【五行&修羅】その理由
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/05 00:35



■オープニング本文

「さて」
 陰陽寮朱雀、一年生の合同講義の壇上で、朱雀寮寮長、各務 紫郎は一年生達を見た。
「皆さんの朱雀寮での生活も、既に折り返し地点を過ぎました。六月には三年生の卒業と、皆さんの進級、そして、新しい一年生の入学が控えており、後、四カ月と思っても油断をしていればそれはあっという間に過ぎてしまうでしょう」
 寮長はそこで、言葉を切る。
 続くべき言葉は口にしない。
 それは、それぞれがもう理解している筈だから。

 予定であれば、今回の講義は陰陽師の使用する符や道具についてであった。
 一年生の進級試験の実技課題は符の作成であるとすでに発表されている。
 今回、符の作成について学び、皆でどんな符を作るかを検討し、という計画であった筈ではあるのだが、
「授業と課題計画を一部変更します」
 寮長は並ぶ一年にこう告げた。
「理由は皆さんも聞き及んでいるでしょう。アヤカシの襲撃です」
 顔を合わせざわめく寮生達の前で寮長はパンパン、と手を叩いた。
「天儀各地を現在アヤカシが襲撃しています。五行は幸い今回は難を逃れていますが、石鏡、武天、北面にかなりの被害が出ているようです。ギルドにも協力要請がでているようですので聞き及んでいる者もいるでしょう」
 確かに、そんな話は耳にしている。寮生の中にも作戦に参加している者もいる筈だ。
「修羅の件に関しては五行は現在様子見の状況です。しかし、アヤカシの襲撃に関してはそうはいきません。現実に多くの被害が出ていますし、放置して逃がしたアヤカシが五行の方に流れてこないとも限りません。五行で例年より多いアヤカシが確認されているのは今回の襲撃に何か関連しているのでは? という意見もあるのです」
 よって、と寮長は続ける。
「朱雀寮生は、石鏡に赴き村々の救援に参加して下さい。三位湖の東側が今回主に襲撃を受けましたが、他の方向にアヤカシが出現していないと言う確証はありません。一年生で相談をして自分達が行くべき所、やるべきことを決めて下さい」
 アヤカシ退治と救援ということであれば、開拓者でもある寮生達にとっては得意分野である。寮生達の顔に自信の笑みが浮かぶが「但し」と寮長は厳しい目で寮生達に言葉を投げかける。
「但し、これは朱雀寮の課題でもありますから、三つの条件を皆さんに付与します。一つは、自分から陰陽寮生であることを吹聴しない事。今回の活動が授業の課題であることを口にすることも原則として禁じます。
 第二に個人行動の禁止。今回はいわゆる小隊としての活動だと思ってして下さい。単独行動、分散行動はどんなに成果を上げても課題である今回の授業では認めません」
 二つの条件については、まあ、多少厳しくはあるが普通の救助依頼と思えばアリだろう、難しく、困ることではないと寮生達は思う。
「それで、三つ目は?」
 質問をかけた寮生に寮長は応える代わりに、一人の人物を部屋に招きよせた。
『白雪‥‥副委員長?』
 寮生達の一人が驚いたように目を瞬かせた。
 入ってきた眼鏡の女性は静かに微笑し、礼をする。
「彼女、二年生の白雪智美を連れていくこと、です。白雪は壺に瘴気を封じる壺封術を使用できる数少ない二年生。白雪と共に現地に赴き、アヤカシを退治しその瘴気を壺に三つ分集めてくることが三つ目の課題です」
 一年生の課題実習は今まで幾度もあれど、はっきりと同行者が指示されたのは始めてである。
 白雪智美は二年生の主席とのこと。
 つまり、白雪は今回の依頼の協力者でもあると同時に試験官でもあるのだと寮生達は理解する。

 課題と人助けか、人助けと課題か。
 自分達に与えられる課題の難易度は回を追うごとに上がっている。
『陰陽寮の進級』
 その意味を寮生達は目の前の先達の笑顔と共に、噛みしめていた。


■参加者一覧
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
玉櫛・静音(ia0872
20歳・女・陰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
瀬崎 静乃(ia4468
15歳・女・陰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
劫光(ia9510
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951
17歳・女・巫
アッピン(ib0840
20歳・女・陰
真名(ib1222
17歳・女・陰
尾花 朔(ib1268
19歳・男・陰


■リプレイ本文

●実習という名の救護活動
 陰陽寮朱雀の正門前。
「壷封術、というのは瘴気吸収の技の、応用のようなものだと思って貰って構いません。瘴気を逃がさずに集め、体内ではなく壷に封ずることによって確実に拡散を防ぐことができるのです」
 集まった朱雀寮生達を前に二年生の白雪智美は彼女が使う術について問われ、そう回答していた。
 これから一年生は課題実習の一環として石鏡に赴く。
 課題は石鏡にてアヤカシからの救助活動を行いながら瘴気を壷に集める事。
 瘴気を吸収し、自らの力と為す、というのは陰陽師にとっては基本ともいえる事であるが、それ壷に封じるという経験は寮生達全員にとって初めての経験である。
 まだ彼等には使用することのできない術である為、今回の同行者であり術者の白雪智美の説明には興味を隠せないし、隠さない。
「ふ〜ん、この壷にアヤカシや瘴気が入るなりか〜。試験の時も思ったけど、見た目そんなに違いは無いのに不思議なりね〜」
「わっ! っとお、ジョージ。壷を落っことしちゃあなんねえぜ! バリン! なんてことになったら目も当てられねえからな!」
「あわわわっ! 本当に落っことしたらどうするなり!!」
 壷を覗き込んでいた平野 譲治(ia5226)は慌てて腕の中のそれを抱きしめると自分の背をいきなり叩いた喪越(ia1670)をキッと睨みつける。
 出発前に白雪に簡単な壷封術に関しての説明を、と頼んだのは喪越であるが、それをいいことに彼女の肩に、いや、腰にそっと手を伸ばす。
「何やってるのかチンプンカンプンじゃ、護衛もままならねぇだろ。ここは手取り足取り、腰取‥‥うわーなんだ〜〜」
 突然現れたカメムシに目の前を飛び回られて、慌てて白雪から喪越を無視して
「で、壷に秘められた術で、解き放つということでしょうか? それとも壷という式に瘴気を食わす‥‥とか?」
「どちらかというなら、前者に近いのですがなんと、説明したら良いのでしょうね。 空中を漂う瘴気を縛して‥‥。まあ、それはいずれ寮長の方が良い説明をして下さると思いますわ。術のやり方は、後でお見せすることになるのでしょうし」
 そう言って、彼女は事前の説明を簡単な原理と、かかる時間や方法、などに留めた。
「つまり、術の行使にはある程度の集中が必要ってことだな。その間は無防備に近くなる、と」
「ええ。式を使って戦うことはできなくなりますね。一度発動した術を遮られるとまた最初からやり直しにもなりますし」
 刀を磨く劫光(ia9510)に白雪は笑顔で頷いた。
「元々、近接戦闘や実際の戦闘に置いて私は役立たずではありますので、皆さんに助けて頂かなくてはなりませんが。どうぞよろしくお願いしますね」
 頭を下げる二年生主席にそんな、と慌てて泉宮 紫乃(ia9951)は手を横に振る。
「こちらこそ、先輩のお力をお借りしなくてはならないのに」
「そうそ。それに。仲間なんだから言われなくてもしっかり守るよ。しっかりエスコートするからまーかせて!」
 明るく笑う俳沢折々(ia0401)にアッピン(ib0840)も頷く。アッピンの手元にはカメムシの人魂が戻っていた。
「今回はよろしくお願いします。いつか、私達にも使えるようになるのかしら‥‥」
「使えるようになれば便利ですよね。瘴気やアヤカシを完全に場から切り離せるようですから」
 炊き出しの準備をする真名(ib1222)、薬草の準備をする玉櫛・静音(ia0872)も術と、それを使う白雪に興味津々の様子だ。
「でも、白雪先輩は凄いですよね。こんな術を二年生なのに簡単に扱えてしまうなんて」
 ツンツン。紫乃の背中を細い指が突く。
「? なんですか? 静乃さん」
「違う。白雪さん。‥‥今回は宜しくお願いします」
 そう言って頭を下げた瀬崎 静乃(ia4468)にああ、と紫乃は口を押さえる。
 今回は陰陽寮生であることを知られないように、というのが課題の条件の一つであるから『先輩』呼びはまずいのだ。
 朱華をしまって入れたお守り袋を握り締めながら、
「気を付けていたつもりなのに。白雪さん。白雪さん‥‥白雪さん」
 紫乃は自分に言い聞かせるように繰り返した。
「おいらは智美でもいいなりか?」
「いいですよ」
「じゃあ、私は智美ちゃんて、呼ばせて貰おうかな?」
「俺は、白雪セニョリータ、と呼ぶぜ。泥船に乗ったつもりでいてくれYo! もちろん、完璧な護衛を実現する為にどこまでもお供しますぜ。例え厠だろうと布団の中だろうと‥‥ぐはっ!」
 楽しげに笑いあっていた折々や譲治は目を瞬きする。地面に崩れ落ち、ひくひくと動く喪越を冷静な目で見下ろしているのは‥‥
「青嵐(ia0508)‥‥なりか?」
 譲治が問いかけたのも無理はない。前髪をいつも垂らして目元を見せない彼がそれをあげ、人形こそ連れているが剣を帯びている様子は始めて見るような気はする。
「最初っから団体行動を崩されると困るんだ。今回は団体行動が絶対条件なのだから最低のところは弁えて貰わないと」
「一瞬どなた‥‥、と思ってしまいましたよ。初めて直接の声聞きましたし顔を見ました。青嵐さん、格好いいですね」
 真名と一緒に食材の積み込みをしていた尾花朔(ib1268)が素直に褒めるが、それを青嵐はさらりとスルーする。ちなみに喪越もその辺は解っているのであろう。
「まったく、じょーだんを理解して欲しいもんだぜ」
 ぶちぶちと文句を言いながらも素直に白雪から離れ、自分の龍鎧阿の方へと準備に向かう。それを確かめ青嵐も黙って封印壷の一つを手に取ると己の龍嵐帝の背にと積み込みに行った。
「まあ、本気を出せば白雪先輩なら自分の身を守る事以上の事はできそうですけど」
「多分な」
 仲間達の様子を少し離れたところから見ていたアルネイス(ia6104)の独り言のような呟きに同意するように劫光は頷いた。あの化け物のような体育委員長と付き合っているせいもあり、何となく相手の強さに敏感になっている自分達を感じる。彼等から見て白雪は決して体育委員長と同じタイプではないが彼と同じ種の人間であるように思えたのだ。
 常に逃げることなく前を見る。決して折れない芯の強さとそれを裏付ける強さを‥‥兼ね備えているような‥‥。
 だがそれは言葉には出さず、劫光は仲間達に声をかける。
「そろそろ、準備はいいか? 出発するぞ」
 白雪は二年生ではあるが、今回の実習はあくまで一年生のものなのだから、自分達がまず動かなくてはならないのだということを彼らはよく、知っている。
「石鏡までの道のりですが、皆さんは、龍を使われるのですよね?」
「あ。そうだね。大体はそうなんだけど白雪ちゃんはどうするの?」
 折々は自らの龍うがちを見ながら気遣う様に問いかける。
「もし、必要でしたら我々の龍にご同乗されませんか?」
 紫乃がおずおずと声をかけた。側では彼女の駿龍シエルがこちらを見つめていた。
「俺達の龍もいるから、遠慮はしなくても大丈夫だ」
「そうそっ! 鎧阿の背はなかなかだぜぃ!」
 劫光や喪越の言葉に嬉しそうに笑いながらも、彼女は大丈夫、と首を横に振る。
「私には霊騎がいますから。奏(かなで)」
「へえ〜」
 譲治は興味深そうに目を瞬かせた。彼の龍、小金沢強の横を悠然と歩いてくるのは珍しい霊騎であったのだ。
 彼の龍だけでは無い。劫光の火太名、静乃の文幾重、アッピンのやわらぎさん、並み居る龍達の間に立ちながら奏と呼ばれた霊騎は怯えた様子もない。
「賢そうな子ですね。どうぞよろしく」
 朔はそう霊騎に挨拶すると奏はまるで言葉を理解しているように、頭を前後に動かした。
「私が側に付いていきますから。皆は警戒しながら先に行ってて下さいね」
 アルネイスの言葉に開拓者達は頷いた。
「十六夜にあと積む荷物はありませんか?」
「食べ物ならクリムゾンにもいっぱい積んであるから」
「薬なども、できるだけ不動に運んでもらいます」
「壷は私と、青嵐君の龍に積んであるから大丈夫だよ〜」
 準備はしっかりと整っている。
 例え、実習という形であれ、アヤカシの被害地に向かうのだ。万が一にも住民に迷惑などかけられない。
「アヤカシとの戦いで苦しんでる人がいるなら‥‥少しでも力になってあげたいものね」
 呟くように言った真名の言葉に、寮生達の視線が自然に合う。
「よし! 出発だ!」
 そうして、彼らは同じ思いを胸に実習先である石鏡へと出発したのだった。

●開拓者という名の希望
 既にいくつかの報告事例があったとおり、石鏡を襲ったアヤカシの攻撃は巨龍襲撃という最大のピークを過ぎてはいた。
 けれども剣狼を始めとするアヤカシ達は開拓者達が相当数を退治して後、まだかなりの数を数えていた。
 そしてそれらは命を求めて人々を襲う‥‥。
「キャアア!」
 突然の剣狼の襲撃。
「わあああっ!」
 村の中央に集まろうと走っていた少年の一人が転んでしまった。
 追い縋るように近付いてくるアヤカシ。
「下がって!」
「開拓者様!」
「裂音(レオン)、切り裂きなさい!」
 逃げ惑う人々を庇うように静音はアヤカシとの間に立ちふさがった。
 そして斬撃符を放つ。
『ぐあああっ!』
 鈍い悲鳴を上げて剣狼が倒れる。その隙を見て
「早く! こっち!!」
 弓を肩に担いだ静乃が少年を立たせるとともに走り出した。
 二人を背にして庇う静音の前で一度は膝を付いた剣狼が立ち上がった。
 恨みの籠ったような目で、静音をじっと見つめる。
「くっ! まだ倒れませんか!」
 だが、ここで引く訳にはいかない。後ろにいた静乃と少年がせめて安全な場所に避難するまで‥‥。
 そう思って符を構えなおしたその時。
「えっ?」
 彼女の背後を赤い光が駆け抜けた。
 火炎獣が剣狼の踏み込みより一歩早く、飛び込みその喉笛を切り裂いたのだ。
「大丈夫?」
「アッピンさん! 折々さん!」
「無事で何よりでしたわ」
「もう、他に残ってる村人はいないみたい。村の中央に避難所を作ってあるから、そっちに行こう!」
 わかりました、と頷いて静音は周囲を見る。
「アッピンさんの火炎獣、見られていませんよね」
「大丈夫でしょ〜。周囲に人がいなさそうなのを確認してもらったし、私は別に偽装している訳ではないですし」
「ま、緊急事態となるとそこまで気にしてはいられないけどね」
 歩きながら彼女らはさっきの光景を思い出す。
「全力前進っ! 強っ! 早急に降下なりよっ!」
「開拓者様!!」
「小隊『皐喝破(こうがっぱ)』参上!!」
 小さな村に彼らが辿り着いた時、村人達は今、まさに救いを求めていた。
「助けに来ました!」
 巫女に扮した紫乃の言葉に家を焼かれ怯えていた人達の顔が一気に輝いたのを忘れられない。
「合戦参加しての帰還中にここを通ったのです。困っている皆さんを放っておけないので手伝わせて下さい」
 そう言った朔の説明を疑うことなく彼らは寮生達という小隊を受け入れ頼っていた。
「でも、実習とか解ったら良く思われないかもしれませんね〜。考えてみればアヤカシに襲われて困ってる人たちがいるのに瘴気を回収してこいとか結構不謹慎な気も」
「うん、だからきっと内緒にしろなんだと思う」
 アッピンの言葉に折々も頷く。
「でも、実習であろうと無かろうとやるべきことは同じだと思います。‥‥急いで皆さんの所に合流しましょう」
「そうだね」
 足を速めた静音を二人も追う。村の外には中よりも遥かに激しそうな戦闘の気配がする。
「外は、筆頭達に任せておけば大丈夫でしょ〜」
「うん。私達は皆を信じてやるべきことを果たそう」
「きっと今頃紫乃さんと、静音さんが村人の手当てにてんてこ舞いです。早く手伝って差し上げないと」
「いけない。紫乃さんの側に誰かいないと彼女治癒符使えないよ」
「アルネイスさんの大道芸、もう一回見たいと言ってた子供もいましたっけ。早く戻ってきてもらわないといけませんね」
 信頼という笑みを交わし合いながら彼女らは自分のやるべきことが待つ場所へと走って行った。


●本当に大切なもの
 ギルドからの報告によれば、巨龍襲撃後、近辺のアヤカシは爆発的に増えたという。
 村の中に侵入していたアヤカシ達を森に押し出した寮生達は、周囲に人の目が無くなったのを確かめて本格的な掃討に入る
「青嵐! 左奥の方から剣狼三匹! 劫光! その奥に少し大きな剣狼がいるわ!」
 後方、白雪智美の側で人魂を繰っていた真名が前線で戦闘を続ける二人に声を上げた。
「隊長! 悪いけどこっちは手いっぱいなり、というか助けて!」
 譲治の方には鬼型の小型アヤカシが多く集まっている。一匹一匹の力はそれ程ではないが数が、とにかく多そうだ。
「ムロンちゃん! 譲治君の援護!」
「二人の援護には私が付きます」
「んじゃ、ジョージの方には俺が付くぜ。白雪セニョリータ! 暫しお側を離れるが気を付けてくれよ!」
 寮生達は連携して戦いを進めていった。
「白雪は封印に専念しててくれ。指1本触れさせん。真名とアルネイスはその援護だ」
 そう最初に宣言した通り、劫光は仲間達の先頭に立ち常に敵を引き付けていた。
「朔、フォローは任せたぞ」
 振り返る後ろには信頼する朔がいる。だがその前に既に辿り着き剣を構える仲間がいたことに劫光は目を瞬かせた。
「遠慮なく動いて下さい。大丈夫、遅れは取らないさ」
 挙げられた神から覗く金色の鋭く、強い視線。
「ほう‥‥面白いな、それなら遅れるなよ、青嵐!」
 にやりと笑った劫光は体育委員会仕込みで最近とみに鍛えられた敏捷さで敵に飛び込んでいく。
 そして青嵐はそれに僅か半歩遅れで後を追いかけて行った。
 人形繰りで目と記憶力に優れているのだろうか。青嵐は劫光の動きを正確に模倣して自分達より素早い、剣狼を翻弄していく。
 傷を追いながらも飛びかかろうとする剣狼が一匹。だが二人はそれを時間差で交わし
「「朔!」」
 信頼する仲間の名を呼んだ。呼ばれた仲間はその期待に添うように投げた苦無で敵の眉間を打ち砕いた。
 崩れた身体が瘴気となり、空中に散ろうとする。だがその薄黒い影は緩やかに目を閉じる白雪の方に流れていく。
「壷封術‥‥あれがそうなりか?」
「ジョージ。よそ見をしてる暇はねえんだぜっと!」
「確かに。増やさせないなり‥‥絶対にっ!」
 渾身の火輪を譲治は目の前の敵に放った。敵からもう目を離さない。
「オッケー。そんじゃま、俺も‥‥!?」
 言いかけた喪越は頷き符を構える。だが、その時彼は後方に気配を感じ振り返った。
「なに!?」
 気付けば白雪達の背後に鬼がいる。しかも気配は薄い。かなりの強敵だ。
「危ない! 逃げろ!!」
 身を挺して庇おうと喪越が走り出す。その声に気付き真名とアルネイスが後ろを振り向いた瞬間!
「動かないで!!」
 目を閉じたままの白雪が鋭く命じた。三人は、その声、その威厳にピクリと身を震わせ凍りついた。
『ぐああああっ!』
 振り下ろされた棍棒が白雪の頭上に落ちようとしたその時、鬼が動きを止めた。
 見れば足元から背筋が凍りつくような悲鳴と共に暗い力が湧き上がって鬼を縛っていた。
「自縛‥‥霊? 一体いつの間に?」
「私は純粋戦闘には向きませんが、その分、搦め手が得意なんですよ」
 手に持っていた壷の一つに封印を施して彼女はニッコリと笑う。
「トドメをお願いします。剣狼の瘴気だけではなく、いろいろな種の瘴気を集めたいですからね」
 その笑みに陰陽寮長や三年女子と同じ『何か』を感じて寮生達は、背筋に一瞬冷えるものを感じたのだった。

●陰陽師の宿命
「と、言うわけで指定箇所の近辺のアヤカシは可能な限り退治してきた」
 実習から戻ってきた開拓者達は、その足で寮長の元に赴き、実習の報告をする。
「壷三つの瘴気は、私達が確認することはできませんでしたが、白雪先輩は確保できたと言って下さいました」
「今回の被害は結構大きくてね、家を焼かれたりまだ、村に戻れない人もいる。開拓者も残って救助活動とかしているよ」
「アヤカシの出現情報、残存の現状なんかもできる限り調べてきたなり!」
「唄にしたいと、お願いしたらいろいろと教えて下さいました」
「でも、‥‥人々の心のケアはまだまだこれからも必要だと思います」
「物質的な面や、アヤカシ退治なども含め今後もできるなら継続的な救援活動が必要だと思われます。後で報告書を纏めますが‥‥」
 寮生達の報告を何事か、書きとめながら聞いていた朱雀寮長、各務紫郎はそこで顔を上げた。
「その時は指示します。とりあえずは合格というところですね。ご苦労でした。戻って構いませんよ」
「はい!」
 安堵の笑みを浮かべて笑いあう寮生達は寮長に一礼をして退室しようとする。
「あ、忘れてた」
 くるりと振り返った真名は寮長の前に立つと
「ただいま戻りました」
 深く、まっすぐにお辞儀をした。寮長はくすりと小さく笑うと答えた。
「お帰りなさい。ゆっくり休むといいでしょう」
「ありがとうございました」
 そう言うと真名は小走りで仲間の元へ戻って行った。
 遠ざかる明るい一年生達の笑い声、それを確かめて
「ご苦労でしたね」
 寮長は一人残った白雪智美に労う様に言葉をかけた。
「いいえ、苦労など何もありませんでした。楽しい仕事をさせて頂きましたわ。恋バナなどさせてもらったのは久しぶりです」
 彼女の返した笑顔を見れば、その言葉が真実のものであると解るので紫郎は
「そうですか」
 と一言の返事を返すだけに留めた。
「君から見て、彼らはどうでしたか?」
 今回の課題における試験官であり、守り手でもあった彼女は一年生との旅を思いだし答える。
「文句のつけようがどこにもありませんでした。私をとても気遣ってくれて。
 被災者達も真剣に助けようとしていました。瘴気回収よりも被害者救出こそが今回の試験課題だと知る筈もないのに」
 もし、課題に執心するようなら自分が過失のフリをして陰陽寮生の正体を示そうとしたが、そんな気すらおこらなかった。と彼女は笑った。
「まあ、君は本当は三郎も目をむくほどの熱血漢ですからね。怪我の件が無ければ真っ先に飛び出して行っていたでしょう? 彼らのように」
「ええ。本当にかつての私を見ているようでした。まあ、それ故に彼らはきっといろいろ苦労するかとは思うのですが、どんな困難も乗り越えていけると思いますわ」
「君のように、ですか?」
「私達のように、です」
「そうですか‥‥」
 静かに笑った寮長は、黙って頷くと智美に目で退室を促した。
「今年の寮生達はいろいろな意味で優秀ですね。余計な気遣いであったかもしれません」
 陰陽師はアヤカシの力を利用し、それを己の力とする者。
 五行や開拓者達の間であればともかく、その力や姿勢は時に偏見の元になることもある。
 課題として彼らを石鏡に送ったのは表だって動こうとしない五行から救援隊を送る為の名目。
 寮生達に素性を隠すように命じたのは、彼らを守る意味の方が大きかったのだが彼らは誰もが断言した。
「合格か救助なら救助を選ぶ。その上で合格の為に最善を尽くす」
 と。
「それで合格できなければ実力不足という事ですわ」
 そして仲間同士でやり遂げたのだ。
 二年に進級すれば、今まで以上に陰陽師としての暗い部分に関わることも多くなる。
 けれど、彼等はきっとなんなく乗り越えていくだろうと寮長は思っていた。
「焦る必要はないのですよ‥‥。陰陽師の宿命も、この国もいつか、きっと必ず変えていける筈なのですから」

 返事のない呼びかけを呟いて立ち上がって紫郎は窓を開ける。
 薄紫に染まる空の先には街の灯りと、遠い西の山が静かに佇んでいた。