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■オープニング本文 ●和議に向けて 見渡せば角、角、角。 形や数に差異はあれど、彼らの頭には角が備わっていた。彼らを前にして、大伴能宗が一歩踏み出し、深々とこうべを垂れた。 「大伴能宗と申します」 修羅の隠れ里。 訪れた能宗、そして護衛を担当した開拓者たちを見て、里の鬼――いや、里の修羅たちは眼を丸くした。 「羅生丸‥‥おぬし、これはどういう了見じゃ」 「しかも、開拓者はまだしも‥‥こやつは朝廷の者。この里を露見させて何とする」 「酒天様の封印が弱まっておると見た故に、おぬしと茨木を送り出したというのに‥‥」 彼らの中央、ひときわ背の低い三人の老人――老婆とも老翁とも判別定かならぬ――は、しわくちゃの顔をさらにしかめて羅生丸を問い詰めた。対する羅生丸も、居心地が悪そうに頭をかきむしる。 「ばっちゃ、そんな事言ってもよ。酒天様が連れてけって‥‥」 「何だと‥‥?」 空気が凝固する。ある者は顎が外れんばかりに口を空け、ある者は目玉が転がり落ちそうなほど眼を見開き、手にした武器を取り落とす。皆茫然自失といった体で、しんと辺りが静まり返る。 「まぁ‥‥そういう事なのです」 能宗が苦笑いを浮かべた。 ●鬼、現る? そして、天儀のある貴族の館。 「修羅との和平など断じてならぬ!」 「その通り。頭に角を持つものなど信用ならぬわ! きっと欲望や悪意が頂点から形をとって溢れたに違いない!」 そんな会話をする者達が数名、密かに集まっていた。 「だが、我らがいかにそれを解いても帝は聞いては下さらぬ」 そもそも彼らは貴族としては末端も末端。上層部に意見を言う事などままならぬのだ。 「ならば、別の手を考えればよい」 一人の男が闇の中から微笑んだ。 「何を?」 「大衆という力を使う。多勢という力は侮れぬものよ。例えアリであろうと集まればケモノをも食い殺す」 「と、いうと‥‥」 「奴らの間に噂を流すのだ。修羅は信用ならぬと‥‥つまり‥‥」 「なるほど、その噂で上の方々が考えを変えて下されば何より、修羅が怒れば尚良いな」 「どうせ使うのは、下町のチンピラども、失敗したところで我々に何の影響もない」 そうして、彼らは声を潜め、ある作戦を密かに発動させたのであった。 修羅とアヤカシは違う種である。 とはいえ、そんな開拓者なら当たり前の感覚も、一般の人々にはあまり浸透はしていないようだった。 頭に角があるだけ、とはいえ外見の違いは一番大きい差別の要因になるのは間違いがないからだ。 そして、それを嫌う者も多い。 「濡れ衣を晴らして下さい!」 ギルドに飛び込んできた男性はそう言って、涙ぐむような表情さえ見せた。 「どういうことです?」 問いかけた係員にその男性は持ってきた荷物をカウンターに並べた。 黄色の虎縞パンツに肌色の肉襦袢、ワザと明るく色づけしたカツラには角がつけられている。 「これは‥‥鬼の仮装?」 「はい。弧栖符礼屋で節分の時に借りたんですよ。鬼の仮装をして豆まきをした子供を驚かせたんです。周囲の商店街とかも回って、結構好評だったんですよ」 神楽の都の外れ、小さな商店の跡取りだと言う彼は、そう言って楽しそうに笑う。 「でも忙しさに紛れて、返却を少し忘れてしまって、その間にとんでもない事件が起きているんです」 それが、さっきの濡れ衣の話か、と問うとはい、と彼は頷いた。 「下町を中心に、鬼の角を付けた者が買い物客とか、観光客を襲っているんです。財布を盗まれたり、傷を負わされた人もいます。そして、彼らは全員が襲ってきた相手が鬼であった、というんです」 鬼の姿をした通り魔。 開拓者達にはふと、ある感覚が過る。 「それで、鬼の仮装をしたことのある私が疑われているんですよ。周囲に土地勘があるらしくて追いかけてもなかなか捕まらないので」 とはいえ、聞けばわざとチャチに造ってあるこの鬼の仮装とは異なり、通り魔の鬼は普通の人間に派手な服と鬼の角があるもので、この男が疑われている、といってもそれほど真剣にというわけではないらしい。 「あと、複数犯なのかも。背が高いとか、低いとかいろんな外見の目撃証言、ありますから」 だが、それが逆に開拓者には嫌な想像を思い起こさせる。 「修羅‥‥。それともアヤカシ? まさか、な」 「そう、それで近々、その修羅の一族とやらが和平の為に都に来ると言う話ですよね。けど、そんなこともあったから、下町のあたりでは鬼そのものを嫌う輩が増え始まっています。通り魔も修羅じゃないか、なんて言う奴もいて‥‥私がきっかけでそんな空気が広がったら、後味悪いし、下町の治安も悪くなるし、おまけにその通り魔が調子に乗って人を殺めたりしたら、大変な事になる」 そう言って、彼は依頼を出す。 「下町に出る、鬼の格好をした通り魔を捕まえて下さい。よろしくお願いします」 鬼の通り魔。 それは、修羅か、アヤカシか、それとも人か‥‥。 できれば、最後であって欲しいと思いながら、開拓者達はまだ依頼書を見つめていた。 「ありがとうよ! いい仕事を紹介してくれてよ」 闇の中に立つ男に『鬼』の一人はそう言って下卑な笑いを見せた。 「この恰好をして人を襲うだけで、こんなに金が貰えるなんて!」 「そうそう。しかも襲った相手から奪った金も全部俺らのものだからな、笑いが止まらねえぜ!」 「‥‥別に我々はお金が目的ではないから、いいのですよ。ただ、一つの条件だけは、忘れないように」 「わかってるって! 絶対捕まりゃしねえよ!」 ワハハハ、ガハハ、本当に笑いを止めない『鬼』達を見て、 「まあ、会見まで持てばいいのですけどね」 闇に消えた男がそう呟いたことを鬼達は知る由もなく、また知ろうともしなかった。 |
■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
詐欺マン(ia6851)
23歳・男・シ
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ノルティア(ib0983)
10歳・女・騎
バルベロ(ib2006)
17歳・女・騎
マーリカ・メリ(ib3099)
23歳・女・魔
白南風 レイ(ib5308)
18歳・女・魔
オルカ・スパイホップ(ib5783)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●鬼の通り魔 「おかしい」 依頼を受けた開拓者達が詳しい話を聞き、最初に感じた印象はそれであったという。 ちなみにこの「おかしい」は勿論「お菓子」でもなければ「可笑しい」でもない。 「ねえねえ〜? 変だと思わない〜?」 オルカ・スパイホップ(ib5783)は兎の耳をぴょこぴょことさせながら、仲間達にそう問いかけた。ちなみに彼の耳は偽物でも飾り物でもない。本物の耳だ。 「鬼が通り魔やるって絶対におかしいよ〜。だって修羅だったら今まで隠れて暮らしてきてたんでしょ〜?? わざわざそんな分かりやすく姿を見せて何回も同じ事するかなぁ〜?? そんなことわざわざ敵を増やすようなもんじゃないかな〜?」 下町に鬼の姿をした通り魔が現れ、人を襲う様になったという。 「確かに。話を聞くだけでも妙な点が多いな」 「にしてはちょっと、被害がちっちゃいような‥‥。ううむ」 首を傾げた白南風 レイ(ib5308)の言葉に頷いて琥龍 蒼羅(ib0214)は仲間達と、依頼人を交互に見て、言った。 「アヤカシだと仮定すると、金品を奪うだけと言うのは考えにくい。そして、その鬼は土地勘があるようだというのだろう? 仮に修羅だとするのなら土地勘があるのはおかしいだろう」 「目立つ格好。しかも複数‥‥ただのスリ、では。無さそう。アヤカシでも、きっと無いよね?」 静かに、だがはっきりというノルティア(ib0983)に 「あたりまえだ!」 吐き出すように言うバルベロ(ib2006)が答えた。 「ふん! 化物が金を手に入れて何をするものか。だが偽りの姿だとしても鬼の外見などむしろ目立ってしまって特定もされやすいような気もするが」 その目も頭も冷静に状況を分析していた。 「そう、何ゆえ鬼でおじゃるか。それこそが最大の謎、真実の名の元に明らかにする必要がありそうでおじゃるな。真実は常に一つ‥‥なのか」 開拓者が考える謎もいつもそこに行きつく。だがそれを割るように 「ああ! もう! そんなこと、どうだっていいじゃないですか!」 ビシッとマーリカ・メリ(ib3099)が手をまっすぐ伸ばした。彼女の指差す先は詐欺マン(ia6851)の後方。暗い下町。 「修羅かアヤカシか人か‥‥いずれにしても通り魔は許しませんっ! 鬼をとっ捕まえてその正体を暴いてやればいいのです!」 「そうだね〜。とりあえず〜捕まえてみたら分かるでしょ〜」 「私も同感ですね。なのでここは手早く状況を明らかにして解決に導ける様にしますね」 「まあ、確かにそうか」「そうでおじゃるな」 蒼羅や詐欺マンも頷く。 確かにいくら考えても答えは出ない。 ヘラルディア(ia0397)達の言葉に同意して、彼らはさっそく作戦を練り始める。 その中で話を聞きながらノルティアは 「よりによってこの時期に‥‥いや、だからこそなのかな」 そんな予感めいた言葉を知らず、口にしていた。 ●迫る黒い影 「お、おかー‥ぁ。あ、もふら様〜〜♪」 「おいおい、大丈夫か?」 ぼんやりと、それでいてはしゃいだ顔つきでうろうろと落ち着かず街を歩くノルティアを見て、影から様子を窺う蒼羅は思わずそんな吐息を吐き出した。 打ち合わせの結果、開拓者達が決めた計画は簡単に言うなら犯行現場を押さえる事、その為の囮作戦であった。 開拓者達が丁寧に聞き取り調査を行った結果によれば、一見共通点の無いように見えた被害者達も、その多くが女性や観光客。 つまり、反撃や抵抗、追撃がしにくい相手を選んでいると解ったのだ。 それは同時に彼らがある程度ターゲットを絞り狙っていると言う事。 「今まで、被害者が犯行にあったのはこの通路の近辺になります。結構人通りが多く、その割に小道が多くて振り切られやすい所です」 周辺を担当している警備の兵士は開拓者達からの質問に地図を広げた。 「なるほど‥‥」 依頼に出される前から土地勘のあるものらしいという話は出ていたが、実際の犯行ルートを解る限り聞いてみると、確かに知らない者では選べないし通れない道筋であると思われた。 「けっこう範囲は広いな。これは、全員が一か所に集まっていては逃がしてしまうか‥‥」 蒼羅は微かに唸りながら考え込む。 「こういう作戦で一番効果的なのは囮作戦だが、標的になりやすいタイプが多いし、奴らがどんな基準で標的を選んでいるかも解らん」 「でも‥‥これ以上危一般の方に被害を与えるのも、な。それに、早めに結果を出した方がいいらしいしな?」 「だよね〜。これ以上、鬼嫌い、修羅怖いなんて噂が広まったら静かに暮らしてる修羅の人たちに迷惑だもんね〜。なんとかその噂も晴らしてあげないと〜」 「よしっ! そういうことなら、さらに作戦を二つに分けたらどうかな!?」 「と、言いますと?」 「だから‥‥、こうして‥‥」 「なるほど」 そうして彼らは作戦を行動に移したのである。 現在、囮として街を歩いているのは四組、五人。 ノルティアを蒼羅が護衛し、ヘラルディアを守るように詐欺マンが付き、レイとオルカがペアを組んで警戒に当たっている。 マーリカとバルベロは一番遠く、ヘラルディア達は人ごみに紛れているが比較的側にいる筈であった。 どのグループに犯人たちが食いついてくれるかは解らない。 ひょっとしたら、そのどれにも引っかからないかもしれない。 暗い思いを抱きながら、蒼羅が一瞬考え事に飛んだ意識を戻した時。 「キャアア!?」 甲高い声が下町に響き渡っていた。 「あの声は!?」 見知った声。蒼羅が駈け出そうとした時。 「蒼羅様!」 いつの間にか側にやってきたヘラルディアが無言で指を指した。 彼女が指した先、ノルティアの背後には黒い影が今まさに迫ろうとしていたのだった。 ●噛み合わなかった作戦 蒼羅達が耳にした悲鳴を上げたのはマーリカであった。 観光客を装ったマーリカとその同行者を装っていたバルベロは暫く行動を共にしてから意図的に逸れた。 正確には逸れたように見せかけただけであったが、一人になったマーリカはか弱く、しかも重そうな財布をちゃらちゃらと下げている。 いいカモだと、もしかしたら見えたのかもしれなかった。 買い食いを楽しみ、露店を冷やかしていた彼女を 「おい!!」 いきなりの手が路地へと引き込んだ。 「キャアアア!」 ワザと大きな声を上げるマーリカの口を背後からその大きな手は塞ぐ。 長い髪がさらりと揺れた。 手と口元を閉ざされ呪文は唱えられない。でも、その時、マーリカは一つの確信を得ていた。 (この感触、体温‥‥間違いない。アヤカシじゃあない!!) 「金を寄越せ。さもないとお前を食らってやるぞ!」 そう個性のない文言を口にする男は、だがそこで言葉を凍らせた。 首もとに鉄の気配を感じたから、だ。 「そこまでだ。お前が噂に聞く鬼か。マーリカさんを離せ!」 感情を感じさせない声に、僅かだが男の手が緩んだ。その隙に渾身の力で男の脇腹に肘を打ち込んだマーリカはその手から逃れた。 行きがけの駄賃とばかりに、髪の毛をひっつかんで。 「うわああっ!」 ずるずると音を立てて髪の毛は男の頭から離れる。 「やっぱり鬼の変装? どうしてこんな格好してるんですか!」 「くそっ!!」 男は慌てて少女達に背を向けて逃げようとする。 「逃がさないんだから!!」 弱めに調整したサンダーをマーリカが放ったのと 「えっ?」 バルベロが男の背後からスタッキングを入れたのはほぼ同時であった。 「私の目の届くところで悪事を行ったのが運の尽きだ」 ふん、と鼻を鳴らして足元に転がった男を見下したバルベロの横でマーリカは 「逃がして‥‥後を追いかける予定じゃなかったけ?」 噛み合っているようでそうでは無かった作戦を、混乱する頭の中で確認していた。 微妙に作戦が噛み合っていなかったのは蒼羅達の方もまた同じであった。 綿密に調査した通り魔たちの逃亡経路。 その一か所に鬼の角を頭部に持つ人物がいたのを最初に確認したのは詐欺マンであった。 数は二人。 同行していたヘラルディアに知らせ、蒼羅への伝言を頼んだ後、彼は注意深くその敵の動きを観察していた。 そして敵の視線の先にいる人物を確認すると笑みを浮かべる。 「上手くいきそうでおじゃるな」 敵が標的にと狙っているのはノルティアであるようだ。 さらに近くにはヘラルディアの気配も感じる。 ノルティアを敵は襲撃するだろう。 早駆でそれを追跡する。そうして鬼達の本拠を見つけだして一網打尽。 だが彼の計画は 「なっ?」 思いもよらぬノルティアの行動で完全な変更を余儀なくされた。 予想通りノルティアを建物の影に引きこんだその『男』は、ノルティアに足払いをかけられ、あっという間に地面に伏したからだ。 「動くな!」 頭に銃を突き付けられ男は身動き一つできない。 「兄貴!」 もう一人の鬼が果敢に男に駆け寄ろうとした。けれど、その勇気ある行動は 「逃がしはしないぞ!」 気配を消して近づいていた蒼羅の攻撃に否定された。 「どちらもアヤカシではありませんね。間違いなく、人間です」 瘴気を確認したヘラルディアに言われるまでもなく、その頭からは変装道具が外れていた。 「しかし、どうするでおじゃる? 倒してしまっては仲間の数や敵の様子を知ることは‥‥」 「あ‥‥、じゃあ、目が覚めたら尋問して、この服装で変装して‥‥残りの鬼に会いに行ってみようか?」 けれど、鬼に変装したノルティアと開拓者達が目的の場所に待っていたのは‥‥。 「あ〜! 皆??」 「どうして、そんな格好でここに?」 「オルカ様、レイ様?」 簀巻きにした男数名を足元に転がしたレイとオルカであったのである。 ●トカゲの尻尾 今回の件は総合的に見るなら失敗では無い。 開拓者の依頼は下町を襲う鬼の通り魔を捕えること、であったのだから。 その場で敵を捕縛したマーリカとバルベロ。 二人の鬼を連携し倒したノルティア達。 そして、襲撃した『鬼』をその俊足で追い、仲間ごと捕えたレイとオルカ。 「み〜んな、志体持ちじゃあなかったんだあ〜。勿論アヤカシでもなかったよ〜」 「オルカさん、足早いし殆ど、全部倒してしまわれたんです。お手柄だったと思います!」 「いや〜。レイさんが援護してくれたからだよ〜」 かくして偽鬼退治は無事果たされたのである。 だが 「気に食わないな」 蒼羅は悔しそうに唇を噛みしめて、そう口にする。 仲間達もそれぞれ見せる表情は、決して依頼解決の喜びのそれでは無かった。 鬼の通り魔として周囲を騒がせていたのは下町のチンピラ達。 だが、彼らに与えられていた鬼の仮装や服装、武器等は明らかに金のかかった上質のものであったのだ。 「こんな出来のいいかぶり物何処で用意したんですっ?! 誰からもらったんですっ?! こんなにいいものを作れるなら、いいケモ耳もあるかも? じゃなくて、とっとと白状するんです!!」 「言わぬが勝手ではあるが、死んだほうがマシ、という事もあるかもしれないでおじゃるな」 「貴方をこのまま氷漬けにする事もできますよ」 半ば脅迫にも似た開拓者達の尋問に、チンピラ達の口は以外に軽かった。 「だから! 知らねえって言ってるだろ? 俺達が酒場で飲んでたら、いい儲け話があるって声をかけてきた奴がいて、その格好で人を襲えって。一日捕まらなかったらその日ごとに金をやるっていうからその通りにしただけなんだよ!!」 男達の言葉に嘘は無さそうであったが、その日男達の言う取引場所に約束の時間『奴』が現れることは無かった。 「おそらく、私達の動きが知られてしまったものと考えられますね。実行犯を切り捨てて姿を隠してしまったのではないでしょうか?」 ヘラルディアは冷静に現在の状況をそう分析した。 「私達結構、派手にやっちゃったから、察知されたのかもしれないね‥‥。ごめん」 「マーリカさんだけのせいではない。すまなかった」 頭を下げるマーリカとバルベロであったがそれこそ、二人のせいではないと首を横に振る。 「ああ、俺達の方も目撃者がいたからな。敵を泳がせることはできなかった」 「うん、ちょっと作戦が噛み合わなかったよね〜。もっとちゃんと確かめて統一すれば良かったのかもしれない」 囮を使い、敵をおびき寄せる。 その作戦自体は統一されたものであった。 だが、相談の時間が短かったせいか同一ペア同士でさえ捕えた後、敵の対処法の考えに差異が発生している。 泳がせて追跡する。捕えてから脅して敵の本拠地に向かう。敵が引っ掛かったら銃で脅す。隠れ家まで気配を消して追跡する。 特に人前で派手な捕り物を展開してしまった組があった上、どこか噛み合わない行動同士。 もし、しっかりと基本行動を統一していたら、もっと違った結果になったのだろうか? 「裏で糸を引くもの‥‥。その目的は一体‥‥」 糸は切れてしまった。今はもう追うことはできない。 けれど‥‥ 「もし、次があるならその時は‥‥」 手を握り締めた開拓者達や消えてしまった糸の先を、それを飲み込んだ闇をじっと見つめていた。 後日、開拓者達は下町での修羅の評判が回復したと聞かされる。 「せ〜めて、やるべきことはやっておかないとね〜」 「そうですね。後の事は官憲の方にお任せするにしても悪い評判だけでも、定着する前に掻き消しておかなくては‥‥」 「修羅の者達の不名誉は拭っておかなくてはならないな」 開拓者達が人々の前で、通り魔の正体を暴いたことが良い結果に繋がったのだろう。 詐欺マンが鬼に扮して悪事を働いていたものがいたことを吹聴してまわったことも、おそらく効果があったに違いない。 それどころか、修羅に興味を持つ者も増えて、下町はどこか歓迎ムードだ。 「私も、完全に疑いが晴れました。ありがとうございます」 そう言って笑った依頼人の笑顔が開拓者の心を僅かならず照らしてくれたことは言うまでもない。 「所詮、チンピラはチンピラか」 「せめてもう少し持ちこたえていてくれればよかったのに」 「まあ、仕方あるまい。我らにできることはこの程度のものだ。少しは彼の方のお役に立てていればよいのだが」 光の中、闇を見つめる彼らの視線の先には彼らには足を踏み入れることも許されない御所が広がっていた。 |