|
■オープニング本文 ●砂漠の戦士たち 神託は正しかったな―― 調度品の整えられた白い部屋の中、男は逞しい腕を組み、居並ぶ戦士たちを前に問いかける。男が多いが、女性も少なくは無い。 「さて、神託の続きはかの者らと共に道を歩めということだが‥‥」 皆が顔を見合わせてざわつく。俺は構わないぜと誰かが言ったかと思えば、例え神託と言えども――と否定的な態度を見せる者も居た。お互いに意見を述べ合ううち、議論は加速する。諍いとは言わないが、各々プライドがあるのか納得する素振りが見えない。 と、ここで先ほどの男が手を叩く。 「よし。皆の意見は解った。要は、彼らが信頼に足る戦士たちかどうか。そういうことだな?」 一度反対した者はそう簡単には引かない、彼らも彼らなりに考えがあってのこと。であれば。 「ならば、信頼に足る証を見せれば良い‥‥そうだろう?」 だったら話は早いと言わんばかり、戦士たちは口々に賛意を示した。男はそれを受けて立ち上がり、剣の鞘を取り上げて合議終了を宣言する。男の名はメヒ・ジェフゥティ。砂漠に生きる戦士たちの頭目だ。 ●飛空船捜索作戦 アル=カマル首都ステラ・ノヴァ。その港は騒然としていた。 「輸送船が墜落!? どういうことだ?」 声を荒げる上司に連絡を受けた係員は慌てた声で答えた。 「天儀からの品物や、交易品などを積んでこちらに戻る途中であった交易船が激しい砂嵐にあって、墜落した模様です! 風信術で連絡は一応ついたのですが装置が壊れたのか、それとも術者に何かあったのか一度の連絡が途中で切れた後はこちらからの呼びかけにも返答がありません!」 「! 墜落地点はどこだ?」 「それも確認するまえに通信が!」 「地図を出せ!」 上司の言葉に別の部下が地図を広げる。 「出発地点はここで、ステラ・ノヴァがここだ。墜落の連絡があったのはいつだ? 出発時間は?」 彼らは懸命にいくつもの情報を照らし合わせて遭難場所を特定しようとした。 そうして、彼らは一つの結論に辿り着く。 「おそらくはこの辺だろう。かぜにあまり流されていなければ、だがな」 上司が地図に着けた印に、部下たちも頷きあう。 ステラ・ノヴァの北、大砂漠の丁度真ん中付近だ。 人の足で二日、ラクダで一日、龍などを使えば半日ほどの地点。 だが‥‥。 「拙いな」 上官はそう腕を組んだ。 砂漠にはサンドワームやアヤカシの類が多く出る。 しかも確かこの近辺のオアシスには、盗賊団の根城があるという噂もあった筈だ。 墜落した貨物船など彼らにとっては格好の餌食になってしまうだろう。 「乗員や乗客は? 無事なのか?」 「貨物船ですので、乗客は殆どいない筈です。天儀の商人とその護衛。後は船の乗員と護衛で20人程でしょうか? 墜落の時点では無事との話を聞きましたが‥‥その後の事は‥‥」 商人とあれば大型貨物船の荷物をそのままにしてはおけまい。 食料はどの程度あるのか。 ラクダもいない状況で、人間20人に砂漠越えを行わせるのは簡単な事では無い。 「解った。お前達は船からの連絡を待って待機!」 「はい!!」 そう言って彼は足早に部屋を出たのだった。 そうして開拓者達に依頼は出された。 開拓者達の前に広がるのは果てしなく広い砂漠の海。 その砂漠の中で立ち往生する難破船と、その乗員達を救出する為の依頼が‥‥。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ●前夜 本当は、その日の夜にでも旅立ちたかったというのが正しい心境だろう。 遭難者の捜索というのは一刻を争うと開拓者達は知っているからだ。 「初めてのアル=カマルでの依頼‥‥と思ったら、墜落事故だって! 大変だ、急がないと」 今にも走り出さんばかり。気が急いて動き出した琉宇(ib1119)をけれど 「待つのじゃ。今、出てはならぬ」 「‥‥バロン(ia6062)さん。でも‥‥」 細い、けれど大きな手が引き留めた。まるで猫の首を掴むようなその動きに琉宇は少し不満そうな顔を浮かべた。 けれど、他の開拓者達もバロンの行動に同意しているようだ 「落ち着いて下さい。もうすぐ暗くなります」 優しく、諌めるように言い聞かせる真亡・雫(ia0432)の言葉や 「今晩から明日の朝にかけて、砂漠の天気はさらに荒れるであろうと言う情報がありますね。船を墜とす程の嵐です。今、急ぎ過ぎるという下手な動きは二次遭難を発生させるという可能性を大きく秘めていると思いますね。今は‥‥待つ時であると思うのですね」 柔らかく、だが冷静に状況を告げるヘラルディア(ia0397)の言葉を理解できない程、琉宇は『子供』ではなかった。 「心配なのは皆、同じだぜ。行った事無い土地はワクワクするけど、それは何も解ってないのと同じだ。護衛も着いてるって話だし、今はじっくりと準備しような」 ポンポンと頭を叩くルオウ(ia2445)に琉宇も頷いて動きを止めたから、バロンもその手を静かに離した。 動くのは明朝から、それを共通の見解としたうえで羅喉丸(ia0347)は 「よし、まずは墜落した飛空船を探すことになりそうだな」 仲間達の前に地図を広げた。 依頼人から預かった砂漠の地図だという。 地図と言っても町と町以外は、ほぼ真っ白で何も書かれてはいない。 数か所に小さなマークが付けてあるだけだ。 「ここが、俺達のいるステラ=ノヴァ。で、船はここらへんに落ちたと思われる」 羅喉丸が指した印の場所は砂漠のど真ん中に近い場所であった。 「この地図の縮尺は? どの程度で辿り着くのだ?」 腕組みしたまま地図を睨みつけるオドゥノール(ib0479)に羅喉丸の返事はあまりいいと言えるものではなかった。 「歩いて二日、ラクダなどを使って一日はかかる、と」 「いくらなんでも、それじゃあ遅いよ! それに方向が違ってたらそれこそ二次遭難じゃないかな?」 琉宇は思わず抗議の声を上げたが、羅喉丸はニヤリと笑って見せた。 「解っている。だからこそ俺達に依頼されたんじゃないかな? ‥‥俺達には朋友がいる」 「なるほど、グライダーと言う手もありますが、長時間の捜索を考えると少し、不安も残る。ここは、龍を使うのが妥当でしょう」 長渡 昴(ib0310)の援護射撃に頷いて羅喉丸は琉宇をもう一度見た。 「と、言うわけだ。いけるな? 大丈夫だよな?」 挑むような羅喉丸の目に琉宇の表情が元気に咲く。 「勿論だよ。ろんろんがいるからね。遅れなんか取らないよ!」 「よしっ! じゃあ手分けして探すぞ。明日一日で、なんとか見つけ出そう!」 「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」 災害救助に置いて、何もできないと思う事が一番心に悪い。 嵐の終わりを待つしかできない夜更け。 開拓者達は必ず助け出せる。助け出すと信じて、幾度となく検討と打ち合わせを繰り返したのだった。 ●砂漠を抜ける風 翌朝、晴れ渡って雲一つない空に向かい、ステラ=ノヴァを八匹の龍達が飛びたとうとしている。 「良かった。晴れたようだな」 空を仰いだオドゥノールの言葉に開拓者達の多くは頷くが、腕を組む羅喉丸の表情はあまり良くは無い。 「どうしたのさ?」 琉宇の問いに羅喉丸は、ああ、と緩い返事をした。 「救出を急いだ方が良さそうだな、と思ってな」 「? どうして? 昨日までの大嵐に比べれば今日は捜索もしやすいんじゃない? 船の人も待ちやすいだろうし」 「ああ、解る気がしますよ」 首を傾げる琉宇に変わって答えたのは雫だ。 「晴れる、ということは太陽の光がそのまま砂に降り注ぐと言う事。この熱砂の中に加えてアヤカシらに襲われたら」 「やっぱり大変だ! 早く見つけ出さないと」 「ええ、墜落し砂と太陽に熱せられた船。消耗はいかばかりかと思います。速やかに探し出して周囲より迫り来てるだろう脅威を打ち払い救援を求めているだろう皆様をお助け致しますね」 ヘラルディアは自分と、その騎龍アルマ・ズィーベントに言い聞かせるようにそう告げた。 「では、確認するが、まずは落下したと思われる場所まで皆揃い、全速力で向かう。その後四組、四方に別れて船を探す、で良いかな?」 確認するバロンに羅喉丸は頷いた。 「墜落地点から風に流されている可能性もある。この地点は推測にすぎないから近くに着いたら手分けして捜索を続けよう。何かあったら狼煙銃で連絡を」 「オッケー! 早く助けられる様に頑張るぜ!! ちっと重いと思うけど人助けの為だからな!頑張ってくれよロート!」 水や食べ物。いつもより多く荷物を積んだロートケーニッヒを撫でながらルオウは手を握り締める。 同じ炎龍リョウゲンを連れた昴とルオウがコンビを組み、駿龍ミストラルのバロンとゾリグのオドゥノール。甲龍同士の雫とヘラルディアが一緒に行動する。 「頼んだよ。ガイロン」 「頑鉄はちょっと遅いけど、ちゃんと君達に着いていく。だから、頼んだよ」 ポンと琉宇の頭を叩いた羅喉丸のそれは信頼の証。だから琉宇はニッコリとした笑顔を返した。 「そうだね。解ったよ」 そして彼らは見つめる。目の前に広がる果てしない砂の海。それは、息を呑むほどに広く、大きい。 「これが‥‥新大陸の砂漠、か」 「よし、出発だ!!」 そうして彼らは灼熱の空へと飛び立って行った。 まず、先行したのは駿龍組であった。 「高速飛行じゃ。頼むぞ。ミストラル」 主の言葉に真剣さを感じたのだろう。素直にミストラルはそのスピードを上げた。 オドゥノールもまたゾリグを急がせる。 「何か、砂と違うモノがあれば直ぐに知らせなさい」 眼下に広がる砂漠は正に海と言う言葉がふさわしいほどに砂以外の何も見えない。 この広い砂漠の海で、人など本当に一つの砂粒でしかないのだと思える。 オドゥノールは灼熱の中にいると言うのに微かに背中が泡立つのを感じていた。 その気持ちを隠すようにさらにスピードを上げかけて、 「待ちなさい!!」 彼女は龍に突然静止を命じた。 「どうなされた? ノール殿?」 後ろに着いてこない彼女に気付いたのだろう。先行していたバロンが戻ってきた。 「あちらに、何かが見えたような気がする」 「向こう? 指定された方向とは違うが‥‥ん、確かに」 オドゥノールの視線の先、予定していた捜索方向から少し西にずれた方向から確かに細い、煙のようなものが上がっている。 「風に運ばれた可能性もあるということだったな。よし、行ってみよう」 龍の頭を返すとバロンは先行することでオドゥノールを促した。 当然オドゥノールも後に続く。いくつかの砂丘の先を進むと、そこに彼らは地上に咲いた花を見た気がした。 砂の上に並んだいくつもの、幾色もの天幕。開拓者が目を止めた煙は、側で焚かれたたき火が元であると解る。天幕の頭上には大きな『五行』の文字。 二人はどちらもジルベリアの生まれであるが、あの文字が表す意味くらいは知っている。 「あれは‥‥」 上空で龍を旋回させる彼らの前に、スーッと近付いてきたモノがあった。 「鷹?」 「いや、陰陽師の式神じゃな? 飛空艇に乗り込んでおられた開拓者とお見受けする。我らは貴公らの捜索に参った開拓者。案内を賜れるだろうか?」 バロンは鷹に目の前に人がいるように話しかけた。鷹は頷く様に頭を下げると旋回する。 開拓者達はその後に続くが、瞬間、バロンもオドゥノールも、鷹でさえ動きを止める。 いくつもの音が響いた。 砂上を走る人の唸り、二度の呼子、そしてそれほど遠くもない先から聞こえる狼煙銃の音。 オドゥノールは声を震わせた。 「あの色は、サンドワーム出現の合図?」 「あれは盗賊か! だがあちらを片づけねばこちらに被害が及ぶやも‥‥」 空の開拓者達の逡巡は一瞬であった。鷹に向かうとバロンは真剣な礼を取る。 「飛空艇の開拓者よ。必ず、救いに参る。どうか、しばらく盗賊達を押さえ、持ちこたえられんことを願う」 頭を下げるバロンの頭上で鷹は一度旋回すると天幕の間へと真っ直ぐに降りて行った。 ほどなく飛空艇や天幕を守るように鉄の壁がそそり立つ。 「今は、一刻も早く向こうに現れた敵を倒して救出に参ろう」 「解った」 二人の開拓者達は一度だけ、眼下の様子を目に焼き付けて、一足先に開かれた戦端、仲間達の待つ方へと龍を高速移動させたのだった。 ●砂漠の最恐の敵 それと最初に遭遇したのはルオウと昴の炎龍ペアであった。 「砂漠かぁ‥‥ほんとに砂ばっかだな」 「こんだけ広いと陸の上と分っていても海の上に居るように錯覚を起こしそう‥‥」 独り言のように昴は呟きながら、まるで無限に広がるような空と砂の海につばを飲み込んだのだった。 「家のしきたりで子供の頃、小舟で沖合にほっぽり出された事がありましてね、半日程度ですが。周りに見えるのは水平線しかない状況ってのは中々にきついモンでした。だから、早く見つけてあげたいんですよ」 「早く捜索ってのは異論はない。けど、盗賊がいるっていうならあんまり目立つ訳にもいかねえよな」 無論、多少の危険は覚悟の上だ。ある程度高度は保っているが地上から注意深く見れば見つかってしまうだろう。けれど『危険』が遭難している者達に向いてしまうのは断じて避けなければならない。 「歯がゆいけどそこはじっくり行こうぜ」 「ええ」 二人は注意深く周囲を確認しながら空を進んだ。やがて 「ルオウさん! あれ?」 昴は声を上げて嬉しそうに指を指した。黒い煙が真っ直ぐ空に向かって上がっている。 「煙、だな。盗賊とかのオアシスか、それとも‥‥遭難者の狼煙か‥‥」 「とにかく急ぎましょう!」 昴が龍に進路を命令しようとした瞬間! カチャ! 微かな音共に背後から ドオン! 大きな音が上がった。そして昇って行く煙と光と音。 「ルオウさん! 一体何を?」 「あれを見ろ!!」 狼煙銃を投げ捨てルオウの指差す先を見て、昴は一瞬固まった。 砂が波打っている。そして気付けば解る雷のような地鳴り。 「あれは、まさか?」 天儀の多くの開拓者は見たことがない。だが、知識としては知っている。 下級アヤカシなど及びもつかないアル=カマル最恐の敵の一つ。 「サンドワーム!?」 「そうだ! しかもあの煙の方に向かってる。向こうの砂丘に人影も見えた。もし、あの煙が飛空艇だったら、大変な事になる。こっちに早く引き寄せないと!」 狼煙銃の音に気付いたのだろうか? サンドワームはその鎌首を砂から上げると、こちら。ルオウと昴の方に向けた。 「危ない!!」 背後からの声と当時。二人は瞬間的に左右に分かれた。 0.1秒前まで自分達がいた所を砂の塊にも似た強力で恐ろしい勢いの力が突き抜けていく。 「あれが、まさか爆砂砲?」 驚く暇もない。じっとしていたら次の攻撃が飛んできかねないのだ。 「大丈夫ですか?」 「すまない!」 周囲には狼煙を聞きつけてやってきたのだろう。四方に散った仲間達が集まってきている。 「向こうに、遭難者を確認した。現在、盗賊が襲撃中だが、開拓者がいるようだ。少しは持ちこたえくれるだろう。だが、さらなる敵の登場を許すわけにはいかない」 既にオドゥノールは槍を構えている。開拓者達は瞬時に今、やるべきことを理解した。 「よし! サンドワームをなんとか倒そう。俺とルオウ、雫とオドゥノールが地上から前線で囮と撹乱。他の皆は援護してくれ! 頑鉄。後を頼んだぞ!」 いうより早く羅喉丸は甲龍から舞い降りると、口元を覆っていた布をしまうと、懐から別の布を取出し手に結びなおした。 サンドワームの背後に回る。まるで一つの城を見上げる様な圧倒的な力を感じる。 微かに感じる不安。だが、それを羅喉丸は振り捨てるように首を振り、笑った。 「状況は不利、だが俺の心を挫くには足りないな」 「来るぞ!!」 サンドワームの頭が開拓者の方を向く。そのまま押しつぶそうと、あるいは飲み込もうと頭ごと突進してくるそれを開拓者達は必死で避けた。 〜〜♪ 〜〜〜♪ 聞こえてくるヴァイオリンの音が、重く暗くサンドワームの動きを縛る。 もし、この音が無ければ今の攻撃を避けられていただろうか? 「やるなら、先手必勝だよ! 早く!!」 「解った! 行こう!」 そうして開拓者達は、自分より遥かに大きな敵に立ち向かって行ったのだった。 サンドワームと開拓者の戦いは正に死闘と呼ぶに相応しいものであった。 砂漠最恐との呼び声は伊達では無い。 崩震脚と八極天陣を使い分け、敵の攻撃を紙一重で避けながら羅喉丸は攻撃を続ける。 岩のように固いその皮膚に、なかなか攻撃が通った実感はないが、繰り返し、繰り返し攻撃を仕掛けているうちに、少しずつでもダメージが浸透していると思えるようになった。 加え、空からのバロンの一斉掃射。龍達のソニックブームや攻撃援護が確かに聞いてきている。 「動きが鈍くなってきている。ここで、一気に‥‥!」 雫が声を上げた。サンドワームが再び鎌首を大きく上げたのだ。再びの爆砂砲か、それとも攻撃か。 身構えた彼らの前、サンドワームは砂の中へと頭を突き刺し埋めていく。 「逃げるつもりか?」 「手負いのサンドワームを逃がすわけにはいかねえ。うおおおおお!!!」 ルオウが渾身の咆哮を上げる。 サンドワームが再び砂から顔を上げた。 「ゾリグ!」 空中から滑空してきた駿龍に飛び乗ったオドゥノールはその勢いを殺さぬまま、渾身のガードブレイクをサンドワームの眉間へと当てた。 『!!!!!!』 声にならない悲鳴に似た音が響き、地面に音を立ててサンドワームの首がぶつかった。 「今だ!」 気を逃さず、彼らは最後の一斉攻撃に出た。 昴の焙烙玉、バロンの弦月。 雫は渾身の秋水を全ての力を乗せて放ち、必殺の骨法起承拳を羅喉丸は打ち込む。 「悪いけど、手加減なんかできねえし、逃がせねえからなっ!」 止めとなったのはおそらくルオウの一撃であったろう。 『!!!!!!』 最後に、サンドワームは震えるようにその首を持ち上げた。 震えるその目を持たぬ顔は自分を倒すモノの顔さえ捕えることは叶わない。 〜〜〜〜♪ 〜〜♪ 「琉宇‥‥」 少年が奏でたのは『夜の子守唄』 死に面したサンドワームにその歌が聞こえているかどうか、意味を理解できているかどうかは開拓者達には勿論解らない。けれどサンドワームはその鎌首を静かに地面に横たえた。 そして、二度と動くことは無かったのである。 「大丈夫か? 皆の衆?」 地上に降りたバロンは、前線で戦った戦士達に気遣う様に声をかける。 彼らが疲労困憊であることは見ただけで解っていた。 けれど、バロンはオドゥノールを見た。彼女も全身傷だらけであるが解っている、というように頷く。彼は真剣な目で仲間達を真っ直ぐに見つめた。 そして、どうした? と目で問う仲間に告げる。 「疲れているのは承知。だが、今、正に遭難船も危機に陥っている。盗賊どもが攻撃を仕掛けているのだ。必ず、助けに行くと約束した。‥‥共に来てはくれぬか?」 返事は問うまでもなかった。 「行こう!」 傷など無かったかのように立ち上がる羅喉丸らを 「待って下さいませ!!」 ヘラルディアは一度だけ声をかけて留めた。 勿論、行くなと止める訳ではない。 閃癒の柔らかい光が彼らを二度、三度と包み込んだ。 怪我が癒えていく。 疲れは残るが、それを口にする者はいない。 「ありがとうございます! さあ、もうひと踏ん張り! 行きましょう」 笑って焙烙玉を装填しなおすと昴は龍に跨り、空に舞う。 「おーい!」 呼ぶ声がするのは決して気のせいではないだろう。 薄紫に染まった空に、希望の風が再び舞い上がったのだった。 ●炎と大地の贈り物 遭難した飛空艇を発見し、その護衛であった開拓者達と合流してから彼らは約数日を砂漠で過ごす事となった。 食料と水は幸い、かなりな量を持参していたし、護衛の開拓者達の努力のおかげで、飛空艇と乗員達の被害は最小限に食い止められていた。 ただ、即座にその場を離れられなかったのは、怪我人と荷物、その全てを救出する為にステラ=ノヴァと連絡を取り、キャラバンを仕立てる必要があったからでその到着まで彼らも飛空艇の護衛として残ることになったのだ。 全員が一夜を過ごした後、数名がステラ=ノヴァへと伝令役を買って出た。 待つ間も、怪我人の看護、ハイマと呼ばれるテントの立て直し、荷物の回収とやることは多く、退屈している暇は勿論無かった。 数日を共に過ごした飛空艇の開拓者達とも多少なりとも親しくなれたのも、この依頼の思わぬ成果であったかもしれない。 何一つ隔て邪魔をするもののない砂漠の夜と、夜空に浮かぶ星は美しく 「この星空の綺麗さを誰かに伝えるためにも、絶対に生き延びないとっ」 そう言った巫女の言葉にヘラルディアは心から頷いたものだった。 幸い、初日に以降動きを最小限にしたことが幸いしてか、サンドワームやアヤカシと対峙することはなく、盗賊団もさらに増えた開拓者を前に再び襲撃を仕掛けてくることは無く開拓者達は静かに救助を待つこと合ができた。 「まーこンなもンにしとケ。命あっての物種アルぜ」 盗賊の捕虜たちから服以外の身ぐるみを剥いで、 「今度来たら、た〜っぷりお仕置きするわよ」 と女性達が脅しをかけていたのが効いたのかもしれない。 そして、さらに数日の後、彼らは全員、誰一人欠けることなくステラ=ノヴァに帰還することができたのである。 「ふう〜。やっとこれで任務完了だな」 乗員達の無事を知り、集まってきた家族でごったがえす港。 その様子を遠巻きに見つめ、彼らはそっとその場を離れようとした。 「待って下さい! これを」 開拓者を呼び止めたのは護衛の開拓者の一人で、息を切らせたその巫女は彼らの前に小さな包みを差し出したのだった。 「これは?」 「乗員の家族の方から、伝言です。皆さんに感謝します、と」 包みはまだほの暖かい。彼らはそっと開けて中身を見る。 中には焼き立てのクッキーが入っていた。 「いいのか? 貰って」 「私達にもお礼は頂いています。だから、どうぞご遠慮なく」 そう言って微笑むと金の髪の巫女は、真っ直ぐに立ち最上級の礼で頭を下げた。 「私達からも心からお礼申し上げます。ありがとうございました」 心からの感謝、それを告げて去って行った彼女を見送って、開拓者達はそれぞれ、クッキーに手を伸ばした。 サボテンクッキーと呼ばれるそれは、齧ってみると不思議な味がする。 けれど、暖かい味もする。 手作りの料理の奥に流れる心、家族を思うそれはどの世界でも同じなのだと、開拓者達は感じたのだった。 「さ〜て、しょっぱなから大変ではあったけど、やっぱりワクワクするな」 「うん。新しい世界。ちょっと楽しみだね」 目を輝かせる少年達を見つめ、見守る開拓者達。 彼らの目の前には今、新しい世界の扉が大きく開かれていた。 あの日、初めて見たどこまでも続く、砂漠の海のように。 |