそう簡単には引かない、彼らも彼らなりに考えがあってのこと。であれば。
「ならば、信頼に足る証を見せれば良い‥‥そうだろう?」
 だったら話は早いと言わんばかり、戦士たちは口々に賛意を示した。男はそれを受けて立ち上がり、剣の鞘を取り上げて合議終了を宣言する。男の名はメヒ・ジェフゥティ。砂漠に生きる戦士たちの頭目だ。

 アル=カマル首都ステラ・ノヴァ。その港は騒然としていた。
「輸送船が墜落!? どういうことだ?」
 声を荒げる上司に連絡を受けた係員は慌てた声で答えた。
「天儀からの品物や、交易品などを積んでこちらに戻る途中であった交易船が激しい砂嵐にあって、墜落した模様です! 風信術で連絡は一応ついたのですが装置が壊れたのか、それとも術者に何かあったのか一度の連絡が途中で切れた後はこちらからの呼びかけにも返答がありません!」
「! 墜落地点はどこだ?」
「それも確認するまえに通信が!」
「地図を出せ!」
 上司の言葉に別の部下が地図を広げる。
「出発地点はここで、ステラ・ノヴァがここだ。墜落の連絡があったのはいつだ? 出発時間は?」
 彼らは懸命にいくつもの情報を照らし合わせて遭難場所を特定しようとした。
 そうして、彼らは一つの結論に辿り着く。
「おそらくはこの辺だろう」
 上司が地図に着けた印に、部下たちも頷きあう。
 ステラ・ノヴァの北、大砂漠の丁度真ん中付近だ。
 人の足で二日、ラクダで一日、龍などを使えば半日ほどの地点。
 だが‥‥。
「拙いな」
 上官はそう腕を組んだ。
 砂漠にはサンドワームやアヤカシの類が多く出る。
 しかも確かこの近辺のオアシスには、盗賊団の根城があるという噂もあった筈だ。
 墜落した貨物船など彼らにとっては格好の餌食になってしまうだろう。
「乗員や乗客は? 無事なのか?」
「貨物船ですので、乗客は殆どいない筈です。天儀の商人とその護衛。後は船の乗員と護衛で20人程でしょうか? 墜落の時点では無事との話を聞きましたが‥‥その後の事は‥‥」
 商人とあれば大型貨物船の荷物をそのままにしてはおけまい。
 食料はどの程度あるのか。
 ラクダもいない状況で、人間20人に砂漠越えを行わせるのは簡単な事では無い。
「解った。お前達は船からの連絡を待って待機!」
「はい!!」
 そう言って彼は足早に部屋を出たのだった。

 そうして開拓者達に依頼は出された。
 砂漠の中で立ち往生する難破船と、その乗員達を救出する為の依頼が‥‥。

 その頃、砂漠の壊れた船の中。
 まさか、こんなことになるとはな?
 船に乗り合わせた開拓者達が顔を見合わせる。
 アル・カマルとの正式な貿易を目論む五行の商人の護衛を彼等は依頼されてきたのだ。
 新しい噂の大地をこの目で見たかったというのもある。
 航海は楽しかった。
 目的地まであと僅かというところで、思いもよらぬ砂嵐に遭うまでは。
「さて、これから、どうするかな?」
 地面に不時着した船を見ながら彼らは考える。
 今回は朋友たちを連れては来なかった。
 目の前には見渡す限りの砂漠。見知らぬアヤカシや獣がいるかもしれない。
 盗賊団のオアシスも近いかもしれないと船長は言っていた。
「飛べない船はただの塊だな」
 そして飛空船の中にはたくさんの荷物と怪我人達。
 救出に向かう開拓者よりも一足早く、彼らの戦いは始まろうとしていた。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰
サンダーソニア(ia8612
22歳・女・サ
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔


■リプレイ本文

●当夜
 ドンドン!
 勢いよく叩かれたのは外から扉を叩く音。
「今、開けます!!」
 慌てて扉に駆け寄ったフェルル=グライフ(ia4572)はメグレズ・ファウンテン(ia9696)と視線を合わせると扉を開けた。
 風の抵抗を手に感じながら扉を引くと僅かな隙間が開き、人が中に滑り込んで来る。
 と、同時に唸り声のような風が響き、砂が入り込んできた。
「フェルル! 閉めるんだ! 早く!!」
 扉が閉まると、風は扉の外へ去って行く。
「あ〜、酷い目にあったよ」
 そこでやっと息を吐き出して、神咲 六花(ia8361)は身体の砂を払いながら
「お帰りなさい」
 そう微笑んだフェルルに頷き、笑い返したのだった。

「外は、凄い風ナリ。暫くは動けないと思うナ」
「ナァム。確かに、風が落ち着くまではこの中にいた方がいいと思います」
 偵察に出ていた梢・飛鈴(ia0034)とモハメド・アルハムディ(ib1210)の言葉に集まった開拓者達は覚悟していたとはいえ顔を見合わせるしかなかった。

 この飛空艇は新大陸アル=カマルにいち早く先鞭を付けたいとする隊商がアル=カマル側の呼びかけに応じて仕立てたものであった。
 船の乗員の殆どは現地の人間、天儀の人間は商人の一行と開拓者。
「作家志望としては実に心惹かれる土地だから。見逃せないよ。色々話を聞かせて貰いたいな」
 危険の少ない旅であるはずだった。
 出船前、六花は乗員たちに身振り手振りを交えながら一生懸命話しかけていたし
「確かに、興味深いよね。さてさて、どんなことが待ち構えているのやら♪」
 楽しげに笑うサンダーソニア(ia8612)、表情にあまり出さないが朽葉・生(ib2229)やメグレズ。葛切 カズラ(ia0725)もまだ多くの者が知らない、新しくも古い世界への訪問に胸を膨らませていたのだ。
「広い、広い砂漠。もう随分飛んでいる筈なのに、まだ端が見えません。二度目のアル=カマル。前にも思いましたが、こんなに広い砂漠に暮らしていくのは‥‥想像以上に簡単な事ではないですよね」
 飛空艇の甲板から空を見上げるフェルルにモハメドが
「ナァム‥‥」
 と何かを言いかけたその時だった。
 乗員の一人が慌てて甲板に駆け上がると二人を大急ぎで船の中に引き寄せたのは。
 二人も、開拓者達もその時は何が起きようとしていたのかは理解できなかった。
 だが、直後理解する。
「「「「「「「うわあああっ!!」」」」」」」」
 飛空艇は横からの風にまるで持ち上げられてひっくり返されたかのように裏返った。
 回転する船。下から上に落ちる感覚、迫ってくる荷物。
「扉が開いた! 荷物が、人が落ちる!!」
「なんとか押さえて閉じるんだ! 女性はこっちを頼む」
 周囲全てが敵。かき回されるような悪寒と戦いながら、彼らはそれでも必死に動き護衛対象を庇い護った。乗員達も必死で動く。
 そして永遠にも似た一瞬の後、彼らは一際激しい衝撃と共に意識を手放したのだった。

 はああ〜っ、と放たれた大きなため息は誰のものであったのか。
「新世界の大地を始めて踏みしめタと思ったらこれカ。化ケ物が来るか、屍体漁りが来るか、それとも助けが間に合うカ。この競争は中々見ものダナ」
「飛鈴さん!」
 冗談のように言う飛鈴をフェルルは諌めるが、実際問題として彼女の指摘は事実を示している。
 落下の衝撃で飛空艇操縦に必要な計器や、宝珠はその多くが大きく破損してしまった。
 一時は破損した場所から荷物や人も砂漠に落ちてしまったりもしたが、人だけは回収し終えている。
 だが風信術の宝珠も傷ついたのか、救助を求める通信をかろうじて伝えた後、反応しなくなってしまったということだった。身動きが取れない。
 落ち込む乗員達。商人は渋い顔だ。
 八つ当たりと解っていても乗員達を責めかねない。
 だから、その前に
「でも、まあ、遭難の事実は伝えられているんでしょ? 命があるなら大丈夫。雲の上で落ちるよりはマシとしておきましょう」
 カズラはそう声をかけた。のんびりとした緩い口調も多分、計算のうち。
「確かに。とりあえず、この砂嵐なら敵も近づけないでしょう。もう日も暮れてきた。今のうちに状態を確認し救助が来たときに速やかに動けるように準備をしておくのがいいかと思います」
 カズラの意図を察したメグレズの声に開拓者達は動き始める。それに従う様に乗員達、商人も動き始める。
 こんな時、何もしない、もしくはできないのが一番心に悪い。
 救出を信じ、できる限りの努力をするのが大切なのだと言う事を開拓者達はちゃんと理解していたのだった。

●砂漠に燃える炎
 墜落から一晩が過ぎた朝。
「なんとか砂嵐は収まったようですね。では、予定通りに始めましょうか」
「オッケー!」
 メグレズの言葉にサンダーソニアは頷いた。二人は両手いっぱいにかき集めた布や、鉄の棒を抱えている。
「外に天幕を張った方が風が通っていいのですよね? モハメドさん?」
「ナァム。今日は太陽が顔を出しています。今はまだいいですが日が昇ってくるに従って船の中は火の中のような高温になるでしょう。それまでにハイマをいくつか立てておきませんか」
 モハメドとメグレズの会話に柔らかい声が加わる。
「中が熱くなってきたら、怪我人は外で休ませた方が、いいということですね?」
「フェルルさん! 休んでいて下さいと言ったでしょう?」
 少し慌てた顔で生は船から出てきたフェルルを手で押し戻そうとした。
「昨晩、ほぼ徹夜で怪我人の手当てをしたのですから。今は身体を少しでも休める時ですよ」
「しかし生さんだって、皆さんだって‥‥」
 フェルルは伺う様に、見上げるように顔を向けるが仲間達は首を横に振るばかりだ。
「これから救出されるまで長丁場アル。もし、何かが襲って来るようなら、その時はダメと言われようと出てきて貰わないと行けないアルから、今は大人しくしとくヨロシ」
 ピンと額を弾かれて、フェルルは飛鈴の言葉と、皆の声に従うことにする。
「では私は中の人達のお世話などをさせて頂きますね」
 フェルルが中に戻ったのを確認し、他の者達はさっそく作業に入った。
「ヤー 皆さん、偵察に出られる時も、何をするにもジュッバを忘れてはいけませんよ」
「ホント。マントを着ていた方が過ごしやすいかも」
 飛空艇の影になるようにモハメドの指示を受けながらハイマ。テントを張る。
 慣れない作業ではあるが、はが柔らかくあまり手間をかけずにいくつかのハイマ。ハイマールが完成した。
 その天井には大きく『五行』の文字が書かれている。
 開拓者達は昨晩、交代で警戒に当たりながらも周囲の状況や、自分達の現状を把握した。
 積み荷は落下したものを除き無事。破損もあるが仕方ないと諦められる。
 問題は乗員達の多くが大小の差はあれど負傷していた。
 命にこそ別状は無いが動かすにも動くにも危険。手数は開拓者のみと思って救助を待つことにしたのだ。
 一刻も早く救助が来るように、こちらも合図を出して待つ。
 ハイマも天井の文字も、そしてサンダーソニアの作業もその為の作戦であった。
「こんな感じで良いですかね〜?」
 パチパチと爆ぜる音と共に呼んだサンダーソニアの声にメグレズは駆け寄って、確認すると頷く。
 砂漠の砂の上で赤く、炎が燃え上がっている。
「いいと思います。なるべく黒い煙が上がるように物を燃やして下さい」
「了解。とにかくここにいるって知らせたほうがいいからね〜。助け‥‥来るよね?」
「勿論。信じて待ちましょう」
 そう笑いかけるとメグレズは空を見上げた。
「先に来るのがどちらかは解りませんが」

 天幕の中、譫言を上げる乗員にフェルルは濡れたタオルを額に当てた。
「アイーラ。すぐ‥‥帰るよ」
 けがは直せても、出血や発熱で落ちた体力は直せない。
「もう少し頑張って下さいね。大丈夫ですから」
 手を握り、声をかけて励ます。
 高温が少しずつ、彼らの体力を奪っていくのをフェルルは悔しい思いで見つめていた。
 時が少し流れた風の中、
「?」
 フェルルはあることを感じて立ち上がった。
(鉄砲? いえ、狼煙銃の音?)
「ここをお願いできますか? 絶対に外には出ないで」
「は、はい!」
 乗員の一人に頼んで、彼女はゆっくり立ち上がると外に出た。
 同時、駆け出す。
 そこに響くのは鋼の音。聞こえたのは二回の笛。周囲に張り巡らされた魔法の壁。頭上を過る影も確かに感じたが、今、見るべきは眼前に燃え上がる戦いの炎
「皆さん!」
 盗賊たちの襲来であった。

●砂漠のハイエナ
「まったく! 屍体漁りどもがウヨウヨと!」
 シタールの攻撃をフッとしゃがんで避けて、飛鈴は敵の本体ではなく、その乗るラクダの足に渾身の正拳を打ち込んだ。
「お前には恨みは無いあるが、悪ク思うなよ!」
 足を折られ苦痛の呻きを上げたラクダは暴れてしゃがみこむ。
「うわあっ!」
 地面に投げ飛ばされた敵に見向きもせず飛鈴はさらに前へと突き進んでいく。
「く、くっそっ!」
 痛みに耐え立ち上がろうとした男の前に、細く白い足が突きたてられ行く手を阻んだ。
「まったく、しょうがない子ねぇ〜」
 その後、鞭でシバキ倒され、触手に絡みつかれ意識を失った男が幸せそうな顔をしていたのは不思議な話であるが、それはともかくとして、煙で場所を知ったのだろう。襲いかかってきた盗賊達と開拓者の戦いは開拓者、やや不利で一進一退を繰り返していた。
 敵の実力は高いものではない。言わばハイエナだ。開拓者を押しているのはひとえに砂漠の戦いに慣れた動きと、数に他ならない。
「積荷を渡せ! そうすれば命だけは助けてやる!」
「悪党の言うことなんて聞く耳ないわよ。逆に身包み剥いでやろうかしらっ!! と〜」
 巨大なグレートソードを振り回すサンダーソニアも、時折砂地に足を取られていた。
 船や怪我人を庇う咆哮に敵の目と攻撃が集中するが、いつもの力を発揮しきれないでいた。
「あっ!」
 敵に間近まで踏み込まれたサンダーソニア。大剣が災いし、反応しきれない。
「くたばれ!」
 曲刀を男が振り上げる。だが彼の刀は砂に落ち呻き声と共に横に倒れた。
「大丈夫ですか?」
「な、なんとか。ありがとう」
 駆け寄るメグレズに礼を言って二人は背中を合わせた。
「うじゃうじゃと、数が多いね。やっと半分?」
「そう、ですね。後ろは大丈夫でしょうか?」
 気遣うように振り返る二人の視線の先には、大丈夫と頷く生と六花、そしてモハメドがいる。
「こちらは任せて下さい。飛鈴さんの援護を。とにかく時間を稼いで!」
 肩に小型の鷹を止まらせた六花の指示に、二人は前線に突っ込んでいく。
 彼らとすれ違うようにやってきた盗賊たちがいる。白い服に覆面。そのいでたちや雰囲気はどこかモハメドにも似ていて‥‥一瞬開拓者を躊躇わせるが、それを静止したのもまたモハメドであった。
「ヤッラー! 人の物を奪い、殺めようとする者が、東西で良いものであったためしはありません。人の因果というのは不思議なもの、アルハムド・リッラー。私と真の縁があれば、また試練の後に出会うこともあるでしょう!」
「何をぬかしてやがる!!」
 男は周囲を観察した。飛空艇の周囲には鉄の壁が現れている。
 開いている場所は開拓者達が構える一か所しかない。
 そこに突撃をかけるが‥‥
「ぎゃああっ!」
 彼らを待っていたのは地縛霊の攻撃と、鞭と刀、そして
「ヤッラー! 貴方達の敵は我々ではありません。立ち去りなさい!!」
 頭をかき乱す不思議な狂奏曲だ。
 その後は敵味方も巻き込む大乱戦となっていった。

「とにかく時間を稼ぐアルよ!」
 戦いが始まる前、飛鈴は言った。
「もうすぐ救出が来ますから」
 六花は確信したように言った。
 その核心の理由を聞けないまま開始した戦端。
 けれど程なく勝負に勝利したことを知るのであった。二人の言葉の意味も。
 飛鈴は見ていた。サンドワームと戦う開拓者達の姿を。
 六花は聞いていた。必ず助けに行くという開拓者の約束を。
 頭上から盗賊たちに向けて放たれる弓の乱舞。
「ひゃっは〜!」
 急降下してくる炎龍。炸裂する焙烙玉の爆裂音。
「くそっ! 引け!!」
 幸運にもまだ動く力を残していた敵はその声に、弾けるように逃げて行った。
 開拓者達は追わず空を見上げ微笑んだ。
 薄紫に染まった空、龍が楽しげに、踊るように旋回していた。

●風と星の贈り物
 飛空艇の捜索を依頼された、という開拓者達と合流してから彼らは約数日を現地で過ごすこととなった。
 状況を報告した後、数名がステラ=ノヴァへ戻り、全員が荷物と共に帰る為のキャラバンを仕立てて戻って貰うことになった為だ。
 全員が一夜を過ごした後、数名がステラ=ノヴァへと伝令役を買って出てくれた。
 数日を共に過ごした救助の開拓者達とも多少なりとも親しくなれたのも、この依頼の思わぬ成果であったかもしれない。
 共に見張りをした開拓者にフェルルは空を見つめ、こう言った。
「こんな時に不謹慎って怒られるかもですけど、星が冴え冴えとしていてとっても綺麗ですよね。これはちょっぴり素敵な発見かも。
 この星空の綺麗さを誰かに伝えるためにも、絶対に生き延びないとっ」
 彼女の言葉に開拓者は心からの笑みで頷いてくれた。
 幸い、初日以降サンドワームやアヤカシと対峙することはなく、盗賊団もさらに増えた開拓者を前に再び襲撃を仕掛けてくることは無く開拓者達は静かに救助を待つことができた。捕虜は尋問の後解放した。
「まーこンなもンにしとケ。命あっての物種アルぜ」
 勿論、盗賊の捕虜たちから服以外の身ぐるみを剥いで、
「今度来たら、た〜っぷりお仕置きするわよ」
 飛鈴とカズラがしっかり脅しをかけておいたので近づく気力は無かっただろうと思う。

 そしてさらに数日の後、やってきたキャラバンによって彼らは全員、誰一人欠けることなくステラ=ノヴァに帰還することができた。
「無事でよかった」
 数日を共に過ごし、泣きじゃくる家族に迎えられた乗員達の笑顔に
「ふう〜。長いようで意外と短かったのかもね。何はともあれ一安心だね」
 開拓者達は胸をなで降ろしたのだった。

「皆さん‥‥これを」
 帰り際、救助の開拓者達に頭を下げて駆け戻ってきたフェルルは仲間達を引き留めたのだった。
 そして小さな瓶を仲間達に手渡す。
「これは、星の砂?」
「はい。乗員の娘さんが、お礼に、と‥‥」
『お父さんを助けてくれて、ありがとう。私の宝物、あげる』
 開拓者達は小瓶を空に向けて傾ける。
 揺れる星は開拓者達と見上げた空の星のように、美しく輝いて見えた。
「とんでもない出だしだったけど、終わってしまえば楽しかった、かな」
「アーニー。ハムディーヤ、賛美の地はアル=カマルにあるのでしょうか? これからが楽しみですね」

 彼らは辛い体験にもう拘ってはいない。
 新しい土地での冒険に胸を弾ませていた。